騎士見習いの立志伝 ~超常の名乗り~ 作:傍観者改め、介入者
追記:ETUスタッフ陣の表記を追加しました。
選手権大会神奈川予選決勝を突破した江ノ島高校はお祭り騒ぎ、というわけではなく、サッカー部の面々は油断なく大会へと望む気持ちを新たにしていた。
しかし、一般学生は高校サッカーの歴史を変える江ノ島サッカー部の活躍に目を輝かせ、大会での好成績を期待していた。それでもプレッシャーを与えるようなことはせず、応援の言葉を述べるばかりで、悪影響を与えるものもなかった。
全ての流れが上手くいっているかのような江ノ島サッカー部。そしてサッカー部周知の事実がついに明らかになる時がやってきた。
またしても独占取材、トッカンスポーツのある人物より齎される。
—————青葉に続け!! ヤングサムライブルー、逢沢!
逢沢駆、イースト東京ユナイテッドへの入団が決定したのだ。今後は特別指定選手として、青葉同様にチームに合流することになる。
—————兄の意志を継ぎ、ついにプロの舞台へ
江ノ島サッカー部逢沢駆が、イースト東京ユナイテッドへと内定したことが昨夜明らかになった。イースト東京ユナイテッドと言えば、つい最近高校サッカーの怪物、宮水青葉の獲得に成功したことで話題を集めていた。
水面下で動き始めていた宮水の契約の段取りがほぼすべて完了し、同時進行していたプロジェクトを見事完遂したETU。未来の日本代表を担うと言われる若きサムライブルーが、ついにプロの舞台へと参戦する。
江ノ島サッカー部入部以前は無名に等しい存在ではあったが、高校一年目から大車輪の活躍。宮水、荒木、高瀬の枢軸とともにチームを牽引。その活躍は既に世界でも通用しており、アンダー16アジア選手権では黄金世代のオーストラリア相手に2ゴールをマーク。プロ入りまで秒読みとされていたが、一年目でのシンデレラストーリーとなった。
高校生Jリーガーの誕生。岩城鉄平という逸材を潰した江ノ島高校は歓喜に包まれる。サッカー部もいよいよこの時が来たかと選手権後のチーム作りも大変になるだろうが、レギュラー争いが活発化するだろう。特に的場と夏目はレギュラー入りを狙う実力と野心を隠そうともしない。
そして、プロ入りを決めた二人は淡々としていた。
「——————ここがゴールじゃない。ようやく僕はスタートラインに立ったんだ」
感慨深い気持ちになっている駆。しかし、気を引き締めないといけないと、ざわめきを落ち着かせようとするものの、浮足立っていることを自覚する。
————僕もまだまだ精神的に脆いなぁ
「—————必殺技でどうにかなる世界ではないからな。しかしまずは選手権だ。勝ってプロに行くぞ、駆」
そして青葉の方は選手権とプロの先を見据え、淡々としていた。
「流石すぎるな、青葉は。というか記事にちらっと俺の名前もあるし!! いやぁ、記者さんも目の付け所が違うねぇ!」
ナハハハ、と荒木は高々と笑う。パスセンスもさることながら、フィジカル面での成長も地味に果たしており、鎌学の息の根を止めるジョーカーにもなったので、あの試合の勝利の立役者と言っていい。
岩城監督も織田と荒木のダブルボランチという新たなオプションを試せたことを喜んでおり、選手権に向けて大きな材料になったそうだ。
この荒木のオプションのおかげで、江ノ島の戦術に幅が広がったが、堀川は危機感をあらわにし、練習に熱を上げているそうだ。
「ヒヒヒヒ!! 今日も殺すぅゥゥゥ!!!!」
ボールホルダーへの熱いプレスが今日もさく裂し、彼を起点に高速カウンターが始まる。織田からのロングフィードが夏目へとボールが渡り、ダイレクトボレーで彼がゴールネットを揺らす。あまりにも迅速なカウンターにチームメートも苦笑い。
「堀川が目立っているぞ!!」
「まるでレスターの汗かき屋じゃないか!! てか、織田の奴また一段と体が強くなってないか!?」
周囲からプレスの際に粘りを見せる織田。どうやら取り組んでいるトレーニングに成果が出てきたようだった。
「体幹こそ正義だ。当たり負けせず、前線にチャンスを供給することは、ボランチの仕事の一つだ」
体幹こそ正義と、インナーマッスル信者と化した織田。後は基礎的な筋肉を鍛え、プロ入りを見据えていた。
青葉と駆のプロ入りが彼にも刺激になったようだ。そして豪快なミドルシュートを決めて見せた夏目は、裏抜けとドリブル技術に磨きをかけ、二列目での起用も視野に入れている。
「もっと早く、もっと判断を早く—————」
夏目も練習から身が入り、周りの選手もそれに触発され、闘志を燃やしていた。
