騎士見習いの立志伝 ~超常の名乗り~   作:傍観者改め、介入者

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遅れましたが、神奈川予選です。


第三十二話 ポリバレント

 

神奈川サッカーもいよいよ決勝戦を残すだけとなり、会場は既に満員の一歩手前となっていた。

 

 

「————————」

 

サングラスをかけて、会場へと歩を進める少女—————小野寺颯は、先ほどから聞こえる雑音が耳に入るばかりであった。

 

「今日も青葉君がゴールを決めるよ~」

 

「イケメンで、足が速くて、しかも身長高いし! 一言でもいいから話しかけられないかなぁ」

 

「クールな青葉君の笑顔が見たいなぁ」

 

「無理無理。噂じゃ、サッカーが生きがいみたいよ」

 

「でもでも! 可能性はないわけないじゃない!」

 

青葉に対する黄色い声が日に日に増している。器量よし、性格よし、そして将来有望な日本代表候補。当然人が集まるのは仕方のないことだろう。

 

—————上辺だけで、青葉が振り向くはずがないじゃない

 

自分の初恋は既に終わっているが、彼女らに青葉がいい顔するのは気に食わない。もっと彼にはふさわしい女性がいるはずだと、颯は思う。

 

最近では、大阪バファローズのエース、大塚栄治が同い年の大学生と熱愛発覚か、という噂が流れたり、無実のスキャンダルで風評被害に遭う横浜の沖田道広が迷言を残すなど、女性問題で苦労する若いアスリートが目立つようになっている。

 

その点、逢沢と美島は理想的なカップルだと考える。どうせ恋をするのなら、何かひたむきに打ち込む真面目な青年がいい。しかし、中々いないのは事実だ。

 

江ノ島の面々はもはや異性の対象として見れない。家族————そう、家族なのだ。彼らの頑張る姿に惹かれているだけなのだ。

 

—————気の迷い。私には今度こそワールドカップを取る夢があるのだから

 

しかし、桃色の空気で汚染された思考を掃除した颯はそれ以降の言葉をシャットダウン。自分の夢、彼が紡いでくれた希望を右足に抱え、進むのだと決意する。

 

「——————でも、本当に私の周りにそういう対象はいないわね」

 

しかし彼女は知らない。フラグは、意外なところでその時を待っていることに。

 

彼女がメンタル糞雑魚な年上の快足アタッカーとフラグが構築されるまで、あと半年を切っていることに。

 

 

 

一方、鎌倉学館との決戦を控えた江ノ島イレブン。そこには油断も慢心もなく、勝利という二文字に集中する戦士たちが並んでいた。

 

試合前ロッカールームでは、

 

「インターハイで、3年生が引退し、良くも悪くもチーム状況はどのチームも変わっています」

 

岩城監督は、新しく1年生2年生で構成されたチームを前に、インターハイとは違うぞということを明確に伝える。

 

「—————彼らは大まかな戦術は変えないでしょう。サイドアタックと、トマホーク。これが彼らの武器であることは、これまでの試合ぶりからも推察されています」

 

鎌学は良くも悪くも変わっていない。鷹匠というストライカーと、世良、佐伯といった攻撃陣は変わりないのだ。

 

「そして変わるのは、青葉君への対応です」

 

 

「——————5バックでスペースを消される、そういうことですか?」

 

瞬時に即答する青葉。ドリブラーにとって致命的なのは、スペースそのものを消された時だ。スペースがなければ通常ドリブラーは役に立たない。

 

鎌学はマークをつかせるのではなく、ゾーンディフェンスとフォアチェックでスピードを遅らせ、スペースそのものを消す戦術を取るだろうということだ。

 

「ええ。となると、ゴール前は密集することが予想されるでしょう。中への絞りは極力控えたほうがいいかもしれません」

 

3バックはサイドアタックに脆い傾向にあるとはいえ、彼らは5バックを敷いてくる可能性がある。

 

3-5-1-1の布陣は中盤の数的有利に目がいきがちだが、ワントップの鷹匠への縦一本も警戒する必要がある。

 

