騎士見習いの立志伝 ~超常の名乗り~   作:傍観者改め、介入者

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今回はミスターETUさんが初登場。筆者も好きなキャラの一人です。

そして飛鳥選手はやはり苦労人・・・・入るチームさえ間違えなければなぁ


第三十話 分水嶺とは

 

江ノ島高校に帰還した逢沢駆は、やはり一皮むけた印象が強く、兄の傑と似た雰囲気を醸し出すようになった。

 

そんな彼は、最近青葉に依頼する形で語学勉強に適切な教材を紹介してもらったのだが、次に依頼する要求は青葉の想定外、というものではないが、彼らしからぬものであった。

 

 

「——————事情は分かった」

 

青葉としては、彼の願いは叶えたい。しかし、こればかりは監督に相談せざるを得ない。

 

「—————うん。自分でも本当に勝手なことを言っていると思う。だけど、世界を体感して感じたレベルの違い。同じ年代であそこまでチームとしての熟練度が違う」

 

彼らはオーストラリアの黄金世代と言われた面々である。欧州の強豪や南米すら打ち破る彼らの強さは本物で、世界有数の実力を備えている。まだまだアマチュアやユースレベルの選手で構成されている日本では練度が違う。

 

だからこそ、駆は自分も早くプロになる必要があると感じたのだ。

 

「—————お前の危惧する通り、ヴィクトリーや他の強豪では、海外挑戦のタイミングは難しいだろう。しかし、俺の内定先も同じだと思うぞ」

 

イースト東京ユナイテッド。青葉が入団予定のプロサッカーチーム。フロントはやはり青葉をサイドアタッカーとして起用する意図を示している。中盤には村越と吉田がおり、システムも4-4-2が主流だ。しかし、赤﨑、青葉、その他若手ひしめく選手層の中で、どれだけ逢沢が食い込めるかは未知数だ。

 

そして戦力になった後に移籍した時、選手層の薄いETUが二部落ちするリスクもある。出戻りもしにくい状況になるだろう。

 

しかも、ほぼ解任予定である石田監督の次はまだはっきりしていない。しかし、候補を先に聞いている青葉は、彼が必ずここに戻ると信じている。

 

 

「——————競争に勝たないと、プロでは活躍できない。僕はプロになる。乗り越えて見せる」

決意は変わらない。駆はプロへの挑戦をはっきりと口にした。

 

 

「分かった。後藤GMに掛け合ってみる。けど、その結果は保証できないぞ」

 

青葉としては、たぶん入団内定するだろうなとは思う。が、世間様からの反響は凄いことになると悟っていた。

 

有望選手である青葉と駆が一年生の段階でプロクラブ、しかもトップチームに入団。少なくとも、高校サッカーの流れを根底から覆すことにはなるだろう。

 

江ノ島サッカーにとっても、ETUにとっても、リスクの大きい話になる。

 

岩城監督が常々言っている夢はワールドカップという言葉に合致はしている。有望な選手も江ノ島のルートを活用すれば、プロの道も見えてくるのではと思うかもしれない。それにより、本気でプロを目指す選手が自然と集まるようになる。

 

それは奇しくも、大金をかけて創設した東京蹴球高校と同じスタンスでもあった。しかし、実際に金をかけて留学生を雇い、有望な選手と充実した練習施設を誇る彼らは栄冠を手にしていない。

 

 

そして大金を浪費せず、限られた練習施設と工夫によって、江ノ島サッカーは変貌した。青葉という存在がいなくても、予選ではほぼ無敵状態で、青葉が出た瞬間に勝利を確信するレベルだ。

 

江ノ島サッカー部の目指すべきスタイルは形にはなってきた。後は、世間がどう感じるかだ。

 

 

「——————私は応援しますよ。駆君がプロで挑戦したいと思うなら、それを私に止める権利はありません」

 

しかし、江ノ島サッカー部はそうだったのだ。岩城監督含め、駆の挑戦に反対する者はいなかった。

 

むしろ、

 

「まあ、戦力ダウンだけど、チャンスでもあるからね、僕には」

 

「まあ、あんま言えないけど、俺もか」

 

的場と夏目にとって、駆は高い壁だった。結果を出してもなかなかレギュラーを奪えない。ここで終わるつもりはない、しかしチャンスを得るのは困難な状況だった。

 

駆の夢は応援する。しかし、自分たちも試合に出たい。複雑だが正直な想いがそこにあった。

 

