騎士見習いの立志伝 ~超常の名乗り~ 作:傍観者改め、介入者
前半が終了した江ノ島対四日市の試合。切れ味を増す青葉のドリブルを止めることが出来ず、右サイドでの組み立てが必然的に増していく。
マッチアップする当真は俊足のサイドバックであり、超高校級に次ぐレベルの実力者ではあるが、青葉の間合いに侵入することが出来ない。
—————くそっ、動かなければ振り切られる————
しかし、下手に動けばそれこそ簡単に躱されてしまう。また抜きを容易に狙うような選手だ。警戒はしておかなければならないし、加速させれば一気にゴール前まで持っていかれてしまう。
そしてまたしても、空踏みからのダブルタッチのフェイクに釣られ、ヴァニシング・ターンでの中へのカットインを仕掛けられてしまい、当真は青葉の突破を許してしまう。
縦への突破の際、青葉はボールを持っておらず、ボールも青葉の進行方向へと流れていくので、ファウルで止めることもできない。サイド際という壁を利用した青葉の仕掛けは、当真からは冷静さを奪う。
—————レベルが、違い過ぎる——————
瞬間的な膂力は勿論、間合いの測り方、視野の広さ。その全てにおいて、自分は青葉に負けていると思い知らされてしまった当真。
「これ以上行かせるかァァァ!」
しかし当真のフォローに海堂が接近していたのだ。当真を抜けきった無防備な状態の青葉からボールを奪いカウンター。それを狙っていたが、
「ぐっ、この!?」
背中を海堂に向けながらボールキープし、そのフィジカルで跳ね返す青葉。
————こいつのフィジカルは並ではないって理解していたはずだ、くっそぉぉぉ!!
スピードだけの男ではないのが厄介なところなのだ。彼という選手は。
互いにぶつかり反発しあった反動を利用し、さらに加速する青葉。単純な脚力では海堂では追い付けない。
ゆえに、青葉はこれ以上の小細工を使用する必要もなかった。
————まだ、ドリブルには改良の余地があるな。
体を当て、反動で加速する。それも体の上手い使い方だろう。しかしそれに頼り切るようでは先がない。
理想は、相手に触れられることのない躱し方。1人、2人ならばいつでも躱せるぞという自信。
—————もっとドリブルを極めるには—————
そう考えながら、PA付近まで切り込んだ青葉。ここで必要になるのはセオリーをやや度外視した厳しいプレー。
—————楔になれば十分だ、高瀬
————本気かよ、青葉
容赦のない球足の速いボールを高瀬の足元へと通す青葉。とてもパスとは思えないスピードで、四日市の選手は一瞬シュートと勘違いした。
そして、高瀬もまたこのパスを自分へのラストパスではないと理解していた。なぜなら近くに“彼”がいるからだ。
高瀬へのラストパスに反応する四日市の選手たち。ずれが生まれる。
—————まあ、決めたいよな、普通は
青葉からのやさしさの欠片もないパスをダイレクトでトラップした高瀬は、アウトサイドで大きくボールを弾く。そしてそのまま自分は走りこんでいく。
ボールと高瀬。二つの脅威に分断され、視界が分散する。一瞬の判断の迷い。そして、それを分かっていた者との決して埋められないズレ。
逢沢駆の左足がその刹那、四日市のゴールネットを揺らしたのだった。
またしても一瞬の出来事だった。2秒にも満たない青葉からのキーパスからの失点。高瀬の動きは明らかにラストパスを貰う動きだった。その動きに視線が集中し、高瀬のトリックプレーに視線が分散し、遠野の推測を超えていた。
何とか反応した遠野ではあったが、手を動かすことが精いっぱい。
————この感じ、まるで南米の攻めを思わせるな、これ————
明らかに気落ちし、自分が今までやられてきた攻めを許してしまったことを悔いる遠野。世界のトップレベル
まるで、いつでも崩せると言わんばかりの雰囲気。もっとシンプルに言えば、嘗められていたと悟らせるには十分な試合展開。
世代別代表のアルゼンチンにやられたあの頃を思い出す。
『逢沢叩き込んだぁぁっぁあ!! 一瞬の隙を見逃しません!! これで得点ランキング単独トップに躍り出ました!! 今大会4得点目!』
