騎士見習いの立志伝 ~超常の名乗り~ 作:傍観者改め、介入者
このチームとエースを抑え込んだ広島と松本は、凄いな・・・・
その知らせを受けた時、逢沢駆は迷った。本選を間近に控えるチームを置いて、代表に合流するべきなのだろうかと。
しかし、長年の夢への道が開かれた瞬間でもある。ここで受けなければ自分は後悔する。
青葉は、世代別代表に興味がなさそうだった。かねてから彼は五輪代表とフル代表にしか目がいっていない。どうやら、今回の選考も彼の意向に著しくそぐわないものらしく、
「まあ、潰されないように気をつけろよ。」
という一言。
―――――ううん。僕には僕の、代表入りの道があるんだ
世代別で活躍している青葉は実績がある。しかし自分にはまだ何の実績もない。選んでくれるはずがない。
なら、代表で実績を作るしかない。
「セブン、青葉。チームに迷惑をかけるかもしれない。けど僕は自分の立ち位置を確かめたいんだ」
「―――――駆ならできる。不安なら、まず私たちが信じるからね」
セブンは、そんな彼の意思を尊重する。長年の夢への扉が開かれたのだ。なら、それを阻む意見など存在しない。
「大したことじゃないさ。総体本選の試合が、完勝から快勝に変わるだけだよ。」
そう言って、フッ、と笑う青葉。だが、
「蹴球にいるシルバがフル代表入りすると知っていれば、俺も召集を受けていたかもしれないがな」
苦笑いの青葉。目当てのシルバがいないのでは、江ノ島に初の栄冠を持ってくるぐらいしか理由がなくなる。
「こちらは気にするな、駆。お前は世代別から五輪代表にステップアップしないといけないからな」
まるで、駆が活躍すると知っているかのような物言い。まだ何もしていないのだが。
「―――――本当に、青葉はビッグマウスだよね」
そんな盟友の期待に、苦笑いをしてしまう駆。
「でも、活躍する、したいと思って代表に入らなきゃ、試合をする前から負けているよね。だから、僕は必ず点を奪ってみせる! 僕はストライカーだ」
こうして、江ノ島高校は怪我の功名ともいうべきか、荒木、宮水の両名の離脱もなく、本選に臨むことになる。確かに左翼の一角でもあった逢沢が消えたことはダメージだが、それでも各チームともに同世代の有望株が離脱しており、対抗馬はほとんど消えていた。
そして、優勝候補の蹴球もレオナルド・シルバが不在。
不完全燃焼の総体本選が始まる。
その前に、逢沢駆を書いた現状のメンバーが発表される。
「今回、本選の日程と同時期に駆君が世代別代表の強化試合の招集を受けました。得点王の彼が離脱するのは痛いですが、現状メンバーでも十分優勝を狙えると私は信じています」
岩城監督は駆抜きで戦うことで、得点力が落ちることを危惧していた。しかし、そんなことは言っていられない。
何しろ、自分は今年一番戦力的に恵まれている監督であると知っているからだ。
「駆君。合流前に一言、よろしくお願いします」
「―――えぇ!? えっと――――はいっ!!」
勢いよく立ち上がり、駆が壇上に上がる。
「今回。僕は本選に出ることができません。フル代表に入る夢への足掛かりと、このチームで本選優勝を果たすこと。最後まで悩みました」
冷静であろうとする声色だが、声が震えている駆。彼の中にあった葛藤は相当なものだろう。
「だから、代表で日の丸を背負う前に、江ノ島代表として頑張ります!!」
覚悟を決めた感がある駆。強い意志を感じる口調で、はきはきと言いたいこと、伝えたいことを伝え続ける。
「同じピッチで戦うわけじゃないけど、江ノ島の一員だってことは、絶対に忘れません! 本選優勝、その報せを待ってます!」
そして、何かとんでもないことを言ってのけた気がしないでもない駆だが、恥ずかしいことは言っていないと胸を張る。
「おお!! 駆の奴、スピーチも上手くなったじゃねぇか!!」
「なかなかいい決起だったぞ、逢沢」
「おうおう!! こっちはこっちで優勝しかねぇし!!」
兵藤、織田、八雲から声援を送られる駆。
