騎士見習いの立志伝 ~超常の名乗り~   作:傍観者改め、介入者

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駆の選手像がだんだんと固まってきました。パスが上手く、決定力のある。俊敏でボールをつなげる選手。

これ、ST時代の香川真司じゃないかと。

作者の中でも、ドイツ、イングランドで活躍した彼のプレーは凄かったのだとつくづく感じました。

後、今日は久保選手のデビュー戦?だと思います。頑張ってほしいですよね?




第四十話 背負う思い

 

『試合終了!!! 神奈川代表の江ノ島が大勝!! 怒涛のゴールラッシュで千葉代表、八千草を圧倒!!』

 

精魂尽き果てた様子でピッチに倒れこむ八千草高校イレブン。競技場に駆けつけた応援団は勿論のこと、テレビの向こう側から彼らの雄姿を見ていた者にとって、ショックを隠せないゲーム内容だった。

 

『しかし、大型ボランチとしての資質すら見せますか。彼はとてもポリバレントな選手ですねぇ。まるで今までボランチをやってきたかのような動きでしたね』

 

『巻さん、どうやら宮水選手はジュニア時代にボランチの経験があるそうですよ。攻守の要として、中盤で好プレーを見せたことも何度か』

 

『—————間違ってセンターバックをやらせても、問題ない気がしますね。本人は拒否するでしょうが』

 

 

ピッ、

 

 

テレビの前で千葉代表の雄姿を最後まで見ることなく、青年の前でテレビの画面が消された。

 

「あ」

 

 

「もぉぉぉぉ!!!! 容赦なさすぎだよ!! 千葉が、千葉があんなに蹂躙されるなんて!」

 

ユニフォームで顔を隠し動かない選手、下を向く選手たち。圧倒した江ノ島も淡々としており、まるで通過点を過ぎたかのような態度。

 

「まあ、実際化け物だからな、宮水選手は」

ジト目がノーマルな青年は、テレビの前で不貞腐れる少女を宥める。

 

「—————そもそもジェムユナイテッドだって獲得競争に出てたのにぃ!! なんで15位のETUなんかに行くのさ!! わけわかんない!」

 

さらに言えば、最初からETU一本と考えていた宮水の態度も理解しがたいものだった。

 

「ライバル少なそうだからな、あそこ。スタメンで出ることを目的にしていたんじゃないのか?」

 

青年としては蹴落とすレベルの選手があまり存在しないチームならば、早い段階で試合に出られるから、という理由が存在していたと考えた。

 

「でも————それだったらうちにもエースっていないよ? 前に主力が抜けて降格危機に直面したし————」

 

何が何でも千葉に入ってもらう、という期待を込めて彼のチーム入りを望んでいたが、結果は御覧の通り。しかも、

 

「世代別代表のエースと、守備の要を両獲りなんて、インチキだァァァ!!!」

 

極めつけは、世代別代表、伝説のトップ下の後継者、逢沢駆と、世代最高傑作と謳われるセンターバック飛鳥亨の獲得だ。

 

有望な若手を一気に3人もゲットしたETU。若くて実力のある選手はどこも欲しいものだ。

 

 

それは地元神奈川県の方でも同じだった。

 

「マリナーズは節穴だよなぁ。こんな選手を取り逃がすなんて」

 

こたつに入りながら、テレビ中継を見ている少女3人。平凡な日常を淡々と過ごす彼女らだが、総体から彗星のごとく現れた神奈川の新王者の姿を淡々と眺めていた。

 

「15歳があんなプレーするなんて誰も考えないよ」

 

神奈川サッカーの中心、横浜マリナーズも地元の有名選手ということで、彼らの獲得競争に参加していたが、ETU以外のチームに共通するのはトップチームへの昇格を経てのデビューというものだ。

 

至宝といわれる存在を大切に扱いたい。だからこそ、丁寧な育成プログラムが組まれたりもした。

 

「というか、攻撃陣は今期大丈夫なのかなぁ。何にも補強できてないじゃん」

 

「そうね。15歳であんなにしっかりしているのは凄いわねぇ(夏奈もあれの半分くらいは落ち着いてほしいのだけれど)」

 

