騎士見習いの立志伝 ~超常の名乗り~ 作:傍観者改め、介入者
後、一部アンチ・ヘイトの内容が含まれます。
翌日。宮水青葉が選手権制覇を手土産に、プロへの挑戦を考えていることが発覚。
ミーティングの時、岩城監督に集められた部員たちは、青葉の言葉にあまり驚きを感じなかった。
「——————引き留めるのではと考えていた」
青葉は、あっさりとプロへの挑戦を認めてしまった部員たちに驚いていた。
「—————なに、青葉は高校サッカーの枠からはみ出ているからな。上を目指すのは仕方のないことだ」
引退した沢村は、青葉の意思を尊重する発言。青葉はいずれ日本代表になり得る存在だ。なら、彼の挑戦を邪魔するわけにはいかないのだ。
「ああ。俺は卒業と同時にプロに声がかかるか分からんが、お前の挑戦は刺激になる。国内リーグでもがんばれよ」
織田は、プロの世界に飛び立つ意思を固めた“先輩”に、惜しみないエールを送る。
「—————正直羨ましい。でも、青葉にはそれだけの実力がある。僕も絶対にプロで活躍する。すぐに追いつくからね」
駆は、青葉のプロ挑戦を前向きにとらえていたが、自分も秘かにそれを目指していたので、羨ましい気持ちがあった。
「青葉君なら必ずできる。私はそう思うな」
そして、彼の宣言を最初に聞いた美島は、太鼓判を押す。
「江ノ島サッカーに伝統が生まれ、このチームにはいくつもの柱が出来た。お前が流れを作ったんだ。お前のエゴが、このサッカー部を蘇らせたんだ」
近藤顧問は、サッカー部を再建させたばかりではなく、走るサッカーという伝統を残した彼に感謝しかない。
これからの江ノ島サッカーは、走るサッカーであり、フリーランニングの重要性を注視することになる。才能あふれる選手はこれを見逃すはずがない。
サッカーIQの高いチームで、自分を鍛えたいと思うはずだ。何よりも出るケースがいくつも生まれている。
多くの部員たちからの後押しを貰った青葉。
「お前のおかげで、俺の進む道、俺のやりたいプレーが定まった。いつかまたプレーできたらと考えているぞ」
「ほんと、この半年でぶっちぎりだったな。ま、後は俺に任せろ。トップ下の座、任せてもらっていいぜ」
最後に高瀬と荒木からの激励と感謝の言葉。江ノ島サッカー部にどれだけ彼が貢献したかがわかる光景だった。
「——————これだけ言われたら、ぶっちぎりで勝つしかないなぁ。ヤングプレイヤー賞ぐらいは取らないといけませんね」
国内リーグの、その年最も活躍した新人に与えられる栄誉を、取れると確信しているかのような物言い。やはり青葉はこれぐらいでなければ納得しない。
周囲の眼も、青葉ならこれぐらいグイグイ行くだろうと悟っている。
「青葉君。すでに接触しているチームはいると思いますが、目当てのクラブはあるんですか?」
岩城監督は、青葉の意中であるクラブチームはどこなのかを尋ねる。
「—————もう決めていますよ」
朗らかに笑う彼は、その名前を口に出さなかった。
全体練習が終わり、自主練習に向かう面々の中に、青葉がいない。
————悪い、今日は用事があるんだ。
あの青葉が自主練習をキャンセルするほどの用事。只ならぬことが起きていると感じた駆たちだったが、己を磨くことに集中する。
「—————」
「青葉君のあれは、いい刺激になった。でも、駆君だって挑戦できるだけの実力はあると思うよ」
的場は、黙ったままの駆に対して声をかける。
「ああ。駆も引き出しが多いからな。自分で突破も出来るし、最近はクロスボールにも手を出し始めたし」
ロングフィードという武器を得ようとしている駆。セカンドアタッカー、サイドハーフが主流になっている彼のスタイルを考えれば、必須となるスキルだ。
