騎士見習いの立志伝 ~超常の名乗り~ 作:傍観者改め、介入者
今回は、開幕戦に激突する磐田の若きエースと、日本代表の右SBです。
ライバルとなる選手の情報も後日投稿します。
江ノ島高校と蹴球高校。共に大差で勝ち進んできた超攻撃型チーム。
一人一人の長所を重ね合い、青葉と駆というダブルエースを擁する江ノ島高校。
片や、レオナルド・シルバを筆頭に、パトリック・ジェンパ、リカルド・ベルナルディら世代別で屈指の実力を誇るタレントを擁し、全国から集められたサッカーエリートで構成されている。
もし、総体でベストメンバーがそろっていれば、江ノ島の優勝はなかっただろうというのが、大方の見解である。
つまり、江ノ島はベストメンバーの蹴球に劣ると世間には想われているのである。
そしてそれを、江ノ島イレブンが分からないはずもなかった。
「いいだろう。俺たちは総体を制したチームとして、その実力を見せつけるだけだ」
織田は、マッチアップするであろうレオナルド・シルバを前に、闘志を燃やす。
「この日の為に温存されたんだ。俺も、やることやんねぇとな」
荒木は今回、トップ下である。つまり、かつての両翼が復活するのだ。
右サイドに青葉、左サイドに駆。ワントップは高瀬。
さらに、ボランチには堀川が入ることになる。俊敏にピッチを駆け巡り、ボールハンターとして開花した彼は、蹴球の攻撃を刈り取るだけではない。
「守備陣も、今回の相手はちょっと違いますからね。海王寺君と錦織君には、タフなゲームになるでしょう」
「望むところっすよ! 前線がプレッシングしてくれるおかげで、俺らも落ち着いて対応できているし」
「だが、相手はあのパトリック・ジェンパ。一瞬の裏に抜ける速度は侮れん」
錦織と海王寺はそれぞれが難敵を前に考え込む。パトリックの動きのキレはやはり日本人離れしている。というより、青葉に次ぐものだ。
江ノ島の看板エースとマッチアップしていなければ、対応することも難しかっただろう。
————まあ、完璧に青葉は止められていないんだがな
サイドで動けなくするぐらいまでしなければ、ファウルで止めることぐらいしかできない。やはり、うちのエースは伊達ではない。
「——————これが最後か」
青葉は少し感傷的になっていた。実は、ここまで江ノ島が強くなるなんて考えていなかったのだ。
「けど、江ノ島はずっと続く。江ノ島イレブンだったことを誇りに、僕らはプロに行く。その為にも、僕はシルバたちに勝つ。勝つんだ!」
今までに無いほど、昂ぶりを見せる駆。真ん中で器用に抜け出すのも彼の得意技ではあったが、サイドからの突破も出来るのが彼の良さだ。
特に、真ん中で磨き続けたことで増した、ボールタッチと間合いの測り方、さらには合気道を参考にした体の使い方。
今の逢沢は物凄いラーニング能力を見せている。きっと、この戦いは自分をさらなる高みへと昇らせると信じている。
「ああ。江ノ島の両翼で、勝利に貢献するぞ、駆」
————見ているか、傑。俺たちの想像のはるか先を行っているぞ、こいつは
傑が見出し、江ノ島で開花した駆の才能。決定的な仕事を成し遂げるだけではなく、その状況を単独でも作り出せる。
まさに、エリアの騎士を超えた存在といえるだろう。
「今の駆を見た傑は、お前のことをエリアの騎士って呼べなくなるだろうな」
エリア外で変化を起こし、エリアに切り込むエースの姿。
————名づけるなら——————
「ううん。僕はもう、兄ちゃんの影を追うのはやめたんだ」
しかし、笑って駆は傑の想像を否定する。もう彼はいない。ここには彼の残滓しか残っていない。だから、その推察はあまり意味がないと。
「僕は、僕が考えたエリアの騎士になるって決めたんだ。でも、確かにエリア内で決定的な仕事をするのがエリアの騎士だから、定義的には今の僕は混ざっちゃったかな」
