騎士見習いの立志伝 ~超常の名乗り~   作:傍観者改め、介入者

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遅れましたが、清水戦決着です。


第五十七話 奴は何者だ

何か一歩下がった位置でプレーし続けている宮水青葉。サイドアタッカーでは魅せていた積極性がこの試合ではまだ見られない。

 

 

それを観客席から見つめるのはジャーナリストの藤澤。あれほどの啖呵を切った彼らしくないプレーぶりに、違和感を覚える。

 

「——————攻撃的ではないわね。一体どうして—————」

 

「おそらく、まずは清水の勢いを完全に消し去るのが仕事なのだろう」

 

横にいるのは、ジャーナリストで記者の城之内。彼の目から見ても、攻撃では存在感が今一つだが、一対一では—————

 

『あっとボール取れない! またしても中盤でパスが繋がりません、清水!! 何か清水はリズムをつかみ切れていませんが、宮水選手のチェックは圧が凄いのでしょうか』

 

パスがずれてETUのスローイングへと切り替わる。スルーパスを狙った攻撃がかみ合わない。青葉の方は常に周りを見るために首を振り続けている。その為に、パスコースを絞らせ、相手の失敗を誘発しているのだ。

 

しかし、強引なパスを選択しなければ、パスが青葉の足に届いてしまう。それは即座に青葉に自由を与え、決定機の危険性を生むことになる。

 

『恐ろしいですね。あの間合いから必ず届くと信じている。相手選手にとってみればプレッシャーですよ。』

 

青葉の守りは至ってシンプルだ。サイドに相手を追いやり時間を稼ぐ。しかしその単純な指示はそう簡単ではない。相手の切り返しを警戒したうえでのこのプレーは、実力が試される。

 

 

そして、しびれを切らしたキャプテンの背番号10の深田が仕掛ける。

 

————こんな残留争いのチームなんぞに、躓いてられるかよ!!

 

 

フィジカルを活かしての突破。手を使って青葉を制し、無理やりにでも突破を仕掛ける。

 

が、ダメ。ボールと体の間に入れられたので、あっさりと奪われてしまう。仕掛けた瞬間の予測地点を、おそらく青葉は深田よりも把握していたのだ。

 

最短距離で一気に距離を詰め、タイミングよくボールを刈り取る。まるで江ノ島のボールハンター、堀川の動きに類似していた。

 

————くそがっ!!

 

ここで潰す。このまま前を向かせるつもりはないと、ファウル覚悟でスライディングを仕掛ける。

 

————そういうのはリカルドで飽きたよ

 

見下ろすような瞳で深田の動きを察知し、スライディングの角度外の場所へとダブルタッチで横にスライドし、合気道オフェンスを使った手の使い方で、深田をあらぬ方向へと横転させる。

 

「がっ!」

 

お尻から地面に激突した深田は悶絶し、横たわる。が、プレーオン。青葉はファウルを犯したわけではない。あくまで深田が勝手にバランスを崩したことになっているのだ。

 

あまりの早業。掴みかかり、ファウルまがいのスライディングを仕掛けたために、仮にわかっていてもファウルにはなりにくい事例だった。ゆえに、このプレーはセーフだ。

 

「ガミさん!」

 

そしてオーバーラップしてきた石神にボールを渡し、右サイドで連携を取りに来る。

 

————赤﨑か!? 

 

相手選手はフリーになっている赤﨑を警戒する。そして青葉もまた赤﨑の方を向いていた。

 

狙いは赤﨑からのワンツー、もしくは赤崎のドリブルだと感じたのだ。ほぼすべての視線が石神と赤﨑に注がれるという状況。

 

青葉の仕草や目線一つで、清水の視線が誘導されていた。

 

 

マークを完全に外した青葉が中に切れ込み、石神はフリーの状態の彼へとパスを送る。躊躇いなくその選択しを選んだのだ。

 

「っ!」

 

サイドから仕掛ける流れだったが、赤﨑にボールは通らない。しかし裏を突くフリーランニングで切り替え、相手を一人つり出す。青葉の方はここでスローダウンし、動きが緩慢になる。

 

————ここは期待のルーキーに任せてみるか

 

石神ここで赤﨑へのパスをフェイク。即座に中央で突然動き出した青葉がフリーとなり、ターンしながらトラップの段階で相手を一人剥がしてしまう。

 

————なっ、ここは高校サッカーじゃねぇんだぞ、ルーキーッ!!

