騎士見習いの立志伝 ~超常の名乗り~   作:傍観者改め、介入者

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ここで新たにライバルの情報が出てきます。



リーグジャパン 日本の開幕
第五十三話 開幕に向けて


今年はリーグ戦の台風の目になるかもしれない。そんな気運を感じさせる試合となった東京ダービー。

 

 

その快進撃を予感させるチームの中心人物の知名度が上がるにつれ、関東ではその熱気が膨らみ続けていた。

 

 

埼玉のとあるサッカーの強豪校では、打倒江ノ島に燃える高校がある。武蒼高校。埼玉県下で有数のサッカー名門校。

 

 

しかし彼らは八千草に競り負けたレベルの高校であり、その彼らを蹂躙した江ノ島高校との埋められないレベルの差を痛感するなど、悪戦苦闘の日々を送っている。

 

「やっぱり竜崎を中心としたパワープレーが有効だろ?」

 

「それは江ノ島もやってくるぞ。今年江ノ島には武智昭が入部したらしいし、海王寺と錦織、高さのある選手が揃ってる」

 

「小田とザキのコンビで中央をこじ開けるぐらいしかないなぁ。けど問題は、江ノ島の攻撃力だ。右も左も個で仕掛けてくるし、中央は足元も上手い高瀬。中央には2,3人引きはがす荒木に織田。」

 

「やっぱり当たってみないとわからねぇな。あのチームとは。宮水、逢沢がいれば、勝ち目は正直かなり低かったな」

 

 

そして、そんなサッカー部とは無縁だった少女にも、世間を騒がせる存在となった二人の余波が降りかかる。

 

「リーグジャパンの第六節の試合?」

サッカーについてはほとんど何も知らない少女。精々ワールドカップで中心選手だった花森ぐらいしか知らない。その程度の認識だった。

 

「今年のリーグジャパンは凄いのよ! 目下武蒼最大の強敵だった江ノ島のダブルエースが入ったETU!! あそこは今年相当くるわよ」

 

全く身に覚えのないチーム名。英文字を使い、何かダサい感じのする名前。彼女にとって興味の対象になるような存在ではなかった。

 

「イーティーユー? まるで外国のようなチームね。強いの?」

 

「去年までは弱かったわ。けど、飛鳥亨、逢沢駆、宮水青葉! 特に宮水青葉はとんでもないわ! あんたが唯一知っている花森を超えられる選手なんだから」

 

ドイツで多くの壁にぶつかり、苦労しながらも、道を切り開く彼の姿に共感を覚えていた少女————江藤藍子は、その花森を超えるかもしれないという少年に対し、嫌な感情を覚えた。

 

「まだ海外で苦労もしていない選手が、花森選手を超えるだなんて、ちょっと過大評価じゃない? プロでの実績もないんでしょ?」

 

まだプロにさえなっていない。そんな選手にここまでの期待が寄せられている。正直また潰れるのではないかと思う。数多の天才と言われた選手たちが一瞬で姿を消していったかのように。

 

「ポテンシャルは日本最高レベルよ。何と言っても圧倒的な力で総体・選手権を連覇したメンバーの中心人物。黄金世代のオーストラリアチームが唯一恐れた怪物アタッカー」

 

その二大会は現段階で「惨劇の総体、惨劇の選手権」とさえ言われている。そしてこの名称は今後定着することが間違いない。

 

「そんなの、今までだっていたじゃない。その宮水青葉が凄い選手になるなんて、まだ信じられない」

 

 

しかし、日本代表ファンだった少女の前に、リーグ通の女子たちが待ったをかける。

 

 

「宮水だけじゃないわよ、今年のリーグジャパンは! 我らが浦和には鷹匠選手! 横浜には秋本選手! 甲府にはリーグ随一のドリブラー、中島秀哉!」

 

 

今年のリーグジャパンは戦国時代になるであろうと言われている。浦和と横浜は即戦力ルーキーの獲得。

 

