騎士見習いの立志伝 ~超常の名乗り~ 作:傍観者改め、介入者
第九節を迎える直前、江ノ島高校では総体連覇への期待が高まっていた。新戦力の台頭と、既存戦力の成長。高いレベルでのベンチ入りへのサバイバル。
それは部外者になってしまった青葉や駆にとっても、目を見張る光景であった。
「————やっぱりあの子は入ったね、青葉」
「ああ。今期から志向した戦術の一つ4-2-3-1のサイドを任されるとは」
今までは、4-2-2-2や、4-2-3-1といった戦術を主にとっていた江ノ島高校。しかし今季はスピードや運動量に自信のある選手が揃うため、より4-2-3-1の戦術へと進化するべきと考えているようだ。
ベースとなるベンチメンバーはほぼ固められており、状況によってメンバーは変わるらしい。
GKには紅林、落合、林葉。主に彼らがベンチ入りをすることになる。登録時は2名になるなど、シビアな競争だ。
CBには武智が名を連ね、海王寺、錦織などの優勝メンバーが揃うなど、新戦力、既存戦力のバランスが取れている。SBにも青梅が左サイドで入ることになり、両サイド共に足元が上手く、運動量豊富な選手が揃うことになる。中塚も足元の技術が向上しており、クロスに関しては岩城監督の厳しいメニューを経ての改善がみられている。一方、選手権本選から出番が増え始めた藤田は、八雲の背中を見て成長した選手である。つまり、足元の上手さは守備陣随一。なお、中塚は終盤でSH起用もあり得る。
ベンチ予想メンバーと起用方法
CB 海王寺、錦織、武智、桜井
RSB 中塚、八雲、
LSB 藤田、青梅
中盤には、司令塔の荒木、織田といった力のある選手のほかに、堀川、真鍋といった潰し屋が控える。攻撃的ボランチ、トップ下の控えには蒼井亨介、一条龍が選出された。
CMF 織田、真鍋、堀川、蒼井亨
OMF 荒木、一条
サイドには、的場、兵藤の実力者が控え、一年生の矢沢、蒼井悠介が選出される。
RSH 兵藤、矢沢
LSH 的場、蒼井悠
そして、懸案のCFW。絶対的エースの高瀬と夏目が選出される。ポストプレーで絶対の自信のある高瀬は、いよいよ高校生相手ではボールロストする回数が極端に減り、敵なしといった感じか。夏目に関しては、裏抜けや異次元ハイプレスが江ノ島スタイルに合致し、さらにはフィジカル能力も上がり、スピードに特化した、万能型ストライカーへの道を歩み始めていた。特に夏目は二列目もツートップも出来る為、ベンチの幅を広げている。
CFW 夏目 高瀬
「——————何というか、実力が分かっているから凄いメンツだと思う。高瀬に空中戦で勝てる高校生はいないし、夏目は本当に成長したし」
夏目、高瀬の同時起用の際は、二人だけで点を取ったほどだ。まるで世界最高のツートップの関係性に似ていると言える。
「だよね。埼玉に凄いキーパーがまた現れたらしいけど、遠野さんほどじゃないしね」
埼玉には超高校級のキーパーが現れ、今年の勢力図は変わりそうだと言われている。一条曰く、桜庭の姿が見えないことに寂しさを感じているらしい。一条曰く、ドリブル技術は相当あったというのだから、青葉にしてみれば惜しいと思わなくもない。
——————東京でアンナが見たって聞いてますけど、情報を掴めなくて
消えた天才の行方を探る者は多い。最後に彼と話したのは武智らしく、練習試合ではドリブルさえ精彩を欠くほど、メンタルに問題があったらしい。
その後ハーフタイムで交代され、その試合以降彼を見ることはなかった。
—————映像で見ていた彼とは完全に違っていた。自信を失い、視野も狭い。元々パスを出さない選手であることは知っていたが、弱気なバックパスも目立っていた。
そもそも、浦和ジュニアユースの中で浮いていた印象すらあった。彼はほとんどボールに絡むこともなく、完全にゲームから消えていたのだ。