 

だが、それでも一合では躱しきれない。プロの意地が青葉の前に立ちはだかる。しかし、

 

『シュートフェイク切り返し!? 切り返さない!? あっと宗方倒れたっ!!』

 

その鋭い切り返し、青葉ならここで交わしてくるだろうと頃までは予測していた宗方。だが、アウトサイドでトラップしてのストップ・フェイクは予測できず、重心が崩れた彼は勝手に崩壊した。

 

—————馬鹿なっ、こいつには——————

 

宗方は、心の中でうめいた。宮水青葉の目は、未来でも見えているというのかと。

 

一方、青葉はそんな意識はなく重心を崩して壁を一枚剥がしただけ。そんな高度なことは考えていない。

 

 

相手選手は自分の背後である縦を意識していた。中央には堺と堀田。枚数は揃っている状態。だが、青葉相手にはその瞬間でボールを取らなければ意味がない。

 

どちらでも得点機を生むことが出来る彼には、そんな守備では通用しない。

 

————セーフティなディフェンス。エリア付近だと警戒もするか。

 

そして堀田と堺が青葉の為に中央を開ける。広がる壁、複数見出すことが出来たシュートコース。

 

 

「コース塞げ!! シュートを打たせるな!!」

 

そして、そんな脆弱な壁の中でも強引にシュートモーションに入る青葉。彼のミドルシュートは強烈で、その弾道は伸び上がるように襲い掛かる傾向が強い。

 

だから、ジャンプしながら身をさらけ出した選手を責めるのは間違いだ。事実、さらけ出さなければ、ミドルを打たれ、即死だったのだから。

 

青葉は不利の速いモーションから考えられない柔らかいパスを繰り出したのだ。キックの精度に柔らかさがあり、PA内でのスルーパス。零れ球へのセカンドボールを狙っていた堺がオフサイドにかからず、青葉は彼の動きを見ていたのだ。

 

————このタイミングでこのパスを出せるのか、お前は

 

プレゼントパスを受け取った堺のダイレクトシュートが、ゴールネットに吸い込まれ、長い笛が吹かれる。

 

『シュートモーションからパス!? 振り抜いたぁァァァ!!! ETU先制!! 決めたのはベテランの堺!! 先発起用に応える見事な先制弾を叩き込みました!!』

 

『技ありのパスですね。堺選手の動きまで見えている視野の広さ。冷静でしたね』

 

『前半の17分! ついにこじ開けました!!』

 

ゴール前での憎らしいほどの冷静さ。そして、中盤で見せる守備能力の高さ。

 

 

清水の前にルーキーが大きな壁として立ちはだかっている。

 

「うぉぉぉぉ!!! またしても先制点はこの男から!!」

 

「渋いパスだったなぁ、今のは!! 堺もよく叩き込んだ!!」

 

「ちょっとやそっとじゃ止まらねぇぞ!! これは!!」

 

湧き上がるETUの観客席。ブラインドからのラストパスに合わせた堺が見事だった。先に選択肢に飛びついた、清水の負けだったのだ。

 

 

その後、青葉は味方を活かすようなスルーパスやロングフィードを見せる。色々な姿でチームに貢献する彼は、まさにポリバレントといえる。

 

プレーの幅が広く、選択も適切。恐ろしい男である。

 

 

椿の飛び出しを見逃さない点もさすがだった。堀田との好連係を見せ、強めのボールをスペースに蹴りこむも、それは直前堀田からのパスを受け取った際に動き始めた椿を見ていたからだ。