もう純粋なストライカーではないし、と駆は笑みを浮かべる。
「なら、一際高いハードルの異名を考えるから、光栄に思えよ、駆」
横から入り込んできたのは、司令塔の荒木。傑からの脱却と、エリアの騎士らしくないと告白した駆の話に興味がわいたのだ。
「まあ、一時期は左サイドやら、トップ下、セカンドトップもやったんだ。俺がボランチでビルドアップに専念できるほどにな」
個人的には司令塔が一番だし、決勝で戻れたのは嬉しいけどな、と荒木は言う。
「エリアを攻略する騎士にして、司令塔————なるほど、いい異名が思い浮かんだ」
荒木の話を聞き、近寄ってきたのは織田。エリアの騎士を目指すと公言していた駆の変化を聞き、今の彼を表現する異名が浮かんだという。
「——————フィールドの騎士王、なんてのはどうだ?」
「お、おいおい!! そりゃあ狙いすぎだろ!! 騎士王って!! いくら何でもハードル高すぎやしねぇか!!」
大笑いする荒木。確かに成長した駆は色々カッコいい異名が付けられてもおかしくない。しかし、騎士王は狙い過ぎだろうと。
「いやぁ、そうだぜ織田さん。駆が騎士王はないだろぉ。駆は騎士王みたいに可愛くねぇし」
中塚が横に割って入る。というより、別次元の話を持ち込んできたので、駆が慌てる。
「公太が何を言っているのか僕は分からないんだけど、ハハハ……アーサー王って、髭を生やした男だよね? それを可愛いって言うのは—————ちょっと中塚さん?」
じりじりと後退する駆。若干ジト目で見るあたり、かなり警戒している。というより、呼び名まで他人行儀になっている。
「知らねぇのかよ!! 駆は頭までサッカーになっているんじゃねぇか!?」
中塚が駆に弁明する。自分は同性の気はないと。
「CMで時々流れるあの痛い奴か……まさか中塚お前—————」
織田が遭遇したのは、音痴な歌声をまき散らすタイプのものである。
「いやぁ、さすがに俺だったらお菓子にお金を使うぜ」
若干知っている織田と、呆れ顔の荒木。
「—————いやさぁ、一度美島さんにコスプレしてくんねぇかなぁ。あっ、青葉が頼めば舞衣ちゃんも喜んでしてくれそう!」
「—————断固拒否させてもらう。ネーミングの話からなぜこんなことに————」
こめかみを手で押さえ、頭を抱える青葉。こんなバカなことを彼女らにさせるつもりはない。
「えぇぇえ!? アーサー王が女の子!? なんでぇぇぇ!? って、ちょっとかわいい……」
そして、海王寺の制止を振り切り、その件をスマホで調べた駆は、中塚の話に納得して驚愕する。
————アニメを数年見ていないからなぁ。今そんなことになっているのかぁ
アニメの進化には追い付けそうにないと納得する駆。思いつくはずがないだろうと。
頭を抱えた青葉と納得する駆をよそに、周囲は混沌に満ちていた。
「おまっ!! 荒木貴様ッ!! お菓子はあれだけ辞めろと言われていたではないか!!」
「大丈夫だって!! 抹茶入りだぜ!!」
「そういうへ理屈は聞く耳持たん!! そこになおれぇぇェェ!!!」
正座で説教を食らう荒木と、怒り心頭の織田。しかし、低カロリーのものを厳選して選んでいる辺り、本当にいろいろ気を付けているのだと、逆に説得されてしまうことに。
「へぇ、結構可愛いじゃん。最近の絵師ってやべぇな」
「だろぉぉ!! 俺と一緒に人理修復しようぜ!」
「おっしゃ。暇つぶしにはなりそうだ」
「—————お、俺は知らない! 逃げよう————」
中塚の布教活動で火野と八雲が吸い寄せられる中、高瀬は撤退する。
その後も、「金を食われる、だと? 俺は降りさせてもらう」と断固拒否する高瀬だった。
その夜、岩城監督は近藤顧問と共に近場の居酒屋を訪れていた。
「——————総体に続き、選手権まで。私の眼から見ても素晴らしいチームですが、分裂していた時期を考えれば、想像もつきませんね」