「—————うん。まだ僕には足りないものが多い。アマチュアとプロの前に、僕自身の課題があるんだ」
まだ足りない。
織田には90分間走るスタミナと、連戦に耐えうるフィジカル。ある程度ではだめなのだ。
もっと高いレベルでそれを実現しなければならない。
高瀬は、もっと足元のトラップと経験が必須だ。的場には体幹の強さが。
青葉がいなくても、江ノ島にはこれだけのタレントがいる。何より両翼を担った駆がいる。
だが、駆の中にあるもやもやは消えない。
そして同時刻の青葉のアパート。彼は近くのアパートに部屋を借りて自炊している。サッカー留学というやつだ。
そんなそれほど広くない場所に、ある男がやってきていた。
イースト東京ユナイテッドのGM補佐、前田芳樹である。
「—————突然のご連絡。申し訳ありません。シーズン真っ只中でしたのに」
部屋から出て、黒塗りの車に乗り込んだ青葉。まずは謝罪の言葉から始まる。
「—————いや、宮水君からの返事を聞けるだけでも、こちらとしてはありがたい。それで、答えを聞きたい」
「——————選手権終了後に挑戦を考えています。チームはETUのみですね」
一瞬の沈黙と前田の戸惑い。
「—————本当に、うちでいいのか? 隣のヴィクトリーのほうが環境は整っているぞ」
口をようやく開いた前田は、疑念を抱いてしまう。隣に充実したクラブチームがあるのに、こちらを選ぶ理由はあるのかと。
「—————強い相手を倒す。今年の首位チームであるなら、倒し甲斐はありそうです。何より—————」
「そのほうが燃えるじゃないですか」
その後、日程の合う日を見つけてそれぞれのスカウトマンとのアポイントを取ることになった青葉。中には時間が取れず、青葉に会ってくれなかったチームもいた。
しかし、けじめをつけるため、これまで彼に接触してきたチーム関係者には誠意を伝えた青葉。実直でどこまでも向上心の高い青年の行動に大人たちは感心し、彼の成功と健闘を祈った。
一部のメディアによる彼へのマイナスな報道。大手の報道機関でも一時期取り沙汰された件を、彼らはまるで信じていなかった。移籍の飛ばし記事や、根も葉もないチーム内の不和などを報道された彼らの視線は冷ややかで、逆に彼の丁度いい壁になるとさえ考えていた。
こんなくだらない報道で彼はつぶれない。むしろ、ばねにするはずだと。
「そうか。ETUに決めたのか。来年は手強くなるな、あそこも」
東京ヴィクトリーの監督、平泉は宮水青葉を持田蓮の後継者として考えていた。最大限の誠意は見せたが、青葉のビッククラブへの対抗心までは消せなかった。
「もし、ETUが名乗り出なかったら、ここだったと思います。俺、ああいう形振り構わないところが好きなんですよ」
弱小で、降格争いに巻き込まれるお荷物クラブ。そんなチームが、将来有望な選手を前にして、臆するのか、それとも踏み出すのか。
「確かにな。あそこが強かったのは10年も前のことだ。あの頃も、君と同じ目をした選手がいたよ」
懐かしそうに昔を語る平泉。苦い経験ではあるのだが、彼の印象とその活躍は、本当にすごいことであり、彼の存在を認めている証拠でもある。
「まあ、数年で海外行くので、後はチャンスあるかもしれませんよ」
軽口を言う青葉。普通の人間が言えば、腹を立てるようなことかもしれないが、平泉はダンディーな男だ。まるで動じない。
「ふっ、まるで自分がいる間は優勝できないと言われているようなものだな」
平泉も、こんな物言いをするのは持田で慣れているので、気にしていない。むしろ、そこまでの大言が言える実力者であることに疑いはない。むしろ、そこまでの自信家でなければ釣り合いが取れない。エゴイストはスコアラーになりやすいのだから。
