騎士見習いの立志伝 ~超常の名乗り~   作:傍観者改め、介入者

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香川選手の復帰が決まりましたね。森保監督もいろいろ動いていますが、徐々に試せる弾がなくなってきました・・・・

伊東選手が一気に右サイドで活躍すれば、中への切込みと縦への突破と幅が広がるのですが・・・・何とかポジション争いに勝ってほしいです




第十六話 螺旋の幻影

江ノ島対葉陰学院の試合は、逢沢の先制弾に加え、畳みかけるような青葉のミドルシュートで2点先行の江ノ島が有利に進めていた。

 

 

「くっ!!」

 

――――左サイドにボールを出せない!

 

鬼丸へのマークに青葉がぴったりと張り付いている。八雲も距離感を保ちつつ、ゾーンで対応。

 

 

ここに来てスリーバックの弊害が現れていた。4バックならばDFMを一人下がらせて、サイドバックをオーバーラップさせればいい。

 

しかしスリーバックではそう簡単にはいかない。実際WBがその役目を担うはずなのだが、そのポジションを封じられれば、サイドアタックが難しくなる。

 

鬼丸という葉陰のストロングポイントを封殺されたこの状況は、今まで一番苦しい試合であるということ。

 

そして、青葉が予想以上に献身的に動くということが、葉陰の攻め手を欠く、後二枚、三枚足りない状況を作っていた。

 

 

両翼でのアドバンテージを失った葉陰は、両翼を捥がれた状態で江ノ島と戦うことを強いられている。

 

数的優位を背景に、中盤でのボール回しで崩そうとするも、

 

「甘いぜ!!」

 

パスセンスに長じる者は、パスを読む能力も持っている可能性がある。

 

 

その存在こそが荒木だった。周りの位置を確認し、自分がどう動けばいいのか。

 

 

自分でボールを狩るのではない。ゾーンによってボールを狩る。

 

 

今のも、兵藤がインターセプトしたのだから荒木が奪ったわけではない。焦った相手の10番のパスミスを誘発させたのだ。

 

 

――――今度はお前の番だぜ、駆!

 

 

先ほどから背中越しにボールを欲しがるような眼でこちらを見ていた駆。

 

 

 

そして駆は、先ほどの青葉の個の力を見て昂っていた。

 

 

――――あれが青葉の武器。スピードに乗ったドリブル

 

 

余計なフェイントは不要で、スピードで縦に突破していく。純粋な歩幅で相手のリズムを崩し、一気に自分のリズムに持ち込んでしまう恐ろしいドリブルだった。

 

 

――――なら僕は、僕の全てを出し切るだけ!!

 

ドクンッ、

 

感情が高ぶる。自分の全てを出したい。自分の力をすべて出したい。

 

ドクンッ!!

 

 

そのプレーという一点に対し、集中力が高まる逢沢駆。そしてその思いが強くなると同時に、意識が朧げになる。

 

 

正確には、集中し過ぎて余計な感情の一切が排除されていくという感覚。

 

 

周囲の情報量を爆発的に取り込んでいるからこそ、駆の頭が処理しきれていない。

 

これほどの異常を引き起こす原因。それは傑の幻影を彼が未だに追い求めているからだ。

 

きっと兄ならばこうする。兄ならできる。

 

逢沢傑ならば、こうするという一点に集約する。

 

 

だからこそ、仮初とはいえ、そこに逢沢駆の意志は排除され、逢沢傑という逢沢駆が作り出した幻影に負けてしまう現象が引き起こされていた。

 

 

しかし、今の駆はそうではない。はっきりとした意識が残っていた。周囲がスローモーションに見える感覚。その中で、普段と変わらない速度で駆け上がる青葉の姿だけを認知した。

 

 

—————見える。僕にも青葉の世界が見える。

 

 

高みへと至る。青葉に食らいつくために、彼はさらにその意識を鋭くさせていく。

 

 

 

劇的に歩幅とスピードを上げた駆。荒木は飛び出した駆の速度を計算してパスを出した。なら、駆の速度が上がれば早くボールに辿り着く。

 

 

――――スピードが上がった!? まずいっ

 

中に絞るような動きで、先にボールに触れようとする逢沢に追い縋る葉陰の選手。

 

 

「っ」

ここで飛鳥も迂闊な指示を飛ばせなくなっていた。

 

――――どう動いてくる? 奴はどう動いてくるんだ!?

