騎士見習いの立志伝 ~超常の名乗り~ 作:傍観者改め、介入者
??「あくまで選手として! 選手としてなの!!」
後、令和記念なので連続投稿しますね
練習裏に駆けつける追っかけの騒動から日が経ち、駆も大分落ち着きを取り戻し、江ノ島の空気も元通りとはいかないが、通常へと戻っていく。
総体優勝を決めた江ノ島高校は、選手権に向け、青葉はスペシャルメニューを敢行することに。どうやら、昔からある青葉特製のランメニューをするためだとか。
青葉が全体練習から抜けたことにより、一時部の雰囲気に衝撃が走ったが、練習試合には戻ってくるらしい。
駆と高瀬、的場ら一年生組と副キャプテンの織田は、出発前の青葉と会話をしていた。
「俺もいきたいが、メニューを聞いただけで震えが止まらん」
山岳地帯をドリブルしながら駆け巡る、という劣悪以外の何物でもないメニュー。ひたすらにそれだけを繰り返すサドンデスメニュー。休憩は自己責任。
「うん。あの山を走り切るだけでも一苦労なのに、ドリブルで日が暮れるまでって」
的場も軽く引いている。そこまでのサッカーフリークではないので、この反応はまともなのだ。
「真似できたらいいなぁ」
しかし、狂気に犯された選手が約一名存在する。目を輝かせながら、やってみたいとのたまったのだ。
元気を取り戻している逢沢だが、部内でも校内でもあの騒動は禁句であり、地雷でもある。迂闊にもクラスメイトが、心配すると、その時の恐怖を思い出した駆が目に涙を浮かべる等、尋常ではない雰囲気が出来てしまったのだ。
女子生徒は、駆に母性本能を刺激され、追っかけどもに対し、憤怒を溜める。そして青葉と共にその件で意気投合することに。その後女生徒の伝手で、恐怖の表情を浮かべる駆の姿がで回っていたことに激怒。
特定厨に依頼した女性生徒の友人より、数日後に写真をアップした根源を特定した模様。やはり持つべきものはクラスメイトであると、青葉は悟る。
しかし、トラウマを克服するために、空元気でもいいので駆は練習に今以上に打ち込むことになり、ついに練習の鬼と化してしまったのだ。
「逢沢ぁ!! 正気を取り戻せ!!」
織田が肩を掴んでゆする。夢心地のような表情を見せているのは逢沢駆。青葉に対して憧れを抱く彼は、自分もそのメニューをやってみたいというのだ。
同じ山でランニングメニューをこなす全員とは別に、青葉はその山の中でドリブルをするのだ。正気ではないというのが一般人の感覚だろう。
そしてクロスボールはターゲット当て連続10回成功でクリア。連続記録が途切れた場合、やり直しという鬼畜過ぎるシチュエーション。
しかも、ニアサイド、ファーサイド、真ん中とコースに合わせてそれぞれ10回だというのだから恐ろしい。
そしてメインディッシュに、ランダム連続10回ターゲット当てクロス練習という鬼畜難易度の練習をすることに。
なお、相手は—————————
「え、えぇぇ。クロス上げの相手は私、ですかぁぁ!?」
マッチアップに選ばれたのは、美島奈々だ。やはりプレッシャーがないと歯ごたえがないと青葉が主張した際、
「いいでしょう。美島さんにマッチアップしていただきます。青葉君、いいですね?」
現なでしこのエースが、ただでさえ難しいクロスボール当てのメニューのプレッシャー役になるのだ。
地獄の様な練習を前に、青葉はウキウキしていた。一方、ただ邪魔するだけでいいはずの美島は顔を青くしていた。
「——————私、体力持つのかなぁ」
不安に思う美島。しかし、
「大丈夫です。美島さんが動けなくなれば、私が相手をしますから」
美島が力尽きた場合、どうやら監督が相手をすることになるという。
「いいんですか、監督? 簡単に上げてしまいますよ」
挑戦的な目で生意気な発言をする青葉。岩城の実力は知っているくせに、あえての発言。
「いいでしょう、その負けん気、どこまで持つか見せてもらいましょう」
他の部員は思う。別メニューで青葉のことを羨ましいと思った者はその考えを改めることになる。
