騎士見習いの立志伝 ~超常の名乗り~   作:傍観者改め、介入者

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今回のアジア選手権は残念でしたね・・・・・




第五十六話 落選と決意と

—————その実力は本物か、新世代ドリブラー、宮水青葉

 

 

—————鉄壁広島守備陣を翻弄。史上初、高校生Jリーガー、二戦連発の快挙

 

 

 

ETUの周囲は爆発的な速さで騒がしくなる。ひっきりなしに電話が鳴る時間帯も発生し、開幕前に取材をしたいと申し出ていたサッカージャーナリストの藤澤記者は、自分がほんの少し先に目をつけておいてよかったと考えていた。

 

 

今や伝説とさえ言われる開幕戦の逆転勝利に続く、第二節での圧勝劇。その立役者たる彼に出会うことが出来たのだ。

 

 

「なんだか落ち着きますね。城之内さんにインタビューするときと同じ雰囲気で助かります」

終始笑顔の青葉。メディア嫌いといわれている彼との邂逅に多少の覚悟を持っていた彼女ではあったが、目の前にいたのは人懐っこい笑顔を見せる青年だった。

 

「そう言っていただいて何よりですわ。選手の感情を悪くしたくはありませんし、それがコンディションに影響するのは私も避けたいことですから」

 

 

その後もインタビューは続く。宮水選手のルーツ、その過程。怪物誕生のきっかけとは何か。驚くほどに自分を開示してくれる彼に対し、戸惑いを感じつつも順調なので気にしないでおく。

 

「糸守町での山間トレーニング、大自然の中で培われた足腰が、今の宮水選手を培っている、そういうことですね」

 

「ええ。あの町でボールを蹴り続けたこと、走り続けたことは、僕にとっては当たり前の事でしたが、あれは大きかったと思います」

 

「ま、トレーニングしたいとかではなくて、山の中でうまくいかなかったから、上手くなろうとしていただけなんですけどね」

 

俺って、結構負けず嫌いというか、頑固なところがあるみたいで、と苦笑いする青葉。

 

彼がサッカーを始めたのは物心ついた時。そして、彼の才能が開くきっかけを作ったのは、なでしこの新世代エース、小野寺颯。

 

彼女の高い技術を吸収した彼は、岐阜県下に名を轟かす選手に成長した。その後、江ノ島高校で逢沢駆と運命的な出会いを果たし、彼とともに伝説の一年を駆け抜けた。

 

現在は彼と共にETUに入団を果たし、開幕戦で揃って活躍し、第二節でも共にゴールを決めている。

 

下手なサッカー漫画よりもエピソード満載な彼の過去を、変にいじることはしたくない藤澤は、記事に乗せる内容を彼に説明しつつ、すり合わせを行っていく。

 

「正直すり合わせをしてくれるのはありがたいです。俺のコメントを無視するとか、勝手に捻じ曲げる人が多すぎたので」

 

ニコニコ顔の青葉。しかし、言葉の内容は少し笑えないブラックジョークが散りばめられていた。しかし、当然の反応だと彼女は思う。

 

親友が追っかけファンに、腕に痣が出来るほど強く掴まれたこと、ただ騒ぎたい連中が許せなく、感情的になったこと。

 

どことなくメディアに対して冷めている印象を持っているのは、父親への偏った記事も影響しているのではないだろうか。

 

そうなのだ。彼はサッカーだけで有名になったわけではない。彼はあの奇跡の町、糸守町の住民だったのだ。

 

予測は不可能で、その避難は絶望的とさえ言われた彗星落下事件。全世界で注目された奇跡の脱出劇の全容は、未だに正確な情報が出ていない。

 

 

謎の変電所での爆発事故による停電、それは糸守町に飛来した彗星の破片ではないかというのが専門家の指摘だった。彗星が近づくことで、列島が歓迎ムードだった中、当時の町長だった彼の父親は、避難訓練と称して町の住民を退避させた。

 

矢面に現在立っている彼だが、彼の家族は町に伝わる糸守神社の宮水神社の神職の家系であったこともあり、何かを隠しているのではないかとさえ言われている。

 

当時高校生だった長女がその日は町の危機を知らせるような、危ないから避難するよう走り回っていたという情報もあった。

 

巫女の立ち位置にいた彼女こそが、彗星落下の災厄を知り、父親に知らせたのではないかと。

 

