騎士見習いの立志伝 ~超常の名乗り~   作:傍観者改め、介入者

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投稿が遅れて申し訳ない。タイトルに時間がかかってしまった。


第四十一話 反撃のバリスタ

ついに始まるセミファイナル。舞台は国立競技場へと移り、ベスト4にのみ許された聖地での戦いを待つのみである。

 

 

国立————————

 

それはサッカーファンの聖地、日本サッカー開闢の歴史とともに、その時を歩んできた場所。

 

 

多くのプロ選手と、躍動する選手たちの若かりし頃を記憶する場所。

 

 

ゆえに、その歴史はこれからも続く。2015年の次も歴史が、ヒーローたちの雄姿が刻み付けられる。

 

『さぁ、大会もいよいよクライマックスを迎えようとしています。選手権大会準決勝第一試合。神奈川代表、江ノ島高校と、滋賀代表、鳳凰学園の一戦ですが、どちらも攻撃に重きを置くサッカーが持ち味ですね』

 

 

『ともに大差でゲームを終えることから、撃ち合いが予想されますね。今大会唯一の無失点を続ける江ノ島高校の牙城が破られるのか。そして、得点王争いでもしのぎを削っていますからね』

 

 

『6得点を挙げた逢沢駆選手に、5得点の甲斐選手、パトリック・ジェンパ、レオナルド・シルバ、4得点の宮水選手。3得点で追う高瀬選手と今大会は点取り屋の活躍が目立っています』

 

『得点王争いは熾烈ですが、まずはこの準決勝。どうなるかが楽しみですね』

 

 

 

スターティングメンバー発表と、試合前のミーティングを行う江ノ島では

 

 

GK 16番 李

LSB15番 中塚

CB  4番 海王寺

CB 14番 錦織

RSB 3番 八雲

CMF 6番 織田

CMF12番 堀川

LMF11番 兵藤

RMF 8番 宮水

OMF 10番 逢沢

CFW   9番 高瀬

 

ベンチ入り (GK)1番 紅林、19番林葉、(DF)17番 藤田、5番 三上、2番 桜井、(MF)7番 荒木、13番 火野、18番 的場(FW)20番 夏目,

 

 

「センターバックは海王寺君と錦織君。相手は今大会トップレベルの攻撃力を誇るチームです。ですが、クリーンシートを狙ってもいいんですよ?」

 

「うっす。それが出来ればプロも近いっすね」

 

「浮つくな、錦織。油断せず、行くぞ」

 

滾る錦織と、冷静な姿勢を崩さない海王寺。クリーンシートを保つ守備陣の中枢を担う二人は、かなりの自信を持っていた。

 

「最重要課題は、甲斐君に前を向かせないことです。彼の得意な姿勢にさせないこと。海王寺君がマッチアップすることになります。苦し紛れの枠外シュートは気にしないでください」

 

「もう一つ問題なのは、ボランチの上りと、司令塔司馬選手の飛び出しです。間合いとポジショニングに注意して、司馬選手とのマッチアップの際はリトリートで。ブロックの構築まで時間を稼いでください」

 

「まあ、的場みたいなタイプだからな。一歩目が遅くても、奴の三歩が俺の一歩と考えれば怖くないさ」

 

確かにアジリティはある。しかし、その横の幅はどうだ。

 

 

日常のようにドリブラーと対決する彼らディフェンダー陣にとって、ドリブラーとの対決は日常茶飯事だった。

 

何しろ江ノ島のドリブラーたちは、上りの少ない味方を見るや、数的不利でも仕掛ける馬鹿どもの集まりなのだから。

 

うちの宮水に比べれば、どうということはない。フィジカルでぶつかってこない相手など、恐れるに足らず。

 

こじ開けてくる相手が怖い。

 

「そして中塚君と、八雲君。特に八雲君は連戦になりますが、奮起をお願いします。相手は今大会注目のサイドバックコンビ。中塚君は自慢の足と泥臭さ。八雲君は縦一閃を警戒してください」

 

「うっす。早さと反応なら負けねぇっす!」

 

「連戦? 俺が替えの効かない存在ってだけじゃないっすか! やってやりますよ、俺は!」

 

そうだ。八雲はフル出場のサイドバックで奮闘する選手だ。守備陣の中で攻守に貢献する数少ない選手である。特に、今回は宮水との久しぶりのタッグ結成。モチベーションは上がっている。

