騎士見習いの立志伝 ~超常の名乗り~   作:傍観者改め、介入者

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第六十四話 真紅の名門(2)

コーナーキックの落下地点を予測し、多田のマークに入っていた青葉がヘディングで大きくクリアする。

 

『クリアボールをキープしたのは世良!! さぁ一気にスピードアップ!! 右からはものすごい勢いで宮野が上がっている!! 世良サイドを見てスルーパス!!』

 

ここで、背の低い世良が零れ球を拾い、一気にカウンター。右サイドの宮野もその攻めに反応して駆け上がる。

 

 

しかし、

 

『ここで鷹匠のスライディング!! 宮野止められる!! さぁロングボールだァァァ!!!』

 

 

フォワードであるにもかかわらず、運動量豊富なプレーで宮野が加速する前に仕留めた。青葉ほどではない。彼は、奴の劣化版。それを止めなきゃあの怪物には触れることすらできない。

 

 

「えっ!?」

 

バランスを崩し、倒れこむ宮野は驚愕する。一切の迷い泣くプレスをかける鷹匠に怯えに似た感情を抱いたが、鷹匠はすぐに立ち上がり、全速力でカウンターに参加するのだ。

 

 

この試合に臨む鷹匠の気迫は、ETUの選手たちに強烈な威圧感を与える。あのルーキーが序盤の序盤で勝負所で見せる闘志は、尋常ではない。

 

 

そんなルーキーの気迫に支えられた左サイドの武藤が駆け上がる。当然マッチアップするSB石浜だが、簡単に振り切られる。

 

——————何年ここを守ってきたと思ってんだ。ぽっと出の若手に、止められてたまるかよ!!

 

 

試合への臨み方が違う、入れ込みが違う。石浜は何もできずに突破される。武藤の高精度クロスがレアンドロに入る瞬間を見ることしかできない。

 

 

『ここで、レアンドロぉぉぉ!! ああっとこれもクロスバーの上!!』

 

 

そんな武藤のクロスにダイレクトでボレーを叩き込もうとした助っ人外国人。浦和イレブンからほとばしる闘志は、ピッチにいるレアンドロに当然のごとく流れている。

 

 

 

 

「~~~~~ッ!!!!」

 

 

 

 

そして仕留めきれなかった瞬間に激しく悔しがる。大声を上げ、咆哮するレアンドロ。ETUのゴールに向かって咆哮する彼の仁王立ちする姿は、ベンチにいる達海にも高い警戒心を与える存在となる。

 

 

———————強豪が強豪擬きのうちに、ここまでぶつかってくるのは完全に想定外だ。

 

まだ強いチームと言えない。むしろ、青葉頼みのサッカーとなっているETUにとって、浦和は辛い相手なのだ。

 

 

椿が独り立ちした?

 

 

逢沢駆が活躍している?

 

 

否、ETUはまだ全然変われていない。あの頃の達海に引っ張られて活躍する選手たちと同じだ。

 

 

青葉という絶対的エースの与える安定感が支えているのだ。

 

 

 

 

劣勢状態のまま、巻き返しが出来ていないETU。左サイドの怪物は、本来の動きが出来ていないのか、ここまで目立った活躍を見せていない。

 

 

 

『レアンドロ選手の長身が活きますね。他の選手はまずカウンター阻止のために近い選手がとりあえず潰しにかかる感じですね』

 

絶対に点を奪わせはしないという気迫が伝わる11人の浦和の赤き戦士たち。フォワードの鷹匠もハードワークを惜しまない。前線から全力で戻り、カウンターの際はレアンドロをサポートするべくスプリントを繰り返す。

 

 

 

浦和は、ベンチメンバーを含めて攻守のポリバレントを忠実に遂行していた。

 

 

 

 

だが、ついに左サイドの怪物が動き出す。

 

 

—————見事だ、さすがは日本一熱い魂を持つチームとサポーター。

 