「代表デビューでゴールとか決めてみろよ! ユース組に目にもの見せつけてやれ!!」
「ていうか、同じ高校サッカー組とかに格の違いを見せつけてやれ!!」
「はい!」
ヒートアップする一同と、さらなる士気の上昇に成功した江ノ島。駆の代表入りが刺激になったのか、熱気がとんでもないことになっている。
そして、駆抜きのメンバーには2年生の堀川が入ることになる。予選ではベンチ外だったが、ここに来て出番が回ってきた。
GK 1番 紅林
LSB12番 桜井
CB 4番 海王寺
CB 15番 不動
RSB 3番 八雲
CMF 6番 織田
CMF 2番 沢村
LMF 9番 火野
RMF 8番 宮水
OMF10番 荒木
FW 11番 工藤
ベンチ入り (GK)16番藤堂、19番李、(SB)17番中村(CB)14番錦織、5番 三上(MF)、7番 兵藤、18番 的場、20番 堀川(FW)13番 高瀬、
さらに、学校挙げてのお祝いムードまで。
祝 江ノ島高校サッカー部 全国大会出場!!
サッカー部の飛躍は、校内でも大きな話題となり、準決勝1点ビハインド、数的不利を強いられた状況からの大量得点は何度も語られた。
特に逢沢駆は代表入りというホットな話題もあり、逢沢傑と同じように黄色い声に晒されることになったが、セブンといることで平静を保つことに成功。
――――サッカー部の皆だけじゃない
こんなにも自分に期待をしてくれている人がいる。それが嬉しい。それが力になる。
決意新たに逢沢は神奈川の代表合宿の場所に向かうことになるのだが――――
「―――――――人、多すぎ――――――」
見渡す限り人で埋め尽くされているような錯覚に陥る駆。ここに青葉がいないことで少々不安に思う時もあったが、それとは別の恐怖だ。
―――――これ、本当にまともな基準はあるのかな――――
やる前から欝な感情に襲われる。
「あっ、日比野。そっちも代表に選ばれたんだ――――」
「ああ。呼ばれるとは思っていなかったがな。というより、今回はお前の話題で持ちきりだぞ」
湘南大付属から唯一選ばれた日比野。駆はまだ自分がただのルーキーという気分でここに来ているようなので、その間違った認識を改めさせるために周囲を見渡す。
「逢沢駆だぞ―――――」
「あの逢沢傑の―――――」
「神奈川予選得点王の――――」
ざわ、ざわざわ―――――
ライバルたちからすでに徹底マークを受けている駆。選考基準を聞いてから、より一層彼は周囲の同世代の選手たちに意識されているのだ。
「あ、あははは……僕、まだ代表で実績もないのに―――――」
引き攣った笑みを浮かべる駆。
「そうでもないぞ、駆」
そこへ、鎌学の佐伯が現れた。
「祐介!! そっちは祐介だけなの?」
鎌学の佐伯とも出会った駆。知人がいるだけで大分緊張が取れた。そんな感覚が彼にはあった。
――――うん、落ち着いた。これなら――――
「いや、世良さんも呼ばれているぞ。ま、今回はよろしくな」
「うん。祐介もね!」
桜井という監督は、15分間の実戦ミニゲームで30人を決めるらしい。
特に試合展開などを勝手にイメージしているらしいが、そんなことは関係ない。
――――僕たちは、一発で点を取ることを求められているんだ
なお、桜井は攻撃的MFとして彼を招集した模様。
早々と佐伯と日比野がミニゲームで結果を出す。
日比野がプレスからボールを奪い、佐伯がそのまま駆け上がって得点を奪う。攻守の切り替えの速さを認めてもらった二人はアピールに成功していた。
「―――――」
駆の番が来た。今回彼はセカンドトップに近いMFのポジション。真ん中でのプレーは鎌学戦以来だ。
相手ボールから始まるミニゲーム。今後の自分の運命を決める試練。
―――――サイドよりも情報量は多く、そして視野を広く―――――
ルックアップをしていなければ、プレーに置いて行かれる。だからこそ、駆は思う。
――――ここは、一番上手い人が居座るポジションなんだ