甲府にはいよいよその才能が再び輝きだしたか、かつての天才ドリブラー中島。バルサのエースを彷彿とさせ、超攻撃的なスタイルは昨年のリーグ戦で織り込み済み。今年こそ上位進出を狙う地方の雄の運命を変えるか。

 

 

「それに、新潟にはU20日本代表の榎本文人! 磐田には同じくU20のエース、小川知良! もう今年は勢力図が変わりかねないほどの変動があるのよ!」

 

 

世代別で中盤の要に成長した榎本文人。新潟ではすでに主力として活躍し、国内クラブの熱視線を跳ね除ける変わり者。しかしそのプレースタイルはクレバーで、後の先、先手を打つプレスを使い分ける等、賢い選手だ。

 

忘れてはならないのが、磐田の若きエース、小川知良。キングカズの名前と同じ若きストライカーは、昨年にブレイク。磐田の上位進出に貢献し、昨年のベストヤングプレーヤーを受賞。対策を講じられる今期はどこまで数字を伸ばせるのか。

 

「い、いっぱい名前があり過ぎて分かんない……」

 

藍子はマシンガンの如く喋られた選手名を言われてもピンとこない。誰一人として、イメージが湧かない。

 

「騙されたと思って、一度見に行こうよ!」

 

「和菓子屋に今度寄って、みんなでお茶しよ!」

 

この時、彼女はまだ自分はいずれ店の後を継ぐものだと思っていた。どれだけ外に目を向けても、どこにも飛び出すことは出来ないと。

 

 

しかし彼女は目の当たりにする。彼は確かにその決意と覚悟を持っていたのだ。

 

 

外の世界に出るための理由を。外の世界へと目を向ける眼と、外を旅する力を求め続けていたことを。

 

 

 

そんなことはつゆ知らず、ETU爆発の予感は、留まることを知らないほどに高まっていた。

 

新人三人は及第点以上の活躍を見せ、その筆頭と目されるようになった宮水青葉への注目度は過熱している。

 

加熱する追っかけファンへの対策の為、彼の通う江ノ島高校では厳戒態勢の一歩手前となる事態も起き始めており、他の選手たちへの影響も懸念されている。

 

伝説の後継者、悲運の司令塔の弟逢沢駆と、ティアマト彗星落下という未曽有の危機に直面しながら、奇跡の避難劇を見せた糸守町出身のドリブラーにして、逢沢傑の片翼とさえ言われた男、宮水青葉。

 

そんな二人に立ち向かい、最後まで運動量が落ちず、ETU入りを決断した飛鳥亨。

 

すでに葉陰学院では飛鳥の登校の際は被害が起き始めており、卒業まで耐えるしかないという現状。

 

そして、まだ高校一年生で、もうすぐ二年生に進級するであろう青葉と駆は、青葉が非難の対象となった事件を思い出させる不穏な空気が忍び寄っていた。

 

「————地理的にも少しきついものがあるかもしれない」

青葉は現状の生活拠点から1時間かかるクラブハウスまでの道のりが、ハンデであり、江ノ島高校への被害を鑑みれば、予想される騒動は避ける必要があると考えていた。

 

「—————それって、転校、とか?」

駆は、実家暮らしで一人暮らしの経験がない。だから新生活を始める際も不安になる気持ちがあるのだろう。強いて言うなら、ここで駆は自分が今の環境に甘えていたのかもしれないと思い始めた。

 

—————両親がいて、美都がいて。でも、海外に行くときは全部自分で出来ないといけないんだ。

 

「——————ただ、江ノ島には愛着がある。ここを離れるのは卒業まで粘りたいな」

愁いを帯びた表情で、青葉はそうつぶやく。入学早々の統一戦に始まり、総体、選手権の連覇。自分に追いつこうと全速力で追ってきている頼もしい仲間。

 

いつか、どこかのピッチで再会したい、社会人になっても仲良しでありたい仲間との絆。それを簡単に捨て去ることは出来ない。

 

