騎士見習いの立志伝 ~超常の名乗り~   作:傍観者改め、介入者

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Q 制御できない力ってロマンある?

A 自分の力を制御できない感じが堪らないって、何それ、ただの間抜けな人じゃん!

とあるアニメで主人公を罵倒しながら発言したヒロインのお言葉である。


ぐうの音も出ないほどの正論だと思いました・・・・社会人になると特に

さて、話は本編に移り覚醒駆(半暴走状態)について。あとがきでちょっと補足しますね。





第六十一話 アンコントロール

相手を叩きのめすようなサッカーに変貌していた駆のスタイルに不安を覚えていたのは美島。

 

「駆—————今まであんな発想すらなかったのに—————」

何かに駆り立てられるかのような、焦りに似た感情が彼を狂わせているような気がするのだ。

 

今の駆は、反則でない限り考えられるすべての方法を模索して、選択する高性能なマシンに取りつかれているようなものだ。そこには感情の一切はない。ただ追い求めているだけなのだ。青葉に追いつくために、彼と並びたち、世界一となるために。

 

美島はそれに気づかない。

 

 

「—————あの瞬間、あの子は視線を誘導したわね。敢えて自分に視線を集中させたことで、相手CBを、倒れている選手に誘導した————やることがえげつないわ」

 

 

その策が成功した瞬間、相手は何の抵抗も出来ずに失点する。それを理解し、躊躇いなく行える冷静さ。日本人が持ち得てはならない狡猾さと容赦のなさを見せてしまった。

 

 

一色も、駆がそこまであくどい手を使うとは信じ難かった。真面目そうな子だったというのに、どこか南米の、もっと苛烈なスタイルが染みつくような動き。

 

 

「マリーシアどころじゃないわね。本当に叩きのめそうとしているわ。プレーで」

颯は、駆の雰囲気にある人物を連想していた。

 

それは、かつての宮水青葉。この世界に作り替えられる前の、孤独だった宮水青葉のプレースタイル。

 

現代フットボールの守備を完全に崩壊させる、フットボールの守備の基本を根底から打ち崩し、その強靭なフィジカルとスピードで超常現象を超えた超常現象と言われた存在。

 

フットボーラーなら一度は必ず夢見たことだろう。

 

—————怪我をしなかった超常現象

 

 

——————現代フットボールの知識を身に着けた超常現象

 

 

そんな可能性の世界で駆け抜けた男は20年以上、最高峰のリーグで結果を出し続けたのだ。そして彼の祖国は、彼を擁した時間の中で、栄冠を手にすることが出来なかった。

 

 

奇跡のような、チート染みた存在を手にしてなお、可能性の世界の日本は、栄冠に辿り着くことはなかったのだ。それほどまでに、日本は弱かったのだ。

 

そんな未来を知るのは、小野寺以外にいないのだが。

 

 

そして、彼女の前でその片鱗を感じさせる存在が誕生してしまった。

 

フィジカルも、スピードもすべて彼には届かない。しかし目の前にいる逢沢駆は、現代フットボールの守備を崩壊させる稀有なアビリティを、本能で行っていた。

 

 

その後も、ETUは勢い止まらず、この試合で駆が止まらない。カルロスと互角以上にマッチアップし、彼から始まる速攻を悉く封じ込める。

 

「————————」

 

 

「くっ」

 

————前半からまるでスイッチが入ったみたいに、この少年はおかしい。異様だ

 

 

仕方なく、サイドにボールを振るも、DMFでは上手く展開できない。しかし、中央の逢沢駆を放置することもできない。

 

不破監督は真ん中にいるだけで相手選手を委縮させる駆に恐怖していた。

 

—————なんなんだ。あの小僧は—————ッ

 

真ん中にいるだけで、一気に脅威度が増した駆が恐ろしいのだ。彼がいるだけで名古屋の十八番は封じられ、ペペに通るボールが格段に減少した。ロングボールで蹴りこんでも杉江がしっかりと対応し、チャンスを作れない。

 

 

そして、彼はハイボールを収めるのが上手いのだ。落下地点を見誤ったのか、下がる傾向にある駆に対し、相手選手が突っ込む。

 

————ハイボールならッ!!