————かなり実戦的で、かなりハードなメニューじゃねぇか
もしかすれば、監督まで青葉の狂気に取り込まれていたら、同じメニューを課していたのではないかと。もちろんそんなことはないのだが、
しかし最終的に本来ならノープレッシャーでのシュート練習だったものが、プレッシャー有でのシュート練習に切り替わり、ランメニューでバテバテになった一同を襲うことになる。
「ぜぇ、ぜぇ。ぜぇ……し、死ぬ。死んじまう」
「弱音を、吐くなぁ……荒木」
息の荒い荒木と織田。その後ろにはかなり疲労している選手の面々。
「うん。青葉に比べたら、僕たちはまだまだ!」
そして、一人元気そうなのが駆。青葉との自主練習に参加しているが、体力に関しては元から自信を持っていたのだ。
高瀬とは違うのだよ、高瀬とは。
「くっ、逢沢の奴、余裕そうだ。俺もまだまだか」
負けん気を見せる高瀬。駆がまだまだ余力がありそうなのを見て、自分ももっと体力をつけなければと意気込んでいた。
「正直、あの二人についていこうとする高瀬君がすごいよ」
的場も、タフな精神を持つ高瀬に対し、賞賛の声をあげるが、
「俺なんてまだまだだ。だが、あいつ等についていけばプロの道が開ける。それだけはわかる」
高瀬に慢心はない。あの二人についていけば、自分もプロになれる。その未来が彼を強くしていたのだ。
「ふむ。フィジカル強化は俺にとっても課題だ。ならば、やり遂げる意義は、大いにある」
高瀬が鼻息を荒くするのもわかる。織田は、自分も上のレベルでサッカーをするために、フィジカルの強化は必要だと感じていた。
—————90分間を走り、連戦に耐えうるフィジカル。これがプロには必要だ。
いくら足元が上手くても、90分戦えない選手はスタメンでは使えない。
————俺にも届くのか、その未来が
織田もまた、一人闘志を秘めていた。
一方、別メニューで美島奈々とのマッチアップをしている青葉。
なお、彼は30キロの不規則方向への山岳ドリブルメニューをこなした後である。
「な、なんでそんなに元気なのよぉぉぉ!!」
可愛い文句を言いながら、まったく速度の落ちない青葉に愚痴る美島。
先ほど、ニアサイドへのターゲットクロス当てメニューを完了し、残るはファーサイドへの10回連続ターゲット当てメニューだ。
「息が上がっているぞ、美島。フェイントを複数見せただけで、このスプリントに耐えられないのはよくない。代表戦が心配だ」
対する青葉はまだまだ余力がありそうだ。美島の体力に関して、代表戦でも心配だと気遣う一面まで見せた。
「ま、まだまだよ! ラスト10回目。意地でも止めて見せるんだから!!」
縦へのドリブルを開始する青葉と、プレスに入る美島。シザースをしながらのダイアゴナルの動き。一瞬でも気を抜けば、ダブルタッチでクロスボールのルートを開いてしまう。
—————迂闊に飛び込むわけには、でもこれじゃあ練習にならないし
どうせ29回連続でクロスを上げられているのだ。もうここまで来るとプライドも何も関係ない。
後で駆に慰めてもらおうと、美島は破れかぶれでプレスに入る。
「甘いな!」
ここで、マルセイユルーレット。カットインからのクロスを警戒していた美島から距離が離れる。
————ここでそれ!? でも、青葉君のキック力なら十分ファーサイドに届くはず
ならば止めなければならない。詰める動きをする美島。マルセイユルーレットは確かに派手な技だ。だが、進行方向を読むのは容易だ。
駆のように、返し技のようなルーレットがなければ、何も怖くない。
————よし、止まる! これで終わりよ、青葉君!
詰めれば奪える。美島はそう確信していた。
「え?」
気づいた時には、するすると青葉は逆方向に切り返していたのだ。自分の様なターンを繰り出したわけでもない。
ボールも、青葉の足元から消えたわけではない。駆のようなトリッキーな技ではないのは確かだ。
————まさか、切り返しの瞬間は、ルーレットをキャンセルした直後!?