「ちょ、春姉! そんな哀れんだ目で見ないでよぉぉ!」

 

 

総体という高校生にとっての晴れ舞台で、彼は確かに活躍したが、やはり本番は高校サッカーの様だった。圧倒的な知名度を誇る、アマチュアサッカー最大の大会の一つ。

 

一般人の中でもサッカー通だけが知っていた二人の高校サッカーの選手。それが一般層の間で広まりつつあった。

 

宮水青葉という名が、逢沢駆という名が全国区になった瞬間だった。

 

 

そして神奈川のスポーツジムでは、

 

「—————15歳の時、俺はあんな風な立ち振る舞いは出来なかったなぁ」

体幹トレーニングを行う長身の男性は、別のスポーツ界で活躍する若き俊英に目を輝かせる。

 

「というか、倉持先輩よりも足速いぞ、あれ」

そんな長身の男性に声をかけるのは、残念な二枚目な雰囲気のある優男。今冬、スキャンダルで嵌められそうになり、全国の男性に嫉妬と憐れみを浴びた存在である。

 

「あの速度で方向を急に変えられるのがすごいだろ。あれ出来るか、栄治?」

そんな二人に声をかけるのは、グラサンが似合う本物の二枚目。驚異的な身体能力を誇る彼らに、あれと同じことは出来るかと軽く尋ねてきたのだ。

 

「無理。ちょっと鍛錬だけでは追い付けないレベルだよ。あれはもう、彼にとってのノーマルなんだろうね」

栄治といわれた男性は、苦笑いしながら投了宣言。彼の真似は出来ないと断言する。

 

「いわゆる生活の一部とかいうやつか? 小さい頃は野山を走り回っていたらしいからな。ファルトレか。俺もやりたかったなぁ」

 

「沖田の場合は、カメラから逃げる方法を考えるべきだと思う。凛ちゃんをいつまで待たせる気なのか」

沖田青年にとって、それは禁句ほどではないが、刺さる言葉であった。

 

「ちょっ、おい!! だったら交流戦で打たせてくれよ!! 4タコはさすがに効いたんだぞ!」

2年連続首位打者のタイトルの瀬戸際に、影響を及ぼした対戦だった。何とか2分差で獲得したが、彼にとっては死活問題だった。

 

「————いやさ、うちの打線援護ないからさ。自援護できる時だったからさ———前に、自責点ゼロ完投負けを食らったらさ————心の奥底から信用できないんだよ」

 

表情が陰る栄治という男性。所属チームのBQS(バファローズクオリティスタート)は完封である。彼は今期、完投負けを3度喫した。なお、これが彼にとっての全敗戦数である。

 

「さすが、投手五冠をほしいままにしながら、負け運のスキルを持つ男」

 

 

「—————負け数少ないはずなんだけど。なんで負け運ついているの? おかしいですよ、コナミさん—————」

 

「負け方が悲惨だったからな————トンネルの決勝点で敗戦2回はやばい」

 

そして勝ちを消された回数は実に6度。8回無失点の好投の後、9回に4点を叩き込まれ、大逆転負けを喫した試合の彼は、平坦になっていたという。

 

 

何はともあれ、宮水青葉という存在が、ついに日本にばれた瞬間が、今日だった。

 

 

そして視点はピッチへ。敗退した島選手が宮水の下へ歩み寄る。

 

「全く間合いが図れなかったぜ。今まで体験したことがない経験だ。どんな練習をしてきたんだ?」

島選手は、ついにこの試合で青葉からボールを奪うことは出来なかった。しかし、ファウルで止めることはほんの数回成功した。

 

といっても、ファウルをしないと止められない現実に、内心では悔しさでいっぱいとなっている。

 

「ドリブルをし続けただけ、なんだがな。けど、今日は本当に間合いを特に気にしないといけなかったから」

 

「?」

 

「体の重心を崩す合気道ディフェンス。初見は驚いたよ。体幹には自信があるのに、最初は完全に崩された」

あれで目が覚めたと青葉は言う。

 