その後彼は、一気に機を掴んだのか、飛騨市の市長となっている。手腕も堅実で、都市の再開発の計画を効率的に進め、町の活性化が進む。同時に、奇跡の脱出劇でのカリスマ的な人気も集まっており、全国で注目を集める時の人となっている。

 

それでいて、その出来事で驕る要素もない。

 

「—————第三節清水戦での意気込みについて、これは別にコメントのある無しで大した影響はありませんけど—————」

どうせなら、次の試合での意気込みも何となく聞いておこうかと思った藤澤。当たり障りのないコメントでも最後の締めに活用できるだろうと考えていた。

 

「敢えて言わせてもらう、といったら?」

 

その言葉に反応した時、並々ならぬ熱意が一気に湧き出たかのように表情が変わる青葉。

 

「というと?」

 

「全部変えたい。達海監督がただ勢いのある若手監督でないこと。そして、監督は裏切り者なんかじゃないってこと。僕は自分の最大限の力でタイトル奪取に貢献するだけ」

 

若気の至りなのかもしれない。その発言は危ういものだった。達海監督が裏切り者であるという状況は、低迷期の直前で脱出するかのような移籍で信憑性が出てしまっている。

 

対する清水も、蛯名監督という清水一筋のたたき上げが監督であり、異常なほどに煽りが沸き起こっていた。

 

昨年5位の清水は、蛯名の下でいいサッカーを見せていた。当然ETUは彼らからすれば取りこぼしたくない相手だろう。

 

 

激しい闘争心、逆風に対する攻撃性。それは奇しくも、東京ヴィクトリーの持田を連想させる雰囲気が、彼からはにじみ出ていた。

 

だが、彼の想いの源泉は、エゴではない。

 

「名門清水が相手だろうと、相手がどこだろうと関係ない。自分にできる最大限のパフォーマンスをすることで、チームを勝利に導く。今の僕が一番考えているのは、それだけです」

 

 

このチームを勝たせるのだという強い忠誠心。一体彼の心境に何があったのか。藤澤は、すり合わせを行い、当たり障りのないコメントでどうにか青葉を納得させ、混乱を起こさないよう苦心するのだった。

 

 

その夜、青葉は練習を終え、明日が休日ということもあり、クラブハウスに一泊するつもりで部屋を借りていた。それはどうやら駆も同じであり、鹿賀コーチと話し合う場面があった。

 

「鹿賀コーチは、確かポルトガル語が出来ると聞きました。練習の合間でもいいので、僕に教えてくれませんか?」

 

「え? いや、そんな若者はもっと他の時間に—————」

 

「いいんです。スペインで待っている人がいる。ならせめて、あの国の言葉と同系統の言葉はマスターしたいんです」

 

真剣な瞳で頼み込む駆。自分が今スペイン語とポルトガル語に混乱している現状と、将来スペインに渡りたいと考えている意思を伝え、なんとかしたいのだと意気込みを語る。

 

「わ、わかった。だが、練習の合間だぞ」

 

「はい!」

 

 

そうして、駆は自室に戻っていったのだった。そんな様子を見て、笑みを浮かべる青葉。

 

「お、いたのか、宮水。まったく、見ていたのならこっちにも来てもよかったんだぞ」

 

 

「いえ、俺も駆も、凄い恵まれているなと、思ったんです」

笑みを絶やさない青葉に対し、何か違和感を覚える鹿賀コーチ。チームへの愛情を持っている選手の一人だとは思うが、何かここ最近は入れ込み過ぎな気がする。

 

「謙虚さは時に卑屈さにもつながる。お前はもっと自信を持っていいんだぞ、青葉。開幕からチームを牽引する活躍、プレッシャーをかけるつもりはないが、今後も怪我無く活躍してくれよ」

 

 

「はいっ!」

 

 

「青葉君~! 君の部屋の事なんだけど、布団とベッド、どっちがいいかしら?」

 

その時、有里が青葉を呼ぶ声が聞こえたので、彼はそのまま彼女の下へと向かう。

 

「呼ばれているみたいなので、行きますね。お疲れ様です、鹿賀コーチ」

 

「ああ、お疲れ様、青葉」

 

その背中は、出会った時よりも大きく見えたのは、気のせいだろうか。

 