「—————故郷がなくなった俺にとってみれば、ここはもう第二の故郷のようなものなんだ。近藤顧問には感謝しているし」

 

 

「あ—————」

その言葉で駆はハッとする。青葉の生まれ故郷は現在人が寄り付けない廃墟と化している。彗星落下の衝撃で街は消滅。機能も完全にマヒしており、人が住める場所でないのは明白だ。

 

—————故郷がない、消えるって、やっぱり重い、よね……

 

「—————悪いな、忘れてくれ。とりあえず今の俺はここを出るつもりはないし、普通の高校生が出来る場所でもあるからな」

 

「うん、そうだよね—————やっぱりここは、僕らにとって特別だ」

 

 

二人が今後のことについて話していると、高瀬と的場、夏目、的場、八雲がやってきた。どうやら、スポーツ紙の雑誌を持ってきているようだ。

 

「さすがの活躍だな、青葉、駆。ヴィクトリーの持田相手の股抜きは痺れたぞ」

 

日本代表のエースと目されていた持田を手玉に取ったあのプレーに注目するのは高瀬。ここしかない場所にピンポイントにパスを出せるテクニックはさすがの一言だ。

 

「俺なら決められたな、あれは。青葉なら必ず通してくる、俺たちフォワードは、その確率に全部をかけなきゃいけねぇし」

そして夏目は、あのフォワードではなくあそこに自分がいれば決められたと言い放つ。判断が遅く、飛び出すタイミングも遅れていた。つまり、まだ青葉を信頼しきれていなかったのだ。

 

「いい心がけだよなぁ、うちのフォワード陣は。ああいう風に前線でファイトしてくれると、守り甲斐もあるってもんだぜ」

 

うんうんと頷くのは八雲。どうにも球際で必死さが感じられるものの、何か甘い雰囲気があると考えているようだ。何か甘い、それはメンタルなのか、技術なのかは分からない。しかし、ETUのサイドバックは何か悩みを抱えながらプレーする若手が多い印象がある。

 

「特にサイドは、サイドバックとサイドハーフの共同作業だからね。攻撃側と守備側も関係ない。二人でサイドを守らないと。少しだけ比重が違うだけの問題だよ」

 

「おっ、頼もしい発言ありがとうな、的場。これなら、俺もいい感じに攻撃も守備も思い切りできるぜ」

 

そしてサイドのコンビは何か盛り上がる。最近、プレー中もその後のミーティングでも、話し込む姿が見受けられる。

 

「でさぁ、駆はどう思ったの? 練習に参加しているし、ETUってやれそうなチームなのか?」

 

夏目としては、仲間が所属するクラブがどのくらいなのかが気になるのだ。相当問題があるようなら、やはり不満を口にせざるを得ない。

 

「技術はあると思うよ。でも、切り替えが下手かな、とは思う。何かに怯えている、つまり降格の恐怖と常に対峙しているような重い雰囲気、といえばいいのかな」

 

歯切れ悪そうな口調で語るのは駆。一部の選手、能天気な司令塔や、青葉をライバル視している右サイドの選手はそうではないと確実に言える。しかし、その他の選手はどこかしらに問題を抱えている。

 

「—————降格した後の地獄や、常に残留争いに巻き込まれる環境が、選手を萎縮させたのかもしれない。なんにせよ、この空気を変えなきゃいけないが、中々うまくいきそうもない」

 

ヴィクトリー戦で痛感した練習時と実戦時の違い。2点リードした後に同点に追いつかれる脆さ、ディフェンスラインが下がり、押し込まれる時間帯が続いたこと。

 

 

王者相手に隙を見せた中盤の時間帯。あれを何度もやられると、得点で取り返せなくなる。

 

「なんかさぁ、2点リードで安心するっていう空気があったよな? 攻めなきゃいけないヴィクトリーにボールを保持させるって、ちょっとまあ、問題だろ」

 