それを止めるためにはウィングバックを下がらせ、世良に仕事をさせないかにかかっている。

 

「今回は前々からのプラン通り、4-4-2の布陣で対応します。中盤は織田君と堀川君」

 

 

GK  1番 紅林

LSB 2番 桜井

CB  4番 海王寺

CB 14番 錦織

RSB 3番 八雲

CMF 6番 織田

CMF12番 堀川

LMF 8番 宮水

RMF18番 的場

ST  7番 逢沢

CFW13番 火野

 

ベンチ入り (GK)16番藤原、19番林葉、(DF)15番 園田、5番 三上、17番 藤田(MF)10番 荒木、11番 兵藤(FW)20番 夏目、9番 高瀬

 

 

4-4-2だが、今回は少しばかり違う。得点感覚に優れた逢沢をゴールに近い場所に置き、火野のサポートをすることになったのだ。駆本来の持ち味である裏抜け、守備の穴を見破る観察眼がいかんなく発揮されるポジションである。

 

中盤のバランスを考えなくていい分、逢沢に自由を与える形となった。

 

 

————ここで火野先輩か。くっ、チャンスは遠い。

 

火野は高瀬に比べてテクニックもあり、フィジカルは劣るがワントップを張るには十分な強さを持っている。

 

岩城監督はこの試合、火野を前半で交代させるつもりだった。

 

万能型フォワードの火野と逢沢の連携により、サイド突破からの様々なクロスボールに対応できる能力があると考えている。故に、技術力のある選手を前線に置きたい。

 

高瀬は一つを満たしていたが、技術では火野に軍配が上がる。夏目は速度に優れているが、判断基準がずれている。

 

戦術を理解しているからこそ、夏目は妥当だと考えていた。

 

 

岩城監督が考える後半の布陣は、足が止まる時間帯だからこそ考え付いた攻撃的な布陣。それは後半に取っておくべきと考えていた。それは、今まで練習試合、リーグ戦において試したことがない布陣。しかし、必ず必要になると考えられる布陣。

 

 

—————もし、今までの布陣を対応された場合、使う必要がありますね

 

 

 

そして、鎌学ロッカー。打倒江ノ島に燃えるイレブンは、青葉と駆がスターターで出てくることで武者震いを各々見せていた。

 

かつての10番の忘れ形見と、その10番が風と表現するサイドアタッカー。

 

 

この二人に仕事をさせない。

 

 

「いよいよだ。我々は江ノ島に手痛い敗北を喫した。が、これほど早く雪辱を果たす時がやってきた」

 

 

夏の試合を思い出す面々。3年生は一部が引退し、その屈辱を知るのはここにいるメンバーと、スタンドで応援した部員—————そして、鎌学の生徒一同。

 

 

前半は青葉不在の中、試合を有利に進めていた。荒木が負傷し、駆へのプレッシャーが強く、江ノ島は思うような攻撃が出来なかった。

 

 

だが、青葉が後半頭から入ったことで、全てが崩れ去った。

 

「打倒江ノ島、打倒宮水青葉。おそらくこれが、彼と戦う最後のチャンスだと思う」

 

 

高校サッカーの枠から外れた怪物。程なくして、彼はプロの舞台へと渡っていく。出戻りもないだろう。正真正銘、この選手権シーズンが彼の高校サッカーの最後なのだ。

 

 

「心してかかれ。我々は挑戦者だ。いよいよ総体を制覇した王者に挑む。将来の日の丸を背負う選手たちに勝負を挑む」

 

リスペクトを失わない鎌学のサッカー。それだけの難敵、それだけの強敵。

 

 

「しかし、その座を我々が奪うなとは言っていない」

 

 

しかし、彼は野心を隠さない。そんな壁を乗り越えた時、必ず彼らはそれらに比肩し得る存在になれると信じている。

 

 

「———————日の丸を背負う、彼らに成り代わる瞬間を、私は期待する。諸君、勝ちに行くぞ」

 

 

ジャイアントキリングの始まりだ。

 

 

 

