騎士見習いの立志伝 ~超常の名乗り~   作:傍観者改め、介入者

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今日はここまでにします。

第一話から読み進めてください。




第二話 貴女は誰?

代表決定戦前日。海王寺は青葉がSCを抜けてFCに移籍してしまったことに憤りを隠せないでいた。

 

「あの野郎、近藤さんの期待を裏切りやがった。」

 

翌日から何事もなかったかのように青葉は同好会でサッカーに励んでいた。しかも、無気力やチームプレーに欠けた動きの多かった彼のパス数が増えていた。

 

それは、彼にとってSCにはパスをする相手すらいなかったということに他ならない。

 

 

昼休みに、青葉は沢村と織田に面をかされることになる。

 

「どういうつもりだ、宮水。チームを抜けてなぜ同好会に移籍した?」

 

厳しい瞳を隠そうともしない織田。規律を重んじる彼の性格的に、宮水の行為は最悪の裏切り行為だ。しかも、チームの中でも彼に期待する声が大きかっただけに、その反動は大きく、動揺が広がっていた。

 

「―――――確かに規律については堅苦しいところがあるかもしれない。だがうちは堅守速攻。お前のスピードが活かされることだって――――」

 

沢村も、移籍について今ならまだ間に合うと説得を試みていた。

 

 

「―――――理由は、葉陰学院が予想よりも弱かったことがまず一つ」

 

青葉は、ここでは全く関係のない強豪校の生を出し、それを理由に使った。

 

その強豪校と対戦した江ノ島は、惨敗を喫していた。

 

「―――――なら、俺たちはお前の言う葉陰よりも弱いということか!!」

単純に考えれば、江ノ島は葉陰に惨敗した存在だ。強豪校が弱いと思うなら、それに負けた自分たちはどうなるんだと。

 

 

「タレントならうちの勝利ですよ。タレントならね」

青葉は掴みかかってきた織田に抵抗もせず、真剣な瞳で、自分にとってのあたりまえを言い放つ。

 

「しかも、手かせをはめられた状態。小粒揃いの似非強豪校に遅れを取るほど、江ノ島は自虐が好きみたいですね」

 

 

「どういう意味だ、宮水。うちは全力で勝負をしていたぞ。」

 

手枷。それはどういう意味だ、と沢村が質問する。

 

 

「まずは戦術。先輩方にとっては楽な戦術ではありませんか?」

カウンター任せの単純な戦術。フィジカルの割合を占め、計算づくされたリトリートディフェンス。

 

「効率的な方法だからな。しかも勝率もいい。今までいろんな方法もあったが、これが江ノ島のやり方だ」

 

織田は何を当たり前のことを、と青葉に対して不審な目をしてしまう。

 

「そして、テクニシャンの多くはFCに集まってしまっている現実。これがどういうことかわかりますか? 今の江ノ島は、全力を出し切れていない。他の高校とは違い、サッカー部としてスタートすらしていない」

 

 

「―――――お前は、自分が言っていることが何なのかを理解しているのか?」

沢村は、青葉の言う言葉を理解し、そんなことが可能なのかと動揺する。

 

 

しかし、青葉は真剣だった。葉陰学院の試合でもフィジカルでは負けていなかったディフェンス陣。中盤でボールをキープできた織田、そして黒子役としてチームに貢献していた沢村。

 

他の面々も、個人としての能力なら勝負は出来ていた。

 

劣っていたのはチーム戦術。そして個人の姿勢だ。

 

 

「―――――江ノ島高校のFCとSCの統合。これこそ、全国制覇の近道に他ならないんです、先輩方」

 

 

 

「――――絵空事だ、そんなのは」

壮大な野望を掲げる青葉に対し、織田は冷めた口調で言い放つ。

 

裏切り行為をした相手に対して怒りも消えていた。しかし、彼の言葉を理解しようとも思わない。

 

「そんなことが出来ていれば、10年も分裂したままであるわけがない」

そう言って、織田は感情の失せたようなつぶやきを残し、屋上から去っていった。

 

「織田!? 宮水、それはお前ひとりの考えなのか?」

 

 

「ええ。ですが、あの試合で俺は宣言します。江ノ島は、いい加減一つに纏まるべきなのだと」

 

覚悟を秘めていた。裏切り者とののしられても、この学校の中で一人だけ別の次元を見ている。

 

思えば、入部当初から彼の出すパスは鋭かった。特にゴール前での起点となるパス、アシストは彼のパスに操られたかのように最適な選択肢が分かる。

 

去年に相対した荒木のようなパスとも違う。

 

 

彼は意思を垣間見せる。そして苛烈でもある。彼は、ゴールに最も近い選択をパスに乗せているのだ。

 