なぜなら、ここにいるのは江ノ島サッカーに魅せられた全国各地のスカウトが、まだ去就の決まっていない荒木、高瀬、織田のプレーをチェックしていたからである。
全国での彼らのプレーぶりを見て、二人以外の逸材を発掘しようとしているのだ。このまま江ノ島とETUのパイプが強くなりすぎれば、今後この勢いに乗っている高校から選手を獲得できない恐れもある。何しろ、二人不在の中でも圧勝した試合があったほどなのだ。江ノ島はまるで突然変異の様に急成長した。
そして、岩城監督と二人で練習風景を見やる人物の姿が印象的だった。
「—————練習からガツガツ行っているねェ。みんな凄いね、自分からアクションを起こしている」
リトリートでの守備を極力しないディフェンス陣。ドリブル突破を仕掛ける両サイド。前にスペースがあれば、ビルドアップするセンターバック。
今は練習なのだから、リスクを恐れずにプレーしろという指導方針から、選手の動きは試合よりも生き生きとしているように見える。
「万が一抜かれても、ここはまだ練習の場です。なぜ抜かれてしまったのかを考え、機会を与える。ミスを予測し、ミスに対してどのような修正を行うのか。チャレンジしなければ、ミスは生まれませんからね」
やっていることは、他の高校でも十分できることだ。しかし簡単そうに見えて、それを許せる、許す環境というのは作りにくい。
そして、その環境づくりを長年継続し、基礎的な指導を推し進めた二つのサッカーチームの融合が、化学反応を見せている。
後は砂浜でのビーチサッカーなど、奇天烈なゲーム方式の練習と言えるかもわからないものも存在する。
「行ったぞ、錦織!!」
「任せろ、織田!!」
組み立て式のネットを張ったと思えば、そこで行われるのはダブルス方式のバレー?もどきである。
通常ならば体全てを使ってボールを打ち上げる競技だが、全て足と頭のみで行う必要性があり、意外に難しい。
跳ね返ってきたボールや、強いボールに対する感覚を養うためのものである。
それを他の場所でも10ネットも組み立てており、それぞれがキックコントロールを磨いていた。
そして、ミッドフィルダーの一部メンバーである荒木やその他中盤の選手は、フットサルにて、両サイドハーフとのポジションチェンジの練習を行っていた。
当然、Aチーム、Bチーム、その他など複数のチームが総当たりでディフェンスとオフェンスの訓練を行い、ポジションチェンジに対する攻撃と守備の感覚を養っている。
「もっと早いボールが欲しい!! 俺の時に優しさはいらない! ギリギリのところを頼む!!」
声を出すのは宮水。ふつうは厳しいパスを出した出し手を叱るのだが、彼はゴールへの最短ルートを考えるうえでその判断を下す。今のは、互いに息が合わなかったのだ。
「おう! じゃあ次はちょっと伸びたほうがいいか?」
チャレンジすることが大切なのだ、という精神を忘れない同僚。宮水も気兼ねなく話してほしいと普段からお願いしているので、会話も弾む。
「気持ちそれぐらいで頼む!」
その他、基礎的な体力づくりと基礎技術を磨く時間よりも、実戦形式や変則的なシチュエーションが多い印象の江ノ島。
「そりゃあ上手くなるわけだ。ゲームにここまで集中できていれば楽しいだろうなぁ。動く体力も自然とついてくる」
ダブルス方式のサッカーは、ボールをどこに蹴りこむのかを定めたうえで、その力加減を養い、徐々にそれはダイレクトでのプレーの幅を豊かにする。その到達点の一つに、ロングフィードからのポジションチェンジにもいい影響を与え、受け手も効果的なランニングが可能となる。
あくまで岩城監督は発想を伝授したに過ぎない。やるのは選手。どのように応用するのかも選手。サッカーの範疇ならば、ルールを多少変えてもいい。
気を付けていることは、相手の意見を聞くこと。練習なのだから、試すことは必要なのだと言い聞かせていること。
どこか緊張感がないようにも思えるが、これが練習試合になると話は変わってくる。
本番さながらの緊張感の中、ベンチ入りを目指す者、守る者、彼らのエゴが入り乱れる激闘になる。
「—————うーん、途中出場なのは納得ですが————」
「————みんなの闘志がすごい。中てられそうだ」
宮水と逢沢はベンチスタート。練習からいい動きをしており、試合勘が欠如したという報告もない。計算できる選択肢を増やすためには、計算がすでに出来る駒を酷使する必要はないのだ。
「また格好つけの癖が出ているぞ、荒木先輩! それに堀川先輩も冷静に!! ホルダーに対してプレスすればいいわけではないですよ!!」
もっと視野を広く、Aチームに対し、指示を送る宮水。そして、