そして視点は会場へと変わり、超満員の観客の視線をくぎ付けにする瞬間がやってくる。

 

『さぁ、いよいよ始まります。全国高校サッカー選手権、神奈川予選。そのファイナルのキックオフが間もなく吹かれようとしています。解説は福田克人さん、実況は私江田信二でお送りします』

 

 

『10年ぶりの予選通過を狙う江ノ島高校と、大会連覇がかかる鎌倉学館高校。夏のファイナル再び、というカードになりましたね』

 

 

『はい。どちらも攻撃陣の層が厚いですが、やはり江ノ島に分があるとみて間違いないでしょう。注目は宮水君のプレーではあるのですが、ベンチ入りしている荒木君をどのタイミングで起用するかですね。』

 

『チーム一のテクニシャンをどのタイミングで起用するか。そして鎌学ディフェンス陣が宮水選手のドリブルに対し、どのような対策を講じるのかが注目です』

 

『ええ。中盤の推進力として大きく貢献している彼ですが、その決定力は得難いものがあります。江ノ島としては彼をゴールに近い場所でプレーさせたいでしょう』

 

 

 

 

鎌学、江ノ島イレブンがピッチに入り、主将の織田と鷹匠がコイントス。その結果江ノ島が先攻ということになった。

 

 

「祐介——————」

 

セカンドトップとして、ついに本領発揮が期待される駆。しかし、鎌学の守備位置が後ろ寄りであることが気がかりだった。

 

—————守備的に来るのはある程度予想していたけど

 

 

ウィングバックの位置が低い。いや、中盤のコンパクトでドリブルコースを消すような位置取り。

 

そして、その違和感は青葉も当然熟知していた。

 

—————なるほど、やはり予想していた対策

 

 

この試合、鎌学はスペースを消す戦術を徹底してくるだろう。リトリートとフォアチェックを使い分けながら。

 

 

 

キックオフの笛が鳴り、試合が開始される。火野から逢沢。そしてサイドに待つ的場へとボールが渡る。

 

—————圧が低い。ならもっと前進して

 

的場はドリブルで上がることを考えるが、すぐにその考えを遮られる。

 

「!?」

 

 

中盤の数的優位を駆使し、鎌学はその場所を支配しているのだ。

 

————なるほど、リアクションサッカーとカウンターか

 

これではさすがの青葉もどうにもできない。この試合、彼にはマークがついていないが、彼のドリブルコースは制限されている。

 

 

『ボールを保持しているのは江ノ島ですが、攻めあぐねていますね。』

 

『世良君と鷹匠君の力を信じて、中盤でスキのないディフェンス。半面運動量は求められますが、有効な手立ての一つですね』

 

 

「くっ」

確かにボールは保持できる。しかし、攻めることが難しい。このまま延長戦まで突入し、PK戦までもつれ込んだら危険だ。

 

圧倒的に優位なのは江ノ島だ。なのに、得意のロングフィードも使えない織田は歯噛みする。

 

 

膠着状態が続く試合展開で、青葉は駆を見ていた。確かに、パス回しとドリブルだけではこの守備を突破することはできない。

 

 

この局面で必要になるのは黒子役。そして、中盤の飛び出し。サイドにいる自分はその手助けを行うだけだ。

 

「こいっ!!」

 

力強く、彼は叫ぶ。自分にボールを寄こせ、この膠着した状態を打開すると宣言する。

 

 

その言葉を堀川に送る。織田からのバックパスでどうするべきかを考えていた彼は、青葉がヒントを与えてくれるのだと信じた。

「青葉!? なら殺ってみせろ!」

 

 

下がってきた青葉にボールが渡る。そして彼らしからぬゆっくりとしたドリブルが開始される。その周辺にはマークが存在せず、中盤と終盤を固めている鎌学は彼の動きに注視する。

 

 

————来たか、問題のサイドアタッカー

 

鎌学の誰もが身構える。彼はこの状況で打開策を見出したのだ。だから、あれほど自信気に満ちた顔をしている。完璧にドリブルコースを消したと思われるフィールドで、彼は何かを見つけたのだ。

