騎士見習いの立志伝 ~超常の名乗り~   作:傍観者改め、介入者

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その瞬間、何かが壊れたように思えた。今まで大切にしてきたものを、見失いそうになった。それが一瞬であろうと関係なかった。


それを自覚した瞬間、世界の見え方が変わった。


—————俺は、彼が求めた最高の存在にはなれないとわかった。


第四十五話 圧倒と、自覚と・・・・

宮水青葉という、この試合に参加する者達の中で最も速く、最もドリブルテクニックを持つ選手が中央に回る。

 

「君のボランチは、そこそこやると聞いている。だが、単純に俺にぶつけるだけで、蹴球の攻撃を防ぐことは難しいゾ」

 

 

「—————————語ることは何もない。プレーで証明するだけだ。俺がここにいる意味を」

 

シルバと青葉の軽いジャブのような会話が後半キックオフ間際に交わされる。

 

 

後半のキックオフは蹴球からとなり、江ノ島のゴールをこじ開けることが出来た中央を意識した攻めを展開するのだが、

 

 

「—————————」

 

 

シルバに対してほぼマンマーク、ある一定のゾーンに来ると、必ず彼がやってくるのだ。そして、彼の身体能力を考えればほぼ確実にミスパスとなる距離。

 

 

パスをした瞬間にやられるという共通の意識が蹴球イレブンを支配した。

 

 

「——————ここまで熱烈だと、俺も本気で振り切らないといけないナ」

 

苦笑いで、シルバに仕事をさせないという一点に集中する青葉を見て、彼は動きのキレを鋭くさせていく。

 

 

が、ダメ。彼を振り切ることが出来ない。首を振る回数が増え、ボールの位置と彼の位置を計算し、全てがロジックに動いている。マークを外すステップワークにすべて対応してくる。さらにいえば、これはシルバにとって分の悪い勝負である。

 

 

 

底なしの体力を誇る青葉に対し、シルバの体力は優秀な選手程度。こんな我慢比べ、彼が集中を切らす以外に勝機はない。

 

 

しかも、シルバへのパスルートを封じられてから、蹴球は後二歩くらいの攻め手を欠いていた。

 

 

「くっ!?」

 

中塚が喜多川に対し、プレスでボールを奪う。完全に身体能力任せのプレーではあるが、切り返しの加速に完璧に反応した中塚のスライディングが、ボールを刈り取ったのだ。

 

 

つまり、喜多川のスピードは不意を突かれた中塚の反応範囲であるということだ。

 

—————なんでこんな下手糞に、俺が—————ッ!!

 

テクニックは中の下。お世辞にもサッカーが上手いとは言えず、センスの欠片もないシュートもあった。だが、この対人能力においては彼は脅威であった。

 

 

「おっしゃ、いくぜぇぇぇ!!」

 

そして始まる中塚のドリブル。ボールを前に蹴りだし、ただひたすらに走る縦へのドリブル。まるでフェイントも出来なさそうな下手糞な、品性の欠片もない突進。

 

 

だが、蹴球の選手はどんどん振り切られる。そして、シルバに張り付いていた男が危険なゾーンへと走りこんでいた。

 

「させるカ!」

シルバも反応する。この男にゴール前で仕事はさせられない。荒木と高瀬の対応に忙しいリカルドと幸村の負担を考慮し、シルバが守備に戻る。

 

「いけっ! 青葉!!」

 

中塚からのややズレたスルーパス。だが、彼ならば絶対に収めてくれる、そんな確信が中塚にはあった。

 

 

「っ!(なんてフィジカルだ、)」

 

ボールに飛びつくように保持した青葉にプレスをかけるシルバだが、先に彼の背中を当てられ、ボールを狩れる距離から弾き飛ばされたシルバ。肉弾戦が好みな青葉に対し、獰猛な笑みを浮かべるシルバ。

 

すぐにシルバは体勢を立て直し、青葉の前に立つ。すでに蹴球の守備は戻っており、ドリブルコースもない状況。

 

