騎士見習いの立志伝 ~超常の名乗り~ 作:傍観者改め、介入者
最近復活している小説もありますが、素直に喜べませんね。
リーグ戦は5節を消化し、波乱の幕開け、好調スタートをキープしたチームと、悪いなり粘る名門チームの激突が実現。
埼玉側のスタンドを予約した武蒼の女子学生たちは、ゲート前で待ち合わせをしていた。しかし、今回は浦和のアウェー応援。隅田川スタジアム付近は混雑していた。
「こ、こんなに人が集まるの? スタジアムって」
若干怯えている藍子。こんな人の混雑は予想外。まるでファン感謝祭とか、テレビの向こう側の景色のような場所だった。
「浦和は日本一のサポーターよ。だからこそ、熱心で熱いファンが多いの。過激な人もいるけどね」
「まあけど、日本一の歴史を持っていると思うわ。だからこそ、ヴィクトリーには負けられないし!」
「えっと、持田選手だっけ。日本一のプレーヤーの」
とりあえず有名所の選手を抑えた藍子。しかし、持田の名前を聞いて不機嫌な顔をする友人たち。
「勝利への執念とかいうけどさ。やっているのはファウル紛いのずる賢いプレーよね。実力があるのに姑息だからあんまり好きじゃないし」
「怪我が多いっていう理由で守られているけどさ。一度自分が同じプレーを食らってみなさいよって感じ」
「だから花森に10番を奪われるのよ」
どうやら、友人たちにとって持田の名前は禁句らしい。以後出さないことを誓う藍子。しかし、どんなことにも意味はある。その持田選手という人は超一流と言われる選手なのだろう。
だから、きっとそうならざるを得なかった理由があった。自分たちには想像すらできない何かがあるのだと、藍子は心の中で思った。
そんな時だった。試合前だというのに、スーツ姿の男が外国人観光客らしき団体の前で困っていたのだ。
「えぇ!? ちょっ、チケットあるんですか!? そして席バラバラだし、迷子になられても困るし。有里さんちょっと来てくれないか!!」
男が有里と呼ばれる女性を呼ぶ。慌ててやってきた女性はスーツ姿の人と何か打ち合わせをしているが、よく聞き取れない。しかしどうやら、彼女はすぐにここを離れないといけないらしく、スーツの男が引き留めているように見えた。
「うわぁ。英語喋れないとああなるよね。ちょっと聞き取りづらいけど、英語喋っているよ」
「私も日常会話程度ならできるけど、ああいう場で通訳しろってなると、たぶん無理」
友人たちは英語が得意ではあるものの、日常会話程度が精いっぱい。藍子のように完全に会話が出来るとは言い難い。
そんな時だった。ウィンドブレーカーを羽織る青年がゲートからやってきたのだ。横には髪を立てている浦和のジャージを着た選手らしき青年。
あれは確か、友人の持つ選手名鑑に乗っていた———————
「え………」
意志の強そうな瞳に、端麗な顔立ち。見れば見るほど自分とは違う世界に生きていると実感できる存在感。
気づけばその足は動いていた。
「あれって、宮水選手と鷹匠選手じゃん!! うそ、こんなところに」
「でも警備員いるし、近づけないよね」
「あれ? 藍子は?」
残念がる友人たち。他のサポーターは彼らがいることに気づいていない様子だった。
「代表以来ですが、今日は手を抜きませんよ」
「望むところだ。あそこにはブラン監督ら有名所が変装してここにいるんだ。いいところを見せて、フル代表入りして見せるさ」
バチバチに笑顔で牽制しあう二人。だが、話題はすぐに、
「英語話せるだろ? とりあえずあの老人の団体を何とかしねぇと」
「ああ。鷹匠さんは先に戻ってください。俺が出来るところまで対処しますから」
仕方ないので、有里を記者たちの仕事に帰らせ、慌てている栗澤コーチを放置した青葉は、ブラン監督のもとへと歩み寄る。
『お忍びで団体を連れてこられると、スタッフも困ります。ミスターブラン』
『なるほど、英語ができるのかい、君は。ますます気に入ったよ!』
面を被っているフランス人の老人は、朗らかに笑う。青葉は困った顔で、
『席がばらけているのは問題ですね。とりあえず、集合場所を今から決めたいと思うのですが—————』
青葉がどこか手ごろな集合場所と時間帯を考え始めた時だった。
『あのっ!! お困りですか?』
