騎士見習いの立志伝 ~超常の名乗り~   作:傍観者改め、介入者

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赤黒軍団の一因となった彼は、その抱負を述べた。

—————その背中、その足跡を超えたいと思った。

かつての日本代表最高のSB、CBを引き合いに出した彼は続ける。

—————本当に強い選手とは何なのか。


理想の選手像を求めるために、彼はユニフォームにそ袖を通した。


———————達海新監督の下で、それを知りたい。



追記:鷹匠選手を浦和に入団に変更しました。





開幕! 最後の選手権
第三十五話 強者とは


選手権本選が近づく中、逢沢はアンダー16アジア大会で惨敗を喫した、オーストラリア戦のことを思い出していた。

 

日本代表と同じ4-2-3-1の陣形を採用しており、前四枚は強靭なフィジカルとスピードを兼ね備えた選手をそろえていた。

 

中盤以降の後ろは屈強な選手が並んでおり、空中戦でのパワープレーは脅威であり、コーナーキックからの失点も喫した。

 

 

だが、やはり前の四枚が脅威に思えて仕方なかった。左サイドは青葉ほどではないが、スピードとテクニックを兼ね備えた選手のコンビネーションに、日本は守備を崩されていた。

 

————こっちの右サイドは、左サイドコンビに蹂躙されてしまった

 

アレックス・リンスとヴェイラ・トロワ。ヴェイラはサポートに徹する形をとっており、アレックスの抜け出しは日本のディフェンスを混乱させた。この二人のコンビネーションからクロスボールを上げられ、二列目から飛び出してきたあの男に決められた。

 

オーストラリアの至宝、ロビエル・オズボーン。まるでアメリカのプロバスケット選手のような跳躍力で、空中戦を制し、弾丸のようなヘディングシュートが遠野に反応を許さなかった。

 

 

日本ではシュートストップで名を馳せていた彼が、まともな対応すらできなかったのだ。決勝までビッグセーブを見せていた彼の崩壊で、日本は焦りを覚えた。

 

 

————陣形を立て直せ!! コンパクトに!

 

 

————間延びし過ぎだ!! 中盤奪われるぞ!

 

 

指示が飛び交い、監督も統制が取れなくなった時間帯が数分続いた。そして、目の前の相手はそれを許す存在ではなかった。

 

 

今度は中央からタメを作った攻撃。ロビエル・オズボーンに対し、当たり負けした日本の中盤は無力だった。そして自分ほど速くないスピードであっても、スペースを見つけ、最適解を冷静に選ぶボールを運ぶようなドリブル。

 

最後にバックパスからのリターンで、ミドルレンジからのシュートと見せかけた、スルー。

 

彼には見えていたのだろう。サイドからゴール前に飛び出してきた、右サイドのジョシュア・スパローが。

 

完全に虚を突かれた日本代表は混乱の中、立て続けの失点を喫してしまう。

 

 

しかし日本もやられてばかりではない。自分がボールを持ち、中盤との連携から最後はヴァニシング・ターンで一人を抜き去り、ゴールを決めて見せた。そして、逆サイドからのクロスのセカンドボールを拾い、押し込んだのも駆だった。

 

意地のようなものだった。このまま負けてたまるかと、江ノ島の時に感じていた感覚とは違っていた。

 

日の丸のユニフォームがなぜ特別なのかを、改めて分かった瞬間だった。このチームでオーストラリアに勝ちたい。勝って、堂々とワールドカップに出たいと思ったのだ。

 

 

しかし、反撃はここまでだった。オーストラリアは守備の仕方を変えて、駆に対し、スペースを消すやり方を選んだ。張り付かれる方がよかったのだが、相手はゾーンで完ぺきに守ってきた。駆からチャンスメイクできる回数は増えたが、盛大に外す仲間の姿に気力がどんどん削がれていった。

 

—————なんで、あんな簡単な局面でゴールを奪えないんだ

 

自分なら決められる、そんなエゴイストな感情を抑えるのに必死だった。しかし、そう思わずにはいられなかった。

 

—————すぐ倒れる、カードを貰うぐらい相手に————

 

イエローで相手を固くさせるぐらいして見せろと、叫びたかった。どんどん自分の性格がろくでなしになっているのが分かる。

 

—————祐介。何の指示を貰ってここに来たの? わからないよ?

 

 

言葉にしてよ、ゲームから消えないでよ。逆サイドで精彩を欠いたサイドの選手との交代で彼は出てきた。しかし、前半と同様に右サイドは試合から消えており、ピンチの発端になったりと、散々だった。

 

 

————相手がフィジカルで来るのはわかっているはずだよ! 受け流す、利用するぐらいのプレーじゃなきゃ、いつまでもこじ開けられない!