—————ここでパスを選択してくるはずだ。機能しているのは江ノ島の左サイド。

 

逢沢と中塚の崩しは蹴球を何度も崩している。そして目の前の青葉はそれを狙っている節がある。

 

切り返し、ロール。跨ぎ、ターン。シルバとの間合いを、フェイントを交えて測り続ける青葉。そして、その度にステップを踏んで修正するシルバ。

 

エース同士のマッチアップ。共に技量と強さを兼ね備えた選手同士の対決に会場もざわつき始める。

 

その濃密な瞬間こそ、この試合の分岐点であると。

 

「あ———————」

 

 

青天。シルバの視界が空を向く。しっかりと反応したはずだった。方向を読んでいたはずだった。

 

右へ行くとわかっていたのに、空踏みがどこまでもシルバの邪魔をする。空踏みだけならば、シルバは対応できる。通常の一流選手ならば、彼は相手を止められただろう。

 

 

—————切り返しっ!? 違うこれはッ!!————

 

 

そのダブルタッチが早過ぎて、シルバの眼が反応する前に青葉は動き出していた。日本人離れ、否、人間離れしたバネのような動き。

 

しかし、アドを取った青葉が不意に体の向きを変える。ボディフェイント。切り返しに強みを持つ彼の体が傾く。そこで、シルバは迷ってしまった。

 

その迷いこそ、青葉の前で犯してはならない致命傷であることに気づかずに。青葉を止めるには、それこそ反応のままに抑え込む必要があった。ファウルをしてでも、彼を止めねばならなかった。

 

アドを取ったコースを、無駄にするようなシチュエーション、間合いではなかったはず。しかし、そのどちらも可能にする速度が彼にはあった。

 

 

シルバはその瞬間彼の領域を垣間見た。彼を中心としたサークル、領域、聖域が見えてしまった。

 

—————これが、君の………

 

誰も見ることが出来なかった青葉のドリブルの間合い。シルバはその才能でその間合いを理解した。だからこそ、衝撃だった。

 

 

この聖域に、自分が入り込むことはかなりの難易度であることが分かってしまった。彼は自分よりも速く、そして間合いの測り方に長けていた。

 

 

 

「っ!?」

 

反復ステップ。左を意識した時点で、シルバの敗北は確定していた。

 

 

アンクルブレイク。世界最高峰のリーグでプレーし、バロンドールを複数回受賞するあの男のようなドリブル。

 

 

天才という称号すら飲み込む、本物の怪物。超常現象の凄みを、この光景を目にしたすべての人間が理解させられた。彼は、新たな時代を切り開く主役になれる逸材だと。

 

 

 

「バカなっ!?」

 

リカルドは、シルバが崩れ落ちる姿など、今まで見たことがなかった。それこそ、逢沢傑と戦ったときでさえ、そんな醜態はなかった。

 

 

 

バイタルエリア内の青葉。高瀬と荒木も一度売りを修正していく。が、これは———

 

 

『シルバ躱して前に出る!! おっとシュートだぁぁァァァ!!!! 決まったぁァァァぁ!!!! 早いグランダーのシュートが、蹴球のサイドネットを揺らした!!!』

 

荒木が開けた僅かな隙間、キーパーの死角を見逃さなかった青葉。ちょうどリカルドがブラインドになる位置から蹴りこんだ球足の速いシュートは、キーパーに反応すら許さなかった。

 

そして反応したキーパーは崩れ落ちる。動こうとしても、動けず、体も傾けてしまう。

 

 

『その前のフェイントの応酬ですが、いい攻防だったんですけどね。青葉選手の間合いに入れば、どんな選手も止めきれませんね。そして、僅かなスペースを射抜くそのシュート精度も見事です』

 

 

『これで今大会7得点目!! ランキング二位タイに付ける宮水青葉!! そして、アシストランキングは独走状態!! まさに江ノ島の攻守の要!! 後半の13分!!』

 

 

 

 

「嘘だろ。どんな関節をしているんだ?」

 

 