「寄せ甘いよ!! 中盤もっとコンパクトに! 織田先輩と海王寺先輩はラインの上げ下げを徹底して!! 夏目君には一人ついて! 怖がらずにラインを上げましょう! 二列目は守備からの攻撃を意識して! 相手のチャンスをまずは減らす努力をしよう!」
「距離感を意識しよう! スルーパスを消したいのか、足元の速いパスを防ぎたいのか! 守備は個人で出来るものじゃないよ!」
Bチームに対しては檄を飛ばす。まるでコーチのような姿にベンチメンバーは微笑み、フィールドプレーヤーも外から見たアドバイスに耳を傾ける。
後に、試合が膠着状態になる。パスの出し手でもあった荒木と織田が消され、縦パスを出せずにいた。
そんな江ノ島の練習風景を見ていたスカウト—————笠野は、憧憬に似た感情を抱いていた。
エリア付近まで出て、選手たちに指示を送る青葉の姿。それはまるで、彼の様に見えなくもない。
ただ一つ言えるのは、彼の様に突拍子もない行動はしないということだ。性格は村越に似ているだろうか。
「——————本当に、彼がうちに来るのか………前田の早とちりは正しかったんだろうな」
前田芳樹副GMのごり押しがなければ、静観するつもりだったETU。性格やプレースタイルが違うのに、どことなく彼を連想させる存在感。
奴にボールを預ければ、何かが起きる。劣勢の展開を変えられる。
しかし、笠野の中に燻るのは、ある自己満足にも似たしょうもない感情だった。
————達海や、伝説のトップ下が前座と思えるほどの存在感。それはそれで悔しいな
16歳の達海が、あそこまで他を圧倒出来たか?
伝説のトップ下が、一人で戦況を打開できたか?
サッカー文化が根付いて数十年がたち、文化が形成された末に生まれた、奇跡のような存在。
類稀なスピードとパワー、そしてテクニック。視野の広さとドリブル技術。理不尽過ぎる存在。
———分かっているさ。宮水青葉は、おそらく達海を軽く超えていくことぐらい
心底ほれ込んでいた逸材だった、ほれ込んだ選手だった。自分の手で終わらせてしまった、日本の未来だった。
そんな日本の負の歴史を、吹き飛ばすような存在。それが彼なのだと直感する。彼が逸材であることを、スカウトマンが証明する必要がないくらいに、彼は抜きんでている。
今もなお、フィールド近くで檄を飛ばし、味方に指示を送る青葉の姿。
—————なぜ、うちに巡り合わせたんだ、彼を?
今の自分にはまぶしすぎる。今度もまた、この逸材を潰すかもしれないのに。達海という未来を壊し、このクラブは宮水青葉という未来まで奪うのか。
まるで神様が、ETUに変われと言っているようなものだ。今度こそ間違うなと。エースに依存し、崩壊していったチームを作るなと。
その最後のチャンスなのではないのか。
—————前に踏み出せと、そういうことなのだろうな
きっと彼は、そんな大人の事情すら関係なく、真正面から打ち破っていくだろうが。
ゆえに、笠野は久しぶりに宮水青葉と逢沢駆の報告を直に行うために、本拠地オフィスに戻ることにしたのだ。
「笠さんが戻ってくるなんて、やはりそれほどの選手だった、ということですね、彼は」
前田副GMが満足げな笑みを浮かべ、笠野に問いかける。日本サッカーの歴史を変えかねない男をめぐる争奪戦で、心血を注いだ。気持ちが入らないわけがない。
「——————達海を、思い出してしまった。まるでアイツのような—————あの時から10年以上が経って、まさか達海を思わせる選手を二人も見られるとはなぁ」
地方クラブで燻っていた、まだ自分の才能を知らない7番の若き俊英。このままでは無名のままで終わりかねない、笠野にとっての彼の再来。
そんな彼に、影響を与えるかもしれない、青葉という存在。
「——————もうすぐ選手権ですよねぇ、笠野さん。高校ラストの大会で、どこまで彼がやれるのか————あのベストメンバーの蹴球高校相手にどこまでできるんでしょうね!」
レオナルド・シルバを筆頭に、海外選手を獲得しているチームは、ベストメンバーであれば総体を制していたと言われている。
だからこそ、世間はまだ江ノ島を王者と認めていないのだ。所詮は日本国内で騒がれた早熟の選手と。
浦和に内定した風巻とは、いわば前哨戦であり、弱小クラブのETUが演じられる相手ではない。しかし、ここで彼らが活躍し、勝利すれば、プロでの実績を示す前に知名度アップにつながるというわけだ。
来年の観客動員数という数字がちらつくのは、広報担当として仕方のないことだった。
笠野スカウトマンが江ノ島高校を訪れた数日後、青葉はある感覚について気がかりになりつつも練習に参加していた。
—————本来なら、あのレンジは俺の距離ではなかった。
