騎士見習いの立志伝 ~超常の名乗り~ 作:傍観者改め、介入者
織田が悔し気な、泣きそうな顔でベンチに下がってくる。
「―――――すみません。乗せられて――――くっ」
思いつめたような顔をして、肩を落としている織田の姿。
「――――何の慰めにもなりませんが、あれは明らかにシミュレーションでした。フリーキックはともかく、退場まで追い込まれたのはよくありません」
「ただ。あのマリーシアは日本のプロでも時々起こります。海外だけではありません。特に、彼はそういうマリーシアが求められる戦いで、それに慣れていたのでしょう」
岩城も織田の心情はわかる。しかし、言うべきことは言わなければならない。
「はい。申し訳ありません―――ッ」
そして、ベンチ裏へと下がっていく織田。
その様子を見ていた青葉は―――――
「――――アップ、早めてもいいですよね」
岩城に後半頭から出ると訴えたのだ。
「――――出るのでしたら、フルに戦える覚悟はありますか?」
中途半端な義憤で迷惑をかけられるのなら、出ないほうがいい。私情がらみで出られても邪魔なだけだ。
「――――縦への推進力が足りません。レジスタの織田先輩がいない。この展開であれば、最後の一枚が足りなくなります」
攻撃でパスセンスのある荒木が起点となる為。フィニッシャーばかりの前線ではパスが通らない可能性も出てきた。
「彼に、これ以上負担をかけるわけにはいきませんしね」
あくまで、青葉はチームのために自分が出るべきだと考えていた。織田のことは当然悔しいし、何も思わないことはない。
だが、そのマリーシアを打ち破り、織田の無念を晴らすには、勝つしかないのだ。
そして嫌な位置からのフリーキック。蹴るのは世良―――――
『紅林触れない!!!! 入ったぁぁぁ!!! 鎌学前半25分に追いつきます!! 決めたのは先ほどファウルを掴み取った世良!! ボールがぶれていますね!!』
『互いに堅守を見せつけていた両校ですが、早くも点の取り合いの様相を呈してきました!』
数的優位を盾に、鎌学の猛攻が始まる。
――――おいおい、このままじゃジリ貧だぜ!!
荒木を中心にパスコースを塞ぎにかかるが、走らされるばかりで消耗を強いられる江ノ島高校。
数的不利の状況下で前に出ることが出来ない。
何とかボールを奪った兵藤。攻勢に出るために荒木にボールを送るが、
――――ただでさえ中盤ではパスコースが――――
「ぐっ!?」
後ろから強い衝撃を食らった荒木。その衝撃とともに倒れこんでしまう。そして横には世良が同じく倒れこんでいる。
江ノ島のフリーキックとはいえ、世良が痛がるそぶりを見せ、主審はカードを提示しない。
「お、おい!! レフリー見ていたのかよ!! 後ろからだぞ!!」
兵藤が異議を唱えるが、主審は首を横に振るだけだ。
なぜカードが出ないのか。
――――ほんと、勝負では容赦のねぇ奴だな
荒木は彼を知っている。二列目で争っていたメンバーでもある。自分がサッカーから離れるまではボランチなどでプレーしていた覚えがある。
良くファウルを貰う選手ではあったが、こういう仕掛けかと荒木は歯噛みする。
「――――っ」
立ち上がり数歩歩くと何か足首に違和感を覚えた荒木。先ほどの衝撃で足首を曲げてしまったのか。
――――おいおい。青葉がいねぇだけでこの様かよ、荒木竜一
なぜ浮足立っている。同点にされただけだ。
前半は最初の勢いはどこに行ったのか、江ノ島が押し込まれる時間帯が続き、荒木の動きも次第に切れを失っていくだけとなった。
「――――まずいですね」
前半が終わる終了間際。荒木の動きがおかしいことに気づいた岩城監督。
中盤ではただでさえ人数が足りない。そして、パスを出せる存在でもあった荒木の不調。
このまま青葉をサイドに出す、ということが難しい。
「監督―――――」
すると、アップを終えた青葉が監督の横に立った。
「“今の俺”は、二列目ならどこでもやりますよ」
強い覚悟を秘め、青葉は岩城の意図を理解し、その起用に応える覚悟はあると言い放つ。
「―――――不慣れなポジションで、君に負担をかけるわけには」
ただでさえ脳震盪でどんな影響があるのかすら怪しい。今の青葉はどうなのか。
「――――この試合に勝てば、本選まで大人しくしますから」
ニッ、と笑う青葉。
「だから、日本の要を目指す“宮水青葉”を出してください。荒木さんがつぶれる前に」
しかし状況は待ってくれない。
『鷹匠押し込んだァァァ!!! 鎌学勝ち越し!! 豪快なヘディングでついに江ノ島からリードを奪います!!』
『前半終了!!! 1対2、後半に入ります! 荒木選手のいいシュートもあった江ノ島ですが、次第に押される形となりましたね』
『不運な判定にも泣かされましたが、これがサッカーです。数的不利に対する修正点、難しいとは思いますが、そこを何とかしない限り、後半さらに失点する可能性がありますね』
『一方、しり上がりに調子を上げてきた鎌学。後半は期待できそうですね』