俺なら、裏抜けで致命傷の追加点を奪ってやるけどな、と鼻息の荒い夏目。勝手に相手を過大評価して、ビビッてラインを下げた。

 

青葉と駆は知らないことだが、試合中に黒田と飛鳥が何度も意見を交わすシーンがあった。しかし結局ラインは下がり、同点に追いつかれて修正されたのだ。

 

「けど、監督は何か試験的な起用が多いな。選手たちに実感させるつもりなのか、見極めているのか」

 

なお、FC札幌戦は学業の為にベンチ外の青葉と駆。引き続き、飛鳥はスタメン入りを果たし、相方は亀井。達海監督は積極的に若手を起用し、シーズンを見据えた戦いを模索しているように見えた。

 

ベンチ入りメンバーには

 

GK  1番 緑川

RSB22番 石浜

CB 27番 亀井

CB 29番 飛鳥

LSB16番 清川

CMF 7番 椿

CMF 6番 村越

RMF15番 赤﨑

LMF21番 矢野

OMF 8番 堀田

CFW 9番 堺

 

控え 

GK 23番 佐野

DF 14番 丹波(SH)、3番 杉江(CB)

MF 10番 ジーノ(OMF) 、24番 住田(CMF)

FW 25番 宮野(FW)

 

 

大幅にメンバーを入れ替えた監督達海猛。ベテランの堺の動きはキャンプ中も準備を怠らず、調子をキープしている。一方、途中出場でいい動きを見せている宮野は開幕入りへアピールなるか。トップ下には堀田。王子不在を考慮した陣形か。DF陣は飛鳥を除いたメンバーを総入れ替え。特に2戦連続スターターの飛鳥は開幕内定とみられる。

 

動きがなかったのは、ボランチ。ヴィクトリー戦で先制ゴールを決めた椿は引き続きスターター。村越も先発入り。この組み合わせも開幕の予想メンバーの一部なのだろう。

 

そして昨シーズンから不動レギュラーだった杉江が二戦連続でベンチメンバーに。控えキーパーの佐野は仕方ないにしても、2戦連続ベンチ入り、かつ出番なしの起用が続いている。

 

ベンチ外

GK  31番 湯沢

DF  12番 鈴木(CB,SB) 5番 石神(RSB) 2番 黒田(CB)

26番 小林(CB) 、4番 熊田(LSB)

MF   28番 広井(SH) 13番 向井(CB)

FW   18番 上田(FW) 、20番 世良

19番 逢沢(学業の為)17番 宮水(学業の為)

 

 

 

試合は前半、引いて守る札幌に対し、ボールキープするETUという展開に。そのETUはルーキーコンビの代役ともいえる矢野と赤﨑が起点となり、攻撃を組み立てるがなかなかうまくいかない。

 

しかし、前半の27分。中盤のこぼれ球をカットし、縦に仕掛けた椿が左サイドからオーバーラップした清川にスルーパス。中に絞った矢野の空いたスペースをよく見ていたのだ。

 

このプレーが起因となり、堺がクロスボールに頭で合わせ、ETUが先制に成功。この後、前半は椿が攻守で上下に動き回り、ボールが集まりだしていく。

 

 

「足速いな。この選手」

 

「青葉並、とはいかないが、日本人では十分俊足に入る部類だ」

 

夏目は、中央でいいプレーを連発させている椿が、この試合でチームを活性化させていると感じていた。

 

「けど、ヴィクトリー戦も途中までは良かったよな? ファウルした後ガタガタになったけど」

 

「なんかムラがあるんだよなぁ、あの選手。ハマった時は凄いけど」

 

その後も、プレーの質が落ちず、椿はこの試合でキーパスを幾度となく供給するのだ。しかし、左サイド、右サイドのカットインがなかなか決まらず、クロスを放り込む単調な攻撃になってしまっている。

 

「あの右サイド、なんか視野が狭くないか?」

 

