騎士見習いの立志伝 ~超常の名乗り~ 作:傍観者改め、介入者
病院へと直行の青葉は、その場で江ノ島勝利の知らせを知ることになる。
「そうですか」
しかし彼の表情は暗い。決勝戦までに出られるのかどうか。軽度の脳震盪とはいえ、この時間は致命的だ。
診断をした医者は、大事を取る必要があると考えていた。はっきりとした受け答えが出来ているとはいえ、妙に記憶が怪しくなる場面があった。
一時的とはいえ、チームメートの名前を言えなくなった時間というのは無視できないことだ。しかし、眼球に異常はなく、簡単な診断テストでも異常は見当たらず、困惑ばかりが広がる。
「ええ。俺は大丈夫です。だから、次の試合も出られます」
「—————ハーフタイム。異常が見受けられたなら、すぐにベンチに下げる。それを許容できなければ医者としてそれを認めるわけにはいかない」
ハーフタイムでカードを切りづらくする青葉の起用法。本人のコンディション次第で2枚が潰れかねない状況下。岩城監督もそれには同意見だったらしく、
「—————分かりました。アップ中に少しでも異常があれば、彼は出させません。いいですね、青葉君」
青葉の選手生命が大事だということで、その制約を了承したのだった。
「熟知しています。ですが危なくなれば、俺は江ノ島に勝利を届ける努力をさせてもらいます。それに、ここは通過点。必ず江ノ島が勝つと信じています」
柔和な笑みで、笑う青葉。どことなく影を感じさせるものではあるが、元気そうな彼の様子に安心する岩城。
「—————当日も、そして今日から無理をしないように。我々の手で、栄冠を取りに行きますからね」
しかし岩城は、口調が若干変わっている青葉に違和感を覚える。
————まるで、高校生ではない年代の人と、会話をしている気分ですが……
もう少し無鉄砲で、自信過剰な面があった青葉らしくない口調。若干の違和感を覚えつつも、岩城はそれを見逃す。
その後、岩城監督は医者とともに病室を去り、青葉は一人取り残されることになる。そんな彼の前に、ある来訪者が現れる。
「—————u-18の日本代表、飛鳥亨————試合後に会うとは予期していませんでした」
「確かに、すぐに会うのは不躾かもしれない。しかし、あんなことがあった直後だからこそ、君に会う必要があった」
葉陰のキャプテン飛鳥である。鬼丸の背後からのタックルで負傷交代に追い込まれた青葉を見舞いに来たのだ。鬼丸としても、まさかあんなことになるとは考えておらず、試合後も放心状態だったという。
危うく、二人の才能ある選手が潰れてしまうシチュエーションになりかねなかった。
「———————俺も、貴重な体験をしたと思います。ああいうことは海外でも想定しなければなりません。それを怠った自分自身のミス。“宮水青葉”にとっての教訓になればと」
意味深な発言が目立つ青葉。流暢だが不自然な言葉遣いが見受けられる。それに、ここまで思慮深い話し方には思えなかった。
「?? あ、ああ。そうだな—————鬼丸のことも含めて、すまなかった。重ね重ねすまない」
「彼にとっても、自身のメンタルをコントロールする教訓になったと思います。無論俺のプレーにも課題はありましたから」
特に鬼丸のことは気にしていないと断ずる青葉。そこには苛立ちも、焦りも感じさせない。あるがままを受け入れ、最善手を探す青年の姿しかなかった。
「――――本当に、君には昔から驚かされる」
飛鳥は、そんな青葉を見て微笑んだ。遠くにあるものを見るような眼で、青葉に対し、憧れのような視線を向けている。
「昔、ですか? 予選以前にでしょうか?」
覚えがない青葉は、飛鳥の昔がどれなのかがわからない。
「中学時代。遠征に来た岐阜県下のチームと試合をしたことがある。その時に、君は4得点を決め、俺の横を何度も抜き去っていた。あの頃よりも鋭く、速くなっていたと痛感したよ」
「――――あぁ、いや、横浜では負けた記憶しかありませんでしたから。ああ、そうでしたか。あの遠征の時に――――」
サッカーノートを後で読み返そうかと、青葉は考えた。昔過ぎて押し入れの中に埋もれているかもしれないが、と心の中でつぶやく。
「――――君のような選手が、将来代表を背負うのだと、あの時俺は思ったよ」
飛鳥にとっては忘れられない記憶。そして経験だった。あの経験を活かして、神奈川屈指のディフェンダーになった。
しかし、やはりこの男には届かなかった。
