騎士見習いの立志伝 ~超常の名乗り~   作:傍観者改め、介入者

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gw10連休・・・・・

しかし、休み明けの仕事が死ねる・・・・・

ちょっと顔を出していいかな・・・職場に




選手権に向けて
第二十四話 見えない壁


U-16日本代表の強化試合が終わり、それぞれの所属チームに戻る選手たち。

 

やはり、ユース組の実力が目立つ結果とはなったが、その輝きを上回る存在が現れた。

 

 

逢沢駆という選手だ。彼は、彗星の如く高校サッカーで頭角を現したかと思えば、県予選で獅子奮迅の大活躍。

 

世代最速のサイドアタッカー、宮水青葉と両翼を担う神奈川屈指の選手。

 

 

「———————」

 

しかし、高校に戻ればバカ真面目な学生にすぎない駆。淡々と授業を受ける姿も最近様になっているような気がする。

 

日常では愛くるしい笑顔を見せるのに、サッカーをしているときはどこまでも冷静なプレーをしていると思えば、トリッキーな崩し方を演出する。

 

「——————なんだか、噂や評価が独り歩きしていると思うんだ」

困った笑みを浮かべる駆。昼休みは人込みを避けて、屋上で美島と食べるのが日課になりつつあった。

 

「うーん。駆の自己評価の低さは今に始まったことではないんだけど————でも、駆らしいと言えば駆らしいのかも」

奈々としては、選手として彼が成長するのは嬉しいのだが、黄色い視線が集中するようになるのは少し複雑な心境だった。

 

尤も、互いに想いを伝えあっているので、そうした不安は杞憂なのだが。

 

「僕は、セブンに認められるような選手になれたことが嬉しいし、もっと上手くなれる予感がするのが楽しいんだ。僕はまだまだ上に行ける。そう思うと、力が湧いてくる」

 

「駆————」

 

優しくて、気配りが出来て、真面目な彼の違い一面。草食系男子の皮を被ったロールキャベツ系男子の彼に、奈々はなんだか気恥かしかった。

 

 

一方、教室では

 

 

「ああ、今頃駆は美島さんと昼食かぁ、羨ましいぞ、駆~~!」

中塚がリア充に対して呪詛の念を放つが、どうしようもない。彼らはどうしようもなくお似合いの二人だからだ。

 

「まあまあ。二人がああなるのは時間の問題だったしね」

 

「確かに、本当にお似合いだ。」

的場と高瀬も同意する。というより、見ていてほほえましいのだ。

 

「————というか、幼馴染なら青葉と颯ちゃんのほうも進展在りそうだけどな」

 

横で先ほど発表された宿題をせっせと処理している青葉に声をかける高瀬。

 

「小野寺は、俺にとっての師匠であり、ライバルだよ。俺が繰り出すフェイントの全ては、彼女との勝負で覚えていったものだから。」

純粋にサッカー選手として彼女を評価している青葉。彼に問って彼女はサッカー黎明期からの恩師であり、ライバルなのだ。

 

「色気のいの字すらないのか。本当につまんないなぁ」

中塚の愚痴に苦笑いする青葉。

 

「そりゃあ、確かに可愛いけど、そういう目で見たことはないよ。なでしこの将来を背負っているし、今はやりたいことをやっているほうがいい。それに、お互い活躍しているといい刺激になるからね」

 

そう言って、青葉はスペイン語の教本を読み続ける。語学勉強をしている青葉だが、ついこの間はドイツ語の本を読んでいたはずだ。

 

「—————海外リーグの準備たぁ、やるな、青葉」

荒木は俺には無理だぜ、と苦笑いをしている。サッカー言語だけで可能ではあるし、通訳がいれば何とかなるのではないかと。

 

「しかし、自分でしゃべっていかないと話にはいれない。俺はそう言うのが嫌なんだよ」

 

英語、ドイツ語、スペイン語。なぜイタリアの言葉は勉強しないのかと聞くと、

 

「まあ、流行りだよね。レベルの高いリーグだと俺が思う場所はこの三カ国。特にプレミアで結果を出せば、日本にも俺にも利益がある」

 