「クロスを誰に合わせるのか、タイミングも単調で、リズムがなぁ。それ言うならまともなクロスを入れられない左はもっとやばいが」

 

そして、ディフェンスラインのギャップを狙われるETU。センターバックの飛鳥がラインコントロールをしていたのだが、右サイドの石浜が上がり切れておらず、ロングボールで縦一本を取られたのだ。一転して大ピンチに陥るのだが、キーパー緑川がクロスボールを跳ね返し、セーフティにラインの外にボールをはじき出した。

 

「おいおい!! 飛鳥が何度も指示出していただろ、これ!」

 

「ちょっと飛鳥が指示しきれなかったのか? いや、飛鳥がそんなミスをするはずがない」

 

「事実、右サイドだけラインが低かった。それに、球際も負けていた。札幌はここに付け込むだろうな」

 

そのまま札幌ペースで前半は終了。リードしているとはいえ、内容が次第に悪くなるETU。後半開始直後も右サイドを狙い撃ちされ続ける為、監督達海猛は動く。

 

右サイド石浜に代えて、丹波がIN。ディフェンスの交代はあまり見たことがないが、それを実行する辺り、我慢の限界といえるのだろう。

 

さらに、攻撃の一工夫を入れる為、ジーノと堀田が交代。

 

 

「ダメだ、持ち過ぎだ、ザキさん!!」

 

「そこはクロスの方が————あっ!!」

 

思わず声をあげてしまう青葉と駆。

 

右サイド赤﨑の個人技の突破を止められ、ボールを奪われて逆にカウンター。前のめりになっていたETUがピンチを迎える。

 

またしても縦パスを通され、村越がチェイシングするが追いつけず、振り切られる。そのままドリブルで切り込んでくる相手選手ではあった。

 

しかしここで飛鳥のフォアチェックからのプレス。冷静に距離を詰め、簡単にボールを奪い返す。相手選手はファウルをアピールするが、

 

「小汚いマリーシアは通用しないぞ、本場はもっと上手い」

 

「スピードもフィジカルも判断力も全部負けてて、飛鳥さんを嵌めようなんて、烏滸がましいよ」

 

辛辣な口調の二人。特に駆の言葉はとても印象的だ。

 

そして、飛鳥はラインを上げるよう指示し、そのまま自陣深くからセンターサークル付近までビルドアップ。鮮やかなドリブル、ディフェンダーとは思えないようなテクニックで、10番ジーノにボールを通したのだ。

 

それを見た椿は全速力でデコイ。それに釣られ一枚削られた札幌はジーノへのチェックが遅れる。堺が開きながら位置取りをし直し、

 

彼の視界にコースが生まれる。

 

 

「おっ!」

 

「通した!」

 

「キーパー一歩も動けず!!」

 

ジーノの追加点となるミドルシュートが決まり、札幌に傾きかけていた流れを取り戻すETU。パスと見せかけて、堺と椿のデコイが生んだ、ジーノの左足。

 

「やっぱり交代か、きょうのザキさんはらしくないな」

 

「視野が狭いというか、何か焦りがあるかも」

 

ここで、右サイドが交代。石浜に続いて赤﨑もベンチに下がることに。悔しさを露にする赤﨑だが、唇を噛んだままピッチを後にする。

 

代わって入ったのは、スピードが武器の宮野。ヴィクトリー戦でいい動きをしていただけに、目に見える結果が欲しいところ。

 

 

その後、焦りからミスが生まれる札幌のパスワークに襲い掛かった椿がボールをカット。椿のボールカットを予測していたベテラン堺が簡単に裏に抜け出し、椿も彼を見ていた。

 

堺が何とかシュートまで持ち込むも、キーパーのど正面で、弾かれる。

 

が、セカンドボールに詰めていたのは先ほど投入されたばかりの宮野。相手との距離を確認しつつ、冷静にトラップした直後、キーパーの逆を突くファーサイドにシュートを流し込み、得点。

 

ダメ押しとなる3点目を記録し、いきなり結果を出した宮野。

 

