騎士見習いの立志伝 ~超常の名乗り~ 作:傍観者改め、介入者
衝撃の紅白戦が終わり、ちらほらと報道陣のカメラが増していく。
近年のETUは、そこまで注目される存在ではなかったが、今年は例外だった。
「逢沢選手出るかなぁ」
「青葉選手って、サイドのすごい人なんだよね? ボランチのイメージが強いけど」
「真ん中から凄く速かった!!」
「何言ってんだ。宮水は生粋のサイドアタッカーだぞ!!」
観客席には、例年以上にギャラリーの眼が集っていたのだ。東京という地の利もあってか、高校のスター選手、宮水青葉と逢沢駆を一目見たいという新規ファンが押しかけているのだ。
「うわぁぁぁ。俺、キャンプでこんなに人が集まっているの、初めてっすよ」
「ああ。これは予想外だ。これもゴールデンルーキー効果ってやつか」
世良と丹波がもうすぐ席が埋まりそうな彼らの勢いに圧倒されていた。
中にはコアなファンは、
「飛鳥選手がレギュラー獲れるのか。今までのディフェンス陣では何かと頼りねぇからな」
「堅守って言っても、引き籠っているばかりだしなぁ」
「高卒ルーキーの上田とかも、注目だぞ」
と、他の新加入選手にも注目しているファンの姿も。様々な要素が絡み合い、化学反応が期待できるチームという印象が強い。
「さっぶ……なんでこんな寒い場所でキャンプやんの?」
達海は震えながら、フィールドに足を踏み入れた。彼の頭ではもっとこう、南国の暖かい場所でキャンプをするとばかり考えていた。
「仕方ないですよ。結果が出ていないんですから。フロントの後藤GMもそこは妥協しませんし—————」
松原もつらそうに切実な現実を漏らす。昔の、それもほんの一時期の、達海や栗澤らが日本代表で頑張っていた頃の時代を知るものとして、現状の凋落ぶりは悲しいものなのだ。
「はん、選手時代から楽しくやってた輩は、気楽なことばかり言いやがる。下々の事なんて、なんも考えずにな」
吐き捨てるように捨て台詞を吐くのは、このチームのセンターバックの黒田。ミスターETU村越を軽視するような指導方針が、余程据えかねているのか、新監督に対してあまりいいイメージを持っていないようだ。
「おい、黒田!! あっ、もう行ってしまった—————すいません監督。黒田と杉江は特に、村越に何が何でもついていくという輩でして————」
そして一方、椿は積極的に青葉と駆、世良、宮野といったメンバーにコミュニケーションをとることになった。
「俺、とにかくスペースが空いたら走りこむんで、ボールをください!」
「ん? ああ。まあ、お前の足は紅白戦でも凄かったからな。速攻の場面とか、縦パスをうまく受けれたら、一気にチャンスになるし」
「でも、クロスの時も、速いボールを入れやすくなりそう。だよね、ミヤちゃん!」
オドオドしていた印象がぬぐえない椿ではあったが、このキャンプから何か積極性を自発的に出すようになっていた。駆にしても、クロスボールの速度を上げることが出来れば、相手に触られるリスクも減る。限界ギリギリ一歩手前ぐらいなら、追いついてしまうかもしれないと。
青葉は、前への推進力が足りないと感じていたチームに、いい選手が成長し始めていると考えていた。一部後藤さんに過去の試合を見せてもらったが、やはりビルドアップに大きな問題を抱えている。
ある男の存在を除けば、織田レベルのフィードの名手が存在しないのは痛すぎる。
「ああ。俺もクロスとか、カットインとか、色々練習しないとな。シュートもそうだけど」
宮野も、このキャンプで自分のスピードを生かした武器をもっと制度を上げたいと考えている。新チームの中で自分がどう戦力になるのかを試行錯誤しながら。