女性の声が聞こえた。しかもそれは英語で、有里の声ではない。
『君は———————』
眼があった先にいるのは、ポニーテールの少女。休日なので私服なのだが、同年代ぐらいに見える。
『うんうん。選手はピッチの仕事があるんだし、ここは通訳をかって出てくれたキュートなガールにお願いするよ』
『ミスターブラン!? 本気ですか!? 相手は一般人ですよ!』
これには慌てる青葉だが、
「すまん、青葉。もう猫の手も借りたいんだ。後は俺とあの子に任せてくれないか」
栗澤が苦笑いしつつ弁解する。栗澤がいれば多少は何とかなるだろう。語学以外は。そう考えた青葉は無理矢理納得する。
藍子にとっても、この事態は想定外だった。まさかそんな役目を追うとは考えていなかったのだ。
「ごめんね。うちのスタッフが外国語をしゃべれなくて。えっと————貴女が通訳として名乗りを上げたことは凄い感謝している。ありがとう、助かったよ」
手を差し出す青年。彼には下心はない。本気で彼女が助けてくれたことに感謝しているのだ。
「い、いえ。なんだかすごい困ってそうだったので。集合時間と集合場所を設定して、隅田川スタジアムの通路を説明すればいいんですね?」
正直、いきなり異性の手はつかめない藍子。そんな様子を察したのか、苦笑いしてその手を下げる青年。しかし会話は続く。
「うん。その通りだよ。見たところここに来るのは慣れてなさそうだけど、浦和のファンかな?」
青年は、彼女の手荷物の中に浦和のタオルがあることに気づき、浦和のサポーターの一人なのだろうと推測する。しかし、スタジアムに来慣れていない雰囲気もする。
「えぇ、友達に誘われて。貴方が注目の選手だって言われて—————」
「なるほど—————だんだん近づいているのかな、俺も」
サッカーにあまり詳しくない人の間でも広がりつつある自分の名前に納得する青年。藍子は彼が何に納得しているのかが分からない。
————どこへ向かおうとしているのだろう、この人は
その眼ははるか先を見ているような気がしている。自分のように今の場所から抜け出したいという感情が見当たらない。そして、彼女はそんな目をしている人を知っている。
花森選手と同じなのだ。その強い瞳を持ち、海外で挑戦を止めない彼に勇気を貰っていた。そんな彼と同じ目を、この青年は持っていた。
「—————ごめんね。貴女には観戦以外のゴタゴタを任せることになる。クリさんが面倒を見てくれると思うから、俺はここで失礼するよ」
踵を返そうとする。このまま終わり。そう、これで彼とはもう会うことはないかもしれない。しかし、彼が今抱いている気持ちを知りたい。彼はどこへ向かおうとしているのかが知りたいのだ。
「あの—————貴方は————」
何かを言いかける藍子。しかし言葉が出てこない。何をしゃべればいいのか。彼はこれから試合に出なければならない。準備をしないといけないのに、わがままを言っている。
「忘れるところだった。貴女の名前を聞いていない」
踵を返そうとした彼は、思い出したかのように向き直る。真剣な瞳で、彼女を探るような眼だった。
「え?」
「恩人の名前を聞かず、そのまま帰すのもね。浅草のクラブカフェのプレミアチケットを、後で手配するから、試合後に待っていてくれないか?」
思わぬ反応だった。自分なんかに、ただ英語が喋れるだけの、英語を拠り所にして、外に出たいと駄々をこねる小娘に、筋を通そうとしているのだ、この青年は。勿論青年はそんな事情を知るはずがない。
「——————分かりました。あと、私の名前は—————」
青年はじっと彼女を見つめている。自分が口に出すのを待っていてくれている。
「江藤、藍子です」
「江藤さんか。そうだな、江藤さんはもう知っていると思うけど、俺は宮水青葉。じゃ、またあとで」
そう言い残し、青年はこの場を去っていくのだった。
彼を結局待っていた鷹匠は、一部始終を見ていた。
「おいおい、あの子は一体何者だ? 英語でブラン監督と話しているぞ!」
「あの子は完璧な英語が話せる。凄いよ。発音から何から何まで、凄い参考になる」
鷹匠は、そんな少女相手に自然体だった青葉に戦慄する。
————美人で才女を目の前にして、まるで動じてねぇ。英語を喋れるから、意識もしていないのか、こいつは!
