騎士見習いの立志伝 ~超常の名乗り~   作:傍観者改め、介入者

67 / 94
大変お待たせしました・・・・

ここ最近色々あり過ぎて、小説を書く精神的余裕がありませんでした。
(職を失ったというわけではないので)


言い訳染みて見苦しい発言をしていますが、62話をどうぞ。


第六十二話 情熱のベクトル

怪物逢沢駆の活躍は、世界に名だたる強豪クラブが集う欧州の界隈でも、徐々に噂を過熱させる事柄となっていた。

 

「カケル・アイザワ……アイザワ、か」

 

強豪フランクフルトの期待の若手選手でもあるカールは、かつて日本にいた俊英の片割れに想いを馳せていた。

 

「—————ジャパン、ね。ちょっと悪夢に出てくるわ、今でも」

そのカールの妹であるアンジー・ゼッケンドルフは、サイドからドイツの腹を抉り抜いた小野寺のスピードに翻弄されたのだ。

 

世界ランキング上位同士の屈指の好カード。日本の掲げる本気の腕試しの初戦のカードとなったドイツ戦。

 

女版宮水青葉ともいわれる小野寺のスピードは、陸上選手並みに速く、且つ俊敏な動きでドイツの選手を圧倒したのだ。

 

 

 

さらに前線には新進気鋭のフォワード、群咲舞衣が嫌な位置に場所を取り続け、ドイツのラインを妨害するのだ。ディフェンス面で課題を残していた彼女ではあったが、その弱点が徐々に消失しており、驚異的な若手が二人も現れたと震撼していた。

 

だがトップ下の美島は、その二人を操る指し手として格の違いを見せつける。前線の二列目が連動して動くために、パスコースがほぼ無限大に与えられた彼女は、驚異的な球離れを披露。間合いに入る前にボールを捌いてしまうので、迂闊に近づくことすらできない。

 

結果は、ディフェンスに定評のあったドイツが5失点と蹂躙された。対する日本は攻め続けたことで失点を1に抑える等、完全な力負け。

 

正確に言えば、男子サッカー界で起きた、あのオーストラリアの黄金世代との強化試合に匹敵する惨敗だった。

 

若手、中堅、ベテランが融合を果たし、新戦力が台頭するなでしこは、ついに世界ランキング1位に上り詰めた。

 

美島、群咲、小野寺。そして、かつて日本を牽引した一色がサイドハーフとして運動量を見せる。

 

世界を見渡しても、あそこまでの攻撃陣はそう見当たらない。彼女らの代わりに出てくるのも、リーグレベルの高いなでしこリーグで鍛えられた猛者たち。正確に言えば、彼女らと相対する選手たちと言えよう。

 

話を戻そう。

 

一番アジアサッカーでホットな話題を提供する日本は、女子サッカーだけではなく、ついに男子サッカーでも若き輝ける才能を手にしたのだ。

 

 

その筆頭と目される堂本貴史、宮水青葉に続く存在——————逢沢駆。

 

 

欧州の地で一足先に活躍している堂本貴史は当確だ。彼は間違いなく次代の日本を背負う。

 

 

そんな彼の前に、同じポジションでありながらワントップ、左サイド、ボランチ、トップ下といった複数のポジションで格の違いを見せる宮水青葉の加入。

 

 

そして、トップ下で青葉を凌ぐ輝きを見せた逢沢が、極東で発生した相次ぐスターダムの生誕が必然であることを証明してしまった。

 

 

どう転ぶかは分からない。右サイドで激しいポジション争いが予想される青葉と堂本がどのように共存するのか。

 

 

二列目の布陣はどうなってしまうのか。サムライブルーの本領は、本当の意味で未知数となった。

 

 

 

「——————この借りは返させてもらうわ、ウィッチィ。そして、ジャパンチーム」

アンジーはこれまで挫折というものを知らなかった。ここまで打ちのめされるという現実を知らなかった。

 

だからこそ生まれる闘争心。彼女は頂点に上り詰めたアジアの強豪への打倒を掲げる。

 

 

 

 

一方、ワールドカップでブレイクを果たしたウルグアイの至宝アルバロは、自分よりも年下のアジアの選手が、チーム内でも噂になり始めていることを知る。

 

 

「聞いたか、アルバロ。白い巨人がまた青田買いの目標を見つけたみたいだぞ」

 

「知っているよ。アジアの至宝、だね」

 

噂に聞いたことがある。飛び級で代表戦に出場していた彼を知る選手は意外と多い。そして、彼が出場した試合で、誰もが彼のことを調べずにはいられない。その存在感は、誰であっても消すことは出来ないのだ。

 

 

——————神速の如きスピードに、その激しい闘争心。

 