そして、ディフェンスの方では
「もっとラインコントロールを意識する必要がありますね。しっかり声を出し合いながら、距離感を大事にしていきましょう。後ろが揺らげば、攻撃も守備も綻びますし」
「そうだな。だが、うちが一番やられているのは裏抜け一本と、セットプレーによる失点が目立つ。マークの受け渡しとか、セットプレーの約束事など、決めておいた方がいいな」
建設的な意見を出すのは飛鳥と杉江。ともにサッカーIQが高い選手同士、通じ合うところがあるのだろう。
「おうおう! その通りだ、新入り!! ディフェンスからサッカーは始まるんだよ。攻めるのもいいが、何より点を許さないことも重要だ!」
「お、俺は—————(い、言えない。俺も点が欲しいとか言えない)」
点を取りたいと実は考えているセンターバックの亀井は、黒田の物言いに物怖じしてしまう。
「けど、サイドバックの攻撃参加が当たり前な現代サッカー。攻撃時のラインコントロールとか難しそうっすね。やっぱタイミングとか、重要じゃないっすか?」
「だったら、やっぱりサイドのアタッカー陣とは、コミュニケーションをとらないといけないだろう。赤﨑たちはどこだろ?」
飛鳥が良い橋渡し役となっており、上手く言語化を進めている。サイドバックの清川と石浜が意見を自然と出していく。
「ああ。けど、攻撃に何度もオーバーラップするとこちらの体力も持たない。それに、リスク管理はディフェンスだけではどうにもならない。もっと話し合うべきじゃないか」
ルーキー達が攻撃陣、守備陣のグループに分かれてはいるが、ちゃんと意思疎通を作る環境と状況が生まれている。達海はそれを見て、今回は荒療治をする必要はないと決断していた。
————まあ、こんだけギャラリー多いと、後で後藤にどやされそうだし
する必要のない破天荒な行動というのも無駄なのだから。達海は基礎練習、ボール回しなどを、5分間でメンバーを代えながら行わせる。コーチ陣にはしっかりストップウォッチを持たせ、選手が多くのチームメイトと接する時間を設けたのだ。
その最中、攻撃陣のベテラン堺は、飛鳥のボールタッチを見て舌を巻く。
—————こいつ、攻撃センスも結構あるのは知っていたが、なんてボールコントロールだ。
そして、青葉というと
————スギさんはやはりキーマンだな。黒田さんも対人能力は高いが、如何せん高さが不安だ。となると、亀井と小林、飛鳥さんがこの1枠を争う形か
もしくはベンチ入りの二人に入るかどうか。杉江は青葉の眼から見てもレギュラー当確な実力者であることがうかがい知れる。
————やはりプロ。高校のレベルではないな。江ノ島も結構うまい部類だと思ったが
ETUの選手の技術レベルは、実はそんなに低くない。個人での突破や一対一になった時、一部の選手が勝利する局面もあった。塩試合での勝負強さは意外とあったのだ。
そしてこのキャンプ。江ノ島の平均的なレギュラー以上、そして織田未満といったコントロールを最低備えていることが分かる。
そして実戦練習では、それまでのチキンぶりが嘘のような、豪快なプレーが見られる椿。
「うおっ!? 早い!!」
松原が声をあげる。今までの消極的なプレーはどこに行ったのか。
ダイナミックなストライドとドリブル。そしてシュートを振り抜く躍動感。直前の動作が小ぶりで、速いモーションから撃ってくるシュートは、キーパー陣は勿論、守備側の人間から見ても脅威だった。
————切り返しが半端ねぇ!? こんな選手だったか、こいつ!!