岩城は、まるで引っ張り上げられるように強くなっている江ノ島をしみじみと思う。
「—————ああ。10年前、私が折れていれば、こんなチームになっていたのだなと思うほどに。生徒たちは素晴らしい。もう少し素直になっていればと」
近藤は、10年前の呪縛が未だに脳裏をかすめていた。もし、自分が素直になっていれば、今頃江ノ島はサッカーの強豪として、分裂以降のOBや、入学してきた生徒に窮屈な思いをさせずに済んだと確信していた。
そして——————
「近藤先生。お互い、歩み寄る努力が足りなかったんです。決してあなただけの責任じゃない。私にだって、公式戦に出られない境遇を抱えた生徒を抱えてしまった」
もっと互いに素直になっていれば、違った未来が訪れていたに違いない。岩城は、話し合う努力が足りなかったと零す。
「それでも言わせてくれ。今の青葉君や逢沢君のような、素晴らしい才能を持った君の未来を、私は奪ってしまった」
10年前の分裂がなく、彼がもしプロのサッカー選手だったなら。
その先の未来がもはや望めないことは明らかだった。
「————確かに、プロに行けなかったのは残念です。けれど、私を超えた可能性が羽ばたく光景というのも、存外悪くありません」
プロに行けなかったことを、まったく気にしていないというわけではない。彼の目標はワールドカップ制覇だったのだから。
しかし、彼は今、自分を超える才能の持ち主たちが成長している光景を目の当たりにしている。監督という特等席にいるのだ。
彼らが、あの二人だけではない。他の教え子たちがどんどんうまくなる光景は、嬉しいものだ。
「この10年間で、私も新たな目標を見出したんです」
ニッと笑い、岩城は近藤に宣言する。
「いばらの道かもしれない。けれど監督として、ワールドカップの舞台に立ちたい。指導者として、選手を指揮する者として、今よりもっとレベルアップしたい。これが私の、今の野望です」
「———————そうか。そうだな」
近藤は少し震える声を押し殺しながら、岩城の言葉に同意する。
「なら、明後日の決勝は、勝って終わらないとな。高校サッカーの名将を通過点に、ライセンスを取れ、岩城」
ジョッキを掲げ、近藤は朗らかに笑う。プロチームの監督を指揮する資格を狙えと、エールを送る。
「ええ。私たちが、お互いを許し合えるきっかけを作ってくれた、生徒たちの為に。決勝を勝って、今よりもっと、日本サッカーに携わりたい。この大それた目標を現実にするために」
そして、青葉は公務で国立まで行くことが出来ない父に代わり、家族総出で乗り込んでくることを聞かされる。
「—————そっか。岐阜からは遠いよな。そういえば、三姉のセンターはどうだったの?」
かなりに気になっていた姉のセンター試験。大学受験はどうだったのかと青葉は尋ねる。
「うん、ばっちし。志望校にも通りそう。来年からは東京よ、青葉」
東京の有名国立大学への手ごたえを感じている姉。そういえば、模試の成績もかなり良かったと記憶する青葉。
————抜けているところはあるけど、基本スペック高いよね、三姉は
「四葉も明後日は国立なんだろ? その、機嫌は治ったのかな?」
身に覚えはないのだが、知らない間に妹を傷つけてしまったことを悲しく思う青葉。四葉の態度は何か痛々しいものであり、神奈川に向かうまでその理由はわからなかった。
「うん。色々あったからね。あの彗星が落ちた夜が、昔の事のよう」
「あと、当日は神奈川で友達になったご家族の方々も来るみたいなんだ。会って色々話すのもありだと思う。三姉たちが来ることは連絡しとくから」
高瀬家、的場家、逢沢家、美島家とその他の家族も来る今回の国立。まだ数回しかない東京入りで心細い思いをさせない青葉の配慮は、彼女らにとってはありがたいものだった。
「ありがとうね。青葉」