 

 

しかし、すっかり劣勢で縮こまった選手は縦パスを入れられず、前線の選手も動きが少なくなった。

 

カウンター狙いの防戦一方の試合になり、セカンドボールもフィジカルで奪われ続けた。

 

————何もかも2006年と一緒だ、同じミスをいつまで————

 

いくら叫んでも、いくら嘆こうとも、日本の長年の課題は修正されない。2ゴールと健闘し、得点王を手中に収めていながら、オズボーンのハットトリックの活躍でその称号も零れ落ちた。

 

————世界との差は、広がる一方だ。

 

だからこそ、早くプロにならないといけない。自分が上のレベルでプレーして、それを還元しなきゃいけない。フル代表でもそれは同じことだ。

 

 

—————僕と青葉が、この世代を引っ張らないといけない

 

でなければ、ワールドカップ優勝は絵空事のままだ。オリンピックだって、もうすぐそこまで来ている。

 

今まで目を背けてきた彼の心根とは真反対な渇望が、彼の精神を侵食する。その微妙な変化は、仲間の間でも気になり始めていた。

 

 

「—————最近、気負い過ぎじゃね?」

 

荒木が、駆の鬼気迫る表情を見て率直な意見を述べた。ハードワーク気味だし、体幹トレーニングは通常の3倍がデフォルトになっている。

 

授業中に時折筋肉痛で表情がゆがんでいる様子も美島に目撃されており、心配はされていた。

 

————後、最近ゴツくなったのかな。シューズもきつくなったし、ユニフォームもLになってしまったし

 

成長期なのか、それとも筋肉がついただけなのか————

 

少し気になったので、鏡の前で上半身裸になった駆。ゴリマッチョというわけではないが、引き締まった細マッチョともいえる肉体。何より身長も中塚を超えており、織田より少し小さいぐらいの高さになっていた。

 

————もうちょっとカッコいい筋肉にしたいなぁ

 

 

鏡の前に立っていると、ドアをノックする音が聞こえた。やってきたのは妹の美都だった。

 

「カケ兄ぃ、とうとう明日だよね。選手権の開会式」

 

「うん。何とか優勝旗を江ノ島に持ち帰るよ。それからプロで活躍するんだ」

 

真っ直ぐと己の夢を語る駆。そんな兄の姿を見て、美都はまるで傑に近づきつつある気弱だった兄の姿を少し心配する。

 

「————カケ兄ぃはカケ兄ぃだよ? なんだかすごい無理をしている気がするもん。アジア大会以降から、なんだか怖い————」

 

 

「そ、そうなのかな? ごめん、そう見えたのは謝るよ————」

 

やはり女の子は敏感なのだろう。そういった男の所作を簡単に見抜いてしまう。子供っぽいところが抜けきらないが、利発な妹である。

 

「—————ただ、兄ちゃんがいた場所に立って、兄ちゃんの焦りが見えたんだ。このままじゃ世界に離される一方だって」

 

思いつめた様に心情を吐露する駆。兄が背負ってきた場所に立つことで、日本と世界の現状を嫌でも認識させられた。この国の平均的なトップ下の足元の技術は、スペインのサイドバックにすら劣る。

 

それぐらい酷いのだ。基礎的な技術力の差が大きすぎる。何も足元の技術だけではない。サッカーIQも満足なレベルではない。どこに蹴っているのかすら分からないクロスボール。

 

急にボールが来たから、決定機を外す愚かすぎるフォワード。アシスト未遂連発の駆は怒り心頭だった。

 

あまりにも用意できていない、アシストにすらならないキーパスを無駄にされたときは、怒りが消えてしまった。

 

自分が急激に成長しているせいか、周りは何をやっているのだという感覚にも陥った。自分は真面目に一つ一つ課題をクリアしていっているのに、江ノ島の外は進歩がみられない。

 

葉陰は、飛鳥頼みの戦術のままで、まともに修正してきたのは鎌学しかいなかった。

 

総体ともなれば対策の一つや二つを講じてくるはずだが、あまりにも脆い対策で驚いた。

 

「このままじゃ、僕がお爺ちゃんになっても日本は世界を制することが出来ない」

 

悲観的になるなと思うのは無理だった。だから、

 

 

「僕と青葉で、この世代を引っ張り上げる。じゃないと、日本は勝てない」

 

それは使命に近い言葉だった。サッカーを楽しみましょうと言ってきた岩城の言葉とは真逆の。

 

日本代表を経験した彼にとって、練習環境は最適だが、その言葉から離れつつあることを意識していた。

 

「カケ兄ぃ—————」

 

成長している、のだろう。美都は逞しくなっている駆を見て、そう思わないといけなかった。

 

身長も急激に伸びている。169cmだった身長も、確実に170cmを超えているだろう。目測で前半ぐらいか。世間を騒がせている片割れ、179cmの青葉よりも少し小さいぐらいなのだから。