そして数日後の3月20日がついに訪れ、青葉と駆、飛鳥の世界挑戦の機会がどうなるかという局面。メディアはこぞって彼らの選出を期待していたが、

 

GK 真弓慎一郎(福岡) 相馬元気(鳥栖) 水野邦夫(名古屋)

 

ゴールキーパーは守護神の真弓が軸となるだろう。相馬と水野も徐々に出場機会を増やしており、今シーズン飛躍の年になりそうだ。

 

DF 飛鳥亨(ETU) 中条渉(岡山)  城達哉(讃岐) 赤間弓彦(讃岐) 

幕張健吾(湘南) 沖名太陽(山形) 井口譲二(浦和) 本田マイケル(明治) 

 

ETUからはDFが一名選出された。飛鳥亨はこの世代の要であり、やはり当確。他の選手もJ2ながらプレー時間が豊富な選手が多く、岡山からは右SB中条、讃岐からCB城、左SB赤間が選出された。J1ながら、主力として活躍が期待されている山形の左SB沖名も選出。浦和に所属するCB井口は、この試合での活躍を勢いに、出場機会を広げられるか。なお、唯一の大学生として、本田マイケルが選ばれた。これはサプライズといえるだろう。

 

中でも注目は世代最高の右SBといわれる湘南の幕張健吾。昨シーズンからブレイクし、J1昇格の原動力と目される存在感があり、ドリブルしながらの高速クロスが持ち味。速い展開ではうってつけの選手だ。

 

MF 安川走斗(千葉) 伊達直哉(仙台) 工藤春雄(岐阜) 榎本文人(新潟) 

石渡翔悟(仙台) 清武周人(大阪C) 

 

MFの核はやはりJ2仙台の石渡だろう。このチームの司令塔に君臨し、チームに勝利を導けるか。同じくJ2からは清武と伊達が選出。J1からは榎本、安川が選出された。チーム唯一のJ3から選出の工藤は、今夏に移籍の噂が絶えない大型ボランチである。複数のポジションでプレーできる選手が集まる傾向にある。

 

FW 小川良知(磐田) 秋本直樹(横浜)  九鬼鉄心(大宮)

鷹匠瑛(浦和) 宮水青葉(ETU) 堂本貴史(フローニンゲン)

 

注目のCFWには鷹匠、秋本が選出され、高卒組が目立つ攻撃陣。そして昨年秋から定着した堂本は右ウィングとして突破力が武器のレフティーの選手だ。ミドルレンジからのシュートとカットインが武器の選手。その控えとして新進気鋭の宮水が選出された。開幕戦で揃ってゴールを挙げる等、国内で絶好調の16歳が大抜擢。現エースと目される堂本相手に、割って入れるか。

 

そして、左ウィングのレギュラーであった小川と争うのは、大宮の九鬼。技巧派といわれるパサーとしての側面と、足元の上手さは小川を凌ぎ、タイプの違う左の選手を使い分けたいところ。

 

 

これで、U20の代表が出そろい、残念ながら逢沢駆は落選となってしまう。

 

「——————————————」

悔しさを隠せない逢沢。沈黙したままである。しかしその二枠を争うのは、磐田で近年頭角を出し始めている小川であり、その彼と張り合う今冬海外移籍濃厚な大宮の九鬼である。実績も実力も違い、両者は海外からすでに注目をされているのだ。

 

16歳にしては別格程度では、青葉のような目に見えるインパクトがなければ選出されない。

 

 

何より、このチームは小川と堂本、榎本のチームとさえ言われているのだ。割って入った青葉が異常なだけなのだ。

 

「まあ、そんなに甘くはないってことですよね」

振り絞るように言葉を出した駆。しかし、もう彼は切り替えているように見えた。

 

「まだ五輪がある。そして、リーグ戦に出られる。僕はそこで全力を尽くすだけです」

 

 

その後、飛鳥と青葉が4月の2試合を出られなくなることが決定し、チームは一段と気を引き締めるのだった。

 

 

 

そして試合前日の練習では、左サイドの清川と青葉が話し込んでいた。

 

「キヨさんのクロスボールを見込んで、頼みがあるんです。もし、逆サイドにスペースがあれば、厳しめでもいいので蹴りこんでください。必ず追いつきます」

 

 

「あ、ああ。お前の足の速さは凄いけど、なんでまた? ジーノやコシさん、椿だっているだろ?」

 