「—————7番はだめみたいでした。一年目の選手には任せられないと」
提示されたのは、背番号17番。若い数字ではないが、背番号10と背番号7を併せ持つという解釈で、青葉に送られたという。
「ふっ、それだけ奴の存在は大きいということか」
その後軽く雑談をして、この場を後にする青葉。
「—————今日はお忙しい中、時間を頂きありがとうございました」
一礼して部屋を後にする青葉と、部屋に取り残された平泉。
————惜しいな、そして本命はまだ他にあるさ
江ノ島高校に目をつけている平泉。再来年の目玉を掻っ攫うライバルチームには度肝を抜いたが、こちらも有望な選手は欲しい。
————伝説のトップ下の弟。七光りではなく、実力通りの活躍だ。
逢沢駆は、傑をも超える存在になる。その確信だけはあったが、思い出補正なのか、まだ彼が傑を超える選手になったとは言われない。
当然、現段階ではまだまだだ。しかし、一生超えることは出来ないと発言するコメンテーターの言葉は無性に腹が立つ。
————彼は、宮水の影響を受けた選手、ならば
こちらが提示すれば、彼は食いつく。いい加減持田を休ませながら使いたい。そして、彼に比肩し得る存在がいなければそれはかなわない。
いい加減、彼にワールドカップのピッチに立たせたいのだ。惨敗に終わったブラジルワールドカップから4年後にロシアがある。
————君たちは、常に比較をされ続けるだろう
日本代表でも、彼らは結果を比較され続ける。マスコミのおもちゃにされかねない。同世代のスペシャルな存在とは、そういうものだ。
しかし、彼らならばそれすら乗り越えてしまうだろうと信じている。
「——————逢沢駆はスペアではない。叶うことなら、両方獲りたかったよ」
江ノ島の二大エースは、後に日本の新時代を築く存在になるだろう。
それは今の持田と花森の関係に近いような気が、しないでもない。
願わくば、二人を超えてほしい。怪我で泣かされることのない選手人生であってほしい。
しかし、感慨深いものだ。
「あの二人のような存在が、下の世代に出てきたのか………」
そして7月から始まる選手権大会神奈川予選。
都道府県リーグでは、前半の不調が嘘のように江ノ島サッカー部復活後は負けなし。逢沢ら1年生陣の活躍により好調をキープ。いい雰囲気のまま選手権を迎えることになる。
シード校として出場権を得た江ノ島高校の初戦は、経政大付属湘南高校。U-18日本代表のフォワード秋本を擁する強豪校だ。
しかし対する江ノ島はU-16日本代表の逢沢駆、代表候補の荒木竜一、五輪代表候補とも噂される宮水青葉、そして神奈川で最も勢いのあるフォワード、大巨人高瀬道郎がいる。
GK 1番 紅林
LSB17番 藤田
CB 4番 海王寺
CB 15番 園田
RSB 3番 八雲
CMF 6番 織田
CMF12番 堀川
LMF20番 夏目
RMF18番 的場
OFM10番 荒木
CFW13番 火野
ベンチ入り (GK)16番藤原、19番林葉、(DF)5番 三上、2番 桜井、14番錦織、(MF)7番 逢沢、8番 宮水、11番 兵藤(FW)9番 高瀬、
しかし、中軸と言われる青葉、駆、高瀬は先発出場せず。快勝の予感を感じさせた江ノ島の控えメンバー中心の選考。
しかしふたを開けてみれば——————
「くっ!」
前線で孤立しているのは、経政大のエース秋本。ゲーゲンプレスの如きハイプレスで味方中盤は江ノ島高校の狩場と化しており、ボールに触る時間が大幅に削られているのだ。
何とか秋本までボールを供給しなければならない経政大イレブンだが、