翌日、過去最大級の報道陣の量に難儀する江ノ島高校の中で、トレーニングを黙々と続ける青葉。しかし、コメントを一切残さない徹底ぶりに、周囲は「宮水青葉はマスコミ嫌い」「生意気な若者」「新進気鋭の青二才」などと報道されることになる。
そして決勝前夜。
加熱する報道陣を前に、以前はタジタジになっていたであろう駆も、黙々と決勝への闘志を燃やし、青葉を見習う形で一言二言しか発さないまま報道陣の傍を離れ、明日への英気を養うために軽めの調整にすませたのだ。
「——————明日はファイナル。これで最後」
高校サッカーとこんなにも早くお別れになるとは考えていなかった。しかし、目標であり通過点の代表入りには近づいたと言っていい。
「———————これは始まりなんだ、兄ちゃん」
傑の遺影が飾られている前に立ち、駆は宣言する。
「—————兄ちゃんのライバルだったレオナルド・シルバと、シルバがいる蹴球を倒して、僕と青葉はプロに行きます。その先の未来を、兄ちゃんが歩めなかった未来を、必ず駆け抜ける」
自分にできるのは道を切り開くこと。そして突き進むこと。
「—————なんだか、ドキドキしちゃうよ。でも不安はないんだ」
—————わくわくするんだ。
駆は、遺影の前で一礼してベッドへと戻る。明日の決戦に備え、万全の態勢で臨むために。
選手権決勝 国立競技場
その日は悪天候の予報もあり、難しい試合になるというのが見識者の意見である。試合中に降雪の可能性もある為、ボールタッチが難しくなる見込みだ。
決戦の舞台にやってきた江ノ島。不安になることはない。彼らはビーチサッカーで悪条件を経験済みである。むしろ、
彼らは互いに通路でばったり遭遇したのだ。決戦前に語ることはないと言わんばかりに素通りする面々。お互いの仲間と話すのみである。
「今日は雪が降るのかよ」
「ま、寒いし、そういう時もあるだろ」
蹴球のゴールキーパー大場と、左サイドバックの唐木が真冬の東京についての感想を述べる。
そして、それぞれがまばらにロッカールームへと向かう中、逢沢は蹴球の選手に声を掛けられる。
「久しぶりだネ、カケル」
レオナルド・シルバ。彼は逢沢を無視する理由がない。
「今日の君はどこで出るのかナ?」
「—————発表までお楽しみです」
それ以上のことは言わないと笑顔で反応する駆。半年前に比べてかなり図太くなったと思うシルバ。
「そうだな。続きはピッチダ」
お互いに笑い合い、その場を後にする両者。
「あれが逢沢弟か。忌々しいスグルの面影を思い出しちまう」
リカルドは、傑に煮え湯を飲まされている。だからこそ、生で見た逢沢駆の堂々とした振る舞いに傑を想起させたのだ。
「ああ。スグルが見出したエリアの騎士。しかし、違った成長を見せているようダ」
傑さながらのパスワークとポジショニング。彼にはないトリッキーなフェイントの数々。
「ああ。だが一番厄介なのは、アオバだ。奴の切り返しと間合いは未だに難しい」
仮に動きを見切ったとしても、あの男は神速の切り返しを備えている。変幻自在のフェイクを織り交ぜ、相手の重心を崩そうとしている。
真に、フェイントでタイミングと重心を外してくる稀有なドリブラー。
トップスピードからの連続シザースは、わかっていても止めるのは難しい。
「そうだネェ。あれはまさに、僕らが昔見ていたフェノーメノの姿。シルバはよく見ていたと思うケド?」
ブラジル出身の怪物の動きに似すぎていると、ジェンパは言い放つ。あそこまで足が速く、足元の技術に優れる選手は世界にもなかなかいない。
「ああ。スグルが王様なら、彼はフェノーメノ。疾風のような存在ダ」
ブラジルではある言葉がサッカー界の中で刻み付けられている。
—————ブラジルの英雄、アイルトンの真似を目指すべきだ