「—————確かに、そういったことも出てくるでしょう。しかし、我々は彼ら二人を温かく送り出す義務があります。彼らはチームを引っ張ってきた。まずはそのねぎらいの言葉をかけましょう」

 

 

次々と部員から激励の言葉を貰う駆。荒木は「ここまで差がつくとはなぁ、頑張れよ」と悔しそうにしていたが、駆を祝福していた。

 

そして織田は、二人が不在でも日本一を奪うと誓う。そしてそれを手土産にプロに殴りこむらしい。

 

的場と堀川も、フィジカルに屈さないサッカーを体現するのだと息巻いていた。

 

 

最後に高瀬は、

 

「むしろ好都合だ。数少ないチャンスをどれだけ決めきれるか。あんまりチャンスが多すぎるから緩んでいたところもある」

 

一発を仕留める感覚が欲しい。彼はそういっていた。集中力を増すことで、自分のプレーをより確実で鋭いものにしたいのだ。

 

 

江ノ島サッカーでの了承は得られた。後は後藤GMがどう判断するかだが、

 

 

ETUクラブハウスにて

 

「———————————————」

達海猛の動向を探っていた後藤GMは、突然の事態に白くなっていた。というより、あまりの衝撃に言葉を失っていた。

 

「——————なんか流れが来ているんですかねぇ、うちに。凄い怖いんですけど」

前田補佐はとうとう引き攣った笑みすらできず、正気を失ったような愉快そうな笑みを浮かべていた。

 

 

宮水青葉を通して、逢沢駆がプロへの挑戦の意思を示している、という情報。それがなぜかETUにだけやってきている。

 

そして、彼らは両者が強い海外志向を抱いていることは理解している。海外志向が強いという情報もあり、撤退したクラブもあるほどだ。

 

しかし、そんな意識の高い選手が戦力以外でチームに影響を与えることはある。チーム全体の意識の高さに直結すれば、ETUは勝てるチームになる。

 

「—————有理ちゃんには言えないな、これ。青葉君であの反応だ、次世代を担い、今は亡き兄の遺志を継ぐ彼がうちに来るとなっては、良くも悪くも騒がしくなるだろうな」

 

そして後に、江ノ島とETUの間に出来るルートもかなり強固なものになるだろう。あの二人以外にも、プロを強く意識している選手はいるそうだ。

 

 

「さて、そこまでの大言を言ってのける逢沢少年の実力を見てやりますか」

 

丁度神奈川予選が行われているであろう時間帯にテレビをつける二人。今大会ダークホースの相模ヶ浦を破り、逢沢駆合流でさらに選手層の厚い江ノ島は、葉陰学院と戦っているはずだ。

 

 

 

『前半終わって3対0!! 止まることを知らない江ノ島旋風! 夏目大樹の先制ゴールに加え、宮水青葉の鮮やかなミドルシュート!! 逢沢駆の個人技で追加点! 新布陣で臨んだ江ノ島の進化は止まりません!』

 

 

画面に映し出されていたのは、新布陣で臨む江ノ島イレブンの姿。

 

GK  1番 紅林

LSB 2番 桜井

CB  4番 海王寺

CB  5番 三上

RSB 3番 八雲

CMF10番 荒木

CMF12番 堀川

LMF 8番 宮水

RMF18番 的場

OFM 7番 逢沢

CFW20番 夏目

 

ベンチ入り (GK)16番藤原、19番林葉、(DF)15番 園田、14番錦織、17番 藤田(MF)、6番 織田、11番 兵藤(FW)9番 高瀬、13番 火野

 

 

何より驚きなのは、新司令塔として逢沢駆がトップ下のポジションにいることだ。両サイドには新進気鋭の的場に、宮水青葉。そしてボランチは織田ではなくパサーの荒木竜一。

 

そして大抜擢の20番夏目。中盤でボールを保持できるからこそ、俊足アタッカーの彼の抜け出しが切れ味を増す。そしてボランチとサイドにはそのロングフィードを行える選手がそろっている。

 

縦に速いサッカーを志向する江ノ島の新たな姿。ETUと比べてかなり魅力的なサッカーをしているのが分かる。

 

ハイライトシーンが流れる。

 

 

序盤は葉陰スタートから始まるキックオフ。飛鳥を中心とした速攻が猛威を振るうかに見えた。

 

「無駄無駄ぁ!」

しかし、飛鳥へのマンマークを行っていた堀川のキツイプレスが襲い掛かる。

 