普通ならターンして距離を取れるはずなのに、青葉は距離を取らず、美島のプレス方向へとボールを転がしていたのだ。本来のルーレットとは異なる使い方と、その動き。
まるで目の前から一瞬で消えてしまったかのような、二段階目の加速を想起させるルーレット系のフェイント。
「さながら、ダブル・ルーレット、かな」
本来の1回転に加えた、返し技のもう1回転。ルーレットの最中に切り返し、プレスを躱す一つの手段。
その技名とともに、クロスボールをお見舞いする青葉。結局30回連続で彼を止めることが出来なかった。美島は落胆するのだが
「あ」
青葉の口から驚きの声が出る。疲れで倒れこんだ美島もつられてその方向を見ると、
「え」
クロスボールはわずかにターゲットに当たらなかった。目の前を掠っただけだったのだ。
つまり、
「おっ! また10回連続チャレンジか。すまない。まだ付き合わせてしまう」
謝罪する癖に、ウキウキする心を隠せていない青葉を前に、どんよりする美島。
————これ、私にとっての拷問なんじゃ——————
練習熱心というよりは、練習狂と言える青葉には、これはむしろご褒美だ。自分に対してメリットが何一つない。
「う、うん。10回連続、頑張ってね」
力なくそう言うと、青葉はにっこり笑う。
「おっ! 美島さんにそう言われるとありがたい! まだまだクロスの精度は完璧ではないし、頼むよ!」
しかしその20分後———————
「も、もう無理ぃぃ……」
疲れ果てて動けない美島の姿。そして若干意気が上がってきた青葉はまだまだ元気そうだった。
「—————ラストのランダムクロスボールターゲット当て10連発の直前、ファーサイドラスト連続10回目を目前なのに。監督、出番ですよ」
「なるほど。ですが、面白い人が来ましたので、代わりの人にやってもらいます」
岩城監督の後ろからやってきたのは、小野寺とともに青葉に挑んでぼろ負けしたいつかの少女だった。
「え? 群咲さん? どうしてここに?」
「こんばんは、アー君! 突然ですが、10回目を防ぎに来ましたぁ!」
かなり挑戦的な言葉を繰り出す少女を前に、青葉は何か悪いことをしたのか思い出そうとする、が思い出せない。
「——————恨まれたようなことをしたのだろうか」
「酷いことはされていませんよぉ~。ただ、中学時代に全く歯が立たず、歯牙にもかけてもらえなかったことはありましたけどぉ」
ニコニコした笑みで、毒のあることを言い放つ少女。
「な、なるほど。君が相当根に持っていることは分かった。」
若干汗をかき始める青葉。美少女とはいえ、敵意を持たれるのはやはり気苦労を感じてしまう。
「しかし、俺も時間を無駄に浪費するわけにはいかない。できる課題を長々とするつもりはないからね」
眼が座り始める青葉。この予想外のハプニングでさらに集中力が増したようだ。動揺の一切を見せない彼の様子に、岩城監督は冷や汗をかき始める。
—————まずいですね。青葉君は手加減というものを知りませんから
一応なでしこのエースなのだ。自信喪失でボロボロになったら目も当てられない。それぐらいの酷い奴なのだ、青葉という選手は。
その後、大泣きする群咲舞衣を前に狼狽える青葉の姿と、白い目で見ている颯の姿があったという。
なお、青葉は全ての課題をクリアし、クールダウンを行った。
「もう、本当にあの時から容赦なさすぎ! 普通そんな動き出来ないよぉ!」
逆エラシコからのドローアンドプッシュという膝に来るコンボ技を食らい、あっさりと縦への突破を許してしまう。そもそも、実戦であそこまでエラシコを自在に操る日本人選手が稀なのだが。
エラシコが武器というだけで、青葉の異常性が嫌でも理解させられる。
「いや、山の中をランニングし続けると、爽快感にも似たものを感じられるんだが」
青葉としては、山男の如くの山を駆け抜けてきたので、特別なことはしていないと説明する。否、もはやこれは弁明になっている。
「僕もそう思うよ! 青葉の真似をして山岳ダッシュをしていると、気分が高揚するんだ!」