試合を決定づけたロングシュート。それはいつもの青葉のシュートレンジから考えれば、強引ともいうべきものだった。時にはあの距離から撃つこともあるのだが、大事な局面であれを選択できるかといわれると、判断に迷うところがある。
—————だが、あれを決めることが出来た。あれを肯定した
その時に、自分は何を考えていたのか。無我夢中で、コースが空いたから打ってもいいと思ったのか。
あの瞬間は、計算を超えた本能でゴールを奪いに行った。自分で自分を制御できないプレーがあった。
————そこが、俺の伸び代か。面白いっ
あの試合で得たものは大きかった。自分の中でのプレーの幅が広がった。自分のプレースタイルが更新され、また一つ武器を得ることになった。そんな試合があったのは、やはり神奈川の試合だけだった。
もっと言えば、鎌学との試合が一番充実していたと言える。他の全国の強豪校では味わえない。
————どうやら、この世代の高校サッカーは、神奈川が一番充実しているようだな
単体でも飛鳥亨を超えるディフェンダーはいなかった。彼を知れば、総体で対戦したディフェンダーは取るに足らない。今後も成長する彼だからこそ、倒し甲斐があるのだ。
そして、そんな鎌学を総合力で上回る蹴球高校。ベストメンバーではなかった総体ではあったが、選手権はフルメンバーが濃厚だ。
————待っていろ、蹴球高校。お前たちを倒して、選手権を制して、プロに行かせてもらう
基礎練習をこなしつつ、実戦的な試合形式の紅白戦が主眼となる日々。宮水は神経を研ぎ澄ませ、自慢のスピードでピッチを蹂躙するのではなく、最適解を理解したプレーを学ぼうと躍起だった。
どこまで練習の時から集中できるか。集中することは彼の性格上当たり前だったが、より鋭く深い領域に至る為の意欲が足りなかった。
サッカーを知らなければならない。人は自分をブラジルの怪物の再来と揶揄するが、他人の空似ではいずれ壁にぶつかることは目に見えている。
真の意味で、自分の脚力と、本能染みた最適解を制御できるブレインを磨くことこそ、成長できるきっかけなのだと。
「—————纏う雰囲気がやばいな。迂闊に飛び込めない」
練習だから前に出て行こうという意図を理解していても、青葉の前には出られない。海王寺は、不用意な一歩こそ致命傷につながる予感を感じていた。
—————鎌学戦以降、さらに動きのキレというか、前段階の動作がとにかく危険だ。
探るような集中力。気を抜けば逆回転の掛けられたフライスルーパスやミドルシュートが飛んでくる。詰めればドリブルで振り切られる。
しかし、ここで前に出て青葉からボールを奪えば、成長につながる。
海王寺と、それに呼応した堀川が前に出た。バイタルの深くまで侵入を許し、サポートがある中でのチャレンジ。セオリー無視とはいえ、対人能力として求められるのは青葉からボールを奪うことだ。
素早い堀川のスライディング、とはいかず、位置取りを考えながらの突進。海王寺が逆側をサポートしつつ、接近し、完全に青葉を止める。
—————叫べ、ねぇ—————
意気揚々と切り込むことが出来ない。絶妙な緩急とひざの曲げ角度での連続シザース。まるで相手の出方を見るかのように青葉の眼光は堀川と、逆方向の海王寺を捉えていた。
青葉はボールを一度も見ていない。それだけの力量と度胸が彼にはある。
そして、動きながらのディフェンスに絶対のディフェンスはない。刻々と角度、範囲、ゴールまでの距離が変化し、守り方も変わる。一瞬の隙こそ、青葉に加速を許す一因となる。
そして、堀川は自分が認識する青葉の間合いギリギリに入り込んだのだが、それは堀川の想定を超えた、青葉の間合いの中にあった。
つま先でのプッシュを起こし、仕掛けを開始した青葉。インサイドではなく、トゥーキックでのボールタッチ。ゆえに日本人とのタイ人経験しかない彼にとってそれは、致命的ともいえる反応の遅れを許してしまう。
—————くっそっ
真っ直ぐ海王寺の方角へと向かう。この場合考えられるのは、堀川を引きつけ、海王寺との間を加速で抜く強引なやり方と、切り返しで堀川の逆を突く方法。
そして三つめは——————
三つ目の最悪のルートを網羅しきれなかった堀川と海王寺。そのわずかな予測の遅れが、青葉に最適解を教える。
堀川が縦を切りながら、サイド側をケアし、海王寺が逆をサポート。しかし青葉は、海王寺の動きを利用し、ダブルタッチで大きく横にスライド。
「くっ!?」
堀川がここで完全に振り切られた。残るは海王寺だが、逆側をケアしたせいで、反応が遅れる。
—————相変わらずの鋭さだが、まだダッ!!