『ええ。しかし、まだ崩したと言える場面がないんですよね。サイドの佐伯選手が八雲選手と逢沢選手に封じられていますからね。まだまだ完全に形勢が逆転したわけではないので注意が必要です』
ロッカールームでは織田を責める声は存在せず、むしろ同情する声しかなかった。
「織田。絶対に勝つからな」
「ああ。あんなズルい奴にやられっぱなしは性に合わねぇ!!」
「この数的優位でようやく前に出てきた鎌学の腰抜けは、後半で借りを返してやる!!」
「――――っ。みんな、すまない――――」
そして後半に入る際にポジション変更が伝えられる。
「荒木君。足首に違和感がありますね」
「―――――っ。」
いきなりの指摘に荒木は押し黙ってしまう。
「あの時の接触プレー。不用心といえば不用心かもしれません。しかし、その状態でプレーすることはもっと不用心です」
「けど、ならだれが―――――まさかっ!!」
異議を唱える荒木。ならだれがトップ下をするのか、と。
この状況で4-2-2-2はしにくい。中盤の人数が減った状況で、荒木というパサーがいないことは致命的だ。
「――――こういう時に、後輩を頼ってください、荒木さん」
ユニフォームに着替えた青葉がやってきたのだ。背番号8が後半頭から出る。岩城監督は彼を出すつもりなのだ。
GK 1番 紅林
LSB 2番 沢村
CB 4番 海王寺
CB 14番 錦織
RSB 3番 八雲
CMF 9番 火野
CMF 7番 兵藤
OMF20番 逢沢
OMF 8番 宮水
FW 13番 高瀬
ベンチ入り(GK)16番藤堂、19番李、(SB)12番 桜井17番中村(CB)、5番 三上15番 不動(MF)、18番 的場、(FW)11番 工藤、
OUT 6番 織田 10番 荒木
右サイド、左サイドというくくりは消滅し、OFMが二枚並んだ状況になる。体力に自信のある選手を二枚並べ、逢沢の消耗具合で的場を投入。
「――――駆君。君は高瀬君と青葉君と一緒に点を取りに行ってもらいます。ラインを上げて、みんなは彼らのフォローを。前を向いたらまず高瀬君を見なさい」
さらに細かな指示を与え、後半に入ることになる。
後半、鎌学の空気に緊張が走る。
その存在が認知されるだけで、相手にとってはプレッシャーとなる。
裏に抜けられたら最後、確実に致命傷を与えることになるその絶対的な脚力。
一段と大きくなる歓声。何しろ彼がついに満を持して登場するのだから。
『さぁ、後半キックオフですが、江ノ島はサイドアタッカーをなくし、STに近いポジションに荒木に代わって入った宮水、そして逢沢を置きます!!』
『思い切りましたねぇ。しかし、鷹匠選手ら攻撃陣を警戒してか、前の人数は減ってしまいましたね』
後半、STといっても逢沢と宮水には特にポジションはない。
彼らの並外れた体力でなければ実現できない。そして、SBのオーバーラップは必須。
『そしてついに!! 宮水青葉がピッチに入ります!! 今大会得点ランキングトップ!! その絶対的なスピードと決定力は、神奈川サッカーに暴風を巻き起こしています!!』
『それにしても真ん中ですか。彼にはキープ力がありますが、未知数な采配ですね。サイドアタッカーである彼の真ん中でのプレーは、非常に興味深いですね』
――――ついに出てきたな、
真打ち登場、と感じた鷹匠。自由を与えられたアタッカーはどこまで来るのか。
――――惜しかったね、この数的不利ではもうどうしようもないでしょ?
いくら日本で話題になった存在でも、この状況を覆せるほどではない。
士気は既にこちらが上で、江ノ島はガタガタになっている。
後半が始まる直前まで、世良はそう考えていた。
後半はゆっくりとボールを回す鎌学。前からプレッシャーをかけてくる江ノ島をいなしながらカウンターを狙う。
そんな戦略だった。
「―――――えっ」
知らず知らずのうちに誘導されていた世良。世良の放ったパスがあっさりと青葉にカットされたのだ。
そして慌てて追い縋ろうとしたが、それすら許さない。
「なっ!?」
止めに入った佐伯を簡単な切り返しであっさりと抜き去る青葉。最初からトップスピードで襲い掛かる、全力の宮水青葉の威力。
単独ですでに2枚を切り伏せた突風の如きドリブル。世良と佐伯が追いかけるが、単純な速力で距離を離されていく。
「早過ぎる……っ! なんで————ッ!!」
必死にその背中を追う佐伯が思わず口に出してしまう。全速力でそれなりに走っているはずなのに。
—————なんなんだ、お前は—————
そして彼を世代別から知る世良は、青葉が出てきたころを思い出す。青葉が出現するまでは、彼は攻撃の要でもあった。
しかし、荒木、宮水の台頭により、攻撃の要から蹴落とされた彼は、災害のような脅威でもある青葉のいるチームに打倒したいと考えていた。
その結果は以前と変わりがなく、今現在進行形で彼に振り切られてしまっている残酷な事実が彼の心を重くする。
――――ボールを持っている奴のほうが、俺たちより早いのか!?