それは兄のような、荒木のような選手が―――――
――――ここには、強い選手が必要なんだ
そして、青葉のような存在が。
――――プレッシングで追い込んで――――
とにかく、サイドに追い込むことを簡単に決めた駆のチーム。距離感というのもなかなか難しい。
ボールを持たない時間帯のほうが頭を使う。そして、無駄にしてはいけないという集中力が増す。
――――そうだ。ボールを持っている時間は90分間で半分以下なんだ。
ボールを受け取れる、奪える態勢を準備する。そして、周りを見続ける。
自分の浅い知恵を使って、考えて走らないといけない。
背後から寄ってくる選手がいる。サイドから逆側への展開の布石。
駆の視線の先に味方の選手がプレスをかけている。が、振り切られる。
ちらりと、一瞬だけ駆は背後を見た。ゴール前真ん中は人数が揃っていた。ニアサイドもキーパーと連携してケアがされている。
――――なら僕は――――
駆は中に絞る動きを見せた。ゴール前のクロスを警戒する動き。振り切った選手がクロスを上げる。
その瞬間、駆は進行方向とは逆側の場所へと素早く方向転換。不意に加速した駆。相手選手の驚愕した表情。
ディフェンスラインが下げられ、中央にややスペースが空いていた局面。駆が退いたことで一瞬空いたスペース。そこを逆に、駆に狙われたのだ。
マイナス気味のクロスボールを待っていた相手選手が驚く。
――――やはり、こいつは逢沢傑の―――――ッ
誘い込んだ。狙い通りのプレー。難なくインターセプトした瞬間に周囲が湧いた。
しかし、
「調子に乗るなルーキー!!」
「ぐっ!?」
ここで後ろからのタックル。カウンターのチャンスだったが、ここをファウルで止められてしまう。
しかし、ディフェンスの判断は正しい。ここで彼を止めていなければ、前掛りになっていた自チームは致命傷を負っていただろう。
リスタート。
ボールは駆のチームにわたる。そこから駆は自分が予想以上にマークを受けていることを痛感する。
――――ダブルチーム!? そんなっ!?
一人がへばりつくようにマークをしており、もう一人が距離を置いて駆をマークしているのだ。全体のケアをしつつ、駆の抜けだしすら警戒する絶妙なポジション。
「駆っ!?」
代表入りが内定した佐伯は、駆のタフな局面に叫ぶ。今のところ及第点以上のプレーは見せている。しかし、ここで違いを見せられなければ危うい。
そして、相手は本気で駆を潰しにかかっている。
「くっ!」
ボールを受け取るも、前方斜め前の選手へのパスコースを遮られている。現在進行形でプレスも食らっている。
――――いや、パスコースはある!!
荒木は日頃何をしていた? 日頃どんなパスをしていた?
――――サッカーは、平面だけじゃない!!
苦し紛れのロングパス。そのように見えたが――――
「!?」
「おっ、まじか」
しかし、ここで相手選手はグランダー性のボールを警戒するあまり、一瞬だけマークしていた相手との距離が開く。それは致命傷だった。
完全に振り切られた相手チームと、駆のロングパス一本で決定機演出の自チーム。
勝負は一対一の局面だった。
「あぁ……」
思わずため息が出てしまった逢沢。もし受け手が自分なら決められた。と思わず考えてしまった。
ここで、まさかの枠外。一対一で決めきれなかった選手が、
「すまん、すまん! 次々!」
引き攣った笑みで駆に声をかけるが、駆はうなずくことしかできない。
――――15分間、途中出場のピッチ。緊迫の試合展開
集中力が足りない。
もっと集中しろ。
味方選手の動きと、相手選手の動きをルックアップしなければ、試合に消えてしまう。
味方選手がボールを奪う。体が触れた瞬間に相手選手は体勢を崩し、ボールをロスト。赤い長髪の選手が笑顔で駆にパスを送る。
「受け取れっ!」
強いパスが駆の足元ではなく、スペースへと走っていく。それに迫る相手選手の姿が前に見える。
先ほど、ファウルで駆を潰した選手だ。
――――今度は負けないっ!