 

そして中塚はここにきて、自慢のスピードが攻撃に活かされることを期待されている。さらにその足は、守備でもきっと活かされる。

 

「堀川君は、司馬選手をマンマークしてください。今回、サイドケアは織田君に担ってもらいます」

 

「ひひひ。エースキラー襲名していいっすね?」

 

「ええ。彼に仕事をさせたら向こうのペースですからね」

 

堀川は、ハードマークで司馬を潰す役目。とはいえ、深いエリアまで下がった司馬をマークするわけではなく、マンマークとゾーンディフェンス、周囲との連携がカギになってくる。

 

「司馬君が深いエリアまで下がった際は、セカンドボールを狙っていてください。相手は君が、攻撃のスイッチであるとは考えていないだろう」

 

守備的ボランチでの起用が多い堀川だが、縦に早いサッカーにおいて、その役目は重要な使命を背負うことになる。

 

ゆえに、彼には三列目からの攻撃の手助けが求められる。

 

 

「織田君はポゼッション時、堀川君からボールが来たときに攻撃の組み立てをお願いします。織田君はまず高瀬君を見てください。厳しいならサイドにはたいて、サイド攻撃を。ピッチ上でのタクトは君に任せます」

 

「分かりました!」

 

高瀬というポストの上手い選手を見つけ、厳しいならポゼッション。高瀬へのボールが厳しいということは、それだけサイドが空くということだ。

 

「カギになるのは二列目です。逢沢君は司令塔のポジションですが、セカンドトップの動きをしてもらいます。下がってボールを受けたり、ドリブルをしたり。君のセンスが試されます」

 

「わかりました!」

 

攻撃のカギを握る二列目。逢沢はセカンドトップの動きで偽9番に近いプレーを求められる。そしてチャンスと見るや、高瀬の背後から襲い掛かる。

 

「兵藤君は味方が上がり切っていない状況であれば、仕掛けても構いません。むしろ、どんどん仕掛けてください」

 

「やってやるよ、岩城ちゃん」

仕掛けていいと言われてニンマリする兵藤。

 

「ですが、パスならば逆サイドへの大きなボールをまず狙ってください。厳しいボールぐらいが丁度いいです。宮水君を走らせてください」

 

サイドから逆サイドへの展開。仕掛けが厳しいなら近場へのパスではなく、大きなロングボール。宮水の足は最速だ。だから、届くと信じてハードボールでチャレンジしてもらう。

 

「鬼っすね、青葉には」

苦笑いしている青葉を見て、同情を禁じ得ない兵藤。

 

「抜けたらチャンス。仮に失敗しても、相手のディフェンスラインを下げさせることが出来ます。リスクはそれほどありませんからね」

 

 

「そして宮水君には、クロスカットイン、シュートのタイミングは君に任せます。君のところで違いを見せれば、得点の可能性は高まるでしょう」

 

「はい」

エースとして、チームを牽引する動き。それが宮水のサイドアタッカーとしての役目。相手は当真と並ぶ、今大会注目のサイドバック。

 

 

「高瀬君はポストプレーだけではなく、強引なプレーもお願いします。フィジカルを活かして強引にシュートを狙ってください。ただ、味方がいる時は前もって何をするべきかをより即決にして、プレーしてください」

 

味方が寄るとプレースピードが遅くなる、ではなく前もって想定しろということ。期待をしている高瀬には厳しい注文が飛ぶ。

 

 

 

スタメンが電光掲示板に表示され、サイドアタッカー青葉の姿に大歓声が。

 

 

「ついに本領発揮!! 宮水のドリブルが見られる!」

 

「かなりスピードを意識した陣形だな。堀川と織田のダブルボランチか!」

 

 

—————宮水ッ!! 宮水ッ!! 宮水ッ!!

 

 

————逢沢ッ!! 逢沢ッ!!  逢沢ッ!!

 

 

「今日もゴールを決めて得点王頼むぜ、逢沢ァァァ!!!」

 

「栄冠もタイトルもとっちまえ!!」

 

「逢沢に負けるな、お前も目立てよ、宮水!!」

 

「クロスボール、そろそろ見たいぞ!!」

 

看板選手が攻撃、二列目に集結。逢沢と宮水は出場するだけで歓声が上がる。それほどの選手、高校サッカーのスター選手になっていたのだ。

 

さらに、

 

「江ノ島の空中要塞高瀬!! やっぱゴール前の圧力は半端ない!!」

 

「遠野の壁をこじ開けたヘディング!! 期待しているぜ!!」

 

 

—————高瀬っ!! 高瀬っ!! 高瀬っ!!