「甘いぜ!」
「—————(ポストプレーも許してくれないかッ)」
海王寺との競り合いでボールをロストする秋本。ロングボールによるカウンタサッカーに切り替え、何とか打開策が見つかるまで無失点で耐え抜こうとする。が、攻撃の糸口すら見つけられない。
「うしし、こぼれ球ゲット」
零れ球を堀川が拾い、サイドへ散らせる。サイドに転がったボールを受けるのは、右サイドバックの八雲。頼れる江ノ島のサイドバックである。
ブロックを作り、しっかりとしたディフェンスを整えている相手陣地に有効なのは、仕掛けることが出来る存在だ。
高い位置でチェイシングしないのを確認した八雲は、サイドで待つ的場にショートパス。
「よし、的場っ!」
同年代のドリブラーが中に切り込む動きを見せる。
————中に絞って、荒木さんとの連携、もしくは八雲のオーバーラップ
寄ってくる相手を次々と躱していく。小柄な上に俊敏な的場のドリブルにおいて、ダブルタッチの威力は高校サッカーではすさまじいものとなっている。
「あっ!?」
「なっ!!」
シザースもどきのフェイントで足技を警戒した相手の裏をかいて抜き去り、詰めてきたディフェンスに対しては、ダブルタッチで横にずれた瞬間に突破で抜き去るなど、的場の切れ味は今日も悪くない。
————いけるっ、連続技だとブレる時があったけど
体幹トレーニングを続けたことで、ドリブルで体が乱れない。何度でもフェイントを繰り出すことが出来る。
「この、いい加減にしろ! うっ!」
「っ!!」
しかし三人目につかまってしまう的場。しかし、ここでも体幹トレーニングの成果が表れる。
————プレスが、緩い?
的場は意外とダメージが少ないことに驚き、そのチャージを跳ね返し、三人目も強引に抜き去ったのだ。
これで一気に三人を無力化した的場バイタルエリア正面には一際存在感を放つ荒木の姿が。そして前線には火野がニアサイドへと流れてくる。
—————大外への速い弾道のクロス
しかし、火野の動き出しにより大外がぽっかりとあいた。そこに走りこんでいるのは、20番デビュー戦の夏目だ。
————監督からの指示、きっちりしているね
何の迷いもなく低く速い弾道のクロスボールを蹴りこんだ的場。死角から致命傷を与える的場のキラーパスがさく裂し、ボールは夏目の足元へ。
「きたっ!」
ファーストトラップこそ若干乱れたが、相手は完全に裏をかかれた状態。ツータッチ目でシュートモーションに入った夏目が振り抜いた。
「あぁ!!」
「そんな、主力が出ていないのに……」
決められてはならなかった先制点を奪われてしまう経政大イレブン。しかも初出場の控え選手にやられたのだ。
流れの中での決め事と、動き出し。それを忠実に守った前線全員で奪った得点である。
「お、おれが初得点……おっしゃぁあぁぁあ!!!!」
一年生にして初先発で初得点。今後に向けていいデビューになったと言えるだろう。夏目は満面の笑みでベンチにサムズアップする。
「やったな、夏目!」
火野が嬉しそうに夏目の下に駆け寄る。
「いい動き出しだった。的場もよく見えていたな」
織田は、的場と夏目の両者を見やり、今の攻撃の決定的な隙を見逃さなかったことを称賛する。
「夏目君が中に絞って飛び出してくるのが見えましたから。低く速いクロスなら、触れたらゴールだと思っていました」
的場も回答通りの受け答え。しかし、弾道を低く速くするという発想はボールコントロールに自信がなければなかなかできるものではない。
「よし、相手は浮足立っている。畳みかけるぞ!」
キャプテンマークを蒔く織田の掛け声にイレブンが反応する。
おぉぉぉぉ!!!!!