 

 

ゆえに、スピードに乗った椿は一気に清水ディフェンスを切り裂き—————

 

『こぼれ球、押し込む、あっとキャッチィィィ!!!! ゴール前のこぼれ球! よく防ぎましたキーパーの上川!!』

 

 

『椿選手の抜け出しを見ていた堀田選手と宮水選手の崩しから、最後は堺選手。零れ球を押し込むまではよかったですね。しかし上川が一枚上手でした』

 

 

中盤の突き抜けた選手がいる。こうなると、もう戦術がどうこうのレベルではない。そんな選手がパスワークに積極的に参加し、容赦なく穴を突いてくるのだ。

 

前半は、清水のプレスをあざ笑うかのようなパス回しを貫き、1点リードで終えるETU。明らかに清水の選手を走らせることに特化したパス回し。

 

対する清水はボールを奪わなければならない局面。どうしても前に出なければならない。が、常に堺がライン際で駆け引きをするせいで、あがり切ることが出来ない。

 

ゆえに、手数が足りないのだ。大谷が完全に封殺されている状況が絶望的だった。

 

そして、このチームのキャプテンである深田は、急造ボランチの青葉に、格の違いを思い知らされている。

 

 

後半、達海がなぜこの布陣で臨んだ真の意味が姿を現す。

 

堀田にボールが渡った瞬間、両サイドから椿と宮水が飛び出したのだ。堀田にチェックに行くのか、それとも二人をマークするのか、意思疎通がはっきりしない清水。

 

 

————そうか、これは4-2-3-1なんかじゃない!!

 

蛯名は、またしても変則的にシステムを変えてきた達海に戦慄を覚えた。

 

これは、4-2-3-1ではなく、4-1-4-1であるということを。

 

 

前半で印象付けていた堀田のトップ下はフェイク。彼は後半アンカーになったのだ。そして三列目にいた椿と宮水が一気にスピードアップ。

 

椿と宮水はボランチではなく、インサイドハーフ。もしくはCMF的な立ち位置だ。

 

元々ジーノ対策で4-3-2-1のクリスマスツリーの陣形で臨むつもりだったが、ジーノは欠場。システムを変更し、4-1-3-2で戦いを挑んだ。しかし、堀田のサポートに常にスピードのある椿と宮水が控える状況。

 

数的優位を活かした速いプレスでボールを狩る魂胆は、この二人の選手の脅威で鈍る。

 

プレスを掻い潜られた瞬間、ボランチの二人が上がってくるという恐怖。堀田は見せかけのトップ下。つまりデコイだったのだ。そして相手のプレッシャーが下がれば攻撃参加するというアンカーともいえる存在。

 

故に清水は、ボールの狩り所を失ったのだ。

 

 

3列目という場所に機動力のある椿と宮水を置き、サイドが互いにマッチアップする中、フォワード陣二人が堀田にチェックを行うも、三列目の椿か宮水に頼ればいいのだ。この二人は単独で切り込む能力があり、止められてもすぐさま反応できる。

 

清水の速いプレスは効力を失い、ETUのペースになっていたのだ。すぐさま、SBを上げて、アンカーを下がらせ、中盤の人数を増やした清水ではあったが、

 

 

悪夢のような時間帯はまだ続く。後半早々、キャプテンの深田が青葉に狙われており、簡単にボールを奪われてしまう。

 

そしてそのまま一気にスピードアップ。だんだんと間延びしてきたスペースを狙われ、右サイドにボールを振る。

 

—————折り返せば!!!

 

赤﨑はここで相手を一人切り返しで躱し、マイナス気味のグランダーの速いボールを入れたのだ。そこに詰めていたのは三列目から上がってきた椿。

 

—————ここだっ!!