心中の言葉は、最後まで青葉に伝わることはなかった。
第六節、浦和戦。それは宮水青葉の合流後の試合であり、昨年のチーム得点王夏木のベンチ入りの試合でもあった。
GK 1番 緑川
RSB22番 石浜
CB 2番 黒田
CB 3番 杉江
LSB16番 清川
CMF 6番 村越
CMF 7番 椿
RMF25番 宮野
LMF17番 宮水
OMF19番 逢沢
CFW20番 世良
控え
GK 23番 佐野
DF 14番 丹波 29番 飛鳥
MF 10番 ジーノ 8番 堀田
FW 11番 夏木
休養が十分な逢沢を先発起用し、両脇には右に宮野、左に宮水。どちらもスピードと運動量に優れた選手。ワントップには調子のいい世良を先発。ダブルボランチには椿と村越。休養を与えられた村越は、カードも心配することなくプレーできており、椿は特に三列目からの攻撃参加がより活きてくる。
守備陣には、右SBに復帰の石浜。石神とのローテで回る中、アピールが出来るか。左にはロングフィードで攻撃のスイッチとなっている清川。CBには杉江と黒田が先発。引き続き、キーパーは緑川。
ベンチメンバーにはジーノ、夏木がスタンバイ。後半途中に出場濃厚な点取り屋は、元気な姿を見せられるか。
「へぇ、なんか練習の時とは違うなぁ、あの二人。オーラが凄いなぁ」
ベンチで悶々としていた夏木だが、期待の新人二人のピッチでの真剣な表情を見て背筋が直る。
「—————まったく、まさか司令塔のポジション争いになるとはね。駆君が凄いのは重々承知だけどね」
「ビハインドの時はボランチで出すからイメージだけはしとけよ、ジーノ」
「—————三列目からの攻撃参加、かい? バッキーのように足は速くないけど?」
「なるほど。それは面白そうだ」
そしてジーノは自分の出番がそういうシチュエーションであるかもしれないことを監督に叩き込まれていた。
ベンチ外
GK 31番 湯沢
DF 5番 石神 12番 鈴木 24番 住田
26番 小林 13番 向井(CB) 27番 亀井
MF 21番 矢野 15番 赤﨑 28番 広井
4番 熊田
FW 18番 上田、 9番 堺
ベンチ外ではあるが、新人の一人でもある上田は、このままの調子を維持できれば新潟戦でプロデビューを果たすことになる見通し。遅れてきた4人目の選手として、三人に追いつけるか。
フリーの記者である藤澤は、一見若手主体に見えるETUではあるものの、かなりの主力を投入しているようにも思えた。
「二列目の逢沢、宮水、宮野に共通するのは、豊富な運動量とスピード。さらには前線の世良も同じ。最後に三列目の椿はリーグ屈指の俊足。このスピーディーな攻撃陣がどんなプレーを見せるのかは興味深いわね」
「そうですよ。近年赤﨑が台頭してきて右サイドは安泰かなぁと思いましたが、レギュラー争い再燃ですよ。宮水が右左どちらもできるのは大きいし」
トッカンスポーツの山井は、目まぐるしく変化するスタメンの陣容に驚いていた。開幕前、誰が宮野のブレイクを予想していたのか、世良が夏木不在の間にレギュラーを手繰り寄せると予想したか。
クラブカフェ浅草では、東京に進学した青葉の姉三葉とその友人たちと、瀧と親友の藤井司、高木真太らとばったり遭遇していたりする。
「み、三葉!?」
「た、瀧君!?」
「—————おいおい、瀧の野郎、こんな美人と知り合いなのかよ!!」
「—————がんばれ、瀧」
「—————ここの雰囲気が一気に華々しくなったぞ。」
友人たちは使い物にならず、瀧は左右に助けを求めるがここには誰もいない。
「その子なの? 三葉が言っていた年下の彼氏君っていうのは」
「あら可愛い。今日はお義兄さんの試合でも見に来たん? ウフフフ」
「もう、揶揄わんといて! そういうのはまだ早いんやから!」
そんなこんなで、三葉は大学に進学した際に知り合った女友達と談笑する。瀧たち男衆5人は、三葉が東京に進学して早々かなりの友人を作っていたことに驚愕する。
そして、なぜかマスクやら伊達メガネをしているのはあえて突っ込まない男性陣。
—————どうなってんだよ、どうしてお前の彼女、めっちゃ友人多いし、レベル高すぎ!