信じられない。悪夢のような存在だ。すでにバイタルエリアに侵入した青葉を囲む鎌学ディフェンス陣。
『インターセプトからの強烈なドリブル!! 尚も勢い止まりません!!』
『うわぁぁ、なんだ、あれは。あんなスピードで中央突破するのか――――』
4人に囲まれ、ドリブルコースを消されたと思われていた。
ここで高速で行われる連続シザース。細かなステップ、やや落ちるだけのスピード。とてもではないが、日本人とは思えない。
歩幅が狭まるのに、それに反比例して足の回転が急激に早くなり、スピードも全く落ちない。日本人が苦手とする高速ドリブルからのフェイントが可能な態勢を維持する青葉。
そのドリブルの姿勢は、もはや日本のプロのレベルを超えており、現在そんなドリブルが出来る選手が世界でも一握りしかいないことを痛感させるものだ。
そんな彼の雄姿を見守る観客たちも、今までの日本人が誰一人到達し得なかった世界レベルのドリブルに目を奪われていた。
————あれ、海外の人がやっている奴だよね?
————体幹がぶれてない!? 何だよ、あの高校生!! ほんとにアマチュア!?
そして観客の中にいる、ある男が彼のドリブルに完全に魅了されていた。
「すごいぞ、この高校生は……」
誰よりもサッカーに愛されていると信じて疑わなかった。その男はイングランドで起きた悪夢により、噂すら聞かなくなってしまった。そして目の前にいる少年は、そんな彼を彷彿とさせるプレーを見せていると、この準決勝まで感じていた。
だが、彼は今までの日本人にいないタイプだ。日本のエースと呼ばれる花森すら上回る、ポテンシャルと可能性を秘めた選手。
—————お前を超える存在が、ついに現れてしまったぞ、達海
かつての我らのエース。彼が海外での活躍を信じてやまなかった男の名を口にする。
そしてフィールドでは、そんな天然災害の如き勢いでゴールに迫る青葉を前にして、リトリートで退く以外の選択ができない鎌学守備陣。
「前に出るな!! 前に出るなっ!!」
「ブロックを作れ!! コースを塞ぐんだ!!」
必死に守りを固める鎌学守備陣だが、それを見た青葉はどういうわけか、信じられない行動に出る。
「「「!?」」」
ゴールキーパー、そしてセンターバック、ボランチの選手たちが驚愕するのもの無理はない。
「———————」
彼の口元が一瞬にやけた様に見えた。そして彼はブロックを固める鎌学守備陣に突撃してきたのだ。まるで怯えている彼らを見透かすかのように、猛然と襲い掛かる。
その姿はまさに猛獣、怪物、悪魔。彼らの恐怖を感じ、更なる絶望へと突き落とす魔王そのもの。
もっと正確に言えば、国松とセンターバックの間を狙っているかのように見えた。
距離が詰まっていく。もうリトリートは出来ない。そしてブロックを固めることが出来ても、青葉は勢いを緩めない。むしろ、歩幅が信じられないほどに小さくなり、足がかすんで見えるほど回転が速くなっていく。
—————この化け物めッ!!
――――どっちに来る? 右か、左か? ミドルか!?
この距離でこの密集地帯。ミドルシュートで精度を誇る彼ならばどうするのか。
だが、そんな一瞬の思考すら、今の青葉には致命傷だった。
「―――なぁ!?」
自分と他の選手の間に一瞬で切り返しながら、ここで青葉の代名詞の一つ、ドラッグシザースがさく裂。
フェイントの直後にさらに加速という、おかしな芸当を見せつける。
慌てて青葉の服を掴んだ国松だったが――――
「うおぉぉ!?!!?」
まるで重機に引っ張られるかの如く、国松は引き倒されてしまった。かなりの衝撃だったらしく、同じく服を掴んで止めようとした選手が動けない。逆に、青葉のスピードに引っ張られるように引き摺られ、国松と同じ運命をたどる。
青葉はファウルをしていない。掴んできた相手を握っただけだ。そして、青葉が走る世界で立つことが出来なかっただけなのだ。
「かっ、はっ―――――」
一瞬で肺の空気をたたき出され、視界がかすむ国松。その掠れた視界の先には、青葉がそのまま弾丸シュートを叩き込んだ光景が見えてしまった。
『一気に中央突破で鎌学ディフェンスを薙ぎ払ったぁぁぁぁ!!! 誰も止めることが出来ない!! まるで超常現象の如く駆け抜け、最後は強烈な弾丸ライナー!! 後半開始直後の一人カウンターで、江ノ島高校同点~~~!!!』
「―――――――」
しかし、トンでもゴールを決めた青葉に笑顔はない。集中している姿。ボールを持てば何かを起こす、起こしてやるということにしか集中していない。
一人だけ、レベルというか次元が違うというか、何か入ってはいけないものが入っている。
「な、なんだよ――――そりゃぁ」
世良は、自分のミスパスから一気に失点につながった今のを見て、愕然としていた。
――――なんだよ、そりゃあ。ありえないだろ
基地外染みた思考。なぜそこを通ったのか理解できない。そしてそれを実現してしまう脚力。
さらに前線の圧力が増した江ノ島のハイプレッシャー、というより―――――
「「ッ!!!」」
駆が呼応するかの如く、強烈なプレスを行い始めたのだ。まるで二人で連携しながら、
空からピッチを見ているかの如く、パスコースを塞ぎにかかったのだ。
そして散々に追い回された鎌学がロングボールで鷹匠にボールを託すも、
「くっそっ」
――――あいつ一人入っただけで、状況が一変しやがった!!