 

 

遠野の壁を打ち破った高瀬。あの鉄壁守備陣に風穴を開けた名声は、伊達ではない。遠野相手からゴールを決めたことで、彼もまた、可能性を秘めるようになっていた。

 

 

現地に集結することが出来なかった高瀬家の面々は、テレビの前で高瀬コールが起きていることにびっくりしていた。

 

「凄い、兄ちゃんが声援を浴びてる!!」

 

「兄ちゃんってすごかったんだ————」

 

ちび達の前で、フォワードとしての役割を果たせるのか。高瀬は今、最初の分岐点に立っている。ここでプロサッカーチームの目に止まるのか、それともまだお呼びではないのか。

 

—————家族の為、一度自分の道を曲げた達郎が、ここまで来た

 

最初の夢を諦めた、諦めさせたのは不甲斐ない自分たちのせいだ。彼の母親は、背番号9を背負う彼の姿を見て、目が潤んでいた。

 

————がんばれっ、達郎

 

 

そして、神奈川のライバルが、彼らの雄姿をテレビの前で固唾をのんで見守る。

 

「俺たちに勝ったんだ。神奈川王者が伊達ではないことを、魅せてくれ。江ノ島高校」

 

「だな。まあ、うちも江ノ島とは競り合っていたんだけどな。大差で勝ってもらわないと、うちの沽券にかかわる」

 

「駆が、傑さんを超えているような、そんなシーンが俺は見たいですね」

 

鎌学の面々は、江ノ島の雄姿と勝利を見たくてうずうずしていた。どこまでも長所を磨き続け、一つの生き物のように変化する江ノ島高校。

 

青葉だけではない。駆だけでもない。いろんな選手がいいプレーをしている。凄いチームで、まだ未完成だ。

 

 

さらに、湘南大付属の日比野は、プロへと羽ばたこうとしている駆たちをチームメートと共に見守る。

 

「行けッ、駆! お前なら、お前たちならできる!」

日比野は、この一年で大きく成長した駆が、この世代を引っ張るのだと信じて疑わない。勿論、宮水もこの世代を引っ張るだろう。

 

「まあ、神奈川ですっかり有名になったからな、あいつらは」

本田マイケルも、彗星のごとく現れた傑の弟の活躍に目を輝かせる一人である。

 

 

日本サッカーの希望は終わっていなかった。傑が死んで、司令塔がいないとさえ言われた。

 

しかし、荒木が江ノ島でもう一度這い上がり、下の世代で兄の遺志を継ぐ駆が化けた。傑が認めた宮水が更なる飛躍を遂げている。

 

いつか、日本の攻撃はこの3人が起点になる、そういわれる日が近いかもしれないと。

 

 

—————必ず、決勝に行って、蹴球に勝ってくれ!

 

 

 

 

前半は鳳凰学園ボールからのスタートで開始し、サイド攻撃からダイナミックな展開を披露する。

 

右サイドハーフ吉田が兵藤のフォアチェックを受けるが、ヒールで外側を走るサイドバック、谷へとボールが渡る。

 

今大会攻撃参加が目立つ両サイドバックの運動量はそこが知れない。しかし対するのは江ノ島の中塚。超人的な俊足の持ち主で、守備を鍛えられた相手だ。

 

————あっという間にコースを消されたッ!

 

中塚はリトリートしながら縦を封じ、その上で半身になりながら近場へのパスを塞ぐよう手で指示を出す。

 

はたから見ればコースはあるのだが、ボールと体が離れた瞬間に狩られる予感があった。

 

爆速下手糞サイドバックの中塚は、その身体能力だけは侮れない。

 

「近場簡単に通すな!! マコさんッ!」

 

「おうよ!」

 

見事な連携、兵藤のカバーリング。抜かせないし、出させない。だが、谷が見たのは逆サイド。

 

「中央カバーリング、堀さん!」

 

「了解ヨ!」

 

鋭い声とともに、青葉が堀川に指示を出す。決めてくるのは中央だ。サイドでは来ない。

 

「くっ」

 

ワンタッチでボールを受け、左サイドの山本は八雲が後方に、そして下がって守備をする宮水の圧力に屈し、衝動的に中央へとパスを出してしまう。

 