 

サイドから青葉がビルドアップ。スラロームドリブルでヌルヌルと脇を抜けていくと、奇抜ドリブルフェイントを披露する。

 

「!? なっ!?」

 

 

ダブルタッチの加速ではなく、ツータッチ目の左足がヒールトラップ。切り返しを狙った青葉を警戒した浦和の選手だが、ここで跨ぎフェイント。その足が左足であるということが問題なのだ。

 

「うわっ!?」

 

左足のアウトでずらしながら距離をとり、左足が地面に付いた瞬間に動いていた右足で位置取りを変え、さらに加速。相手にボールを奪われないよう、背中でブロックしつつ、合気道オフェンスでチャージを受け流し、逸らす。

 

 

ここまでの相手は、衝撃を受けながら倒れこむ光景が常であった。しかし、浦和の選手たちが違う。

 

 

 

「なめてんじゃねぇぞ!! ルーキーッ!!!」

 

 

「!?」

 

完全にバランスを崩し、すぐに動けるはずはないのに彼らは無理矢理肉体を奮い立たせる。数秒の刹那のうちに後方より襲い掛かる姿はまさしく亡者そのもの。

 

 

バイオテロを題材としたパニック映画なら、間違いなく空からとびかかってくるあの系統を連想させる執念深さは、さすがの青葉にも驚きを与えた。

 

——————あまり時間をかけるとこちらが潰されるな。

 

数的不利を突破する青葉だが、それは一時的なもの。その体力と覚悟が継続するなら、時間をかければ包囲されて潰される危険がある。

 

 

だからこそ、続く二人目を切り返しで躱した瞬間、青葉はトップスピードのそのさらに先へとギアをあげる。

 

 

—————この怪物、ここでまだギアを上げるのかよ!! 逃がすかァァァ!!!

 

 

前のめりに崩れる相手選手を尻目に、その場から超加速する青葉。ここでWGとWBを切り伏せた青葉が中央を見るが、

 

 

—————駆に対してはきついな、これは

 

中央で飛び出してきた椿へとパスを送る青葉。ここで彼のスピードに賭けることを優先したのだ。青葉は自分のボールを受けた位置が低すぎることを理解していた。

 

だからこそ、別の場所で動く椿を選択し、それは最良の答えだった。

 

 

サイドを制圧されたために、青葉に視線が集中する中央で、その隙をつくかのような椿の飛び出し。ボランチを置き去りにする椿の突破がさく裂する。

 

『鮮やかなフェイントからスルーパス!! 周り見えています、宮水青葉!!』

 

『そしてここで椿だぁ!! 快足MFが中央を上がっていく!』

 

————ここで、僕が張り付かれているとき、チームを助けるには

 

世良の動きやすい位置取りに行くこと。駆はここで越後をつりながら世良の場所へと向かう。正確に言えば、世良をマークしているディフェンダーを反応させようとするためだ。

 

 

駆はここで首を振る。越後が動かない。ここで選択肢が生まれる。世良のディフェンスをつろうと考え、越後にマークされている自分が囮になればと考えていた。

 

————駆!?

 

恐らく、この場から離れれば越後はすぐにチャージをかけてくる。残りボランチもしっかり中央をケアする状況下で迷いは禁物。

 

椿は駆の意図をここで理解する。そして、下がり始めた駆とのワンツーを狙うのだ。当然越後がやってくる。

 

————ワンツーか!! ラストは世良か!

 

世良に張り付いていたディフェンダーが悟る。狙いはワンツーからの飛び出し。ターゲットは前線で駆け引きを行い続けている世良。

 

 

椿からの鋭いパスが駆に通る。しかしここで越後が体を入れる。

 

 

—————お前に今日仕事はさせない、ルーキーィィィ!!!