簡単に海王寺にボールを奪われてしまう鷹匠は歯噛みする。鎌学の数的優位を誇るプレッシャーよりも、宮水青葉が真ん中にいるというだけで、その理屈は崩壊する。
そして、そのまま青葉にわたり、またしてもドリブルを開始する。
だが、これだけにとどまらない。青葉は自分に群がる選手がある程度増えた後に、鋭い縦パスを入れる。
「ッ!!」
その鋭いパスを受けるのは逢沢駆。
前半から冷静に力を温存していた駆は、ここで一気に体力を使う時だと悟る。
――――青葉が来てから、流れが変わった。
このまま青葉一人で勝ったとは言わせない。
「させるか!!」
ここに来て、駆が元気になりだしたとたんにやってくるのが佐伯である。彼はパスワークには参加したが、最初のプレー以外目立ったことをしていない。
ここで駆がスピードダウン。並走していた佐伯が前につりだされる。
――――しまっ
だが、距離を詰めようとする佐伯。それが駆の狙いともわからずに――――
『チェンジ・オブ・ザ・ペースで一気に抜き去った逢沢!! 俄然攻撃の勢いが増していきます!!』
佐伯を完全に抜き去ってしまう。逢沢駆が会得した足元の技術の一端。佐伯が横抜けを警戒した瞬間に、マシューズフェイント。絶妙な間合いで仕掛けたそれは、必殺の一撃で彼を置き去りにしていたのだ。
そして前方には世良。これ以上の醜態は許されない。
「調子に乗るな!!」
訳の分からない奴らに、これ以上訳の分からないことをされては、たまったものではない。
――――縦への突破、11番の背後には――――
この条件下ならば、あの技を使える。
――――行くよ、青葉ッ
どうか見ててほしい。これが、今の自分の実力なのだ。
右足の跨ぎから、左足のステップが見えた時には―――――
――――ボールが、消えた!?
世良の視界から駆がキープしていたはずのボールが消えたのだ。愕然とする世良を尻目に、ひとりでに現れたボールが駆に戻っていく。
そして勢いに乗った駆は最後国松に対して―――――
トンっ
国松と五味の間へスルーパス。ファーサイドから走りこんできた高瀬の豪快なダイレクトシュートがネットを突き刺さる。
『逢沢スルーパス! から押し込んだ~~!!! 江ノ島勝ち越しィィ!! 決めたのは1年生の高瀬!! その長い足を延ばし、ラストパスを押し込みました!』
『青葉君のドリブルがスイッチになっていますね。そして逢沢選手の二人を抜いた突破力も見事でした。直前のフェイントは異次元でしたね』
『はい! 世良選手も完全にボールを見失っていましたからね。あんなフェイント、私は今まで見たことがありませんよ!』
青葉のビルドアップとは言い難い縦への突破と、駆の個人技で中央をこじ開けた江ノ島高校。最後は大巨人高瀬がフリーの状態で押し込んだ。
「おっしゃぁぁぁぁ!!!!」
この準決勝大一番で得点を決めた高瀬が吠える。しかも勝ち越しゴールだ。ごっつぁんゴールという評論家はいるかもしれない。
しかしその場所にいなくては、ゴールは生まれなかった。日頃は目立たないポジショニングの重要性を再確認する高瀬。
――――大きいから動けないなんて常識、ぶっ壊してやる
こちらはサッカー素人だ。そんな常識に染まってなるものか。
「――――駆……っ」
勝ち越しアシストを決めた駆を見て、一瞬だが別の誰かに見えてしまった佐伯。それはあり得ないはずなのに、言葉にしたとたんに理解してしまう。
逢沢駆はやはり、逢沢傑の弟なのだと。
自分は誰よりも傑のドリブルを実践してきたつもりだった。しかし、彼のように状況や流れを変えられるような選手にはなれていない。しかも、一度も届いたことはない。
だが、まるで今の駆は、逢沢傑そのものであるかのようだった。軽やかに、簡単にアシストを決めてしまう。ゴール前での憎らしいほどの冷静さすら、あまりにも似ていた。
このゴールで、鎌学の中で何かが崩れる音がした。闘志はいまだに消えてはいない。しかし、彼らの動きを悪くする空気のようなものが生まれた。
悪循環はさらに悪循環を生む。
「ぐはっ!?」
ここで、鎌学が立て続けにボールを失う。横パスを悉く刈り取られ、江ノ島のカウンターを発生してしまう。
そして、1点差ではまだまだ手を緩めない青葉の高速ドリブルがサイドを駆け上がる。
ファーサイドからゆっくりとニアへ寄り始める高瀬。
――――くそっ、これ以上失点すると―――――
国松は高瀬を抑えることに精いっぱいだった。勢いの増した江ノ島は火野も駆け上がり、一気にチャンスを迎える。
ダンッ、
青葉のクロスボールを上げる直前、駆に振り切られる佐伯。突然ニアへと猛ダッシュする駆に追いつけない。
――――パスコースも、シュートコースも、俺には見えないっ
しかし、駆には見えている。ゴールから逆算したのか、それとも本能で分かってしまうのか。
佐伯には見えない何かを、駆は見据えていた。