プレミアで通用する最初のアタッカーになることを夢見るのだと。あの人が出来なかったことを。

 

————そう言えば、あの人は今、何をしているのだろう

 

デビュー戦で負傷し、そのまま引退に追い込まれたあの人は今、どこで何をしているのだろうかと。何かをして見せる、わくわくさせる何かを持っている彼は、サッカーを取り上げられて、何を生きがいに日々を過ごしているのだろうか。

 

 

青葉の抱いた考えは、結局最後までたどり着かず、その日のうちに霧散するのだった。

 

 

 

 

 

そして総体終了後、再開された都道府県リーグ。関東の強豪と言われた神奈川高校との招待試合に先発出場を果たした青葉は、試合その物を破壊しかねないプレーを見せつけた。

 

3年生が引退し、工藤、沢村らが抜けたとはいえ、下級生中心だったチーム編成の為、そこまでの影響がない江ノ島は、4-2-2-2を採用。

 

さらに、三上がフィジカルを活かしてセンターバックへコンバート。足元の技術を基盤に、ビルドアップを担うことに。

 

GK  1番 紅林

LSB 2番 桜井

CB  4番 海王寺

CB  5番 三上

RSB 3番 八雲

CMF 6番 織田

CMF12番 堀川

LMF 7番 逢沢

RMF 8番 宮水

FW 13番 火野

FW  9番 高瀬

 

ベンチ入り (GK)16番藤原、19番林葉、(DF)15番 園田、14番錦織、17番藤田、10番 荒木(MF)、11番 兵藤、18番 的場、(FW)、20番 夏目

 

 

試合開始直後、青葉の突破からチャンスが生まれる。

 

江ノ島のショートカウンターが起点となった。攻め込んだ相手は、右からの強烈な存在感を避ける形で左へと攻撃が集中していたが、

 

「あっ!」

 

中に絞ろうとした神奈川の選手が、織田のチェックの後に、背後からボールを刈り取る堀川の動きを視認できなかったのだ。

 

 

ボールハンターとしての能力に長けている堀川を中盤にコンバートした岩城は、パスセンスの光る荒木を先発する際のリスクを考えていた。

 

荒木の攻撃センスは確かにすごい。しかし、この布陣では守備力が心配になる。織田も運動量があるが、フォローできるほど動けるかというと、それはそれで難しい。

 

————だからこそ、必要だったのです。中盤の狩人が

 

パスコースを冷静に見切り、狩り所を見つけるのが上手い堀川にとって、中盤はハマった。センターバックという抜かれた瞬間に失点に直結しかねない場所から、一列上げることで、制約が減ったのだ。

 

俄然自由を取り戻した彼の動きはよくなり、江ノ島の武器の一つであるショートカウンターを加速する要因となる。

 

 

「堀川先輩!!」

 

「うしし!! 受け取れ!」

 

嬉しそうにしているのは、右サイドの逢沢。堀川の、奪ってからすぐの縦パスに反応していた彼が動き出す。しかも、逢沢の動きを見ていたかのような裏抜けのロングフィード。

 

「よし、あがれ!!」

 

中盤の底を堀川に任せ、3列目から二列目付近に飛び出す織田。前線のスペースを消さないよう、マイナス気味の位置を維持しながら、逢沢をサポートできる位置に走りこむ。

 

そしてその逢沢のクロスボールを待ち構えるべく、火野が空いて最終ラインからの抜けだしを意図する。

 

————来い、駆!

 

 

 

しかし、相手もバカではない。火野の抜けだしを警戒し、ギリギリの駆け引きを行っている。

 

「13番チェック! 抜け出し許すな!」

 

「9番にも一人付け!!」

 

クロスボールへのターゲットにしては、大きすぎるポイントマンが二人。それだけで相手の脅威になり得る。

 

————見えたッ

 

火野の抜けだしにより、スペースが一瞬空く。そこへ入れ替わるように入り込んだボックスストライカーの動きをする高瀬。

 

駆は迷わず、高瀬へのロングボールを選択する。高い弾道のクロスボール。高瀬専用に、彼にしか与えないクロスボール。

 

「っ!!」

 