 

その苛烈なパスから、周囲とはだんだん溝が出来始め、パスの数も激減した。しかし、沢村と織田はその時違うことを考えていた。

 

――――あと少し、動き出しが早ければ

 

厳しいパスを貰ったのに、まず考えたのが其れだった。彼を責めるという気持ちがわかなかった。

 

「―――――互いにいい試合をしよう。主将として、今はそれしか言えん」

 

 

「――――ええ。覚悟してくださいよ。特に、俺なんかに手心を加えたら、まずいですよ」

 

互いに握手をする沢村と青葉。そこにはもう選手と選手の果し合いにも似た状況が生まれていた。

 

沢村は今度の試合で一番脅威となる青葉を強く意識した。

 

 

青葉は江ノ島が変わるための一芝居をする覚悟を決めた。

 

 

それぞれの覚悟を胸に、彼らも屋上を後にするのだった。

 

 

一方、屋上に織田と沢村とともに向かった青葉に取り残された状況の颯は――――

 

 

「はぁ……大丈夫かな、青葉さん」

 

「大丈夫よ。織田先輩は規律には厳しい人。少しひと悶着はあるかもしれないけれど、そこまでのことは起きないわよ」

 

「そうだよ。青葉さんなら何とか突破してしまいそうだし」

 

友人となった美島奈々、逢沢駆とともに昼食をとっていた。

 

サッカー部のマネージャーにしては、サッカー経験者の動きをしている奈々。サッカーの戦術についても、経験者である自分を大きく上回っており、とても悔しいとさえ感じていた颯。

 

――――この子、何者? あの世界では影も形もなかったのに

 

改変前の世界では、こんな子はいなかった。というより、青葉の気まぐれで選んだこの高校が全国に来ることもなかった。

 

そして見てしまった。

 

美島と逢沢が公園でボール遊びに興じていたところを。

 

「―――――なん、なの……彼女……」

 

フィジカルに難がある、彼が相手とは言え、とても女子とは思えない。いや、女子だからこそ可能なフェイントの数々。

 

男子学生を圧倒する技術の高さ。あんな選手がもし中盤にいればと思わずにはいられなかった。

 

――――なぜあの世界で貴女は現れなかったの?

 

その様子を邪魔することなく、じっと観察する颯。

 

 

なでしこを背負う、エースになる。かつての親友はそう豪語していた。しかし、彼女はチームの中で孤立し、自分が気づくまでかなり浮いてしまっていた。

 

メンタル的にも自信を失い、フォローがないからボールロストもしてしまう。精彩を欠いた彼女は五輪メンバーから外れ、問題児として扱われた。

 

 

――――ごめん、ごめんね。私、颯の夢を背負うことが出来なかった

 

泣きながら謝る彼女を抱きしめ、悪くない。舞衣は全然悪くないと慰めることしかできなかった。

 

リオ五輪では男子の台頭とは対照的に、女子は予選リーグで敗退し、まさかの結果となってしまった。

 

――――もし、私がいい子だったら。あそこにいられたかな?

 

女子サッカー代表が負けた時に、舞衣は自嘲するように颯に聞いてきた。

 

――――舞衣は、サッカー選手として当たり前のことをしたの。仲良しこよしで勝てるほどサッカーは甘くないわ。

 

強くボールを要求する。表現する。自分勝手と勘違いするな。彼女のエゴの根底には、チームが勝利するため、自分のできることという根っこがあったことを周囲は知らなさ過ぎた。

 

チームのエースとして期待された彼女は、バッシングこそ受けなかったが、代表から外れたことで、伸び悩んだ、もしくは頭打ちといった言葉も聞こえてくるようになった。

 

 

――――私、強くなる。今は評価がガタ落ちだけど、絶対に取り返して見せるから

 

大会が終了した後、彼女は強く宣言した。

 

 

その先の未来を、知るすべはない。

 

「どうして、貴女はそんなところにいるのよ、美島奈々―――――」

 

 

 

 

だからこそ、颯は奈々に対して苦手意識を持っていた。深く考えると自分がどうにかなってしまいそうだから。

 

「小野寺さん?」

 

怪訝そうな顔をして、こちらの様子をうかがう美島。声をかけられた颯はハッとして周囲を見回す。

 

「えっと、ごめん。少しぼうっとしていたの」

理由を言うわけにはいかない。少々お茶を濁すようなやり方でやり過ごす颯。

 

「大丈夫?」

 

「う、うん。大したことは、ないから……」

 

結局、颯は彼女がどうしてあそこまで高い技術を持っているのかを質問することは出来なかった。

 

 

 