そんな有り得ないことをしでかしている青年を見つめるプロの集団がいた。それはETUの選手たちだ。

 

「リプレイの映像だろ、これ!? なんだよ、これ」

 

世良は絶句した。自分のフェイントは、スローカメラの青葉にすら劣るのかと。

 

 

リプレイで映し出されている青葉の足の動きは、通常のフェイントのスピードよりも速かった。つまり、通常速度で行われているシルバの視界には、足の動きが早過ぎて、何が起きているかも理解しきれていなかったことが容易に想像できる。

 

「これ、ていうか、日本人だよな、あいつ?」

丹波は、世良以外にまともにリアクションをすることを忘れている一同の前で、乾いた声を漏らした。

 

 

「上等だ、奴に右のポジションは渡さない、絶対にだ!」

 

赤﨑が虚勢を張っているが、一同は彼を笑うことなどできない。日本人選手の歴史の中で、アンタッチャブルな存在が出現したのだ。彼相手にレギュラー争いをして負けても、笑うことなどできない。

 

むしろ、新監督はポリバレントな青葉を様々なポジションで試すかもしれない。つまり、彼がプレーしているボランチも、中央のポジションも、安泰ではない。

 

さらには、単独でも力を発揮する逢沢駆も入団してくるのだ。ジーノとて、レギュラーが安泰という立場ではなくなるかもしれない。

 

危機感。彼らに芽生えたそれは、少なからず影響を与えていくことになる。

 

 

 

場面は戻り、国立競技場。青葉のスーパーゴールで、蹴球の闘志にひびを入れた江ノ島高校。

 

 

『これでリードを二点に広げます!! 江ノ島高校!!』

 

 

江ノ島イレブンが駆け寄る。中押しとなる貴重な追加点を挙げた彼の周りに輪が出来る。

 

「凄いシュートだったよ、青葉!」

 

「いや、コースが空けば何とかするだろうとは思ったが、あれは想像外だぜ」

 

駆は、そのシュート精度に舌を巻き、荒木は想像の上を行く彼の度胸に驚く。

 

「しかもシルバを抜き去り、奪ったゴールだ。あと一点。ダメ押しのゴールを奪うぞ」

 

 

衝撃を受けたような表情の蹴球イレブン。最も上手いだろうと言われていたシルバが、負けた。そのショックは計り知れない。

 

動きのキレが互いに悪くなる蹴球は、泥沼の状態に陥っていく。

 

パスが合わない。自分が何とかするんだという気持ちが空回りし、視野が互いに狭くなる。

 

 

「あっ!」

 

パスミスが増えていく。日本人の弱さが、もろに出る展開となっていく。ロドリゲス監督も何度も指示を伝えるが、中々うまくはまらないし、青葉を止める有効な手段を見いだせない。

 

 

動揺が広がるピッチで、その負の連鎖を止められる強い選手が蹴球にいないのだ。

 

 

 

————あの怪物を止めきることが難しい、その空気が、チームからすべてを奪っている。

 

その存在感は、ボールを持っていない時でも効力を発揮する。かつて率いたチームであっても、彼を止める手段はなかなか出てこないだろう。

 

もはや、それほどの存在なのだ。宮水青葉という男は。

 

何とか兵藤へのロングボールをカットするが、サボらずにチェイシングを続ける。これにはたまらずセンターバックの雪村がキーパーに戻す。

 

————くそっ! コース全然ねぇじゃねぇか!!

