騎士見習いの立志伝 ~超常の名乗り~   作:傍観者改め、介入者

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第三十一話 それぞれの道

 

 

試合終了後、全国制覇の夢を断たれた葉陰イレブンはピッチで力尽きていた。

 

すすり泣く声、悔しさに歪む表情、形容しがたい光景が広がっていた。そして彼らは痛感したのだ。

 

 

葉陰と鎌学の二強時代は終わりを告げたのだと。チームとして、タレントとして、大きな開きがあったことは否めない。

 

バランスのいい選手が揃う葉陰にはなく、一芸に秀でるものを持っていた江ノ島。

 

荒木と的場は、共にフィジカル面で大きな短所を抱えていた。前者は抜群のパスセンスを持っているものの、フィジカル面での脆弱さが目立ち、先発出場から外れる時期もあった。

 

そして的場は逢沢、青葉といった絶対的な選手の陰に隠れ、長らくスタメンを勝ち取ることが出来なかった。

 

しかし、彼らはフィジカル面での弱点を克服しつつある。

 

当たり負けしない重心の低いドリブルを的場は手に入れた。体幹トレーニングと、日々の練習によって、彼は弾丸の様にピッチを駆け抜け、対人能力を飛躍的に向上させた。この重心の低いドリブルと体幹の強さは、連続フェイントの際にも効力を発揮し、彼のドリブルの切れ味を上げていたのだ。

 

そして荒木は基礎体力という課題を克服したことで、プレー強度を上げることに成功した。先発出場しても問題ないほどのフィジカルを手に入れたが、まだまだ堀川の介護は必要だ。

 

しかし、差し引きでついに黒字になった彼は、デメリットをメリットで埋めてしまう実力を示した。

 

ライバルであり新キャプテンの織田も、油断はできない。

 

 

しかし、そんな日々進化を続ける江ノ島に唯一食い下がった男がいた。

 

 

「———————強かった、本当に強かったな、江ノ島は」

 

葉陰の要、飛鳥亨である。もし彼がいなければ、4対0という惨敗では終わらなかっただろう。バイタルに入られた数は数え切れず、飛鳥がブロックしたシュートも数えるのがバカらしくなるほど降り注いだ。

 

何より、大差のついた試合で闘志を前面に出し、最後までブレずにプレーした飛鳥の姿勢は、日本サッカーに必要なものだった。

 

――――――全国に行けなかった時点で、プロはあきらめる。そういう約束だ

 

しかし、後悔はない。悔いもない。自分は世界レベルを体感し、サッカーを卒業するのだから。

 

 

「——————本当に、サッカーを卒業するんですか? 本当に、現役を――――」

鬼丸が信じられないといった表情で、飛鳥の口から出た卒業という言葉を繰り返す。

 

「ああ。医者の道。そうだな、スポーツ医療の道を考えているよ。中途半端はしない。もう決めたことだから」

 

朗らかに笑う飛鳥。二流のスポーツ選手になる気はない。そして、何よりサッカーを陰ながら応援してくれた両親との約束だ。

 

特に父親とは何度も対立した。だから、これはケジメなのだ。約束を違えることは許されないし、自分が許さない。

 

「—————よく見ておけ。あれは、お前が目指す世界を走る存在だ。一流とは、あれほどできる存在なのだとな」

 

 

「—————————」

この試合荒木に格の違いを見せられ、逢沢には何度も躱されて自信を喪失した蝦夷は、呆然自失といった様子だった。

 

七光りだと思っていた存在は、逢沢傑すら持ち得なかったストライカーとしての嗅覚を備えていた。

 

そして、逢沢傑を連想させる質の高いプレーも具現し、現代に適応した新たな司令塔の姿を嫌というほど見せつけた。

 

旧時代の走らないストライカー、司令塔、リベロといった過去の産物を完全否定して。

 

「——————何が違うんだよ、あいつらと。俺たちに何が―――――何が足りないんだよぉ……」

 

慟哭と言っていい声だった。それが分かれば苦労しないし、分かったところで、すでに半分手遅れなのかもしれない。

 