 

ダイレクトに振り抜いたシュートは枠内を捉えていたが————————

 

『折り返してッ、椿のミドルシュートぉぉぉぉ!!! あっとここも上川弾いたァァァ!!』

 

 

「っ!!」

横っ飛びで弾き、椿のシュートを防いだ清水の守護神。あれだけ崩されてもなお、まだ堅い守備を見せる清水はあきらめない。

 

そしてそのセカンドボールを拾うのは飛鳥。大胆に前に出て、大谷との競り合いで勝利し、前を向いてすぐ、大谷のプレスよりも早くにロングボールを蹴ったのだ。

 

 

—————このっ! ほんとに高校2年生かこいつ!!

 

CBの細野は、いつの間にか右寄りの中に入り込んできた青葉とマッチアップを強いられる。しかし、手でブロックされながらの胸トラップを防ぐことが出来ず、青葉は逆サイドを向いていた。

 

ここでパスを展開されるのもまずい。細野は前にプレッシャーをかける。

 

トンっ、

 

胸トラップからのプレーは、ピッチの時間を止めるようなものだった。

 

前に来るプレッシャーの増した細野を、合気道オフェンスでつり出し、彼の想定以上に前に出させたのだ。細野は狩るべき青葉を通り過ぎ、青葉はその同時期に左足でトラップし、フライボールで背後を突いたのだ。

 

ここでシャペウ。中に切り込むと見せかけての外へとターンしながらの前を向く。そして——————

 

 

「なっ!? キーパーっ!!」

 

蛯名が叫ぶ。細野は完全に崩されたのだ。慌てて追い縋ろうとした細野だが、抜かれた時点で勝負は決まっていた。

 

 

アタッキングサードすぐ手前での一撃が、清水に突き刺さるのだ。

 

 

 

『胸トラップから浮かしてッ!! ボレェェェェシュートォォォォォ!!?? 突き刺したァァァぁ!! 後半13分!! ついに背番号17番が決めた!! 宮水青葉、今シーズン4得点目!! これで3試合連発!! 若武者の勢い止まらず!! ミドルレンジからハーフボレーで叩き込みました!!』

 

青葉のシュートコースはファーサイドのサイドネット。ニアを閉めていたキーパーをあざ笑う、技ありのシュートだった。キーパーが反応することすらできない。何より、アタッキングサードに入り込む手前でのシャペウ。クロスも、縦への突破もある中、上川の反応も遅れてしまっていた。

 

 

何より衝撃的なのは、右足のアウトサイドでファーサイドを狙う変態ぶりだろう。しっかりと腰をひねりながらのハーフボレーシュートは、誰もが予期していなかったコースを射抜いたのだ。

 

得意の左足でなくても驚異的なコントロールショットを見せつける彼は、ポリバレントな一面を見せた。

 

 

 

 

そんなスペシャルなゴールを奪われた上川は、先ほどまで鬼気迫るセービングを繰り返していたが、超常現象の個人技に屈したのだった。

 

——————あの姿勢からファーサイドを正確に狙い撃たれたら、間合いを詰めるのも—————

 

 

 

『いまのすごかったですよ!! 胸トラップから左足のフライボールで背後を突く、その発想だけでも凄いんですが、そのボールをボレーで叩き込む。技術の高さと、思い切りの良さが存分に出たシーンでした!』

 

「な—————っ」

 

「ばかな……」

 

清水の選手、監督はまるでストライカーのような動きを見せた青葉に驚愕する。信じられないプレーの幅の広さ。一体彼はどれだけの経験を積んでいるのだと。

 

ボールキープしてドリブル突破という選択もあったが、ダイレクトプレーで瞬く間に追加点を奪うルーキー。ゴール前での個人突破も伊達ではない。

 

 

そして距離を選ばない正真正銘の射程範囲を持つ逸材。

 

 

一流の選手は、どのポジションでも結果を出す。ボランチでのプレーに徹していた彼が、ここにきてCFW並のポストプレーを見せての得点を奪うことで、達海監督も苦笑いを浮かべる。

 