 

「サイドバックがもっと戦術的に、視野の広いプレーが出来れば、それは相手にとっての脅威です。キヨさんのクロスボールを札幌とのプレシーズンで見た時から、いつか話したいと考えていたんです。無論、キヨさんが思うところにボールを出せばいいと思いますが」

 

「おう、わかったぜ。ま、いつも出せるわけじゃないけど、時折な」

 

ゴールデンルーキーに自分のクロスを評価されていた。そのことに少し自信を持った清川。確約は出来ないが、出来る時は狙うと宣言したのだ。

 

「あ、青葉! 僕もジーノさんと位置取りを考えてクロスの選択肢を増やしたいと思うんだ! ちょっといいかな?」

 

「君の芸術的なクロスボールも注目の的なのさ、青葉」

 

青葉が逆サイドとの連携について、ジーノを交えてすり合わせを行う。線で結ばれつつあるチームの連携に好感触を持ち始めた駆。

 

「あ、それとなんだか左足が張っているんだ。次のトップ下は君に任せてもいいかな、駆」

 

「信じ始めた矢先にこれですか、ジーノさん!!」

 

なお、第3節ジーノの欠場が決まってしまう。駆はお冠だった。

 

 

その頃、守備陣の間では、黒田と飛鳥で戦術の折り合いがつかなかった。

 

「ですから、ボランチのいる中盤が間延びするのは、僕らが下がり過ぎるのが原因の一つなんです。もっとコンパクトに中盤でボールを奪うには、息を合わせる必要があるんです」

 

前での守備、それが重要だと飛鳥は言う。

 

「なら攻撃陣に全員に守備意識を植え付けさせろよ。ジーノは守備しねぇし、赤﨑の野郎は上がりっぱなしだしよ! 青葉クラスに守れとは言わねぇけどよ。もっと形を見せろってんだ」

 

実戦形式の練習でも、攻撃でアピールすることに躍起になっている赤﨑は、対面の駆に簡単に突破を許していた。フォローに入る黒田ではあったが、その後の切り替えも遅い赤﨑に怒号を繰り返した数は数えることが出来ない。

 

対照的に右サイドハーフで効果的なポジショニングによる位置取りを行う青葉は、石浜の競り負け以外にピンチを作らせない。逆に言えば石浜は戦術に追いつけずにいた。

 

—————あんな広島戦の守備を見れば、レベルの違いは明白だ。けどよ、学べよ、盗めよ。他の若手は!

 

宮野だけじゃないか。サイドハーフで青葉の守備の意図を理解しているのは。黒田は激怒していた。

 

 

というより、黒田の目から見れば、サイドバックも難なくこなせる青葉が異常だった。攻撃の選手でありながら、守備能力も高い。ETUの選手の中で、頭一つ突き出ている。

 

 

—————すり合わせが必要です。監督、攻撃陣、守備陣。板挟みになっている中盤も

 

冷静に、飛鳥はそう言い放った。中盤というリンクマンが瓦解すれば、このチームは容易く崩壊する。少なくとも、守備陣は何度も直接的に相手の波状攻撃にさらされるだろう。

 

真剣にこのチームの戦術を心配する飛鳥は心強い。しかし、ここで妥協してはならない。達海の言っていた攻撃の為の守備と、CBから始まる攻撃の意識に関して、黒田は新たな領域であるとかなり意気込んでいた。

 

攻撃のタレントばかりが目立つ日本サッカーではありえない。達海は後ろを重要視していた。在籍するCBにはその意識が徹底され、能力を向上させる必要があると。

 

連動する守備が崩壊すれば、後ろにかかる負担はデカくなる。まず負けないためには、全員の選手の守備の意識を変える必要があると考えていた。

 

 

 

そして速報ではあるが、ジーノが第3節で欠場というのが決定した。控えのトップ下である堀田がセカンドチョイスかと思われたが、ジーノが駆を強く推す。しかし、ここは経験に勝る堀田が入ることに。そして、第3節は疲れが見える逢沢に代わり、丹波が入る。

 

そして注目の右サイドは赤﨑が入ることに。久々の先発を勝ち取った赤崎がこぶしを握り締め、ガッツポーズ。

 

右サイドバックは、石神が入り、石浜はベンチ外に。右サイドの入れ替わりが激しくなっている。

 

 