 

しかしロングボールもショートも出せるコースがない。フィジカル勝負になると考えていると、

 

「余裕だねぇ!! 考え事とはなぁ!!」

 

幸村に襲い掛かっていた兵藤がそのままプレッシングしてきたのだ。手を使うわけにはいかないキーパーの大場がロングボールを蹴らざるを得ない。

 

 

————落下点には速いな、やはり。

 

青葉はボランチというポジションから、バイタルエリアに飛び出していく選手の背中を見て、笑った。彼はどこまでも試合の流れを読む力に長けている。

 

 

 

人々は思い知るだろう。彼はエリア外でも戦える力を持っていると。それを今、フィジカルのないだの、時期尚早だという輩に見せつけてやれと、思うのだ。

 

 

「なっ! アイザワ!!」

 

リカルドがボールを保持する前に、逢沢駆がボールキープ。後ろからは、レオナルド・シルバもいる状況。

 

まず駆は、背後から迫るシルバに背中を叩きつけ、ボールキープ。ボールを取りに行く前に必ず相手に体をぶつけてくる対応に、シルバは難儀する。

 

————半年前とは比べ物にならない強サ……体幹が別次元ダ

 

山を走り続け、ひたすらに青葉に追いつこうと努力し続けた駆の努力の証。相手選手に囲まれた状況下でボールキープできる実力を示し、

 

背後のシルバをわずかに振り切り、リカルドを抜き去る時間が生まれる。

 

「舐めるなっ!!」

 

そう簡単に抜かされるわけにはいかない。シンデレラボーイにこれ以上好き勝手させるわけにはいかない。

 

空踏みからのシザース。その程度のフェイントは何度も見てきた。リカルドの体はブレない。警戒するべきはあの大技。

 

逢沢駆の十八番。ルーレット。

 

 

だが、それを意識した瞬間に外側の刃がさく裂する。

 

「っ」

距離を詰め切れないリカルドを尻目に、駆のダブルタッチの縦への突破が決まりかける。しかし、反転からの動きがスムーズなリカルドがそれに反応する。

 

抜けない。ダブルタッチだけではいずれ追いつかれ、ボールを奪われるだろう。

 

「な、ぁぁぁ!?」

 

 

ダブルタッチだけならば。リカルドの股間を抜くボール。切り返しのフェイクと共に繰り出されたのは、ヴァニシング・ターン。

 

リカルドが詰めよってくるタイミングに、憎らしいほどに最高のタイミングで切り出した、駆の十八番。

 

 

 

まるで独りでにボールが駆の下へと転がり、リカルドは駆に振り切られる。ボールを持って否彼に追いつくことが出来ず、ファウルすることもできない。

 

しかし、辛うじてPA外。苦肉の策で、リカルドはファウルで駆を潰す判断をする。

 

 

 

それでも、“騎士王”の歩みは止まらない。

 

 

 

ここで、時を止めたかのような駆の急激なストップ。周りの動きを見極め、常に動いている状態から急激な停止へと至る、駆の判断。

 

周りは動き、ひとりでに動く。距離がずれる。相手がずれる。逆側への動きに比重が重なる。

 

リカルドのスライディングが空を切る。全て見透かされていた。南米仕様の強い当たりを駆は想定していたのだ。

 

「————この化け物ども、め————ッ」

 

素通りする駆。単純な速度で振り切られる幸村。そして——————

 

 

『ゴール前、前を向いて!! 振り抜いたぁァァァ!! 決定的なゴール!! ダメ押しのゴール!! 逢沢駆、大会記録更新となる、10得点目!! この試合2点目!!』

 

最後まで幸村を手でブロックしながらのシュート。合気道オフェンスの重心をずらす手の使い方が功を奏し、蹴球にとどめを刺したのだ。

 

 

 

『凄かったですね。あの逢沢君の十八番で抜くのも凄かったんですが、ちゃんと見えていたんですね、背後からのタックルを』

 

 

『まるで背中に目があるようなプレー!! 最後幸村選手との日本人対決も制し、ゴールを決めて見せました!!』

 

『南米の選手の当たりの強さを想定しなければ、あれは出来ませんよ。いやぁ、凄いですね』

 

『後半の18分!! ダメ押しとなるゴールが決まりました!! これで4対1!!』

 

 

ゴールを挙げた駆が、ベンチ前へと走る。優勝を決定づけるゴールに江ノ島ベンチが湧いていた。

 

「ナイスゴールです!! すごいゴールですよ、駆君!!」

 