この技で、彼を抜き去ってみせる。
――――何をする気だ、こいつっ!
目の前の選手は先ほどと同様に駆を止める気でいた。如何に騒がれようが、実力よりも知名度先行の選手にいい気にさせるわけにはいかない。
――――七光りが来る場所じゃねぇんだよ、ここはっ!!
左足がボールの横へ。そしてその瞬間に駆のファーストトラップ。そして右足の振り上げ。
――――そんなドリブルで俺を振り切れるわけねェだろ!
嘲笑すら浮かべた相手選手。駆はそれを冷静な視点で観察していた。
その違いだ。だからこそ、相手選手は駆の左足に気づかない。
「な、ぁぁぁ!?」
ここで、ボールが目の前から消えたのだ。衝撃的なトラップフェイントがさく裂する展開に、周囲の目が強くなる。
そして、ボールは駆のもとへ意思を持つかのように吸い寄せられていく。
―――――強いグランダーのパスじゃなきゃ、こうはいっていないよ
あの長髪の選手が強いボールを蹴ってくれたから、回転をかける必要もなかった。
ヴァニシング・ターン・プロト。ヴァニシング・ターンの雛型だった技。
この動きに、桜井監督も驚きを隠せない。
「あの技を知ってはいたが、ここまでとはな」
「あのディフェンスは良い動きをしていましたが――――失格でしょうか」
「ああ。例外はない。運が悪かったと諦めてもらう。」
そしてそのまま、バイタルエリアに侵入する駆。
「ヘイッ!!」
先ほどの失敗を取り返すべく、決定機を外した選手がボールを要求する。が、ブロックがやや厳しい。通せないことはないが、攻撃が遅れる恐れもあった。
「させるかぁ!!」
パスコースなど許さない、と言わんばかりにニアに走りこんでいる駆の味方選手を潰しにかかる相手選手。
――――もう、ここうで難しいフェイントはいらない。
抜き去る必要はない。シュートコースが開けばそれでいい。
右足のインサイドでフェイクを入れる駆。ややつられた相手選手が動きをかき乱されるもしっかりとブロックを作る。
――――ミドルレンジだろ! わかってんだよ、そんなことはなぁ!!
尚もドリブルで突進する駆。
前から相手ディフェンダーが突っ込む。その瞬間に右足の足裏でボールをトラップしてバッグ。
「うおっ!?」
そして素早く左足のヒールでボールを進行方向へと転がす。
ここでマルセイユ・ルーレット。ディフェンダーは駆のスピードに振り切られ、シュートコースがゴール前に空いた。
――――僕は、ストライカーだ
左足の一閃とともに、ゴールネットに突き刺さるボール。代表内定を決める決定的な一撃となった。
グッ、
小さく拳を作った駆。手ごたえがあった。今までで一番ルーレットの切れが良かった。だから余計なフェイントを次に入れる必要もなかった。
――――シンプルなフェイントで、ルーレットを使いこなせた!!