 

 

さらに服の上からでもわかる筋肉質な体。1年弱で、駆は大きく変わった。学校でも、ニュースで話題になる兄のことで話をしてくる同級生はたくさんいた。特に女子生徒の目が鋭かった。

 

甘いマスクと、凛々しい瞳。そのギャップが年上のみならず、同年代や下の世代にもウケたらしい。本人は赤面する機会などなくなってしまったが。

 

 

自分は不安なのだ。今までの駆ではなくなりつつあることが不安なのだ。だが、彼のここまでの変化はいいことなのだ。

 

 

「美都?」

妹の悩みならばいくらでも聞こうと思った駆は、ただ事ではない様子に何かを感じ取ったが、

 

「ううん。カケ兄ぃが前に進んでいるのに、一向に兄離れできないなぁって。大人びているから戸惑っちゃった」

 

「そうだったんだ。ちょっと心配しかけたけど、大丈夫そうだね。うん、よかった」

 

くしゃっ、と笑みを浮かべる美都の様子にほっとする駆。大したことではなかったようなので、心から安心した顔だ。

 

「おやすみ、カケ兄ぃ。また明日」

 

 

「うん。また明日」

 

 

兄は気づかない。自分が異常な成長を遂げていることを。それはサッカー面だけではない。

 

 

まるで中身を入れ替えられているかのような変貌、進化とは言えない変化をしつつあることを。

 

 

 

そして迎えた選手権。江ノ島高校は夢の聖地国立へと集結し、各校の注目を集めていた。

 

「おい、来たぞ。王者江ノ島だ————」

 

「あいつら本当に高校生かよ————」

 

周囲の人間を寄せ付けない、まるで百鬼夜行を連想させるようなオーラを出しているチーム江ノ島。自信に満ち溢れた彼らの表情と態度は、まさに王者そのもの。

 

「あれが伝説の後継者————」

 

 

 

威風堂々たる王者の歩み。その先頭には主将である織田。今や神奈川県下トップクラスのフィードを備える男として、中盤を支えるキーマンとして注目されている。

 

 

その織田の両サイドに控えるのは、神奈川最強のアタッカー陣。

 

「—————大巨人、高瀬だ。なんて大きさだ—————」

 

 

「逢沢の横にいるのが夏目か。あれが急成長を遂げた江ノ島の次期エース」

 

「的場っていうテクニシャンもいる。くそっ、どんな手品使いやがった———」

 

そして、宮水と逢沢の輝きに引っ張られ、才能を見せつける他の選手たちにも目を向けることになったライバルたち。

 

 

スター選手、目玉選手が揃う今大会の中でも、江ノ島の選手層の厚さは異常だ。この将来楽しみな世代といってもいい中、あの二人だけは抜きんでている。

 

 

高校一年生にして、プロからのスカウトを貰った実力は本物だ。青葉は国内では敵なし。過去にはブラジル撃破の立役者である。

 

そして駆は、オーストラリア相手に2ゴールと、アジア大会得点ランキング2位。すでに海外のスカウトも興味を示し始めた逸材である。

 

 

宮水、逢沢、夏目、高瀬、そして的場。一年生だけでもこれだけのメンツが揃っている。2年生には実力者の織田、荒木、八雲、海王寺が揃い、隙が見当たらない。止めに選手権予選で名を上げた堀川も加わり、王者はやはり勢いを強めているという印象が強い。

 

 

「見違えたよ、カケル。総体の頃よりも修羅場をくぐったみたいだな」

 

そこへ現れたのは、世代別ブラジル代表のエース、レオナルド・シルバ。王者江ノ島を相手に気後れなど感じさせない。王国の未来を背負う大器である。

 

 

「—————世界で惨敗したからね。足踏みも、寄り道も許されないよ」

 

声色こそ丁寧だが、以前の彼からは考えられない強い意志を感じられる。世界の舞台で痛感した大きな壁。

 

レオにとっても、オーストラリアの黄金世代は無視できない存在でもあった。

 

「ああ。彼らは次元が違う。フィジカルで俺たちを優に上回り、絶対的な武器を持つ選手が4枚揃っている。オズボーンは強かっただろう?」

 

ロビエル・オズボーン。ブラジルを破り、ドイツを蹂躙し、前回大会優勝国のスペインすら圧倒したオセアニアの若き至宝。

 

彼はあの、レアル・マドリードの白い悪魔、ヨハン・ヘイデンの再来とまで言われている。現在、彼ら白い巨人はチャンピオンズリーグを3連覇中と黄金期を迎えている。国内リーグ戦5連覇、カップ戦も4連覇と、他を寄せ付けない圧倒的な強さを持っている。

 

今や押しも押されぬスーパースター、クリス・ロナルド、リーガ最速の男、ギャレット・ベリウスらと攻撃ユニットを組む、三人目の男こそ、白い悪魔、ヨハン・ヘイデン。

 