まるで、クランの猛犬を連想させる苛烈な選手イメージ。最近コロンビアが、彼が出場した時間帯で苦戦を強いられ、そのまま逆転負けを喫した話題が決め手だった。

 

コロンビアと言えば、南米の強豪国の一角。あのブラジルや母国でさえ一目置く存在だ。その彼らが敗北した。後半日本が記録した得点の全てに絡んだ彼は、あの試合でただ一人別格だった。

 

次の試合で堂本が次の試合で1ゴール1アシストと次世代エース筆頭である証を見せつけたが、それでも宮水青葉の魅せた輝きには霞んでしまう。試合後、堂本は危機感を口にした。

 

 

—————かつてないレベルでのポジション争いが起きている。これは個人にとっては脅威だが、チームにとって最善の状態だな

 

笑みを浮かべ、後輩の躍進を受けて立つと暗に宣言した堂本。

 

 

あの彼が、オランダで得点王になった彼がそこまで評価する存在。16歳という年齢がネックにならなければ、即日お持ち帰り案件だと各国メディアは持て囃した。

 

 

スペイン一部でプレーするアルバロも、強豪クラブに狙われる存在だが、宮水青葉への調査に絶対王者の白い巨人が動いていることは衝撃的だった。スペイン国内では、セビージャ、マジョルカがリストに入れたという。

 

 

勿論、彼らが動いていることを宮水青葉が知ることはない。しかし今回、日本人があまり馴染んでいないクラブが動くケースがやけに多い。

 

 

派手に動いたのはイングランドだ。こちらではマンチェスターU、アーセナルが興味を示し、プレミアのビッグクラブが将来のスター候補に熱視線を送る。日本人選手の獲得経験こそある2クラブだが、フルシーズン稼働した実績はほとんどない。

 

イタリアではACミランがアジアマーケティング拡大とクラブ立て直しの柱の一人に指定した。今の彼らは点を取る、取らせる選手が必要なのだ。

 

 

ドイツでは、ボルシアMG、フライブルク、ニュルンベルク、アウクスブルク。

 

 

ドルトムントとバイエルンは逢沢駆に夢中となっており、宮水青葉にあまり関心がないようだ。

 

 

 

5大リーグ以外では、トルコのガラタサライ、スイスのバーゼル、オランダのADOデン・ハーグが興味を示し始めている。

 

 

 

「どうやら、夏ぐらい日本に行く用事もあるみたいだし、もしかすればピッチで彼に会えるかもね」

 

「勝ってくれよ、アルバロ。奴のスピードにお前が勝てるわけがないと知っているが、それでも勝て! この夏に必ず、奴に黒星を与えるんだぞ、アルバロ!」

 

 

「——————少し重いジョークを言われたけど、スルーしておくよ。その忠告と激励が、無駄にならないよう祈っておくさ」

 

 

そして、今夏欧州への移籍が確実視されているオーストラリアの至宝、ロビエル・オズボーンは、爆発的な名乗りを上げた好敵手を前に唇を吊り上げる。

 

「アオバ・ミヤミズ!! フハハハ!!!! それでこそだ!! 俺は一足先に欧州へ行く!! CLで叩きのめしてやる!!!」

 

興奮しているロビエルの数少ないスイッチでもある青葉。劇薬に近い豹変を見せているオズボーンに、同僚たちは軽く引いていた。

 

「寡黙なオズボーンが壊れた」

 

「ジャパニーズのニンジャアニメに出てきたサイコ野郎に似てねぇか。ちょっとシャレにならねぇ」

 

「だが、あの俊足はオーストラリアでも見たことがない。あのアレックスや、ヴェイラを上回っている。ロナウドを連想してしまったよ」

 

「過大評価、といえないのが彼のすごいところだ。まるで俺が昔見たフェノーメノと同じプレー、それに近いことを成し遂げているのだからな」

 

「それこそ、アイザワ・カケルも厄介だ。奴にあの試合何人付いた? 最終的に3人だぞ、3人! 他が情けない部分もあったが、それでプレーできるあの男も厄介だ」

 

アジアのライバル、オーストラリアでも日本の怪物二人に対して、警戒度を強める。

 

 

名古屋戦の後、カップ戦の札幌に競り勝ったETU。世良の先制ゴール、途中出場の宮野の抜け出しで奪った2得点で競り勝ったのだ。守備面ではコーナーキックからの失点を喫するなど、課題は多いものの、攻撃面では劇的な改善がみられている。

 

 

 

続く横浜マリナーズ戦では、杉江と小林が先発。センターバックは杉江、もしくは飛鳥のバディ役を争う競争が起き始めており、ディフェンダー間でも緊張感、スタメン争いという劇薬がETUのラインを徐々に固めていく。

 