『高瀬君の落としもすごかったですねぇ。ラストパスを貰う動きと思わせてのラストパス。そして、逢沢君への落とし。さすがのポストプレーでしたね』
『後半7分、江ノ島ダメ押しの得点で3点リード!! 厳しくなったか、四日市実業!』
その後は後半途中に青葉に代わって中塚が入り、当真の足を止める。
「青葉じゃなくて悪いねぇ!」
「くそっ!」
韋駄天勝負では完全に負けている当真は、この下手糞な選手を前にして攻め切ることが出来ない。
さらに、二枚目のカード、織田が荒木に代わり出場。試合のクローザーを任せられた、時間を使う落ち着いたプレーを披露する。
そしてその意図を理解した逢沢もそのプレーメーキングに参加し、海堂は走らされ続けるだけとなっていた。
—————ボールが、奪えねぇ
逢沢は流し気味のプレー。宮水は既に退いている。屈辱といっていい采配だ。しかし、次戦を見据えた江ノ島の策であり、それを許してしまったのは四日市だ。
そして、最後のカードは逢沢に代えて夏目というものであり、トップ下は兵藤、左サイドに夏目が入ることになったのだ。
有効な戦術を見出すことが出来ないまま四日市は時間を浪費することを強いられ、遠野の攻撃参加を最後の最後に突かれることになる。
「!?」
コーナーからの遠野の強烈なヘディングシュートを李が難なくキャッチ。シュートストップに定評のある彼は、そのまま攻撃に頭を切り替えていた。そして、李にボールを取られたという状況に顔を青くする遠野と、四日市イレブン。
『ああっと李キャッチ!! そのままスローイング!! 後半途中出場の夏目が走りこんでいる!!』
四日市のゴール前は無人。守護神遠野も存在しない。完全に前を向いた夏目を阻む存在はいなかった。
『自陣からの独走で押し込むゥゥゥぅ!!! さらにダメ押し!! 試合終了間際!! 夏目のゴールで4点差!! 決定打、とどめを刺したと言っていいでしょう!!』
『3点目ですでに厳しいものでしたが—————容赦ないなぁ』
勝利というラインを完全に超えており、何のために走っているのかが分からなくなる。
しかし、全国出場のチームは途中で折れることは許されない。
その答えは、来年出場を目指すであろう後輩に情けない姿を見せないというプライドである。
そのままタイムアップ、長いホイッスルが鳴り響くのだった。
————半端なく強いぜ。江ノ島
四点差を決められ、数多のシュートを浴びた遠野は心中穏やかであった。
—————お前は、あの敗戦を糧に、さらに成長したんだな、駆
オーストラリア戦での敗戦が、さらに駆を強くした。あそこまで劇的に変われるだろうか、あそこまでの向上心を持っていたのか。
そして、自分のプレーに満足していないのか、笑みすら見せず、ベンチへと下がる青葉の姿。恐らく自分が考えもつかない課題を感じ取っているのだろう。
—————今は同じステージにいると思ってねぇからな
きっと、高校レベルだった自分はプロの壁を痛感するだろう。しかし、自分たちは通用するのだと勇気を貰える存在でもあるのだ。
あの二人が先頭を走っていれば。
「—————負けたぜ。あの試合にお前がいれば勝っていたって予感が、確信に変わった。同世代で止められる奴がいるのかよ?」
「—————俺が知らないだけで、きっといる。そう思って俺はプレーしている。慢心は毒だ」
遠野の言葉に青葉はなんでもなさそうに言う。己惚れるほど完ぺきとは言い難いと。
「—————というか、僕の技普通に使われているんだけど。いっぱい練習したんだけどなぁ、あれ」
駆はというと、自分の切り札をうまく活用する青葉に嫉妬するぐらいの元気を持っていた。しかし、口元はニヤニヤしており、本気でそう思っているわけではないらしい。
「まあな。ドリブルの概念を本能で理解しているお前とは違って、昔からの反復量が違う。基本を頭と体が理解して入れば、できないことはない。出来る奴は少ないが」
「なんだよ、それ~~」
ニヤニヤしながら教えてよ~、と強請る駆。試合後にな、と微笑んだ青葉の構図を見ていた遠野は、まるで兄弟のようだと思えた。
その他の選手はというと—————