 

ブロックを作り、プレッシャーが弱い。寄せも甘い。しかし、スピードに乗せないよう進行方向を遮る。

 

 

「行かせねぇよ」

 

「来いや、おらぁぁ!!」

 

彼を煽るかのように闘志を燃やす鎌学の選手。ここで、青葉がボールをロストすれば、流れは一気に鎌学へと傾く。

 

そして、右と左へのコースを消されている青葉は、ゆっくりとサイドに流れながらドリブルで動きをずらしていく。ボールを横へロールしながら、彼らのスキを窺う。

 

————何をする気だ、ゴールまではまだ遠い。

 

————ここでこいつを止めたら———!!

 

トンっ、

 

ここで動いた。青葉は左右へのコースを消しに来ていた鎌学の真ん中へとギアを上げたのだ。豪胆にも、ど真ん中のコースを選択したのだ。

 

 

「そいつは織り込み済みだぁぁ!!」

 

何かしらの約束事があったのだろう。サイド寄りの選手が真ん中のコースを塞ぐ。そして青葉はサイドに流れながら縦へと抜け出す。

 

 

「!!」

 

ここで初めて、青葉は彼らの作戦を悟る。サイドに流れ過ぎた彼は、鎌学の脅威になり得ない。彼のドリブルを止めることは困難と言っていい。だが、誘導することはできる。

 

 

サイドの端へと追いやられた青葉の前に、新たなブロックと、猛追する二人の選手。

 

————なるほど、やってくれる

 

このまま横を切られながら進めば、いずれ後ろの選手も追いつく。縦に行ったとしても、ゴールからは遠ざかる。

 

「仕方ない」

 

突破が無理なら、別の手立てを考えればいいだけだ。

 

 

「「「なっ!?」」」

 

追いかけた選手、横を警戒していた選手が驚愕するロングフィード。シュート性のクロスがゴール前に襲い掛かる。

 

 

意表を突く、苦し紛れに見える青葉のロングフィード。しかし、彼は見えていた。

 

「くっ、このっ!」

 

「行ってください、火野さん!!」

 

スクリーン代わりに、駆が黒子役に。クロスを予測していた鎌学選手と競り合う駆たちの傍を通過し、ボールは火野の頭上へ。

 

「うおぉぉぉ!! なんつってな!」

 

しかしこのボールを火野はスルー。追い縋った鎌学選手のマークが剥がれる。ゴール前のブロックが完全に剥がれ、

 

 

「ッ!!」

 

大外から走りこんでいたのは的場。二列目のサイドから一気呵成に攻め込んでいたのだ。しかし角度がない場所であるため、的場の前にシュートコースは無い。

 

————周囲を囲まれ、シュートコースはほぼ塞がれている。

 

ペナルティエリア内、迫りくる鎌学選手を前に、的場は冷静に考える。どこかに糸口はないものかと

 

 

そして、低く這うようにペナルティエリアで忍び寄る影を見つけた。全ての視線がボールに集中するかのような緊迫した場面で、別の景色を見つめる存在。

 

 

周囲の雑音、緊張から解放され、ただ一つの目的の為に走るモノ。

 

その存在は、指差しである場所をさしたのだ。自分ではなく、ボールをそこに置くことを指示して。

 

 

それを見つけた瞬間、的場は彼らしいと笑みを零す。

 

「「「「!?」」」」

 

的場はループを選択したのだ。シュートにしては外れたミスキックに見えるそれは、そのただ一つの穴へと向かっていく。

 

 

そのループ自体に、脅威は一切存在しない。放っておけばボールはラインを割るだろう。しかしその場所に彼は必ず走りこんでいる。

 

 

ストライカーならば、チームのエースならば

 

 

「うおぉぉぉぉ!!!」

 

間に合うかどうかギリギリのタイミング。そこに背番号7の姿があった。

 

 

—————ダイビングヘッドは威力がない。なら、

 

 

一番難しいプレーを選択しろ。かつて、兄がそうして見せた様に。

 

 

折り返したループ性のボールに、

 

「!?」

キーパーは信じられないものを見るかのように、駆の動作を見ていた。

 

 

キーパーの眼前で、ダイビングボレーシュートという高難度のプレーを選択した駆。ボールの根元に入った強烈なシュートが鎌学のゴールを襲う。

 

 

強烈な弾道はキーパーの死角、頭上へと向かい—————

 

 

ガンッ!!