何しろ、意図的に達海監督はローテでディフェンスを変えている。戦術的なコーチングの時間が長く、前線での守備を要求する彼は、守備に課題のある選手をジーノ以外先発で起用しない傾向にある。

 

 

若手の期待株であった赤﨑は、守備面、スピード面、攻撃面、全ての面で宮水に負けており、彼の薫陶を受けている宮野が成長している。なにしろ、今回の右サイドは赤﨑ではなく、宮野が先発なのだ。前線での運動量が足りない彼は、出場機会を失い始めていた。

 

 

達海監督の就任以来、着々と走る攻撃的なサッカーが出来上がりつつある浅草のクラブは、この布陣で横浜と対決する。

 

GK  1番 緑川

RSB12番 鈴木

CB 26番 小林

CB  3番 杉江

LSB16番 清川

CMF27番 亀井

CMF 4番 熊田

RMF25番 宮野

LMF15番 赤﨑

OMF 8番 堀田

CFW 9番 堺

 

控え 

GK 23番 佐野

DF 24番 住田

MF 14番 丹波 6番 村越、7番 椿

FW 20番 世良

 

ベンチ外

GK  31番 湯沢

DF  22番 石浜 (RSB)  5番 石神

2番 黒田(CB)  28番 広井(LSB)  

MF  13番 向井(CB) 21番 矢野

10番 ジーノ (CMF) 19番 逢沢(SH)

FW  18番 上田、 

 

29番 飛鳥(代表召集)

17番 宮水(代表召集)

 

ジーノ、逢沢、村越、椿を温存する形となったETU。とはいえ、不測の事態に備えてベンチ入り。ローテで丹波の疲労を考え、赤﨑が先発。宮水が戻るまでは左は流動的。右サイドは現在、量産型青葉を目指す宮野が先発。初速を意識したプレーが徐々に認められたのだ。ベテラン堀田、堺のホットラインは継続。

 

 

「主力温存だと!? なめやがって!!」

 

横浜マリナーズの元木監督は、守備に穴が見受けられるETUの左サイドを狙うよう指示を出すが、達海監督はあえて左サイドにボールを出させる戦術を駆使する。その結果、

 

 

——————!? くそっ、出し所が—————

 

 

全体的に左により始める横浜とETUではあったが、サイドチェンジを狙い、右サイドでボールを刈り取られるシーンが目立つ。清川には極力サイドチェンジを行い、オーバーラップの戦術を控えるよう指示を出していたのだ。

 

—————すげぇ、守備の穴みたいにねらってきた横浜が右往左往してる! 

 

戦術を崩された横浜は横パスをカットされてからの、強烈なショートカウンターを浴びる。

 

「右サイド出せ、堀田!!」

 

ここで、右サイドは宮野がダッシュするはずが、宮野を追い越す動きでスズキがオーバーラップ。中に絞っていた宮野をデコイに使い、ETUがサイドからチャンスを拡大させる。

 

—————サイド釣られた、一枚は俺に、もう一枚は鈴木さんに

 

宮野はあえて堺との距離を近づけ、マークがあいまいになる立ち位置を維持する。自分なら、一瞬の時間だけは勝てると信じながら。

 

中に左サイドの赤﨑が入り込んでくる。宮野は押し出される形で中から外に張り始める。

 

 

—————ここで、鈴木さんをサポートできれば

 

 

宮野はここで、タメを作り始めた鈴木を追い越し、裏へと抜け出す。この動きは宮水もやっていた。だから、ここからは彼らしくないプレーをするのだ。

 

「うおっ、サイド抉った!!」

 

「上げろ、宮野ぉぉぉ!!!」

 

宮野はそのまま縦を抉る。カットインの姿勢を保ちつつ、素早く縦へと流れたのだ。ここで、クロスボールの選択肢が出来る。

 

—————味方を気遣うようなパスじゃ、キーパーに取られる! だったら!!

 

相手をビビらせるにはどうすればいいのか。宮野はシュート性のクロスを狙う。さんざん右足でクロスを上げてきた。キャンプからずっと青葉に追いつくために、彼とは違うプレーを模索してきた。

 

—————触れるのが嫌なクロスを上げるんだ!!

 

「うおっ!?」

 

 

不意を突かれたキーパーはニアを固めていた分、ファーサイドへのケアが甘くなっていた。何とかパンチングでラインの外へとボールをはじき出し、ピンチから逃れるが、宮野のクロスに脅威を感じた。

 

「クロスを上げさせるな!! いい右足もっているぞ!!」

 

「うっす!!」

 

横浜の選手たちも宮野のクロスを意識し始める時間帯。しかし、その前に彼を意識しなければならなかった。

 

 

 

畳みかけるETUはコーナーキックからもチャンスを作る。

 

 

 

『堀田のクロスから、亀井ィィィ!!! ヘディング叩きつけたぁぁぁ!!! しかしシュートは枠の外へ! 今日ボランチ起用の亀井が好機を演出しました!! 杉江の背後より機を窺ういい動き出し!!』

 

『堀田選手の狙い通りでしたね。杉江選手の背後を狙ったプレー。決めたかったでしょうね』

 

 

さらに、勢いに乗るETUは前半40分を過ぎたところで、清川のサイドチェンジを起点に、ついに先制点を奪う。

 

 

 

対角線を見る清川の局面の切り替えは、右の俊足をさらに活かす。

 

 

—————俺の左足は、局面を変えるんだ!!