それを聞いた駆と青葉は、一つの才能が失われたことを悲しく思う。我儘なプレーヤーだったと聞いているが、その才能が本物なら手綱を最後まで握ってやるべきだったと。しかし、彼の才能を信じてやれる存在がいなかったのだろうと、わかってしまう。
—————そういう思いは、せめて江ノ島の中だけではしないでほしいな。
「けど、みんないい顔をしていたよ。数日間俺が練習に入った影響なのかな」
頼もしげに笑う青葉。油断や慢心があれば容赦なく摘み取ろうと紅白戦に参加したのだ。上には上がいる。そして自分は上手くなりたいために練習をする。
やるならとことん上を目指せと伝えてきた。
しかし、それは杞憂だった。年齢の近い青葉がプロで活躍しているのがよかったのか、彼らは己惚れていなかった。
「いいサッカー部になってきたな、江ノ島は」
「だね」
そして第九節、新潟戦、宮水、ジーノ、宮野の攻撃の主力が抜けており、控え中心のメンバー。宮野はコンディションの影響か、もしくは大阪ガンナーズ戦を見据えたベンチ外。ジーノは左足の張りを訴え欠場。宮水は完全に温存という形か。
二列目の司令塔として奮起が期待される逢沢。
GK 1番 緑川
RSB 5番 石神
CB 2番 黒田
CB 3番 杉江
LSB16番 清川
CMF 7番 椿
CMF 6番 村越
RMF15番 赤﨑
LMF21番 矢野
OMF19番 逢沢
CFW11番 夏木
控え
GK 23番 佐野
DF 12番 鈴木
MF 8番 堀田 13番 向井
FW 20番 世良 18番 上田
ベンチ外
GK 31番 湯沢
DF 27番 亀井 4番 熊田 29番 飛鳥
26番 小林 14番 丹波 22番 石浜
MF 28番 広井 10番 ジーノ
25番 宮野 24番 住田 17番 宮水
FW 9番 堺
しかしこれは、現在2位のチームが見せてはいけない試合になりつつあった。新潟は対ETUを想定した特殊なシフトで対応。4-3-2-1のクリスマスツリー型で逢沢封じを狙ってきたのだ。
華々しい活躍をするスター候補に立ち塞がる壁が、逢沢から自由を奪う。
「くっ!!」
一人躱しても、その時間を使われてしまう。中盤を守備する三枚の壁が、組み立てを難しくするのだ。
————サイドに流したところで、矢野さんには切れ込む力はない
先ほど、矢野が逆起点となった先制弾を許したばかりだ。フォローに入った清川も新外国人ロアーツのシザースで簡単に躱され、黒田とのギャップを狙われた。
高さで負けた黒田は、そのまま相手フォワード皆川がやけくそボレーを叩き込む姿に、足を延ばすのが精いっぱいだった。
『あっと、左サイド突破してクロス!! そして皆川ボレーシュートぉぉぉ!! 決まったァァァ!! 前半20分!! カウンターから新潟が一閃!! 今季リーグ2位のETUから先手を奪いました』
『バックパスを狙われていましたね。フォローがなかったのか、清川選手の上りも遅く、連携もチグハグ。ロアーツ選手の調子が良かったとしても、簡単に踏み込み過ぎましたね』
新潟はこれ以降も、カウンターサッカーを展開し、継続してキーマンである逢沢を封じ込める。
達海は動かない。
続く、新潟の速攻。今度はコーナーキックだった。今期コーナーからの得点こそ改善したETUではあったが、新潟の守護神則本が堀田のクロスボールをキャッチ。
またしてもロアーツがドリブルを開始し、彼に合わせて一気に2人の選手がスプリントを開始。新潟はこの試合、ロアーツが前を向いたらスプリントするという決まりがあるのか、ロアーツの相方のシャドーとワントップはハードワークを行っていたのだ。
さらに後ろからボランチの一角、U20日本代表榎本が逢沢を置き去りにするスプリントを開始。追走する逢沢だが、彼一人を止めたところでこれは意味がない。
————くそっ、またカウンターで失点はまずい!!