 

「くっ!」

べったりと張り付いており、ボールの置き所を予測し、飛鳥に思うようなプレーをさせない。相手はアンダー世代代表にもなった実力者。しかし、堀川は臆さない。

 

ディフェンスラインを上げ、江ノ島高校のゲーゲンプレスが序盤にさく裂する。

 

最初の20分間はゾーンディフェンス+ゲーゲンプレスのハイプレス攻撃。運動量が序盤で有り余っている状況を使い、奇襲を行う。

 

そして、チャンスが到来する。

 

 

「あ!?」

 

蝦夷へのパスコースを荒木がカット。縦への楔パスを防がれた葉陰は一斉に戻りを速めるが、

 

「おせぇよ」

 

荒木のロングフィードに反応したのは、20番夏目。江ノ島の決め事その2が発生。ボールを奪取した瞬間、最初に見るべきはセンターフォワード。

 

一番ゴールに近い選手を探し当てろ。それで無理なら、それは相手の戻りが早かったということ。無理にロングフィードをする必要はない。

 

しかし今回は特例だ。飛鳥は中盤で江ノ島を警戒しており、夏目とはだいぶ距離を離されている。リベロというポジションがなぜ現代では枯渇したのかを思い知らされるショートカウンター。

 

 

夏目の抜けだしが決まる。飛鳥は当然戻るが、到底追いつける距離ではない。

 

 

—————リベロの時代は終わっていると、そう言いたいのか?

 

焦る飛鳥。中盤を支え、攻守を支えてきた自負がある。しかし、意地だけではどうにもならない。

 

 

夏目の思い切ったシュートがゴールネットに吸い込まれる。前回と同様、江ノ島は先取点を奪う。

 

 

そして江ノ島は前に出てくる葉陰を相手にリトリートとゾーンディフェンスを合わせた守備陣形に変更。ロングボールと抜け出しを警戒し、鬼丸と蝦夷の抜け出しを警戒しているのだ。

 

 

————前回と同じく、俺とのマッチアップなのか

 

鬼丸は、青葉がマッチアップの相手であることに苦い顔をする。速度では負けており、決定力でも同様の相手に対し、迂闊なことはできない。

 

 

蝦夷のケアも、荒木が行っており、練度の違いを見せつける形となっていた。

 

—————なんで!? こんなはずじゃぁ!!

 

 

そして、夏目の仕掛けからチームの守備戦術は決まってくる。

 

————奴の動きが止まった、今なら

 

ボールウォッチャーになった青葉の背後を衝いた鬼丸。抜け出したのだ。

 

 

しかし———————

 

 

「え?」

 

パスを出した飛鳥も、そして受け手の鬼丸も、青葉の行動に驚愕していた。完全に抜け出されていたはずの青葉が、その縦パスをカットしたのだ。

 

 

—————誘い込まれた!? まずいっ

 

わざとパスコースを誘導したのだ。夏目が前線からチェイシングを行い、走り回ることでパスの方向がおおよそ決まる。前と後ろが連動したプレッシング。

 

 

江ノ島のゾーンディフェンスと囮となるトラップがさく裂。前線に足の速い選手がそろっているからこそできる芸当である。

 

鬼丸がボールを奪いにいくが、背中がどんどん遠ざかる光景をまたしても見せられる。

 

 

「行かせんっ!!」

 

飛鳥が立ち塞がるも、簡単な切り返しであっさりと抜き去られてしまう。

 

 

これがサイドアタッカーの青葉。スピードに乗ったドリブルで、一気に駆け上がるその姿こそ、彼の武器である。

 

そしてさらに、スリーバックを採用した影響で、サイドアタックに脆い戦術でもある為、追加点のピンチに陥る葉陰イレブン。

 

完全にサイドを崩された状態でのカットインに翻弄され、青葉の得意の形がさく裂。

 

 

『押し込んだぁァァァ!!! 右足一閃!! 強烈なミドルシュートが突き刺さり、江ノ島追加点!! 江ノ島2点目ェェ!!』

 

 

ショートカウンターからの得点を決め喜ぶ江ノ島イレブンと、カウンターで許してはならなかった失点を喫した葉陰。

 

 

さらに—————

 

 

『江ノ島またしてもボールカット!! 中盤で荒木が落ち着かせて、逆サイドへ! 的場へと渡ります』

 

 

堀川のボールカットと、ディフェンスラインの統率の取れた動きによる押上げ。これによりスペースがなくなり、コンパクトな守備陣形が形成されている。

 