相手からのプレスに対し、動じない高瀬。フィジカルが、天性の体の強さと、バスケットで鍛えた俊敏性。

 

それは、CFWとして申し分のない資質である。

 

簡単にポストプレーを行い、ボールを2秒間相手のバイタルエリアで保持する高瀬。

 

————このままっ

 

胸トラップからのボレーシュートを考えていたが、シュートコースは塞がれている。しかも振り向きざまのシュートはまだ精度が悪い。

 

 

シュートフェイントからのヒールバックパス。高瀬が選択したのは、アシストだ。

 

 

「いい落としだ、高瀬っ!!」

 

待ち構えていたのは、二列目に飛び出してきた織田。高瀬からのハーフボレーヒールパスを待っていたかのように、最高のポジショニングを実現する。

 

 

後はもう、押し込むだけだ。

 

 

ダイレクトボレーシュートがさく裂。キーパーは味方選手がブラインドとなり、反応が遅れてしまう。そして—————

 

「うおっ!?」

 

飛び込むものの、シュートには触ることが出来ず、先制を許してしまう神奈川。その様子をベンチで見ていた神奈川の監督は唖然とする。

 

「わずか2分足らずで、うちが失点だと?」

 

 

堀川からのプレスでボールを奪い、織田のミドルシュートまでの時間。それは、あっという間の出来事だった。

 

 

縦に早いサッカー、速攻と呼ばれるスタイル。日本が苦手としてきた攻撃を、江ノ島は体現して見せたのだ。

 

————あんなCFW。どうして今まで見つからなかった

 

両翼の逢沢と宮水だけではない。ボールハンターと化した堀川、ロングフィードと攻撃センスを誇る織田に加え、前線で圧倒的な存在感を放つCFWの存在。

 

 

江ノ島の大巨人。日本人離れした身体能力を誇り、空中戦では負け知らず。総体よりもかなり器用さを身につけ始め、いよいよ手が付けられなくなってきた。

 

 

尚も攻撃の手を緩めない江ノ島は、前からのプレスで織田がボールをカット。

 

「青葉ッ!」

 

織田が刈り取る瞬間を見ていた青葉がすでに動き出し始めていた。一気にサイドを駆け上がり、織田からの無茶なロングフィードが簡単に通るというおかしな現象を実演し、神奈川のディフェンスラインを突破。

 

ロングパス一本でゴール前に爆走するという離れ業により、神奈川は戻ることを強いられる。

 

 

————中だけは、絶対に————

 

ゴール前付近で何とか青葉に追いついたセンターバック二人が、青葉を止めにかかる。

 

彼は縦に行くのか、それとも中にカットインするのか。

 

 

ボディフェイント。青葉が繰り出すのは、簡単なフェイント。そして縦に行くと見せかけた偽りの動きであることは分かった。

 

しかし、相手が縦をあまりケアしていなかったことが青葉には簡単にバレてしまい、青葉は尚も突進する。進行方向は縦。

 

相手に思考させる時間を与えない。青葉の先手を打つドリブルにセンターバックはさらに下がることを強いられる。

 

これにはキーパーも警戒を強める。

 

————どこだ、肩口か、それとも上か?

 

狙う場所は限られている。シュートコースは限定され、止められると確信できる。

 

 

 

だがこれは何だ?

 

その10秒後にシュートコースを見つけたと思われる彼に、ゴールネットを揺らされてしまったのは、どういうことだ。

 

「なっ? ばか、な—————」

 

「二人、いたんだぞ。なのに————」

 

形は悪いが、二人いたのだ。なのに———————

 

 

青葉はここで縦に切り込んだ直後にダブルタッチを選択。縦に切り込んだ彼を視認していた二人は、あまりのフェイントの鋭さに一瞬彼を見失う。

 

だが、縦からの横を警戒していた二人はすぐにブロックを作り、シュートコースを塞いだ。

 

そして、青葉もブロックを作られた瞬間に止まる。その鋭さを捨て、相手に自分を視認させたのだ。

 

中へのカットインを防ぎ、後は刈り取るだけだったセンターバックの油断を、彼は見逃さなかったのだ。

 