高瀬の前に突如として現れた駆は、青葉のクロスボールをすらし、ゴールへと流し込んだのだ。ボールの軌道を変え、巧妙にスペースへと走りこんだ彼のオブ・ザ・ボールの動きが効果的だったのだ。
『ニア押し込んだぁぁぁ!!! 江ノ島4点目!!! この試合1ゴール目の逢沢!! 最後は頭で流し込んだぁぁ!!』
『ゴール前の動きがいいですね。トップスピードに乗るのが速いですね』
これで逢沢はこの試合1得点目。さらには先ほどの勝ち越しアシストを決める等、青葉と同じく獅子奮迅の活躍を見せる。
「!!!」
鷹匠は、そんな駆の姿を見て遠い目をしてしまった。先ほどまでは、逢沢傑のようなプレーをしたというのに、今度はまるでストライカーのような動きをしていた。
――――ああ、そうか―――――
ああいう存在が、エリアの騎士なのだと。彼は自分を騎士とは呼ばなかった。きっとあの時から彼は最後まで駆を信じていたのだろう。
腐りかけていたあの時からずっと。
そして、傑が頼りにしていたサイドアタッカーの青葉。
フェノーメノの異名を名乗るに相応しい実力をこの試合でも存分に見せつけてきた。言うなれば、エリアの疾風。
劣勢の中で味方に吹く追い風。敵を圧倒する突風。そのワンプレーで試合の空気を一変させてしまう。
そして、あの傑も知らなかった全くの無名の選手。同じポジションにいながら、あの国松に当たり負けしない一年生ストライカー。
あの図体であそこまで動ける。そんな選手聞いたことがない。そして、ポジショニングにも課題はあるが、ゴール前での動き出しは目を見張るものがあった。
そこからは、もう目が覚めたかのように猛攻を続ける江ノ島。そして攻め続けられる鎌学が失点を繰り返す。
シュート数も20本を超え、数的有利なはずの鎌学が逆に押し込まれる展開に。
そして―――――
『ここでホイッスル~~~!!! 試合終了!!! 前半に織田の痛すぎる退場がありましたが、終わってみれば攻撃陣が大爆発!! 7得点の大暴れで全国行きを決めたァァァ!!!』
『そして、この試合でハットトリックを達成した逢沢選手が、宮水選手に得点数で並びました!! 圧巻の江ノ島の両翼! もはやこの攻撃陣を止められるチームはいるのか!!』
この試合で3ゴール1アシストの大活躍を見せた逢沢駆。そして、1ゴール2アシストと後半のみの出場ながら、試合の流れを一気に変えた存在感も無視できない。
さらには、センターフォワードの高瀬がこの試合も2得点。1得点の司令塔荒木は怪我の具合が心配だが、軽症であるという情報も。
スコアは結局、7対2で江ノ島の大勝。アクシデントや不運はあったが、そんな逆風をさらなる突風でねじ伏せた。
一方、鎌学はまさかといった表情。精魂尽き果てたといった表情を浮かべているものが多く、これは敗戦以上にダメージがきつい試合となったのだろう。
世良と織田の不可解な判定がなければ、後半途中まで互角の勝負が出来なかった事実が、彼らの肩を重くする。
――――はは、はははっ、なんだよ、これは
自嘲したくなるような結果に、世良は笑う。いいプレーをしていたつもりだった。織田を退場に追い込んだのも、上手くいったと思っていた。
荒木が痛み、退いた時にはこの試合は貰ったと思っていた。
だが、宮水青葉一人が入った途端に、これまで大人しかった逢沢駆が期を待っていたかの如く、襲い掛かり、対応することも出来ずに惨敗してしまった。
マリーシアとは対極の、世界レベルの実力を見せつけた青葉は、自分とは正反対だった。
彼は簡単には倒れない。タックルを仕掛けても倒れない。恐らくファウルでも止められるか怪しい。
――――まだまだ俺には、世界は早いっていうのかよ
日本でやらなければならないことが増えた。このままでは終われない、と。
「―――――ふぅ」
大きく息を吐いた鷹匠は、試合が終わった途端に力を抜いていた青葉と駆のもとへと歩み寄った。
「―――――鷹匠、さん――――」
驚いた顔をしている駆。彼にとってはかなり気まずい瞬間である。ここの辺りは年相応に平凡であり、試合での姿とのギャップが大きすぎると苦笑する鷹匠。
「―――――こんなに手酷くやられたのは、久しぶりかもしれねぇな」
「え?」
「昔を思い出したような試合だ。いきなり傑がピッチに出てきて、試合をひっくり返されたり、宮水が僅差になるまで迫ってきたりと、な」
負けたことは悔しい。しかし、納得もしていた。江ノ島のアタッカーが、そしてチーム全員が走り切った。だからこそ数的有利を跳ね除け、勝利した。
彼らは勝者に相応しかった。
「――――まるで傑の様だった。だが、同時にお前らしさもたくさん見えた試合だった」
傑が欲しかったものを兼ね備えた、傑の動きを再現できる存在。それが今の駆だ。
「そして、傑の言っていたエリアの騎士っていう存在。それをわかった気がするぜ」
一方、青葉は試合後に小野寺颯に呼ばれていると兵藤に言われ、応援席前までやってきた。
「——————どうかしたのかい、颯?」