「な、何が起きたんでしょうか!? えっ、ボール、えっ、えっ? なんで入ったんだ今の」

隣の松原コーチは、信じられないプレーを見せつけられて混乱していた。

 

 

——————まっちゃん。味方が混乱してどうすんだよ………

 

 

 

 

 

「なんだよ、なんであんなことができるんだよ………」

 

清水のサポーターが失意の言葉を漏らす。絶句しているほかの面々もそうだろう。あのルーキーが入った途端に清水のディフェンスは翻弄されている。歯車があったかのように回り続けるETUを前に、悔しさしかない。

 

「これが、五輪入り、5月のU20ワールドカップの最強の切り札、その実力なのかよ————」

 

 

「さっきから大谷君もあっちのルーキーにやられてばかり—————意地を見せてよ、インパルスっ!!」

 

「くそっ、とにかくゴールを奪ってくれェェ!!」

 

 

 

 

パワープレーに切り替える清水ではあったが、赤﨑と交代で出てきた宮野に裏を突かれ、PKを献上してしまう。

 

『あっと倒されたァァァ!!! 審判ペナルティスポットを指さす!! ここでイエローカード!! CBのエディワルドにイエローカード、そしてETUのキッカーは宮野が蹴るようです』

 

 

 

ピッチ上では、

 

「ミヤちゃんが奪ったPKだよ。だったらミヤちゃんが決めるべきだよ」

 

「いい所見せてくださいよ、ミヤさん」

 

二人のボランチにはやし立てられ、緊張がなくなった宮野が落ち着いて決め、3点目。

 

 

その後フリーキックから1点を返されるも、勝敗は変わらず。開幕3連勝で若手監督対決を制したETU。

 

「ぐぬぬぬ—————」

 

悔しそうにする蛯名。しかし、試合後に魂が抜けたようになっている広島よりもはましだろう。初戦の大逆転負けから悪い流れを断ち切れず、悪夢の開幕3連敗中の磐田よりもましだろう。

 

「ま、最後詰めが甘かったがそれもご愛敬—————に出来ないのが監督だからな」

しかし上機嫌な達海。開幕からいい試合を作れていることに一定の評価を下しているのだ。

 

 

最後の場面はカード覚悟の小林のファウルでカウンターを寸前で防いだのだ。しかし、深田にフリーキックを決められてしまったので、小林の頑張りは報われなかった。

 

だが、青葉に代わって入った熊田が下がってプレーしてフォローに入ったことでCBもボールに強く迫ることが出来ていた。今後もアンカーが両CBをフォローできる陣形を維持できれば、失点を減らすことは出来るだろう。

 

 

様々な好材料と課題が見つかったが、一番大きいのは—————ジーノと村越、逢沢を欠く中での勝利だろう。

 

 

 

「おいお前、どうやってあの男を獲得できたんだよ。あいつはなんであそこまでできる?」

 

蛯名が言っているのは、宮水青葉の事だろう。16歳にして既にETUの要になりつつある怪物ルーキー。この試合は3点目を決めた後にピッチを後にするなど、余裕の采配を見せるETU。後は試合をクローズするだけなので、やり様はいくらでもあった。

 

 

 

「別に。あいつはこのチームに入りたいって言っていたらしいぜ」

 

なんでもなさそうに言う達海。青葉は自分の意志でETUに入るつもりだったのだと。彼は達海猛の選手時代に憧れを抱いていたことも影響しているのだろう。

 

「——————次の試合はジャパンカップ。次こそは勝たせてもらうからな」

 

 

「へぇ、ま、やってみなよ。リーグ戦で弾みをつけた相手ともう一度やれるのは、うちにとっても大きしいね」

 

この切り返しである。達海はニヤニヤしながら蛯名を煽る。こうして、ETUは好調をキープし、因縁のある不破元監督率いる名古屋グランパレス戦へと臨むことになる。

 

 

———————確かに、青葉のディフェンスに支えられたようなものだった。

 