アクセルを緩めないロアーツと前線の二人。そして後方から榎本。赤崎がフォアチェックするも、切り返しで簡単に躱され、フィジカルで体を弾かれてしまう。
————くっ!! このままじゃ!
ロアーツは赤崎を躱したところで、前線にロングパス。黒田とのマッチアップを意図的に仕掛ける皆川にボールを供給。
「くそっ、毎回俺の方ばかりきやがって!!」
黒田がわめくも、徹底して新潟は相手の弱みを突いてくる。皆川はまたしてもボールを収めるが、前を向けない。
「関さん!!」
皆川がバックパス。その視界の先にはスペースを膨らませながらワイドに走る関本の姿。ロアーツの相方でもあるベテランアタッカー。対するは椿。
————PKだけはまずい!! ここで止めないと!!
しかし、プレッシャーに負けたのか、反応速度で遅れた椿が縦への突破を許す。慌ててクロスボールを防ごうと足を延ばしたのだが、
『関本の折り返しを弾きました椿!! ああっとこぼれ球を拾ったのは榎本だ!! 榎本が逢沢を躱して—————あっと倒されたァァァ!!』
ミドルレンジからシュートコースは開き放題。駆は最悪失点を防ぐために足を出すしかなかった。
ここで逢沢にイエローカード。ゴール前30メートル。しかし杉江と村越は上がっており、黒田と左サイドと右サイドが悉く蹂躙された状況。しかも、右が完全にぶち抜かれており、コースも開き放題。これでは無理をしなければ即死という展開だった。
しかし、駆のそれは延命に過ぎなかった。
『さぁ、フリーキック。榎本が助走をつけて—————曲がってェェェェ、叩き込んだァァァ!!! 新潟追加点!! 今期下位に沈むチームを救う貴重な貴重な追加点は、U20日本代表榎本の左足から生まれました!! 2対0!! 前半の38分!!』
そのまま反撃らしい反撃を組み立てることが出来ないETU。駆が三人掛りで潰されながらも前線に供給したチャンスボールを夏木が盛大に宇宙開発。ETUの応援席からは盛大なため息が漏れる。
————あんなチャンスボールを盛大に外すなんて—————
駆は思わずピッチの芝生に両手を叩きつけて、じたばたする。感情をコントロールするのも難しい。完全にキーパーの裏をかいたラストパスが無意味になったダメージは大きい。
さらに、矢野が清川のボールに反応し、相手のフォアチェックを受ける。このまま仕掛けるところのない矢野は、勇気を踏み出し、仕掛けたのだ。
————ここで、前に出られないなら—————
しかし、両手でボールを要求する駆が視界に映らない。背後からフォアチェックする選手の死角から、パスコースを作りながらランニングする彼は無視される。
その結果、
『あっと簡単にボールを奪われた!! 新潟カウンター!! 榎本へのパス————ここを逢沢がカット! 読んでいました!!』
しかし、攻撃から守備への切り替え、守備からの攻撃の切り替えの意識が足りていた駆が、攻めのディフェンスを見せ、インターセプト。
キーマンである榎本へのパスコースを寸前で遮断したのだ。そのまま、榎本選手が前に出るも、マルセイユ・ルーレットで縦に仕掛ける。
————その技は知っている!! だがこれ以上————
ここでクライフターン。外側に逃げながら縦へと切り込もうとする駆。しかし、しっかりと迂回してコースを塞ぎに来る榎本。そのしつこさ尋常ではない。
————反応がいい相手、だよね。この選手。
「っ!?」
だからこそ、また抜きのエラシコが限りなく有効だった。縦への突破の瞬間に見せた重心破壊。エラシコの股抜き。二つの要素が重なり、頭から転倒する榎本が地面にたたきつけられる。そのまま蹲る榎本を尻目に、ゴール前フリーになっている夏木を見つけた駆。