 

大きく縦を狙ったボールが堺に通るが、競り合いでトラップが乱れる。

 

—————くっ、他にサポートは————おっ、

 

堺は迷いなど最初からないかのように裏へとパスを出す。抜け出ていたのは宮野。ランニングからスプリント。0から100ではなく、相手を引きつけてローギアで撹乱しつつ、ギアを入れて抜け出す。

 

完全に独走状態の宮野。ゴール前でコースを消そうとするキーパーではあったが、

 

 

———————こいつ、なんで今まで無名だったんだ!! 今のタイミングで————

 

 

すでに、宮野は抜け出していた。絶妙なタイミングとは言い難い、一歩間違えればオフサイドを取られるような瞬間だった。しかし、そのギリギリを突き詰め、出し手の動きを最後まで予測し続けた宮野。

 

 

 

横浜は、ゴール前で完全なギャップを作ってしまった。

 

 

 

『切り返して流し込んだぁァァァ!!! ETU先制!! 宮野今季2ゴール目で試合が動きます!! 前半43分!! もう間も無くハーフタイム、前半が終わろうかという時間帯に、貴重なゴール!』

 

 

『ポジショニング、ボールを受ける形。今のはいい動き出しでしたよ』

 

その後も、ボールを貰う前のイメージを考えながら動く宮野が効果的なプレーで横浜を右サイドで圧倒する。

 

後半は早々に椿が、コーナーキックからのこぼれ球を押し込む2点目を奪ったかに見えたが、これはオフサイド。

 

流れが悪くなった際に、横浜のカウンターを食らい、試合終盤、アディショナルタイムに横浜の新FWマルコスに同点ゴールを被弾。それラストプレーとなりタイムアップ。

 

開幕五連勝とはいかなかったが、4勝1引き分けと好スタートを切っているETU。

 

 

元々、スピードという武器があり、運動量豊富という強みを持つ椿と宮野。特に宮野は、宮水、逢沢に続く第三の男として台頭してくるだろう。

 

 

そんな小さな記事すら一瞬ネットに上がったほどだ。

 

 

 

続くカップ第三戦、清水インパルスとの試合では、課題でもあったディフェンスに綻びが生じ、試合中盤で勝ち越しを許し、ついに黒星がついてしまう。

 

しかし、多くの主力組を抜いた陣容で、宮野がアシストという形で結果を残し、若手の試合経験を稼ぐことが出来たETU。対する清水は、1分け1敗と今季未勝利の相手に3度目の正直をかけ、主力主体で挑んだのだ。この後疲労が溜まり、きっちりリーグ戦で黒星を喫するなど、カップ戦で全力を出した弊害が再開後に見受けられた清水。波に乗れない。

 

 

そんな中、U20日本代表から帰還した飛鳥と青葉が合流。浦和戦では飛鳥がベンチスタートではあるが、青葉は先発濃厚とみられる。それに危機感を覚えるのは赤﨑。

 

—————くっ、ルーキーには負けられないんだよ

 

自分は海外移籍で、ビッグクラブで活躍することを目標にしているのだ。高校生Jリーガーに負け、最近では王子や椿、宮野に存在感で劣っている。このまま出場機会を失うわけにはいかないのだ。

 

—————もう少し縦でシュートコースを開く位置取りを確認しないと

 

カットインからのシュートではなく、縦に突破した後に狙うシュートを磨くべきだと実感した宮野。縦に突破した後、相手の前に入り込めばいいのだから。

 

 

「特に、やることは変わらなかったな。俺が仕掛けてゴールを奪う、もしくは奪わせる。ワントップという新鮮な場所でプレーできたのは、いい経験でした」

 

 

そうなのだ。ほとんどが自分よりも年上が揃う環境下で問題なくワントップをこなせることが出来た彼は、クラブでの選択肢を広げることになったのだ。しかし、高校時代は最前線で体を張るというプレーこそあったものの、ワントップという場所はジュニア以来と言っていい。

 

さらには、長期離脱を強いられていた夏木がついに復帰。浦和戦でついにベンチ入り起用が有力視されている。

 

—————俺、もっともっとチームに貢献したいんっすよ!