 

だが、まるで押し出されるかのように手で制され、掴んでいたにもかかわらず、簡単にボールを収めてしまう。

 

そして右足でインアウト。姿勢を低くし、すり抜けるように右側を抜き去り、左手で向かってくる相手選手の力の向きを変え、背後に仕向けたのだ。

 

ここで合気道オフェンス。駆を潰すことが出来ない。なおも、前を向いてプレーする駆がバイタルエリアでパスを出したのだ。

 

「「!?」」

 

気づいた時には、駆け上がってきた椿が、駆の方向を向いてしまったキーパーの不意を突いてミドルレンジからシュートを放ったのだ。

 

『ここでパスをして、後ろから椿だぁァァァ!!! ETU追加点!! 決めたのは背番号7の椿!! 今期これで2点目!! 後半14分』

 

『今全員が逢沢選手に釣られましたね。スイッチした後のパス&ゴー。これが出来ると、自身もチャンスに関わりますからね。味方の動きをサポートすることもできます』

 

逢沢だけではなく、三列目の椿も脅威となり始めたために、ボールの取り所を掴むことが困難になり、ラインがズタズタにされ続ける名古屋。

 

杉江からのロングボールに抜け出した駆がフリーでフライボールを受ける。が、素早くカルロスがチェックに入る。

 

—————もうこれ以上好きにはさせな—————え?

 

 

胸トラップからのシャペウ。前に釣りだされたカルロスとさらに進む駆。カルロスが追い縋り、後ろからプレスを仕掛けようとした瞬間、

 

 

 

 

 

『浮かして躱した! あっと打ってきたぁァァァっぁ!!!!!』

 

 

 

カルロスの胸中は、一気に自分が思い浮かべる景色が、目の前の怪物によって塗り替えられる感覚を叩きつけられる。

 

 

————————こんな、こんなことが—————っ

 

 

 

 

その浮かしたボールを躊躇いなくボレーでシュートを打ち放ったのだ。まだゴールまで30メートルはあるような距離。しかし、ボールをこれ以上ないほどにミートさせた軌道は、

 

 

——————も、目測が—————ッ

 

 

そのボールは強烈なドライブ回転をしていたのだ。しかも、そのドライブがズレた状態でミートしているため、曲がりながら落ちるというキーパーにとって軌道を読みにくい早いシュートが襲い掛かってくる。

 

一見、博打ちのようなシュートだ。こんな距離からのシュート等、止められるに決まっている。そして、逢沢駆はキーパーが前に出ていたことを、シャペウの段階でチェックしていたのだ。

 

 

計算された一撃だが、出力は青葉には届かない。完ぺきに思えたコースに触れることが出来たキーパーの執念がここは駆のハットトリックを防いだのだ。

 

 

それでも、名古屋には駆から始まる攻撃を防ぎきることは出来ない。

 

 

 

 

『キーパーファインセーブ!!! しかし、零れ球ぁぁァァァ!!! ETU追加点!! 最後詰めていたのは世良! 後半20分、畳みかけます!!』

 

 

そうなのだ。駆は常にキーパーの隙を窺っていた。前半からボールの位置や状況によってキーパーの動く場所をチェックしていたのだ。ゴールから逆算し、ゴールを奪うための距離と方法を常に考えていたのだ。

 

 

そしてそのこぼれ球に対して、集中力を切らさなかった世良が最後押し込んだのだ。さらに言えば、駆があそこからシュートを狙う予感というものを世良は感じ取っていた。

 

 

———————まじかよ、本当に駆の奴、打ちやがった

 

 

本能に近い確信。それを信じて走りこんだ世良は、自分の感覚が間違っていなかったことを思い知る。椿も世良をサポートできる場所に走りこんでくるあたり、自分と同じように感じていたのだろう。

 

 

 

『エース襲名を狙う世良が決めた!! 後半の20分!! 世良選手の詰める動きもそうでしたが、その前のシュート! 凄かったですねぇ!』

 

 