元々社交的な三葉に加えて、何か芸能の仕事でもしているのかと尋ねられるほどの容姿を持つ女性陣を前に、瀧と司以外の男子が騒ぐ。
友人たちが瀧に尋ねる。何がどうなっているのかと。
————お、俺も大学生活まではよく知らないんだ!! いっぱい友人が出来たってだけで
知らぬ存ぜぬの瀧。本当に使い物にならない彼氏である。
岐阜県下では、糸守を離れた旧町民がテレビやラジオで彼の活躍を耳にしたり、目にしているのだ。
—————本当に駆け抜けていくなぁ、あの子は
昔校庭で最も勢いよく飛び出していく少年が、日の丸の期待を背負う次世代のエース候補に名乗りを上げている。
—————おい知っているか! あいつ、俺と同じ糸守の学校だったんだぜ!
級友たちは、彼が糸守の住民であり、彼こそ誇りだと言い続ける。
—————散り散りになった町民がこうして繋がっていられるのも、あの子のおかげや
廃墟と化した故郷を離れ、それぞれの生活を営む彼らが、連絡を入れあい、再びつながった。
—————学校一番の韋駄天で、本当にすごい奴なんだよ、青葉は!
—————このまま活躍すると、毎回お祭りになりかねないねぇ
あの彗星落下からもうすぐ一年がたつ中、復興は着実に進んでおり、瓦礫の撤去は完了した。後は少しずつインフラを整備していくという状況。
飛騨市の市長となった宮水氏は、手堅い政策の傍ら糸守の復興も粛々と進めており、違う世界ではあるが親子が脚光を浴びる展開が追い風になっている。
そんな彼が、U20日本代表での活躍をひっさげ、リーグジャパン屈指の名門、浦和レッドスターとの試合に臨んでいる。
岐阜県下で最高の素材と言われ、神奈川で大ブレイクした男の活躍はプロでも衰え知らず。
彼は意識したわけではないが、岐阜県と神奈川県ではちょっとしたブームにまでなりかねない勢いでもある。
だが、浦和にも意地がある。新卒ルーキーとしてここまで2得点をマークしている鷹匠は、高校以来となる直接対決に燃えていた。
—————こうしてプロで再会するのはわかっていた、だが、今日こそは一矢報いるぞ、青葉!!