ブラジルの伝説的な選手、アイルトン。彼は鹿島ワンダラーズで晩年のキャリアを過ごした。正確無比なボールタッチと決定力、視野の広さ。サッカー選手としてのスキルを高水準に誇る彼は、まさしく教本ともいうべき存在だ。
—————しかし、怪物の真似は誰にもできない
ブラジルサッカー界最高のフォワードの一人、ロナウド。超常現象といわれた彼の真似をするサッカー少年は稀有だ。そもそも根源的に彼のプレーは困難なのだ。
自らの体が耐えられないとさえ言われた圧倒的なプレーの数々。不摂生と怪我さえなければ、長らくブラジルサッカーを牽引したとさえ言われる伝説の点取り屋。
いま世界で名を馳せている選手が数多の栄光を手にする中、彼の名前は現在のスーパースターよりも上だと証言する解説者、ベテランプレーヤーは後を絶たない。
プロサッカーが出来てから間もない、歴史の浅い極東の先進国。そんなサッカーが根付いて間もない国に、傑すら超える存在が現れた。
————ああ。白状するよ。彼は君よりも危険だ。
傑は中心で自分と同等の選手だ。今も生きていたなら、プロで活躍していることだろう。しかし、宮水青葉は異色の存在。間違えて生まれてきたのかとさえ思える。
彼は本当に日本人なのか? 時にはアフリカンなプレーすらしてしまうのだ。肌の色はアジア人そのものだが、プレーは日本人離れしている。
もし怪物が現在のサッカー界でプレーするのなら、ゴール前、もしくはサイドアタッカーが最適解といわれているが、彼はその体現者となり得るのか。
————だが、ここに来た甲斐があったよ、スグル
気がかりだった傑の遺志を継ぐ存在が現れたこと。そして、傑の遺志を継いだということは、自分のライバルであることも背負うということ。
成長を続ける世代最高のサイドアタッカー宮水青葉と、もう一度戦えるということ。
そして、彼らが指し示す世代最高とは、文字通りの世代最高である。サイドアタッカーというポジションにおいて、誰一人として右に出る者はないと言われる存在。
U-15で見せつけた彼の実力は、それほどのものだった。高校サッカー界がサンドバッグになっていることから、彼の実力はさらなる進化を遂げている。
蹴球の枢軸たちが青葉と駆を意識しているだけではない。
4大リーグの名門クラブ。ドイツサッカー界を牽引するバイエルンのスタッフが、密かに国立に潜入していたのだ。
「あのカールに打ち勝ったジャパニーズボーイ。やはり、極東の同世代では相手にならんか」
スカウトたちは高級そうなデジカメを持ち、試合映像を映す準備をしていた。
辺りにも、彼の眼に見覚えのある海外の男性が足を運んでいた。
イタリアの名門とつながりの深いエージェント。特にアジア方面で城島獲得に一役買った実績を持ち、数多のアジア選手を送り込んだ存在。
そして、クラブからの依頼なのかは定かではないが、この前アメリカの有望株をライバルクラブへと送りこんだスカウトの姿も。
————ちっ、ドルトムントめ。相も変わらず手が早い奴らだ
さらに、アジア選手の発掘に定評のある、プレミアとのつながりの深いスカウトの姿も。
「ほう。“彼以来の星”と呼ばれる存在に、もう手を付けるのかね、リチャード」
男の名はリチャード。約十年前にプレミアデビューで壊れた、“背番号7番”の獲得に動いた男だ。
誰もが”彼”の活躍を確信していた。怪我という不安要素はあったが、彼の技術は代表でも輝いていた。
「ま、また会ったね。ヴィル。君も彼目当てかな」
焦りを覚えているリチャード。この来日は誰にも悟らせるつもりはなかったという表情が丸見えである。
「まあな。カールに一対一で勝てる選手。しかも一歳年下。現時点での獲得は厳しいが、将来的にルートを開かなくてはな」
ある日本人選手で大当たりを引き当てたドルトムントに連覇を達成され、これ以上王座を奪われるわけにはいかないのが現状。
その他にも、有望なアジア選手を見つけることは、今後スポンサー的にも美味しい極東の恩恵にあやかる為なのだ。
