騎士見習いの立志伝 ~超常の名乗り~ 作:傍観者改め、介入者
青葉君がだんだんと問題発言を・・・・
第二十一話 騎士の挑戦
その日、全国に衝撃的な報せが駆け巡った。
高校サッカー界では強豪校ひしめく激戦区と言われた神奈川予選で大波乱が起きた。
強豪葉陰学院を撃破した勢いそのままに、神奈川の王者鎌倉学館に大勝。しかも、数的不利を強いられての逆転勝利というのだから恐ろしい。
その劇的勝利の主役は、孤高のサイドアタッカー、宮水青葉。世代別代表で幾度となくチームを救ってきたエースストライカー。
そして、もう一人。前半からハードワークを惜しまず、ハットトリックと勝ち越しアシストを決めた伝説のトップ下の弟。
逢沢駆の名が全国に轟いたのだ。
他にも世代別代表で逢沢傑とコンビを組んでいた荒木竜一が中盤に座しており、近年稀にみるタレント揃いの布陣。
そして急成長を遂げる無名の一年生FWの存在も無視できない。
「―――――本当に、いるんだねぇ。どの世代にも。」
ベテランのスポーツカメラマンであった久保保は、若手のミーハーに誘われ、急遽神奈川予選準決勝の取材に同行することになっていた。
かつて名を轟かせたETUの7番や、現在の日本代表のエースさえも超える、強烈な風を呼び込む存在を目撃した。
試合の流れを一変させてしまう。文字通り勝利を呼び込む疾風そのもの。
「ですよね、先輩!! 僕も最近なでしこやアマチュアの方面にも行っているんですが、ここは未来の逸材がごろごろ転がっているんです!!」
久保の隣にいたのは、若手カメラマンの奥田健。
取材エリアにいる若手記者の岩崎信二とともに、広い方面でサッカー記事を共同で作るコンビのようなものだ。
岩崎は、小野寺颯に対してもインタビューをしている等、新進気鋭の若手スポーツ記者として存在感を出し始めている。
「見ましたか!? 高速シザースからの加速!! あれは凄いですよ!! 力と速さ、そのどちらも兼ね備えたドリブル!! 左足一閃!! 向かい風だった試合の流れをシュート一つで変えちゃったんですから!!」
シャッター押しっぱなしでしたよ、と笑う奥田。
「確かに、宮水選手が出てきて流れは変わった。だが、すでに風は変わり始めていたのさ」
久保は、後半に力をため込んでいた逢沢の存在にも注目していた。
いい意味で日本人らしくない。前半はそこそこの活躍をしつつ、足の止まってきた相手に対し、容赦のないドリブルフェイントを繰り出し、文字通り鎌倉学館の息の根を止めた。
そうなのだ。試合の流れを変えたのは宮水青葉だが、試合の勝敗を決定したのは
紛れもなく逢沢駆なのだ。
「でも、兄弟なんですよね。逢沢選手はあの逢沢傑選手の! まるで逢沢傑選手が出てきたかのようなプレーでしたよ」
そうだ。確かに彼の動きの質はレベルが違った。逢沢傑がまた現れたのかと思えるほどの。
しかし、彼らしからぬフェイントを繰り出した時点で、逢沢傑ではないのだ。
そこにいるのは、逢沢駆なのだから。
「―――もしかすると、兄を超える選手になるかもしれないな」
今後の日本サッカーを変える存在になるかもしれない。そして、その流れに上手く乗っているのが、彼ら二人が在籍している江ノ島高校の部員なのだろう。
――――レベルの高い選手と日常を共にする。これはとんでもないアドバンテージだ
考え方や姿勢を学べる。それだけで財産なのだ。
「でも、どうするんでしょうか。」
奥田は、ここまでの活躍をしてしまった二人について考えた。
「―――――卒業を待たず、プロ契約を結ぶかもしれない、か?」
奥田はわかっているのだ。もう高校サッカーで彼らを1対1で止められる選手がいないことを。高校レベルでは、彼らを止めきることは困難だということを。
「―――――正直、俺は満足せず上に行ってほしい。もっと上の舞台で、どんな活躍をするのかが見たい。」
記憶にも新しい2014年の惨敗。ブラジルワールドカップで日本はグループステージで一勝も出来ずに敗退した。
「だが、チーム選びも運だからな。逸材を腐らせるのも、逸材を伸ばせられるのも、チームしだいだ」
もう惨敗は嫌なのだ。日本サッカーは、変わらなければならない。
一方、記者の岩崎は取材エリアにて立役者二人が参加するインタビューに参加していた。
「今日の試合、前半開始早々は良い流れだったと思います。ただ、不用意な場所で相手にフリーキックを与えてしまった。チーム全体としてそこまで攻め込まれたことが問題です。」
ベンチにて戦況を見つめていた青葉はそんなことを言っていた。
「前半の動きの質が良くなかったと思います。もっとゴールに絡む動きを出せていれば、前半も追いつけた、と思います」