日本代表を擁するスター軍団。埼玉の名門が彼の勢いを止め、大阪ガンナーズとの直接対決に弾みをつけるのか。
それとも、ガンナーズと激しい首位争いを演じるETUが、無敗同士のまま直接対決に持ち込めるのか。
リーグの序盤の様相を占う一戦が待っていた。
『リーグジャパン第六節の中でも注目の好カード。達海マジックが光るイースト東京ユナイテッドと名門浦和レッドスターの対戦。若手起用で波に乗る浅草の赤黒軍団と、けが人が続出ながら、高卒ルーキー鷹匠の頑張りが光る埼玉の名門————注目ですね』
『特に、宮水選手と鷹匠選手、それに逢沢選手は神奈川県下でしのぎを削ったメンバーですからね。こうやってその世代が早くにプロで先発できるというのは凄いことです』
『U20日本代表でもみんな調子が良かったですからね。この試合は楽しみです』
ダイスラー監督と達海監督が開幕前の挨拶以来での対面。調子のいい若手を勢揃いさせた達海と、けが人続出の中、上手く粘っているダイスラー。
『調子のいい君たちをまぐれだなんて言うつもりはない。挑戦者として、挑ませてもらうよ、ミスター達海』
ドイツ語で話しかけたダイスラーは自分の言葉が通じているかどうかは分からないが、とりあえず自分の想いを話した。後は通訳が訳してくれるだろうと考えていたが、
『そういう相手が一番やりにくいんだよね、ミスターダイスラー。ホームでもないのにアウェーの席全部埋まっているし。ま、こっちもこっちの形で挑ませてもらうよ』
不意を突かれたドイツ語。しかも流暢なもので、本場のドイツ人と話しているようなきれいな発音だった。その立ち振る舞いから、だらしのない男にも見えるが、実は相当頭が切れる人物なのだということを改めて実感したダイスラー。
————驚いたよ、ミスター達海。まさか、英語を含めて三カ国も話せるとはね
しかしダイスラーはこのやり取りからすぐに切り替え、指揮官としての矜持を以て奮い立つ。
————確かにここは、我々のホームではない。しかし、我々には日本一のサポーターがいる。場所ではなく、歴史が、彼らの魂が、我々を奮い立たせるのだ。
そして、近年嫌というほど耳にする、日本一の声量、日本一の迫力ある声が響き渡る。
ドドド、ドドドン!!!
浦和レッドスターっ!!
あまりの大音量で、お腹を震わせるほどの声援がスタジアムを支配する。
ドドド、ドドドン!!!
浦和レッドスターっ!!
まるで地響きのような轟音と、闘志をむき出しにする、日本最大規模の12人目の戦士たちの声が、ETUホームのスタジアムを包み込む。
浦和レッドスターっ!!
ドドド、ドドドン!!!
浦和っ!! 浦和っ!!! おぉぉぉぉぉ!!!!
本気の、名門クラブが出せる、最大規模のサポーターの声援が、プレッシャーとなって襲い掛かる。
そして、その声援は浦和の選手たちの力になる。
————俺たちにはこの声援がある。何より、苦しい時に詰め掛けてくれるファンたちを知っている
主将の越後は、日本代表の要。ありとあらゆるプレッシャー、重圧を背負い、ここまで走り続けている。しかし彼は折れない。
—————俺たちはお前らを弱小と言わねぇ。だからこそ、本気で勝ちに行かせてもらうぞ!!
————寄せ集めの中でも、この声援を前に、俺たちは一致団結する。それがこのチームなんだ!!
試合開始からツートップの鷹匠、多田が先頭を切ってプレッシングに来る。越後が相手の陣容を見つつ、大声で指示を出す。
「逆サイド狙われているぞ!! 糸居!! カバーに入れ!!」
ETUの頼みの綱である左サイドの宮水に対し、彼らはコースをまず消した。
————二人係でリトリートか、ずいぶん警戒されているな
パスコースはあるので、ワンタッチではたきながら青葉はパス&ゴーでサイドに張り続ける。相手はハイプレスでボールを奪いに来る戦術。ならば幅を獲り、ピッチを広く使うことで相手の消耗を誘うのだ。
しかし、ボールが落ち着かない。浦和の声援がそれをかき消すのだ。彼らが直接プレーに関与しているわけではないが、浦和の動きにキレが出始める。
ドドン、ドドドン!!!
—————押せッ!! 押せッ!!! レッドスターッ!!!
ドドドン、ドドドン!!
ETUの選手たちもやりにくさを相当感じるような状況。中々ボールを互いに前に運べない時間帯が続く。
「——————やってくれるじゃねぇか、ドイツ人」
達海は相手がプレッシャーを強めるのを察知し、逢沢と世良の二人係でライン際での駆け引きをさせて、ラインを下がらせようとする。が、それは上手く序盤でハマらない。
————僕の方をマークなのか!?