それが嬉しかった。
ミニゲームがすべて終了し、駆は30人のメンバーの中に入った。そのことを告げられて喜ぶ駆。
ではなかった。
「初選出だが、豪く落ち着いているな、逢沢」
「え、えっと。はい、嬉しいです」
あまりうれしそうではなかったのだ。確かにメンバーに残ったことは嬉しかったのだが、駆は手放しで喜んでいたわけではない。
――――ここからなんだ。ここから一歩ずつ
野望は果てない。むしろここからが本当の勝負なのだ。
「やったな、駆。とんでもないドリブルだったぜ。一瞬傑さんを連想しちまったよ」
「日比野……うん、ありがとう」
「ああ。あの崩し。パスフェイクのところはまだまだだったが、その前のロングパスもすごかったな。真ん中もやれてしまうんじゃないか?」
佐伯も、直近で彼のプレーを見ていたからそのすごさは知っている。だが、留まることを知らない駆の幅の広さは、どこまで行くのだろうと感じていた。
「荒木さんならどうするかなって、思ったんだ。パスコースは上にもあったんだって」
荒木の名前が出てきた瞬間に、鳩鉄砲を食らった顔になる佐伯だが、その後噴き出して笑う。
「本当に、お前にはいつも驚かされるよ―――――」
その後、日比野ら少ない初選出組は恒例行事に巻き込まれることになっていたが、
「あれ、監督がいないぞ」
長髪の選手――――島は、桜井監督がいないことに驚いた。
「なでしこの風呂じゃないのか、ぐすっ」
そして騙された日比野は悔し涙を流していた。
その頃、駆はマジックボードの陣形やフォーメーションで自分の予想されるポジションをイメージしつつ、数日後の対戦チームでもあるアメリカの映像をチェックしていた。
――――もし僕が左サイドなら、ここは――――
相手は同じく4-2-3-1の陣形。映像から見るに、フィジカルだけではなく、パスをつないでくるイメージが強い。
しかも、そのフィジカルを利用して足元に早いボールを選択するケースも多い。パワープレーになると、ロングボールが多くなる印象だ。そしてやはりフィジカルの強さはここでも活きている。
――――細かなタッチを前半からする必要はないと思う。
試合終盤、足が疲れてきてからドリブルを仕掛ける。自分の武器はスタミナなのだから。
真ん中に当てて、中盤で速いパスとスルーパスのタイミングが重要になると考えた。
――――あと、サイドに開いたほうが、スペースも空くかな
「当日まで日はあるが、今から相手の試合映像、そして陣形。勉強熱心だな」
そこへ、桜井監督が現れる。強化試合のことを考えていた駆の意識の高さに舌を巻いていた。
「ピリピリした集中力。いいねぇ。さすがは宮水青葉と両翼を形成しただけはある」
そしてその背後からは、鎌学の世良の姿も。
「へぇ、単に浮かれている連中じゃなさそうだな。」
不敵な笑みを浮かべ、駆を観察する世良。
「――――世良、さん。その――――」
色々と予選の時にハチャメチャなことをしてしまった相手だ。駆としては正直気まずいのが本音だ。
「僕もアメリカチームの映像は見たい。試合ではどこで出るかわからないけど、よろしく頼むよ」
「は、はい!!」
なんてことはない。彼も勉強熱心なだけだったのだ。
「あと、僕は君らのことはあまり好きではないけど、その実力は認めている。本番であがらないでよね」
「はい!! こちらこそ、よろしくお願いします!」
愚直な信条は、世界を変える。そして、それは自身の成長の糧となっていく。
世良と駆の邂逅は、後に五輪の最年少コンビとU-17のエースを爆誕させるきっかけとなる。
「後駆君、夜はあまり食べないほうがいいよ。朝に食べるのが一番いい」
「わ、わかりました!!」
その頃、本選出場を果たした江ノ島高校は―――――