そして、注目はボランチ。椿と宮水のダブルボランチという布陣になった。最後尾は小林と飛鳥。2戦すべてにフル出場の杉江を休ませ、第2節で活躍した飛鳥をそのまま先発させ、相方に小林を起用した達海。小林はこれがリーグ戦今季初先発。キーパーは不動の緑川。

 

そして注目のワントップは堺。2戦連続でフル出場の世良は、ビハインド、同点の際の後半のジョーカー起用が匂わされ、ベンチ入り。その達海は、堀田との相性がいい堺を先発させ、両脇にベテランと若手を起用。ボランチは俊足自慢二人を起用。中盤からのビルドアップがどちらも出来る。

 

村越も年齢を加味し、今節はベンチ入り。

 

GK  1番 緑川

RSB 5番 石神

CB 29番 飛鳥

CB 26番 小林

LSB16番 清川

CMF 7番 椿

CMF17番 宮水

RMF15番 赤﨑

LMF14番 丹波

OMF 8番 堀田

CFW 9番 堺

 

控え 

GK 23番 佐野

DF  3番 杉江(CB) 4番 熊田(LSB)

MF  6番 村越

FW 25番 宮野 20番 世良

 

ベンチ外

GK  31番 湯沢

DF  12番 鈴木(CB,SB)  22番 石浜(RSB) 27番 亀井(CB)

     2番 黒田

MF  28番 広井(SH) 13番 向井(CB) 10番 ジーノ

24番 住田(CMF) 21番 矢野(SH)  19番 逢沢

FW  18番 上田(FW) 、 

 

 

 

東京台東区浅草、町田市、八王子市では、開幕から勝ち点を積み重ねることで次第に客足が多くなっていく。

 

ルーキーの宮水青葉、逢沢駆、飛鳥亨だけではない。

 

昨年まで燻っていた若手選手がブレイクの予感を見せ始めている。特に世良は、現在得点ランキングトップタイ。あの宮水と並んで一位なのだ。

 

続く2位タイに、逢沢駆の2得点。1得点にミスターETU村越、ボランチの椿と続いている。

 

ここまで2試合で得点数は、何と10得点。異次元の数値をたたき出している。その圧倒的な攻撃力は、昨年得点数ナンバーワンの大阪ガンナーズが霞むほどだ。

 

なお、攻撃力というお株を奪われた大阪ガンナーズの監督ダルファーは、この状況に悔しさを見せていたとか。

 

 

そして第三節。達海はボランチ青葉という奇策を以て、これまでメディアに見せたことのない戦術を披露したのだ。

 

「おおっ!! 飛鳥が連続でスターター! 貫禄がついてきたな!!」

 

「相方には小林!! ようやくチャンスがやってきたか!!」

 

ETU通のファンからは、飛鳥と好連係を見せているとの情報がある小林のスタメンに色めく。

 

「ダブルボランチに椿と宮水!? ともに俊足揃いだが、どういう戦術なんだ?」

 

「ついに赤崎の出番きたぁぁ!!! やはり赤崎を使うための戦術なのか!?」

 

「堺も久々先発だ!! 流動的だが、堀田とのホットラインもちゃんと考慮している点はいいな!!」

 

 

しかしジーノ、逢沢、村越がスタメンではないことが気がかりな面もいる。

 

「まあ、逢沢の3戦連続はないか。2試合ともフル出場だったし。けど、それを考えると宮水凄いな」

 

「まあ、歩く時間も多いからな。宮水は。運動量豊富な印象もあるけど、しっかり試合中に休んでいるし」

 

「村越さんも年齢を加味してのベンチか。ジーノはやる気か?」

 

 

強豪清水との一戦を前に、両チームの監督が出てくる。

 

「久しぶりエビさん。清水で頑張っているみたいだね」

 

「はっ、そう言うてめぇこそ、イングランドで結果を出したみてぇだな」

イングランドで監督をしていたという情報は既に出回っている。ゆえに、蛯名は油断などしない。

 

「まあね。中々楽しかったよ」

 

 

「相変わらず、スカした野郎だな、てめぇは。だがここは日本だ。これ以上お前にでかい顔なんてさせねぇからな」

 

 

「ふーん。ま、やれることはやらせてもらうぜ、エビさん」

淡々と話す達海。あまり興味がなさそうだし、試合のことに集中している。

 