得点ランキング上位を独占する枢軸。中盤にはルカ・ドルトリッチ、トリスタン・クロスらが中盤を支え、世界最高峰の守護神、ナバルディアスが君臨する。

 

ブラジルすら気後れするほどの男、ヨハン・ヘイデンとロビエル・オズボーン。

 

「うん。でも、うちの中盤は彼に好き放題させ過ぎたから。それに、次はもう負けないから。僕がハットトリックを成し遂げて、青葉も達成して勝つから」

 

「————凄い自信だ」

 

 

「それぐらい悔しいし、練習もするからね。後はいかにオズボーンを無力化できるかだね。彼には今度、泣いてもらうから」

 

あの試合を思い出したのか、駆の背後が暗くなる。そして、駆の笑みもどことなく黒いものを感じさせる。

 

 

—————おい、アオバ。俺の知っているカケルではないのだが

 

たまらず当事者であるはずの青葉に確認を取るレオ。自分の知っている駆ではないと。

 

 

—————すまん。練習の悪魔になっているのは知っていたが、ここまで闘争心がにじみ出ているとは。持田を連想させるなぁ。

 

 

現在リハビリ中の日本代表エースの持田を例えに挙げる青葉。なお、自分が練習の大魔王である自覚はない模様。

 

————そうだった。こいつも同類だったな

 

心の中で、納得するレオナルド。無名だった江ノ島を全国区に押し上げ、全国の強豪を打ち破った実力は本物。

 

情け容赦のない死体蹴りで批判を浴びることもあるが、学生スポーツの延長に過ぎない高校サッカーでは足りないものだと感じていた。

 

————とはいえ、俺も人のことは言えないが

 

レオナルドがここに来たのは、ある未練を晴らしに来たためだ。傑亡き後、腐り堕ちるかのように瓦解した傑世代。地道に努力する選手もいたが、かつてブラジルを破った勢いは見る影もない。傑の生きた意味は何だったのだろうと思ってしまった。

 

 

だが、その下の世代。逢沢駆と宮水青葉が現れた。まるで傑の抜けた穴を埋めるどころか、覆い尽くしてしまいそうな存在感。

 

————結局、俺はこの国が好きだったんだ。

 

 

傑という友人に出会えたこと。

 

相手を思いやり、世界的にも整備されたこの国の在り方を美しいと思ってしまった。騙し合いが基本である世界で、生き辛くも気高い在り方を失わない誠実な在り方に、嫉妬していた。

 

 

マリーシアが横行するサッカーにおいても、生真面目すぎる気質もあり、中々実力を発揮できる機会も多くない。

 

そうなのだ。日本という国が気になるのだ。あまりにも異質なあの国のことを、放っておけない。

 

————傑が生まれたこの国が、弱いままなど許さない。

 

 

「—————当たるとすればファイナル。必ず僕らは君達の前に立つ。王者の栄冠は、最もサッカーに真摯である蹴球に相応しい」

 

 

「—————ならば、俺たちはそれを上回るだけだ。栄冠は渡さない」

 

 

火花飛び交う青葉とレオナルド。それをニコニコした笑顔で見守るのは駆。周囲は二人が放つ威圧感に呑まれてしまっていた。

 

 

—————冗談を、軽口を言える空気じゃねぇな

 

 

目の前の二人は、本気で、覚悟して日本の柱になるという気概を見せている。荒木には、それが自分の中にあるのかを疑ってしまう。彼らの闘志に当てられ、自信を失いそうになる。

 

しかし、この二人であっても、世界最高峰の頂は遠い。想像を絶するフィジカルとテクニックを誇る化け物たちが、その先のステージにいる。

 

 

さらに超一流と呼ばれる存在は——————

 

荒木は言葉を失う。これが、これでも世界との距離は遠いのかと。

 

 

しかし闘気に当てられ、歓喜する者達もいた。

 

—————さすがだな。俺は、そんなお前たちだからこそ、肩を並べたい

 

織田は喜びの色に満ちていた。頼もしさではない。自分が目指すべき存在が、まだ上っていくことに喜んでいるのだ。

 

 

—————これが、世界の一流か。望むところだ

 

 

高瀬は、上から見下ろすレオナルドをじっと見つめていた。フィジカルでは勝っていても、勝てる気がしない現状。だが、それを冷静に受け止め、勝ちたいと思う自分に満足していた。

 

これだけの差を見せつけられ、経験値でも突き放されていても、勝ちたいと思う気持ちが途切れない。ならば自分は、まだ上に行ける。

 

 

—————レギュラーで満足しちゃだめってこと、この二人を見るとよくわかる。理解させられる

 

————そんな二人だから、僕の高い壁だったんだ。

 