『止まらない~~~!!! 3戦連発!! 宮水青葉が止まりません!!』
サイドから中央をぶち抜いて、単独で敵陣を崩壊させた青葉が観客のコールに右手を上げて応えていた。
3回戦の相手は四日市実業高校。怪物ゴールキーパー遠野がいないとはいえ、走れる選手をそろえた強豪チームである。
しかし、遠野が守っていないゴールなど脅威ではない。前半5分に速攻で得点を奪う青葉。
というより、江ノ島高校の総体での戦いぶりは、苛烈と言って差し支えなかった。
初戦の相手は強豪青森八州。激戦必至と言われていたが、蓋を開けてみれば青葉の2ゴール1アシスト、荒木の1ゴール1アシスト、高瀬、的場の初得点で圧倒。
ボール支配率70パーセント越えのサンドバック状態だったのだ。
特に、ドリブル成功率驚異の100パーセントをたたき出した青葉は、その噂に違わぬ疾走ぶりを見せつけ、一躍全国区に。
続く、2回戦では岡山の作郷高校を相手にハットトリック。荒木、高瀬の二戦連発に火野の得点等、攻撃陣が爆発してワンサイドゲームを展開。
スコアは8対0と岡山の強豪を完膚なきまでに蹂躙。この試合で荒木がハットトリックを達成し、得点ランキングで4得点と首位に付けていた青葉に次いで2位に。
そして三回戦の四日市実業戦では―――――
『海堂振り切られた!! 止まりません、宮水!! またしてもドリブル開始!! 何という足だ、速い速い!! もうバイタルエリアだ!!』
「くそっ!! なんて足をしてやがる!!」
何より厄介なのは、トラップの大きさを自在にコントロールして間合いを崩してくることだ。
――――あのスピードと、断続的なボールタッチ。
なぜその速度でコントロールを維持しているのかと。
海堂は今まで国内リーグ、アマチュアを含め、数多の試合を見てきた。
今目の前を走っている選手のタイプは、日本の試合では見たことがなかった。
「くそっ!! 止まれや、こらぁぁ!!」
「―――――」
横を切りながら並走する四日市のディフェンダー。青葉はここでトップスピードを維持しながら連続シザースで対応。
「ううっ、うおっ!?」
足ががたつく。足がもつれないのかと青葉を見ると、
青葉はバランスを崩すそぶりも見せない。ほぼ正確なボールタッチで連続シザースを行っていた。
――――くそっ、このまま縦を抉られては!
トンっ、
ここで、青葉が前にボールをプッシュ。さらに縦への突破を試みる。
――――縦を許せば追いつけねぇ。そのまま中に切り込まれるッ!
横を許せば即死コース。縦を許しても致命傷。青葉を止めるには――――
追いすがるディフェンダー相手に、またしてもシザースのフェイント。しかしこれは―――
右足の跨ぎの動作が入り、これは間違いなくシザース。しかしその瞬間右足の影にボールが隠れる。
―――――なにがッ!?
そして股から出てきたボールが左足のアウトサイドへ。一瞬だけボールを左足でトラップし――――――
その次のトラップの瞬間、その左足が一呼吸の内に閃いた―――――
「ッ!?」
一瞬だった。切り返しとともに青葉は横に突破していたのだ。
――――なんだ、今のフェイントは!?
有り得ない。ありえないことが起こってしまった。
一瞬、青葉を見失ってしまったのだ。縦への突破をほんの一時、警戒してしまったがゆえに。
『ああっと、躱された!! また四日市実業の選手が振り切られた!! 止まりません!!』
神速の如きシザース。そしてその前に仕込んでいた連続シザースとのコンボ技。彼は横も経ても関係なく、突破されてしまっていた。
「――――――」
パスをする気配のない青葉。否、パスをする必要もなく敵陣を切り裂けるからこそ、ドリブルという選択肢しかないのだ。
――――単純な緩急で、ここまで止められないとは!