岩城も手放しで喜ぶほどの個人技、個の力。逞しく、そして力強いドリブルとプレースタイル。これならば、彼はプロで活躍できる。彼ならば道を切り開いてくれる。

 

「凄いぞ、逢沢!!」

 

「ニュータイプかよ!! あのタックルを躱したとき、鳥肌立っちまったよ!!」

 

 

「まだまだこれからです!! 笛が吹くまで試合は何が起きるか分かりません!」

 

もみくちゃにされる駆だが、笑い続ける。自分が決めたのだ。勝利を手繰り寄せるゴールを奪い取ったのだと。

 

 

—————僕は、止まらないから。だから兄ちゃんは、心配しなくていいんだ。

 

 

 

—————僕は、王様も騎士も、どちらも出来る存在になってやるんだ

 

 

その強欲は止まらない。エゴを引き出された見習い騎士は、止まることを知らない。

 

 

 

 

さらに江ノ島はポゼッションを維持し、時間を稼ぐ。中盤の宮水に対するプレスも激しくなるが、まるで意に介さない。

 

 

 

業を煮やした蹴球は、敢えて青葉に持たせ、他の場所での数的不利を誘発させる。彼にボールを持たせ、パスを出させるという展開だが、

 

『遠目から狙ってきたぁぁぁ!!! シュートはポスト!! ミドルレンジから強烈なシュート!!』

 

欲を見せた青葉がここでミドルシュートを選択。先ほど、初めて高瀬がリカルドとの競り合いに敗れるという光景が彼に選択肢を奪わせたのだ。

 

 

マイボールにした蹴球はあえて自陣でパスをつなぐ組み立てを見せ、ピッチをワイドに使う。

 

すると

 

「!!! しまった、シルバは囮か!!」

 

青葉が気づいた時には遅い。ワイドポジションでパスを繋げた蹴球が左サイドに襲い掛かる。

 

「なっ、ぐえぇぇえ!!」

 

右サイドの喜多川にタックルをかます中塚だが、逆に弾き飛ばされてしまう。ディフェンスの反応速度に定評のある彼だが、フィジカルは全国エリート集う蹴球の前では紙切れ同然だった。

 

『完全に左サイドを突破して、クロス———!!! ああっとここで李がパンチング!!! パトリックへのクロスボールを直前で防いだァァァ!!』

 

 

しかし、2点目以降は許さない李。この日の彼はコンディションが好調であり、海王寺、錦織が大抵中央のクロスを弾くので、守備範囲も狭くなっていた。

 

ゆえに、彼の最大の長所である反応速度が、パトリックにボールを与えない。ボックス内でしか仕事をしないストライカーを紙切れにする働きは、蹴球に衝撃を与える。

 

 

さらに——————

 

 

「君の反応速度は確かにすごい。僕一人では勝てないと実感したヨ」

 

シルバは青葉との仕掛けの速度が速くなる。常に先手を打たれ、並の選手では何度もアンクルブレイクを起こされそうになるほどの、オコチャからの重心ずらし、軸足ずらしを耐える青葉。

 

しかし、耐えるだけだ。彼からボールを奪うことが出来ない。

 

—————なるほど、シルバのドリブルの仕掛けが早くなった。無理に行けば抜かれるな、これは

 

 

しかし、青葉はそんなシルバを見て口元が歪んでいた。

 

 

 

青葉をしてボールを奪えないシルバの間合い。しかしそれは、パトリック・ジェンパ、風巻の献身的な走りが効果的なのだ。

 

—————1人では彼には勝てない。けど!!

 

 

—————僕らが少し頑張れば、その牙城を少しは崩せるのさ!

 

トンっ、

 

股抜きを狙ったエラシコからのストップ、逆足のずらしに反応するまでは見事だった青葉。しかし、僅かに彼はシルバにパスコースを許したのだ。

 

ドリブルコースはついに一度もこじ開けることが出来なかったシルバだが、味方を活かすパスならばこの高い壁を突破したのだ。

 

「ふっ—————」

 

後ろを振り向く青葉。そこにはもう風巻とパトリックが動き出している。織田が何とか詰めようとするが、パトリックの速度に振り切られていた。

 

 

その時、シルバは青葉の不穏な雰囲気に、唯一気づき始めていた。

 

—————今、嗤った、のか?