なんてことはない。ニアサイドのセンターバックが切り返しを警戒し、ファーサイドのセンターバックは穴を塞ぐようにニアに少し寄る。

 

その動きを見ていたキーパーは、手薄になったファーサイドをケアする。

 

 

完璧な布陣だった。しかし、全ての時間で完ぺきではなかった。

 

 

ダブルタッチからの真横へのボールプッシュ、からのバック、そして横への逆エラシコ。

 

逆エラシコの発動タイミングで、センターバックの間位にわずかな穴が見つかったのだ。そして、それを見逃すほど愚鈍ではない青葉は、一瞬だけ無防備と化したニアサイドに正確なグランダーのシュートを流し込めばいいだけだったのだ。

 

完璧な布陣を真正面からたたき壊す、理不尽な攻撃センスと、それに基づく攻め方。

 

神奈川の選手は悟る。

 

—————宮水青葉は止められない。

 

 

ここからはもう、前半は一方的な蹂躙だった。相手はディフェンスラインを上げることも出来ず、織田、高瀬、青葉にミドルシュートをつるべ打ちされ、こぼれ球に詰めていた火野が押し込んで3点目。

 

速攻も、遅攻も自在に選択可能。江ノ島の統率の取れた攻撃に為す術のない神奈川は、前半で4点のビハインドを背負うことになる。

 

 

「—————交代ですか。わかりました」

 

「僕もですか?」

共に1ゴールずつ奪った両翼が前半だけでベンチに下がることに。青葉からのクロスボールに合わせた駆の得点パターンが今日もハマり、終了間際に得点したのだ。

 

さらには、

 

「俺もですか。まだまだスタミナはありますよ」

1ゴール1アシストの高瀬も後半途中に交代し、20番の夏目が入ることに。夏目は脚力を持った裏抜けが得意な選手だ。スーパーサブとしての起用がこれから増えていくだろうとのことだ。

 

 

結局、夏目の対外試合初ゴール、今日2点目となる織田のゴール、的場のアシストに合わせた火野の2点目も重なり、江ノ島高校が今日も力を見せつけた。

 

サッカーのスコアではない。7対1は普通に有り得ないだろうと、神奈川の面々は語る。

 

「つ、強いですねぇ。総体チャンプはさすがですね」

 

悔しさをあらわにするが、招待してくれた江ノ島に無礼なことはできない。ショックを受けている選手はいるが、意外とおとなしかった。

 

神奈川の監督は、江ノ島の強さをこう分析する。

 

—————サッカーIQが高すぎる。そして、恵まれたフィジカルとゴールまでを逆算できる回転の速さ

 

どれもこれもうちにはないものだと、苦笑せざるを得ない。

 

 

続くリーグ戦でも関東の強豪チームが江ノ島のホームにやってきたが、逢沢と青葉、高瀬という攻撃の要をあえて外した布陣でも惨敗を喫してしまう。

 

4-2-3-1のトップ下に荒木、ワントップは火野、右サイド的場、左サイド兵藤という布陣でも、後半のスーパーサブの夏目が威力を発揮。前半のうちに2得点。

 

劇的に変わったのは、中盤の強度だ。堀川がボールハンターとして中盤で敵の攻撃を潰すので、ボール支配率が自然と高くなり、チャンスが増えていく。そして攻守両面でバランスのいい織田が上手く手綱を握り、前線の選手を動かす役目になっていた。

 

結局、群馬の強豪チームも攻略法を見いだせず、4対0で江ノ島に屈した。オンリーワンのタレントがいるだけではない。

 

走る、周りを見る、スペースを見つける。基礎的な動きがしみ込んでいる江ノ島サッカーは、攻撃と守備の強度が違うのだ。

 

しっかりと状況を確認するからこそ、正確性が上がる。動き続けることで、スペースに巡り合う確率も高くなる。すなわち、プレッシャーの少ない場所を見つける意思が植え付けられる。

 

後は、その確実性をバックに動くだけ。強度を増したプレーは中途半端なプレーでは止められない。

 

基礎練習、体力づくり、体づくり。如何に走れる体を作れるか。当たり負けしない、空中戦に強いというのは二の次だ。

 