—————狙われたッ

 

ドリブルならワンテンポ遅れ、刈り取られる。しかし青葉は既に中央へのパスを予測していた。

 

 

半端なパスになったボールは、ハードマーカーから一転、ボールハンターと化した堀川に渡る。

 

 

「くっ———え?」

 

ボールをロストした山本は悔しそうにするが、近くにいたはずの青葉がいないことに気づく。一瞬しか目を離していないのに。

 

 

すでに青葉は、堀川が動いた瞬間に動き出していた。

 

 

「こっちっ!!」

 

スペースを指さし、青葉がボールを貰う。彼の先には広大なサイドのスペース。

 

 

堀川が動いた瞬間に、江ノ島のスイッチが入る。ボールホルダーの堀川が前に突進。ディフェンスラインも連動してあげてくる。

 

「あがれ、あげていくぞ、ライン!!」

 

海王寺の一声とともにディフェンスラインも上がる。コンパクトな陣形。カウンターの際に江ノ島の鋭さがさく裂する。

 

 

そして堀川のサイドへのスルーパスが青葉に通る。

 

「きたぁぁぁぁ!!!」

 

「8番宮水!!!」

 

その瞬間、歓声が上がる。加速した状態、トップスピード間近の青葉がついに鳳凰エリアに牙をむく。

 

トップスピードとなった青葉を止めようとする左ボランチだったが、

 

「あっ!!」

 

空踏みからのダブルタッチで、縦一閃を決められ、理想的なボール運びでスペースを突進。止まらない。

 

さらに、ゴール前へと一直線に走る青葉に、バイタルエリアからボールを要求するのは高瀬。

 

————きやがれ、青葉!!

 

ニアサイドに走りこんでくる高瀬に釣られ、センターバックが一人つり出される。

 

 

だから、彼はその瞬間を逃さない。

 

 

『ニアサイドへのアーリー、高瀬落としたッ! ダイレクトぉぉぉぉぉ!!! あっとキーパーファインセーブ!!! 高瀬の落としから最後は逢沢!! キーパーの正面をついてしまったか!!』

 

逢沢の強烈な左足が鳳凰ゴールマウスを脅かす。強烈なカウンター攻撃を見せつけた江ノ島攻撃力に冷や汗をかく鳳凰サイド。

 

—————攻守の切り替えが早すぎる。

 

————やばい、俺のとこだ。俺のところですでに————

 

堀川こそが、江ノ島の攻守のスイッチなのだと認識した鳳凰学園。カウンター攻撃時、彼のハンティング能力は発揮される。

 

 

しかし鳳凰のピンチはまだ続く。コーナーキックでは、完璧なポストプレーを見せつけた高瀬が控える。

 

『さぁ、高瀬にはダブルチーム。背の高い海王寺、錦織も上がってきている!』

 

身長では分のある江ノ島高校。ターゲットポイントが3つあることで、プレッシャーも圧力も半端がない。

 

蹴るのは織田。そのボールが、

 

『キーパー飛び出したァァァ!! ナイスキャッチ!! 寸前で高瀬へのボールを防ぎました!!』

 

 

倒れこみながら、高瀬へのボールをキャッチする鳳凰のゴールキーパー愛甲。その跳躍力で、数々のライバル校が沈められた高瀬の攻撃を防いだ。

 

「ぐっ————へへっ、止めてやったぜ」

 

笑みを浮かべる愛甲。高瀬はそれを見て憮然としつつも急いで自陣へと戻っていく。

 

最初の攻防で、鳳凰はロングパスを出しづらくなり、特に左サイドでの勝負を躊躇することになる。

 

しかも、ハードマークを受けている司馬は、簡単に前を向くことが出来ない。

 

「くっそっ!」

 

ボールを持たせることは出来る。しかし堀川の執拗なディフェンスが彼に自由を与えない。

 

抜かされても、織田のカバーリング。甲斐はしっかりとマークを食らっている。

 

————これが、今大会無失点を続ける江ノ島のディフェンスっ

 

固い。それでいて単独での突破を得意とする攻撃的選手が揃う。まるで南米のウルグアイの様な堅守速攻。さらにポゼッションも可能だ。

 

何か穴はないのか。何か—————

 

 

—————正攻法じゃだめだ。

 

ボランチにバックパスをし、ボールを戻す司馬。何か考えついたようだ。

 

 

そしてロングボール。青葉のいる左サイドを避け、右サイドハーフの吉田へともう一度わたる。

 

 

そして今度は単純なオーバーラップ。中塚が当然しっかりとフォアチェック。簡単に追いつかれてしまう。

 

—————個人では勝てない、けど!!