そしてサイドは走力に自信のあるメンツが揃っており、リトリートは余裕である。

 

 

的場の突破がサイド攻撃に脆弱な葉陰を抉る。防戦一方となっている葉陰はウィングバックの押し上げを諦め、5バックを形成したカウンター狙いのサッカーと化していた。

 

 

「くそっ、ブロックを作れ! ドリブルのコースを消すんだ!!」

 

指示が飛び交うが、中々的場を捉えきれない。

 

————周囲が動かないからパスコースがない。違う、僕が動かないとコースは作れない。

 

他人任せにコースを求めるな。ないなら自分で作れ。

 

的場の動き出しに連動する江ノ島イレブン。ここで奇襲。

 

「堀川さん!!」

 

ここで3列目から飛び出した堀川にボールが渡る。不意を衝かれた葉陰のマークは荒木に集中していた。

 

「—————ッ!」

 

ここで中に絞る動きを見せたのは青葉。青葉が堀川をサポートする形で近づいてきたのだ。当然鬼丸も彼に張り付いた。

 

————させない。バイタルでこれ以上彼に仕事は————

 

しかし、堀川は青葉にパスを出すと見せかけてドリブルを開始。周囲を警戒した相手を欺く形に。

 

「堀川がドリブル!? そんな馬鹿な!!」

 

守備的ボランチだった彼が攻撃参加。潰し屋の異名を持つ彼がそんな選択をするとは考えられなかった。

 

 

そして、その奇襲に紛れ、最適格を見つけ出すのはやはりこの男。

 

『堀川のキラーパスに逢沢が抜け出していた!! あっとワントラップからルーレットで躱す!!』

 

中央から寄せてきた相手選手をルーレットで横に躱したのだ。

 

堀川からのパスをダイレクトでトラップし、そのままルーレットに移行したのだ。ルーレットをこれまで武器としてきた洗練された動きが彼を突き動かす。

 

繰り出された技があまりにも綺麗だったためか、あまりにも切れ味があったのかは分からない。相手選手は呆気にとられるだけで、しりもちをついてしまったのだ。

 

 

————バニシング・ターンが来るのか!? こういう場面で、奴は———

 

葉陰の選手が、逢沢駆の切り札を警戒する。回り込まれたら終わりだ。ボールと相手の体を見る。難しいが、分離すればさらに難しくなる。

 

 

————距離が遠い。転がすほうが、リスクがあるかも

 

駆はそんな距離の遠さを分析する。相手は確実に自分の大技を警戒している。

 

 

ならば—————

 

『ダブルタッチで一閃!! あっさりと二人目も抜いて見せた!! しかしここで飛鳥だ!!』

 

 

「させん!!」

 

何とか戻り終えた飛鳥が駆の前に立ち塞がる。ドリブルのコースは消えており、後はどうするのか。飛鳥にはバックパスぐらいしか思いつかなかった。

 

そして、駆は絞ってきた的場にバックパス。ここまでは正解だった。

 

————リターンか? それとも的場のミドルか!?

 

「っ」

 

ここで、駆は飛鳥をブロックしたのだ。まるで、シュートコースを開けるかのように。

 

————狙いはミドルシュートか!

 

「シュートコース塞げ!! 打ってくるぞ!!」

 

ブロックを作る葉陰。前半終了間際で意地を見せたい。

 

「—————ッ」

 

的場はここでスルーパス。スペースに走りこんでいたのは、青葉。

 

「ここで青葉か!?」

 

ここからなら彼のレンジの範囲内。しかしブロックの前では彼のシュートも無意味。

 

トンっ、

 

青葉は的場からのスルーパスをつま先に乗せて浮かせたのだ。ダイレクトの浮き球パス。それはブロックの上を行く軌道を描いていた。

 

「「!!!!」」

 

鬼丸と飛鳥は驚愕する。そこでこの閃きなのかと、どうすればそこまでの落ち着きが持てるのかと。

 

観客もボールを見失うほどの一瞬の出来事。そのボールの行方は————

 

「ッ」

 

そのボールの受け手は駆だった。胸トラップし、ゴールに背を向けている状態。当然ゴールキーパーは振り向き様のシュートを警戒していた。

 

背面からキーパーの位置を確認していた駆。その確認は浮き球が来た瞬間に終えていた。

 

 

だから、後は自分が確認した内容を記憶し、予測するだけなのだ。そして、その判断は誰よりも速く行わなければならない。

 