「間合いを意識して、相手の動きを意識して。俺に出来るのは一瞬の穴を見つけるぐらいだから」

 

それに、サイドでの相手を抜くドリブルではなく、運ぶドリブルを強いられたこともある。

 

「サイドの感覚で、鎌学戦まではドリブルしていたけど、今日は何か感覚が違った。真ん中はやっぱり難しい」

 

しかし今日はボールを運ぶドリブルが上手くできたと感じた。駆がいつも見ているという、守備の穴というものが見つけられた気がする。

 

「————お前は、どこでプレーするんだ?」

 

この試合で真ん中は難しいと言い放つ青葉の発言に、差を感じる島。会心の出来といっていいプレーぶりだったはずなのに、本人曰く、

 

————まだ、イメージというか、こうしたいというイメージと合わない

 

理想のプレーには遠いらしい。

 

「————あくまで攻撃の選手として、活躍はしたい。まあ、点を取るポジションが俺の十八番だと思いたいし」

 

なでしこで頑張る彼女の為にも、点取り屋としての姿を見せたいのだ。せっかくカッコいいことを言ったのに、中盤のプレーメーカーになるのは格好が悪い。

 

というより、中盤はあまり好きではない。

 

「——————プロで暴れてくれよ。そうでないと、俺らの世代まで飛び火するんでな」

 

お前にやられた世代が、余計ダメみたいな風潮は避けたい。そして、自分たちを討ち破り続ける傑の真の後継者たる彼には、もっと高い場所で活躍してほしい。

 

「——————アジア人初のバロンドール、出来れば6回獲りたいですね」

とりあえず目に見える形でてっぺんを取るには、5回目が濃厚な世界最高峰の選手を上回る必要がある。

 

青葉にとっては当たり前の発言に、

 

「—————世界のトップに喧嘩売りやがったぞ、こいつ。やっぱこんぐらいビッグマウスじゃないと、上には行けねぇのか」

 

島はリーグ・ジャパン入りすらただの通過点に過ぎないことに戦慄を覚える。15歳の少年がそれを言えるというのが異常なのだ。

 

 

「とにかく、語学勉強が一番の壁ですね。英語の後はオランダ、スペイン語。まあ、義務教育で英語までありましたし、何ヶ国か喋れないと」

 

青葉にとって、コミュニケーションが出来ない段階での挑戦は考えられない。通訳がつくのも有名選手の場合のみ。自分はアマチュアでしか結果を残せていない。ゆえに、自分一人でそれらを補う必要がある。

 

————語学勉強が悩みか、やっぱ感覚がずれているんだろうな

 

 

この試合でも前の試合までもそうだが、数的不利を前にしても突進するのがこの男だ。剥がせばチャンスになるから、彼はチャレンジし続けるのだろう。

 

エゴイストに見えるかもしれないが、誰よりもチームの勝利のために前を向けている。それが宮水青葉なのだということを理解した。

 

「総体の時と同じく、とっとと選手権を制覇してくれよ。高校サッカーで、外から人を呼んで、ただ勝ち名乗りする蹴球に対して、一泡吹かせたいんだよ」

 

総体に続いてそのつもりだったんだけどよ、と島は口惜しそうに言う。

 

「相手がどこだろうと勝利することが強豪校の義務。あまり好きではない言葉だけど、カッコいい言葉ではあるね」

 

リーグ・ジャパン黎明期のスーパースター、彼の魂を受け継ぐチームの選手ならば、きっとこういうだろう。

 

 

 

そう言って、青葉はベンチへと去っていくのだった。

 

 

「あっ」

そこへ、丁度入れ違いになった駆がやってきた。彼は島を見た瞬間に気まずそうにしていたが、

 

「気にすんなよ。というか、あのルーレット、本当に見分けがつかねぇな」

 

直前までどちらのルーレットなのかが分からない。その後に小刻みなフェイントを入れられたら、もうどうしようもできない。

 

 

影のルーレットと、王道のルーレット。駆の使い分けは一朝一夕で身に着けたものではない。

 

「—————江ノ島は蹴球に勝って、青葉と一緒に僕はプロで暴れます。必ず」

 