 

 

 

世良がしっかりケアされている局面。駆は中央の椿に戻さざるを得ない。しかしここで椿は別の景色を見ていた。

 

トンっ、

 

ダイレクトではたいた先にいるのは、背番号17。その光景を見ていた椿は、自分の試みが間違っていないことを悟る。

 

 

—————ドンピシャ、だね。青葉君

 

 

『椿からのふわりと浮かしたボールに、ダイレクトぉぉぉぉ!!!! 決めたァァァぁ! ETU先制!! 決めたのはやはりこの男!! 前半40分!! 一瞬の抜け出しから最後はキーパーの足元を抜く、技ありのダイレクトシュート!』

 

 

力強いシュートモーション。青葉は寸前まで確かにファーサイドを狙っていた。しかしその寸前で彼は優しいボールタッチで飛び出したキーパーのがら空きとなった足元を狙ったのだ。刹那の思考でゴールをもぎ取った彼は、さすが日本代表の強化試合でワントップ起用されただけはあると言える。

 

浦和の選手たちはオフサイドではないかとアピールするが、判定は覆らない。映像から見えるように、中央のやり取りを何度も見ながらスプリントする青葉が、ラインぎりぎりに到達する直前、オフサイドギリギリのタイミングで抜け出ていくのが確認された。

 

『椿選手もよく見えていましたよ!! こういう4人目の動きというのは稀です。しかし、各々がしっかりコースを決めていたのがよかったですね』

 

 

それでも、浦和も負けていない。CK、レアンドロとの競り合いを制した黒田だが、競り勝った瞬間に鷹匠のプレスを食らう。

 

「ぐっ!!」

 

たまらずエリアの外に出す黒田だが、続くロングスローでレアンドロをおとりに使われたのだ。ボールをキープしたのは司令塔の多田。今回STとトップ下と獅子奮迅の動き。

 

尚もセカンドボールを拾った多田がボランチに預け、スプリントを開始する。ワンツーから、杉江が予想するも、

 

 

————決めろっ!!

 

杉江の背後から、石浜のマークを振り切る鷹匠の姿を緑川が目にしたのだ。完全に先手を打ったポジション取り。ボランチがWBにボールを渡さずサイドを抉り、WBは近めのポジションでサポート。

 

WGが明けたパスコースを利用し、石浜が遅れてしまったスペースを見逃さない。ボランチが中に入った鷹匠めがけてスルーパスを通す。

 

—————やはり鷹匠か!!

 

杉江は彼が浦和の点取り屋であることを知っている。だからこそ、彼にボールを渡すことも。しかし、その杉江の動きに反応し、その上をいくものがいた。

 

多田だ。彼がパスをカットしたのだ。その瞬間杉江の動きが止まり、レアンドロを経由してのパスコースが出来てしまう。が、これはまだ杉江が対応可能な角度。

 

だが、ここで左WGが多田からパスを貰い、タメが作られる。彼のミドルかと思った矢先、レアンドロへのパスコースが完璧に構築されてしまった。

 

最後にレアンドロに縦パスが入り、ダイレクトヒールでフィニッシャーへとボールが渡る。

 

ラストパスに反応した鷹匠は、緑川に反応すら許さない超速シュートを叩き込み、咆哮する。

 

 

 

「見たか、ETU!!! 俺たちは、すぐに追いついてやったぞッ」

 

 

先制ゴールを決めた青葉を睨みつける鷹匠。まだまだ疲労感はない。むしろ試合に入り込んでいるためか、気分が相当高ぶっている。体の奥からエネルギーがにじみ出る彼は、相当なアドレナリンを出していた。

 

 

 

『鷹匠だァァァ!! 突き刺さったァァァ!! 浦和同点!! アディショナルタイム1分に追いつきます!! 決めたのは高卒ルーキーの鷹匠!! 今季3得点目!!』

 

最後トリックプレーで同点に追いつかれたETU。完全にレアンドロをおとりに使い、出し抜かれた失点。

 

 

「やるなルーキー!! あのダイレクトは勇気を貰ったぜ!!」

 

 

「まだ後半もあるんで、次も決めますよ、俺は!!」

 

 

俄然勢いに乗る浦和。選手個人の能力では劣るかもしれないが、主力がいない状況で一致団結する強さを手に入れたのだ。今の彼らはハードワークを惜しまない。

 

 

オォォォォォォ!!   オォォォォォォ!!!