『——————背中が凍るようなプレーでしたね。あんな距離で狙うなんて、在り得ない。在り得ないですよ——————こんな選手が出てしまうのか——————この時代は』

 

 

終わらない。名古屋にとっての悪夢は終わらない。

 

 

 

椿ではなく、逆の村越が出てきたことで不意を突かれた名古屋。中央で椿、駆ルートをケアしていた彼らの裏をかく、村越からのルートでボールを貰う駆。

 

そのまま前を向いて、右足でのシングルダブルタッチで円の間合いの外側を走り、相手の前に体を入れ、

 

最後の選手をヴァニシングターンで股下を転がし、またもや相手選手に膝をつかせる駆。そのままボールを流し込み、文字通り試合を決めた。

 

『パスを貰って前向いて、振り抜いたぁァァァ!!! 何と逢沢駆!! ハットトリック達成!!』

 

『何か後半の彼は覚醒していますね————ちょっと、これは止められないですよ。膝から崩れ落ちる選手と、ゴールを決める逢沢選手の構図は、何ともまあ、残酷ですね———これは』

 

 

『スタジアムを震撼させる絶技で、名古屋サポーターが静まり返ります!! 後半の34分! これで、リードを4点に広げます!』

 

 

だが、駆はまだ満足しない。

 

 

——————過去最高に調子がいい。

 

 

こんな万能感は初めて体感したのだ。もっともっと深く感じていたいと思うのは仕方のないことだ。これならこの試合であと3点は奪える。そんな確信染みた己惚れ、否、あまりにも確定した予想が駆を支配する。

 

 

 

だが—————————

 

 

駆の体から急にその感覚が失われていく。それと同時に、体が鉛のように重くなったのだ。そして立て続けに発生する頭痛。

 

 

「———————くっ」

 

 

一気に夢からさめたような万能感の喪失。そして、今までの比ではないほどの疲労感。体力にはそれなりに自信のあった駆が信じたくない現実がそこにあった。

 

 

 

 

————————潮時だな、あれだけのプレー。反動はやっぱりあるよな

 

 

ベンチで見ていた達海は、喜びを体現する余裕すらない駆の状態を見て、彼を下げる判断を決めた。達海ですら、数えるぐらいしか体感できなかった感覚を、駆は手にしてしまったのだろう。

 

 

———————————フロー体験、か。学術的に唱えられているとはいえ、体の出来ていないアイツには重すぎる切り札だな

 

 

ハットトリックを決めた直後、駆は疲労感の中自分の番号が最初の交代カードで表示されていることを目にした。

 

 

「え!? な、なんで!」

 

 

「ハットトリックを決めた選手を下げるの、達海!?」

 

 

「新記録塗り替えるかもしれなかったのに!」

 

 

 

「バカ野郎、一部リーグで最年少ハットトリックだぞ。お役御免だろ、今日は!」

 

 

 

そんな言葉を聞きながら、駆は淡々としていた。万能感の時の高揚は完全に消失し、今は自分が満足するパフォーマンスを発揮できないことを感じていたのだ。

 

 

————————なんだったんだろう、あの時の感覚は

 

 

まるで、鎌学戦の青葉のようなプレーを自分がやっていた。しかし、試合後彼はあまりにも元気で、今の自分のように体力が空になってはいなかった。

 

 

 

逢沢駆の不可解な状態と、達海の突然過ぎる交代カード。それを眺めていたジャーナリストの藤澤は、逢沢駆のハイパフォーマンスが原因であると推察した。

 

「人の処理能力の限界に迫るようなプレー。確かに逢沢選手は、ゾーン状態に入っていた…‥」

 

 

「そうっすね。調子が良かった、と一言で説明するのは無理がありますよね、今日の彼は」

 

 

しかし、あの状態に入ったら最後、逢沢駆はゾーン状態に振り回され、体力が尽きて強制終了するまで制御が効かないということになる。

 

 

高校生という体が出来ていない状態で、身を削るような能力は、むしろ彼の将来を閉ざしかねない。

 

 

「あの万能感を追い求め、自らの体を痛めつける、なんてことにならなければいいのだけど」

 

 

順風満々だった逢沢駆に訪れた、才能の誘惑。

 