一方、鎌倉学館に引導を渡した逢沢駆は、前半の動きに付いて反省する場面も。
「ラストパスの瞬間について。あれはどの辺りから高瀬選手を確認できていたのですか?」
「フェイントで相手選手を、抜き去った時です。ファーサイド、相手の背後から抜け出してくる高瀬君がいたので。後は、パスするだけでした」
受け答えもサッカーならば冷静な駆。しかし、やはり緊張は隠しきれない。
「全国を決めました。今後に向けて注目度も増しますし、研究してくるチームも出てきます。意気込みについて一言お願いします」
「―――――やるからには頂点を目指す。それが僕の信条です。チームを勝利に導くプレーをし続けたいです」
「僕に求められているのは、やっぱりゴールだと思うので。たくさんゴールを決めたいです」
選手インタビュー。そして監督インタビューが終了し、翌日の決勝は両者総入れ替えの布陣が濃厚だ。
無論、負傷した荒木、疲労が蓄積しているであろう逢沢、宮水をベンチに下げる。レッドカードの織田も出場停止。
しかし、ここでCFWとSTという新戦術を取り入れた4-2-2-2が機能した江ノ島。
初スタメンの的場をSTに先発させ、CFWには高瀬。サイドに走力の高い選手を置き、パワープレーと中盤での崩しが融合した新スタイルで決勝戦も4対1で勝利。
得点ランキングは同率1位の逢沢、宮水に加え、3位には高瀬がランクイン。5位にも荒木が並び、江ノ島高校の層の厚さも証明できた。
しかし、準々決勝戦の後半終了間際の失点、鎌学の2失点。そして決勝戦でも終了間際の失点は課題として残る形となった。
準決勝勝利後の夕方。
「おめでとう、青葉。相変わらずね」
前節でハットトリックを決め、得点王争いを独走する小野寺颯に祝福の言葉を貰う青葉。
「――――そっちも相変わらずだね。井伊選手がいないと張り合いがない?」
井伊選手と激しくトップ争いをしていたが、その彼女がいなくなると阻むものがいなくなってしまったのだ。若干退屈している感じの颯。
「うん。青葉とマッチアップした時のほうが、歯ごたえはあるかな」
「―――――また泣かれるのは勘弁だよ」
遠い目をして、あらぬ方向を見つめる青葉。
「か、揶揄わないでよ! 私も大人になってきたし、そんなことはないわよ!」
そして大会終了後。
青葉と駆のもとにはちらほらとスカウトの影というものが忍び寄っていた。
「―――――卒業後に、スカウト、ですか?」
東京の名門、東京ビクトリーからのオファーを貰った青葉。世代別で活躍していたころから彼をマークしていたチームの一つで、現在はガラスのエース持田が在籍する強豪チームの一角。
その他日本代表選手も在籍しており、陰りが見え始めてはいるが、その名声は簡単に崩れない。
しっかりとした育成プランを考えており、ぜひ青葉を迎えたいとのことだった。つまり、トップチームとして彼を取るということではなかった。
「その、力を見せればトップ昇格は短期的に可能ですか?」
今すぐプロになれるのなら、青葉はプロになりたかった。
「無論その可能性はあるが、いきなりトップチームに参加させるわけにはいかん。体が出来ていない年代で無茶をさせるわけにはいかない。」
あくまで彼のことを考えての判断だった。才能ある逸材を酷使して、潰してきた悪例が日本にはある。
だからこそ、東京ビクトリーは青葉を大切にしたいと考えていた。将来は持田を超える存在になり得ると考えていたからこそ。
――――十分俺のことを考えてくれている。だけど、
結局、青葉はこの申し出を保留にしてしまう。
1年目から戦力としてみてほしい。その強い想いが青葉にはあった。
――――まだ戦力でないのなら、俺はそのチームに必要ない
育成を前提としたオファーは不本意なものだ。何が足りないのか、どこが伸びてほしいのか。自分で考えろとは言うが、相手の意見も欲しいのだ。
そして、その答えが15歳という年齢だという。
それは大きなハードルであり、技術面では問題がないというのだからどうしようもない。
―――確かに、15歳の若造を戦力としてみてくれるチームが、転がっているわけがないか
そんなチームが一部リーグにいるのか。
運よく二部リーグだろう。一部昇格と二部降格を繰り返すチーム。そして残留争いをするチーム。
決勝戦での戦いぶりを見ていた青葉は、蹴球以外にはあまり苦戦しないだろうと考えていた。高瀬が今後、前線からチームを引っ張っていくだろうと。
他にも青葉を欲しがるチームはいたが、彼の走力しか見ていない。さらに言えば、彼の戦術眼と走力を活かし、ボランチからの攻撃参加を画策するチームも。
――――君ほどの選手が、ただのサイドアタッカーであるのはちょっと
