騎士見習いの立志伝 ~超常の名乗り~   作:傍観者改め、介入者

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ついに19話で名前だけ判明したオーストラリアの至宝が登場。




第二十九話 豪州の至宝

U-16アジア選手権を戦う日本代表。

 

 

その中心人物として、背番号8を背負う逢沢駆は今大会4試合に出場し、6得点をマーク。

 

決勝トーナメント一回戦では、ウズベキスタンと対戦。ベスト4をかけた試合で世良が先制ミドルシュートを叩き込むと、前半終了間際に裏に抜け出した逢沢の仕掛けで勝負あり。

 

「!?」

 

ウズベキスタンの選手の意表を突く、右足での切り返しからの左足のクロスボール。軽くポンと蹴りこんだようなボールがスペースの空いた場所へと転がりこみ、

 

「もう少し強めにしてほしいよね」

皮肉気にボールへの注文をつぶやく世良がヒールで横に流し、

 

「絶好機じゃん!」

 

左サイドから飛び出してきた遠藤がダイレクトシュート。不意を衝かれたキーパーが何とか片手一本でセーブするも、

 

————前に溢せば致命傷だ。運が悪かったな

 

フォワード風巻が零れ球を押し込み追加点。ウズベキスタンを支配率でも上回り、前半を折り返すことに。

 

『日本追加点!! 東京蹴球高校の風巻が決めた!! こぼれ球よく反応しましたね』

 

『逢沢君の仕掛けと、中央の世良君のヒールパスが効きましたね。あれで完全にディフェンスがガタガタになっていましたし、世良君のラストパスに3人釣られていましたし』

 

 

後半は運動量が落ちた左サイドを中心とした攻撃で、日本が立て続けに攻勢をかける。

 

両足から自在に繰り出されるマルセイユ・ルーレットを武器に、ペナルティエリアで決定的な仕事を果たす逢沢。

 

「~~ッ!!」

 

そんな彼に対して必要以上のプレスを仕掛けてしまったウズベキスタンの選手を絶望に突き落とす事態が起きてしまう。

 

————荒れているね、プレーが

 

引き倒されてしまった駆だが、ペナルティキックを得ることに。本来なら世良がけりこむのだが、

 

「僕が蹴る」

 

「—————ま、俺のPKじゃないし、いいよ。そんだけ言えるんなら俺も何も言わない」

 

世良自身も、逢沢が強いボールへの執着心を持っていたことで、逆に安心していた。ボールを離さないぐらいがちょうどいい。攻撃を担う選手なら、これぐらいガツガツ来てくれないと逆に困る。

 

一対一のPKで逢沢が落ち着いて流し込み、これで3点目。今大会5得点目。

 

さらに、またしても伝説を想起させる内容のプレーを起こしてしまう。

 

 

しかし今度の伝説は、世界レベルの伝説である。

 

3対0とリードしている局面。ウズベキスタンは最後の瞬間まで手を抜かない。勝敗以前に国を背負ってプレーしているのだ。彼らは後に続く次世代の為に、闘志を失ったプレーは見せない。

 

「けど、前掛りになり過ぎじゃない? 奴さん」

 

ここでボランチ守屋がボールを奪う。ハイボールを押えた相手選手と競り合った際、センターバック菊地原が競り負けてしまったのだ。

 

 

すかさずフォローに入った湘南のボランチ山田がプレスをかけてボールが零れ、そのセカンドボールが守屋の足元へと渡ったのだ。

 

しかし、コンパクトな守備陣形を組み、中央を固めるウズベキスタンの守りは固い。

 

 

「駆っ!!」

 

守屋からのパスが通る。が、個のパスは後によくないパスだったと守屋自身が感じていた。

 

————うえっ!? 逢沢だけに二人ついているじゃねぇか!!

 

数的不利な局面に陥っている彼に、ボールを渡してしまったことに後悔する守屋。フォローにはいろうとするが、

 

全方位に気を配りながら、二人に囲まれていることを確認する駆。守屋へのバックパスも考えていただろう。事実、彼は寸前までボールを戻そうとしていたように見える。

 

 

しかし、ここから守屋にも、ディフェンス二人にも想像し得ないプレーが降臨する。

 

 

『あっと切り返して、躱したッ!』

 

ボールを右足でバックしながら左足のヒールでボールを転がし、サイド寄りにドリブルを開始したのだ。ここで、駆の武器の一つであるマルセイユ・ルーレットがさく裂。自分に有利な状況を作り出す。

 