「おし、2位タイなら望みはあるな。来年こそ指定選手に—————ッ」
「俺も卒業と同時にどっかに拾われねぇかなぁ」
「うむ。声をかけてくれるチームがあれば、だが————」
得点ランキング2位の高瀬は来年こそはと息巻いており、荒木と織田は卒業と同時にプロに行けないものかと先のことを考えていたりする。
そして、江ノ島の次の相手は総体決勝の相手、八千草高校に決定したのだった。
江ノ島勝利の裏側では、四日市の敗戦がある。総体でのレベルの差を痛感した当真は、選手権でその差を縮めたいと考えていた。
しかし青葉はより強靭な選手になり、遠野の牙城を崩すほどのシュートを身に着けていた。
個人でもチームでも何一つ勝てないまま、青葉のプロ入りを眺めることになったのだ。
「—————」
「————悔しいか、当真」
俯いたままの当真に対し、声をかける海堂。クロスの一つすら青葉が退くまで上げられなかった事実が重い。その全てが上げられる前に潰されるか、バックパスに逃れるほかがなかったという屈辱。
「—————あれがプロに選ばれる選手、なんすね————」
プロを目指しているはずだった。その間近にプロがいた。今後日本サッカーを引っ張っていく原石がいた。
「ああ。全日本に選ばれるな。このままいけば」
その背中が遠い。
「—————卒業まで残り2年————たった2年ですけど、プロの門をたたいて、追いかけます。その思いだけで、俺はまだまだ強くなります」
やらなければならないことがたくさんある。遠野は卒業後にワンダラーズに進み、プロの競争を勝ち抜かなければならない。
そんな環境に飛び込む前に何が必要なのか。
—————だが、その先でお前がいる舞台に辿り着けば、凄いことが出来るのかも、しれないな
そのレベルは遠いが、充実感はあるだろう。日本のサイドは脅威であると知らしめたら、どんなにいいだろう。
強敵と思われていた四日市実業の守備を打ち砕き、
選手権を無事に勝ち進む江ノ島高校。
宮水青葉の姉、三葉は弟の活躍に心を躍らせていた。現在彼女は三歳年下で東京の学生、立花瀧との遠距離恋愛中であり、公私ともに充実した生活を送っていた。
そんな彼女は受験戦争真っただ中であり、本来なら二次試験を控える身ではあったが、弟の雄姿をせめてテレビからでも見たいと願っていた。
「—————あんなにテレビに映って、青葉はすごいんやねぇ。これぞ宣伝効果? 写真映り良すぎひん?」
文句のように聞こえるが、彼女の顔はニコニコしたままであり、大事な弟が世間を驚かせていることが、どこか誇らしかった。
「まあ、東京でも青葉さんの話は凄いぞ。クラスの女子なんて、サインを貰えないかとか、握手したいとか、付き合いたいとか—————それに、東京のクラブにも内定が決まったし」
「ETU、っていうチームよね? あんまり強くないチームやけど、青葉一人が入って大丈夫なん?」
うち心配やわぁ、と三葉は不安を口にする。そんな彼女に対し、瀧は首を横に振り、
「あの人は、青葉さんは世界一の選手になる。こんなものじゃない。あの人はまだ、こんなものじゃ————」
一瞬だけ影がかかったような笑みを浮かべた瀧。過大評価ともいえる青葉への思い入れに三葉は苦笑いをする。
この世界になる前の青葉が成し遂げてきたことを考えれば、高校サッカーで無双する程度、どうということはない。
そんな彼の雄姿を知る、数少ない人物として、瀧は強い口調で断言する。
「瀧君にそこまで言われるなんて、青葉も嬉しいやろなぁ。日の丸を背負うって、あの子も言うとったし、今年中に着るんちゃうかな?」
そんな二人の前では、試合のハイライトが流れていた。
『先制点が欲しい江ノ島前半15分。逢沢の落としから荒木————』
映像で映し出されているのは、青葉の仕掛けから崩されている四日市実業と攻め立てる江ノ島イレブンの姿。
『最後は高瀬—————打点の高いヘディングシュートで、先制点を決めます』
「おっきいねぇ、この人。タワーみたいやわ」
「バスケもそれなりに出来そうだな」
『攻め立てる江ノ島は前半26分、宮水が仕掛けます』