亀井は、その躍動する椿を抑え込むことが出来ない。それは小林と黒田も同じだった。
杉江や飛鳥といった選手にはまだ分が悪いが、何かぶつぶつと独り言をつぶやき、次の番では修正する傾向もあり、かなりこのキャンプに意気込んでいるのが分かる。
いい感じに、ベテラン、中堅、若手がキャンプをこなす中、ついに遅れてきた10番がその姿を現す。
「あっれぇ? キャンプって、南国のリゾート地でやるモノじゃなかったのかい?」
吉田ルイジ。このチームの10番であり、プレースキッカーとしても優秀な選手。昨シーズンの攻撃の組み立ては、すべて彼から始まっていた。
簡単に挨拶を済ませた彼は、今日はゆっくり休むと言い、ホテルへと戻っていく。あまりの自由奔放さにさすがの達海も少し驚く。
———まあ、ああいう輩はその理由まであるんだろうけどさ
色々考えられる。単に回復が遅いのか、コンディションが整っていないのか。原因は疲労が抜けにくい体質なのか。
さらに言えば—————
————やめだ。さすがにうちのメディックもそこを見抜けないバカではあるまいし
その後も、村越に指図する権利を与えないなど、一部波乱が起きそうな場面もあったが、初日にしてはいい纏まりが出来つつあると感じる達海だった。
キャンプ初日から数日後、新監督になって初めての記者会見が行われる。例年に比べ、見どころの多いETUの今シーズン。押し寄せてくる記者の数は昨シーズンの4倍だった。
「で、では質問のある方。お一人ずつお願いします!」
永田有理が記者陣に質問を促す。ここまで大勢の記者に囲まれた経験のない彼女は緊張していた。すると、鋭く手が上がった男が約一名、その後決壊したかのように大挙して手が上がっていくが、最初の肩に質問を依頼する。
「ええ、トッカンスポーツの山井です。背番号17の宮水選手、背番号19の逢沢選手がレギュラー組ということで、開幕ルーキーコンビ実現の可能性も帯びてきたということでいいのでしょうか?」
「——————わかんないです」
多くを語らない達海。あまりにも簡素で、塩対応な発言。有里は頭が痛くなった。
「先日の紅白戦では、ミスターETUの村越がビブス組でした。新体制、新チームつくりの中で、彼もレギュラー外ということなのでしょうか?」
「——————どうなるかわかりませぇん」
—————ああ、もう!!! せっかくの全国区なのよ!! それなのに、これでは酷過ぎるわよ!!
永田は泣きそうになった。これでは罰ゲームだ。こんな役目は後藤に任せるべきだったと後悔し始めていた。
「ただ、昨シーズンと同じはないよ。それだと残留も出来ないだろうし。まだ先発メンバーも、ベンチ入りメンバーも固定していないし」
初めてまともな発言をする達海。続けて彼は言葉を重ねていく。
「シーズンもベンチ入りメンバーは選手の調子に合わせて変えていく。とりあえず、みんなにチャンスはあると思うよ、最初はね。ま、色々アクシデントもないとは言い切れないし」
「フリーの城之内です。キャンプ初日から数日が経ちましたが、達海監督は走る攻撃的なサッカーを志向しているように見受けられます。昨シーズンよりボール支配率で常に負けていた展開を意識しての事でしょうか?」
フリーの城之内。彼も達海と同じく昨シーズンのこのチームの惨状に気づいているのだろう。かなりのサッカー通であることが分かる。
「そうだね。昨シーズンは堅守だとか言われていたみたいだけど、得点力も個人頼みで単発。不用意に前に出る必要はないけど、あまりにも主導権を握られ過ぎてたね。ただ、走れないとか、奪う力がないとかっていう問題でもないみたいだよ」
「なるほど。ありがとうございます」
城之内もその後に補足で質問をすることはしなかった。これ以上は戦術の根幹にかかわるのだ。既存メンバーに大した補強もなく、ゴールデンコンビの加入ぐらい。誰がキーマンになるのかを晒すのは序盤では避けたい。
そんな達海監督の想いをくみ取っていたのだ、彼は。
「新加入の飛鳥選手は、練習でもアピールを続けていました。達海監督の中で、彼は開幕ベンチ入りメンバーに入っているのでしょうか?」
「—————ん? まあ、そこそこやるんじゃない?」
軽い言葉である。しかし、そこそこということは達海の眼から見ても彼は十分な実力を備えつつあるということか。
その後も、時々昨シーズンのETUと照らし合わせ、理路整然とした質問に対してのみ、ぼかすような内容ではあるが、質問に答えていく達海。
報道陣の中でも、サッカーに詳しくないと質問には答えないよという考えが広まる。
————まったく質問できなかった。躱され過ぎたか
————核心を突き過ぎてもだめ。かといってぼかし過ぎると質問がぼやける。
————かなり頭のキレる監督だなぁ、新監督さんは
————切れ者のブレインに、開幕スタメンが確定的な新人コンビ。今年の開幕戦の相手はどこだ?