単純な速さでは、四日市実業の歴代メンバーを入れても相手にならない。チーム一の俊足である
そして、ドリブルの速さは言うまでもない。
そう言った様々な局面での速さにおいて、レギュラーの当真、若宮すら凡庸と言わしめる存在。
宮水青葉がまたしてもゴールに迫り――――――
『突き刺したァァァ!!! 止まりません!! 前半だけで2得点!! エース宮水青葉! 四日市実業を圧倒!! 江ノ島4点目!!』
『ちょっと、まぁ……これは。高校サッカーで彼を止められる選手はなかなかいないですよ』
防ぐ手段を失っている四日市イレブン。もはや勝機は万に一つなく、大勢は決まっていた。
荒木、的場もゴールを叩き込み、四日市の息の根を止めにかかる。遠野というゴールキーパー不在というハンデはあるが、チームとしての完成度、強度では比較にならない江ノ島。
そして―――――
『試合終了~~~!!! 後半頭に宮水、荒木を下げた江ノ島! 6対1と盤石の試合運びで快勝!! ベスト4進出決定!!』
他を寄せ付けない圧倒的な攻撃力で、危なげなくベスト4に進出。大会前は最強のダークホースとまで言われていた存在だが、いつしか優勝候補筆頭とまで言われるようになる。
得点ランキングでは、荒木がまたしても青葉に肉薄。1点差の6得点で、得点王争いがし烈に。
「くっそぉぉ!! スイスイドリブルで行きやがって!」
「前向いたら、ゴールを狙っていいと思っているので。」
しかし、青葉は世界の舞台で躍動するであろう駆のことを考えていた。
――――やはり、召集を受けるべきだったかな
あまりにも温すぎる。寄せが甘い。簡単に振り切られてしまう相手選手。
そして試合の途中から視線を落とすしぐさが何度も見受けられた。
そして、試合終了後に弾けたような笑顔もなく、インタビューも淡々としている青葉を見ているのは、中継から彼の表情を観察していた桜井。
と、召集を受けていた選手たち。
「―――――まあ、奴がいればこんなものだろうな」
世良は、青葉が総体本選で暴れまわっているのを見ていたので、遠い目をしていた。
「――――つうか、うちのチーム思いっきり蹂躙されているじゃないかぁ!」
自分がいないとはいえ、あれほど簡単に突破し、四日市のディフェンスを物ともしない青葉の存在は恐ろしかった。
――――奴にボールが渡れば、何度でも決定機を作られるな
そして八千草高校のディフェンダー島亮介は、青葉のドリブルを止める具体的なイメージが出来なかった。
――――体勢を崩すとか、そんな次元じゃねぇな
迂闊に近づけば、吹き飛ばされる、というより
「おいおい。ぶつかった相手は倒れこんでいるのに、あいつは何でぴんぴんしているんだよ」
ファウルを食らったはずなのに、青葉は猛然と縦への突破を試み、ファウルで止めようとした相手選手が地面にたたきつけられるおかしな光景。
しかし、ファウルではないのでプレーは中断されない。その選手が倒れこんだまま、青葉のクロスボールに反応した的場がゴールを奪うまで、プレーは止められなかった。
「駆ちゃんは日頃から青葉君と練習をしているんだっけ?」
「え、は、はい。勝率もよくないですし、初見殺しのフェイントで勝った以外は、あまりないです」
「え? お前あれ相手にドリブル突破出来たの?」
あれ扱いされている青葉に苦笑する駆。確かにすごいが、彼も抜かれるときはある。
「え、でも青葉だって止められることはあると思いますよ。それに、僕のあれはあくまで意表を突いただけですし。でも、パスは何とか通せるようになってきましたね」
簡単に言うが、試合ではパスを遮断する運動量や読みの深さも見せている青葉。
一同は察した。化け物と日頃から一緒にいるせいで、感覚がマヒしているのだと。
「――――高瀬だって、そのフィジカルで強引に突破しようとしましたよ。体入れられて最後は崩されましたけど。でも、本当に惜しかったんです!」
「でも、最初のほうは青葉を吹き飛ばしていましたよ。ファウルでしたけど」
それから、そんな化け物と毎日マッチアップをし続けて、笑顔を失わない駆の図太さを存分に思い知ることになった代表メンバー。
さすがの桜井も
――――可哀そうに。感覚がマヒしてやがる
と、サッカー狂いとなっている駆にやや同情の目を向けるのだった。
「ついでですけど、青葉はセブン―――えっと、美島選手と小野寺選手ともマッチアップしてますよ、二人掛かりで」
「美少女二人に寄られるとか、糞羨ましいなぁ、おい!!」
誰かに憧れ、羨望で終わらない駆君の凄さ。
もし、青葉なら・・・・もし、荒木さんなら・・・・
生来持ち得る誰かを認める謙虚さと、自分に自信を持ち始めた彼は、まさにワンダーボーイ。