 

自分が出し抜かれた瞬間に、青葉が笑った様に見えたのだ。

 

 

 

 

 

 

————この初速。青葉のような瞬間的な—————

 

良く江ノ島で目にする光景だ。青葉が常に見せてくれる攻撃の動きの一つ。織田はこの動きに対して苦手意識を持っており、彼との間合いを広げてしまったのだ。

 

「うわっ!?」

 

それでも間合いを詰めようとした織田に待っていたのは、ノールックまた抜きとパトリックの急停止。バランスを崩してアンクルブレイク。彼の前に壁は消えた。

 

 

『タイミングずらしたシュー、スルーパス!? あっと風巻ダイレクトぉぉぉ!! しかしキーパー弾いた!!』

 

ここで、江ノ島のゴールキーパー李が好セーブ。しかし彼の失敗は前に弾いてしまったことだ。サイドから中に絞ってきたのは、先ほど中塚をフィジカルで圧倒した喜多川。

 

『あっと倒されたァァァ!!  喜多川を倒してしまったか、中塚!!蹴球怒涛の追い上げ!! ここで右サイドハーフの喜多川がペナルティーキックを奪いました! 後半の30分!! さぁ、時間がない蹴球!』

 

『サイドで優位に立っていましたからね。飛び込んできましたよ』

 

 

————早いところリードを詰めないと——————

 

蹴るのはパトリック・ジェンパ。得点王のかかる彼がボールをセットする。

 

 

—————むっ、

 

李は視線だけで分かった、絶対に止められないコースに選択するはずだと。

 

 

————この大量ビハインドの展開で、真ん中を蹴るのは難しい。ここで俺が真ん中を止めれば、勝ち目はもうなくなるからな

 

 

だが、パトリックは下を向いたままだ。キーパーとは視線をあわさない。そして———

 

 

『弾いたぁァァァ!!! 李止めたぁぁ!! しかし、風巻押し込んだぁァァァ!! 1点返します、蹴球高校!! 急いでボールをとりに行きます!!』

 

「!!!」

パトリックはあそこで手が伸びてくるキーパーに驚愕する。あんなキーパーは日本人にはいない。そして、彼は韓国人であった。

 

 

しかし、風巻がそのこぼれ球を押し込み、1点を返すことに成功する蹴球。パトリックの胸中には、自分たちが同世代の世界のトップレベルに位置していることではないことを突きつけられることになる。

 

 

—————ここまで、違うのカ? 僕らは間違いなく、恵まれた環境、最高の環境だった。

 

 

そんな日本最高の環境下で鍛えられた選手たちは、日本人選手たちは、この大舞台ですでにボロボロだった。それに比べて、鎌学での劣勢を跳ね返し、青葉不在でも強さを発揮する江ノ島は何が起きていたのか。

 

 

総合力で劣る江ノ島の選手がなぜ、蹴球のエリート日本人を圧倒できるのか。

 

 

 

奴だ。否、奴らだ。蹴球に焦りを齎す“騎士王”と“超常現象”が、どこまでも邪魔をするのだ。

 

 

味方の士気をあげるこれ以上ない活躍と、相手を追い詰める比類なき力。このピッチの中で、彼ら以上に躍動している人間は、そうはいないだろう。

 

 

苦肉の策として、蹴球はシルバを囮に使うという選択をする。シルバが青葉にさえぎられる以上、何度やっても確率が低い。

 

 

青葉という壁がいるなら、迂回すればいい。シルバが彼をくぎ付けにし、周りの能力の高さで攻め込む総合力の高さを見せつける。

 

個の力を試される個人技を誘発させる土俵へと、蹴球が誘ってきたが、江ノ島は青葉だけのチームではない。

 

 

青葉と毎日マッチアップし、鍛え上げられた選手たちを相手にしているのだ。

 

 

彼の生き方、プレースタイル、球際の強さ。

 

 

 

全て、彼らの先を行く彼が教えてくれたのだ。そして彼は、孤高を気取らず、やってくる手を掴み続ける。

 

 

だから江ノ島は強くなった。これから江ノ島は強くなるのだ。

 

 

今年度はOBとして、プロの経験を語り始めるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが———————————

 

 

 

———————こんなものか?