————確かジャベリン磐田だ。昨シーズンも上位のチーム。新体制初戦はかなりきつい相手だろう。
————その前のプレシーズンマッチも、初戦が東京ヴィクトリー、二戦目はFC札幌。初戦は厳しいが、二戦目で結果出さないと、まずいだろうな
マイペースなように見えて、隙を見せない達海監督。今年のETUは何かが違うと、漠然とした予感が漂い始めていた。
一方、二人の逸材を取り逃がしたことになった東京ヴィクトリーは、来たるプレシーズンマッチに備え、ETUの記事について話をしていた。
「新戦力、旧戦力の融合進む、か。やはりあの二人の加入と、飛鳥亨の台頭は無視できないな」
世代別で高い評価を受けていた守備の要の加入は、ETUに大きな変化を与えるだろう。彼はビルドアップと対人能力に秀でており、あの宮水青葉と逢沢駆とマッチアップした経験もある。
「しかし、戦力差は歴然。如何に期待の新人とはいえ、我々の相手が務まるのでしょうか? アマチュアとプロの壁というものを教えてやらねばいけませんね、平泉監督」
スタッフも、ETUとのプレシーズンマッチを若干楽観視している節があった。逢沢駆は世界の舞台で躍動したものの、相手は同じ世代の選手たち。宮水青葉に至っては、アンダー15から代表経験がない。
世間の過大評価ぶりは、時に才能ある若手を潰してしまう。だが、ここで潰れるような選手なら、日本の未来を背負う資格もない。
「相手がだれであれ、全力で叩き潰すのが我々東京ヴィクトリーだ。そして、我々のオファーを蹴ったのがあの二人だった」
「断りの連絡を丁寧に行ったのは高評価ですが、無鉄砲が過ぎる傾向はありますね。ここらでプロの威厳とやらを見せつけておかなければ。秋森らは闘志を燃やしていますよ」
名門クラブのオファーを蹴って、中堅に劣る降格争いのチームに入団。強豪クラブのポジション争いから逃げたともいえる。
スタッフの間では、彼ら二人は試合に出られるチームを選んだとさえ言われている。
「だが、相手は達海猛。油断すればたちまち喉元まで食らいついてくるだろう。我々は我々のサッカーをするだけだ」
運命のプレシーズンマッチまでにいろいろな報道が駆け巡る。神奈川のなでしこリーグの若手期待の星、小野寺颯が開幕戦でハットトリックを決め、昨シーズンからの好調を維持したまま、スタートダッシュに成功する。
さらに、今シーズンから舞衣のいるビルマーレに新規加入の美島奈々は、黄金コンビを彷彿とさせるポリバレントなプレーでチームを牽引。クリーンシートと攻撃の起点となった。勿論、舞衣は2得点を挙げる活躍でMOMに選出される。
—————先発濃厚な未来のエース候補、逢沢駆。開幕ゴールの快挙と気になるバディ?