全ては走ること。走り抜く力を身につけることだ。

 

 

「ぜぇ、ぜぇ。これが連戦だとマジでやばいって」

しかし、荒木はいまだに息が荒い。体力は全盛期を超えてきたが、まだまだ基準値には程遠い。

 

「情けないな。連戦ではないだけましだろうに」

織田が涼しい顔で荒木にスポーツドリンクを手渡す。横には涼しい顔の堀川もいた。

 

「どうしてお前らは平気なんだよ。」

 

特に堀川はボールを狩りまくっていたのだ。

 

「うしし。計算して動いたら節約できるもんね」

コツが必要なのさ、と不敵に笑う堀川。

 

 

総体優勝に続き、選手権制覇を目指す江ノ島に隙は見えなかった。

 

岩城監督が目指す走るサッカー。現代サッカーは体力がなければ務まらない。

 

「下手糞でもいいんです。ゴールをどうすれば奪えるのか、前線だけではないです。守備陣もどうすれば攻撃陣が攻めやすくなれるかを考えてほしいのです」

 

「どうすれば失点は防げるのか。攻撃陣は常にファーストディフェンダーの意識を持ってください。嵌めればショートカウンター。高い位置なら攻撃の強度が増します。」

 

彼の要求は高い。しかし、逆算したプレーでのミスは叱責しない。なぜ間違えたのか、どうすればよかったのか。

 

彼は、気の抜いたプレー以外は決して怒らない。そして今の選手はそれを理解していた。チャレンジした結果の失敗なら、彼は咎めない。しっかりとした考えを持っているなら、コミュニケーションを取るべきなのだ。

 

 

「ボールに触っていくと、自然と上手くなります。泥臭くてもいいじゃないですか」

 

走るべき時に走る選手は、好きですよ、と。

 

爆発的な勢いを増す江ノ島高校。今、日本のアマチュアサッカーが彼らに注目している。

 

それは惨敗で下降気味だった日本にとっての光明。進むべき道を指し示したかのような希望の光。

 

————燻っていたものが、消えてしまいましたね

 

ボールを追いかける選手たちを見て、岩城は笑う。今日の快勝の後でも、ミーティングで課題を出し合う姿は、とても頼もしい。

 

————もっとサッカーをしたかった。選手として、私はそうしたかったかもしれません

 

だから未練がましく大学サッカーにしがみついた。今も体を鍛えていた。どれほど確率の小さいチャンスでも、必ず来ると信じて。

 

————私は、その夢を継ぐ選手を、育てていきたい

 

しかし今、自分の夢を託せる選手が出てきた。こんなにもたくさん出てきてくれた。

 

総体でベンチ外だった堀川が特にそうだ。彼はどうすれば試合に出られるのかを考え、中盤というポジションで勝負に出た。結果は御覧の通りだ。今ではチーム一のハンターと化している。彼のボール奪取能力は、高校サッカーでは突き抜けている。CBという枷を外され、中盤を走り回るハンターだ。

 

 

そして、高瀬はまるで原石だ。どんどん磨かれていく。どんなストライカーになるのかと、ある意味一番期待をしている。

 

そして、荒木すら上回る攻守の存在感を誇る織田。彼は江ノ島の心臓と言っていい。スペースに走りこむ両翼がいるからこそ、彼のロングフィードは活きる。

 

 

他にもたくさんの選手が成長を続けている。3年生たちが引退し、少し不安を覚えていた岩城だったが、杞憂に終わりそうだと思った。

 

油断はしない。しかし、彼らは強いと断ずることが出来る。

 

 

彗星のごとく現れた無敵艦隊は、選手権でどんな偉業を見せるのか。

 

 

しかし、青葉にはスターダムを駆け上がる上での試練が待ち構えていた。

 

 

練習終了後から、本校の生徒以外の学生の姿や、ギャラリーも増え、練習中に意味のない奇声を上げるファンが増えている気がしてならない青葉。

 

「——————俺、奥に下がったほうがいいですか?」

 

「そうですね。私は貴方を奥に引っ込めて、練習時間が限られることは嫌ですが、周りの環境がこれではね。すみません、青葉君」

 