 

青葉と飛鳥という若手期待の選手がU20に出ている間、夏木は頭角を現していた。その出現に世良、堺は闘志を燃やす。このままベンチに追いやられるわけにはいかない。ましてや、世良はここ最近の得点力は目覚ましいものを見せている。

 

—————ナツさんには負けねぇ。今シーズン、俺だって点を取っているんだ!

 

五輪代表が今もなお遠いのはわかっている。しかし、自分たちよりも年下の青葉と駆、飛鳥がそれを目指しているのだ。新しいモチベーションを作り、トップフォームを上げないといけない。昨シーズンの点取り男に負けないために。

 

—————お前の出る幕は、後半戦ぐらいだ。このポジションは譲る気はねぇぞ

 

堺とて、二番手に甘んじているが好調攻撃陣の欠かせない戦力になりつつある。夏木が現れたからと言って、このままベンチ外になるわけにはいかないのだ。

 

そして、そんなフォワード陣に劇薬を投じる達海監督。

 

「うーん、青葉がワントップでも全然やれているっていう貴重な情報もあったし、時にはフォワード起用をしていくと思うからよろしく」

 

 

「なっ」

これに驚いたのは、赤﨑だった。右サイドのレギュラー扱いでもあり、ボランチでは違いを作り、要でもある青葉に対し、3つ目のポジションでの起用を示唆したのだ。

 

つまり、レギュラーの高い壁で会った青葉がサイドから去る展開になれば、右サイドのライバルは宮野。もしくは逆サイド起用された際に逢沢ということになる。

 

————より多くの点を取りたいがための青葉のワントップ起用、か

 

努めて冷静に、赤﨑は平静を装う。

 

 

第6節でもある浦和戦。相手には高卒ルーキーの鷹匠がいる。彼もまた、ここまで2得点をマークするなど、好調をキープしている。得点ランキング一位の逢沢、二位の青葉という、決定力に優れた選手を置きたい。

 

二列目では何かレギュラー奪取に向けた闘志が各々で燃え上がり、フォワード争いはし烈なものとなり始めていた。

 

 

「————————」

 

そんな中、椿はポジション争いが激化する攻撃の選手たちの様子を見ていた。チーム内で多くの出場機会を得ている彼は、その鬼気迫る闘志を見せる彼らにびびっていると言われると、そうでもない。

 

夕方、青葉は有里のところへと向かう。またオランダ語の勉強のためだ。

 

「wedstrijd、ね。もう一度」

 

「ウェ、wedstrijd………発音が難しいな。英語とは違う感じがする」

 

「けど、試合すら言葉に出来ないのはまずいわよ。オランダ語を本気で覚えたいなら、単語を一日は10個ぐらい覚えないと。私が教えられるのは文法だけよ?」

 

有里は、悪戦苦闘する青葉を見て笑みを浮かべる。

 

『そうね………じゃあ、こういうのはどうかしら?  私はいつも自分の周りにサークルがあるとイメージしています。』

 

「え、えっと。これは、私は自分のサークルにイメージがあると……いや、なんか違うな。私はいつも周りのサークルが—————」

 

「ちょっと文法がおかしいわよ。Ik stel me altijd voor dat ik een cirkel om me heen heb。いつも青葉君がドリブルを語る時に言っていたことをオランダ語にしただけよ?」

 

 

「なっ、そうか! 私はいつも自分の周りにサークルがあるとイメージしています、だな! 付属語が多いと、聞き取れない時がしんどいな」

 

悔しがる青葉。しかし、こういう悔しいと思う感情は結構嬉しいものだ。

 

「そうそう、その通りよ、青葉君。発音を聞き逃したら、別の意味になりかねないのよ。もっと単語を勉強しなさい。いいわね?」

 

「はい」

 

その後も、サッカーの練習でよく使われるであろう例文で青葉を鍛える有里。その時間が終わり、帰りがけには、

 

 

「私もサッカーの専門になると分からないことが多くあるけど、今のサッカー界って、欧州の5大リーグ以外からステップアップする選手も増えてきている感じがするよね~」

 

 

「確かに、そういう道が生まれた、と言えるかもなぁ。18歳という年齢も、実は若くないのかもしれないな。だから結果がすぐ求められるよ、そういうルートは」

 

オランダや辺境リーグへ行くということは、そういうことだ。数年もそのリーグに居座る気はない。

 

 

 

1年だ。

 

 

 

1年で結果を出して、移籍する。20歳になる前に5大リーグでプレーする。そうでなければ、ビッグクラブからの声はかからない。

 

「———————うん。でもあんまり生き急いじゃだめだよ」

18歳という年齢に疑念を抱いた青葉を心配するような有里の声。やはり、周囲にも言われ始めているが、自分は生き急いでいるとよく言われる。プロになってそんなことをよく言われるようになった。