 

 

 

そのシュートは惜しくもバーをたたき、得点とならなかった。競技場は大きなどよめきで埋め尽くされ、その余韻に浸る観客は多かった。

 

まだまだ進化し続ける天才の忘れ形見。そのストーリー性と、一試合ごとに成長を続ける主人公のような存在が、彼らを魅了して止まない。

 

 

逢沢ッ!!

 

逢沢ッ!!

 

逢沢ッ!!

 

 

逢沢コールが起こる会場。たった一つのワンプレーで、彼はこの停滞する試合を動かした。黒子役の後にマークを外し、最後の瞬間に顔を出す。

 

 

逢沢の成長の証を証明するプレーであった。

 

 

『逢沢のシュートは惜しくもバーをたたきました!! しかし、今の流れは凄かったですね』

 

 

『宮水君もよく見ていましたねぇ。まさか、最初から逆サイドの的場君を見ていたなんて。物凄いサイドチェンジでした。そしてその的場君も、最後逢沢君を見ていましたね』

 

 

『トップ下という括りから解放された逢沢君は、その威力が増していますね』

 

 

今の流れは紙一重と言っていい。わずかな誤差がなければ逢沢はネットを揺らしていただろう。

 

 

このプレーを機に、江ノ島は流れを完全に引き寄せる。

 

 

世良と堀川のマッチアップ。しかし、完全に雰囲気にのまれている彼はいつもの実力を発揮できない。

 

—————ダメだ、ここで俺が—————

 

「———————なっ!?」

 

「殺したァァァ!!」

精彩を欠いたドリブルフェイントを、新進気鋭の堀川が見逃すはずがない。シザースのトラップミスを突いたプレスで逆ボールを奪われてしまう。

 

『おおっと、ボール奪った! あっと抜け出したァァァ!! 堀川のドリブルが始まる!! そして、パスが前に通ります!!』

 

 

ボールカットした堀川のパスに反応した青葉が縦に切り込んでいく。横へと行くそぶりを見せない彼は、一気に敵陣深くまで切り込んでいく。

 

「クロス警戒!! 上げさせるな!!」

 

「横も警戒しろ!! カットインするぞ!!」

 

クロスの精度というもう一つの武器が牙をむいた。これで一気に江ノ島が攻勢に出る。

 

 

ゴール前には火野と逢沢。火野はひたすらポイントマンとして動き、逢沢は中央で動きなおしをしている。

 

そして逆サイドの端に的場。先ほどのプレーで彼にも人数をかけているのだ。

 

 

————本当に俺たちの知る駆じゃねぇ、傑の意思を理解したストライカーそのものだ

 

国松は、彼を自由にさせないようマークに張り付いていたが、脅威を感じさせない。なのに隙がない。

 

一瞬でも距離を開けば、やられるという予感があった。

 

 

駆が横にズレながら動く。国松も動く。

 

『クロスあがった!! また速いクロスだ。今度は逢沢だァァァ!!』

 

 

今度はしっかりと逢沢へとクロスを上げた青葉。しかしクロスが強すぎたのか、駆の動き出しの方向とは逆方向へと流れていく。

 

—————奴のミスか、だがこれでゴール前を固めれば!

 

仮に彼がボールをもっても止められる。切り返そうものならそれこそカウンターだ。目の前で駆の足元へとボールが進んでいく。そして、

 

トンっ、

 

 

切り返しでは遅い。フェイントでは人数を詰められる。ストライカーに求められるのはそこではない。

 

「っ!!」

 

ファーストラップで、その一撃で、とどめを刺せ。

 

 

左足のヒールでトラップした駆は、そのまま切り返したのだ。トラップから切り返しではなく、その二つを同時に行うという発想により、国松は逆を突かれた。

 

————くっ、撃たせるわけには!!