青葉の安定感がチーム全体を活性化させていた。中盤でボールを捌きながら、決定的な場面でゴールを奪う。まるで誰かさんのようなプレーだった。

 

—————けど今のうちに、青葉のボランチをみんなに見せるべきだと判断した。

 

青葉のボランチとしてのプレーが、一つでも可能になれば、それは間違いなく戦力アップにつながる。ボランチのメンツも今の彼のプレーで刺激を受けただろう。

 

 

宮水青葉がどこでプレーするのか、それがチーム全体の緊張感を生み、変化を齎す。以前、彼のボランチは魅力的であるが、刺激が強すぎると感じていた。

 

きっとあの時のように依存対象になり得ると。だが、それは違ったのだ。

 

 

彼の一言一言が変化を促す。彼に憧れ、自分もと続く頼もしい若手、中堅が名乗りを上げてくる。今回の起用は若手CBを何とか育てたい達海の欲が出た布陣だった。

 

 

「———————」

 

試合中のベンチでは、熊田が青葉のプレーをずっと見続けていた。ボランチが本職の彼は彼のプレーを盗もうと集中していただろう。次の出番があれば、彼は必ずモチベーションを高い状態のままピッチに出ると。

 

 

結果、熊田は飛鳥と小林に勇気を与えるポジショニングを維持した。小林も失点を防ぎきれなかったが、思い切りの良さを見せてくれたのだ。

 

 

 

————————あいつの良いところはどんどん盗めよ、村越、熊田。

 

 

 

清水戦が終了し、その後の第4節を迎える前に、U20代表として飛鳥と宮水がチームを離れることになる。そして、それに選ばれなかった逢沢は、何となく美島に電話をかけていた。

 

「——————そう簡単に、とは思わなかったけど、ね。やっぱり悔しいかな」

 

「うん。でも駆のポジションには実績や実力のある人がいたものね……フローニンゲンの若き才能、堂本貴史選手。彼は外国人選手に競り負けないフィジカルがあるわ」

 

あの後、駆は彼のプレーを映像で見る機会があった。CLに出場した経験こそないが、ELでは強豪クラブとの試合を経験。U20の中で最も経験豊富といえる選手だろう。

 

他にもJ2ながら実績のある選手、磐田のエース小川の壁を乗り越えられなかった駆。

 

そして、さすがの青葉であっても、序列を崩すのは難しいだろう。青葉は堂本の控えとして呼ばれたのだ。

 

「でも、僕は負けない。絶対にこの序列を覆して見せる。背番号10番も、諦めない」

 

司令塔タイプでもあり、左でも仕掛けられるプレースタイルを持つ彼はポリバレントで、フィジカル自慢の堂本とは違う強みもあるだろう。だが、駆には確信があった。

 

————青葉は試合の流れを簡単に変える。その序列に安心する人なら、すぐに

 

意気込みを語る駆ではあったが、それを聞く美島は駆の最適なポジションは左サイドではない気がしてきていた。

 

————確かに、駆の運動量はサイドでプレーするのに問題ないわ。けれど、駆の嗅覚を活かすには、サイドでは十全に発揮できない

 

ゼロトップ、セカンドトップ。もしくはトップ下。逢沢駆は自分自身の力をまだ発揮できていない。

 

個人技が上手くなり、強引に突破できる機会も増えた。しかし、裏抜けや零れ球への反応、狭いエリアでの突破力。土壇場の反応はまだ見せつけられていない。

 

若き俊英の眠れる才能、他の技術を磨き続けたことで影を潜めた、彼が最初に会得した才能は、リーグ戦で再び目を覚ますのだろうか。

 

 

 




小林「くそっ、ファウル無しで止めていれば・・・・」

熊田「ペナルティエリア外なのでマシだろ?しかし、相手のfkが一枚上手だった」

堺「世良の野郎にはまだまだ負けるかよ」


宮水青葉、飛鳥亨。代表召集・・・・


達海「・・・・さて、どうするかなぁ」
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