何か強い意志を感じさせる駆の言葉。きっと彼に決意させたものは軽くない。今までのフットボール生活で感じたことを、駆は素直に表現していた。

 

「—————上のレベルで、俺の合気道ディフェンスは通用しなかった」

 

海外では特にそれが顕著だった。だから、まだまだ直す場所がある。

 

「—————だから、このディフェンスの課題を修正して、俺もお前らに追いつく。内定見込みの行き先は二部だが、すぐに昇格してみせる。勝ち逃げは許さないぞ?」

 

 

「はい。僕らだって次も負けません。ゴールを決める。それが僕にとってのエリアの騎士ですから」

強い決意を尚も緩めない駆。相応しい選手であり続けたい。兄が考えた騎士にはなれないかもしれないが、自分で考えた騎士像ならここにある。

 

駆の頭の中にあるのだ。

 

 

そして準決勝の次の相手は、相手高校を前半だけで圧倒していたのだ。

 

「——————よく動いているな。それに真ん中の選手のシュート力も侮れない」

 

恐らく、最も江ノ島にとっての脅威となる存在を目の当たりにした織田の視線の先には、キャノンフリーキックを思わせるシュート力を誇る、鳳凰学園のエース、甲斐巽がいる。自分と同じ2年生である。

 

「確かに、バイタルエリアで打たせたくないですね」

 

青葉も、自分と同等のシュート力を備えるストライカーは危険だと思わざるを得ない。

 

————何よりプレーに迷いがない。しかし、2枚ほどあれば動きは止められる

 

自分がいかに前線で足止めをすることで、数的有利になる時間を稼げばいい。

 

「マッチアップするかもしれない相手は、テクニシャンだぞ、駆」

 

そしてさらに問題なのは、この鳳凰の司令塔司馬良介。小柄だが、テクニックのあるタイプである。フィジカル的には少し前の駆を思わせる。

 

身長は170cmに満たない司馬と、トレーニングの成果で174cm辺りまで成長した駆。体格差は歴然だが、駆は小柄な選手のメリットを良く知っている。

 

—————まさか、こっちの側で対応することになるなんてね

 

自分がフィジカルで勝る展開、そんなマッチアップになり得る展開。彼の俊敏性は警戒しなければならない。

 

「はい。でも、いずれ鳳凰以上の壁を乗り越えないといけません。なら、江ノ島は勝つ。その為のプレーをするだけです」

 

プロになれば、高校サッカーのレベルを何枚も超えていかなければならない。海外挑戦の時には、それ以上に成長しなければならない。

 

油断はない。しかし、ここで止まるつもりはない。

 

「————エースらしい発言が板についてきたな、駆も!」

 

中塚は、まるで傑のようなことを言い始める駆に感慨深い気持ちになっていた。

 

—————やっぱあんた、駆の中で生きているんじゃねぇか、傑さん

 

「へっ、となれば青葉と駆は攻撃に専念しとけ。チャンスメイクは俺に任せろ」

 

荒木が、しっかりとチャンスメイクして見せると宣言する。プレーメーカーとしてドリブラーとしての側面も持つ彼が三列目から攻撃参加する。江ノ島の中枢になりつつある彼の貢献は重要だ。

 

「やはり前線での絶対的な武器が必要になりますね」

岩城監督は鳳凰が江ノ島と同じ、走る攻撃的なサッカーであることを認識したうえで、ゴール前での武器を持つ選手をそろえ、打ち勝つしかないと考えていた。

 

守ることも重要だが、場合によっては撃ち合いになる。攻撃のメンバーもより攻撃的でなければならない。

 

バランスではなく、相手に怖さを与えられる存在。

 

 

 

そして、対する鳳凰学園。禁じ手ともいえる中盤と、点取り屋、チャンスメーカーのサイドという二つの顔を持つ、宮水という選手のスケールのでかさに難儀していた。

 

「やっぱとんでもないな。今大会の日本人の中で最強クラスだ」

 

監督の伊庭は、これまでの青葉のプレーを見てそう判断した。

 