一度崩れた流れを取り戻すのは至難の業だ。
「もういっちょ!!」
織田からのロングフィードの瞬間、火野がボールを貰いに行くような動き出しを見せたのだ。そして火野に重なるようにして動き、二列目から飛び出したのは荒木竜一。
火野が横に動いた際に生じたスペース。
そこに走りこんだ彼の動き出しに対応できるものがいなかったのは失点の理由だ。
完全にキーパーとの一対一の状況で、荒木が冷静に決めて2点目。縦に早いサッカーを体現する江ノ島の理想的な攻撃がここでもみられたのだ。
「見たか!! 俺の運動量も伊達じゃねぇぞ!!」
「よくやった、荒木。今後も頼むぞ」
激励と細かな言葉は忘れない織田。いい意味でキャプテンらしく声が出るようになってきた。
「—————俺が出る幕でもなさそうだな」
「うん。今大会は得点王諦めるよ」
青葉と駆は、控え組で強豪校を圧倒している江ノ島を見て、予選での得点王は無理だと悟った。
的場のドリブルを警戒してか、夏目のいる左サイドを攻めようとするが
「こいつ、運動量が伊達じゃねぇ!」
「もらったぁぁぁ!!!」
スライディングタックルで、パスをカット。夏目の身を挺してのディフェンスで、経政大の攻撃が封じられた。そのこぼれ球を拾うのは—————
「よくやったぞ、夏目! 後は任せろ!!」
オーバーラップするのは左サイドバックの藤田。ディフェンスラインがガタガタの中盤サイドを素通りし、一気にバイタルエリア付近まで殺到する。
今大会初先発だが、ここまで守備的ポジションを取っていた。だが、一気呵成にカウンターの際にオーバーラップ。
「頼む、火野ぉぉぉ!!!」
そして間髪入れずにアーリークロス。動き出しから完全に狙っていた火野が一歩抜け出し、最終ラインを突破。
「おらぁぁぁ!!!」
力強く振り抜いた右足。そのシュートは—————
「ぐっ!!」
キーパー横っ飛びでこれを弾く。これ以上の失点は許さないと言わんばかりの好セーブ。
「ちぃ!!(狙いが甘すぎたか————ッ)」
火野が舌打ちをするが、転がったボールに辿り着いたのは———————
————ここから狙えないようじゃ、上には行けない
彼はここからコースを狙いつつ、力強いシュートが打てる。なら自分もそれぐらい怖い選手に、脅威を与える選手にならないといけない。
何より今、自分は完全にフリーで、一歩先に出ている。
「いっけぇぇぇぇ!!!!」
零れ球をダイレクトに振り抜いたのは、右サイドの的場。火野のシュートのこぼれ球を狙っていた的場は、このキーパーがはじいたボールにいち早く反応していたのだ。
「なっ!?」
振り向いた先から、またしても鋭いグランダー性のシュートが襲い掛かってきた為、経政大のキーパーは驚愕しつつも反応しようとする。
だが、倒れこんでいる状態からそのボールに触ることは出来ず、ゴールネットを揺らされてしまう。
これで江ノ島前半だけで3得点目。右サイドのレギュラーである宮水の代役だが、この試合で躍動する的場。1ゴール1アシストの大活躍を見せる。
そして駆の代役として出場した夏目もファーストシュートがゴールにつながる衝撃のデビュー戦。
層の厚さは健在であり、さらにレベルアップしたのではないかと言われるほど、堅牢なものとなった。
結局青葉と駆の出場は大勢が決まった状態になった後である。連戦を考慮してか、控え組を後半途中で下げたのだ。
しかも、
「おいおい。荒木のポジションに宮水が入ったぞ」
「真ん中でもプレーできるのかよ」
トップ下青葉。そのあいさつ代わりの一撃が、このピッチで刻み付けられる。
「青葉さん!」
二人に囲まれ、横パスで青葉に送る夏目。ファーストトラップの寸前、破れかぶれにプレスをかけてくる相手を
「————?! 畜生!」
ボディフェイントで右へ行くと見せかけてからの、
右足のインサイドでボールを転がし、ひらりと相手選手のプレスを躱したのだ。
フェイント技術が注目される青葉だが、単純な動きでフェイントと錯覚させ、簡単に抜け出すこともできるのが彼の強みだ。
青葉の代名詞の一つ、クライフターン。
このプレスが躱されたことで、前にスペースが空いた。これを見逃すほど甘くはない青葉。
弱みは絶対に見逃さない。江ノ島のエースがドリブルを開始し、観客の視線は彼に集まっていく。
すでに四点差。勝負はついているが、最善のプレーを止めない青葉。
「くっ、近づけねぇ」
「踏み込んだら抜かれるッ」
中央に集まる相手ディフェンスの壁。青葉のドリブルを警戒して前に出てこない。
そして———————
「——————え?」
キーパーはその光景を見上げるだけだった。
青葉の右足から放たれた白い弾丸が、ゴールネットを突き刺したのだ。
静まり返る声援。一瞬の静寂の後、
わぁぁぁぁあぁぁぁ!!!!!