青葉が敵陣を切り裂くドリブルで前に進む。周りを圧倒する見事な技術でゴールを目指すも、
『しかしここは、ワンダラーズ内定のGK遠野がファインセーブ。ゴールを許しません』
『それでも宮水が作り出したコーナーキックから、追加点が生まれます』
ショートコーナーから味方選手の横パスを受けた青葉が刹那の隙をつき、強烈な左足でゴールネットを突き刺したのだ。
『この強烈なシュートで、江ノ島が追加点。2点リードで折り返します』
『八雲さんから、いいパスを貰ったので。ここを決めなきゃエースは名乗れないと思って、振り抜きました』
インタビュアーが引き出した青葉の声が聞こえた。どうやら試合後のインタビューに彼は応えていたようだ。
『後半始まっても江ノ島猛攻は止まりません。後半立ち上がりに逢沢のこの強烈なシュート』
落としからダイレクトで叩き込んだ逢沢のシュートが四日市のゴールネットを揺らす。見事なパスワークで、三葉も一瞬ボールを見失った。
「え? えぇ!? どこにボール行ったん? って、あれ?」
「はっや————これはキーパー反応できねぇだろ」
『最後まで攻撃の手を緩めなかった江ノ島。四日市実業を完封、後半終了間際にもゴールを奪い、4対0と快勝しました。準々決勝では、千葉代表、八千草高校と対戦します』
映像が終わり、ニュースキャスターやら、解説者の映像へと戻る。
『いやぁ、江ノ島強いですね。さすがはタレント揃いというか、すかっとしますね』
『前に仕掛けられるサイドの選手がいることで、中盤もいい状態でボールを持てるのが好循環を生んでいますね』
その後は、如何に宮水青葉と逢沢駆がすごいのかと、急成長を続ける高瀬にスポットライトが当たることになる。
「—————ホンマ、すごいわぁ。受験なんが口惜しいけど、国立行ってみたかったなぁ」
三葉の憧憬ともいえる呟きが瀧の耳には聞こえた。
————来年からは、たぶん一緒に見れるよ、三葉
合格すれば、彼女とともに試合観戦だってできる。何より自分も、これまで以上に勉強を頑張らないといけないと決意するのだった。
「そういえば、青葉はいつも同じことを悩んでたなぁ」
「え?」
思い出したかのように、三葉は瀧にあることを言い出す。あの彼がこの世界でも、あの世界でも悩み続けた事柄。あんな風に上手く生き続ける彼でも、たくさんの悩みがある。その事実から目を背けるつもりはなかったが、成功している今でも抱き続けた不変の悩みとは何なのか。
「なんで達海選手が移籍したのか、よくわからん言うてた。そして、あれだけ批判される理由も」
彼が尊敬して止まない名選手の過去。彼は今現在も裏切り者呼ばわりされており、古巣には恨まれ続けている。
彼は移籍後のデビュー戦を最後に現役を退いた。あの悪夢が起きてから。だから彼は言うのだ。
ETU在籍時、既に彼は壊れていたのではないかと。そして、その移籍理由だけがどうしてもわからないと。
そしてそのETUでは、宮水青葉を含む内定組の活躍に心を躍らせるものと、強大なライバルが現れたことによる危機感が芽生えていた。
「本日はよろしくお願いします。プロ一年目ではありますが、このチームの戦力となれるよう努力します。得意なポジションはCBとDMFです」
内定組として、選手権本選への出場機会のない飛鳥亨がチームに合流。しっかりとした体格ながら、甘いマスクと若輩ながら備える確かな実力は、浦和レッドスターの越後にも通じるところがある。
「おうおう! 1年目かぁ! 戦力になってくれよぉ! ま、レギュラーの座は渡さねぇけどな!」
監督人事が決まり、後はキャンプ開始を待つのみとなったETU。しかし、クラブハウスには練習熱心な中堅、一部の若手選手がそろっていたのだ。
さらに言えば、早くプロの空気を感じたい飛鳥の希望もあり、異例の速さでのチーム合流となった。
そんな若手ライバルの出現に、センターバックのレギュラー黒田一樹は、報告書に書かれた飛鳥のプレースタイルを事前に読んでいた。
曰く、足元の技術に優れ、空中戦も同世代では抜けている存在。
何より一対一でのデュエルで、世代別代表で厳しい局面を経験してきた為、それなりの実力もある期待の若手。