バックパスを警戒していた相手選手は振り切られ、前方の選手がチャージをかけるしかない。

 

しかし——————

 

『逢沢二人目も躱す!! 抜け出した!! 日本チャンスになる!!』

 

ここで駆の代名詞、ヴァニシング・ターンが発動。駆の足元にはボールはなく、エリア外を通過する駆に、相手選手は本気で彼がマジックを使ったのではないかと疑ってしまう。

 

 

完全に前に抜け出した駆を前に、センターバックが立ち塞がる。その裏のスペースには遅れて風巻が走り出していた。が、センターバックにつかれている。

 

バイタルエリア、ペナルティエリアがあともう少しの場所で、最後の難問が立ち塞がる。

 

逢沢は中に切り込むことを選択し、まっすぐゴール中央へとラン・ウィズ・ザ・ボールで接近する。後方からは追いかけてくる二人の選手。

 

ステップオーバーで牽制を入れつつ、右足でボールを少し転がす駆。相手ディフェンダーは飛び込まない。

 

ここで、駆が勝負に出る。時間との戦いで、時間を掛ければ相手が有利になり、こちらが不利になる。ドリブラーになり切る際は、常に仕掛ける気概でいなければならない

 

ダブルタッチ。細かく、速く、扱いやすいフェイントであり、駆がよく多用する技である。

 

ここで、駆はダブルタッチに一工夫を入れた。

 

ダブルタッチとは本来素早く横にスライドし、相手を抜き去る技である。しかし駆は横にスライドしてなお飛び込まない。

 

駆が最も信頼しているルーレット。その布石がすべてそろったのだ。ヴァニシング・ルーレット、そして本来のマルセイユ・ルーレットの両方を使ってもゴールが近い局面。

 

そして、駆が一番仕掛けやすい間合いを作ることができたのだ。

 

 

もはや、これはギャンブルだ。相手はそのどちらともを警戒している。

 

左足からのバック。これはもうルーレットだ。相手の意識が高ぶる。駆は背中越しから相手の動きを見る。

 

————飛び込まない、なら—————

 

 

マルセイユ・ルーレットを選択した駆。だが、相手はこれを最後まで読み切り————

 

「!!」

 

反応し、足を延ばしてきたのだ。これにはさすがの駆も驚愕を隠せない。このまま進めばボールを刈り取られてしまう局面、駆の中で何かが閃いた。

 

左足でボールに回転を掛けながら、跨ぐ動作を行う駆。これは、彼の懐刀————

 

「ッ!?」

 

その瞬間、ルーレットを防ぎきって見せた相手選手の視界から、またしてもボールが消える。そして、当然の如く駆の足元にもボールはない。

 

 

マルセイユ・ルーレットからのヴァニシング・ターン。しかも、相手の大外にボールを転がしたのではなく、大きく開いた相手のまた下を通す、駆らしからぬコースを選択したのだ。

 

また下を通された相手は、反応も出来ずに崩れ落ちる。否、反応して動こうとして体勢が崩れたというのが正しいか。

 

そしてその瞬間、会場が湧く。

 

彼は二つの大技を繰り出し、これで3人を抜いて見せたのだ。

 

 

後は相手キーパーのタイミングを外し、ゴールにパスをするかのようなシュートをニアに流し込んだ駆。

 

 

日本人には為し得ないほどトリッキーで、とんでもないゴラッソを決めて見せた瞬間、日本サッカー界での彼への見方が変わる。

 

大歓声、というまではいかないが、観客は総立ちだった。スタンディングオベーションで迎えられた駆は、日本から異国の地に降り立ったファンにこぶしを突き上げた。

 

「やったよ、みんな!!」

 

 

『ゴォォォォォルゥゥゥ!!!! 逢沢決めたァァァぁ!!! 個人技からの圧巻の3人抜き!! 最後は右足で流し込みました!! いやぁぁぁ、何かとんでもない光景を見たような気がします!!』

 

 

『末恐ろしいですね。難易度の高いルーレットをあそこまで使いこなし、読み合いで最後負けたとはいえ、咄嗟に修正するその判断の速さ。非凡なものを感じますね』

 

 

『これが、日本の新たな希望!! 逢沢駆だァァァ!!!』

 

 

 

その日から、彼は日本代表を背負うサムライになった。

 

 

連日のように、日本に得点を手繰り寄せる駆の評判は、日に日に増していく。

 

続くイラン戦でも2ゴールを決め、大会得点ランキング1位を走っている。正確なボールコントロールと、ディフェンスラインの穴を見つける観察眼の鋭さが、相手の失点に直結する。