彼らは短所を補うのではなく、長所を伸ばし続けた。自分を生かすにはどういうプレーがいいのか、自分の持てる武器を把握し、自分に出来ることを考え続けた。

 

強豪校としての責任、プレッシャー。それらに打ち勝つことで、本物の化け物は生まれるだろう。しかし、残念ながらそんな存在は葉陰にはいなかった。

 

逢沢駆を封じ、宮水青葉のプレーに対応できる存在などいなかった。彼らに触発されて、自分自身を改革した江ノ島イレブンに対応できる選手があまりに少なかっただけなのだ。

 

点差以上の力の差を感じた葉陰はしばらく衰退し、おそらく鎌学も衰退するだろう。

 

 

もはや、神奈川県下に江ノ島高校の進撃を止められる存在はないのだ。

 

「—————完敗だよ、岩城監督」

 

葉陰の監督である田岡は、鍛え上げたチームに快勝した江ノ島高校の監督岩城に対し、偽りのない賛辞を贈る。

 

「ありがとうございます。ですが、彼らが自分で考え、自分の長所を磨き続けてくれたから、僕も采配を振るいやすかったですし」

岩城としては、青葉という意識の高さによってチームが変革した。後はチームの守備戦術を考えればいいだけだった。

 

連携に関して守備側でのアドバイスはできるが、攻撃でのアドバイスは完璧にはやり遂げられない。むしろ、彼らの感性を養うために手を出すべきではない。

 

「自ら考え、か―――――大変参考になるよ」

 

 

しかし、それがどれだけ難しいのかを田岡は理解していた。

 

―――――君にその実感はないだろう、岩城君

 

岩城は、今までのサッカーを変える指導者になりつつある。

 

 

宮水、逢沢、織田。彼ら枢軸は、葉陰にない要素ではある。しかし、2得点を決めた夏目は裏抜けと速度以外は平均レベルの存在だ。しかし、この試合を通じて彼は驚くべき成長を遂げている。

 

さらに、今大会から抜擢した堀川は、スイーパーとして活躍し、満を持して登場した荒木はプレー強度を上げた状態で立ち塞がった。まるで隙がなかったと言っていい。

 

的場と八雲は連携が取れており、片方のサイドは完全に制圧されていた。無論、青葉のいたサイドも制圧されてしまったが。

 

他にも控えだった選手が主力となり、活躍するシーンは数多くあった。何より楽しそうにプレーをするのだ。

 

まるで生き物のように、彼らの意思は一つの方向へと向かっていた。前半から夏目への意図的なボールの集中もその一つだろう。

 

まるで、夏目大樹というストライカーを育てる意思が感じられる采配だった。そして見事彼は期待に応えた。

 

 

 

「選手権制覇も、十分視野に入るな」

 

「慢心は致しません。目の前の試合に勝つことで、その夢は少しずつ近づくのですから」

 

監督やベンチも慢心がないらしい。田岡は敵わないと心の中でため息をつき、ピッチを後にするのだった。

 

 

そして、勝者として決勝戦に勝ち進む江ノ島高校では、

 

 

「——————中盤、少しプレーをしにくそうにしていたな、駆」

 

 

「うん。飛鳥さんの圧力がなかなかすごかった。詰められると、中々抜けなくて――――」

駆とマッチアップしていた飛鳥は、終始駆のプレーを遅らせていた。しかし、駆の地力が勝り、躱されるシーンもあった。

 

「きっちりボールを奪われず、ボールを前に供給したのはよかった。STはエゴだけで務まるポジションではないからな」

 

前線を支える基地なのだ。たとえボールに触れることがなくても、彼らを支援できる存在でなければならない。

 

「—————でも、青葉はスピードに乗ればだれも止められなかった。さすがだね」

 

 

「いや、後2点は決めるつもりだったが、ゴール前を固められていてな。1ゴールしか決められないのはアタッカーとしてしょっぱいな」

 

ハットトリックを決めなくてはならない相手だったと青葉は悔しそうにしていた。

 

「—————けど、それだけ飛鳥さんの統率が取れていたんだと思う」

 

 

「本当に惜しい選手だ。リベロというポジションで、便利屋をやらされているのが酷に思えるほどな。彼は生粋のCBだというのに」

 