それでも力を振り絞り、青葉に追い縋る海王寺。それに反応する堀川。まだ終わりではない。
だが、青葉は海王寺の釣りすら計算内だった。ダブルタッチでの加速をゼロにしてしまう彼は、その場で急停止したのだ。当然海王寺も止まらなければならないが、それまでの加速が足に来る。
「く、うっ!?」
動けない。ここで切り返しをされれば————しかし堀川がケアに入る。だから安心だ、と逆側へのケアのみを考えた海王寺。
そうして、海王寺の想定の範囲内ではあるが、青葉はエラシコの切り返しで彼を抜き去る。後はそのわずかなスキを堀川がつくだけで、ボールを奪える。
だが、エラシコの加速を利用した、ルーレットが堀川の足を止める。
————こ、こいつは—————ッ
左足の足裏でボールコントロールしつつ、シングルルーレットで海王寺の背後を突いたドリブルで、一気に二人を抜き去ったのだ。
あまりにキレのある動き。一つ一つの判断が早く、まるで読んでいるかの如き動き。
気づいた時には遅く、中央突破を許した守備陣は豪快なシュートを突き刺されていた。
「—————————————ふぅ」
大きく息を吐いた青葉。練習からキレキレであるにもかかわらず、喜びの表情が見えない。
—————集中していたが、これも違う。
こんなものではなかった。あの時の自分は、こんなものではなかった。
掴みかけている。この手ですでに掴んだ感覚を忘れられない。
————もっと激しい試合に身を置けば、気づけるのか?
もっと強く、もっと激しい試合に出たい。
湧き上がる闘争心を制御できない。知らず知らずのうちに青葉は獰猛な笑みを浮かべていた。
闘争心を隠そうともしない絶対エースの気迫に当てられ、江ノ島はさらに活性化していく。
今のプレーで自分に絶望した人間はいない。誰もが、彼のようになりたい、彼のように流れを変えられる動きをしたいと願う。
自分にもあの動きだけは出来るはずだ、あの時、この選択なら遅らせることが出来た。
コースを塞ぎ、彼の攻撃を止めることは出来たかもしれない。それが出来れば自分は代表クラスなのだと、はっきり言える。身近に近づいた、日本代表への道のり。彼がいるからこそそれを体感できる。プロになる逸材とはこうなのだと。プロになる逸材を止める手段をひたすらに考え続ける。
そして彼は、皆に心を開く。アドバイスを送る。だからこそ、彼は孤独なエースではない。
選手権本選はすぐそこまで近づいていた。
いつかの江ノ島IF
一条「ここが、江ノ島高校・・・・とんでもなくレベルが高い・・・」
青梅「龍ちゃんの速いパスどころじゃないかも・・・なんかもう、それが当たり前みたいだし・・・・」
矢沢「絶対に横浜を見返してやる!! 待ってろ、リーグジャパン!!」
~実戦練習~
高瀬「よし!! いいクロスだ、青梅!! ただ、今のは俺にしか届かんぞ! もっと早く正確なクロスでなければ、跳ね返される!」
青梅「・・・・当たり前のようにボールを収める高瀬先輩、化け物過ぎる・・・」
ミルコ「ここはユースではないのかね?」
岩城「高校サッカーですよ、ユーゴの名伯楽」
栗澤「またお邪魔させてもらいますよ、岩城さん」
ミルコ「」→ビッグネームの登場に驚いている
優希「うそ、元日本代表右SBの栗澤選手!? なんでここに!?」
アンナ「あの人って、確かETUの・・・・」