 

手にすれば万能感を授け、限界までその力を行使する夢のような力は、自らの選手寿命を削りかねない。

 

 

そしてその才能の発現は、追い求めれば追い求めるほど、遠ざかっていくことを彼はまだ知らない。

 

 

 

 

試合の方は逢沢駆がいなくなり、反撃開始と行きたい名古屋だったが、彼らにはそこまでの力が残っていなかった。

 

 

ブラジル人トリオが孤軍奮闘するだけで、中々ゴールを奪えない。全ての攻撃が単発に終わり、きっかけが生まれない。

 

 

 

対照的にETUは、逢沢に代わって入った堀田が試合をクローズし、この点差のまま試合は終了。大方の下馬評を覆す、名古屋の大敗という形で終わったこの試合。やはり注目されるのは、この試合で一気に得点ランキング一位になった逢沢駆。

 

 

スコアは5対1。世良、椿のゴールに加えて、逢沢のハットトリックで名古屋を粉砕。

 

 

 

トップリーグでの最年少ハットトリックという大記録を打ち立てた逢沢駆。j2やj3といった下位カテゴリーでハットトリックを記録した若手選手は存在したが、今回のこれはそんなちょっとしたサプライズニュースではなく、日本サッカーを震撼させる歴史の1ページである。

 

 

あの達海猛でも、持田でも、花森でも、往年のレジェンド選手たちも—————そして宮水青葉でも成し遂げられなかった記録更新。数多のレジェンドたちの中でも限られたものしか挑戦できなかった記録破りの瞬間だった。

 

1993年に記録された松波選手のトップリーグ記録であった18歳11ヶ月30日を大幅に更新する最速記録となったのだ。16歳3ヶ月24日の新記録を成し遂げた逢沢駆の記録は、アンタッチャブルレコードと言われるようになる。

 

だからこそ、逢沢駆が日本サッカー史上、最も過酷な重圧と期待を背負う宿命を背負ったのは、間違いない。

 

 

かつての偉大な選手たちの物差しで、彼は今後試されることになる。そうなるだけの活躍をしてしまったのだ。

 

兄でさえ経験したことのない、かつてないプレッシャーを背負うことになった彼は、宮水青葉を超える期待と重圧を背負うことになる。

 

 

日本サッカーの今後を左右する存在として。

 

 

 

この第4節の無敗同士の対決は注目の集まるビッグマッチだった。どちらが先に黒星をつけられるのか、自慢の攻撃力を有するチーム同士の試合は撃ち合いになると予想された。

 

だが、結果はこれだ。逢沢選手という存在に呑まれ、名古屋は磐田同様ショックを引き摺り、下位に沈むシーズンを送ることになるだろう。

 

そんな未来さえ見えた今日の現実。

 

不破監督は会見を拒否。一方の達海監督も勝ったのに口数は少なく、まともなコメントを獲れなかったのだ。

 

 

強すぎる個性が魅せた、今回の試合。逢沢駆を取り巻く環境がまた変わっていく。

 

 

——————至宝覚醒!! 最年少ハットで、五輪&フル代表入りへ衝撃アピール!

 

 

——————最年少ハットトリックで得点王争いに名乗りを上げる!

 

 

—————トップリーグの記録を大幅更新!! 進化する至宝の勢い止まらず!

 

 

なお、近隣のアジアでは新たな難敵の誕生を警戒し、他のアジア地域では日本の至宝への期待するコメントが溢れていたりする。

 

欧州ではアンダー世代のドイツ相手に快勝劇を演じた日本代表逢沢傑(故)の弟というコメントも紹介され、兄を超える才能と結果を出した彼へのアプローチを強くするべきだとドイツ国内サポーターが騒ぎ始めた。

 

 

 

そして一方、U20日本代表に召集されていた宮水青葉も、アピールに成功どころではなく、衝撃的なデビューを飾っていた。

 

 

 

——————デビュー戦で1ゴール2アシスト!! 後半途中出場で流れを一変! コロンビア代表を圧倒!!

 

 

—————同点、決勝アシスト&ダメ押し弾!! エース小川との連携◎!! 宮水躍動!