そして、織田や高瀬たちとともに自主練習をしていた逢沢が、ひょっこり近づいてきて、狂気に支配された言葉を宣う。
「か、駆っち!? ど、どうしたの!? 青葉に何かされたの!?」
青葉と同じようなことを言い放つ駆に恐怖を覚えた舞衣。凄い元気そうなのはいいことなのだが、どこか違う。
「群咲さんも一回やってみればいいと思う! グラウンドを周回するよりも、凄い充実すると思うよ!」
悪意無き言葉で、駆は提案する。
「大丈夫! 少し疲れるけど、慣れたら楽しいよ! 一緒にサッカーしようよ!!」
「えっと、今日は遠慮しとこうかな……」
走る、強く走る、速く走る。駆にとって、走ることは重要なのだ。フリーランニングもポジション取りも、裏抜けも、そしてドリブルにも影響を与えるためだ。
しかし、さすがの群咲も今の駆にはお手上げだった模様。
「駆は本当の意識高い人間になったからな。俺も見習う必要がある。あれは、俺にも必要なトレーニングだ」
そして、高瀬とのマッチアップに勝利した織田が、近日中に参加したいという意思を示す。
「くっ、織田先輩に遅れを取ったが俺だってやってやる!」
「小柄な選手でも、突破しているのは体幹が鍛えられているからなんだ。僕だって必要なことなんだ」
そして下級生の高瀬と的場も、彼らに影響されて青葉式トレーニングへの参加を希望する。
「江ノ島怖い」
「大丈夫、実害はないわ。見ていて引いてしまうけど」
颯に抱き着き、怖いと表現する舞衣と、そんな彼女をあやす颯。
「——————」
そして、その近くでは白くなっている美島がいたりする。美少女然とした彼女がそのような醜態を晒すこと自体稀だが、その姿も可愛らしいものだった。
「ウィ、ウィッチィィ!? ど、どうしたの!! あっ(察し)————」
そんな美島の様子に驚く舞衣だったが、誰が彼女にこんなひどいことをしたのかすぐに分かった。
「美島さん。貴女は本当にいい友人だったわ」
軽く手を合わせてお祈りするポーズをとる颯。
「勝手に殺さないでよぉぉぉ!!!」
颯のしぐさに気づいた美島が魂の叫び。ぼろ負けしたショックと疲労で、いつものチャーミングな雰囲気はかけらもない。
「ウィッチィのあんな姿、初めて見たかも——————見たくなかったよ」
真顔で美島の叫びを見ているのは舞衣である。不敵な笑みと何かを起こしてくれる彼女があそこまで追い込まれるとは。
—————アー君は、練習の魔王なんだ
虫とか、鬼という言葉では表現しきれない。それ以上に理不尽な存在なんだと。
「よし、俺たちもこれからやるぞ!」
「ならば、俺は中央でのプレッシャー役だな。」
「上背で勝る相手か。これから先何度も遭遇するだろう。いい機会だ」
織田の音頭で青葉式トレーニングを魔改造する面々。高瀬が邪魔をする役で、織田がクロスを受ける側に。だが、織田は少しも臆していなかった。
「クロスどっちが上げる? 僕と駆のどちらかになると思うけど」
「うん。なら僕が。僕はサイドハーフで出ているし、この練習はスペースを生み出すために必要だから」
ドリブルNGとはいえ、クロスボールの精度を上げるにはもってこいだ。
「なら、奪ったら交代しよう。中も外も」
的場の提案で形が出来始めた時に、さらに乱入者が現れる。
「うしし! 俺も混ぜてもらうし!」
「面白そうなことをしてんじゃねぇか」
先ほどの練習で死んでいない連中がここにやってきたのだ。いきなり大所帯になったグラウンドが一気ににぎやかになる。
ワイワイガヤガヤと実戦練習をする面々。しかしその意識は真剣そのものだ。全力でサッカーをする、全力でサッカーを楽しむ。なぁなぁではないいい緊張感を保っていた。
取り残されたのは、再び白くなっている美島と、彼女を介抱している颯。
少し離れた場所で、舞衣と青葉が突っ立っていた。
「—————」
その光景を見ていた舞衣は、なんだか見ていて羨ましいと感じていた。エゴを出しても、誰も咎めない。ナイスチャレンジ、と互いに刺激し合う。