しかし、浮ついた噂など一切ないストイックな性格であるともいわれている。
「まあ、硬くならずに徐々に慣れていけばいいよ。若いセンターバックが入ってくれたのは大きいからな」
黒田の横には、相方の杉江が微笑みながら飛鳥に握手を求めていた。それに応じる飛鳥は、杉江こそがこのチームの守備の要であると見抜いた。
————背が高く、攻撃参加もするETUのラインを統率する選手。何より、冷静な対応が出来る。
「よろしくお願いします、杉江さん」
その後、清川ことキヨ、石浜(通称ハマさん)、亀井(通称カメ)らとあいさつを交わし、中盤、攻撃を担う選手らとも挨拶を一人ひとり行う。
「このチームのキャプテンを務める村越だ。このチームに入ってきてくれたことを嬉しく思う。焦らず、驕らず、地に足をつけ、世代を代表するディフェンダーを目指してほしい」
「ええ。無論私もそのつもりでこのチームに入りましたから」
がっちりと握手を交わす二人。ともにキャプテンを任された者同士、波長が合うのだろう。村越も、写真や映像ではなく、実際の飛鳥を見てじっくりと彼を観察する。
————相当鍛えてきているな、選手権予選の後も地道にトレーニングを続けていたという。こういうストイックな選手がチームを強くするんだ。
まだまだ一人前と認めてはいないが、それでも彼にとって飛鳥はかなり評価の高い存在である。
その後、他の高卒選手の一人であるフォワードの上田研人は、世代別代表の飛鳥を見て緊張していた。
—————やっぱ、オーラあるわ、こいつ。足元も相当うまいし
世代別候補どまりで、直前のアメリカとの強化試合も怪我で棒に振ったようなものだが、彼もまたプロになるだけの実力はある。
ゴール前でのぶてぶてしさが武器ということだが、それはつまり、ゴール前での局面に強い選手であること。まだ体が出来ておらず、怪我をしないためのトレーニングを積んできた彼は、フォワードの競争を勝ち抜くにはまだ実力が足りない。
早速始まったチームの合同練習でも、随所に飛鳥のプレーには切れがあった。
このチームの選手名鑑は事前に確認してきたという飛鳥は、誰がどのようなプレーを好むのかを予測し、ロングフィードや短いパスで中盤を落ち着かせる好プレーを連発。
「うお!?」
プレスにやってきたフォワードの世良のプレーを物ともせず、逆にターンで躱す姿を見せつけ、そのままサイドへの鋭いパス。
「堀田さん!」
そのサイドにいた選手は堀田であり、このチームでは破格のユーティリティプレーヤーである。サイド、ボランチ、トップ下。中案のありとあらゆるポジションでプレーできる、サッカーIQの高い選手である。
そのまま堀田からリズムの良い攻撃が始まり、ゴール前での混戦をフォワード堺が決める。
「いいシュートだった。サンキューな、コシさん」
「零れ球への嗅覚は相変わらずだな、堺」
その後も、高卒選手らしからぬ冷静なプレーで赤﨑との一対一も簡単に止めてしまう。
「なっ!?」
シザースからの縦への抜け出しを半身になりながら追い縋り、最後はボールと体の間に入り、背中で相手の突進を受け止めながら、ボール奪取。そのプレーも手慣れたものである。
「はっはぁ!! ざまぁねぇな、赤﨑!!」
飛鳥の相方をこの試合で務める黒田が赤﨑を野次る。飛鳥も感じていたことだが、攻撃に重きを置く赤崎と、守備的なプレーが多い黒田は良くぶつかる。
「くっ! 次こそはッ」
そして勝手にライバル意識を向けられる飛鳥。彼にとっては望むところではあるが、自分が相手選手から嫌がられる選手であることを実感する。
その後も、サイドから中に切り込む赤崎を幾度となく止めきり、ディフェンスラインの上げ下げも見事―とはいかなかった。
「なっ、黒田さん!!」
逆サイドからの突破を決めてきたのだ。逆サイドにはこのチームの7番を背負う男、椿大介。
俊足が売りで、足元の技術もレベルが高い。しかし、プレーにムラがあり、出場機会をなかなか得られない選手。
そんな選手が敢然とサイド突破をしたのだ。そして、そんな椿を止めるべく、黒田が前に出過ぎていた。
————まずいっ!