 

 

—————西野采配的中!! 宮水ゼロトップで後半は一変!! 「彼のスピードがすべてを変えた」

 

 

U20日本代表であの男が躍動した。召集前まで得点ランキング一位の宮水青葉(16)が、日本代表の窮地を救う獅子奮迅の活躍。最後の強化試合であるコロンビア、チリとの二連戦で、現エースの小川と九鬼に続く宮水青葉の攻撃ユニットが結成されたのだ。

 

1対2で迎えた1点ビハインドの展開で、まずは自慢のドリブルでコロンビアディフェンスを翻弄。後半25分に起点となる突破で日本をまず同点に導く、小川の抜け出しを演出したスルーパスで、代表初アシストを記録。小川のゴールで同点に追いつく日本。

 

さらにその4分後、クラブではチームメイトのCB飛鳥のロングフィードに抜け出し、ゴール前での切り返しで、アトレティコ期待の若手CB、ネルソンを躱し、そのままシュート。新たな形で現れた宮水の俊足が活きた場面となった。

 

「全く、彼の体幹はブレていなかった。あの速度で急ブレーキして、次のプレーに移れる。あんな光景は欧州でも見たことがない」

 

試合後に、目の前で信じられないプレーを見せつけられたネルソンは語る。16歳という年齢がネックとさえ言われた怪物は、徐々にコロンビアにとって無視できない存在となっていく。

 

そのシュートは惜しくもクロスバーではあったが、その“未来”が近づきつつあることを知らしめるプレーだった。

 

 

そして、後半32分にその時が訪れる。サイドに流れた宮水は相手との間合いを測りながらバイタルエリアに侵入し、中に入ってきた小川(磐田)をデコイに使い、最後は九鬼(大宮)にラストパスを送り、勝ち越しゴールを演出する。

 

あの場面、複数の選択肢を作るような動き出しを見せた宮水。そのプレーがコロンビアに躊躇いを生み出し、急所を確実に射抜いたのだ。最後のラストパスもふわりと浮かせた優しいパスだったことも、彼がゴール前で冷静だったことを印象付けさせる。

 

同点、勝ち越しを狙うため、前に出ることを強いられたコロンビア。しかしそれこそが、ゼロトップ宮水という鬼札を出した西野監督の狙いだった。

 

広大なスペースへと送られたロングボールを当たり前のように収めた宮水がそのまま独走。ドリブルでダメ押しゴールを決める。危なげなく、簡単に決める姿に、一流の匂いすら醸し出す彼は、文字通りコロンビア反撃の気運を摘み取ったのだ。

 

 

続くチリ戦では出番がなかったものの、既存戦力筆頭の堂本、小川の両翼が得点を奪い、2対0で快勝。コロンビア戦での課題を修正し、クリーンシートを達成。

 

本選へのこれ以上ない弾みとなったが、この16歳のルーキーにはそういった思惑はかけらも見当たらない。

 

いきなり途中出場で結果を出したことについても、彼のコメントは冷静そのものだった。

 

「まだ僕はプロになったばかりで、先輩方のように実績も少ない。この結果に満足したくないし、もっとチームを助けるプレーを増やさないといけない」

 

代表に選ばれたことでさえ、冷静かと思いきや、その心に秘めるものは相当なものだった。

 

「何より、最初の大きなチャレンジを前に、自分自身とてもワクワクしているし、代表のユニフォームを着られたことは、自信になる」

 

「次も選ばれるよう、まずはクラブで調子をさらに上げて、本大会で監督に選ばれるよう精進したい」

 

 

 

相次ぐ日本サッカー界を揺るがすビッグニュースを生んだETUの二人の選手。長年夢物語でしかなかった快進撃に加えて、海外で、国内で実力を発揮する若手選手の存在は、古参のサポーターに戸惑いを与えた。

 

 

「朝起きたら、これが全部夢とかないだろうな」

しきりに頬をつねっているメンバー。これは夢ではない、と夢ではないと呪文のようにつぶやく。

 