 

胸トラップから足でトラップはしない。彼はヒールでのシュートを選択したのだ。

 

「な、ぁぁ!?」

 

そのタイミングでのシュートを予期できなかったキーパーのミス。駆の発想の怪物ぶりに驚愕するしかない最後のヒールシュート。

 

『胸トラップから流し込んだぁぁあぁ!!! 背番号7番、逢沢駆!! 鮮やかなヒールで追加点!! キーパーが、一歩も反応できませんでしたね』

 

『キーパーのいない位置に冷静に流し込みましたね。さすがのプレーを見せてくれました』

 

 

そして、後半に追加点を決めた江ノ島が、葉陰を撃破。逢沢と宮水は途中交代しており、交代選手も躍動。

 

何といっても今日の主役は先制ゴールとダメ押しの4点目を決めた夏目だろう。高瀬とは違った持ち味を出した裏への抜けだしは圧巻だった。

 

 

試合のハイライトを見ていた後藤と前田は、自分たちのクラブチームよりも面白いサッカーをしている彼らに目を奪われていた。

 

「—————悔しいな」

後藤は、彼らが来る喜びがある一方で、そういうサッカーを実現できなかった今のチーム作りにかかわったものとして責任を感じていた。

 

「—————達海さんに依存し過ぎていたんです。あの頃は。もっと一人ひとりが考えてサッカーをしないといけなかった。ずっとあの人はそれを言っていた。メッセージを放置していたのは我々です」

 

前田補佐も、彼ら二人が来る一方で、彼のメッセージを聞こうともしなかった自分たちに責任があると考えていた。

 

「—————今度は失敗できない。彼らが来ることで、確実に強くなる。だが、依存だけはさせない」

 

攻撃面では、控えの充実。守備面では彼らのようなゾーンディフェンス。その全てが勉強になることだった。

 

 

彼ら二人に寄って様々な化学反応が出来るだろう。当然戦術からはみ出る選手もいる。

 

映像に釘付けになっていた二人は、部屋の扉が開いたことに気づく。

 

「——————何かあったんですか、後藤GMと、前田さん?」

 

現れたのはチームのキャプテン、村越だった。ミスターETUと言われ、長年チームの戦力となってくれている精神的な支柱。

 

「——————あ、村越―――――これはだな―――――」

すでに、村越は青葉が入団の意思を示していることを知っている。当然誰にも言わないという約束付きだが。

 

「——————二人目が来るんですか? 荒木ですか? それとも織田ですか?」

 

村越は、江ノ島の核となっている選手を予想の中に入れた。パスセンスならば、王子に引けを取らない荒木が入れば、中盤のボール回しも厚みが出る。

 

織田が入れば、ディフェンスの強度が増し、堅守が武器のETUに速攻という武器が加わることになる。

 

若い奴には足の速い選手がそろっているのだ。

 

 

「聞いて驚くなよ、村越君。なんと逢沢駆君がわがチームへの入団を希望しているんだ!」

前田は興奮を抑えきれずに暴露してしまう。それを聞いた村越は顔色を変える。

 

「——————そうか、あの逢沢選手が、うちに来るのか――――――」

 

新たな世代、新たなスター候補がこのチームに入団することで、村越は何か肩の荷が下りたような感覚に陥った。

 

二部に降格し、中心選手が出ていった。残った選手たちとともに、1年でチームを立て直し、一部に昇格することが出来た。

 

しかし、ここ数年降格争いに巻き込まれ、満足なシーズンを送ることが出来ないでいる。

 

資金力もビッグクラブほどはなく、よくて中堅くらい。戦術でも違いを見せられない。今でも応援してくれているサポーターに恩を返していない。

 

―――――コシ、後は任せたぞ

 

自分よりも上の世代は、緑川ことドリさんしかいない。

 

―――――お前がキャプテンのETUで、頂点に

 

悲願を、タイトルという悲願に一度も届かず、自分と同じくETUに生涯をささげた男たちがいた。

 

―――――コシに任せるのは心苦しい。本当に、お前はよく頑張っているよ

 

残り続ける自分を案じてくれる先輩もいた。

 

―――――けど、俺らはいつでも応援しているぞ、後は全部お前らに託す!