そんな黒田をダブルタッチで簡単に振り切り、クロスボール。正確なクロスボールは背後から迫る世良の下へ—————
そして、この厚みの攻撃を飛鳥が予想していないはずがなかった。
「くっ!!」
何とかジャンプし、ヘッドで外へ逃げる判断をしたのだ。クリアボールとなり、コーナーキックの局面がやってくるが、抜けてくれば一点ものだった。
「ナイスディフェンス、ルーキー!! 今のは助かったぜ!!」
若干汗だらだらの黒田。年下にスピードで振り切られ、ゴールを奪われる局面だったが、こちらも年下に助けられた。
その後も、紅白戦は続けられ、スタミナも落ちず、まだまだ余力を感じさせる飛鳥の姿に、クラブハウスの窓からも熱視線が。
「宮水や逢沢駆らに手酷くやられていたが、あれはチーム力で完全に負けていたな。個人能力は、試合終盤で見せた逢沢駆を止めるプレーで証明されている」
栗澤は、己の眼力と、口説き落としたきっかけでもある江ノ島との試合を引き合いに出し、飛鳥の実力は確かであると改めて悟る。
というより、選手権後から相当鍛えてきたのだろう。さらにパワーアップした姿を見せてくれている。
年上で控えではあるものの、フォワードの世良を封殺し、入れ替わった後はベテランの堺にも一歩も引かない堂々としたプレーぶり。
しかし目を引くのは、土壇場での個の力。サイド突破してきた選手を悉く跳ね返し、ついにはこの試合で好プレー連発の椿を止めてしまった。一方、椿はそれまでの好プレーが嘘のように崩れ、ボールロストを連発し、カウンターの起点となってしまっていた。
————なんで、うまくいかないんだ—————
大きい。その存在が大きく立ちはだかる。椿大介の目の前に、期待のルーキーが立ち塞がっている。
————縦に、縦に行かなきゃ。俺でカウンターの起点になっているし、クロスだけでも
しかし、相手の表情とプレーを見て簡単に彼の意図を呼んだ飛鳥は、クロス前提の守備で椿に体を入れ、簡単にボールを奪ってしまう。
「なっ!?」
驚く椿を尻目に、飛鳥は椿という選手がよく分からないと考えていた。
————スピードもあり、テクニックもある。俺との一対一で止められるまで、好プレーを連発。プレーの波が酷いな
しかし、波が安定すれば化ける選手であることはわかる。
その後、飛鳥からの縦一本に反応した上田がチームの正GK緑川との一対一を決め、高卒選手がある程度のプレーを見せつけた内容となった。
「予想以上だ。頼もしいプレーだった」
練習後に村越に声を掛けられる飛鳥。飛鳥も微笑んで、
「いえ、黒田さんには損な役割を与えてしまいましたし、研人がいい抜け出しをしてくれたのが幸いでした」
「へ、高卒ルーキーがお前や青葉、逢沢駆だけではないってことだぜ。最後にいい見せ場をくれてありがとうな!」
そこへ、同じく高卒ルーキーの上田が飛鳥に歩み寄る。同期であり、上田の動きに合わせたパスを選択した飛鳥に好印象を持っているようだ。
「ドリさん相手に冷静なプレー。ああいう冷静なプレーを本番でも頼むぞ」
「うっす!」
村越に上田も声を掛けられ、アピール成功の模様。若い力が躍動した紅白戦。ここにはまだ、大物の宮水青葉と逢沢駆が合流していない。
まだ、若手の力はこんなものではない。まだチーム力は上がってくるだろう。