————今度は決めてください、ナツさん
縦に仕掛けると見せてのマイナスの折り返し。夏木はこれに反応し、プル・アウェイでマークを外す。完ぺきなポジショニングだ。
「よしっ、こい!! 駆!!」
後はニアサイドによっているキーパーのがら空きになっているファーサイドに流し込むだけ。
『あっと! 流れたァァァ!! 夏木のシュートは空振り!! しかし、逆サイド赤崎がボールを拾ってクロスボール!! ここは守護神則本がキャッチ!! このチャンスを活かすことが出来ないETU!!』
「わ、わりぃぃ! 力んじまった! 次は決めるから、ボールをどんどんくれよ!」
「————————」
流れが悪いと一気に泥沼化する。それがこのチームであることを象徴するシーンだった。駆は気持ちが切れそうになりながらも、プレーを再開する。
結局、前半は駆がほとんどの局面でチャンスメイクするも、ことごとく矢野と夏木が外し続け、無得点。矢野に至っては、次第にチャンスに絡むシーンも少なくなっていった。
後半もそれは変わらず、赤崎から駆を狙った球足の速いパスをスルー。夏木へのパスを完結させるも、夏木がそのボールに慌てて反応し、ゴール前で珍プレーを披露する。
『ゴール前逢沢スルー!! あっと、トラップ乱れて上に上がってしまった!! そのままサイドバックの竹田が奪ってカウンター!!』
ボールが来ることを予測していなかったのか、夏木の痛恨のトラップミス。イージーな局面で悉くポカを連発し、赤崎が死んだ目で夏木を見ていた。
————ナツさん、あのボールでなんで上にボールを上げるんすか?
逢沢も、緩くなったボールをわざわざ上にあげてしまうほど力む彼に理解不能。完全にフリーの状態だったのに、またしてもチャンスが潰れた。
————世良さんの方が百倍マシだ———ッ! 世良さんはチャンスを良く決めてくれるし、フィニッシュまで持っていく——前掛りでボールを奪われたら後ろの負担が…っ!
当たり前の展開では決めてくれる安心感がある世良とは違い、ゴラッソを叩き込んだりする夏木だが、安定感が皆無。次第にパスの選択肢から彼は消えていく。
なお、実は難しいパスの方こそ、決定率が高いことを知るのは後になる。この試合の駆は彼が決めやすいようにパスを調節していた。ゴールしやすいラストパスであればあるほど夏木に余裕が生まれ、その決定機が無駄になりやすいのだ。
ジーノのように猟犬に餌を放り投げる程度のやさしさでちょうどいいのだが、駆はそれを知らない。夏木の使い方を知らない。トップ下として致命的なことだ。
駆は、組みやすい夏目や高瀬、世良や堺といった決定機で攻撃を完結してくれるフォワードとは相性がいいが、スーパーゴールを決めるふり幅を持つ夏目のスケールをうまく制御できないのだ。
トップ下として完全に意思疎通できていない。練習でのポテンシャルを信じ、優しいパスを選択し続け、それでも外し続け、だからこそより優しいパスを選択する悪循環に陥っていた。
ベンチには、この流れを変える絶対的なエース、宮水がいない。ジョーカーになり得る宮野もガンナーズ戦を見据えてベンチ外。リカバリーさせている。
このチームから青葉と宮野、ジーノを奪えばどうなるのか。チームの総合力を確認するために、実戦で練習中に動きのキレのあった控えメンツを試した。
達海は、その中でもチャンスメイクを継続する駆に及第点を与える。ゴラッソを練習中に連発した夏木は不発。何か難しいパスを出さないと決めてくれない空気さえ感じ始めた。矢野は切り込む力がなく、赤崎が駆のサポート、もしくは連携を見せる。
特に前線でのボールロストが酷く。これでは守備陣が疲弊するのは目に見えていた。後半10分が経過し、達海はここでカードを切る。