「―――――誰もが、あのユニフォームを背負うことを目指しています。今までも、そしてこれからも」
そして青葉は今も変わらぬ思いを口にする。後4年後。年齢で言うと19歳。青葉の誕生日は2月なのだ。
選手として、未完成と言われる時期。世界では超一流が主力になり始める時期でもある。
「―――――その時は、いい夢を見させてもらうよ。宮水君」
もうそんなところまで将来を考えているのか、と飛鳥は思った。
「飛鳥さんは代表入りを考えていないのですか?」
不思議そうな顔で、青葉は彼に尋ねる。実績もある選手がそこを目指さない理由がないと考えたからだ。
「―――――そうだな。選ばれたいとは考えているよ」
総体は終わってしまったが、次の選手権がある。
飛鳥は心の中である決意をした。
もし、目の前のトップレベルの選手に勝てたのなら。代表入りやプロという選択肢を考えられるかもしれないと。
――――だが、まだ届かないなら
果たして、目の前の男はどう考えているのか。
「――――俺は他人に、将来について指図できるほど、偉い存在ではありません。しかし、飛鳥さんの中で覚悟があるのなら、志してもいいのではないでしょうか?」
青葉は、やけに自信のない口調の飛鳥に戸惑いを見せる。
「高校サッカーは、それだけ分岐点でもありますから」
「――――ああ。そうだな」
親との約束は、高校サッカーまで。もし高校サッカーで結果を出さなければ、医者の道を行くことになる。
勿論、医者の道が嫌というわけではない。命を救う仕事は尊敬できるものであり、それを生業に多くの命を救ってきた父親は人として尊敬できる。
それに、サッカーに反対されている今も、こうして猶予を設けてくれている。
もし岐阜県から彼がこちらに来なければという、もしもの話に興味はない。全国に出て、このレベルの選手と戦う機会もあるかもしれない。
対決するのが遅いか速いかの違いだ。
――――親父、2年半結果を満足には出せていないけれど
ここ数年、葉陰は全国に出ることが出来ていない。だからこそ、選手権はラストチャンスなのだ。
――――けど、サッカー人生の瀬戸際に、こんなすごい選手が俺の目の前に現れた
普通なら、嫌と思うだろう。大好きなサッカーができる瀬戸際に、厄介な選手が現れたと。
――――だが違う。俺は、そんな強い選手に勝ちたいからこそ、サッカーをしている。
飛鳥は、中途半端は嫌だった。何となくプロになり、何となくプレーする。努力と経験を大切にしてきた彼には受け入れがたい未来だ。
――――強い選手に、強いチームに勝つために
「サッカーを前にして、正直でいてください。決めたことには文句は言いませんが」
手を差し出す青葉。
「もちろんだ。この道に関しては、真摯でありたいと考えているよ」
そしてそれに応える飛鳥。
遺恨は消えた。青葉は総体予選の大一番に、飛鳥は選手権に向けて。
動き出すことになる。
江ノ島高校では、青葉不在の中で練習中にも張り詰めた空気が漂っていた。エース不在、大黒柱不在という状況下。
ムードも、一つの目標に向かっている空気ではあるが、空回りしている面がある。
「―――――この状況では動きを悪くするだけですね」
岩城は、いったん練習を止めてミーティングを行うと指示を出す。休憩時間の後、全員を集めて意識の統一を図ることになった。
部員たちも自分の動きが悪いことに気づいていたために、その指示に従うものが多数だった。
――――青葉がいない。なら俺たちで
沢村が不在の彼を惜しむ。そして、彼がいなくても、全国には行けることを証明するために。
彼に良い報告をできるように。
――――こういう時に総合力を示さないと、ワンマンチームのままだ。
八雲は肌で青葉の実力を感じ取っている。だからこそ、青葉頼みの攻撃から脱却する虎穴でもあると考えていた。
――――江ノ島サッカー部は、いや、俺たちは、彼に恩義がある。なら今こそ踏ん張りどころだ
織田は、受けた恩は必ず返すと考え、青葉にまずは全国をプレゼントしたいと考えている。
――――あいつが責任を感じないよう、俺たちで、勝ち取るんだよ
荒木は、あの時言った言葉が嘘ではないと、得点を決めることでチームを全国に導くことを志していた。
そして――――――
「エースがいない。もし周囲がそう言うのなら――――――」
騎士を志す少年の決意は変わらない。
――――もう一度立ち上がった時から決めていたんだ