不敵な笑みを浮かべ、青葉は彼女の言葉を待つ。対する彼女は、震えながら自らの疑問を口にする。
「——————青葉、なの?」
ありえない。もうそんな瞬間はあり得ないと思っていた。永遠にこの孤独を振り払うことはないと思っていた。なのに、彼は不格好にも自分の前に出てきたのだ。
「————言われるまでもないさ。俺は宮水青葉。どんな時でも、何があっても」
彼女の問いを笑いもせず、優しく受け止める青年。彼女の知る彼が今そこにいた。
「——————私は、私はサッカーが出来ているわ。でも、貴方は—————」
青年は今、どこで何をしていたのか。あの後、どんな時間を過ごしてきたのか。それが気になって仕方がなかった。
「——————どんな場所でも、ボールさえあればサッカーは出来るさ。うん、いつも見ているさ、颯がなでしこで活躍するのは。やっぱり颯は俺の好敵手で、師匠だった」
超然とした、堂々とした彼の立ち振る舞いは、もはや高校生という言い訳は通用しない。彼は高校生らしからぬオーラがあった。
それこそ、世界で名乗りを上げた彼のような実績がなければできないオーラだ。
「青葉—————ッ」
「——————俺は一度サッカー人生を駆け抜けた。そんな可能性の未来を生き抜いた」
時間を惜しむように、青葉は悲しげな笑みを浮かべ、颯に伝える。
「————うん。未来は変えられなかった。奇跡は起きなかった。俺が飛ばされた世界はそんな場所だった」
「—————っ」
息を呑む颯。青葉が生きた世界が容易に想像できた。彼が彼であるからこそ、逃れられない世界。当てのない彼に示された場所は、彼の望まない未来だった。
「—————そして、君がいない世界だった」
颯の因子は、あの組紐によって守られていた。あるいは縛られていた。ゆえに、青葉が放り込まれた世界には、彼女は存在しなかった。否、彼女の未来は既に閉ざされていた。
「——————ああ。本当に、若気の至りかな、これは。だが、俺の知る颯が、元気にサッカーをしているのだけは、よかった」
颯の頑張っている姿は、彼に数少ない希望を与えた。差し引きのプラスの面を見たのだと。彼は語る。
「—————だから、俺は奪いたくないんだよ。あいつから。俺が果たせなかった夢に、挑戦するチャンスを」
だからこそ、今度は青葉から奪うことは出来ない。彼はこれから道を歩いていく。枯れ果てた紅葉を糧に、新たな青葉が育っていくだろう。
「俺が後一歩、届かなかった夢に挑戦するチャンスを、そのままにしておきたい」
きっと彼は、その栄冠が見える場所までたどり着いたのだろう。それも複数。しかし、彼は世界の壁に最後の最後、阻まれ続けたのだろう。
「だからこそ、辛い言葉を君に伝えなくちゃいけない」
真剣な口調で、真摯な瞳で、青葉は語り掛ける。
「俺はもう、君の想いに応えることは出来ない」
「——————ほんと、男の子って、勝手よね」
ため息をつき、肩をすくめる颯。初恋の想いはここで終止符を打つ。青葉はもう駆け抜けたのだ。もはや、自分とは違う世界を生きている。
「—————すまない」
謝罪する青葉。だが、颯は青葉がサッカー人生を駆け抜けたと聞き、一つだけ気になることがあった。
「ところで、あんたはちゃんといい人見つけたの? 女の噂すらなかったアンタよ? 将来独り身は辛いわよ」
「—————やけにリアルなことを聞くな、颯は……ああ、まあ、うん」
目を逸らし、顔を赤くする青葉。何か恥ずかしいような、申し訳なさそうな顔をしている彼の表情を見て、颯はすぐに理解した。
「——————舞衣ちゃん」
「げっ!? なぜわかった!? ……あっ」
口は禍の元というのは本当のようだ。墓穴を掘った彼は苦笑いをしながら誤魔化そうとする。
どうやら、自分がいない世界を生き抜いた青葉の相手は、親友だったらしい。正直者の彼らしい言葉ではあるが、乾いた笑みが零れてしまう。
「よりによって舞衣ちゃんを、ねぇ……お師匠様の親友をめとった気分はどう、大バカ。まあ、あの子を孤独にさせなかったことだけは、褒めてあげるわ」
きっとあの世界には、美島奈々もいなかっただろう。自分がその世界の途中を見ているはずなのだから。
「いや、ほんとすいません。でも、惚れ直したというか、わんぱくさが消えた舞衣ちゃんは本当に魅力的で。いや、これは決して不義理というわけではな……しかし、本人を前にこれは……うん、すいませんでした」
言い訳が多い。サッカーでは潔いが、こういうところは本当に成長していない。
いつまでもこの件で責めるのも酷なので、手早く切り上げた颯。他に言うべきことがあるのだ。
「もういいわ。私も、こんなことよりも、もっと言わないといけないことがあるから。一度しか言わないからよく聞きなさい、ダメ男」
だんだんと言葉が鋭くなる颯。禁止フレーズギリギリの言葉でジャブを仕掛ける。
「ああ、全力で聞くとも————(聞かざるを得ない、これは俺の責務だ)」