 

 

そのボールに先に追いついたのは、駆。ボールを左足のヒールでトラップしてバック。

 

 

つまり、これは――――

 

 

駆の新技、ルーレット・ターン。なら対応は一択。縦を塞いでしまえばボールを刈り取ることが出来る。

 

――――甘いんだよ糞一年ッ!!

 

 

ルーレットから相手を躱し、縦への突破を考える駆を潰しにかかる葉陰の選手。逢沢は次の右足で進行方向へとボールを転がすはず。

 

 

それなのに―――――

 

 

――――ボールが、消え、た!?

 

 

刈り取ろうと体が流れていた葉陰の選手はバランスを崩して転倒。ボールの行方はと駆を見ると―――――

 

 

――――奴は、魔法でも使ったのか!?

 

 

逢沢の足元にはちゃんとボールがあるままだった。彼は手品などしていない。

 

あまりにも鮮やかで、あまりにも無駄のない――――――

 

 

通常のルーレットとは思えない、特殊なフェイント。

 

 

一瞬で相手選手を置き去りにするどころか、相手を転倒させてしまうほどの超絶フェイント。

 

――――あれが日本人の発想なのか!?

 

有り得ない。今までの経験が通用しない。その全てが予想の先を行く。

 

 

「駆っ!?」

思わず声をあげる美島。練習を除き、ルーレットは2回目だ。しかし、ドリブルではなく、トラップに流用する辺り、熟練度はあれからさらに上がったのだろう。

 

しかも今の技は、その練習で実践していたルーレットではない。

 

――――右足で進行方向に転がすのではなく、逆方向にプッシュした?

 

ルーレットだと相手が予想すれば、足元にはボールがない状態になる。つまり、このルーレットに名前を付けるなら――――

 

王道、最初に輝いたマルセイユ・ルーレットとは対を為す影のルーレット。

 

言うなれば、ヴァニシング・ルーレット。

 

マルセイユ・ルーレットという光が強くなればなるほど威力を発揮する王道ではないルーレット。

 

あの幻のフェイントのように、ボールを消すという駆らしいフェイント。

 

 

 

ファーストラップで相手を置き去りにする。それはFWに求められた動きだ。しかし、彼が以前美島と練習していたフェイントではない。

 

――――でも、こっちのほうがいいの、かも……

 

今、自分と練習していたあのフェイントはどうなっているのだろうか。

 

 

 

どんどん自分の知る逢沢駆ではなくなっていく。彼の活躍を嬉しく思うと同時に、寂しさを覚えるのだった。

 

 

サイドに流れると思われていた駆の予想外の動きに混乱する葉陰の陣容。トラップの勢いそのままに、ラン・ウィズ・ザ・ボールで切り込んだ駆。

 

 

そしてそのまま―――――

 

駆のミドルレンジからのシュート。左足の強烈なシュートをキーパーがはじくも――――

 

「もらったぁぁぁあ!!!!!」

 

 

その手足の長さを活かし、反応していた高瀬がボールをゴールに叩き込む。零れ球での競り合いで全く相手を寄せ付けないフィジカルを背景に、素早い反応で押し込んだのだ。

 

 

1年生の活躍で、江ノ島が何と前半だけで3得点。トラップからのシュートまでの流れがほぼ完ぺきだった駆。高瀬のゴールについては祝福するも、

 

――――コースが甘かったんだ!! もっとコースを狙って、力むことなく、鋭くッ!!

 

 

自分の課題について悔しがる一面も見せた。

 

 

『押し込んだァァァ!!! 江ノ島これで3点目!! 決めたのはまたも1年生!! FWの高瀬!!』

 

『高瀬君の反応も良かったですが、葉陰のディフェンスが対応できていませんでしたね。逢沢選手のルーレットの動きを取り入れたトラップ。彼だけが一人動くような、とにかく別格と言っていいほどの動きでした』

 

『しかし、前半35分にまたも追加点。これは江ノ島にとって大きいのでは?』

 

『そうですね。これが後半の時間帯ならば、ダメ押し弾ですが、まだ時間がありますからね。ハーフタイムまでに何とかいい形を作れば、葉陰にもチャンスは来ますよ!』

 

 

「すげぇぇな!! ルーレットを練習で使うようになったのは知っているけどさ! トラップはさすがに予想できねぇよ!!」

 

「――――え、えっと。その、無我夢中で――――」

 

兵藤に褒められる駆は苦笑いだ。それもそのはず、あの場面で自分がゴールをもぎ取りたいと考えていたのだから。

 

「どうした? 逢沢」

沢村はあまりうれしくなさそうな駆に対し声をかける。

 

 