 

 

————————俺らはまだ合わせられるけど、代表入りやビッグクラブを狙っている選手ばかりじゃないんだ

 

 

———————あんま、意地になるなよ。代表入りすると、そういうのが目につくようになるし

 

 

————————青葉は糞真面目だからな。弟みたいな感じでちょい心配

 

 

代表の強化試合が終わった後、なぜか心配された。自分はデビュー戦で理想的な結果が得られなかったとつぶやいただけなのに。

 

 

—————あの試合。2,3点は取れた。

 

 

先発できなかったのは、西野監督にアピールが足りなかったからだ。プレー時間が少ないのを、人のせいにするな。そして、コロンビア相手とはいえ、あの出来ならハーフタイムで2点目は取れた。

 

 

反撃の勢いを奪ったダメ押し点でどこか満足していた自分がいた。これで日本はこの試合に勝ったと。

 

 

それではだめだ。それではいい選手程度に終わってしまう。

 

 

—————こんな低いレベルで満足してはならない。

 

 

 

軽く自己嫌悪に陥っていた際、青葉はちらりと有里の表情を見た。先ほどは気づかなかったが、動きが全体的に重く見えた。

 

 

青葉はその瞬間に有里の様子がおかしいことに気づく。

 

 

「—————有里さん? 最近寝ていますか? 少し疲れているように見えるんですけど」

やや疲れ気味の彼女を見て、気遣う発言が出てしまう青葉。無理をさせている、仕事もあるのに自分の語学勉強に付き合わせている。

 

「え、えっと、大丈夫よ! 最近寝ていないって言っても、こんなの嬉しい悲鳴みたいなものだし。昨年までの宣伝メインの時間帯だけじゃないし—————」

 

なんでもなさそうに言う彼女ではあるが、やはりいつもより元気がない。昔に比べて忙しさの質が違うことに喜びを覚えているとは言ったが、それにも限度がある。

 

「有里さん、頼んでいた資料の整理終わりましたよ。」

 

そこへ、ETUを支える女性陣の一角、前田夫人が現れる。元々秘書の仕事を行っており、夫の芳樹同様複数の言葉を話せる彼女は、今ではクラブに欠かせない戦力となっている。それに加えて前田自身のコネもあるので、勢力区の有望選手の獲得の難易度も下がり、色々話が膨らんでいるらしい。

 

 

「お疲れ様です、前田さん。相変わらずの手際の良さ。スポンサーの件と言い、頭が下がりますよ」

 

青葉は有里が下手に話す相手の女性を見て驚く。

 

彼は初めて会うので知らないが、元日本代表選手の奥さんという実感がわかないようだ。前田のことは知っているがその伴侶については興味の欠片もなかった。

 

——————確か、代理人経由で知り合った奥さんだったっけ? 荒木さん的に言うと、レベル高い、とかいうのだろうか。

 

 

「私は、クラブの現状と魅力を夫に教えられただけよ? 私自身が凄いことをしているわけではないし、みんなが頑張っているからこそ、交渉の幅も広がるの。東京は人もお金も集まるしね」

 

ザ・大人の女性を地で行く彼女は、現在ETUのスタッフとして、少しずつスタジアムも改装などを考案し、コアなサポーターだけではなく、ライトな層や女性サポーターの獲得で一役買っている。数年前はセンスの欠片もないイベントの連続だったETUも、ようやくまともになったと言われるぐらいの変化である。

 

 

さらには、前田、栗澤の提案によって建設された、選手のグッズや、憩いのカフェ、ジムが一体となった複合施設を浅草に立てたのだ。勿論、二人のポケットマネーである。

 

 

最初はサポーターばかりが足を運ぶ場所ではあったが、ちょっとスポーツに興味を持ち始めた人、サッカーをやりたいと言い始めた子供の家族連れ、単に趣味を見つけたい人などが集まり始め、サッカーだけではない空間を作り上げたのだ。

 

前田、栗澤の脳裏には、町無くしてクラブは存続できないと考えており、ETUのサッカーに引き込むにはこういう地道な活動の拠点が必要になってくる。町の人に必要とされる空間を作る。それだけで、人は集まる。

 

そして、東京という最大の強みを生かすことが出来、浅草の暖かい空気もそれを助けてくれるはずだと。

 

浅草で生まれ育った男が言うのだ。浦和ではもっと大規模な施設が建設され、その人気は完全に根付いている。

 

 

だからこそ、二人は自分の名前を最大限利用した。サッカー以外がよくわからなかった栗澤は悪戦苦闘しながら、引退後も町に足を運び続け、アラベスで実績のあった前田は具体的な案を次々と夫人とともに生み出した。

 