今シーズンからプロの舞台で戦うことになる、世代別代表のエース、逢沢駆。そんな彼が早くも五輪代表監督の目に止まる可能性があるかもしれない。
アジアの舞台で屈辱の決勝戦を戦い抜いたETUの背番号19は、その試合で一人輝きを見せた。一時は同点となる得点を含めた2ゴール。まさに彼が日本代表を牽引していたといっても過言ではない。
しかし彼は勝つことが出来なかった。世界の舞台では、超一流にのみワンマンチームは約束される。彼はそこまでの選手ではない、現時点では。
ゆえに必要となるのは、彼のバディ役だ。江ノ島からのプレーで最も彼を輝かせられるのは宮水青葉だ。しかし、アジアの舞台をアンダー15以降経験していない彼では荷が重いともいえる。ハマれば選手権決勝のように、超人的な活躍を見せるだろうが、経験不足が否めない。
そして、ETUの攻撃を牽引するのはルイジ吉田。背番号10は、パスセンスと攻撃センスの両方に特化しており、流れを生み出すだろう。しかし、運動量の不足は守備の時にリスクを誘発させかねない。彼は典型的な10番タイプであり、もともと運動量もそこまで高くない。結果的に逢沢が前線で孤立する恐れも出てくる。
開幕メンバーを占うプレシーズンマッチで、彼はベストバディを見つけることが出来るか。
ネットでも、キャンプで好プレーを見せている逢沢駆、そして宮水青葉の話題は尽きない。
————やっぱり本物だ。キャンプ中もプロの中で全然負けていない。
————けど、やっぱり逢沢選手が凄いね。出すタイミングも完璧だった。
—————所詮、宮水青葉は逢沢駆の添え物だな
————足が速いだけの選手とか、俺たちは何人期待して裏切られてきたんだよ
—————宮水選手はドリブル上手いぞ
—————高校レベルの上手いをプロに持ってきた情弱乙
—————高校サッカーとかいう狭い世界で粋がる問題児。せめて逢沢駆の邪魔はするな
————情弱はどっちだ。プレーしている映像すら見ていないくせに
—————上手くても、問題児はチームにとって癌だ。日本サッカーには合わない
—————自分一人でゴール前にボールはこぶし、連携は苦手そう
—————わかってないなぁ。エゴの強い選手が日本には必要なんだよ
————汎用性が高い選手を問題児扱いは大草原。
————複数のポジションで活躍できる。人格に問題があるようなプレーも見られないが
————はいはい。にわかの主観的な発言。とっくの昔に人格に問題ありと出ていただろ?
————あれは逢沢選手が腕を掴まれた際に、宮水選手が激怒したって話だぞ。協会も公式声明を出しているし
————忖度も分かんねぇの? まあ、あれが代表に入るころは暗黒。まあ、信じろって。俺の言う通りになるから
—————史上最強(笑)がドイツで惨敗した理由を継承する伝説の選手だぞ。絶対に何かしてくれる!
————お前ら、16歳を貶して楽しいのか?
報道こそ落ち着いているが、宮水青葉は逢沢駆の添え物。という印象が否めない。ネットでも悪評を信じた者、単純に嫉妬している者、贔屓チームのオファーを蹴ったことが気に食わない者等、大小さまざまな理由があり、彼に対する肯定と否定が入り乱れていた。
まるで、ヘイトもファンも集める持田の様な風格を既に出し始めている宮水。その苛烈なプレースタイルと攻撃的な傾向は、長年強烈なエース候補を見いだせない日本代表のカンフル剤になるのか。
そんな渦中のETUは、東京ヴィクトリー戦で驚きの布陣を披露したのだ。
GK 1番 緑川
RSB 5番 石神
CB 2番 黒田
CB 29番 飛鳥
LSB 4番 熊田
CMF 7番 椿
CMF 6番 村越
RMF17番 宮水
LMF19番 逢沢
OMF10番 ジーノ
CFW20番 世良
控え
GK 23番 佐野
DF 14番 丹波、3番 杉江
MF 15番 赤﨑 8番 堀田
FW 25番 宮野
達海監督の初陣では、若手を積極的に使う采配。ボランチは若手の椿とベテラン村越。そして飛鳥亨はこれが初先発。こちらも大抜擢である。
そして注目は二列目。本日キャプテンマークを付けるのは、10番のジーノ。その両脇には江ノ島の両翼が居座り、センターフォワードには小柄ながら運動量のある世良。ベンチ入りの宮野もスピードが武器だ。
ベンチ外
GK 31番 湯沢
DF 12番 鈴木 22番 石浜
26番 小林 27番 亀井、16番 清川
MF 21番 矢野 24番 住田 28番 広井 13番 向井
FW 18番 上田、 9番 堺
残念ながら、紅白戦で果敢なプレーを披露していた上田はベンチ入りならず。ベテラン堺もベンチ外となった。
その達海政権が初陣を飾る舞台はホーム隅田川スタジアム。ETUにとってはホームグラウンドのような場所であり、悪くない地の利が働くはずだった。
————ヴィクトリー!! 東京ヴィクトリー!! ヴィクトリー!!