 

「————本当にスカした野郎だな。だがその余裕、試合後まで持つのか?」

 

どこまでも挑発的な蝦名。負けず嫌いの達海らしくない。ここで売り言葉や買い言葉を出してくるのが過去の達海だった。

 

だが——————

 

 

「選手の頑張り次第だよ。俺は、あいつらの背中を押す。それだけ」

 

 

そう言い残し、達海はその場を後にしてベンチへと去っていく。

 

 

 

どことなく冷静な達海の様子に蛯名は闘争心をさらにかき立てる。そして、スタメンが流動的なETUの選手起用に疑問を抱きつつあった。

 

固定されているのは、ボランチの椿とキーパーの緑川。そして左サイドバックの清川。3戦連続のスタメンとはいえ、ボランチ起用の宮水。

 

ジーノがベンチ入りどころか、外されていることも影響しているのか。練習で試していたであろうダブルボランチの名に、椿と宮水というのが不穏なのだ。

 

—————ただ守備的に言って感じじゃなさそうだな。恐らく、宮水のビルドアップはスイッチだ

 

 

攻撃時に宮水は飛び出してくる。彼は確実に攻撃のキーマンであり、ETUのキーマンなのだ。

 

 

 

 

「————————————————————へぇ」

 

そのキーマンは、うっかり達海と、”よくわからない五月蠅そうな人間”の会話をはっきりと聞いていた。

 

 

「あの、青葉君? なんか顔が怖い」

 

隣にいた椿が、能面のような表情になっている青葉にビビる。

 

 

「———————見てくださいよ、椿さん。あいつらの目。降格候補がいきがっているとしか見てないですよ」

 

 

序盤だけの勢い。すぐに対応されて負けが先行すると思われている眼だ。それは選手だけではない。サポーターも同じだった。

 

 

毎年降格候補の、集客率だけが取り柄の、サッカー以外で工夫を見せているお荷物クラブ。

 

 

それが、清水の下したETUへの評価だった。

 

「————————っ」

 

そして椿も少しムッとした顔になる。自分たちを勝ちの計算に入れている。温厚でチキンな彼でも怒ることはある。自分が変わるきっかけになった、ジャイアントキリングの夢。

 

 

こんな自分を応援してくれている彼女の前で、無様な姿は見せたくない。

 

 

 

「———————俺たちは、達海さんを道化にするためにここにいるんじゃない。優勝クラブの監督にすためにここにいるんだ」

 

 

 

激突する闘志。その渦中で背番号17は凍えるような暗い闘志を見せていた。

 

 

 

 

 

試合は序盤からハイプレスの清水が襲い掛かる構図。一直線にブロックが雪崩のように迫ってくる。特にホルダーに関しては当りがきついものがある。

 

しかし、

 

「このっ(このルーキー、プレスを躱す勇気があるのかよ、この位置で)!!」

 

 

最後尾に戻されたボールを受け取った飛鳥が、前線からプレスにやってきた大谷を躱す。反転してのターンから前を向いて縦パス。あまりの早業に大谷も驚愕する。

 

サッカーを始めたころからCBをやり続けた飛鳥。攻撃のポジションにコンバートするべきという話もあったが、彼は未だにこのポジションでプレーしている。

 

そして、注目のキーマン、宮水にボールが渡る。

 

「好きにさせるな!! 17番には絶対にいい形を作らせるな!!」

 

しかし、簡単に右にはたいた青葉。人数を詰めてくる瞬間にパスを出す狡猾さがここで威力を発揮する。

 

—————サポートしろよ、椿

 

右サイドには久々先発の赤﨑。一気にチャンスになった展開で、ドリブルを仕掛ける。

 

————このチャンスで活躍できなきゃ、海外移籍とか夢のまた夢だろ!!