————お前相手に油断なんてできないからな、ルーキー!!
越後自ら前に出てきた逢沢駆のマークについたのだ。下がれば外れる分、厄介なマークの受け渡し。
世良の方も、しっかり中盤でケアされている。
そして、村越はその状況下で逢沢にパスを出してしまう。
「くっ!」
強烈なプレスが逢沢を襲うが、ノーファウル。パスのコースを駆と同時期に確認し、しっかりと体をコースに入れたのだ。競り合いでの接触でファウルを取らない審判。
「まずいっ!! 戻れっ!!!」
自分のパスが読まれていた、ここでショートカウンターに持ち込むかもしれないと村越が警戒する。何より、日本代表相手にも逢沢なら勝てるかもしれないという安直なイメージが失策だった。
転べば笛を吹く高校サッカーではないのだ。本物の一流、日本サッカー界のトップと対峙し、ボールを奪われてしまう駆。
合気道オフェンスという技を出す前に勝負を仕掛け、電光石火の勢い。
しっかりと、越後が対応した瞬間に浦和の赤き波が襲い掛かる。浦和の持ち味は可変システム。特別な戦術に対する高度な戦術理解度を誇る両サイドバックがWBと化し、一気に攻めあがってくるのだ。
3-4-3の超攻撃的システム。それぞれがボールウォッチャーにならず、ETU同様にしっかりサイドで幅を獲り、宮野と青葉ら両サイドの対応を難しくする。
—————しっかり幅を取ってきたか!!
————脚力で負けるなよ、そっちも!!
数的有利を軸にETUを押し込む展開の浦和。しっかりとした距離感とエゴを出さない選手たち。主力が抜け、苦しいチーム事情であることを理解した上での結束。
自分たちが、今の浦和を支えるのだと。
手負いの名門は、ETU相手に油断など欠片もしていない。そして、相手に読まれようが誰に点を取らせたいのかを明確にしている。が、それを見るや否や、中央を固める相手チームにつるべ打ちモード。
『ここでレアンドロが狙うぅぅぅ!!!! しかし!! ここで緑川ファインセーブ!! 無回転のミドルシュートが枠を捉えていました!!』
横っ飛びでボールを大きく弾いた緑川。狙いすましたレアンドロの強烈なミドルシュートを弾き、ピンチを脱するETU。
中央にはリーグ屈指のフィジカルを持つ外国人FWレアンドロ。あのハウアーと同等以上の実力者であり、足元の技術とストライドの長い運ぶドリブルが脅威となっている。
そんな怪物を前に、対するのは村越。しかし、その強烈な挨拶を前に、後手を踏み続けていた。
——————これが、全盛期を過ぎたとはいえ、欧州の第一線で活躍した男の実力かッ
さらに、ここでコーナーキックだ。強烈な印象を残すレアンドロに加え、空中戦の強さを誇る鷹匠がエリアの中に。それに続いて日本代表のキャプテンである越後も上がってくる。
—————空中戦なら走るスピードは関係ないぜ、青葉
越後のマークに杉江、長身のレアンドロには村越が入る。ここは青葉も自陣に戻り、守りの態勢に入るETU。今までの開幕までの試合とは違う、ヒリヒリするような緊張感が支配する。
新生ETUが直面する強豪の強さを意識せざるを得ない試合展開。リーグジャパン屈指の名門は、彼ら相手に驕りが欠片もない。
真剣勝負で初めて直面する名門の本気を前に、ETUはどんな戦いを演じるのか。
浦和の戦術はこうです。
「殴り合いに持ち込んで、泥試合に巻き込んでやる」
守れないなら、特攻覚悟で攻め切って相手を叩き潰すというかなり乱暴な戦術です。
だからこそ、3-4-3、と4-2-3-1を使い分け、前からプレスをかける序盤の奇襲。
その為、逢沢駆の合気道オフェンスを発動させる前にプレスが襲い掛かり、為すすべなく奪われる図式が完成します。