侍ブルーのエースストライカーになる。そして、その為に江ノ島サッカーでエースになる。
「僕が、エースになるんだ」
ドクンッ、
そう思った瞬間、鼓動が力強く体に響いた。まるで自分の中に存在するものが高揚しているような。
自分の言葉に喜んでいるような。
――――でも、だめなんだ
今のままでは、胸を張って逢沢駆とは言えない。
――――あの感覚を超えるには、どうすればいいんだろう
いきなり自分が上手くなる、という感覚。何か全能感に酔ったような体験。あれは心地よく、いつまでも体験したいものではあった。が、操られているような感覚があった。
「駆?」
思いつめた表情が多くなっている幼馴染に、声をかける美島。活躍するほど周囲の雑音が大きくなっている今、駆は校内でも人気の存在だった。
そして、かつての傑のように女子に興味を示さず、どん欲にサッカーに打ち込んでいる。ただ、予期せぬ異性との接触やスキンシップが苦手なだけという面もあるが。
「―――――青葉がいない。だからこのまま負ける。負けると予想されている今が、悔しいんだ」
この幼馴染には、いつも本音をさらけ出している。気兼ねなくこういうことが言える存在は、そう言えば彼女以外思い浮かばない。
「でも、今の僕は胸を張って逢沢駆って言えない。兄ちゃんのようなプレーが出来ても、それが自分の感覚ではないみたいで――――」
手が震える駆。だんだん自分ではなくなっていくような悔しさが、そこにはあった。
運命の朝、もし兄が助かり、自分が命を落としていたほうがよかったのではないかと、思わなかったとは嘘になる。
「でも、傑さんはもういない。駆は、駆の足で、ピッチをかけている。」
そんなことはないと、美島は励ます。傑はここにはいない。彼はもう手の届かない場所にいるのだから。
「―――――僕には出来っこないよ。練習しないと、あんな兄ちゃんのようなプレー。」
ぶっつけ本番で、ヴァニシング・ルーレットが出来るわけがない。
葉陰戦で見せた、あの影のルーレット。マルセイユ・ルーレットという光が生んだ、駆の考えたフェイント。
「―――――久しぶりに、私と練習しない? 今夜」
唐突な美島の提案。それに駆は驚いた。
「――――でも、代表の疲れや学業との両立だって―――――」
「―――――え?」
今の今まで、駆はそんなことを考えていたのか。と美島は驚いてしまった。
「正直、最初は嫉妬した。セブンが代表に選ばれて、僕はまだあのユニフォームを着ていない。兄ちゃんも着ていた代表の証。だから、悔しかった」
今だからこそ言える。駆は美島に白状した。
「駆―――――」
「でも違うんだ。セブンと練習しなくなって、青葉や高瀬と練習して、いい経験をしたと思う。けど、今頑張っているセブンに迷惑をかけたくなかった」
へたくそは練習するしかない。練習して練習して、ようやくモノにできる。
それを自分は知っている。あのルーレットを今ではできるようになっている。今回のヴァニシング・ルーレットも、練習すればきっと使いこなせる。
「セブンの隣にいて、恥ずかしくない選手になりたかったんだ。」
そして駆は、美島に問う。
「ねぇ、セブン。」
そこまですれ違っていた。美島は駆の成長のためにあえて距離を置いていた。自分では気づけなかった欠点克服の解決方法を編み出した青葉に遠慮もした。
そして、次々とフェイントを会得した駆は強い選手になりつつある。
このすれ違いは、遠回りではあったが、無駄では無かった。
「セブンにとって誇れる、そんな選手に僕はなれたのかな?」
泣きそうだった。そこまで、そこまで駆は考えてくれていたのかと。これが疎遠になり始めた傾向なのだと思っていた彼女は、彼の言葉に目に涙を浮かべてしまう。
突然正面から抱き着かれた駆は、驚いているだろう。
「―――――セ、セブン!?」
「大丈夫。駆はちゃんと強くなっているから。本当に、駆は凄いよ。」
爆発してしまう心。美島は抑えきることが出来なかった。
「頑張り屋な一面が好き。プレーしている姿が好き。」
止めようがない言葉。止めようとも思わない。冷静な自分では言えなかった言葉の数々。
でも、本当は伝えたかった言葉。ずっとずっと言いたかった言葉。
「そして―――――優しい君が大好き」
気絶しそうになるほど、今の自分は体が熱かった。
「――――――僕も、ずっと言いたかったんだ、セブン」