『ここでETUカードを切ります。21番の矢野に代えて、13番向井が入ります。これはどういうことでしょうか』
『どうやら、椿選手がサイドに入るようですね。矢野選手の左サイドハーフに椿選手を置き、両サイドで仕掛けることの出来る選手を置き、守備力のある向井選手を置きましたね』
矢野に代わって入った椿は、広大なサイドのスペースからチャンスメイクを仕掛けるも、駆には厳しいプレスが繰り出される。
『あっと倒されたぁァァァ!! イエローカードが出るようです。新潟榎本選手に一枚目! 後半15分を経過し、苦しくなるETU! キッカーは赤崎!』
しかし、シュートは枠の外へ。その直後のゴールキックだった。
「!?」
零れ球を拾った榎本が寄せにきた駆をダブルタッチで躱し、駆はその切れ味を前に膝をつく。続いて椿が止めに入るがあっさりとパスを通され、ロアーツがそのボールを保持。
「させるかっ!!」
村越がファウル覚悟のプレスでボールを奪いに行くが、ロアーツはパスを選択。村越とロアーツが交錯する中、審判はアドバンテージを獲る。
『ロアーツからふわりと抜けたパスが皆川に通る!! 完全に抜けたァァァぁ!!』
—————ここでカッコいいゴールを奪ってやる!! 間抜けな、みんなに馬鹿にされるゴールなんていらないんだ!!
しかし、背後から黒田がタックルをかまし、ドリブルを遮りに来る。
—————これ以上失点したらやべぇ!!
競り合いの中皆川は倒れてしまい—————————
『あっと笛だぁァァァ!! 倒してしまいました黒田!! そしてあっと一発レッドだ!! 黒田退場!! これでガンナーズ戦は出場停止です!!』
『手も使って最後は足ですからね。決定機、完全に抜け出ていた皆川を止めるにはちょっとあれでしたね』
一人少ない状況に陥ったETU。苦悶の表情でピッチを去る黒田と。ついに試合が壊れた、そんな音が聞こえるような瞬間。
フリーキックの位置は先ほどよりも短い20m。悪魔の左足を持つ榎本の射程範囲だった。
『止められないィィィィ!!! 名手緑川でも触れることが出来ません!! 無回転シュートに届きませんでした!! これで榎本2点目!! リードは3点となりました!! 後半30分!!』
『完全に枠の外から入って、落ちてきましたからね。日本であのボールを蹴れる存在は彼しかいませんよ』
絶望的な距離からの絶望的な一撃を前に、この試合の勝敗が完全に決した。
その4分後に2枚目のカードに高卒ルーキー上田を投入したETU。フレッシュな縦関係で前線が活性化した彼らは反撃を開始し、交代直後に上田の落としに反応した赤崎がシュートフェイントで一枚壁を剥がし、コースが空いた瞬間にコントロールショット。
『止めたァァァぁ!! 守護神則本のファインセーブ!! ETUに得点を与えません!!』
「くっそぉぉぉ!!」
しかし新潟の意地が赤崎の決定機を潰す。このままでは惨敗もあり得る中、一人気を吐いている赤崎が悔しさのあまり吠える。
トップ下駆もトリプルボランチの連携の前に無力化されてしまっていた。トリプルボランチとCBの間が狭いため、必然的にパスもブロックされる。
それでも、何とか追い縋ろうとした椿のロングボールに反応した赤崎が意地のゴールを決め、零封だけは回避する。しかし、反撃はここまでだった。
『ここで長いホイッスル!! 新潟勝ちました!! 今季リーグ2位のETU!! 伏兵新潟に手痛い敗北を喫しました!! これで今シーズンリーグ戦2敗目!!』
『あっと情報入りました! 鹿島が勝利したため、勝ち点19でETUと並びます!! 得失点差で2位をキープしていますが、やはり宮水選手の存在は大きいのでしょうか』