 

無理な体制でも、なんとか彼にシュート撃たせてはならない。国松が身を乗り出してスライディングで止めにかかる。

 

—————ここまで、おまえは先にいるのか

 

しかし届かない。完全に振り切られた眼前で駆がゴールを奪いに行く。その光景を見ることしかできない。

 

 

『トラップから振り抜いたぁァァァ!!! 江ノ島先制!! 決めたのは背番号7、アンダー16日本代表、逢沢駆!!』

 

 

『ファーストラップから見事な流れ、ボールを持つ前からイメージしていたんでしょうね。素晴らしいプレーです』

 

 

『前半28分! 江ノ島待望の先制点!! リードを奪います!』

 

一目散に青葉の下へと駆け寄る駆。まさにしてやったりな表情の駆と、満足げな青葉。

 

「恐れ入るよ、まさか、切り返しとトラップが同時とはな」

 

 

「トラップしていたら、詰められると思って。世界を見て、もっと早くプレーしないとダメだって、分かったから」

 

海外との試合がさらに駆を成長させた。基礎的なフェイントと、必殺技に等しいヴァニシング系。そして、オーストラリア戦で揉まれて鋭くなった、ゴールへの道筋を見通す目。

 

色々なポジションを経験し、積み重なった彼のプレースタイル。

 

ゴール前で決定的な仕事を果たすエリアの騎士に、彼はなり切っている。

 

 

鎌学としては、与えたくなかった先制点。これで前に出るしかないわけだが、それこそ彼の思うツボなのだ。

 

中盤でのボール回しにほころびが生じ、

 

「あっ!?」

 

佐伯に通るはずだったボールをカットしたのは青葉。その走力は普通の感覚では測れない。カットされるはずがなかった思われるコースは、青葉には範囲内だった。

 

————ギリギリだったが、上手くいった

 

内心、とてもひやひやしていたが。

 

 

 

そのままサイドから攻撃を開始する江ノ島イレブン。青葉に対して佐伯ともう一人対応するが、

 

「ダメだ、下がれ、前に出るな!!」

 

国松が制すも、もう遅い。青葉は中央へとスルーパスを選択。しかもアウトサイドで回転がかけられているため、絶妙なスペースへとブレーキしながら進んでいく。

 

「いいパスだ、青葉!」

 

走りこんでいたのは織田。しかし、彼がボールに触る時間は少ない。ダイレクトパスで縦にボールを通したのだ。

 

そして、その縦パスに反応していたのは逢沢だった。

 

「くそっ、いかせる、!?」

 

相手選手が驚愕するプレーをまたも見せつける逢沢駆。強烈な縦パスをファーストトラップで勢いを殺しつつ、シングルルーレットで縦に切り込んだのだ。

 

そして、グランダーのクロスの態勢に入る彼のパスコースを防ぐべく、姿勢を崩しながら身を投げ出す。ゴール前には火野が走りこんでいるのだ。コースを塞がなければ決められてしまう。

 

 

しかしここで切り返し。ボールから離れていく相手選手は驚愕し、駆に対して自分から離れていく。

 

そして—————

 

 

『撃ち抜いたぁァァァ!!! 江ノ島追加点!! 前半38分、終了間際にまたしても逢沢駆が決めた!! 最後ニアサイドですよ! よく通しましたねぇ』

 

 

『トラップからフェイントまで完璧でしたね。』

 

 

 

前半抑えられていたはずの江ノ島攻撃陣が、駆の突破で息を吹き返したのだ。正確には、青葉のクロスボールで鎌学の守備に迷いが生まれたのだ。

 

 

それほど、サイドからサイドへのサイドチェンジは強烈な印象を与えたのだろう。青葉自身はボールを持つ時間が少ないが、確実に鎌学の守備を翻弄していた。

 

しかも、彼はまだシュートを一本も撃たせてもらえていない。

 

 