 

 

次第に乱れていく相手選手を見て、彼は嘆く。彼らは、”ワールドカップ優勝”を目指していないのだろうか。蹴球は最高の選手を養成するための学校だったのに、江ノ島にこうも蹂躙されてはどうなのだと、疑問を想わずにはいられなかった。

 

 

—————ここで立ち止まるのか?

 

 

いつしか、決勝前に色めき立っていた感情が覚めていくのが分かる。まともにファイトしてくれるのは、シルバだけだ。何度も心が折れず、闘志をむき出しにする南米の星は、彼にとって輝いて見えた。

 

 

だが彼にはもう、予選決勝の時のような爽快感がまるでなかった。しかし、その場面も最後は冷めてしまった。もう終わったのか、もう決着がついたのかと。

 

 

だから彼は願ったのだ、恋焦がれ始めていたのだ。

 

 

 

自分の感情を90分間フルにアツくしてくれる、体を、精神をすり減らすような戦いが欲しい。

 

 

カップ戦なら、120分間の激闘で走り続ける試合を何度もしたい。

 

 

 

限界ギリギリの、それこそ選手生命をかけたような、激戦を超えた激戦に身を置き続けたい。

 

 

 

自分を圧倒するようなチームとの試合がしたい。もっと自分を追い込めるような環境に身を置きたい。その瞬間、その状況で、どこまで自分が足掻けるのか、何が足りないのかを知りたい。

 

 

ヨコセ………ヨコセ……ヨコセ

 

 

声なき声が、青葉の中にある狂気が囁く。尤も苦難の道を歩めと。オランダ経由の理想的なステップアップなど捨ててしまえと。最高峰の舞台で、自分を追い込めと囁く本音が彼を惑わす。

 

 

日本史上最高の逸材という期待も、至宝を丁重に扱えという報道も、まったく理解していない。誰も理解していない。

 

————その義務を知って、重みを知っても、自分を偽ることが出来ない。

 

 

もしかすれば、”彼女たち”は自分が獣に成り下がるのを防ぐ、楔だったのかもしれない。しかし知ったところで、自分の本性を知ってしまった彼は、誰にも悟られること無く嗤う。

 

 

きっと自分の本性を、夢幻の彼方にいた、”背負うものを持つ”彼は知ることはなかったのだろう。

 

 

糸守の忌まわしい過去も、天涯孤独の身になった痛みも、日本を引っ張る義務を理解し、背負うことが義務だと決意した彼。

 

 

 

彼は二人の女性に守られていた。一方は自分の夢の為に走り始め、もう一人は彼に寄り添い続けた。

 

 

 

 

今ここにいるのは、自分の全てをぶつけて、壊れないものを探し続ける畜生なのだと。それを知って、喜びを感じる自分は、きっともう戻れない。

 

 

 

「このまま点差をつけて、勝つぞ、青葉!!」

 

主将の織田が思考の淵に入り込んでいた青葉に声をかける。きっと彼は、自分の狂気を自覚した青葉を知ることもないだろう。

 

「——————ああ。”ここから”大逆転負けなんて、それこそ歴史に名を残しそうだ」

 

 

しかし、言葉とは裏腹に、青葉の口は歪んでいた。そんな気概を見せる存在がピッチに現れたら、もっと周りを気にせずアツくなれそうだと、感じずにはいられなかった。

 

 

 