 

得点感覚が非常に高い逢沢は、ユース組を差し置いて、いつしか日本の若きエースストライカーの称号を手に入れるようになった。

 

 

そして、ベスト4に進んだタイと死闘を繰り広げたオーストラリアとの決戦で、駆は後に青葉が意識するライバルと邂逅することになる。

 

準決勝勝利後、決戦の相手となるオーストラリアの試合映像を見る一同。

 

「こいつが、オーストラリアの至宝と言われる、今回のキーマンだ」

 

 

ロビエル・オズボーン。背番号7をつけるオーストラリアのエースストライカー。駆同様に得点感覚に優れ、駆に同数の8ゴールを奪う活躍を見せている。

 

今大会屈指のアタッカーであり、決勝は撃ち合いが予想される。

 

「身体能力がたけぇな。あれをジャンピングボレーで決めるのかよ」

 

 

「というか、手足長いし、懐深いし。イブラを彷彿とさせるなぁ」

 

 

「ヘディングというか、空中戦つよ!」

 

プロフィールを見る限り、オーストラリア国籍の母親と、イギリス国籍の父親を持つらしい。サッカーを始めたのも、幼少の頃より育ったイギリスで始めたのがきっかけらしい。

 

しかし何を思ったのか、彼はオーストラリアの国籍を選んだ。そのきっかけは、当然彼らにはわからない。

 

「確かに、今回のブラジルワールドカップでも、アジア勢唯一のグループリーグ突破だろ? アジアの中では本当にやばいだろ」

 

守屋は、アジアの盟主を気取る資格があるのはあの国だけだと認めざるを得ない。

 

「ああ。ランキングもアジアでは異例の13位だろ? 日本もホームアウェイ関係なく、あんまり勝てないし」

 

現在FIFAランク30位の日本。その遥か頭上にいるのがオーストラリアという存在だ。

 

「やばいよな。スペインリーグ一部のレアル・マドリードのスーパースター、ヨハン・ヘイデンとか、なんなん? あの化け物を止められるわけがない」

 

チーム内でも度々名を挙げられるのは、オーストラリアのエースストライカーにしてレジェンド、ヨハン・ヘイデン。

ドイツワールドカップから、ブラジルワールドカップまで3大会連続となる出場を果たし、今なおスペインの第一線で活躍するオーストラリアの伝説。

 

ワールドカップ通算10ゴール4アシスト。アジア史上最強FWの実績を持つ男。

 

 

当時18歳の彼は、日本相手に悪夢の3分間を演出し、ブラジル相手に引き分けに持ち込む同点ゴールなど、日本の願望全てを先取りする存在だった。

 

「—————————」

 

逢沢駆は、ヨハン・ヘイデンのブレイクした時間を考えていた。彼は自分にとって3年後に世界で名を上げた。

 

残念ながら、次のロシアでは19歳が彼の出場年齢となる。しかし、世界のレジェンドになるにはその年齢からトップクラスに挑戦する必要があるのだ。

 

—————僕も青葉も、立ち止まることは許されない。

 

むしろ遅い。日本サッカーを次のレベルに進めるためには、ああいう存在が必要なのだ。

 

「——————」

世良も、駆の並々ならぬ野望を直感で感じ取ったのか、頼もし気な感情を発生させる。

 

—————小動物が、狩人になったようだ、傑君

 

この小さな勇者は、チームにどれだけの勢いを与えるのか。時々嫉妬してしまうくらいだ。

 

 

 

 

一方、決勝を控えていたオーストラリアの宿舎。

 

ヨハン・ヘイデンの遺志を継ぐ、次世代エース、ロビエル・オズボーンは日本について考えていた。

 

「—————————」

自分と同じ、並々ならぬ意識の高さを持つ存在、逢沢駆のことを考えていたのだ。

 

 

—————彼のアクセントはとにかく鋭い。彼は日本の中で一番危険な人物だ。

 

自分が彼の次を担う存在になるためには、この試合に勝つのは前提条件だ。

 

ヨハン・ヘイデンは2006年で母国をベスト8に、2010年でもベスト16に導いている。ヘイデンは、ロビエルにとって英雄的な存在であり、サッカールーズでキャリアをスタートさせる理由でもある。

 

そして2014年では多くの期待をされながら、優勝の二文字を持ち帰ることが出来ず、3位で彼の野望は潰えた。

 