飛鳥というタレントに依存したことが、葉陰の強みであり弱みだった。あまりにも多くのことを彼に依存し過ぎたことが、脆さを出してしまったのだ。

 

「いいチームに恵まれなかった。よい環境さえあれば、いいCBになるだろう」

 

すべてがロジカルで、理路整然としたプレースタイル。青葉や駆といったトリッキーな選手との対決が今までなかったことが彼にとっての不幸だ。

 

しかし、プロに行けばその経験も解決するだろう。

 

 

「本当にパスが来た。信じて走れば、結果は出るのかぁ……」

 

2得点を決めた夏目は、味方を信じて裏抜けを何度も行った。攻撃と守備が入れ替わる瞬間を逃さない。それがチャンスであることを彼は何度も教えられている。

 

信じ続けたことで、味方に信頼されるようになった。愚直な試みが報われたのだ。

 

「けど、パスしやすかったぜ。動き出しは本当に早いからな」

荒木曰く、高瀬とは違ったパスの出しやすさを感じていたらしい。

 

「フリーランニングでコースも作るし。前線からチェイシングしてくれたし。守備側としてはラインを上げやすい」

 

「だな」

 

守備陣からの好評を得ている夏目の走り。当然危機感を感じるのは高瀬だ。

 

「—————なるほど、ああいう攻めの守備もあるのか。だが、俺にはあの俊敏さはない」

 

―――――読み切ることだ。パスコースを限定させる動き。それだけでもできれば

 

結局は周りを見ることにつながるのだと高瀬は笑う。同学年のライバルを前に、滾っていた。

 

なお、夏目はその後サイドにコンバート。高瀬の高さと夏目のスピードは長らく他校の脅威となる。

 

 

「八雲さん凄いですね。いいタイミングでオーバーラップしてくれて。こちらとしては攻撃の厚みが出来るので、助かります」

 

「まあな。前任者がとんでもないサイドアタッカーだったしな」

 

「まあ、青葉と組んでいたら、自然と鍛えられますよね」

 

的場と八雲は積極的にコミュニケーションを取っていた。サイドにポジションを取る選手として上下の連携を確かめるためだ。

 

「けど、カバーリングや相手の攻撃を遅滞してくれるから、安心して上がれる。次も頼むぜ」

 

「はい!」

 

お互いの信頼関係を構築する。約束事を守る。その上でチームプレーは生まれる。オーバーラップしないサイドバックは時代遅れというが、オーバーラップはリスクを伴う。ゆえに、リスク管理を決めごとでカバーするのが妥当なのだ。

 

的場は守備意識の低さが入学当初は目立っていたが、今は違う。江ノ島自慢の攻守の切り替えが染みついており、守備から始まる攻撃を体現するメンバーの一人となっている。

 

お互いにコミュニケーションを取る光景。それだけで岩城の指導は間違っていなかった。当たり前の疑問や問題を投げかけ、選手たちに考えさせる。あくまで一言程度だ。

 

基礎練習や守備練習は関与できるが、細かなコミュニケーションは指示しきれない。

 

 

江ノ島ではだれ一人感じていないことだが、ライバルはある予想を立てていた。

 

 

宮水青葉と逢沢駆がいなくても、江ノ島強すぎる、と。

 

 

きっとこの言葉を江ノ島が信じるのは、来年の選手権辺りになるだろう。

 

 

 

一方、なでしこの代表に選ばれた小野寺、美島、群咲はフル代表への生き残りをかけたサバイバルに挑んでいた。

 

「ウィッチィ!!」

 

「っ!」

 

一見すると舞衣へのパスコースを防がれているように見えるが、

 

「なっ!?」

 

手でブロックしながら方向転換。ゴールに背を向け、美島のパスを待つ姿勢を選んだのだ。

 

―――――何をする気なの、舞衣?

 

横でスペースへと襲い掛かっていた颯は、彼女が何をするのか気になっていた。

 

「舞衣ちゃん!」

 

結局奈々は舞衣へのパスを選択。この状況で自信満々にしている彼女の真意が知りたい。

 

 

そして、想像以上のプレーを見せるのは必然だった。もう彼女を曇らせる存在はほとんどいない。そして、曇った彼女を支えるサポーターが必ず一人いる。

 

 

――――私は走り続けるの、目の前のゴールを奪うために!