ETU IF もし、青葉をボランチ起用し続けてしまった場合 

日本の阿修羅誕生√



リーグジャパンリーグ戦


モブ「くそぉぉぉ、勝てない・・・・勝てないんだ・・・・」

モブ「何喰ったらここまで足が速くなるんだよ! チート野郎め!!」

モブ「移籍の予定はないのかよ? この前は鹿島を蹂躙したし、何もないわけないだろ?」

青葉「・・・・18歳まで移籍できないんですから仕方ないですよ。そりゃあ、海外でプレーすることは目標ですし」

モブ「ったく。若い奴の実力は凄いなぁ。日本サッカー界も成長しているんだな」

青葉「・・・・俺だけじゃないですよ。本当にみんなが走るようになって、無数にパスコースも見つかって。だから、2年間ここにいることは有意義で——————」


~スタンドなう~


さっさと海外行けよ!! 


お前自体が反則なんだよ!!!


前半で3点取ってまだ満足していないのかよ!!!


鬼畜野郎!! 血も涙もないのかよ!!


もういいだろう!! もうお前の勝ちでいいよ!


青葉「・・・・・・・・・」

モブ「お、おい? 気にすんなよ。あいつらも負けたから鬱憤を晴らしたいだけだ」

モブ「ちょっ、落ち着けお前ら!!」



やっぱ青葉がいると、勝てるな!!


もう全部青葉に任せていいんじゃないか!

このチームはワンマンエースしか成り立たないだろ!

所詮、七光りの添え物だったな、逢沢駆は。青葉がいる試合だけだろ? 無敗なのは!


駆「このっ・・・・!!」


青葉にボール渡して、後は守備しとけよ。裏とられまくりなんだよ、石浜!

余計なことをせず、ただ守ってればいいんだよ。球際弱いし!

石浜「・・・・っ、っ・・・・」

清川「もういこう、キヨ。すぐに奥行くぞ・・・・」


ジーノはいい加減守備をしろよ!! そんなんだから逢沢に司令塔のレギュラー奪われるんだろうが!!

動けない司令塔とか、時代遅れなんだよ!!


ジーノ「・・・・どうやら、不穏な空気になっているね、最近は」


夏木ィィィ!!! お前は何回チャンスをダメにするんだァ!? プレゼントパスを何度もふいにするお前に、監督も見切り付けるんじゃねぇのかぁ!!?


逢沢と飛鳥が折角お膳立てしたのになぁ!! 何本決定機逃したのか知ってるか!? 俺は知っているぞぉ!


夏木「っ、っ・・・・っ・・・」


赤﨑ィィィ!! お前には青葉の動きは無理だから、カットインばかりのワンパターン辞めろよ!! お前のバックパスは見飽きたんだよ

自分がスーパープレーヤーと勘違いしているんじゃねぇか? 身の程弁えろよ!

赤﨑「くそっ・・・くそっ、くそがっ・・・・こんなはずじゃ・・・・」



バカ野郎! サッカーは22人でやるスポーツだろうが!

ふざけたことを抜かすな、貴様ら!!

羽田さん落ち着いて!! また問題になりますよ!!

おじさん落ち着いて!! そうじゃないって知っている人もいるんだ!


青葉「・・・・・・・・・・・・・・」









————————・・・・・そうか



————————迷う必要など、なかったのか




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恐らく、もっとひどい描写が彼を待っている予定です。


こんな風にいきなり来るのではなく、ボディブローのように突き刺さる言葉が青葉を襲うでしょう。

ジャイキリ14巻、15巻を参考にした話が、本編でリアルタイムに襲来予定です。


さすがにクラブ側で、津なんとか会長のような人はいませんけどね。



しかし、ボランチ青葉は万能すぎる故に、「もうあいつ一人でいいんじゃないか」という空気にしてしまいます。それこそ、他の選手がモブになってしまうほどの。


だからこそ、青葉を攻撃、または守備に専念させないと、いずれ空気が悪くなる。達海監督はそれを知っているからこそ(実際に体験してしまった人間として)、青葉のボランチ起用を控えざるを得ないのです。

実際、彼の決定力を知っているサポーターがいるので、守備に専念というワードはまず出てきませんが。


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