「でも、入学早々小野寺さんは凄いね。なでしこのリーグチームに入団して、さらにはもうフル代表入りでしょ? すごいや!」

 

話題を変えようと逢沢がなでしこの話に話題を変える。すると、彼は気づかないが美島の表情が曇る。

 

「――――正直、まだ15歳の私がどこまでやれるかわからないけど、選ばれたからには全力を出すわ。」

 

小野寺にとっては、東京蹴球高校でのアピールが思わぬ場所でいい宣伝になっていた。高校サッカーではなく、すぐにプロ入りすら視野に入れた交渉が、神奈川の新居に来るとは考えていなかった。

 

悩んだ末に湘南の女子チームに入団することになった彼女は、江ノ島の顔として早くも注目の的だった。

 

「僕もいつか、代表に入って、絶対に―――――」

彼も颯の代表入りに触発されて闘志を燃やす。将来、兄が果たせなかった願いを必ず果たす。

 

そして自分はあの世界の舞台で戦うんだという気持ちが強くなっていた。

 

「なら、もう少しフェイントを上手くなることね。土壇場で切り込める力がなければ、そのFWは味方にも信用されないし、敵にも軽くみられるわ」

そうだ。単純に彼には個の力が足りない。ボールの流れを読み切る嗅覚と、その運動力。ディフェンスの穴を見つける本能的な才覚と、FWとして必要な資質をいくつか備えている。

 

しかし――――個の力が足りない。

 

 

「でも、FWに求められているのはそう言ってフェイントよりも、決定力だと私は思います。対人能力も、ワントラップで前を向けたり、裏抜けが出来れば関係ないわ――――」

美島はゴールに最も近い場所で精度の高いシュートを狙うことで、敵のディフェンスを下げることもFWにとって重要だと考えていた。

 

「いかにシュートが上手くても、ボールの置き所が悪ければシュートコースも開かないわ。いろいろ選択肢があることで、いいことも悪いこともある。」

 

颯は駆の眼を見て、真剣に話す。奈々の言うことも一理ある。しかし、当たり前のことが出来るだけでは一流のFWにはなれない。

 

 

奈々はあくまで駆のレベルに合わせて指導し、颯は荒療治が必要だと考えていた。

 

 

「貴方たちFWは、最初に敵陣に切り込む存在。その存在が相手に軽んじられる時点で形勢は不利なの。そして、それはチームの力量を測る物差しの一つにもなり得るわ。」

 

FWに対して、ある種の使命感にも似たものを押し付ける颯。

 

「は、はい」

颯に顔を近づけられ、ドギマギしてしまう駆。一方、奈々の方は少し面白くなさそうな顔をしていた。

 

―――駆にはまだ早いわ、小野寺さん。

 

しかし、彼女の意見が間違っているといえない自分がいるのも確かだ。

 

 

「貴方はその場合、敵の勢いを真っ先に感じることになる。貴方の影響力で、相手ディフェンスは上げてくるか、それとも下げてくるか。それは巡り巡ってチームの勝敗にさえ直結する」

 

脅威を感じるアタッカーがいれば、ディフェンスラインを下げてくるチームもいる。裏を抜かれたらたちまち失点の可能性がある。シュートが上手ければミドルレンジからも撃ってくるかもしれない。

 

そして、ドリブルで抜かれた場合、対処が困難になる場合もある。

 

「だから、貴方には位置取りが上手い選手程度で満足してほしくない。貴方は相手チームに恐れられるような選手になってほしいの。逢沢君が本当に日本代表のFWになりたいのなら、それほどのレベルを求めなくちゃいけない」

 

美島は、FWにかける颯の強いこだわりを感じていた。そして、その高い理想はいずれ彼をさらなる高みに成長する劇薬にもなり得ると考えていた。

 

――――間違っていない。間違っていないわ。でも―――――

 

 

今の彼ではまだ届かない。彼女の隣にいる、彼のような選手にはまだ届かない。

 

「確かに、FWにはいろいろな能力が必要よ。でもね、小野寺さん。」

颯にとってのスタンダードが宮水青葉になっている。それは危険な考えだ。

 

未熟な選手に対しての劇薬だ。

 

「駆と宮水君は違う。歩んできた道のりも、サッカー観だって違うのよ?」

 

その言葉に気づかされたのか、颯はハッと真顔に戻り、

 

「――――ごめんなさい、美島さん。そうね、少し舞い上がってしまったかも。ピッチに立つ駆君を見ると、何かをしてくれる雰囲気がある。きっと代表決定戦でも、練習以上の何かを見せてくれるかもしれないって」

 

顔を少しだけ伏せ、彼女に謝罪する颯。

 