岩城監督に志願してトレーニングルームに引っ込むことを意見する青葉。大したイベントもないのに地元以外ではない報道局。根も葉もない入団のうわさ、有名クラブのユースへの推薦の噂等、江ノ島の練習環境に影響を与えかねない事態に陥っていた。

 

 

「青葉君を見せてよ~~!!」

 

「ずっと待っているんだよ!」

 

「応援しているぞ~~!」

 

「うちのチームを救ってくれ~~!!」

 

明らかに他県からの追っかけと言える面々。彼の表面上の活躍しか見えていないし、そもそも彼の素顔に迫るのも難しいのだが。それでも彼らはあきらめが悪く、江ノ島の練習場所の周囲に出現し続ける。

 

「出てきてくれ、選手権に向けて今後の一言を!」

 

「最近噂のドイツ一部リーグからの入団の経緯は!?」

 

「高卒後に海外挑戦の経緯を詳しく!!」

 

「バイエルンからの練習参加は本当ですか!?」

 

「バルサからのスカウトが江ノ島を訪れた事実は!?」

 

 

そして無数のフラッシュライト。練習を切り上げ、この場を離れようとする青葉に対し、憶測の記事を鵜呑みにした記者からの質問が飛び交う。

 

 

 

「————だ、だめだ。俺たちは帰るぞ。この雰囲気はやばい」

 

「くっ、地元の横浜を救ってくれ。宮水選手」

 

「それは湘南も思いは一緒だが————これはやばい。俺らも帰るぞ」

 

中には、悲壮な決意で、贔屓のチームの力になってほしいと懇願する者もいた。しかし、彼らは過熱する雰囲気に恐怖し、早々に逃げ去っていく。これは過熱するスタジアムで悪い方向に向かう空気だ。

 

尋常ではない空気が流れる中、青葉は彼らに視線を合わせず、奥へと姿を消す。

 

 

二枚目で、近年起きた彗星落着騒動で地元を失った過去を持つ、日本屈指のサイドアタッカーにしてドリブラー。そのドラマティックなエピソードと、多くを語らないミステリアスな雰囲気が、人気の火に油を注いでいた。

 

 

そして、彼らに対して無視を決め込む青葉を尻目に、駆は一言くらい声をかけるべきなのだろうと安易に考えてしまった。

 

—————みんなの練習の邪魔になるし、何かしないと

 

 

金網フェンスに近づいた時だった。網の穴から腕を掴まれたのだ。あまりの力強さに、思わず悲鳴を上げる駆。

 

「いたた、いたいっ!?」

何とか腕を振り払おうとする駆だが、複数の手が伸び、身動きが取れない。それどころか、さらに腕の数が増えてきていることに、恐怖を露にする。

 

「可愛い~~!!」

 

「女の子みたい!」

 

周囲で写真のシャッターが切られる音がしたが、駆はそれどころではない。必死な表情で腕を振りほどく健気な姿を見せてしまい、過激な方々の心に火をつける。

 

「や、やめて!! やめてよ!!」

 

駆が危険な目に遭っているのをトレーニングルームの窓から目撃した青葉は、彼よりも早く行動に移る岩城監督と近藤顧問が見えた。

 

「何をしている!! 早く手をはなしなさい!!」

 

「駆君!? 早くそこから離れて!!」

 

「か、監督!! 近藤先生!!」

救いの手がやってきたことに安堵する駆。しかし、腕には強く握られたせいで痣が生まれていた。

 

————な、なんで!? 兄ちゃんの時はこんなこと、一度も————

 

兄は自分よりも人気のある選手だった。しかし、目の前で起きているようなことは起きなかった。

 

混乱する駆の前に現れたのは、中塚と的場。そして、新主将の織田。

 

「大丈夫か逢沢!? 早くこっちに!!」

 

「駆!? おいおい、あざが出来てるじゃねぇか!!」

 

「駆君!? ダメだよ、あそこに近づいちゃ!!」

 

心配されることで、ようやく自分が安全地帯に逃げ込めたことで震えが止まった駆。そこへ

 

 

 

「暴力行為なら警察呼ぶぞ、クズども!!!」

 