ギリギリの境界線で相手に勝つ。球際でシビアに。
「うぉぉぉ!!!!!」
高瀬が胸トラップからの右足アウトサイドでボールをタッチ。ボールを体で守るようにポストプレイをしながら、一気に右足でハーフボレーを仕掛けたのだ。
「させん!!」
しかし織田と堀川のブロック。シュートは堀川の足に当たり、ピッチから出る。
「奇抜なアイディアだが、かなり脅威を感じた。やはりシュートは守る側からすれば怖いな」
「うしし、残念無念♪」
「くっ、最後冷静ではなかったか!」
お互いにプレーに関して意見交換する。コミュニケーションを取り、課題を見つける。
「そのルーレットの切り替えは、後出し過ぎるね。迂闊に飛び込めない」
的場は、完全にルーレットをものにしている駆を相手に苦戦をしていた。しかし、止められなければ邪魔をすればいいと割り切っていた。
————少しでも精度を欠けば、こちらのチャンスボール。やりようはいくらでもある
「やっぱり一筋縄ではいかないね、薫君」
闘志を前面に押し出す両者のマッチアップ。部内屈指のドリブラー同士の攻防は、見ているものにも勉強になる。
「何回フェイントの応酬をしていたんだ。そして見破って対応するまで」
「ああ。3回目ぐらいで俺はやられそうだ。そうか、あそこは少しだけ近づけばいいのか」
海王寺と錦織があの攻防を見て唸っていた。
「—————いいなぁ」
「群咲さん?」
青葉は寂しそうにしているのを見て、思わず声をかけてしまう。
「あ、ご、ごめんなさい。他意はないの!」
慌てて謝罪する舞衣。青葉からしてみれば、何に対して謝っているのか分からない。
「ならいいんだけど。あの練習風景は、いつも通りといえばいつも通りなのだが————」
しかし思い当たることならある。
「—————なでしこは、どんな場所なんだ?」
結局のところ、青葉は舞衣がどんな状態で代表にいるのかを知らない。ゆえに、それを尋ねることにした。
「ああ、うん。レベルは高いよ。いいパスもくるし。うん、凄いところだと思う」
いつもの彼女らしくない。自信家な一面が鳴りを潜め、歯切れが悪い。
代表の中でも、彼女のライバルは多い。怪我で離脱している井伊選手。長年代表を引っ張ってきた一色。彼女が切望していたトップ下には美島。
何より、次世代エースの座は小野寺颯のものになりつつある。
焦りで回りが見えなくなったのか、それともストライカーのエゴを理解してくれなかったのか。
「—————結局のところ、勝敗を決するポジションだからな。フォワードは」
自分もその事実を良く知っている。
「————アー君は、凄い。一人で突破して、何でもできて。それはウィッチィも同じで……」
器用さを、引き出しの多さを考えるなら、美島がトップ下でいいのだ。恐らくそれが正解なのだろう。
「私は、今に妥協したくない。私が一番点を取りたいんだ———っ」
しかし、その状況を黙って認めたくない。
「颯にも、負けたくない」
「—————我の強さは、時に軋轢を生む。結果を出していないときは特に。けど、それすら乗り越えるのが、本物のストライカーだと、俺は思うな」
上手く回っている環境に現れた、彼女らのライバル。野心を隠さず、今の状況に変化を与える存在。
「—————舞衣ちゃんがストライカーなら、そのまま進むべきだ」
だからこそ、一つの得点で空気をかえるポジションにいる彼女には、弱気になってほしくない。
「え?」
驚きを込めた表情で、青葉を見つめる舞衣。
視野だって悪くない。パスも上手い。乗っているときは、颯と同じように手が付けられない。
そして何より、決定力がある。それは、フォワードにとって一番必要とされる、不明瞭な能力。
結果一つで変化してしまうほど、繊細な実力。
「10回シュートを打って、一つも決められなくていい。11本目で決めればそれでヒーロー……いや、ヒロインか。その瞬間を信じて、ボールを蹴り続ければ、まずは権利を得られる。やっぱり、挑んだ奴じゃないと、その土俵にすら立てないし」