 

「甘過ぎだぜ、甘ちゃんが!!」

 

 

しかし、相手サイドバックに止められてしまう。スライディングが深く、ボールはピッチに出てしまう。

 

「くそっ!!」

 

苛立ちを隠せない赤﨑。しかしマイボール。すぐに位置取りをし直す。しかし、清水の寄せが早くドリブルのスペースがない。

 

「ちぃ!!」

 

赤﨑は仕方なく横に展開しようとする。横にサポートに入った椿にボールを渡そうとするが、

 

「あっ!」

椿の前に割り込んだ背番号7の浦田がボールをカット。赤﨑のパスは読まれていたのだ。

 

しかし、その浦田の動きさえ完璧に読んでいた存在がいた。

 

「これでカウ————がっ!?」

 

横からのタックルでボールをロストした日本代表。浦田は日本代表期待の一人であり、日本代表にその才能を見出された選手の一人だった。

 

 

だが、ボールを奪った瞬間の空白を彼が狙っていることに気づけなかった。

 

 

『おっと、ここで奪い合いを制したのはETU!! ボランチ青葉がボールを奪い一気にスピードアップ!!』

 

椿はそのまま三列目からサポートし、堀田との連携が光る。未だに清水の運動量は落ちず、すぐに人数をかけてきたのだ。

 

青葉の縦パスを受け取った堀田がワンツーを狙う動きを見せる。このままスピードアップした青葉へのリターンは防ぐ必要がある。ゆえに、清水はまだETUの組織力を甘く見ていたのだ。

 

 

「なっ!!」

 

堀田がここで切り返して、相手選手を躱したのだ。ワンツーと見せかけてのドリブル。

 

青葉の動きはデコイだったのだ。このプレーにより、青葉に三人が釣れた。清水のブロックが崩れたのだ。

 

「なっ!! 寄せろぉぉ!!」

 

蛯名が声をかけるが、すぐに立て直しがきかない。堀田のドリブルがバイタルエリアまで到達し、何でもできる状況。

 

 

—————いけるか、お前ら?

 

堺と、丹波と目が合う堀田。ベテランらしい息の合ったコンビがさく裂する。

 

堺がここで左に流れる。まるで堀田にドリブルコースを開く様に。そして堺の動きに相手選手が釣られ、目の前の堀田に視線が集中する展開で、堀田の選択肢はフライボールだった。

 

堺に釣りだされた背後を突くスペースに走りこんでいたのは、丹波。攻撃的な三人目の動き。ボールウォッチャーに成り果てた清水の守備。

 

偏り始める清水のブロック。左へと集まる比重が、右に大きな空白を作ることに他ならない。

 

しかし、ここで堺が抜け出してニアサイドに飛び出してきたのだ。もうここでの選択肢は一択だ。

 

『左サイドからいいボールがきたァァァ!!! あっとキーパー上川弾いた!! 好セーブを見せます!!』

 

 

しかし角度のない場所から撃ったヘディングシュートを弾かれてしまう。相手もプロだ。やはり一筋縄ではいかない。

 

何とかこぼれ球を抑え込んだ上川がロングフィードでカウンターを狙う。しかし————

 

 

『大谷潰されたァァァ!! あっとプレーオン! ファウルはありません!!』

 

 

裏を狙った大谷が簡単に飛鳥に潰される。一対一の局面で五輪代表を封殺するルーキー。またしてもETUが組み立て始めるという局面からスタートする。

 

そして今度は椿がボールを受け取り、青葉に預けてスイッチ。ここまで来ると今日の試合は本当にボランチのプレーしかしないのだと思われても仕方ない。

 

 

「なんか今日の宮水はおとなしいな。もう少し突破できるところもあったはずなのに」

 

 

「清水のカバーリングはいつもより早い。なんだかんだ警戒されているよ」

 

 

「そりゃあ、真ん中だからなぁ。あれだけ人が集まれば……あっ」

 

 

サポーターも気づき始める青葉への異様なマーク。そして前半からのハードワーク。ボールを早く捌く青葉。

 

 

そして躍動する他の選手たち。

 

 

この試合の背番号17は、ETUへ確実に、確定的な勝利を齎すことに全力を尽くしていた。

 

 

相手に反撃の機会など与えない。試合前に威勢のいい言葉で達海を挑発していた蝦名の言葉をしっかりと聞いていた。

 

 

—————全部変えてやる。論調も、悪評も。

 

 

自分の論調などどうでもいい。ただ、クラブやチームメート、何より憧れだった監督を貶める奴を、

 

 

「——————許さない。絶対に認めさせてやる」

 

目の前で自分を青二才と見下ろしている清水のキャプテンを見て、逆に思考が研ぎ澄まされていくのだった。

 

 

 

 

 




青二才と言われるのも仕方ない、沸点の低い青葉君。

なお、逆ギレせずプレーの質が向上する模様。
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