夏目と的場は、この二人のサブのような存在だった。だが、サッカーに対する取り組み方は参考になるし、自分の武器を考え、頭で考える重要さを教えられた。

 

自分が楽しいだけではだめだ。足の速さだけではだめなのだと。

 

他の江ノ島の面々も、二人に感化され始めたのか、彼らと同等の気概を持ち始めていた。

 

 

 

 

江ノ島と蹴球高校という二強が去った後、他の強豪校は—————

 

 

「あ、あれが本当に駆ちゃんなのか? 人を殺したような眼だっただろ?」

 

四日市実業高校の遠野幹也は、笑顔ではあったが別人のようになってしまっていた駆の姿に動揺していた。

 

「ああ。オーストラリア戦以降、だな。あの存在感はまるで、逢沢傑————いや、持田選手を彷彿とさせるぞ」

 

八千草の島亮介は、オーストラリア戦で惨敗した中での光明だった彼の異変を感じ、さながら傑が降臨したかのようだと揶揄する。

 

————あの試合、もし青葉がいれば、と

 

一人勝利を信じて戦い続ける駆を助けることが出来たのではと。

 

高校組の二人は、それを感じていた。ユース組は早々に心が折れており、逢沢の同点弾の後の連続失点で、動きは格段に悪くなっていた。

 

遠野もセーブを許してくれない怒涛の攻撃に膝をつき、島はオーストラリアのアタッカーに翻弄されてしまった。

 

 

世界との差を痛感する試合だった。あの世代こそ、現世代で世界の栄冠を掲げる最強の世代。高さとスピード、テクニックを兼ね備える戦う集団。

 

すでにトップチームで活躍するオーストラリアの黄金世代。だからこそ、日本人もプロに入るべきなのだ。その実力を示し、成長するために。

 

 

だが、有力選手である二人の明暗は別れていた。遠野はJ1磐田からの内定をもらい、来シーズンからレギュラー争いを演じることになる。しかし島にはオファーは来ていなかった。

 

それは他の選手の間でも言えることだった。

 

逢沢傑世代のエース、鷹匠はJ1の浦和に内定、世良右京はJ2湘南に特別指定選手として入団。

 

他の選手は二部リーグがほとんどであり、逢沢、宮水と同世代の佐伯、日比野などの一年生は指定を受けることがなかった。

 

動向が注目されている飛鳥亨の去就は不透明で、クラブチームの間でも宮水と逢沢に蹂躙されたような形の彼に、プロでの活躍を疑問視する意見が多数であった。

 

しかし、彼らの世代の中では守備の要といえる大物であり、下位クラブは水面下で交渉を続けている。

 

 

 

場面は選手権会場から変わり、神奈川。

 

 

飛鳥亨は決断を迫られていた。届いたのは、3通の入団オファー。

 

 

一つは横浜マリナーズ。地元神奈川の強豪クラブの一角。神奈川のサッカーファンなら知らぬ者はいないと言える。

 

 

二つ目は、大阪ガンナーズ。昨年リーグ2位にしてリーグ最強の攻撃力を誇る強豪。昨年チャンピオンの東京ヴィクトリーとの明暗を分けた守備力の要として、将来立ってほしいとのことだ。

 

 

そして最後は、巷で世間を騒がせているイースト東京ユナイテッド。強豪2クラブとは違い、選手層が薄く、上手くいけば開幕スタメンも狙える。

 

 

 

彼らが飛鳥に求めているのは、最後尾からのビルドアップ能力。足元の技術に優れたセンターバックの育成は急務であり、日本サッカー界においてもその人材は不足している。

 

 

しかし飛鳥は、迷っていた。高校三年間で全国大会に出る。その夢を果たすことが出来ず、区切りをつけようと考えていた。

 

————自分が決めた約束事、それを反故にするのは—————

 

我儘を貫いた3年間。それまでのサッカー人生だった。ならば踏ん切りをつけようと、スパイクを脱ぐべきだと。

 

—————だというのに——————

 

あの二度と見ることのない、背番号10の幻影がちらついた。

 

 

きっと彼は、世界に羽ばたいていた。生きていれば、彼は必ず日本代表に入ると。

 

————俺は、見たかったんだ

 

もはやサッカーをすることが出来ない人間がいる。その彼が魅せるサッカーを同じチームで見たかった。彼が一体何をしてくれるのか、彼が何を見せてくれるのか。

 

————————しかし、もう彼はいない。あれは一刻の幻に終わってしまった。

 

 

それでも彼とプレーすることで、サッカーが面白いと改めて思えたのも事実だった。つらい時期が続いたが、この3年間は有意義だった。大人になっても、社会に出ても、大好きなサッカーを続けたいと思えた。

 