このまま半端な気持ちを残すべきではない。今ここで決着をつける必要があるのだ。青葉は彼女の決意を受け止める覚悟を決めた。
「精々向こうの世界で、私の大親友に慰めてもらいなさい。私は私でいい人を見つけるから。だから、もう化けて出なくてもいいのよ。バカ弟子」
「ああ。どうやら俺は、君に振られたらしい。本当に、惜しいことをした」
苦笑いの青葉。心残りなく、これでもう、颯は心配いらない。名の知らぬウィングバックのタックルで得た奇跡。悪くはなかったと青葉は思う。
「ええ、そうよ。師匠に見向きもしなかったバカな弟子にはお似合いよ————だからあなたも、私のことで罪悪感なんて覚えなくていいんだからね」
彼女の言葉を聞き、青葉は笑う。もう大丈夫だと。彼女は過去を乗り越えられると。
「ああ。そうだな————これが最後だ、颯」
「俺を、後悔させてくれ。俺よりもお似合いの人を見つけて、いつかまた、人生を駆け抜けてから—————」
しかし、最後の言葉を言う前に青葉の口が止まる。どうしたものかと颯は首をかしげるが、
「——————ああ、俺だったんだな、あの人は」
いつものやや粗忽な物言い。まだ青二才が抜けきっていない、生意気な青年。そんな彼は、全ての流れを知ったのだ。
「—————そりゃぁ簡単に勝てないわけだ。未来の俺だったんだ。しかし、あくまで可能性。相手が俺の動きを知っているなら、別の動きを取り入れるまでだ」
ようやく攻略の糸口が見つかったと、合点がいく青葉。
「——————そりゃそうよ。彼はリオ五輪の銅メダリストで、得点王よ。今の貴方程度が戦える相手ではないわ」
何を言っているの?と颯は呆れた口調で言い放つ。どういう方法かは知らないが、このバカ弟子は青葉と夢の中で戦っていたらしい。そんなふざけた事実を前にして、颯は語る。
「そういうわけだから、青葉の想いにはこたえられないわ。私は青葉を振ったのだから」
自信満々に語る颯。もはや、後ろめたさを感じるような雰囲気ではない。そこだけは彼に感謝な青葉だったのではあるが、
「—————すっげぇ理不尽だけど、まあ、仕方ないかぁ」
苦笑いの青葉。こういう苦労を背負って、男は成長するのだろうと納得することにする。が、はっきり振られたことで、青葉の方も肩の荷が下りた感じではある。
「けど、末永く家族ぐるみの付き合いならいいかもね。互いに大事な人を見つけて、昔話するぐらいの」
「だな。こういう距離感が、今の俺たちにはあっているんだろうな。けど、そうじゃなかったら、颯がサッカーできていないってのもなんか頭にくるし。世の中上手くいかないなぁ、もう……」
「ふふふ、そうね」
なんだか恋人のような雰囲気の二人ではあるが、お互いに振られた状況であり、異性としての関係は終わっているのである。
「やっぱできてんのかな、あの二人」
「青葉さんの笑顔も自然だし、自然体だ」
「でもお似合いだよね」
周りは勘違いをしているようだが。
そんな超常現象なドリブラーと、なでしこのエースが和気あいあいとする姿を見ていた鷹匠は口を開いた。
「――――ああ。たぶん江ノ島が変わったのは、奴が要因の一つでもあるんだろ?」
何もかもお見通しだった。彼が目を付けた体格に優れた高瀬と、嗅覚を備える逢沢駆。
見込んだ以上の結果にはなったが。
「――――それは」
駆は迷った。ズルをしたつもりはない。しかし、もし青葉が鎌学にいたのなら、やはり彼らが成長したのだと悟っているのだ。
「まあそこらへんはいいさ。俺らが弱かった。だが、だからこそ言わせてもらう」
真剣な瞳で、鷹匠は江ノ島に願いを託すことになる。
「すぐに負けるなんてことは、許されねぇぞ。お前らは、神奈川を代表するチームなんだ。そして―――――」
「逢沢傑に認められた、疾風と騎士なんだからな」
それだけ言うと、鷹匠はその場を去っていったのだ。
すると、今度は国松と佐伯がやってきた。
「―――――負けちまった、か。本当に、強くなったんだな、駆」
「――――傑が相手だと思うような試合だったぜ」
「僕一人の力じゃないんです。青葉がいて、セブンがいて、色々と刺激を受けたから。だから頑張れた」
率直な意見を言う駆。みんなに支えられた全国行きだ。駆は謙遜していた。
「この試合ハットトリックで大暴れにしちゃあ、ずいぶんと大人しいなぁ、おい! まあ、それが駆らしいか」
「―――――ああ。それが駆だから、な」
試合では鬼のように強かった彼も、彼の性格は変わっていなかった。佐伯はその事実にほっとしていた。自分の知らない駆になっていたのでは、置いて行かれるのではと、無意識に感じていたからだ。
「祐介―――――」
「今日の試合の半分ほど、本当に、まるで傑さんと戦っていたみたいだった。俺は傑さんのプレーにあこがれて、そのドリブルだけでもと頑張ってきたつもりだった。」
「けど、ダメだな。もっと自分を出さないと。エゴを出せる、自分の色を出せる選手が強いって、今日知ってしまったしさ」