 

 

それは、駆が得意としていたルーレット。ターン技がこの瞬間に発動したのだ。

 

ファーストトラップから始まるフェイントの為、引きはがされるディフェンス。それでも何とか彼女を止めるべく足が動くのだ。

 

 

当然そのスペースが生まれる。

 

――――空いた、けど。何をする気なの?

 

颯は、そのスペースを有効活用できる瞬間を待つ。彼女が自力で奪うかもしれない、もしかすればパスが来るかもしれない。

 

まるで、青葉のようだと感じた。

 

――――マルセイユ・ルーレット。有名な技だけど、方向さえわかれば――――

 

ディフェンス側に入っていた中江美奈が舞衣を止めるべく動く。右の裏でトラップし、左足で転がしながら横へと動くのだろう。

 

しかし、その予想をした瞬間、まるで瞬間移動の如く舞衣の姿が美奈の視界から消える。

 

「!?」

 

いつしたのか分からないほど鋭い切り返し。彼女は既に、美奈の横を通り過ぎていた。

 

―――――なに、が――――――

 

続く迫るディフェンダーをマシューズフェイントで難なく躱す舞衣。もはやスピードに乗った彼女は簡単な相手ではない。

 

振り抜いた左足は、ゴールネットを揺らす。周囲の人間に衝撃を与えた舞衣の生み出した新たなルーレット。

 

 

「ルーレットにマシューズフェイントを加えたの! といっても、大層なものじゃないけど――――」

 

ルーレットで振り切れなかった際に振り抜かれる二撃目。発想が生んだ意表を突くフェイントで、日本屈指のディフェンダーを単独で突破したのだ。

 

 

「—————舞衣ちゃん凄い。真正面から壁を突破するなんて」

そんな彼女の自信に満ちたプレーを前にして、頬を染めている奈々。

 

「ゴール前の突破が板についてきたわね」

自分でも使えないものかと思案する颯。

 

 

「いよいよ本領発揮ってことかしらね」

 

「やられた側からすると悔しいですけど、今のは凄かったですね」

 

一色と美奈は、舞衣のプレーぶりを見て頼もしさを感じていた。美奈は悔しさを感じており、次は止めて見せると意気込んでいる模様。

 

 

その後も、ゴール前で余裕を見せる舞衣のプレーに安定感が出ており、自然とボールが集まるようになっていた。

 

 

「ねぇねぇ。舞衣ちゃん最近何かあったの?」

 

同僚から何があったのか聞かれる始末。

 

「うん。前とは雰囲気が違うわ。凄い成長よ」

 

一色も気になっていた舞衣の変化。何か美島に対してコンプレックスを持っていた時とは違い、自信を持ってプレーをしている気がするのだ。

 

「—————えっと、それは―――――すみません、言えません!」

眼が泳ぐ舞衣。青葉とのやり取りを思い出し、思いっきり頬を染めてしまう。思えばあんな風に元気づけられた時はなかった。

 

あんな風に頼りになる存在は今まで隣にいなかった。

 

 

――――私も、いつか、あんな凄い選手になるんだ――――――

 

しかし、頬を染めたのはそこまで。いつか彼のような絶対的なエースになるんだと、集中を持続させ、練習に真摯に向き合う舞衣。その雰囲気と様子は、高い自意識とプライドが見受けられた。

 

同僚たちは、矛先を美島と小野寺に変更する。

 

「す、すいません。私も理由は知らなくて―――――」

 

「————ご、ごめんなさい」

 

小野寺と美島は知らないふりをすることに決めた。というより、二人にとって理由は明白だからだ。

 

「妙さん!? 舞衣ちゃんが今まで見せた事のない顔に?! ちょっ、どうしちゃったの?」

 

「この子、こんな人懐っこい顔をするのね。猫ね、まるで猫――――カチューシャ付けても違和感ないかも?」

 