3大会連続出場を果たし、当時18歳の若武者は、26歳になっていた。次が最後のチャンスともいわれるロシアワールドカップでの栄冠を狙うと宣言し、彼は世界最高のストライカーの称号を得ていた。

 

 

憧れのヘイデンとともに今度こそ、その栄冠を勝ち取りたい。その思いが強くなった。

 

2010年でようやく2度目のベスト16を果たした日本程度、蹴散らす勢いでなければ話にならない。2006年で放り込みサッカーに屈した弱いサッカーには負けない。

 

—————だから、お前よりもゴールを奪う。覚悟しておけ、カケル・アイザワ

 

 

ジャイアント・キリングを志す、オーストラリアの至宝。

 

世代最速と言われる宮水青葉と、アジアの中では評価を二分する存在。そして、彼個人の落ち度があったとはいえ、青葉は今大会に出場していない。

 

————貴様へのリベンジはお預けだが、相見える時を待っているぞ、アオバ・ミヤミズ。

 

 

数日後、若きエースに沸いた日本はオーストラリアに惨敗を喫する。

 

 

ゴールを決めて追い縋る逢沢駆をあざ笑う3ゴール1アシストと、2つの起点を生み出したロビエルの姿があった。

 

 

『試合終了……最後は力負け—————日本、オーストラリアの至宝、ロビエル・オズボーンの活躍により、大会制覇の夢が散りました』

 

『アジア最強と言われたオーストラリアは下の世代も強いですねぇ。個の力、それが叫ばれて久しいですが、何とも言えませんね』

 

『宮水青葉がいれば、展開は違っていましたか』

 

 

最後はディフェンスをズタズタにされた日本代表。誰も後半のロビエルを止められる存在はいなかった。世良はチャージをして逆に吹き飛ばされ、ボランチも突破を許してしまった。

 

「——————ふん」

予想よりも逢沢駆が躍動したぐらいだった。後はアジアレベルの実力しか持ち合わせていない。

 

スコアは6対2だった。前半終了間際に逢沢の同点ゴールで追いつかれたときは、冷や汗を流した。しかし逢沢以外の運動量が落ち、前線で孤立した彼を有効活用できない日本代表は、嬲り殺しにあう。

 

次々とゴールを決められる遠野。ロビエル・オズボーンに対し、合気道ディフェンスが通用しなかった島。彼らは自分の常識を超えた存在を前に、為す術がなかった。

 

「ロビン。あれだけ騒がれた日本も、大したことなかったな。カケルアイザワ以外、凄いと思える選手はいなかった」

アレックス・リンス。オーストラリアの快足アタッカーにして、センターフォワード。中盤からのロングフィードに反応した彼は、この試合も2ゴールを決め、得点ランキング3位に位置することに。

 

「メディアが変に担ぐと、あの国は弱いからな。特に中盤の彼の痛がる演技には辟易したよ」

世良の演技について、苦言を呈すロビエル。あれは見ていて気持ちのいいものではない。そして、日本メディアはすぐに騒ぐ。

 

「なでしこはいいんだがなぁ、あの国は。俺、ナナ・ミシマに告白しようと思うんだが、上手くいくと思うか?」

チームトップクラスの女好き、スタミナ自慢のヴェイラ・トロワは、なでしこの小さな魔女こと、美島奈々への告白を画策する。

 

「分からん。少なくとも、お前では失敗するのが目に見えているだけだ」

ロビエルは、そんな戯言を吐くヴェイラをジト目で見つめる。なぜ優勝したのにこんな気分になるのだ、と嘆息した。

 

————そうだ、ナナ・ミシマが奴にとって、ストライク過ぎるのが悪い、違いない

 

「お淑やかで、気配りのできる大和撫子!!! うぉぉぉ!! オーストラリアでは見られないドールのようなガールを捕まえに行くぜェ!!」

 

「——————もう知らん」

 

「ハハハ。ヴェイラは相変わらずだね」

ボランチにしてスタミナ自慢のウィリアン・テイナー。ロングフィードが得意で、ディフェンス能力に定評のある選手。その彼が、ヴェイラの様子に苦笑いをしていた。

 

「確かに、スシは美味しいからな。肉やデザートでトッピングしたスシは最高だ!」

日本マニアのジョシュア・スパロー。彼は宮水青葉を尊敬しており、彼が出場していない日本には負けられないと意気込んでいた。後に自分の知識が間違いであったと痛感し、日本狂いになるジョシュア。

 

 

「ふむ。白米は美味しいからな、あの国は。あ、ちなみに俺は、ハヤテ・オノデラが好みだ」

アレックスも、日本食には関心があるらしい。そして一言余計なアレックス。

 