『全く影響がないとは言い切れないですね。あれほどの得点力と運動量が抜ければ、やはりチームとしては痛いですよ』
試合終了直後、喜びを露にする新潟の選手たち。大金星を挙げた榎本を中心に輪が出来る。
「————————」
一方、久しぶりに敗戦を経験した駆は、自分の不甲斐なさを責めていた。
————チャンスを作るだけでも、勝利につながらない
真ん中で司令塔のプレーは出来ていたが、勝利には届かなかった。しかしだからといって、エゴを増やして球離れが悪くなるのは大問題だ。特に今日は最悪、他の選手に打たせてもいいと新潟は開き直っていた。逢沢駆にさえシュートチャンスを作らせなければ、いい勝負が出来ると。
だからこそ、逢沢駆はトリプルボランチの前でアシストもゴールも出来なかった。ドリブルで抜き去った位置に相手が待ち構えており、止められる。コースを塞がれ、下げるしかなくなる。確実に逢沢駆を潰す戦術をとっていた。
新潟は捨て身の戦法で、ETUとの試合に勝利した。この試合に臨む準備で、ETUは負けていたのだ。
テレビの前で、試合を見ていた青葉は厳しい表情でこの試合を眺めていた。
————達海さんもあくどいな。選手たちに口頭で課題を指摘し、実戦でもそれを指摘するなんて。課題を突きつけられて、どれだけここの選手が食らいつけるのかな
特に矢野は自信を無くしているような感じだった。夏木に関しては後半開始から全く駆からボールが供給されなくなり、完全にこの試合から消えていた。赤崎も下がってきた夏木にパスをするものの、ゴール前では信用していないのか、椿や駆を狙ったパスや切込みが目立つようになっていた。
—————俺が言えた義理ではないけど、試合中のメンタルコントロールは未熟だったんだな、駆
今までは優秀なフィニッシャーに囲まれていた駆。だからこそ、今回のようなストレスのたまる敗戦は堪えたのだろう。自分の調子が悪くないだけに。
この完全に壊れた試合の中、上田は持ち味を発揮することが出来なかった。その前の夏木も後ろの負担をでかくするだけだった。やはり、世良でなければフォワードは務まらないのか。
————やはり、怪我明けの夏木は安定しないわね。
この試合を見ていた藤澤記者は、ETUが選手層を厚くするための一時的な措置だったと考えていた。明らかに控え中心のメンバー。勝ち点こそ奪えなかったが、交代選手の投入で流れは変わっていた。
————今期のレギュラーは世良で、バックアップ争いに堺と上田。昨年のチーム得点王も、逢沢との相性は致命的なほど悪いようね。
試合中に激しく夏木を叱責する逢沢の姿からも、決定機を外し続けた彼への印象は良くはないのだろう。この場面で逢沢の年相応なメンタルの未熟さは垣間見れたが。
————今のETUに必要なのは、スーパーゴールを決める存在ではなく、チャンスで決めてくれる選手。そういう意味では、上田の視野の広さは、堺や世良にはないもの。
ETUのフォワード争いは混とんとしているが、世良がファーストチョイスで、堺と上田のバックアッパー対決と言っていいだろう。
今季2敗目を新潟に喫したETU。一方大阪は甲府との試合を制し、これで今季リーグ戦全勝。しかし、ここまで大阪ガンナーズを苦しめた試合を見せた甲府の意地もあった。
特に、中盤では古巣対決で燃える中村が窪田との格の違いを見せつける。この試合マンマーク気味に張り付いていた中村は窪田にチャンスらしいチャンスを与えず、中盤のリンクマンとして最高のプレーを見せていた。一方窪田は、気迫を見せる中村の前に何もできず、チャンスに絡めずにスタミナ切れを起こし、途中交代。