苦笑いの佐伯。そして、佐伯は今、最も知りたいことを彼に尋ねる。
「全国、いや……その先の代表を目指しているんだってな。本当かどうかは駆の口からききたいんだ。」
「目指しているよ。必ず2018年に間に合わせるって」
強い口調で、強い覚悟を口にする駆。それを聞いた佐伯は満足げに笑う。
「―――――今度は俺が駆に追いつく番だ。トロトロ走っていたら、今度は俺が追いついてしまうぞ」
「うん。僕だって負けないよ!!」
騎士見習いは王様の影を捉えた。確実に彼の頂に近づいている。しかし、彼は騎士を志す者である。
王様を超え、騎士見習いを卒業することこそ、彼の願望。彼の望む姿とは一体何なのだろうか。
そして、超常現象は彼の秘密を知った。そしていつまで続くか分からない暗黙の決闘が夜に待っている。
さらなる先へ、未知なる先へ。超常現象はこの試合を機に、日本サッカー協会の重要人物として、マークされることになる。
世代別代表の候補者として名を連ねる実力者を探す日本サッカー協会は勿論、プロのスカウトも人数は少ないものの、この試合にやってきていた。
リーグジャパンのとある東京のクラブのスカウトマンは、その試合を準々決勝に引き続き、見守っていた。
彼の所属するクラブは現在降格か残留の瀬戸際に瀕しており、今シーズンは勿論、来シーズンに向けての上積みも考える必要があった。
その為の爆発的な起爆剤。問題児として扱われている噂のサイドアタッカーを口説くことこそ、近道であると彼は確信していた。
「——————血が騒ぐ。本当に、いるんだなぁ、こういう選手ってのは」
世代別黄金期を支えたかつてのトリオの一角。
宮水青葉、逢沢傑、荒木竜一。黄金の二列目と謳われた最速の男。実力は錆び付くどころか、さらにスケールアップしていたのだ。
すでに、他クラブの動きも活発になるだろう。神奈川の王者、鎌学を蹂躙した活躍は、すでに記事となっている。
「——————笠野さんに連絡を取らなければ—————」
男はある決意をし、会場を後にする。彼はサテライト、ユースに甘んじるような男ではないと。
速報から映像を漁った各クラブの動きも活発になっていく。
「まさか彼が高校サッカーにいたとは……噂を聞かなかったが、こんな場所に」
「強豪クラブのユースを蹴ったとは聞いていたが……同年代、高校生では太刀打ちできないぞ、あれは」
「あの青二才、聞かん坊は高校サッカーにいたか。戦力としてみてくれといった、あの大バカの若造が、ここまでとは」
上位クラブのユースを断った青二才。常識では考えられない選択をした男。入団テストでは他を圧倒し、合格間違いなしといわれた彼は、首を縦に振らなかった。
トップチームに合流させてほしいという彼の願いは、傲慢と受け止められた。
青二才、ビッグマウス、うつけもの。トップチームで戦うことに固執していた彼は、彼らにとって厄介な存在でもあった。
「だが、逢沢の忘れ形見。ここまでとはな」
「オグフェイントの進化系。正統な後継者が現れたか」
そして強豪クラブの話題は、逢沢駆にも飛び火していく。現状聞き分けの悪いサイドアタッカーよりも、真面目そうな彼ならばとユース入りを狙う動きも出始めた。
「レフティモンスター。しかも運動量もある。江ノ島は人材の宝庫か」
「神奈川の連中に遅れを取るな。彼は日本一のサポーターを誇る我々にこそふさわしい」
「サイドも真ん中も出来る。運動量があり、パスの精度も上々。なんでもできるアタッカーは貴重だ」
そして激化する地元の獲得競争。
「地元横浜の星として、何としても彼を獲得するぞ。数年後の卒業までに、何とか入団と彼のポジションを考えよう!」
「湘南には与えられないな」
「説得には、うちの看板選手も同席させよう。マリナーズには負けんぞ。うちも横浜だ」
「どっちの横浜にもやらんぞ。彼のスタイルは湘南スタイルにフィットするだろう」
聞き分けのよさそうな駆に注目が集まりつつある獲得争い。一方、怪物に張られたレッテルは、有力なユースクラブを保有するクラブを敵に回していた。
江ノ島躍進を牽引する怪物、宮水青葉
彼は世間を理解しない愚者か。それとも時代の先駆けか………
傑「駆は立派になった。もう思い残すことがない・・・・」
初代青葉「伝えたいことは伝えた。お前らならできる。俺たちの代わりに」
傑「ああ。しかし感慨深いものだな。あの駆が、ここまで。本当に」
初代青葉「だな・・・・・そろそろここを出て行くか、王様」
王様「そうだな。これ以上俺たちが居座り続けるのもな。後の世代に任せるさ」
疾風「・・・・ああ。それがいい。じゃあな、王様」
王様「ああ。さよならだ、疾風」
———————————————————————————————————
以下、作者の思い付きを活動報告に記したことを報告します。気になる方はとりあえずのぞいてみてください。