何より、もうサッカーができない人がいるのだ。それがどれだけ無念なのかはよくわかる。なら自分はどうなのだろう。まだ手足が動く、サッカーへの情熱は消えていない。

 

 

—————なるほど、どれだけ自分を納得させようとしても

 

自分を偽ることなどできないのだと悟る飛鳥。続けられるチャンスがある限り、スパイクを脱ぎたくない。やるならとことん上を目指す。そうやって3年間を過ごしてきたのだから。

 

 

それこそ、自分の心を殺さない限り、ありえない話だ。

 

 

 

 

だから、両親には相談した。まだ決まっていない進路、自分の中にある葛藤。その全てを。

 

「——————父さん————どう、思いますか」

 

 

 

「—————確かにお前は、全国に出ることは出来なかった。だが、世界で戦い続けていた。サッカーの道で食っていく覚悟があるのなら構わん。だが、その自信がないのなら、スパイクはここで脱げ」

 

表情を崩さない父親の姿。息子の選択を待っていた。

 

「—————すみません、父さん。俺はまだ、サッカーを止めたくありません。チャンスがあるなら、続けたい。続けさせてください」

 

 

「—————ここでサッカーを止めたら、一生後悔する。自分の言葉を曲げてでも、我儘を通したい—————」

 

息子のお願いを聞いた親は表情を崩した。

 

 

「—————お前の我儘は、全てサッカーだった。いつも理性的な孝行息子で、大人びているとはいっても、本音をぶつけることが少なかった。お前の一番を、これからも続けていけ。それだけだ」

 

————亨の、あいつの我儘だ。数少ない我儘を聞いてやらないほど、度量の狭い親にはなりたくない

 

コーチや監督からの話は聞いている。いつもチームのまとめ役として、努力し、行動している彼の姿を、高校三年間を知っている。

 

3年間を特別な想いで戦ってきたことも。

 

「—————だが、何処にするかは慎重に決めろ。お前を一番欲しがっているところに、誠意をもって交渉するチームを選べ」

 

 

それからすぐに飛鳥は3チームと交渉した。大阪と横浜は既にレギュラーが固定されており、暗に数年間は育成といわれているようなものだった。

 

「君のパフォーマンスが良ければ、開幕スタメンも夢ではないが」

 

「いきなり高卒一年目の君が、ベンチ入りできる確率は低い。早くてもシーズンの中頃か、後半だろう」

 

日本代表の古谷、外国人のチアゴ、その他若手が揃っている横浜は、センターバックの層が少し厚い。チャンスが来るのも、年功序列に近いところがあるだろう。

 

鹿島も、江田やその他の若手がひしめいている。中々アピールをし続けても序列待ちの部分があるだろう。

 

「18歳という年齢で最後尾をいきなり任せるのはリスクが大きい。君の足元の技術は知っているが、チーム方針、戦術を落とし込んでからだな」

 

「君も背が180cmを超えているが、うちには代表選手と外国のCBがいる。試したい若手は君だけではない」

 

大阪ガンナーズでもそれは同じだった。自分でもなんて我儘な発言だとは思う。1年目から勝負できますか、という質問は。

 

 

「だが数年後、君は世代を代表するセンターバックになる」

 

2つのクラブは、そう言っていた。そしてさらには、

 

「宮水選手と逢沢選手がいたのだから、あの試合はある程度割り切る必要がある」

 

「戦力的にきついものがあった。あれを参考にするつもりはないよ」

 

江ノ島との戦いは参考にしていないと言ってのけたのだ。出来不出来の問題ではなく、戦術として負けていたと。

 

 

—————将来性、か。

 

将来をかけて臨んだ3年間はどうだっただろう?

 

 

—————あまりにも早かった。あまりにも短かった。

 

将来ではだめなのだ。今なのだ。サッカー選手の選手寿命は短い。だから、今でなければ

 

 

最後に現れたのは、残留争いをしていたイースト東京ユナイテッド。今期は苦しみ抜いたシーズンを送り、柱となるべきフォワードの長期離脱、10番の欠場、あらゆるポジションでの層の薄さを露呈した。

 

奇しくも、青葉と駆を獲得したチーム。

 

「—————確かに、チーム戦術を理解するのには時間がかかる。だが、現有戦力で上を狙うにも限界がある。世代別代表で、君のプレーは見ていた」

 

スカウトマンは言う。名は栗澤。2年前にETU一筋で現役引退した、世代を代表するサイドバックだった。

 

「ETUのサッカーは、最後尾から始まる。そういうサッカーにしたい。後ろが安定すれば、ポゼッションも不可能ではない」

 

「—————君は、その水準を満たしていると私は思う。恥ずかしい話だが、うちに君よりもうまいディフェンダーはいないだろう。何より、江ノ島との戦いで見せた、君の闘志が印象的だった」

 

 

「!!」

 