大歓声に変わる。高校生とは思えない強烈なミドルシュートが、試合終了間際にさく裂。青葉の飛び道具が総体に比べてさらにアップグレードされているのを証明するシーンだった。
「—————————」
何と表現すればいいのか分からないといった顔をする秋本。フォワード顔負けどころか、国内プロ顔負けの弾丸シュートを決めた青葉に格の違いを刻み付けられた。
「うはっ、あれキーパー反応できてなかったぞ」
「今何キロ出たんだよ!? すごいシュートだったぞ」
八雲と火野が駆け寄る。付近で見ていた二人だが、彼らも見えなかった。気づけばボールがゴールネットに突き刺さっていたのだ。
「—————いやはや、あんなシュートは想定外ですねぇ」
ベンチの岩城監督も、さらにパワーアップした青葉のシュート力に顔が引きつっていた。
「湘南大付属のキャノンフリーキック以上だな、あの迫力は」
近藤顧問も、あのシュートが決まればキーパーはひとたまりもないだろうと考えた。
試合はそのまま5対0で終了。江ノ島高校の層の厚さを再確認すると同時に、やはり宮水青葉の役者ぶりは健在であることを証明する試合となった。
大手報道機関の一角であるトッカンスポーツでは、その活躍に乗じ、ETUのクラブハウス事情に詳しい記者より、ある特大ネタが先行で配信される。
—————江ノ島サッカー部から史上初! 不動のエース宮水、イースト東京ユナイテッド入り!!
高校総体得点王にして、大会最優秀選手、ベストイレブンに輝いた江ノ島のエースがついにプロの舞台に足を踏み入れる。神奈川の怪物、江ノ島高校サッカー部の宮水青葉がイースト東京ユナイテッドの特別指定選手となることが明らかになった。
宮水選手は世代別アンダー15日本代表でもすでに実績を残しており、特にブラジルを破り、アンダー15ワールドカップ準優勝に貢献するなど、輝かしい実績をすでに挙げている。早くからプロの舞台で活躍の場を求めていたこともあり、水面下で交渉を続けていたETUが粘り強いテーブルを作り続け、今回の経緯となった。
なお、今後の予定では宮水選手は来年のキャンプに参加することが決定しており、高校生Jリーガー誕生も時間の問題と予想される。
これは他のクラブも予想していたことだ。宮水を獲得できなかったことは残念だ。しかしトップチーム入りを目指す彼と、ユース入りを考える他のクラブ、一年目は育成と考えるクラブとは折り合いがつかず、破談となっていた。
しかし、好意的な意見ばかりが通るはずもない。
—————時期尚早? 博打に近い宮水獲得は吉と出るか
先日、ジャパンリーグ一部のETUから公式に、宮水青葉獲得の事実が明らかになった。これまで高校総体、選手権予選で華々しい活躍を見せつけ、過去にも世代別代表で結果を出し続けてきた“悪童”は、果たして一部リーグにレベルにあるのか。
中学時代より単独でのプレーが目立つ彼の特徴は、その推進力ではあるが、一回りも二回りも違う大人たちの前で、果たして圧倒的なプレーを実現できるかは甚だ疑問である。
その証拠に、長らく世代別代表に召集されず、高校サッカーという狭い舞台でのみ結果を出す状況に陥った彼は、やはり代表で何らかの問題を抱えているのだろう。
さらに、最近明らかになるファンに対する暴言と報道陣に対する大人げない対応。どうも彼は、技術はあっても精神的に成熟したとは言えない状況だ。
果たして、晩年降格争いのETUの中で、彼を諫めることのできる選手はいるのか。
—————もはや一部降格は必然? 宮水青葉を獲得するデメリットとは?