「~~~~~♪」

小生意気な笑みとは違い、いいプレーをすると柔和な笑みを浮かべ、声も出すようになっていた。誰かのプレーを褒めるという辞令すらなかった彼女の変化は衝撃的なものだ。

 

 

「いつか、私もアー君みたいに……」

譫言のようにつぶやいたアー君という人物に、なでしこは衝撃を受けた。

 

「だ、誰なの!? アー君なる人物は!!」

 

「そんな、後輩に負けるなんて―――――」

 

「そ、そんな―――――」

 

そして竹田監督は、

 

「恋する乙女は可愛いなぁ、どう思う?!」

 

「勝手にしてください~~~!!!」

 

平常運転だった。

 

 

――――行き遅れたくないわね……美島さんが羨ましいわ

 

―――――えっと、はい。駆は誰にも渡しませんよ?

 

高校生二人は、婚期についてそれなりに気にしていた面々を見て遠い目をしていた。

 

なでしこの未来は明るいのか、明るくないのか。それは見たものが決めるだけだ。

 

 

なでしこが舞衣の豹変に翻弄される中、いよいよ終幕を迎える選手権予選神奈川大会。

 

 

一方、別ブロックで勝ち進んできたのはやはり神奈川の雄、鎌倉学館。

 

エース鷹匠を中心として攻撃陣は全国クラス。しかし、もはや大方の予想は江ノ島高校有利という論評で占められていた。

 

「———————駆がアンダー世代であそこまで活躍するとはなぁ。今じゃ日本のエース候補とまで言われているんだぜ」

国松は、彼らの雄姿をテレビで見ていた。遠い韓国の大地で行われたアジアの覇者に挑む姿を。

 

アジア最強を自他ともに認めるオーストラリアとの戦い。あのヨハン・ヘイデンの再来と呼ばれるロビエル・オズボーンはフル代表レベルと言っても過言ではない。

 

 

そんな彼に負けない輝きを放ったのは、劣勢の中奮闘した逢沢駆の姿。今まで学んできたこと、成長した証を存分に見せた彼は、彼との一対一で結果を示した。

 

今でも覚えている。ヴァニシング・ターンで真正面から彼をぶち抜き、トップスピードに乗って中央を切り裂き、最後はラストパス。

 

最後のパスの瞬間だけは、逢沢傑の姿が見えたほどだ。しかし彼は駆なのだ。

 

「—————悔しいが、あの試合で使える奴はあいつしかいなかった。世界標準は俺の想像を超えていたんだ」

 

世良は、味方であれば頼もしかった駆をそのように評した。何かをしてくれる男、流れを変える力を持つ存在。

 

それこそ、エースの資質の一つだった。

 

「—————もし、あの試合に青葉がいたらどうなっていたのかな?」

佐伯は、あの試合をベンチで見ており、後半途中から起用されていた。

 

もし、あのイレブンの中に彼がいれば、勝敗はどうなっていたのか。

 

 

完全に勝敗が決してしまい、駆以外の足が完全に止まった状態。そんな状況下で何かを出せるほど、佐伯は特別な才能を持っていたわけではなかった。

 

駆がボールを持った瞬間に3人に囲まれファウルで逃れる。フォローが遅れ、駆がなすすべなく包囲される状況が続いていた。

 

オーストラリアは最後の希望である駆を潰し続け、日本の息の根を止めたのだ。

 

「——————右サイドで自信を取り戻していれば、後半の大量失点はなかったかもしれません。左で優位に立っていた分、それが惜しまれます」

 

両翼が揃っていれば、日本はアジア最強に勝利していた可能性は高い。世良はそれを断言できる。

 

「そして、そんな選手が江ノ島にはいる」

 

全国トップクラスの攻撃陣を誇る江ノ島。蹴球という名ばかり金ばかりの高校ではなく、純然たるサッカーで、圧倒する。

 

お金をかけても生まれることのない、純粋な本物の原石たちがひしめく高校。それが彼らだ。

 

 

「—————守備陣は前からのチェイシングを躱せば、ないことはないです。フリーキックなら叩き込んで見せます」

世良は、油断なく、かといって過大評価することもなく分析していた。江ノ島のキーパーは、フィールドプレーヤーに比べれば平凡。距離によっては十分狙える。

 