本来なら、避けられるはずの話題。飛鳥が嫌がる話だと、大阪と横浜のチームは考えていただろう。だが、栗澤はそうではないと考えていた。

 

あの劣勢、敗色濃厚な試合で、最後まで走り続ける闘志。冷静でいて、それでもなお見せた気迫は、教えられるものではない。

 

「—————長いリーグ戦で、君のような闘志を持つディフェンダーを、うちは欲しいと考えている」

 

 

 

初めてだった。あの試合でのプレーを評価されたのは。敗色濃厚で、勝敗が決した展開。飛鳥はなぜ自分があそこまで動けたのか分からなかった。まるで執念、自分らしくない意地というものがあったことを思い出す。

 

—————あのまま終わりたくない、あのままサッカーに後ろめたい気持ちを抱えたまま、終わりたくない。

 

全てに絶望し、今後上に上がれないという残酷な事実に負けたくない思いがあった。スパイクを脱ぐ理由に、彼に負けたという理由を加えたくなかった。

 

 

 

誰かを理由にして、自分の本音を終わらせたくなかった。

 

 

「初めてです……みんな、あの試合での俺を気遣う発言ばかりでしたから」

 

 

そんな飛鳥の発言に微笑む栗澤。元日本代表ならではの闘志が垣間見える言葉が紡がれる。

 

「まあな。ディフェンスをやっていた手前、あれはトラウマものだよ。俺だって悔しいし、なにくそっ、な気持ちになるさ。こいつを絶対に、完璧に封じてやる。いい形を潰してやるぞ、って気持ちになるしな」

 

栗澤は、彼を止めるには間合いがかなり重要になると考えていた。一貫して彼をスカウティングした時に発見した共通点。それは彼が自分の勝てる状況に持ち込んでいることに起因していると。

 

「—————栗澤さんほどではありませんが、俺も彼には一矢報いたいという感情がありました」

話を聞きながら、飛鳥は本音を漏らす。やっぱり彼に勝ちたかったのだ、と。

 

話は進んでいく。飛鳥へのスカウトの話ではなく、いつの間にか、青葉対策の話で盛り上がる始末。

 

栗澤は言う。

 

彼は何より間合いが広く、スピードもある。その圧倒的なアドバンテージが、彼の仕掛けを早くする。それは平均的な選手のそれとは比較にならないほど速い。

 

「あえて、攻撃的に守備で揺さぶり、奴を誘き寄せる手もある。ま、それをするにも、まずは間合いを測りながら、一瞬で詰める上手さも必要になるが」

 

あそこはもう、奴よりも前に仕掛ける、前に出るしか方法がない。奴の存在感を感じた時点で負けなのだ。無論彼もカウンターは考えているだろうが、勝率は上がる。何しろ先手を打たれた状態になるのだ。今までよりも何倍も状況は改善する。

 

「ま、あいつが規格外なことを認めたうえで、あそこまで食らいつくお前が凄いと思ったよ。今の温室育ちの、甘ちゃんな天才どもに見せてやりたいぐらいだ」

 

簡単に心が折れて、日本に逃げ帰る日本人が増えるのは良くないと、栗澤は言う。海外に行くなら、向こう4年は戻らないぐらいの気概を持たないといけない。自分は日本のリーグを代表して、海外挑戦をしているのだという認識がなさすぎる、という。

 

「世の中の天才のどれだけが”本物”なのか。もしくは”天才であり続けられる”のか。恐らく、そういうことなんだと思います。結果を出せない天才は、天才ではなく、怪物もまた然り。天才という言葉は、案外脆いのかもしれませんね。それに、目立たずチームを支える”縁の下の”選手が、”派手なだけの選手”に劣るということも言えない」

 

 

飛鳥は思う。どれだけの若手が天才という言葉から遠ざかっていったのか。先輩が、少し名前を知られるようになった期待の選手が、凡夫になっていく姿。天才という言葉はまやかしなのかもしれない。結果一つで評価は変えられる。

 

どれだけプレッシャーのかかる状況でも、劣勢の状況でも力を発揮できる選手こそが、天才と呼ばれるに等しい評価を受け、その選手は天才という言葉で評価されるべきではないのだろう。

 

「中々俺と気が合うじゃないか。強い選手、上手い選手ってのはなかなかわかりにくいものだ。得点やアシスト、相手エースを止める。そんな分かりやすい目印を持つ選手だけで成り立つわけじゃない。チームにバランスを齎したり、チームを勝利に導く存在だって、俺は強い選手の証だと思う。やっぱり、どこまで言ってもサッカーはチームスポーツだからな」

 

今でこそ、歴代最高のSBといわれているが、当時は守備の選手を評価する風潮はあまり流れていなかった。なんだかんだ大舞台でいい動きをしている、浅草のクラブの男。そんな印象しか持たれなかった。

 

 