「—————話題性なら、逢沢駆だが、まだフィジカルが極東の水準に至ったというだけだ。あのドリブルは見事だが、まだまだ」
逢沢駆は確かにいい選手だが、まだこちらに来るのは早い。
しかし、リチャードは不敵な笑みを浮かべたままだ。
————カケル・アイザワはスグル・アイザワの再来だ。いや、彼を凌ぐ逸材だ
相手の動きを見切り、見事なディフェンスを成し遂げるカールとは違う。
逢沢駆の真骨頂は、守備の歪みを見逃さないことだ。それは、ドリブルという技術で揺さぶりをかけられる、彼にとって必要不可欠なスキル。
いつの間にか、彼は致命的なエリアに潜んでいる。それはエリア内で決定的な仕事を成し遂げるストライカーの証。そして、その歪みを自ら興すことが出来る。
「まあ、当たり負けしないようなら、ボールを何とかつなげられる身のこなしがあれば、我々も動くが」
ヴィルは気づかない。そしてこの試合で気づくだろう。
逢沢駆が持つ、現在の真骨頂を。
—————私にとって、因縁深いクラブの新人。
かつて、彼は盟友となった男が壊れる光景を目にした。リチャードが”心底惚れ込んだ”その選手は、フットボールの神様に愛されているかのような、素晴らしい才能の持ち主だった。
選手生命を絶たれた後も、所属クラブでコミュニケーションを取り、現在も一部リーグに存続する彼らを成長させたのは、彼だ。
もう一度、指導者として奮起する道を示し、5部リーグのクラブで二部リーグのプロを相手に逆転勝ち。その後準々決勝で一部リーグの覇者に負けたものの、その手腕は見事なものだった。
彼はやはりフットボールに愛された存在だ。そして、あの二人は彼の指導を受けるだろう。
————私に見せてくれ。君が魅せたかったサッカーを。
彼の下で————————
達海猛の下で、成長する二人の未来を楽しみにするリチャードであった。
そしてついに、蹴球高校と江ノ島高校のスターティングメンバーが発表されることになる。
GK 16番 李
LSB15番 中塚
CB 4番 海王寺
CB 14番 錦織
RSB 3番 八雲
CMF 6番 織田
CMF12番 堀川
LMF10番 逢沢
RMF 8番 宮水
OMF 7番 荒木
CFW 9番 高瀬
ベンチ入り (GK)1番 紅林、19番林葉、(DF)17番 藤田、2番 桜井、5番 三上、(MF)、18番 的場、11番 兵藤(FW)13番 火野20番 夏目,
総体予選以来見せてこなかった布陣。集大成ともいえる決戦の舞台で、原点へと立ち返る。
「うお、この陣形は!!」
総体予選から江ノ島の戦いを見てきた観客が驚く。これはあの頃の陣形だと。
「江ノ島の両翼が復活かぁ!!」
「右サイド宮水!! 左サイド逢沢! トップ下荒木!! ワントップ高瀬!!」
「来たぞ!! 江ノ島の原点!!」
そして、選手権予選から成長を続けた堀川、復活の守護神李、大抜擢の一年生サイドバック中塚。
ベンチには、裏抜けが即得点につながる夏目、青葉のステップをパクり始めたSB藤田。ドリブラー的場、クローザー兵藤とタレントが揃う。
「ついにこの三人が二列目でそろったぞ!!」
「半端ない崩しが見れるぞ!!」
この一年で江ノ島のファンになった彼らは、原点ともいえる攻撃陣のフォーメーションを見て大興奮。
ボランチというポジションを経験し、さらなる視野の広さとビルドアップ能力を身につけた荒木。
二列目とセカンドトップを経験し、世代別代表の10番を背負う逢沢駆。
そして説明不要の超常現象。その後継者たる宮水。
ブラジルの元祖ロナウドを彷彿とさせるパワフルなプレー。彼は既に、世界の視線を浴び始めている。
ワントップには、バスケで身に着けた高い身体能力と、フィジカルから繰り出されるパワフルなプレーが持ち味。