彼女を抱きしめる手が一段と強くなる。彼の手の力が少し強くなったことに驚きつつも、嬉しさで頭がいっぱいになる。
「―――――僕も、セブンが大好きだよ。」
ここまで言われて、恥ずかしいだの、なんだのとは言えない駆。彼も彼女の想いに向き合いたいと思っていた。
「憧れだったんだ。兄ちゃんとは違った形の。隣にいたセブンはいつもキラキラしていて。魅力的で、優しい女の子だったから」
そうだ。自分はあんな存在にはなれない。あんな風にはなれない。あんな風にボールを操れる。そして、異性の友達があまりにも魅力的だった。
気づけば心を奪われていた。いつからそうだったのかは覚えていない。きっと、彼女に出会った日なのか、それとも彼女のプレーを見た時なのか。
「――――なんだか恥ずかしいよね。この状況」
照れ笑いだが、その声色はどこまでも穏やかだった駆。もうこの状況を受け入れているのだから当然だ。
「う、うん。我ながら、ううん。お互いに、タイヘンなことをしている気分、だよね」
駆の胸に飛び込んだままの美島は、顔を隠しながら白状する。
「―――――ねぇ、セブン。」
優しく美島の頭を撫でながら、駆は彼女にちょっとだけ―――――
「なぁに、駆?」
そして、その言葉につられた美島は顔を上げる。
「―――――――――」
その顔を見て、駆は言葉を失った。いつも見ていた幼馴染の顔を赤くしている光景。照れ隠しのようなものではない。
そんな生半可なものではない。
純粋に、好意を見せつけてくれている、彼女の恋をする顔に出会った。
「――――ううん、今見たいものが見れたから。どうでもいいや」
「――――駆のバカ。いつもはこんなこと、口が裂けても言わないよね?」
少しだけいじけてしまう美島は、再び駆の胸に顔を埋めてしまう。
そして、そんな可愛い恨み文句を言ってきた。
「うん。普通じゃない。だけど、本心だから」
今はまともではないと自分に言い聞かせ、駆の言葉は止まらない。
「――――フフフ。本当にイケナイことをしているね、私たち」
それなのに、彼女は実に楽しそうだった。この状況に酔っている、この状況に流されていることに戸惑いを持っていない。
「でも、こんな場面を見たら傑さんはどう反応するかな?」
きっと驚いただろうなぁ、と笑う美島。駆もそれは同じだった。
「傑さんなら、祝福してくれたかしら? 今の駆は、ホントにいい顔をしているもん」
美島は、厳しいようで優しい彼なら認めてくれると思っている。第一、彼はこんなことで考えを左右するタイプではないし、そこまで厳しく干渉もしてこないはずだから。
————きっと祝福してくれたに違いない。
「セブン……」
笑顔のまま、大丈夫、不安にならないで、と励ましてくれる彼女の姿に、体が熱くなる駆。果たして、今の自分は兄に認められるだけの存在なのか。
駆にとっての永遠のヒーローだった兄。永遠に超えることもできない存在。
それが最後のピースであり、要素だった。
ここからなのだ。ここから駆の本当の成長が始まるのだ。兄を意識し、その壁を前に彼は挑む決意をしなければならない。
止まってしまった過去を乗り越え、兄越えを果たす―————
その意思を固める瞬間がやってきた。
「――――憧れていた。うん、僕は兄ちゃんにあこがれていたんだ」
「ずっと兄ちゃんのようなプレーをしたいと心の中で思っていた。だから、練習もしたし、ずっと兄ちゃんのプレーを見てきた」
そう、憧れていた。
「でも、兄ちゃんは僕にとってのヒーローで、手の届かない存在であってほしいって、心の中でどこか思っていた」
きっかけは、代表の試合を見た時から。フル代表が外国の代表チームに蹂躙されている試合を見て、逢沢傑ならば、というビジョンを想像しても、勝てる光景を見つけられなかったから。
「兄ちゃんは無敵の存在でもない。だから、いずれ代表という壁で、ぶつかっていたと思う」
しかし必ず乗り越えてくれる。乗り越えることができると確信している。
「環境が変わって、少しは兄ちゃんらしいプレーをできるようになって、気づいたんだ」
美島はひたすらに、駆の独白を聞いていた。さえぎるなんてことも、途中で口をはさむこともしない。
今は、駆の言葉が聞きたいから。
「――――もう憧れるのは、終わりにしようって」
亡霊が彼に手を貸したことなど一度もない。駆は自分の意志で、自分の体のみで兄のプレーを再現していた。以前はそれを、自分と兄は違うと勝手に判断し、できないと思い込んでいた。