前線はとにかく点の取り合いとなった。中島が仕掛け、こぼれ球を狙うことに徹した甲府は大阪相手に2点をもぎ取るものの、大阪はその上を行く7点。ハウアーという絶対的なフィジカルを前に為す術無くボールを収められ、周囲を走り回るストライカーへのケアまでしきれなかったのだ。
そうなのだ。暴王の如くボックスで君臨したハウアーを誰も止めることが出来なかったことが、完敗の大きな要因。
甲府にとっての悲報は中島秀哉が負傷退場したことだろう。ガンナーズは中島シフトを敷き、球際勝負に追い込むよう徹底的に小さな巨人を追い込んだ。
徹底的なゾーンを消し、強烈なプレスで中島にプレーをさせない。度重なるファウルを食らい続け、甲府の希望が屈する。
プレスバッグでのハウアーとの交錯で腰を強打。その後明らかにドリブルのキレが落ちており、逆起点の憂き目にあう彼をこれ以上ピッチに出すわけにはいかず、無念の交代。
試合後、腰の違和感で戦線離脱というおまけつきだった。
中島という核を失った甲府は抗う術を失い、蹂躙されることとなった。フル出場で中村はプレーしたが、彼の十八番である長距離ドリブルからのカウンターも封じられた。
各地のリーグ戦結果も意外な勝敗、順当なものなどが続く。
3位鹿島は大分と対戦。2対0と危なげなく勝利。虎視眈々とガンナーズを追撃し、ETUの背中に並んだ。
6位川崎は10位名古屋と対戦。復調のブラジル人フォワードペペの複数得点に、板垣、ゼウベルトの得点で、名古屋が川崎に勝利。今シーズン打ち合いの弱さを感じる川崎。まだ本調子ではないのか。
今季初勝利を前節に挙げた広島は清水と対戦。佐藤の2得点で清水に完封勝利。その堅守が再び蘇ったのか、長いトンネルを抜けた後は2連勝と調子を上げてきている。
前節で持田が負傷交代した東京ヴィクトリーは、浦和との試合で惨敗を喫する。ルーキー鷹匠の2発に、糸居の得点など、前半から畳みかけた埼玉軍団の猛攻は、昨年王者を瞬く間に飲み込んだ。後半終了間際に1点を返すことが精いっぱいだった王者。巻き返しなるか。
徐々に調子を取り戻していた磐田は、横浜との一戦でエース小川が大爆発。なんとこの試合ハットトリックを達成したのだ。しかも決勝点は後半アディショナルタイム、自らが得たPKを決めての勝利。この試合で一気に得点を量産した小川。再浮上の切り札になり得るか。一方、横浜はルーキー秋本が得点を決めたものの、土壇場のペナルティキックで勝利を手放してしまった。
得点ランキングも変動。再び中島がトップに立つ。トップタイに名古屋のフォワードペペが並ぶことに。出場のなかった宮水は首位陥落。磐田の小川が荒稼ぎをして4位タイに浮上。浦和の鷹匠もランキングに乗り、得点王争いはフレッシュなメンツとなった。
1位 中島秀哉 (甲府) 9得点
1位 ペペ (名古屋) 9得点
3位 宮水青葉 (ETU) 8得点
4位 小川知良 (磐田J) 7得点
4位 鷹匠瑛 (浦和R) 7得点
6位 榎本文人 (新潟) 6得点
7位 逢沢駆 (ETU) 5得点
7位 持田蓮 (東京V 5得点
7位 畑真哉 (大阪G) 5得点
7位 世良恭平 (ETU) 5得点
7位 ハウアー (大阪G) 5得点
9節を消化して、熾烈な得点王争いが過熱する。
名古屋のブラジル人が量産体制を維持するのか。
昨年のベストヤングプレーヤーが2年連続でインパクトを残すのか。
それとも今年のルーキーが大番狂わせを演じるのか。
混戦模様のリーグジャパン。順位もゴールも日々入れ替わる。
得点王争いで中島は2節をこの後欠場。甲府も次第に残留争いに巻き込まれます。
ペペは立ち直りが早く、大本命です。
青葉は対抗馬ですが、世代別W杯による長期離脱が待っています。
駆はかなり厳しい位置に遠のきました。むしろ鷹匠や秋本の方に可能性さえあります。