江ノ島の空中要塞、高瀬。歴代の日本人選手にはない、動ける大型ストライカーは、逢沢駆よりも貴重な存在だ。
これが、江ノ島チームのフィナーレを飾るにふさわしいベストフォーメーション。
対する蹴球高校。4-4-2の陣形。
GK 1番 大場
LSB 2番 唐木
CB 5番 幸村
CB 4番 リカルド
RSB 3番 加藤
CMF 7番 坂東
CMF10番 レオナルド
LMF 6番 川崎
RMF 8番 喜多川
FW 9番 パトリック
FW 11番 風巻
全国各地から集まった日本のサッカーエリートが集う蹴球高校。両サイドバックは豊富な運動量で攻守に貢献。リカルド、幸村の鉄壁の守備に加え、そのリカルドは対人能力にずば抜けている。
センターにはレジスタの坂東、天才レオナルド・シルバ。蹴球のセンターは攻守において存在感を放つ。
そして両翼も俊足揃いの蹴球。川崎、喜多川はロングボールへの対応が早い。裏への抜け出しは要注意だ。
そして、パトリック・ジェンパは驚異的な身体能力を誇るアフリカン。その一歩目の速度は要警戒だ。
その相方を務めるのは、風巻。世代別代表のエースストライカーである。
『さぁ、注目の先発メンバーが発表されましたが、江ノ島の二列目は豪華ですねぇ』
『左サイド逢沢君ももちろん素晴らしいですが、左サイドバックの中塚君は、宮水君に次ぐ俊足を誇ります。彼のオーバーラップはかなりのスピードでしょうね』
『しかも、右サイドの八雲君と宮水君はかなり息の合ったコンビです。控えの的場君もいいですが、やはり二人揃うと攻撃も守備も鋭くなりますよ』
『つまり、江ノ島はサイド攻撃が主体になると?』
『それだけで終わらないのが今の江ノ島です。センターは織田選手のロングフィードに荒木君のパスセンス。カウンターのスイッチにもなり得る堀川君。真ん中には高瀬君。これだけの選手が同時に揃うのも奇跡的です』
『蹴球の最後尾を守るリカルドと、高瀬選手のマッチアップは注目ですね。とはいえ、カットインから襲い掛かるサイドにも気を配る必要があります』
『一方、江ノ島はパトリック選手の抜け出しには要注意です。中盤で如何にレオナルド・シルバ選手にいい形を作らせない事、遅らせることが重要ですね』
『なるほどぉ! 注目のゲーム、間もなく始まります!』
モラトリアムはこの試合で終わる。この恵まれた環境との別れが待っている。
江ノ島というスペシャルな選手を生み出す環境を卒業する二人は、次の一年で痛感するだろう。
江ノ島がいかに恵まれていたことを。
いつかの後輩組 選手権準決勝なう
~埼玉組~
一条「これが、世代最速の男・・・・」
青梅「・・・・レベルが違うね・・・僕達、本当にあの高校でやっいけるのかな」
一条「決めたんだ。江ノ島で実力をつけて、プロに入る。俺が掲げたプランに、必ず追いついて、追い越すために」
パブリックビューイングにて
武智「ふははは! 一度でもいいから対戦してみたいぞ! 伝説の右WGとの対戦は、将来の為にも貴重だ!」
真壁「なんで俺はこんな騒がしい奴と隣なんだ・・・(決して一人県外に行くから寂しいとか、誰か友達がいないと嫌だなぁとか、考えていない)」
矢沢「・・・・左サイドでよかった・・・・俺、この人からレギュラー取れるとか、想像できねぇし。プロ入り後はどうするんだろう? ほんとに引退なのか?」
いつかのライバルたちなう 磐田篇
小川知良「・・・・開幕戦で間違いなく注意しないといけない。彼は今までの選手の物差しでは測れない」
倉茂「ほう? 今年のベストヤングプレーヤーに選ばれたお前が、そこまでいうのか?」
小川「・・・・速い選手は何人も見てきました。けど、”いきなり速い”選手は稀有です。あれほどの加速力があれば、俺は一年目に得点王になれました」
田辺「下手すりゃ、俺とマッチアップするのか」
小川「やる前からビビらないでくださいよ、我らが日本代表」