強すぎる個は、軋轢を生み出す。サッカー界においても、エゴを出したプレーというのは組織の中で浮くものである。そんな中、雑草集団に近いETUに、宮水青葉という強烈な個が入団することになった。彼は間違いなくトップレベルの実力を有してはいるものの、明るみに出るその未熟な精神性、応援するファンに暴言を吐く等といった、情緒の不安定さは隠しようがない。そんな傲慢な一面を持つ彼に意見できるプロが見当たらないチーム状況は、もはや絶望的といっていいだろう。
—————この悪童は、日本サッカーの革命者か、それとも破壊者か
新進気鋭の若手、江ノ島高校のエース宮水青葉。先日ETUが獲得を発表した超高校級の逸材である。斜め45度から繰り出されるクロスとシュートの正確性はプロレベルであり、単独突破を好む傾向にある彼は、果たして日本サッカーにどういった影響を与えるのか。
そんな新進気鋭は、どういった半生で誕生したのか。岐阜県下のライバルチームはかつて、彼のことを猪と呼んだ。
—————パスを選択肢に入れていない。相手を見下ろすようなドリブルが目立った
ブラジルではおなじみの、相手を小馬鹿にしたようなトリッキーなフェイント。なるほど彼には多彩なドリブルフェイントがあり、どれも素晴らしい技術だ。しかし、サッカーを志す者として、何か重大な欠陥を抱えていると言わざるを得ない。
—————怒った時は、荒いプレーではなく、相手を絶望させるプレーを好む
ファウルで散々削られ、すぐに倒れる相手に対しては、酷く感情を露にするケースが目立つ。彼はそれらに対して荒いプレーはせず、逆に試合を破壊するような、圧倒的なプレーで相手を叩きのめしたという。元々実力は抜きんでていたとはいえ、情けという言葉を知らず、単独プレーで1試合に5得点を奪い取り、相手チームは悔しさに濡れたという。その最中、笑みのような表情さえ浮かべており、その嗜虐性は疑う余地がない。
—————彼には情緒を成長させる時間がないように見える。
以上のことから、彼には高すぎる技術と実力はあるものの、相手を常に見下ろすようなドリブルの特徴があり、とても日本人の中で生まれたようなプレースタイルとは言えない。軋轢も相当であり、岐阜県下から神奈川に移ったのも決して無関係ではないだろう。もし、彼の技術と力が通用しない場合、どうなるのか。想像するのも怖いものである。
ただ、ジャパンリーグには奮起してもらいたい。未成熟な天才に蹂躙されるようなリーグでは、欧州四大リーグには到底追いつけず、世界の笑いものになりかねない。
そして、彼の獲得に対しても評価は二分しており、噂を信じないもの、信じるものでレスバトルが展開されるほどだ。
—————プレーを見る限り、そこまで自己中心的には見えない。パスも出すし、シュートと使い分ける判断力も
————すべてガセネタじゃないのか?
————根も葉もないうわさ。それともお得意の印象操作とか?