「ゴール前冷静だったな。零れてくる前に確認したからこそ、だな」

 

「うん。後キーパーの逆を突くところもよかったかも。あれは良いと思う」

 

そしてここで、最後のカードを切る達海。左サイド矢野に代わって住田を投入。試合を完全にクローズし、札幌に反撃を許さずタイムアップ。

 

プレシーズンマッチ2連勝と開幕にいい弾みをつけたETU。攻守でチームに貢献した椿、途中出場で結果を出した宮野、先制点のアシストを記録した清川は勿論、攻撃面ではジーノ、苦しい時間帯でハードワークしていた村越もよかったと言える。

 

何よりも重要なのは、飛鳥の出来具合だ。外国人選手との間合いをすぐに学習し、競り合いを制すようになっている。事実、デュエル回数は7回もあったが、その全てで相手選手を止めている。ロートルとはいえ、相手は実績のある助っ人選手だ。飛鳥の読みの深さが勝った形となった。

 

余談だが、飛鳥曰く「青葉と駆を相手にする方が難しい」と同僚らに零していた。

 

「無失点こそ記録したけど、ベストゲームというわけではなかったかな。飛鳥が手綱を握らないと、全体的に下がる傾向にあるし」

 

「ジーノさん、プレシーズンでも一度だけアリバイ作りましょうよ」

 

ETUはリードしていると下がる傾向にある。だが、展開力と保持する技術が低いチームでは、相手チームに押し込まれる状況を招く。

 

「キヨさんのクロスがいい感じだな。もっと要求してみるべきか」

 

逆サイドの大外を狙う精度も十分見込める清川のクロスボール。折り返してサイドチェンジで相手を揺さぶり、スペースを見つける。これも戦術の一つとしてはいいかもしれない。

 

「外で見るとチームメートのプレーもイメージしやすいね。もしかして達海さんはこれを見越してスギさんをベンチに入れたのかも」

 

守備の要であり、キャンプ中もいい動きをしていただけに、彼に対する起用は不可解ともいえた。しかし、駆の予期した通りなら、達海は相当な信頼を杉江に寄せているのだろう。

 

「ところで、新入生はどんなのが来そうなんだ?」

気になるのは江ノ島の新戦力。青葉と駆が抜けた後、今年で引退する主力組に代わる戦力はいるのかという話だ。

 

「埼玉から有望な一年が来るって話だ。キーパーも地元で有名な大型選手が来るって話だったぜ。後は、地元、県外のユースに上がれなかった選手とか」

 

埼玉から来るのは2名。なんでも二人は幼馴染だという。後、マリナーズジュニア所属のウィング。そして、サイドバックの選手が来るらしい。

 

「埼玉かぁ。それに、ジュニアにいた選手なら、ある程度できるし、昇格できなかった悔しさを当てにできる」

 

ユースから代表になれる選手もいなくはない。しかし、球際やここぞの時に結果を出せる選手が多いのは、昇格できなかった選手のイメージが強い青葉。

 

「ところで、その目玉って言える埼玉の奴はどんな選手なんだ?」

 

「昔はとんでもなく上手かったらしいけど、大けがをしたとかなんとか。まあ、状況判断の速い選手ってのは、岩城さんの話だ」

 

 

「なるほどな。正直会って話がしてみたいと思うよ。ジュニアの時、一学年下にとんでもない子がいたと、楓も言っていたしな」

 

少年サッカー時代、海外試合の経験がなかった青葉は、その男の事情を知らない。一学年下に活きの良いフォワードがいたというが、浦和ジュニアユースに入団して以降、あまり話を聞かないという。

 

「————確か、久世————久世竜彦だったな。もしかすればプロで会えるかもしれないな」

 

 

「兄ちゃんも確かそんな名前の選手がいたと言っていたかも。後、世界大会の時凄かったって話、たぶん名前は—————名前は、一条龍! 一条龍だよ、青葉!」

 