その流れを盟友が変えてくれた。数々の日本自慢のアタッカーが挫折し、夢破れて去っていく鬼門で、守備の専門家として活躍した彼の働きで、ディフェンスの評価は変わった。

 

あの世界的なアタッカーを止めた。強豪クラブを相手に統率の取れた指示を送り、ブロックを乱れさせなかった。

 

優れたキャプテンシーを発揮した、など。

 

実は彼、凄い選手なのでは、という声も上がった。

 

「俺たちが今まであってきた強者は、主に3つだ」

 

 

「プライドに生きる奴。強さを求める奴。戦況を読める奴。海外では一番目が多いと思われがちだが、実は3番が多い。何しろ、そうじゃないと高度な連携とか出来るはずもないし、勝負事で見誤らない奴らは強い。逆にプライドや強さで成り上がったエースは、じゃじゃ馬だ。とんでもない奴らだよ」

 

冷静なプレーが出来るストライカー。奇抜な動き、強引な突破でゴールをこじ開けるエゴイスト。何度でもゴールを狙い、それを決して止めない厄介な雑草野郎。一番最後が始末が悪い。一番あきらめが悪いのだからな、と彼は言う。

 

「フェノーメノとかは、まあもうあれだな。あんまりパスも出さないし、一人で突っ込んでゴールを奪うやつだし、2006は嫌な記憶だったよ。あれで全盛期ではないって詐欺だろ?」

 

個人的に、嫌な記憶しかないブラジルの怪物を引き合いに出し、懐かしい記憶に想いを馳せる栗澤。格落ちの怪物が出来たであろうプレーを映像で見た栗澤は、その後絶句したという。彼はもっと凄かったのかと。

 

 

 

「ま、どれが一番の強者に近いのか、最適解なのかは俺も一概には言い切れないところがある。だが、強者には共通点があった、そういう話だ」

 

 

一通りの人生経験を語った栗澤は、飛鳥に問いかける。

 

 

 

「さて飛鳥君。君は一体、どんな”強い選手”になりたいんだ?」

 

 

「俺は————————————」

 

 

 

数日後、赤黒のユニフォームにそでを通す彼の姿があった。

 




青葉「そういえば、飛鳥さんはどうしてこのチームに?」

飛鳥「栗澤さんに口説かれたんだ。ここから世界を目指したい、そう思えた」

青葉「じゃあ、互いにビッグクラブで会おう。今度は敵同士で」

飛鳥「望むところだ」


~数年後プレミア~

青葉「いくら積まれたんだ?」
(オランダからプレミア入り)

飛鳥「・・・・噂はあったが、同じタイミングで移籍は予想外だ」
(ベルギーからプレミア入り)

なお、移籍先で再会の模様。

アルバロ「今度はチームメートなのか。面白くなりそうだ」


高瀬「別チームだが、二人に追いついたぞ」

椿「うわぁ。よりによって青葉と飛鳥さんがいるリーグかぁ」

颯「ファイト、椿君!」

窪田「みんな楽しそうだなぁ」


~フランスなう~

細見「こっちは誰も来ないな」(パリSG)

佐伯「待ってろ、駆!」(モナコ)

世良「ようやくここまで盛り返したぞ」(マルセイユ)


細見「結構来たな、フランスにも」


~ドイツなう~

秋本「俺は世界に飛び出した。全ては彼に追いつくためだ」(ドルトムント)

鷹匠「フィジカルにも慣れてきたな。通用するぞ、ここでも」(薬屋)

ヴェイラ「ねぇ、タカジョウ。日本の女子について・・・・」(薬屋)

鷹匠「断る」

荒木「おい、ヴェイラもそっちの美女についても教えてくれよ!」(フランクフルト)


ヴェイラ「君はいい日本人だな、アラキ!!」



花森「・・・・」(ヘルタ)

桐生「代表のレギュラーは渡さねぇぞ、若造ども」(ハンブルガー)


~スペインなう~

駆「次こそ、飛鳥や青葉たちに勝つんだ!!」(セビージャ)

シルバ「まずはあの二大クラブを蹴落とす必要があるな、駆」(セビージャ)

オズボーン「二大クラブの前に俺の踏み台になるがいい」(アトレティコ)


織田「降格は嫌だ。俺たちの為に堕ちろ、落ちてしまえ!」(アラベス)

北野「なんや、いつの間にぎやかになったんやねぇ、こっちも」(マジョルカ)

~オランダなう~

赤﨑「くそ、出遅れたか・・・・だが負けん!」(ユトレヒト)

幕張「みんな凄いなぁ」(J2湘南からフローニンゲンに移籍)

日本なう

一条「レギュラーだけど・・・・代表が遠い・・・・久世すら代表に掠りもしないのか・・・・」

久世「上の世代が化け物過ぎる・・・・」

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