日本サッカーは近年稀に見る司令塔不足だ。先日の鎌学戦で見せた中央でのプレーが追い風になってしまったのだろう。
彼らは、青葉に司令塔としての役目を求めていた。
さらに、世代別代表の話も舞い込んできたが―――――――
「―――――お断りさせていただきます。」
短く、端的に、青葉はその招集を拒絶した。
「ほ、ほう。理由を聞いてもいいかな?」
電話の主は驚いている。今まで拒絶したことがなかった青葉がまさかこんなことを言うとはと編成もあせっていることだろう。
理由は、呼ばれる人数だった。
「どういうことですか。一体代表はいつからそんなバカげたことをするようになったのですか?」
110人ほど合宿に初日参加するということをぽろっと口に出した電話の主。どうやらサバイバル方式で選手を選別していくようだ。
それは全国から選手を選抜し、生き残れなかった選手は日帰りで帰らされることになる。
「―――――そんな方法でしか選手を見ることが出来ない。招集基準すら不明瞭な監督の下で、プレーはしたくないですね」
確かに総体予選と世代別代表入り。天秤にかけること自体が間違っている。しかし、これは代表チームが許されていい傲慢を超過している。
何より、しっかりとした戦術も不明瞭に思える。
「俺は、五輪代表とフル代表にしか興味はありませんと、監督に伝えておいてください」
日本サッカー協会としては、新たなスターダムとして彼に注目していた。こんな方式を使わずとも、彼は内定が決まっていたはずだった。
「その親善試合に、レオナルド・シルバクラスはいますか?」
青葉が拒絶の電話をした後、同じく大事を取って召集を見送ることになった荒木竜一。
後ろからのタックルで軽症とはいえ、痛めてしまったことは痛手だった。
青葉に関して言えば、フル出場できなかった試合でもある鎌学戦。原因は葉陰学院戦での悪質なファウルである。
強行出場できたから、青葉は問題ないとみていた首脳陣の予想を裏切るものだった。
ゆえに、
「―――――なるほど、奴はそういったのか」
監督の桜井は、荒木、宮水といった屈指の攻撃力を誇るタレントが来ないことを残念がる。
「中々骨のあるやつじゃないか。確かに、今回のスケジュールはタイトだし、勝敗にこだわるものではないが―――――」
惨敗した後も変わらぬ体制。しかしその体制も終わりを告げようとしている。今回の代表監督の人事権を持っていた協会トップが退任。後任の会長は、フランス人指揮官を招集。日本サッカー再生というスローガンを掲げている。
人事体制が錯綜し、かつてない混乱が協会を襲っている。その余波は順調だったはずの世代別にまで来ていたのだ。
「―――――まあ、順調に伸びれば来年はプロだろうしな。」
桜井は二人に肩入れするつもりはない。来ないのなら代わりを持ってくるだけだ。代表のエースの座を欲している奴らは他にもいる。
しかし、そんな野心溢れる選手たちを阻むものが、まだ江ノ島高校にはいた。
登録は攻撃的MF。しかし、ゴール前での動きはFWそのもの。視野も広く、パスセンスもどんどん磨かれるだろう。
逢沢傑の弟。逢沢駆。
「こっちは来ることになっているんだな?」
「ええ。宮水青葉にいい刺激を受けたのか、こちらはとんでもないですよ。私見ですが、ゴール前での怖さなら、弟のほうが勝っていますね」
「―――――ST、もしくはトップ下があっているかもしれないな」
シャドーストライカー。そして視野の広さを備えたアタッカー。驚異的なドリブルフェイント。
「圧巻だったのは、勝ち越しアシストを決めた時に見せたフェイントですね」
「ああ。オグフェイントの進化系。レフティモンスターの後継者がついに現れたか、と俺は思ったね」
日本の希望の一つが潰えたアトランタから18年。その希望は時を超えて蘇ろうとしている。
エリア内であそこまで軽やかに動ける。日本に足りなかった存在だった。
江ノ島高校から世代別代表として逢沢駆ただ一人が選ばれる。召集拒否の青葉、召集辞退の荒木は本選に参加することになる。
そして、青葉が闘志を燃やすレオナルド・シルバは言うと―――――
「なるほど。オレに召集、か」
彼はフル代表の招集を受けていた。
この総体で、青葉が熱望した戦いは実現しない。3回戦。後に、九州の強豪校との激戦の末、PK戦で敗退することになる蹴球。
レオナルド・シルバ不在という影は、蹴球に深刻なダメージを与えていたのだ。
悲報 江ノ島のエース、宮水。世代別の選手選考に不満を感じ、召集拒絶。
朗報 江ノ島のストライカー、逢沢駆。七光りじゃないかも?
なお、この選択によってアジア杯決勝で2006初戦以上の悪夢が確定する模様。