突破力とクロスの精度、決定力の高さ。さらにスピード。全てを兼ね備えた選手でありながら、甲斐と同等以上のシュートコントロールと威力を誇る。それがスピードに乗って襲い掛かるのは反則だ。

 

「しかも、プロ入り内定だろ? 高校1年目で。しかもイケメン! 恋人のコの字もないけどな」

 

鳳凰の中でも、宮水の話は至る所で出ていた。彼こそが、江ノ島最大の攻撃力。それでも彼らは弁えている。

 

江ノ島は青葉のワンマンチームでないことを。それは皆が重々承知だ。しかし

 

「しかし、やるべきことは変わらない。絶対に決勝に進出して、カップを掲げて、それで向日葵の下へ戻るんだ!」

 

県大会を制した直後の濡れ衣により、鳳凰学園は大会辞退を迫られていた。エースで司令塔の司馬の携帯カバンに、たばこが紛れ込んでいたのだ。

 

未成年者の喫煙疑惑という、不祥事による大会辞退を迫られ、その証拠を通報したのは、決勝戦で惨敗を喫した相手高校の生徒。

 

いくらでも推論を並べ立てられるような展開。そして、その動機も善意での通報なのか、それともそれ以外の感情が生まれたのか。

 

どちらにせよ、この件は過去の産物となり、選手権本選に鳳凰イレブンの姿がある。故に決着したはずだった。

 

このチームのマネージャー、日向向日葵が昏睡状態にならなければ。

 

 

彼らは、その証拠である司馬の物品と、彼がいた場所では時間帯的に無理だと知っていた。彼はその時、別の場所にいたのだ。

 

ゆえに、その目撃者を連れてきて、アリバイを証明しなければならなかった。

 

エースの危機を救うために、部員全員が一つになり、その証拠を集めた。顧問も必死になっていた。

 

しかし、向日葵が鳳凰の苦境を救う可能性のある中学生に巡り合っていた。彼らはその時間帯に、司馬とともに携帯で写真撮影をしていたのだ。だからその写真こそが、司馬の身の潔白を証明する得難いものであったのだ。

 

彼女はそれに辿り着いた。大雨の中、二人の中学生の証拠が決定的なアシストになった。

 

逆に、司馬を嵌めたような行動と受け止められてしまった相手高校は、軽い注意を受けるのみにとどまった。が、鳳凰の出場が危ぶまれる事態に陥らせたことは、鳳凰の選手が町中で証拠を探し回っていたことから、明るみに出てしまう。

 

平たく言えば、今後有望な選手が集まりづらくなったのは確かだろう。

 

 

「—————向日葵の頑張りがあったから、俺たちはここにいる。相手はすげぇ強いかもしれねぇけど、だからってやる前から嫌な気持ちにはなりたくない」

 

 

相手は、高校サッカー最高傑作といわれる江ノ島イレブン。蹴球とは違った変化を遂げた、日本の高校サッカーの未来を担う存在を擁する。

 

「だから、やってやろうぜ!」

 

苦難を乗り越え、サッカーを楽しいものと捉え、ここまで来た鳳凰学園。江ノ島にとって、この試合はどういったものになるのか。

 

 

 

 

準決勝の組み合わせが決まり、国立での試合が始まる、前夜。

 

 

青葉は家族に電話をかけていた。

 

「もしもし、三姉? こんな夜遅くにごめん」

 

 

「大丈夫やよ、青葉。とうとう後二試合で、青葉の高校サッカーも見納めやね。あっという間で、これからプロの舞台に飛び込む—————信じられない気持ちかも」

 

電話の相手は宮水三葉。彼の姉との久しぶりの会話。前に連絡した際は、プロ入りを決めた時だった。

 

「いきなり驚いたわぁ、あん頃は。ETUっていうチームに入るって聞いた時は、びっくりしたんよ?」

 

瀧の方はかなり驚いていたらしい。東京ヴィクトリーではなかったことに、彼は首をかしげていた。

 

「とにかく、一年目で勝負できる場所で試合をしたかった。ヴィクトリーでもチャンスはあったけど、江ノ島に来て色々考えた。登っていく感じがするチームにいるのは、案外心地よかった」