 

「司馬君が来ます!! 受け渡しをしっかり!」

 

岩城が声を出す。二列目からの飛び出し。司馬の得意とする動きが来た。その一瞬、錦織の目に司馬が映ってしまう。

 

「ッ!!」

 

しかし錦織は甲斐をチェイシング。甲斐へのパスコースをほぼシャットアウト。

 

したかに見えた。

 

 

「司馬ッ!!」

 

吉田から谷へ。オーバーラップに反応した中塚が兵藤とともに守りを固めるが、中塚が一瞬ぬかれてしまう。

 

「ぬっ!!」

 

シザースからの逆シザースで中に入る動き。インナーラップの動きで谷が攻撃参加。中塚は兵藤のマークから逃れた吉田を見てしまう。

 

————また縦か!?

 

そしてここで三列目の攻撃参加。中に入る谷とのパス交換をするのは、ボランチの新庄。先ほど青葉に簡単に抜かれてしまった選手だ。

 

ダイレクトミドルシュート態勢に入る彼を止めようとするのは、織田。

 

トンっ

 

しかしここで変化をつける。中に走りこんでくる谷が止まらない。マークを外してしまった中塚が驚愕した顔で彼を見る。

 

————おまっ、サイドバックじゃねぇのかよ!

 

 

『ダイレクトでクロス!! ああっと甲斐に通ってヘディングシュート!! 止めたァァァ!! 李、ファインセーブ!!』

 

しかし、甲斐のヘディングシュートは李のセービングに遭い、ゴールならず。しかしセカンドボールが転々とする。

 

「前打たせるな!! 」

 

一番に飛びついたのは司馬。そして堀川がマークに入る。

 

————前に向けなくても、俺が巽にボールを託すんだ!

 

ボールを浮かせた司馬のハイボール。司馬の背後へとボールは飛んでいく。奇天烈なパスに反応したのは、やはり背後にボールが来ると信じていた甲斐。

 

————完璧だぜ、お前のパスは!!

 

 

「!?」

 

完全に一対一。キーパーが前に出ようとするが、完全に裏のスペースを取られた李に為す術はない。

 

『ダイレクトぉぉぉぉ!!! 決まったぁァァァぁ!!! 鳳凰学園先制!!! 決めたのは鳳凰学園のエースストライカー、甲斐巽!! これで得点ランキングトップタイとなる6ゴール目!!』

 

背後から来るハイボールをダイレクトで蹴りこんだ、甲斐のシュートが李の逆を突いたのだ。

 

 

『前半18分!! ついに堅守を誇った江ノ島の壁が破られました!!』

 

 

「切り替え切り替え!! これくらいの逆境、鎌学戦を思い出そうぜ!!」

 

兵藤が檄を飛ばす。あの時の様な執念を感じる相手は見てきただろうと。

 

「そうだ。集中するぞ!!」

 

「済まねぇ、李さん! やられちまった————」

 

海王寺が謝るが、李は気にしていないそぶりだった。

 

「今までキーパー陣が楽を出来ていた。ヒーローになり損ねた俺のミスだ。取り返すぞ、お前ら」

 

「へっ、そうだな!!」

 

先制された江ノ島だが、全然へこたれていない。むしろこのゴールで、また一段と集中したと言っていいほどだ。

 

 

 

江ノ島ボールから始まる攻撃は、ついに右サイドのあの男へ。

 

 

「ほらよ!! 追いついて見せろ!! 青葉ッ!!」

 

 

兵藤からの超ロングレンジパス。暴力的なスピードと相手への気遣いを無視した、キラーパスが大きく展開を動かす。

 

「なっ!?」

 

「あんなパス誰も!!」

 

鳳凰イレブンの間でも、あのパスに追いつけるはずがないと考えていた。だが、その常識外れの脚力は、その現実を暴力的な速度で凌駕する。

 

 

『!!! なんと!! ここで兵藤の無謀なロングフィードが通りました!! 何という脚力だ!!!』

 

 

『チャンスですよ、これは! 逆サイドへの速い展開に、最速の青葉君! 鳳凰の守備が完全に乱れました!!』

 