そして、運動量溢れる前線のハイプレスこそ、江ノ島の攻撃手段の一つだ。中盤は堀川織田のダブルボランチが厄介だが、CBは一枚も二枚もランクが落ちている。

 

「点の取り合いか。だが、宮水を止めなければ、打ち負けるかもしれんぞ」

鷹匠の懸念はどうやって彼を止めるのかである。無敵に見えるサイドアタッカーを攻略するにはどうすればいいのか、スピードに乗れば、密集地帯だろうとミドル込みでこじ開けてくる。

 

「—————宮水対策はとにかくスピードに乗せない事。前に進まれるのはいいです。ですが、スピードに乗った場合、即死一歩手前になり得ます。オーストラリアが逢沢君にやったような戦術を、うちも実現できれば—————」

 

 

「基本ボランチと、ウィングバックだな。なるべく奴のいるサイドでプレーをしないのがセオリーだが、ダブルチームで当たるべきだろう」

マークにつく人数は2人が妥当だろうと国松は、推察するが

 

 

「いえ、あえて彼にはマンマークをつけません」

 

世良は、それを否定する。

 

 

「え?」

佐伯は、マンマークをあえてつけないやり方に驚く。脅威と言える人間に対し、マークを付けないという世良の思惑に対し、戸惑いを隠せない。

 

「ドリブラーはスペースがあってこそ輝く。相手を抜き去ることで、その価値を見出す。だが、引いて守った相手には?」

 

 

世良は、強豪チームと言えど、押し込まれる彼の強さを理解していた。そして、引いて守ることこそが彼を自由にさせない糸口だと考えている。

 

「佐伯には見覚えがあるだろう? 引いて守ると攻めあぐねる、コースがないから前に進めない」

 

「—————そう、ですね。それならあの攻撃力を鈍らせることも」

佐伯としては、一人で相手のチーム戦術を歪めるほど強力なカードに動揺を隠せないが、それが最善手であることに疑いの余地はないと感じていた。

 

「—————高等な守備戦術でダメなら、引いて守るしかない。カウンターの際に、鷹匠さんの突破がカギになりますけど」

 

 

「望むところだ」

 

 

鎌倉学館が王者のサッカーを捨て、リアクションサッカーで挑む。王者と言われ続け、神奈川のサッカーを長年リードし続けてきた名門が、新興勢力に勝負を挑む。

 

個性を生かし、個の力を信じる江ノ島サッカー。それぞれの長所を引き合わせることで、驚異的な爆発力を生む彼らに対し、意地と誇りを賭けることになる。

 

 

 

 




いつかの日本代表IF(ブラン長期政権√)&おまけ

ブラン監督「江ノ島産はいいね。プレーに思い切りがあるよ。これも君の手腕のおかげかな、ミスター岩城」

岩城コーチ「僕は何もしていませんよ、ミスターブラン。彼らが自分で考え、一歩を踏み出した。それだけです」

ブラン「悪いね、思いの外君の高校の出身が多いから呼びつけて。後任の監督さんも調子よさそうとは言え」

青葉「まさか、岩城さんとまたやれるとは。光栄です」

織田「ああ。後任の瓜生監督も、うちのスタイルと緻密な守備陣形を融合させ、さらなる次元へとチームスタイルを進化させている」

飛鳥「ETUもしくは江ノ島の招集人数おかしいぞ。出身選手が何人いるんだ」

椿「えっと、飛鳥君が言っても、嫌味にしかならないと思うんだけど・・・・」

駆「なんだか、昔に戻った気分だよ。みんなと代表で会えるなんて。ガブはあっちの代表で元気にしてるかなぁ・・・」

高瀬「相変わらず、俺の頭にボールが飛んでくる。凄い精度だ」


なお、全員海外組


少し離れた先で、

細見「毎年CL出ている選手は違うな。昨シーズンはリーグ、CLの二冠か・・・」
(PSGのレギュラー。なお、彼もCLに複数回出場)

花森「ふふふ。こ、ここの俺の地位をおおお脅かす・・・・いいだろう、う、う、う、受けて立つ・・・・」(海外組、最年長)
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