 

 

 

ドドドン、ドドドン!!!

 

 

 

——————鷹匠!! 鷹匠!! 鷹匠!!

 

 

 

 

ドドドン、ドドドン!!!

 

 

 

「俺たちのルーキーは、日本一なんだよ!!」

 

 

「あいつの闘志は、浦和をさらにアツクするんだ!!!!!」

 

 

「舐めるなよ、ETU!!!」

 

 

 

そして止まらないルーキーコール。無敗の赤黒軍団に挑んだ名門チームのサポーターたちの声にも活力がみなぎる。

 

 

「———————ッ」

 

その光景に逢沢駆は嫉妬を覚えた。言いようのない恐怖を感じていた。そして、その光景に対し、自分への怒りが倍増する。

 

———————アウェーの地で散々慣れたつもりの自分を、殴りたくなる

 

 

アジアの、異国のピッチで、彼は活躍した。間違いなくできたのだ。なのに、浦和の迫力に呑まれていた。

 

 

「——————これが、浦和の力―—————」

 

そして椿は、興奮していた。ここが、こんなにも活気のある場所で、こんなにも熱くて楽しい試合になって、そんなゲームに自分が立っている。

 

観客席では、胸が張り裂けるのではないかと心配するほど声を出しているコールリーダーとサポーターの群勢。

 

 

目の前には、自分たちに闘志を見せる浦和イレブン。

 

 

 

——————俺たちは、そんなすごい試合にいるんだ。

 

 

頭が冴える。気持ちが昂る。椿は、無意識のうちに笑顔となっていた。

 

 

 

 

 

「—————くそっ、最後ずらされたか」

 

「気にすんな、スギ! まだ振り出しだ!! あのルーキーは俺が潰す! これ以上向こうの若造にやりたい放題は無しだ!!」

 

「俺のミスもあった。レアンドロにいい形でボールを渡さないよう、俺も中はケアをする」

 

セントラルでプレーする杉江、村越、黒田が話し込む。しかし、浦和の疲労は見るからに明らかだ。ダイスラー監督も手を打ってくるだろう。

 

 

両者譲らずといった試合展開。宮水青葉、鷹匠瑛。チームのエースとして君臨しつつある両エースがゴールを決め、緊迫の展開を見せる第六節。

 

 

「——————さすがだな、鷹匠さん。U20の勢いを持ち込んだのは、俺だけではないようだ」

 

前半の笛が鳴った後、二三言葉を交わす青葉と鷹匠。

 

「お前に追いつけなきゃ、世界で頂点とか夢のまた夢だろ? 俺は見たいんだよ、傑がいない日本代表が、カップを掲げる瞬間をな」

 

不敵な笑みを浮かべる鷹匠。青葉が世界を獲りに行く、ビッグクラブからの注目を集めていることはわかっている。ならば、その彼らとの試合で自分のチームをかなり助けることが出来れば、道は開けるかもしれない。

 

—————青葉だけを見るんじゃねぇ。俺も見ろ!