 

 

ここで、兵藤のロングフィードチャレンジが成功。意表を突く青葉へのロングボールが、鳳凰にとって最悪な形で渡る。

 

 

 

バイタルエリア手前からのドリブルは、鳳凰に無慈悲なピンチを齎す。青葉を止める手段を持たない彼らに、抗う術はない。精々味方のミスを願うだけの、神頼み以外に手段はないのだから。

 

 

「—————っ」

 

その青葉がトラップと同時に中に切り込む。ファーストトラップで勢いを殺し、逆足のヒールで方向を変える。走りながらのクライフターンで鮮やかにまず一人を躱す。

 

尚も勢いが増す青葉のドリブル。バイタルには近づけさせたくない鳳凰が寄せる。

 

————間合いが、測れないっ

 

空踏みからの反発ドリブル。重心をずらされ、それなのに体幹が一切ブレない青葉の動きに付いていけていない。ワンテンポ速い青葉の得意技、ドラッグシザースが彼らから余裕をなくす。

 

今度はボランチの本多が躱される。やはり超高校級のドリブルは簡単ではない。

 

「させるかよ!!」

 

しかしここで青葉にチャージするのはセンターバックの藤田京太郎。屈強さと俊敏性を誇る大型センターバックが青葉に立ち塞がるが、

 

—————開いた

 

背負いながらのハイボール。その先には—————

 

「おぉぉぉぉ!!!!」

 

高瀬の長い脚が迫っていたのだ。ボールをダイレクトで蹴りこもうとする彼のチャレンジは鳳凰に恐怖を与えたが、

 

『ああっとクロスバー!! 助かりました、鳳凰!! 高瀬のダイレクトシュートは枠を捉えていましたが、惜しくもバーに阻まれました!!』

 

「くそっ!!」

 

中に絞った動きでここまでディフェンスラインをやられた。青葉の突破力は侮れない。

 

————奴にボールを持たれたら不味い!!

 

鳳凰サイドも、迂闊にボールをロストされるわけにはいかないが、守備陣形が左へと傾き始めていた。

 

「—————織田君、兵藤君と駆君は————」

 

中塚のクリアで、ボールはピッチの外へとはじき出され、給水に着た織田が岩城に呼び止められる。

 

 

二人にある指示を出したのだ。

 

 

そして、指示を貰った兵藤と駆はうなずく。これがまず最初の仕掛け。最後の一歩で踏みとどまる鳳凰守備をこじ開ける一手。

 

左サイドハーフの轟からボール始まり、青葉のプレッシャーを避けて逆サイドへ。司馬へのマークは相変わらず堀川が密着しており、粘着気味ともいえる。

 

————どんなトラップであっても、対格差は勝っています。ボールと離れた体の進行方向を止めることだけに集中してください。

 

パスは織田がケアすると。今の堀川には迷いがなかった。

 

司馬に仕事をさせない。それだけが彼の使命だ。

 

 

逆サイドは、まず勢いよく飛び出した兵藤のヘディングが山本を上回る。

 

 

そして、そのセカンドボールを拾ったのは—————

 

「おっしゃぁぁぁ!! あがれお前らァァァ!!」

 

中塚だ。ここにきて中塚のスピードが存分に発揮される展開。空いたスペースには山本が守るが、

 

「なっ!!」

 

誰もいない場所へのハイボールを選択した中塚。誰に向けてのパスなのか。一瞬の空白の刹那、足が止まってしまった。

 

————しまっ、このパスは————

 

 

しかし、これは誰に対してのパスでもない。これは中塚のトラップだった。

 

『トリッキーなー動きで、一人躱した中塚!! 何という速度でしょう!!』

 

完全に裏に抜けた中塚。ここで真ん中にいるはずの逢沢がサイドへ流れ、状況は一変。数的不利を強いられる鳳凰学園。

 

縦へのドリブルを選択した中塚は、迫りくるボランチに対してサイドへ流れている駆にパス。そのままサイドへと流れ、駆のサポートの為に裏へと走る。

 

「——————」

 

————苦しい時にチームを救えるのが、エースストライカーなら

 

相手が青葉への警戒を強めた今、自分がやるべきことは一つ。

 

—————サイドへのパスか、させる———

 

数的不利でなければ、センターバックの石井は駆の仕掛けを見破れただろう。

 

パスと見せかけた跨ぎのフェイント。逆足でキャッチ。

 