「ポジる時にポジらないと、サポーターなんてやってられないぞ」

ハイライトのない目で、低迷時代を思い出す古参のサポーター。若いサポーターの背中をポンポンと優しくたたく。

 

「名古屋戦で、不破の野郎に一泡吹かせたし、宮水選手の活躍と、なんかもう回り過ぎてヤバイ、てか怖い」

 

 

「は、羽田さん!! おれ、どうすればいいんですか!? 喜びたいんすけど、なんか後々、なんかおこりそうで怖いんすけど!」

 

羽田の前に若いメンバーが本音を吐露する。

 

「選手が結果を出してんだ。それをしっかり認めて、さらに応援するだけだろ? 俺たちは選手を不安にさせないよう、今後も応援を続けるだけだ」

 

しかし羽田は落ち着いていた。内心相次ぐ彼らの活躍で嬉しい気持ちはある。しかし、その現実から逃げてはならない。これは彼らが頑張って勝ち取った結果なのだ。

 

「いい時も悪い時も、俺たちはずっとこの旗の下で団結してきた。選手たちも文句を言わずに戦い続けた。ユナイテッド・スカルズは、今後も選手を全力で応援する。そして、今はあの二人のことを誇りに思おうぜ」

 

だからこそ、変なファン層がちょっかいを出すことだけは防がないといけない。

 

 

数多のスポーツ界で活躍した選手がスキャンダルや連日の報道で潰されてきた過去がある。彼らは、逢沢駆と宮水青葉がその例に漏れない可能性もあるのではないかと。

 

特に、二人のエピソードは漫画の様なストリーが満載だ。マスコミが面白おかしくあること無いことを書き続ければ、コンディションやメンタルにも影響を与えかねない。

 

すでに逢沢駆のエピソードは江ノ島以前の話が拡散されており、その悲劇的なエピソードから立ち直り、現在の活躍に至る、お涙頂戴的な報道をされている。

 

 

 

宮水青葉も同様だ。駆ほどのビッグインパクトはないが、それでも期待の若手ということで、現在ETUのクラブハウスには取材の依頼が殺到しているという。

 

すでに非公式で逢沢駆のファンクラブまでできており、その影響は名古屋戦後、顕著となった。見知らぬ人間の善意と悪意を彼は目の当たりにするだろう。

 

 

 

混沌とする環境を前に逢沢駆は、自分が内包する制御できない才能に振り回されることになる。

 

 

 

 

二人の活躍で、人生が変わる人がいる。影響を受けた人がいる。

 

「全部偶然じゃないの? たまたまいい場所にいたから活躍してるように見えるだけ」

 

「もうラッキーという形ではないわ! コロンビア相手に縦横無尽の大活躍!! サッカーに疎いアンタも、最近名前をようやく彼の名前を覚えたわね!」

 

「あんまりにもうるさく言うから、覚えてしまったのよ」

 

どこかのサッカーの強豪では、にわかにすらなっていない少女に対し、浦和のサポーターの一人が熱心に解説していた。

 

 

「俺は、青葉とは違うクラブで、リーグに挑戦したい」

 

空中要塞は、彼とは違う道で、彼と対峙する未来を選んだ。選手権を一つの区切りと定めたのだ。

 

 

「俺は、そうだなぁ、語学を覚えて卒業と同時に海外に飛ぶかぁ」

 

 

魔術師は、苦難の道を選んだ。同じリーグでは、経験値は誤差の範囲内だ。ならば、最も厳しい場所で自分を磨くしかない。

 

 

「俺は、俺を一番評価したクラブに力を示すだけだ」

 

現主将は、最近海外からやってきたリチャードという名の代理人に接触を受けていた。彼は日本である選手に強く影響を受けたようで、織田が外国語を習得中ということを聞き、薄く笑みを浮かべていた。

 

「もちろん、日本人のその気質は評価しているけど、アンカー、CBでも戦えるそのフィジカルは、海外で重宝するものなんだ」

 

すでに総体出場をほぼ確実視されている江ノ島のキャプテン。彼は知るだろう。2年間の移籍禁止の縛りを受けている二人とは違い、早々に海外挑戦をしたことで体感した世界の進化を。

 