————ヴィクトリー!! ヴィクトリー!!
あちこちで聞こえるのは、アウェー東京ヴィクトリーへの声援。すでにアウェー側は満席の如く溢れ続け、このスタジアムの半分を仕切る勢いである。
無論、ETUサポーターも存在はするが、今回は第三勢力の目も無視できないものだった。
「今日は、やっぱりルーキーコンビ出るな」
「世間の目に風穴を開けてやれ、青葉!!」
「—————添え物に何期待してるんだよ」
「てめぇ!! 言ってはならないことを!!」
「悔い改めろ、情弱!!」
ざわざわ、ざわざわ
ぎゃあぁ、ぎゃあぁ、ぎゃあぁ!!
試合開始前から両チームのファンがヒートアップしていたり、していなかったり、第三勢力が勢力内で小競り合いを起こすなど、カオスな現象が起きていた。
ホームETUのロッカールームでは、
「—————ボールの展開には、一度ジーノに預ける、ですか」
淡々とした声のトーンでつぶやくのは、宮水青葉。感情が籠っていない声ではあるが、彼が必死に不満を出さないよう敢えてこうなっているだけである。
「——————(うわぁぁ、凄い不満たらたら)分かりました。とにかく、吉田さんを活かすよう動くわけですね」
何でもないように、ジーノを活かすプレーを心掛けなさいという命令を守る意思を固める逢沢。しかし、どことなく棘のある言い方。
「ちょっと待って、君。僕のことをさっきから吉田って言っているけど?」
不満げなジーノの物言い。しかし逢沢は臆さない。ニコニコしたままだ。
「なぜって、それ貴方の苗字じゃないですか? 何か不満でも?」
ニコニコしたままの駆。なぜか、キャンプの時からジーノに対して辛辣な駆。数少ないジーノに刃向かう存在は、彼の興味を引き立てるのだが、
「僕は王子、もしくはジーノと呼ばれているんだ。そういう愛称なんだ。だから———」
「初日に遅刻して、ペースの上がらない司令塔が何ですか? パスが上手くて“走ろうともしない”選手にすべてを任せる作戦。後ろの苦労が目に見えますね」
空気が凍る。キャンプの頃からハードワークとは無縁で、守備も放棄する選手。攻守の切り替えと展開の速さ、仕掛ける積極性を信条とする駆にとって、典型的な司令塔はあまり好きではないのだ。
さらに言えば、その短所をそのままにする精神性が理解に苦しむ。
「まあまあ、そのへんにしとけ、逢沢。意外と動き回るし、去年もボールを奪われるシーンはほとんどなかったんだ」
「お前の言い分は十分わかるぞ、新入り!! どういうことだよ、てめぇ。こんなんで東京ヴィクトリーに勝てんのか!?」
杉江と黒田が駆を宥めるが、その不満は明らかに達海監督に向いていた。
「まあまあ。ここで種明かしするのはいいんだけどさぁ。まずは印象付けって大切だぜ。前半俺が良いというまでジーノを無理やりにでも起点とすること。事実、パスの精度は一番高いし、視野も広い」
「「!!!」」
その時、駆と青葉の背中に電流走る。印象付け、キャプテン降格の村越と、昇格のジーノ。そして今回のこの作戦。
全てが繋がった。が、納得は完全にできたわけではなかった。
「—————後、村越はリスク管理。椿が上がる際は後衛ラインと連携してカウンターに対して遅滞を行うこと。椿、お前はスペースが空いたらガンガン走りこめ」
「了解した」
「うっす!」
勝つための一手を打つと彼に語った達海と、その言葉を聞いた村越。まだ完全にとはいかないが、彼のことを信じ始めようと思っていた。全てはETUと、応援してくれているファンのために。今の彼の原動力はそれだった。