元日本代表のプライドは必要ない。今求められているのは、いつか二人が帰ってこられる場所を作る為だ。

 

 

 

「浅草や八王子、町田市にあるクラブカフェはいいですね。姉さんも友達と一緒によく通うって言ってくれましたし」

 

「そうなの? それは嬉しいわ。身近な人のこういう話って、結構元気が出るものなのよね」

そう言えば、大学で出来た友人と共に最近はジムに通ってそのあとカフェで時間を過ごすというのが通例になっているという。

 

少し気がかりだった瀧と姉の仲も良好であり、学生たちの憩いの場でもあるらしい。

 

 

 

試合を生中継しているカフェ、その合間に出される、前田が欧州で目に付いた名物料理の数々。

 

「こう、出ている店舗ごとに少しメニューが違うのがズルいですね。そのクラブカフェ限定のメニューとか。それに美味しいみたいだし」

 

「そこはほら、もっとファンが増えてから解禁するつもりよ」

 

 

上の階では、最近健康志向を強めた人に向けたジムがあり、そこには選手たちが時折利用することもあるので、その際の写真も少しずつ増えている。

 

ファンと寄り添い、一緒に成長する。彼女の狙いはハマり、陰りが見えつつある王者東京ヴィクトリーに対し、ファンの獲得力の一点に関しては超越する勢い。

 

何しろ、彼女の基準は「よいか、よくないか」である。気分のいい内装なら利用客は落ち着くし、気分もいいだろう。出された料理がおいしいか、美味しくないかも重要。

 

さらには現在交渉中の地元の名物店を特設フロアに招待し、仮設出張店を開くというのを計画しているのだ。予算上、ホームの試合の時、昼間の試合でそれを行いたいとのこと。その過程でちゃっかり市長等とも懇意になり、強かな手腕を披露。

 

 

 

だからこそ、後はもう強くなるだけという状態だったETU。そこにきての青葉、駆、飛鳥という二枚目でありながら、実力も備えるスター選手の相次ぐ入団。

 

実力を発揮した彼らの活躍により、リーグ戦は開幕4連勝。5連勝は惜しくも逃したが、今シーズンはまだ無敗。

 

第6節の相手は、リーグジャパン創設以来の名門、浦和レッドスター。

 

ここで勝ち点3を奪い、前半戦全勝中の大阪ガンナーズとの直接対決に向け、いい流れを維持したいのだ。

 

「—————前田さんはさすがですね。時間配分も上手いし、アイディアも豊富だし。アイディアがなかなか出てこない身なので羨ましいです」

 

アイディア力の低い有里は、ETUの常識人枠ではあるが、アイディアの引き出しが少ないのがネックであり、こうしたイベントやファン層獲得は目から鱗が出るほどだ。

 

 

「無論私だけの知恵ではないわ。栗澤さんの所の奥さんや、他の主婦仲間に意見を求めたり————自分だけの考えに固執するのもよくないし、流されるのも考え物。さらに言うと、自分一人で抱え込むのは一番ダメね」

 

そして真剣な表情で、やや疲れ気味の有里に向き直る留美。

 

「だから今日は医務室に行きなさい、有里。最近あまり食事もとっていないのでしょう? 後のことは、年長者に任せなさい、いいわね?」

 

「は、はい————心配をかけて、すいませんでした」

 

青葉ではうんともいわなかった彼女が夫人の前では素直に従う。なんだかなぁ、と思う青葉だが、同性で尊敬する人物の言葉には弱くなるのが通例だ。

 

「なんだったら、浅草のクラブカフェに行きましょうよ。俺もあんまり回数はないし、有里さんはそれなりに通っているんでしょ?」

 

「え!? わ、わかったわ———うん———すぐに支度するわね」

 

有里がこの場を去り、仕事を切り上げるための整理整頓をする中、

 

「おっと、青葉君。一つ忠告いいかしら?」

 

「へ?」

 

手渡されたのは、若干長い髪の鬘と伊達メガネ。

 

「これを付けて、ばれないようにしなさい。優斗さんも付き合い始めた時にガッツリ撮られたみたいだし、念には念をね」

 

 

なお、この時のクラブカフェで知人女性と知り合っている杉江。

 

「あっ」

 

「あら?」

 

年上のアイドルと談笑していたところを撮られる。プレーや日常生活では堅実な一面が目立つ彼だが、クラブカフェというホームの空間で油断していたところをやられたのだ。

 

 

翌日——————————

 

 

————お相手は現在好調のETU守備の要!? ついに春が訪れたか?

 

————ついに春の訪れか!? お相手は元日本代表候補で頼れる年長者!?