 

「一条龍? そういえば、埼玉で有名になっていた天才サッカー少年だったな」

夏目はその時試合を見ていたという。まるで逢沢駆がいたかのような技術の高さだったと。

 

 

しかし、彼が消えると同時に活躍をし始めた青葉にはあまり印象の残らない存在でもあった。

 

————早熟の天才が早々に消えるのは何も珍しいことではない。彼はもう一度這い上がろうとしているんだな

 

 

しかし、噂を聞けば聞くほどいい選手だということは理解できた。

 

 

「なるほどな。奴がいれば、江ノ島もあと3年は安泰だろう」

青葉は、江ノ島が有望な選手を見つけられたと安堵していた。

 

「俺らのことはスルーかよ」

八雲がニヤニヤしながら突っかかる。そんなに入る前の選手を評価しないでくれと。

 

「何言っているんだ? 連覇するんだろう? 今年も」

 

青葉としては、2年間は勝てると踏んでいた。蹴球の勢いは完全に鳴りを潜め、獲得競争に敗れた鎌学と葉陰。まるで上積みが感じられなかった選手権での各都道府県のライバル。

 

逆に未来の日本代表の選手層が心配になるほどだ。

 

「ところで、やっぱり開幕は内定なの? 二人とも」

 

ここで的場が本題に入る。果たして彼らは開幕メンバーに内定できるのかを。

 

「結果は出したつもりだよ。うん、入れるようトレーニングするだけかな」

 

「開幕戦で磐田を叩いて、弾みをつけないとな。駆は田辺選手という日本代表が相手だと思う。いきなりアピールできる機会が出てきたぞ」

 

日本代表に対して挑戦的な言い方。事実、相対すれば青葉は99パーセントの確率で彼を抜き去ることが出来ると断言できる。残り1パーセントは自分のミス。それ以外は万に一つ負ける要素がないと確信できた。

 

—————栗澤さん以降、まともな右サイドバックが出てきていないな

 

ETU不動の右サイドバックにして、世界のトップスコアラーと渡り合った栗澤の後釜に苦労している日本代表。これが晩年お荷物クラブといわれたチームから生まれた奇跡。

 

クロスボールに定評があるらしいが、ディフェンスは今一つ。

 

 

一方、江ノ島高校に進学することが決まった新入生の動きは様々だった。

 

 

横浜マリナーズユースへの昇格が叶わなかった矢沢和成。彼はユースを経てのトップ昇格を狙っていたが夢破れて、プロに一番近い高校とさえ言われ始めた江ノ島の門をたたいたのだ。

 

————ここには、あの宮水青葉がいるんだ。それに、逢沢駆も

 

あれほどの逸材を獲得した江ノ島と、その環境下で急激な成長を遂げた逢沢駆。他にも全国クラスのレギュラーがひしめく層の厚さ。

 

————絶対に成り上がって、プロになってやる!

 

矢沢少年の野望はめらめらと燃え上がる。ETUとのルートが開通したこの高校のコネを使えば、結果を出した先に道は開けると。

 

 

 

そして、埼玉から神奈川へと移り住むことになる不運の天才、一条龍。そしてその幼馴染の青梅優人。一条のポジションは二列目のアタッカーだ。そして青梅のポジションはサイドバック。どちらも運動量が豊富な選手だ。

 

「凄い勢いだよね、江ノ島高校って。高校1年生にして選手権で最多得点を記録した逢沢駆に、世代最強のプレーヤー、宮水青葉。そしてその影響を受けたほかの選手たち。レベルが高そうだよ」

 

青梅が最初は臆するような江ノ島の選手層の厚さ。サイドバックには不動のレギュラー八雲がいる。大学進学が濃厚な彼は、すでに争奪戦が開始されている。

 

攻撃陣には空中要塞にして足元も向上した高瀬、ドリブラー的場に、新進気鋭のフォワード夏目。司令塔荒木に、織田と堀川のダブルボランチ。他にも、1年で力をつけた成り上がりを狙う他の選手たち。