だが、これからの駆は確実に変わる。
兄傑のプレーが「再現可能」であると認識したことで、駆に枷られていた序盤のリミッターが外れようとしている。それこそ、彼の爆発的な成長速度の理由であり、彼の成長を阻害し続けた壁でもあった。
「―――――きっと出来る。駆は誰よりも傑さんを見てきたもの。」
美島も、駆の言葉の真意を読み取っていた。
駆の中の意識が変わった。逢沢傑のプレーを出来ないと信じていた昔の常識が壊され、
敬愛する兄のプレーが出来ると信じたのだ。
「やれるかな、とか。もうそういう言葉には頼りたくない。」
穏やかな口調だが、言っている言葉は穏やかではない。
「必ずやるんだ。」
「――――うん」
その後、このやり取りのせいでミーティングに遅刻してしまった二人は、周囲の生優しい視線に晒されながら、顔を真っ赤にしながらそのミーティングに参加するのだった。
「まあ、そこの色ボケストライカー様は置いといて」
兵藤は、敢えて駆の異名を改造した二つ名で彼を指名しつつ、辺りを見回す。
「―――――」
顔を赤くしたまま、唸るだけの駆。そして、マネージャー陣に祝福され、放心状態の美島は放置。
「俺たちの意志は変わりないぞ。」
織田も、真剣な瞳で岩城を見る。
「――――そうです。ですが、今のこの状況を皆さんはどう感じていますか?」
皆は青葉のために勝ちたいと願っている。しかし、岩城には一つだけ気がかりなことがあった。そしてそのままではきっと勝てないと。
「どうって――――」
荒木は一体何のことを言っているのだと、首をかしげる。
「きっと皆さんは、青葉君にあこがれていた。そして、彼がいない状況をマイナスだと思っています」
事実だ。それは単純な事実から基づく真実。この現実は変えようがない。
「ですが、これはチャンスでもあるんです。」
青葉がいないことがチャンスになる。周囲の理解が追いつかない中、岩城は続ける。
「青葉君がいない。誰かがいない。そういう事情はどのチームも持っています。もし、学年が同じなら、とかね」
「これは、みんなの意識を高めていく絶対的なチャンスでもあるんです。昨日のことがあり、決勝戦も目前です。」
「だからこそ、私たちの持てる最高のサッカーをして、胸を張って全国に行きましょう。」
そうしめくくった、かに見えた岩城。次の瞬間、かつての闘将ぶりを蘇らせるような咆哮が鳴り響く。
それは怒鳴り声ではない。部員全員を奮い立たせるような掛け声だ。
「いいですか!! これは、断じてマイナスなどではありません!! 逆風の中でこそ、貴方方は輝くと!! 苦しい練習を、みんなとは違う練習をして、皆さんはここまで結果を出してきました!! 攻撃陣だけではありません。前線が、中盤が、そして最終ラインが頑張ってきたからこそ!! 今日この日を迎えるまで、最少失点数です! 皆さんは成長しているんです!」
攻撃陣は神奈川で最強クラス。しかも、失点もわずかに1。これは高校サッカーではありえない。
岩城の戦術眼と、往年のスタイルが融合した新星江ノ島サッカー部は、強いのだ。
「不安はあったと思います。特にSCの皆さんには戸惑いもあったでしょう。ですが、皆さんは誇ってください!! 信じてください!! 私たちは神奈川県下で、一番全国で勝てるチームなのだと!!」
「もっともパワフルなチームなのだと!! 信じてくださいッ!!」
岩城の掛け声に雄たけびを上げる部員たち。力強い気持ちが、今まで以上に強くなる。
それは彼の指示ではない。部員自らが奮い立ち、勝手に雄たけびを上げているのだ。
――――私の檄一つで、みんなの意識が変わるのなら―――
それは安いものだ。喜んでチームの利益のために、旗振り役をしよう。
――――驚かないでくださいよ、青葉君。
この場にはいない青葉に向けて、一人心の中でつぶやく岩城。
――――君が目覚めさせたチームは、君の予想を超えて成長していますよ
傑「とりあえず、落ち着いたか?」
青葉「まさか今まで見られていたなんて・・・・えっと、俺死んでないですよね?」
傑「ああ。あいつはお前に見せたいものがあると言っていた。それが終わるまではここだろうな」
青葉「・・・・今の俺に足りないプレー、か」
傑「ヒントは・・・・昔のお前がやっていたことだな」
青葉「・・・昔の俺に出来て、高校生の俺に出来ていない事・・・つまり選択、か?」
傑「フッ・・・」