————ほんと、いつまでたっても成長しねぇな、糞メディア。
————また逸材を潰す気か、この国は。長身FWの失敗や、和製アンリ、和製ロナウドの惨状とか、こいつら知らねぇだろ
—————ほっとけよ、報道が過熱しすぎだろ? もしかして、メディアの新しいおもちゃはアイツか?
————あ~あ。せっかく日本のレベルが上がりつつあるのに、またマスゴミが邪魔をするのか。持田の次はこいつかぁ
という意見もあったが、
—————つうか、16歳に蹂躙されるリーグとか、恥ずかしくないの?
————生意気そうな顔をしてるぞ、このクソガキ。怖いものなしの青二才は、ここで壁にぶつかるべきだろ?
————まあな。こういう若手を跳ね返すぐらいしないと、リーグを応援する意味も消えちまうよ
————応援するファンに暴言とか。何をどうしたらそうなるのか。
—————まあいいじゃないか。逢沢駆がヒーロー路線で頑張っているんだから。こっちが日本代表の要になるだろうしさ
————いいよなぁ。あの選手。受け答えもいいし。それに、可愛いし
————ヒール宮水とヒーロー逢沢。どちらを応援するかなんて、決まったようなもんだろ?
————まずは受け答えをしっかり躾けないとな。品のない実力者とか、ノーセンキュー。
————日本にバ〇〇ッリはいらない
————〇ロテッ〇はいるだろ、〇ロテッ〇は
————ウジ虫とか、思いっきり中〇信者だろ、こいつ。こいつだけは、代表入りさせちゃいけない。2006の時と同じようにチームが崩壊する
————まったくだ。ああいう勘違い少年はここらで痛い目見させないとな。未来の日本代表の為に
————ほら、本〇も中〇信者だったじゃん。こういうキャラはいるよなぁ。サッカーやっていると。
————このクソガキ、火病抱えてるんじゃねぇ?
—————異常だよな、ファンに暴言とか。ていうか、記者の前でそんなことをするとか、終わってんな、こいつ。
————俺、来シーズンはETUアンチになるわ。こいつが日本にいる限り、アンチになるから
————どうせ、すぐに選手放出するだろ。あのチームは弱すぎるし
————勝手に落ちるもんな、あのクラブ! ってか、嘗められすぎだろ? ここでならレギュラー獲れるとか思ってるぞ、絶対
波乱を招く報道と余波。しかし、江ノ島は意に介さず。またか、という空気が流れており、当の本人である青葉は、
「興味ない奴の雑音とか、人の言葉じゃないし、問題ないさ」
と、記事を書いた者たちの血管を切れさせるような言葉を吐くほど、余裕である。
「でも、こんなにアンチの言葉が増えるなんて。ちょっと怖いよね」
駆は、報道の力でここまで世間のイメージを変えられてしまう実例を知り、恐怖する。
「—————売れる記事が欲しいだけだよ。彼らは。何を信じたいのか、何を信じるのか。情報って、結構危ないよな。ネットがガセになったり、真実になったり。報道がそんな風になったり」
なんでもなさそうに青葉は言う。ただ、この雑音はしばらく続くだろうなぁ、と考えていた。
これは挑発だ。自分が一向に記者の前に現れず、スカウトや代表スタッフと話をするだけだから。肝心のネタを提供しない有名人は、彼らにとっての害悪なのだろう。だから、炙り出そうとあの手この手で言葉を求めるのだ。
—————和の心はどうしたよ、和の心は。日本人が聞いて呆れる。
ゆえに、変に悩まないことにした青葉。彼らは日本人ではないのだから、相手にしない。それと、勝手に中〇信者認定されている元の人物を見習い、自ら言葉を発信するようにしとかないと不味いだろうなぁ、と感じる青葉だった。
なお、半年後に大恥をかく人多数。
Q.何か言うことは?
A.・・・・・・・・