強い信念をぶつける青葉。ああいう前に前に行く選手は嫌いではない。その長所をさらに伸ばして、もっと凄い選手になってほしい。
「敵の度肝を抜け、観客を酔わせろ。俺が憧れている存在は、そんな人だった」
「—————アー君……」
晴れやかな表情で語る青葉を見て、自分よりも高い次元に至っている彼でも届かない場所があると気づかされた。
そして、自分にはまだまだ上るべき階段があるのだと感じたのだ。
「——————うん。ちょっと元気出た————あ、ありがとね、アー君」
こんなに熱心に相談に乗ってくれて、自分の背中を後押ししてくれる人がいた。
群咲舞衣はもう大丈夫だろう。きっとまた、前に走り出すことが出来る。
「—————今日はありがとね。練習もしんどかったけど、凄い為になった。ああいうプレーもあるんだって」
青葉とのマッチアップはいろいろ気づかされる。後半、それを見透かしたかのようにいろいろな動きを見せてくれた。
それに、一つ一つの動作を見せるために遅かったような気がする。
「ああ。なでしこでの奮闘、サポーターの一人として、応援するよ」
「固いなぁ、アー君は! そんなんじゃ、女の子は落とせないよ!」
「そこを突かれると痛いなぁ。けど、努力はするさ、舞衣」
サムズアップで笑顔を彼女にぶつけることしかできない青葉。
舞衣が去った後、美島は青葉の隣に立つ。
「ありがとう。舞衣ちゃんのことを勇気づけてくれて。私じゃ無理だった」
なでしこの問題に彼を巻き込んでしまったことを謝罪する美島。
「—————ストライカーはエゴの塊だからね。ドリブラーの俺も、その境遇はよくわかる」
「優しいね、青葉は。本当に……」
誰よりも強い目標を掲げ、強い言葉でチームを引っ張ってきた。そして有言実行してきた。
時には高いレベルのプレーを仲間に求めた。それでギクシャクすることだって、これからあるかもしれない。
「まだ“セミプロ”だからね。闘志を燃やしてプレーする。それさえできれば俺に文句はないよ」
消極的なプレーでボールロストされるより、よっぽどいい。
「けど、彼女は今夜、プロになったはずだ。ま、俺の言葉がなくても、彼女は飛躍していったはずだけどね」
彼女はストライカーの道を進む。ストライカーになるという言葉は、彼女を変えていくだろう。
「—————青葉君」
プロになった。その言葉の裏に、青葉の渇きを感じた美島。憧憬のような感情、遠くを見つめるその視線。
彼は、このチームに長くいるつもりはないのだと、悟った。
「——————早いほうがいいと思っていたが、舞衣ちゃんに刺激を受けた。変わりたいと願い続ける、彼女に当てられたな」
朗らかに笑う。青葉は、美島の前で宣言した。
「選手権制覇をしたら、俺はプロに行く。ユースは眼中にない。トップチームで、俺は実力をぶつける」
江ノ島の柱は、いくつもの柱を作り上げた。そして、江ノ島の色を生み出した。
だからもう、彼のやり残したことは一つしかない。
世代最高のサイドアタッカーは、破天荒に道を突き進む。獣道であろうが関係ない。彼が決めた道こそ、彼の道である。
「あ、そうだ」
思い出したように美島はある頼みごとを青葉にお願いする。
「?? どうしたの、美島さん?」
「中江さんが貴方のファンなので、サインが欲しいって」
「うーん——————といってもシャツに余りないしなぁ————仕方ないから使っているボールぐらいか」
後日、美島経由で青葉のサインボール一号を貰った中江美奈は感激のあまり、ベストコンディションでロシアチームのフォワードを封殺することになる。
青葉君の憧れの人物はジャイアントキリングの達海猛です。なお、後の職場で達海ファンの人とファイトに発展する模様。
舞衣ちゃん覚醒エピソード消化。間接的になでしこ強化に貢献する宮水コーチ。
右足再生?の颯。
攻守の切り替えを意識した奈々
真のストライカー化不可避の舞衣ちゃん
隠れファンの中江美奈が富安化・・・・