————な、なんだこのフェイント————

 

重心がぐらつく。駆が狙っているのはカットイン。彼の重心が中に切り込むものになっていたのだ。

 

————よく見える。間合いから、相手の考えていることが—————

 

穴は見つかった。その穴を衝くだけでいい。それが自分のやり方なのだから。

 

『縦に抜けて!!! 躱したァァァ!! 逢沢の上げたクロスボールは、ややマイナス気味に!! ひとりフリーだぁぁぁぁぁ!!!』

 

 

彼の蹴りこんだボールは中央からボールを貰いに来た高瀬の頭ではなく、右サイドから中に絞る動きをしていた彼へとたどり着いていた。

 

 

『決まったァァァっぁ!!! 江ノ島同点!! 前半28分!! 決めたのは背番号8!! 宮水青葉!! ゴール前に飛び出す動き、見事でしたねぇ!!』

 

青葉の周りに集まる江ノ島イレブン。しかし、青葉はボールをもってすぐにセンターサークルへと向かう。

 

「まずは同点。すぐに突き放しましょう、みなさん」

 

「おう!! 先制された借りはまだ返しきれてねぇからな!!」

 

「俺にパスを出してくれぇェェ!!」

クールな青葉に群がる江ノ島イレブン。しかし、本人もまんざらではなさそうだ。

 

 

『兵藤君がその前に中に絞ってきたんですよね。そして中央には高瀬君。中を守った相手の隙をついた、逢沢君のクロスボールで勝負ありですね。さらにそのボールをダイレクトで叩き込んだ宮水君のシュートも見事でした』

 

 

『今大会5得点目!! さぁ、エンジンがかかってきたか、江ノ島高校!!』

 

 

チームメートにもみくちゃにされていた青葉が、駆の下へと駆け寄る。

 

「ナイスクロス、駆。良く見えていたな」

 

青葉が労いの言葉を駆に伝える。スペースへと走りこんでいたのは、選択肢を与える為だった。が、ゴール前の布陣を見て自分にボールが来ると悟った。

 

「うん。裏からいい抜け出しをしていたからね。あと、シュートはさすがだね」

 

「まあな。あんまりにも暇だったんで、思わず飛び出した。我ながら、いいシュートだったよ」

 

青葉を警戒し過ぎた鳳凰が、左サイドへと展開しないのだ。ゆえに、重心が右へと傾いていた。

 

そして、兵藤と駆のポジションチェンジで相手チームは混乱。駆の個人技が止めとなり、青葉の飛び出しを許したのだ。

 

「あと4点とるぞ。決勝前に無様な試合は出来ない」

 

「当然。同点で満足する気はないよ」

 

がっちりと拳をぶつけあう駆と青葉。

 

 

内定コンビの本領がいよいよ発揮される。

 




いつかの江ノ島 IF

青葉「うーん、どうしたものか」

一条「先輩、どうしたんですか?」

青葉「いや、大したことではないよ。ただ、ちょっと気になる女の子がいてね」

荒木・織田・海王寺・八雲「!?」

兵藤・的場・夏目・高瀬・中塚「!!!!!!」


一条「そうなんですか。何かあったんですか? 先輩らしくもないですし」

青葉「実はかくかくしかじかで」

一条「なるほど。オレにも分からないですね。その女の子の気持ち」


一同「なんで龍は冷静なんだよぉぉぉぉ!!!!!!」


一条「え? なんで?」

青葉「なぜ気になる女性がいるだけで、こういう反応をされるのか」



アンナ「相変わらず鈍感ね、リュウは・・・・」

青梅「た、大変だよね、アンナちゃんも・・・」

アンナ「だってリュウだもん。けど私は想いを伝えたから。一緒に外国へ行こうって、約束したし」

武智「フハハハハ!!! 先輩はどれだけ奥手なのだ!! 彼女の二人や三人で騒ぎ過ぎである!!」


優希「貴方は彼女問題で江ノ島を乱さないように。先日振られたばかりでしょ?」


武智「フハハハ!! 色男はこの程度、苦でもないのだ。そうに違いないのだ!!」

メンタルをやられて自己暗示中の武智。


優希「織田先輩に任されたけど、心折れそう。真面目なのに疲れる人って、いるんだね・・・悪い人ではないんだけど・・・・」

美島「まさか練習初日に告白するなんて前代未聞だよ、ユッキー大丈夫?」

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