 

日本の若手はアイツだけではないのだと、知らしめるために。

 

「言ってくれるな、鷹匠さん。味方だと頼もしいが、ここでは厄介以外の何者でもないです」

 

 

 

そしてベンチの飛鳥は、そんな鷹匠を見て杉江にあることを告げる。

 

「同年代の活躍は嬉しいですけど、ここでは悔しい以外ありません。このままゴールを割られるのは御免です。なので、もうゴールを奪わせないでください」

 

「そうだな。ここでゴール前を閉じなければ、ペースを握れない。あのルーキーが一つの形になっている。後半はちゃんとケアするさ」

 

守備の為の攻撃、攻撃の為の守備。全ては切り離すことが出来ないのがサッカーだ。自分たちが浮き足立てば、ETUがぐらつく。その責任感を胸に、センターバックコンビは奮い立つ。

 

「期待しています、スギさん。」

 

エールを送る飛鳥だが、その拳は固く握りしめられていた。

 

 

———————この試合、スタートから出たかったな

 

こんなにも身を削るような修羅場、最初のピッチから楽しみたかった。だからこそ、彼は食い入るように戦況を見つめている。

 

 

 

 

新進気鋭対創設以来の名門。この第六節屈指の好カードを制するのはどちらだ。

 

 

 

後半に入る前、達海は鷹匠に対しては黒田。杉江がレアンドロを見るというマークの変更を行った。そして、村越には常にアンカー気味に下りるよう指示を出した。

 

「スギの実力を疑うわけじゃねぇけど、レアンドロはリーグでも飛びぬけたフィジカル自慢。何より奴は冷静だ。だからこそ、スギとコシの二人掛かりでケアをする」

 

「ああ。やはり奴の視野は広い。サイドへボールをすぐに散らしたり、その後のクロスをお膳立てするのは脅威だった。最後のラストパスも周囲を見ていなければとても出せるものではないな」

 

「我慢の時間帯が続くが、世良と逢沢は高めのポジションを取ってほしい。宮野と宮水はサイドに張りつつ、クロスを供給。椿がスペースを見つけたら、まずは椿にボールを預けること。戦術を変えるタイミングは俺が手でサインを送る。その時は宮野、中に絞る動きを解禁しろ。後、青葉に関してはその辺りのプレーは任せる。ただし、守備をサボるなよ?」

 

「うっす!」

 

 

「…はいッ」

 

 

「了解です」

 

 

「分かりました。けど俺が、こちらのサイドが破られるのを見過ごすと思いますか?」

 

 

「愚問だったな。あと、椿が中央突破を狙う際は、中央を開けてコースを作ってあげること。世良と逢沢は距離を取ってサポートできる位置に、もしくはパスを受けられる状態を常に意識しろ。ゴール前誰かがヒーローになれると思うから、集中しろよ、攻撃陣」

 

 

「サイドバックに関しては、あちらの運動量も落ちてきているし、宮野が中に入りだしたら、空いた外を有効に使うこと。ハマのフィジカルと突破はここで活きる。味方に遠慮するようなクロスではなく、ホームランになるのを避けつつ、シュート性のクロスをどんどん入れろ。ゴールへ向かってくるクロスは、それだけで嫌だろうしな」

 

「うっす!」

 

「丹波と堀田は、状況次第で出番があるかもしれないからアップのペースを上げろ」

 

 

夏木に関してはこの競り合う展開でまだ出すには未知数過ぎる為、今回は見送られた形となった。

 

後半も一進一退の攻防とはならず、前半のオーバーペースを抑えるプレーに徹する浦和。対するETUは、後半になって大人しくなった浦和に戸惑いを覚える。

 

—————前半のプレーは威嚇。いつ何時スイッチが入るかは私が握っている

 

ダイスラー監督は、ETUが同じようにスピードを緩めた瞬間を窺う。その時こそ、前半の動きが活かされてくる。

 

なぜ前半はあのプレースピードで止められたのか。そして後半は、温いスピードに陥ったETUが前半のそれよりもギアを入れにくい状況を作る。

 

突然の攻勢に、彼らはまたしても戸惑うだろう。そして我々はやりやすさを感じるだろう。

 

彼らがそれに応じず、前半と同様に攻撃的に来るのであれば、レアンドロと鷹匠に点を取らせるカウンター戦術で応戦するまで。

 

 

そのダイスラーの二重の罠に対し、達海は不敵な笑みを浮かべる。

 

—————どちらの戦術もリスクが孕むか。やってくれるじゃねぇか、ダイスラー

 

 

しかし、達海の采配は揺るがない。

 

————どのリスクを背負うか。俺は最終ラインと、このチームの象徴に全部を賭ける

 

 

達海の指示は攻撃的に行けという指示。つまりそれは、黒田と杉江、村越があの二人を抑え込むことを信じたということ。

 

 

—————あの野郎、舐めた指示を出しやがって!