「――――僕の得点で終わらせたかったです。とっさの判断で、少しズレちゃいました」

まだまだ動きに無駄があった。動きも完璧ではなかった。シュートモーションの最後のトラップ、置き所が間違えたのだ。

 

 

「おいおい、とっさの判断であれかよ! すげぇなおい!」

笑いながら、嬉しそうにしている兵藤。周りの八雲も、「うちのサイドは化け物揃いか」と苦笑いをしていたりしていた。

 

「よく切り込んでくれた。お前のプレーが起点となり、こちらに流れが来ている。次も頼むぞ」

 

「は、はい!」

暗い表情を浮かべていた駆だったが、沢村の檄が伝わったのか、元気を取り戻したかのように見える。

 

 

即席で、個の本番の場面で駆は成果を上げていた。とっさの判断力と発想力こそ、彼が求める個の力。

 

 

――――今のは、僕が求めていた動きそのものだった。

 

中々成功率が上がらないフェイント。しかし、プレーしてみると、意外なほど簡単にできてしまった。つまり、駆は拍子抜けしていたのだ。

 

————ドキドキする。なんでだろう。今のは確かに僕が動いた結果なんだけど。

 

この気持ちの昂ぶりは、どこかで感じたことがあった。

 

 

 

 

そして離れた位置で、青葉と荒木が話し合っていた。

 

「元の技術が高いからもしかしてとは思ったが――――」

 

若干表情が引き攣っている青葉。さすがの彼も駆のここまでの成長は予測できなかったのだろう。

 

荒木は、駆の成長に舌を巻いているのではない。その動きがあまりにも逢沢傑に似ているからこそ驚いているのだ。

 

――――もうお前とコンビを組むこともない、そう思っていたのによ

 

 

彼の色を濃く受け継ぐ選手が現れたら、どうすればいいのだと。

 

「―――――荒木先輩?」

青葉は驚いて荒木を見る。普段は見られない、お調子者のそんな顔は予想外だった。

 

1歳年上の選手が、感極まっていた。

 

「―――――兄弟だから、とかいろいろ要因はあるのかねぇ……」

 

大きく息を吐き、空を見上げる荒木。

 

「一度はあきらめた夢だった。あいつと俺で、日本代表の中盤で活躍するんだって」

 

傑が死んで無気力になっていた時も、駆が来なければ――――――

 

 

きっと自分はここには立っていない。

 

「お前が現れて、駆がどんどんあいつに似てきて―――――諦めたままで終わるわけにはいかねぇよな」

 

少しだけ目をこすった荒木。そしてすぐに満面の笑みで、

 

「驚かせてやろうぜ。まずは全国を」

拳を合わせることを求めてきた荒木に対し、

 

「全国を驚かせる準備は、みんなと一緒に、してきたつもりですよ」

 

笑いながら、それに拳で返す青葉。

 

良いムードの中、駆はその空気を嫌っていたわけではなかった。先ほどのシュート、トラップはほぼ完ぺきだった。後は枠内にいれる思いが強すぎたことでコントロールがぶれたという課題のみ。

 

しかしまだ眠ったままの課題もある。

 

――――ドリブルもだけど、左足の精度が悪い

 

今のもほぼノープレッシャーの状態だった。なのに、決めきれなかった。これはストライカーとして最悪なパターンだ。

 

もっとキックの精度を高めないといけない。強くボールを蹴りこむ。もっと正確に、もっとコースを狙って。

 

――――僕はまだ、成長できる。成長しないといけない

 

己が背負う夢は、並大抵の重さではない。今自分が背負っている命は、一人分ではない。

 

 

まだまだ彼に認められるような実力ではないだろう。もっとプレーに余裕が生まれたら、今みたいに必死になって周りが見えなくなるどころか、自分すら見失うような無様もないだろう。

 

 

だから、自分の力を制御しなければならない。兄を忘れられないからといって、自分が下手なのを言い訳に、兄が導いてくれると、自分に嘘をつくのはやめよう。

 

 

――――自分が誇れる、そんな風に思えるストライカーになるよ、兄ちゃん。

 

 

あのころの夢は、片時も忘れていない。

 

 

――――だから背番号10番、僕も狙っていいよね? ストライカーだけど

 

 

 

 

 

前半から押し込まれる展開が続いた葉陰の状況は好転せず、ハーフタイムが終了。

 

 

青葉、駆に特別な笑顔はないものの、江ノ島は良いムードで後半へと向かうことになる。

 

 




傑「シュートまでは良かったな」

初代青葉「だが、詰めていた高瀬君の動きは良かった」

傑「あの体格でよく動く。バスケをしていたらしいが」

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