「世良は自分が受けやすい形を作れ。ワンタッチ、いや、最大で2秒粘れ。それまでは死ぬ気でボールをキープしろ、いいな?」
「はい!!」
前線でボールキープするのは、体格に劣る世良には酷なものだ。だから、出来る範囲で彼には仕事を与える。達海は、色々な場所、自分の受けやすい場所を世良に探すよう指示した。
フォワードはラインに圧力をかけるだけが仕事ではない。相手に取って嫌な場所でボールを受け、ポストプレーをするのも仕事の一つだ。
だが、接触プレーを推奨しているわけではない。だからこそ、達海は世良に受けやすい場所でボールを受けろと言い放ったのだ。
村越は、各選手にマッチアップ選手の情報を伝達させていく達海と同僚たちのやり取りを見て、今回の作戦の本筋に気づきつつあった。
————相手の弱点を炙り出す。もうすでに、監督はヴィクトリーの弱点の一つを見出したのか
そして、ETUは選手の起用の変化によって、攻撃の戦術が変わる。今回は世良をトップに置いたゼロトップ。
ボールを受ける形が多く、組み立てを義務付けられる王子は必然的に下がってプレーすることになる。つまり、村越、椿、ジーノの変則スリーボランチ。恐らく、椿の突破がカギになっていく。
こうなってくると、4-3-3に近い陣容だ。アンカーの村越と、ダブルインサイドハーフの椿とジーノ。SBは攻撃参加が求められる回数も多くなるだろう。
となると鍵はサイドの攻防。真ん中でのプレーが活きるためにも、椿のセンターアタックを活かすためにも、サイドでの優位性、ピッチを広く使った攻撃が求められる。
だからこそ、ジーノのパスの展開力が重要になる。
「お前らがベターなプレーをすれば、最低でもこの試合引き分けまではいける。その先に辿り着けるかどうかはお前らの頑張り次第だ」
守備時は4-2-3-1だが、攻撃時は4-3-3に近いゼロトップの戦術。各々の特徴を理解し、当てはめる達海の戦術。
試合直前、平泉はルーキー三人を抜擢した陣形に口を出す。
「まさか、いきなりあの三人を先発させるとは。それほどの逸材ということですかな?」
不敵な笑みを浮かべる平泉。特に、守備の要でもあった杉江ではなく、飛鳥を選択したことに期待の強さがうかがえるのだ。
「別になんでもいいじゃん、平泉のおっちゃん。馬鹿正直に俺が答えると思う?」
ニヤニヤしながら、教えてやらないと答える達海
「愚問だったな、達海。聞けば、就任以前はイングランドではずいぶんと活躍をされたとか。今日は胸を借りるつもりで当たらせてもらいますよ」
そう言い残し、平泉はアウェー側のベンチに戻っていく。その後ろ姿を見ながら達海は
「はっはー、別にいいのにね」
と、軽口をたたくのだった。
————まあ、ダンディー平泉が手を抜くなんてことする訳がねぇけどな
イングランド帰りの指揮官は、そんな歴戦の名将を相手に一歩も引くことはない。あくまで、選手たちの勝利を信じ、彼らの可能性を信じるのだ。
帰ってきたETUの星は、この東京ダービーで再び番狂わせを演出することは出来るのか。それは選手たちの頑張り次第なのだ。
世間での青葉のイメージはまだ酷いです。
国内の強豪クラブのオファーの悉くを断り、ETU一本ということで、ちょっとアンチが増えている状況です。当然のことながらサポーター、選手たちの耳にも入っています。
後、駆は若干黒くなっています。青葉への中傷もですが、王子の守備意識の低さに怒っています。
ただ、王子はあえて駆を挑発することで、彼の力量、センスを試している状態です。自分が受け手に回れる出し手なのかどうかを見極める為。
なお、青葉本人は「言わせておけばいいや」とマイペース。