—————ついにそのきっかけが来た。
村越は、ついにファンに報いる時がきたと確信する。これまで志半ばで引退した同志たちの姿が脳裏をよぎる。
さらに言えば、練習の監督を務める栗澤スカウトと松原が、ニコニコしながら若手のプレーを眺めていた。
—————ファンに歓喜の瞬間を捧げたい。その為だけに現役にしがみつき、このチームを引っ張ってきた。
誰よりもこのチームを支えてきた自負がある。二部落ちを経験し、それでも這い上がろうとした仲間の姿を自分は覚えている。
————ETUは生まれ変わろうとしている
選手権では、鹿島ワンダラーズ内定の怪物GK遠野を、四発粉砕で叩きのめした江ノ島の活躍も耳にしている。
あの遠野が反応すら許されない弾丸ミドルを叩き込んだ宮水青葉の映像は、動画サイトにも流れ出ており、その影響力は計り知れないものとなっていた。
実際、その映像を見た若手選手や中堅選手の間でも、
「おい、先日の宮水のシュート見たか?」
「ああ。あれやばすぎだろ。あれがホントの怪物ってやつかよ」
「赤﨑もうかうかしてられねぇよな。強烈なライバルだぜ」
「やってやるよ。今日の様な醜態はもう晒さない!」
若手の間でも、宮水の活躍は刺激になっている。彼がチームに合流するまで既に一か月を切っている。
攻撃的な選手の間では、特に逢沢と宮水を脅威と考えていた。
コーチの中心人物である松原も、若手がチームに刺激を与えていることに思わず頬が綻んでいた。
————選手権を含む二人の映像は見させてもらいましたが、とんでもない逸材だった。
達海以来の大物。それが二人も。しかしそれだけではない。
この合同自主練習————村越が提案した紅白戦で存在感を見せた二人の高卒ルーキー。
飛鳥亨、上田研人。必ずシーズンの中頃で出番が来ると予感させるものだった。特に飛鳥は予想以上に早い出番が来るかもしれない。
いつかのETU IF
クラブカフェ町田
黒田「ところで、スギはいつ頃あの女と知り合ったんだ?」
杉江「・・・・・クラブカフェだ。たまたま寄り道したら、彼女がいたんだ。その際知り合いもいたからな。色々と相手が現れない現状に焦りを感じていたらしいが」
黒田「・・・・その発言は俺にも突き刺さるからやめろ」
杉江「すまん・・・・」
クラブカフェ浅草
青葉「結構便利だよな、ここ。引っ越しを検討するほど」
三葉「もう、まだ学生なんよ、青葉は」
青葉「けど、施設だけはちゃっかりいいな。負け続けても、ファンの獲得だけは順調だったらしい」
その後、
—————ゴールデンルーキーに熱愛か?
—————お相手は一般人女性?
青葉「実の姉だと知らずに、なんて記事を出すのかなぁ、本当に」
世良「紹介してくれ!!」
清川「あんな美人の姉がいたなんて聞いてないぞ!」
青葉「俺にはもう義兄になるだろう人がいるんでね。諦めてください、世良さん、キヨさん」
椿「——————ふふ」→携帯の画面を見て、笑みを浮かべる男
亀井「愛しの妖精とメールとはいい度胸だな、椿」
椿「ヒエッ」
上田「紹介してくれ、青葉!」
青葉「・・・・・どんだけ日照りが続いているんですか、ここは・・・・(龍の奴はフィギュアスケートの女子とお付き合いしているというのに)」