「いいよなぁ、大和撫子はなぁ……はっ!!  そうだ、日本に行こう!! ロビィィィン!!! 俺は大和撫子に会いに行くぞぉぉぉ!!」

 

「——————本当に知らんぞ……骨も拾わないからな」

 

 

英語で騒いでいる彼らの内容を理解してしまっていた世良は、気落ちしてしまう。

 

—————あんな連中に、僕らは負けたのか

 

悔しい気持ちでいっぱいだった。そして、自分の武器が通用しない現実は、世界に挑戦して逃げ帰った、あの時とどうしようもないほど似ていた。

 

—————結局俺の限界は、ここなのか

 

 

あらゆる面で負けていた。アジアで足踏みは出来ないと強く想っていた矢先のことだった。

 

他のメンツもそうだった。遠野は国内ではシュートストップが上手いと言われていたが、所詮は日本レベルだった。外に出れば平均。ドイツと比べれば、平均以下の実力。

 

対人能力に優れた島は、フィジカル勝負でまず弾き飛ばされ、勝負になっていなかった。ボランチもボールロストを起こし、起点となるはずの場所が定まらず、逢沢一人が戦っていた。

 

それはまるで、かつての逢沢傑と同じだった。逢沢駆は世界を見据えており、世界と戦う証を示すかのように、強豪オーストラリアを前にして、一歩も引かなかった。

 

—————ブラジルの醜態を、ここでも見せることになるなんてね

 

準優勝とはいえ、日本は気落ちしたまま帰国の途に就くことになった。

 

 

「—————————————」

 

逢沢駆は、手ごたえと悔しさを感じていたはずだった。しかし、手ごたえの後にやってくるはずの悔しさを、今一つ感じることが出来なかった。

 

あの試合を主観的にではなく、客観的に見られるだけの余裕が、彼にはあった。

 

—————パス、シュート、切り替え。すべての面で僕たちは負けていた

 

必死にディフェンスをする日本を尻目にボールを回し、展開が早いオーストラリア。数的不利とみるや、素早く逆サイドに振り、個人技は日本を凌駕する。

 

そして自分は、常に2人が監視している状態。相手の力量を正確に読み取る冷静さも負けていた。

 

過大評価し、勝手に自滅したのが日本というチームだった。

 

 

—————同じサッカーをして、勝つ確率だってあったはずなんだ。なのに、

 

肩を落とすイレブンたちを前にして、駆はいら立ちを隠せない。ビビッてディフェンスラインを下げ、波状攻撃にあう。攻撃は取り返そうと躍起になり、後半は中央が間延びした。

 

前線と後衛が分断され、日本はオーストラリアに容易く攻略されたのだ。

 

—————兄ちゃんも、同じ考えだったのかな

 

代表戦で負けた時、彼はフラストレーションをためていた。そして誰よりも速く、試合を見直した。

 

—————世界に行くには、日本を早くでなければならない。

 

国内のビッグクラブはもう、彼の選択肢にはなかった。彼らにはプライドがある。しかし、日本サッカーで育ったこのチームが、世界では通用しなかった。

 

自分を年齢という色眼鏡で判断せず、代表にも快く送り出してくれて、海外移籍も認めてくれるチーム。

 

————海外挑戦が一番近いチームは何処なのか、そしてその為の最初のキャリアはどこで始めればいいのかな?

 

 

青葉は選手権大会を蹂躙後、プロチームに行く。自分は2年高校サッカーをする意思はない。少なくとも、こんな試合を経験していれば。

 

—————決めたよ、青葉、セブン。僕もプロに行く。

 

自分にはまだ縁がない。自分に接触しているクラブもほとんどいない。

 

 

 

後に日本代表のエースとなる男は、この時自らの殻を破るために行動を決意する。

 

 

逢沢駆が日本に戻ってすぐ行動したこととは、

 

「この本なんだ! 僕はこの本とあの本が欲しいんだ」

 

「—————(駆の奴、俺と同じ本を買うのか)」

青葉が駆り出された先は本屋であった。

 

 

帰宅後、

 

 

「駆兄ぃ、その本何?」

 

「えっと、バカでもわかる、スペイン語教科書とオランダ語の教科書だよ! 日常用語とサッカー用語を覚えないと、海外で会話できないし」

 

 

—————海外に向けて、言葉をマスターしないと!!

 

 

すなわち、語学勉強である。

 

 

 

 

 

 




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