「こちらこそ、ごめんなさい。私も少し意地になってしまったと思うの」

そして美島の方も我を通し過ぎたと謝る。

 

二人の少女が互いに気まずくなっている状況を見た逢沢は何とかしようと考え、

 

「だ、大丈夫だよ!! 僕はそんなに気にしていないよ! というより逆に参考になったから!! サッカーは主張し合うのが当たり前だし、セブンも小野寺さんも、真剣だったから……だからありがとう!!」

 

こんなことでしか、彼女らの気分を良くすることしかできない。自分のことで真剣に考えてくれた二人に、お礼の気持ちを見せないといけないと考えた逢沢。

 

「―――――本当にいい子ね、逢沢君は」

そんな彼の言葉に毒気を抜かれたのか、颯は微笑んだ。

 

「――――え、ええ。駆は本当にサッカーに真摯で、頑張り屋さんだもの。ずっと努力している姿だって見てきたから」

フンス、と駆のことを見てきたんだということを語る奈々。その仕草で颯は気づいた。

 

――――ああ、そうだったのね。

 

なぜ自分が一生懸命になったかわかった。彼と彼女は同じなのだ。

 

自分と青葉と、同じようにサッカーで努力しあい、刺激し合っている間柄なのだ。

 

だから親身になって、過剰にアドバイスをしてしまうのだ。

 

「―――――代表決定戦。必ず勝ちなさい、応援しているわ」

 

「はい! でも、青葉さんにも言わなくていいんですか?」

しかし、青葉のことについて何一つ語らない颯に対し、怪訝な顔をする逢沢。

 

「彼は勝手にやるわよ。私が心配するだけ無駄。むしろ手心を加えそうで怖いのよ」

 

 

その日の夕方、颯のもとに一本の電話が鳴る。

 

 

「―――――もしもし、小野寺です」

 

そしてその番号は彼女がよく知る番号の主。

 

 

『久しぶりね、元気にしていたかしら颯ちゃん。』

 

その声の主は一色妙子、現なでしこ日本代表のエースだ。

 

『あと数日に迫った今度の親善試合だけれど、そろそろ招集の日が近づいているわ。何も問題はないと思うのだけれど、もう一人だけ代表に呼びたい人がいるの』

 

まさか群咲舞衣がこの時点で呼ばれるのだろうか、と期待していた颯。

 

「この前U-15で活躍していた子ですか? もしくはなでしこリーグでブレイク中の楢崎選手ですか?」

 

 

『リトルウィッチィって名前、聞いたことある?』

 

 

「――――――なんですか、その名前?」

 

少しの間を置き、記憶にないと言い切った颯。

 

『そうね。記事になったのも、話題になったのもとても短いしねぇ。知らなくても仕方ないかぁ。』

 

少し残念な一色。しかし、なぜこの無銘に等しい二つ名を持つ選手が出てきたのか。その理由は明らかだ。

 

「その小さい魔女とやらを、今度の代表に召集するということですか?」

 

 

『ええ。颯ちゃんの学校にその子がいたからもしかしたらと思ったのよ。もしよければ颯ちゃんも同席する?』

 

 

 

「――――――私の通う学校に、その件の人物が!? どういうことですか妙子さん!!」

一瞬間をおいて、盛大なリアクションを起こしてしまう颯。まさかまさかの展開。その無名は自分の通う学校に在籍していると聞いて驚きを隠せない。

 

 

『お、大きな声を出さないで! びっくりしたじゃない!』

狼狽えたような声を出す一色の声が電話から聞こえる。さすがに驚き過ぎたと心の中でまず反省した颯。

 

「すみません、妙子さん。でも、そんなサッカーの上手い子、学校に―――――あ」

 

ものすごく思い当たる人物を発見した颯。なぜ今の話で気づかなかったのかと思わずにはいられない。

 

クスリ、と笑う一色。おそらく颯はその人物に心当たりがあるようだ、と考えた彼女はその名を口にする。

 

『美島奈々。アメリカと日本の国籍を持ち、現地で話題を掻っ攫った世代屈指のテクニシャンよ』

 

 

自分たちと彼女らは似ていると思っていた。

 

「美島、奈々………」

 

その時感じた感情は何だったのか。それは恐らくきっと

 

――――彼女と一緒にプレーするまでわからない。

 




もし彼女がいれば、と思わずにはいられない颯。

颯はやはり、舞衣ちゃんが気になるのです。


しかし、青葉の方はギャグ路線・・・・

青葉「俺、同好会に入るから。あと代表決定戦で( `・∀・´)ノヨロシク」

織田「ブチッ」血管の切れる音

沢村「破天荒な奴め」

酷い男である。

駆「もっと上手くなりたい」うずうず

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