「織田先輩! さっきの人って、もしかして」

リチャードとの話し合いを終えた織田は、廊下にて後輩に出会う。

 

「ああ、どうやら海外の代理人らしいな。有名所で言えば、海外の有名選手は勿論、達海猛の移籍にも深くかかわっていた、なんていうが」

 

「そっか。来るんだなぁ、ここには。日本だけじゃない。海外への門も用意されているのか」

 

その後輩—————1年生にして、左サイドハーフのレギュラーを手にした一条龍は神妙な顔をしていた。

 

どうやら、他の若手選手への交渉をする合間に、織田に会いたかったらしい。青葉や逢沢不在の高校選抜に召集されていた彼は、リーグジャパンユース選抜相手にいいプレーを見せていたし、得意のフリーキックで得点を奪っている。

 

攻守で見せたクレバーなプレーは、得点に沸き立つギャラリーを尻目に、スカウトマンの評価を上げていた。

 

—————サッカーを知っている。江ノ島で彼よりもうまいプレーヤーはいるだろう。しかし、彼程試合の流れを読むことに長けた選手はいない

 

近い将来、中盤の底でプレーする彼がそこにいる。海外挑戦への興味を抱いていたと知るや否や、連絡先を教えたリチャードはそのまま次の交渉場所へと向かっていった。

 

織田との雑談を終えた一条は、こぶしを握り締める。怒りではない。自分ではなかなか開くことが出来なかった道が、活躍し続ければ開くという実感が、彼の感情を熱くさせた。

 

—————あの人の影響力を、これでもかと見せつけられるな

 

 

先日の試合で見せたコロンビアを圧倒した宮水先輩。日本サッカーの歴史を変えた逢沢先輩のハットトリック。

 

「——————悔しいな。ほんと、悔しい」

 

彼らと同学年でプレーできなかったことが悔しい。自分がまだプロでないことが悔しい。

 

————簡単に追いつく目標じゃ、面白くない。だからこそ、挑むんだ

 

 

一条龍は、左サイドで時々先発している安泰を捨てるつもりだった。求めるのはトップ下での先発。荒木からレギュラーを奪うことだった。

 

だが、

 

「本当に一流のプレーヤーは、どのポジションでも力を発揮できる」

 

ミルコの助言が、一条の暴走を食い止めた。トップ下という場所にこだわりを持っていた彼にとっては、目から鱗が落ちるような金言だった。

 

「若い時代から、ポジションを狭めるようなプレーをすれば、可能性が消えてしまう。本当にうまい選手は、そのポジションを理解し、その上で自分の強みを出せるんだ」

 

一条龍は高校生になったばかりだ。可能性を消すには早すぎる。色々な焦りを感じつつも、彼は自分が進むべき道を見出している。

 

—————そうじゃない。誰かにレギュラー争いをして勝利する。俺の理想は、そんなものじゃない

 

 

所属するチームにとって、必要不可欠な存在となること。そこにはレギュラー争いも何もない。

 

 

一条龍にとっての理想の在り方。それはまだ彼の見据えるはるか先にあるのだ。しかし、そこに宮水青葉は立っているのだ。

 

「本当に、学ぶことばかりだ、ここは」

 

 

5月には総体予選がある。未だ左サイドの半レギュラーである彼は、新天地でどのような進化を遂げるのか。

 

 

そして、多くの練習試合と、都道府県リーグからプリンスリーグ昇格を目指す江ノ島高校の歩みは止まらない。

 

 

彼らが目指す先には、あの男がいる。

 

 

 

 




今の駆君は覚醒したら体力が尽きるまで止まりません。
→(制御不能。選手寿命を縮める)

なお、覚醒状態で逆起点を2,3回食らうと強制終了します。
→(雑念が入る)

任意で覚醒タイミングを決めることは出来ません。
→(切り札にもならない)

そして、2回目以降は雑念が入る(あの万能感を求める)ため、覚醒トリガーは非常に硬くなっています。

そんな中で、「日本サッカーの歴史を変える役割を求められる」の重圧。

早くセブンがどうにかしないと、自壊しかねない駆の現状。
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