 

江ノ島以外の、蹴球にいたのなら、こんな気持ちにはならなかった。レベルの高い場所でレギュラー争いに勝つ。その思いだけだっただろう。

 

「選手として、人として成長できた。いい友人にも恵まれた」

駆という盟友に出会えたことは、個人的にも日本サッカー界的にもよかったと。

 

「—————よかったね、青葉。それと優勝旗、みんなで持った姿を見せてぇな?」

 

「勿論、そのつもりだよ、三姉。四葉とお婆ちゃんによろしく。おっと、市長のお父さんにもよろしく」

 

「畏まった名称で呼ばんといて。お父さん背中が痒くなるやん。うん。ちゃんとお姉ちゃんが伝えておくね」

 

 

家族との邂逅を終え、最後にコールする相手は——————

 

 

「—————驚いた、まさか私に電話をかけてくるなんてね、アー君」

 

やや驚いた、虚を突かれたような声が聞こえてきた。

 

「何となく、声を聴きたくなった。今の俺は、十分やれているのか。今日は少し物足りなかったから」

 

舞衣は、青葉の問いに対して少し考えた。ボランチとしての彼は確かにいいプレーを連発していた。しかし、サイドやトップ下で見せた勝利に直結するようなプレーは少なかった気がする。

 

「やっぱり、アー君は点取り屋だから。ゴールをたくさん決める姿が絵になると思う。派手なパフォーマンス。アー君はあんまりしないけど、いつかみたいな」

 

ゴール前で憎らしいほど冷静な彼の姿は、畏怖と脅威を知らしめるだろう。しかし、彼はゴールを決めてもほとんど感情を出さない。精々手を振るぐらいだ。

 

「パフォーマンスは意識していなかったからね。それよりも次どうしようかって考えていたから。でも、舞衣が言うならそうなんだろうね」

 

ゴールパフォーマンスはあまりやってこなかったからこそ、やってみたいという気持ちがないわけではない。

 

「決定的なゴールの時に、劇的な展開の時に、やってみようかな」

 

「うん。カッコいいの、期待してるよ、アー君。それと私は蹴球の学生だけど、江ノ島を応援することに決めたから」

 

「え? いやしかし————」

 

舞衣の宣言に驚く青葉。蹴球の学生は母校を応援するのだから、無理にこちらを応援しなくても、と彼は考えた。

 

「私は、勿論江ノ島のサッカーが好きだけど、アー君のサッカーを目指しているから」

 

 

「私にとっての、目標であってほしいから。だから、勝ってほしい。私のこと、度肝を抜かせてほしいの!」

 

同じ点取り屋として、自分を元気づけてくれた人の活躍を見たかった。きっとあの場所に立てる、あの次元に立てると信じて、これから走り続けるために。

 

「それだけ、私にとってアー君は特別な選手なの。だから、頑張って!」

 

彼女の嘘偽りのない本音。それらを込めた激励は、青葉の心に強く響いた。

 

「—————いい喝を貰った。少しプロ入りが近づいて、浮ついていたかもしれない」

 

後二試合と考え、名残惜しさを感じていた。それが1試合になるかもしれないのに。負けたら終わりのトーナメントでなんて間抜けだ。

 

 

目の前の鳳凰に勝つ。そして蹴球も蹴散らす。その初心をどうも忘れていた気がする。

 

「得点王とベストイレブン。とれるかは分からないが、一番記憶に残る選手を目指すさ」

 

 

「うん!」

 

 

 

電話を切った青葉は、舞衣と話せてもやもやが晴れた気分になっていた。彼女は光だ。火の玉のようになる時もあるが、基本的に人を元気にするような人だ。

 

だから、彼女の明るい声を聴いた時、励ましと喝を貰った時、気分が楽になった。

 

「—————まだ浮ついているのか、俺は」

 

どうしようもないな、と青葉は自分に苦笑いするのだった。

 

 

 

そして一方、舞衣は久しぶりに青葉の声を聞けたことで、心臓がバクバクしていた。

 

—————アー君は私にとっての目標。私が目指す点取り屋の姿勢をすべて持ってる

 