 

 

そうはいっても、黒田は口元が崩れていた。達海は鷹匠を抑え込めると黒田に期待したからこそ、この戦術を選んだのだ。

 

杉江も村越も、全力を賭して彼らを止めると意気込む。

 

 

その采配に関し、浦和は押し込まれる展開が続く。サイドから高めの位置でチャンスメイクに徹する青葉と宮野。そしてこの状況で青葉が一つチャンスを作る。

 

村越がファウル覚悟でカウンターを阻止し、今期3枚目のイエローカードを貰うものの、直後に杉江がレアンドロに競り勝ち、黒田が鷹匠とのセカンドボール争いを制し、村越にパス。

 

『ここでルーキーに仕事をさせません、黒田! 見事な体の入れようでボールキープ!』

 

 

村越は、逢沢がするすると中央に降りてくるが、逢沢の指した方向でスプリントし始めた青葉を捉えていた。

 

 

『ロングボール一本で裏にロングパス!! そしてこれに届く宮水!! 一気にチャンス拡大のETU!!』

 

フェイントももはや関係がない。青葉と競りに来るのは最後尾を守る主将の越後。

 

————くそっ、左足だけは

 

カットインからの左足は彼の得点パターンだ。しかし、今回の彼は左サイド。左足を信頼するならば、この場合縦という選択が一番近いだろう。何よりこれまでのリーグ戦での彼を見て分かったが、彼の間合いは遠ければ遠いほど完ぺきに抜き去られている。

 

彼に見えている間合いは恐らく半円。そこで下手な動きをすれば即座に抜かれることが彼には分っていた。

 

 

トト、トン、

 

 

予想通り、左足に持ち替えた青葉を見た越後ではあったが、その直後に左足のヒールで止め、右足に預けたのだ。その瞬間に急に止まるという芸当を披露して。

 

ズレる距離間、越後自身が考えていた半円から自分が締め出される。右足に持ち替えたことで、今度はカットインの可能性も出てくる。

 

そして、体の姿勢をひねりながら青葉が仕掛ける。重心が左足へと動き、半身がゴール前に向いている。

 

トン、

 

滑りながら転がる縦へのボールを目の当たりにする越後。直後に体勢を変えた瞬間にはスプリントしている状況の青葉に縦を抜かれたのだ。

 

————な、何が—————

 

ファウルで止めようにも、もう足が届かない場所にいる青葉。言語化できない。今何が起きたのがか分からない。正確に言えるのは、自分が出し抜かれ、彼を止めないといけないことだ。

 

まるでボールを足で持っているかのような転がし方だった。その直後に全力疾走で走る青葉の姿。そのフォームは走るのに適した格好であり、警戒しながら距離を縮めていた越後が追いつくのは不可能なのだ。

 

ゴール前はキーパーが一人。中央からCBがカバーに入ってくる。そのままPA内でカットインする青葉。キーパーはニアサイドを閉めている。

 

その瞬間、青葉は妙な感覚に入り込んでいた。さらに近づいて確実に叩き込めばいい。その上を往く選択肢が突然閃いた。

 

そのひらめきが頭をよぎった瞬間、目の前の景色が変わる。景色を言語化できる。目の前の選手の次の動きが明確に分かる。しかもそれは、重心で相手の動きを判断した類ではない。

 