 

なぜか、そのアイドルがようやく婚期絶望の中で光を見出したかのような記事が週刊誌に掲載されるのだった。

 

 

「——————おまっ、まじかよ! スギもついに春が来やがったか! で、馴れ初めはいつなんだよ、このこの~」

 

 

「—————俺は知らん、俺は何も知らんぞ」

 

相方の黒田は、尋問を開始する。が、杉江は目を逸らして知らぬ存ぜぬを繰り返す。

 

「俺写真集もっているんっすよ!! 羨ましいっす!!」

 

「くそぉぉぉ!!! やっぱ顔なのか!! スギさんめっちゃ面倒見良いし!!」

 

 

「ていうか、元アナウンサーで、現トップアイドルで、高学歴とか。スギさん前世で一体どれだけ徳を積んだんすか!!」

 

若手選手には尋問され、中堅選手には黒田を除いた面々に生暖かい視線を向けられる杉江。

 

 

「———————助けてくれないか、青葉、飛鳥」

 

これでは練習どころではないと杉江が救いの手を求める。

 

 

「すみません、俺はこの手の話題で力になれそうにないですね」

 

 

「すみません。俺もこういった経験はあまりないので……」

 

ガチで相手がいない青葉は朗らかに語り、少し悔しそうにしている飛鳥。サッカーでは頼れる後輩だが、この手の話では雑魚同然だった。

 

「そうか…………」

 

 

「うーん。僕もセブンとのことでいろいろアンチも増えましたけど、特に気にする必要はないと思います」

 

逢沢駆は、苦笑いしながら杉江の騒動について自分の意見を述べる。

 

「ん? アンチ? 初耳だぞ、それは」

 

青葉も、自分よりも王道主人公の彼にアンチがつくことに驚きを隠せない。

 

「セブンはアスリートなんだから、とか、みんなのアイドルだから、とかね。僕がいろいろ手を出していると妄想しているんでしょうね。そんなこと、ありえないのに」

 

若干思い出し始めている駆は、青筋を浮かべて笑みが何か別の意味へと変貌していっている。

 

 

「あと、舞衣ちゃんと仲がいいから二股疑惑掛けられているんですよね。ほんと、どこから突っ込んでいいかわからないですよ」

 

 

「えぇ……なんだそりゃ…」

 

ハハハ、と黒い笑みを浮かべる駆。青葉は悟る。この話題は駆にとっての地雷だったと。

 

「椿? なんでそんなに顔を真っ赤にしてるの?」

 

「な、なんでもない! だ、大丈夫っすよ、俺は」

 

少し離れた場所では、宮野が顔を真っ赤に染めている椿を見て不審に思っていた。

 

 

色々とカオスとなっている練習場の中で、飛鳥は

 

—————言えない。先日趣味趣向が合わず、彼女と別れたばかりとか

 

頭がサッカー馬鹿となっている飛鳥に「ついていけない」と言われてショックを受けた経験があるのだ。アスリートは結婚後も離婚の報道も目立つのはこういうことなのかと、しみじみ感じていた。

 

 

実は、飛鳥は恋愛意欲があったりする。

 

 

 

 

 

そして青葉は、自分の恋愛模様について少し真面目に考えていた。

 

 

————————なんだろう。昔はもっと、そういう気持ちがあったのかもしれない。けど、

 

 

何の感慨もわかない。いくら初恋が終わったとしても、ここまで自分は恋愛に無気力になっていることが、少し信じられなかった。そのことにショックを受けていない事にも驚いていた。

 

 

——————何かが変わったのかな、何が変わったんだろう

 

 

 

颯との初恋が終わり、今の自分はとても充実している。さらにペースを上げていけば、18歳で海外挑戦も現実味を帯びるだろう。

 

 

満たされているのだ。宮水青葉はこのクラブですでに満足し、さらなる満足を得るための下準備に充足感を覚えていた。このままこのクラブから駆け上がり、頂点を目指すのだと。

 

 

自由になったような感覚だった。颯のことが嫌いだったわけではない。むしろ、自分が今まで唯一女性として見ていた相手だった。だからこそ、その初恋が終わって切り替えることが出来た。だからサッカーに対して、安定した精神状態でいることが出来た。

 

 

——————無理に恋愛をするのはどうかと思うよ。けどまあ、憧れちゃうよね。あんなに幸せそうだと

 

 

しかし杉江や駆の、そして遠目で見たら椿に通ずるであろうその笑顔は、青葉の胸中に残り続けるのだった。

 

 

 





宮野選手が頭角を現し始めました。とにかく縦に、速いサッカーを展開出来れば、彼のような選手は必ず活きてきます。

そして、クラブ経営に関しては現実の浦和であったり、他のスポーツのクラブや球団を参考にしました。

クラブ経営に関する論文とか、初めて見た。やっぱり書く人はいるんですね、こういうの。しかも学生だったので驚きました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。