だから、あくまで選手として尊敬できる人だ。

 

————アー君のように、活躍できれば、そのプレッシャーに打ち勝てた時、それはどんなにすばらしいことだろうと

 

 

きっとその時は、彼は自分のことを褒めてくれるだろう。その言葉が一番欲しいのだ。

 

 

—————ああ、そっか。私、応援されたかったんだ

 

 

幼い頃に母親は病に倒れ、父はそんな彼女に先立たれてしまった。父が母親を愛していたのは知っていた。泣き笑いのような顔で、時々自分を見ていたことも知っている。

 

きっと、どこまでも母に似た自分に、彼女を連想させてしまったのだと。

 

しかし、そんな父親のことを分かっていたはずなのに、仕事に没頭する彼との間に溝が出来てしまった。

 

仕事人間で、家事がとてもできない片親。いつ帰ってくるか分からない。そんな日が毎日続いた。

 

寂しかったのだ。一人でいることが。自分が少しずつ変わっていることを誰かに見せたかった。誰でもいいから自分を見てほしかった。

 

だから、邪険に扱うこともできない。ずっと前の代表合宿の昼間、いわゆる公開練習中に現れた父を目の前にして、持ち前の笑顔を張り続けることが出来なかった。

 

ここまで育ててもらった親なのに、寂しい気持ちをぶつけたら、迷惑なはずだから。

 

この溜まった負の感情を、上手く発散することが出来なかった。青葉に会うまでは心の整理をつけることも出来なかった。

 

「アー君のおかげなんだよ。素直な私に戻れたのは」

 

あれから、少しずつ溝は浅くなってきている。最初は戸惑う父親だったが、自分の本音を知って、夜に電話する回数も若干増えた。

 

毎日自分のために頑張ってくれていることが、学生の自分を守ってくれていることを、わかるから。

 

代表の中でも、同世代の友達が出来た。何気ない話をすることが、こんなにも素晴らしいことなのだと、理解できた。それを伝えたら、「そうか」と口数は少ないものの、感情の機敏に聡い彼女は、彼の感情を理解できた。

 

 

そんな家族の絆に気づくきっかけをくれた恩人。だから、ここまででいい。

 

————私にとっての目標。それだけでいいんだ

 

いつもなら恋愛対象になるはずだった。ちょっと不器用で、でも優しい男の子を好きになると思っていた。

 

だが、恋に落ちるような感情はついに沸かなかった。

 

————私は、アー君を男の子としてみるよりも、選手として見ている。

 

選手としての彼が好きなのだ。彼のプレースタイルが出来ればどんなにいいか。だから、彼は登り続ける。そして自分もそれを目指し続ける。

 

————ウィッチィには負けないよ、アー君。ペアでバロンドールを獲るのは私たちなんだ

 

いつか憧れの彼と共に、その頂に上がれば、きっとそれは素晴らしい未来なのだと。

 

 

 




いつかのETU IF

青葉「今日はありがとう。貴女のおかげでミルコさん達も迷子にならずにすんだよ」


藍子「い、いえ。出来ることをしただけです。英語しか取り柄がないし・・・」


青葉「正直驚いたよ。日常会話が苦にならない語学力。将来どこかを目指しているのかな? 海外で活躍できる場所を探していたり」


藍子「!!!」



その後・・・・・



丹波「元気出せよ、青葉。そんなに落ち込んでいるのか?」

亀井「プギャー! ざまぁないな、青葉!!」

石浜「落ち着けよ、カメさん。あんたどんだけ嫉妬しているんだ・・・」


青葉「分からないんだ、どうして彼女はあんな悲しそうな顔をしてしまったんだ」


飛鳥「・・・・・青葉。英語が出来るから、彼女は将来海外で何かを目指している。本気でそう思っていたのなら、少し短慮だったかもな」

青葉「飛鳥さん?」

飛鳥「だが、これはデリケートな問題だ。踏み込むのなら、それなりの覚悟をしろよ。俺から言えるのは、それだけだ」



栗澤「これは、ETUのセッティングパパこと、俺の出番かな?」

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