キーパーだけではない。カバーに入るディフェンス、大外から向かってくる味方の選手の動き、目に見える全ての動くモノの未来が分かるような感覚。

 

 

その瞬間彼は、世界を感じた。今まで見たことがなかった、閃光のような未来が一瞬だけ見えた。

 

 

 

浦和のキーパーには、青葉の強烈なシュートスピードは頭に入っている。少しでも間を開ければ確実にねじ込んでくるのと。

 

トンっ、

 

カットイン直後にキーパーがニアを閉めたのを確認した青葉の決断は迅速だった。逆サイドのサイドネットを狙った弾道の高い左足のループシュート。キーパーの手が届かない、かつニアサイドを最後まで警戒した彼の裏をかくゴールへのラストパス。

 

 

 

そして彼のイメージ通りにサイドネットは揺れ、クリアしようとするディフェンダーがそのままゴールにゴールインするという光景が再現される。

 

 

このカウンターで、浦和の最終ラインは青葉を止めることが出来なかった。

 

—————これが、16歳だと?

 

 

 

 

プレースピードと判断が早過ぎる。そしてタイミングも完璧だった。全ての情報量を処理し、ミスなく行える技術。

 

16年間で身に付ける類のスキルではない。

 

 

しかも、その不可思議な雰囲気を持つ青葉は、そのまま不変だということが恐ろしいのだ。

 

『浮かしてシュートぉぉ!? 入ったァァァ!?! 後半7分!! ETU勝ち越し!! 再び浦和を突き放します!! 技ありのループシュート!! キーパー崩れて届かず!!』

 

『なんて言うんでしょうか。彼のプレーを言語化するのは簡単ですが、実行するのは相当難しいですよ。ニアを警戒したキーパーが間合いを少し変化したという情報と、越後選手を抜いてカットインするまでの時間。その場で考えるのは困難です。コースはなくなっていたでしょう。しかし—————なんでしょうかね。未来が見えているんでしょうか? 冗談でもそんな風に思えてしまいます』

 

 

その青葉の単独突破が試合の流れを変える。ゴール前で決定的な仕事を果たすその姿は若輩ながらエースの貫禄。当然ながら青葉に対するマークはきつくなる。

 

 

しかし、これで何もできなくなる選手でないというのが彼だ。自分へのマークがきつくなるとみるや、ワンタッチプレーやデコイで相手を釣るなど、献身的なプレーに徹するようになるのだ。

 

左サイドの攻撃を警戒するあまり、逢沢から出されたラストパスに反応した宮野に対し、あまりにも脆弱な一面を見せることになった浦和。

 

 

『スルーパスに反応して、宮野ぉぉぉぉ!!! あっとクロスバー!! シュートはクロスバーを叩きゴールならず!! 浦和の左サイドを突いた逢沢の見事なスルーパス!! 宮野のシュートは惜しかったですね』

 

 

『抜け出したからトラップまで全部イメージしていましたね。準備が出来ていたんでしょう。ETUの攻撃陣は準備が良いですねぇ』

 

青葉をマークすれば他の面々へのディフェンスが緩くなり、かといって青葉をフリーにさせると単独で決められる。なおかつ、彼から状況を打開できるプレーも出来なくはない。

 

 

『ここで左サイド宮水にパス!! しかし、すでに3人に囲まれ———ルーレットからの股抜き!! サイドから一気に三人を抜き去ります!!』

 

 

サイドでボールを貰った青葉は、中に入る動きと見せかけ、トラップの段階からのマルセイユ・ルーレットで一人目を躱し、サイドをケアしていた相手選手を持ち前のスピードとまた抜きで抜いて見せたのだ。残る一人はプレーに関与できずに棒立ちという酷い有様。

 

そして、ゴール前越後が青葉を見てしまったことが致命傷だった。否、青葉を越後が見なければそのまま彼に突破されていただろう。

 

 