 

プロという世界が身近になったことで、チームは限りなく活性化していた。

 

「ああ。けどやっぱりやりがいはある場所だと思うぞ。プロへの最短距離。ここで活躍して竜彦に追いつくんだ」

 

ユーゴスラヴィア連邦出身の名監督だったミルコのアドバイスとその伝手を頼り、岩城監督と会うことが出来た。

 

——————僕は君達選手に、まずはサッカーを好きになってもらうことが大事だと思っているんだ

 

サッカーを楽しむこと。思えば練習風景も単に声を出すのではなく、指示を伝えあったり、他者とのズレを修正するためにコミュニケーションが絶えなかった。

 

————そしてその上で、サッカーで成り上がるつもりなら、大きな目標を持ってほしい。浮足立たず、驕らず、堂々とその夢を目指してほしい

 

青葉や駆に影響され、もっとレベルを上げたいと願う選手たちに溢れていた。

 

————僕もまさか、ユーゴの名伯楽と会えるとは思わなかったよ。そして君は彼に見込まれた才能ある選手だともね

 

 

岩城との邂逅を思い出した一条は、入学後が楽しみで仕方なかった。

 

「一緒にプレーできる機会は訪れなかったけど、高校サッカーで一度だけでもやりたかったな」

あの状況判断の速さと個の力。そして世代最速といわれるその加速力。縦に早いサッカーの申し子といっても過言ではない。

 

あのミルコでさえ、驚愕するほどの選手。「まさかのこの時代に、ロナウドを見るとは考えていなかった」と絶句したほどだ。

 

彼よりも厄介なのは、視野の広さとそのパスの精度。クロスボールは既に世界標準レベルを超えている。

 

「龍ちゃんが目指す展開の速いサッカーには、これ以上ないほどの選手だよね。江ノ島もリアクションもポゼッションも、臨機応変に変化するし、相当レベル高いよ」

 

走力面と戦術面で、高いレベルを要求される強豪校。多少下手でも戦術を理解すれば勝てるというサッカー。自分のやるべき仕事を持ち、それ以外も伸ばすことを咎めない。

 

「まあな。けど優人。俺のサッカーじゃなくて、江ノ島のサッカーだよ。それに、今の俺とあの人じゃ、レベルが違いすぎる」

 

「そ、そんなことないよ! 龍ちゃんだって中学で修羅場を経験したし、龍ちゃんは負けてない!」

 

うーん、と内心悩む一条。優人はどうなのかは知らないが、龍にとって青葉は高すぎる目標だ。今や現代日本サッカーの中で二列目の競争は最激戦区といっていい。ならば、圧倒的な個人能力を持ち、連携が出来る選手が優先される。

 

今の自分では青葉はおろか、他の選手にも劣ると。

 

そんな梅人の意気を宥めつつ、一条は話題を変える。

 

 

「けど、アンナまで入学することはなかったと思うんだけどなぁ。江ノ島にスケートリングは無かったろ?」

 

「あ、あはは……そ、そうだよね………」

苦笑の青梅と、首をかしげる一条。一体なぜそんな態度を取られるのか分からない彼と、幼馴染の鈍感さに頭を抱える青梅。

 

なお、神奈川市内のスケートリンクに通い、怪我を完治した後は目の覚めるような演技で日本代表候補に上り詰めることになる二人が話をする件の少女。

 

 

青葉と駆がプロへの階段を上りつつある中、江ノ島も新戦力を招くことで、今年も王座を奪いに行く体勢は取れていた。

 




変化するチームの中で生き残れる存在と弾かれる存在。それはリーグ終了後にはっきりするでしょう。その前に夏の移籍期間も今年は多くの変化を齎すかも。


そして一般人にとっての青葉の論調はまだ「アマチュアで活躍した早熟の天才」

サッカー通は理解していても、一般人の青葉に対する評価は冷ややかなものです。
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