『ここで前半終了!! 2対0とリードする江ノ島、総体に続いて選手権への道を切り開いた前半戦! さぁ後半も勢いを持続させるのか? それとも鎌学が意地を見せるのか!』

 

 

青葉のドリブルを止めるということは、それだけリソースを割くということだ。彼らは、他のタレントにおいても厳しい勝負を強いられることを理解しているようで、理解していなかった。

 

 

的場のドリブルを止めきれない。逢沢の攻撃を止められない。

 

 

そして、青葉には対策を立てた相手に対し、対策に応じた動きが出来る。エゴではなく、最善と思えるプレーを選択できる。

 

青葉の意思は、江ノ島のレギュラー、ベンチが持つ意思そのもの。

 

 

「—————それでも」

 

佐伯は、まるで隙の無い江ノ島の攻撃に対し、諦めるという選択肢を投げ捨てる。

 

—————それでも俺は、諦めない

 

 

二人は逢沢傑にあこがれていた。そして、駆は既に憧れという感情を捨てている。チームを勝利に導ける存在は何か、その答えの先に傑がいた。

 

自分が出来ることは何なのか、自主性を会得していた。

 

 

しかし、一矢報いることが出来なければ、この先永久に駆の隣に立つことはできない。高校時代に離されて、その先で果たして彼に追いつけるのか。

 

ここであきらめてしまえば、何か大事なものを失う。それでは夏と同じだ。

 

 

鎌学の闘志は、かすかに残っていた。

 

 

 

 




いつかのイースト東京IF

~IN香港~

青葉「カレー、ですか? 今クラブでは何が起きているんですか?」

駆「少し楽しそうかも・・・・」

青葉「あ、それと有理さん、何とか結果出しましたよ」


~IN日本~

有理「う、うん。凄かったよ、青葉君。それと今のクラブハウスの状況なんだけど、達海さんがカレーパーティしたいって・・・」

青葉『そ、そうなのか・・・とりあえず、まだ雰囲気がいいってことはわかる(川崎戦、ジーノとコシさんがいないのはきつすぎるな)』

奈々「駆~、本当にすごかったよ~。リオ五輪は一緒に出ようね 」

駆『うん、セブンと一緒にアベックで栄冠を獲りたいと思う。楓ちゃんや舞衣ちゃんによろしく!』

奈々「そうね、一緒にがんばろっ  それでね、この前の代表戦なんだけどね 」


いちゃいちゃ


有理「これが若さか・・・・」

青葉『悠里さんもまだまだ若いですよ』



楓「美味しいね、椿君。雰囲気のせいもあると思うけれど、とっても美味しい」

椿「え、えっと! そ、そうっすね!! うん、俺も美味しいと思います!」


コータ「あ~!! 椿がなんかいちゃいちゃしてる!!」

ヨシオ「これってすきゃんだるってやつじゃん!!」

テッタ「あの女の人、開幕戦にもいたかも!?」


世良「ちくしょぉぉぉお!!! なんで椿ばっかりなんだよ!!!」

亀井「顔か、やっぱり顔なのか!!!」

清川「チャラいのはやっぱダメなのかよ・・・・」

飛鳥「落ち着いてください先輩方・・・・」

杉江「みっともないぞ、お前たち・・・」

村越「そうだぞ、お前たち。これぐらいで動揺するようでは・・・」


世良「コシさんは年の離れた元アイドルの奥さんがいるじゃないですか!!!」

コシ「なっ!? そ、それは・・・・」

清川「どうやって落としたんですか!! 教えてくださいよ、人生経験!!」

亀井「あと、スギさんもこの前週刊誌にすっぱ抜かれたじゃないですかぁ!! あの人誰ですか!! 誰なんですよ!!」

コシ、スギ「い、いえるかぁぁぁ!!!」


ぎゃぁ、ぎゃぁぁ、ぎゃぁぁぁ



飛鳥「・・・・・帰ってきてくれ、青葉・・・・」

青葉『俺が帰国するまでに整えてくれないでしょうか、飛鳥さん』
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