中央の逢沢、ニアサイドの世良でもなく———————

 

 

 

『弾道の速いロングパス!! カーブを描きながら、大外の椿、ボレーシュートぉぉぉぉ!!?  決めたァァァぁ!! 浦和相手に3点目ぇぇ!? 世良に釣りだされたディフェンスが開けた大外のスペースを見ていました、宮水青葉!! そして、ボレーで叩き込んだのは目下売り出し中の高速MF!!』

 

 

 

『新たな時代を築くか、ナンバーセブン!! 椿、大介ぇぇぇ!!!!』

 

 

 

 

『後半13分 立て続けの失点でリードを広げられる浦和!! 苦しくなってきました!』

 

『速いですねぇ、判断が。視野も広いとかそういうレベルではないですよ。ふつうは三人抜いて直後にパスなんて出せませんよ! 少し上手い選手でも世良へのラストパスが来るくらいです。ですが、あの短時間で大外を見れるのは、ちょっと変態ですね』

 

 

『いい意味で日本人離れした宮水青葉の発想、そしてそれをくると予測していた椿。どっちも凄いですね』

 

 

達海が常日頃から言っていたゴール前で準備しろという言葉。それ以上のことは言わず、敢えて選手たちに考えることだけを強要させた。

 

世良は献身的にニアサイドへ飛び出すようになり、中央には逢沢。椿はその状況次第で中央からファーサイドに流れる。宮野は今回遅れたが、青葉の突破をさらに信用すればこの輪の中に入っていただろう。

 

 

————もし、ニアサイドに相手が強烈につり出されたら、ターンで受けてもいいかも

 

ゴールの後にも世良は考える。ニアサイド一辺倒では壁にぶち当たると考えて、準備を意識する。だが、世良はスーパーゴールを決めた椿に闘志を見せる。

 

—————普段はチキンなお前が、ド派手に結果出しやがって!! 俺ももっとゴールを奪ってやるぜ!!

 

決して嫉妬しているわけではない。ただ、負けてられない。去年まで実績皆無だった男同士。簡単に引き離されたくないのだ。

 

 

 

 

ゴールを決め、もみくちゃにされた椿は確かな手ごたえを感じていた。

 

 

——————俺はまだまだうまくなれる。

 

 

スペースを見つけた自分を青葉は見てくれていた。青葉は絶対にゴール前でチームを裏切らない。

 

 

———————ボールを持っていない時の動きが、これでもかと必要だとわからせてくれる。

 

 

ドリブルの名手に、それを教えられた。椿は今、ものすごいレベルで成長している。

 

 

けどいつか、目の前で全員を引っ張る青葉のように、自分がみんなを巻き込めるような、そんなすごい選手への渇望を、椿はついに得ることとなった。

 

 

勝つしかない、自分が引っ張らなければ、ではない。椿自身が、それを望んだからだ。

 

 

 

 

ベンチでは、椿がまた一つ成長した確かな軌跡を感じ取った達海監督が静かに笑う。

 

 

——————ちゃんとわかっているじゃねぇか、椿

 

 

まるで導かれるように、決して光を浴びながら駆け抜けた過去ではなかった彼に、アドバイスを送った。

 

 

彼のメンタルを支える言葉を送ったつもりだった。

 

 

しかし、椿の成長は達海の想像をはるかに超えた速度で進行している。宮水青葉の存在に引っ張られ、本当に彼の次元と同じ場所でプレーできてしまうのではないかという確信が、彼にはある。

 

 

——————もっと、魅せろ。もっと驚かせて見せろッ!

 

 

お前はまだ、こんなものではないはずだ。シーズン終了後の彼が、待ち遠しくて仕方なかった。

 

 

 





ダイスラー「まだだ、まだ終わらんよ」


達海「ダメージやばそうだな、この試合の後・・・・」



ダイスラー「浦和の声援は、選手の体力を回復させるのだよ」

達海「!?」
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