眼に明らかな怒りをため込んでいる青葉の姿があった。そして彼の罵倒は続く。

 

「こんなイベントのない日に湧いて出てくるな。二度とその面を見たくない。どうした、速く散れよ。本当に警察呼ぶぞ、ゴラァ?」

 

カメラを片手にスマートフォンの画面に入力する面々に視線を移す青葉。

 

「後、憶測で記事を書く蛆虫ども! 興味ないんだよ、お前らなんかに。別に、俺はアンタらの為にボール蹴ってるわけじゃないんだよ」

 

再度警察を呼ぶという脅しをかけ、「もう二度と来るな」と声を荒げる。あたりが閑散とする中、岩城監督と近藤顧問に許可を取ってこの日に訪問している世代別の日本代表スタッフは、青葉と駆を見て、酷く同情的な視線を送る。

 

「しかし、災難だったね、逢沢君。後が残らないよう、後で治療を受けるべきだ」

 

「え、ええ。こんなことでケガをするかもしれないことが、こんなにも怖いなんて」

思い出したのか、震えがぶり返す駆。そっと織田が「大丈夫だ」と声をかけるが、やはりあの恐怖はなかなか忘れることが出来ない。

 

「その通りだ。逢沢君には伸びてくれないと困るし、こんなことでケガをされてほしくもない。今後はああいうミーハーには注意するんだ」

 

駆に対して注意事項を伝えるスタッフ。ある意味駆は兄以上の人気を既に持っている。青葉に負けないドラマティックなエピソード満載な彼は、ゴシップにおもちゃには最適ともいえる。

 

「後、宮水君。君の一喝でこの場は事なきを得たが、その後は言い過ぎだ。どんなことを書かれるか、分かったものではない」

 

期待の若手は、凶暴な一面がある。長らく世代別から遠ざかっている理由を、都合のいい言葉で偽られるかもしれない。

 

そして、塩対応の青葉は、ミーハーな記者、報道局にはひどく嫌われているという事実が気がかりなのだ。

 

「三流ゴシップやミーハーな記者の言葉なんて、何一つ響かないんで。それを信じた馬鹿どももね。心配しなくても、俺は代表に入る努力を怠りませんよ。あんな奴らに潰されるのは、俺のプライドが許さない」

怖いもの知らずな言葉を吐く青葉。言葉は荒いが、先ほどの殺意に満ちた雰囲気はなく、親しい者に離す態度に切り替わっていた。

 

「君は報道の力というものに気を付けたほうがいい。あれは災害レベルだ。個人の力でどうにかできるものではない。一度火が付けば、火消しも大変になる」

 

あのうさん臭い奴らだけではなく、にわかだって湧く、とスタッフは忠告する。

 

「—————分かりました。以後気を付けます。が、仲間を傷つけられて、俺は黙っているほど甘くはないですから」

 

「あ、ああ」

 

 

 

その数日後、宮水青葉はマスコミ嫌い、ミーハー嫌いというレッテルを張られることになる。

 

 

曰く、練習を見守るファンに罵倒を繰り返す。

 

曰く、報道陣に対し「ウジ虫」と言い放つ。

 

曰く、宮水青葉は人格を否定するような言葉を使う傾向にある。

 

曰く、曰く———————————————

 

いつの間にか、駆とは険悪な間柄にということになり、あの痣も喧嘩の時に生まれたという三流記事も出回った。

 

 

しかし、痣の原因は追っかけに掴まれたことがその日のことが日本代表スタッフの証言から出回り、江ノ島は謂れのない風評被害を回避した。

 

ソースが日本サッカー協会の公式回答ということでその件は信じられたが、駆と青葉を煽るような記事が後を絶たない。

 

まるで二人を対立させたいかのような記事が出回り、それを読みたい人も後を絶たない。

 

 

選手権制覇で勢いに乗りたい江ノ島に起き始めた、今回の騒動。彼らは皆、水を差された気持ちになる。学校内の空気は駆を心配する声と、青葉の味方をする声で統一されていたが、

 

一部マスコミの間では、青葉に対する人格の攻撃が、始まってしまうのだった。

 




まあ、彼に非がないわけではないですからね。

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