 

チームに恨み言を言わず、期待の眼を持ち続けてくれている。

 

 

そんな彼ら先代に、ようやく報いることが出来るかもしれない。

 

「——————これから、ETUは強くなる。高校生にすべてを託すだけではだめだ。俺たちが、闘志を見せたプレーをしなければ」

 

希望もなく、夢もなく、何となくプレーをして、何とか残留する。チームに蔓延する停滞感を、一掃してくれる気がした。

 

 

『今日のマン・オブ・ザ・マッチの夏目選手でした! しかし、江ノ島は凄いですねぇ。今まで無名だった選手がどんどん出始めている。的場選手も、夏目選手もあまり名を聞きませんでした』

 

 

『江ノ島高校では、何か下地があるのかもしれませんね。一芸に秀でる選手が生まれやすい、と言えばいいのでしょうか。守備にしろ、攻撃にしろ、面白いくらいかみ合いますからね』

 

荒木のパスによって中盤は手数を掛けずに速攻に切り替えられており、プレッシャーの弱い三列目。フォローの為に動く逢沢と堀川がいい動きを見せている。かといって中盤を意識すれば、ドリブラーの的場、青葉、そしてスピードのある夏目の抜けだしが襲い掛かる。

 

 

何より驚きなのは、宮水青葉をデコイに使う点だ。エースであっても囮に使う、エース自らスプリントする。今までの天才や怪物にはなかったプレーが目立つのだ。

 

ボールを持っていない時の動きに優れている。それがクラブからの彼に対する評価が高い理由の一つである。しかしそんな彼も、幼少の頃は典型的な早熟の天才選手だった。

 

彼は追い求めた。早熟のままに終わることを良しとしなかった。常に相手チームの脅威であることを望み続けた。

 

だから変われたのだ。彼は、上手い選手から強い選手に変貌した。

 

 

 

——————変わらなければならない、俺たちは

 

村越は、今まで ETUの為に全盛期の力をすべてささげた。黒子役はもちろん、誰かを活かすプレーを、どんなポジションだって必要とあらば行った。

 

それでもこのチームは栄冠には届かない。到達できるビジョンすら思い浮かばない。足りないものが多すぎて、何を手にすればいいのかすら分からない。

 

 

そして、ベテランの域に達している自分が、その変化でどのように貢献できるのか。

 

—————今もそうだ。俺はあの二人の加入で、必要以上に浮かれている

 

このチームは、まだまだ若手がいる。将来豊かな彼らがいる。二人に未来を託す前に、目の前の若手を信じるべきではないのか。

 

————俺が殺してしまったのか? 

 

今の戦術が、負けない為の戦術であったのは、降格を阻止するためだ。そこに未来はなく、ただ守るだけ、攻撃のリズムや戦術は、生まれにくい。ベテランばかりの先発で、若手の可能性は生まれない。明確な命題すらないまま、燻っている。

 

そんなチームに、輝かしい未来が約束されている彼らを、迎えてもいいのだろうか。

 

 

ミスターETUは悩み続ける。先が曇るばかりのクラブチームですべての命運を背負い、足掻き続けている。

 

 

新時代の夜明け前は、薄暗い光すら見えない暗闇の中であった。

 

 

 

 

 




青葉がオフ・ザ・ボールの動きを克服した話は、前作の作品 断章 片翼と王様に短い話ですがあります。

最初は身体能力任せでしたが、それをうまく扱うことで、化けた一例ですね。





いつかのETU if

村越「リーグ戦開幕3連勝、カップ戦は2引き分けか・・・・上々の滑り出しだな」

杉江「殴り合いで快勝といわれるのは・・・だが、5試合で二桁得点は異常だ」

飛鳥「うちのチームはやはり、セットプレーに弱いですね。攻撃陣に助けられています。連携ミスも修正しないと・・・・途中出場、ルーキーの身ですが、頑張ります」



青葉「うちのチーム、セットプレーに弱すぎ。後凡ミス大杉内・・・・昨年は堅守とか詐欺だろ・・・・何とかボールを回して、相手の心を折らないと(真顔)。セーフティー存在しないぞ、このチーム」

タッツミー「メンゴメンゴ! そのうちよくなるって(鼻ホジ」








————————某怪物被害者?の会—————————————————

磐田「勝てると思ったら、16歳に現実を思い知らされた」

広島「ギャンブルで財産を失った人の気持ちが分かった」

清水「若手監督対決で、惨敗・・・カップ戦はナメプされて痛み分け・・・」

現在ログイン 札幌「・・・・・怪物二人出場なら即死だった・・・・主力のいないETUに引き分け・・・OTZ」

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