騎士見習いの立志伝 ~超常の名乗り~   作:傍観者改め、介入者

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達海も徐々にメンバーを固定化していくかもしれません。


なお、育成の難しいCBは前田副GMも交えて熱血指導。




第七十話 篩の猶予

 

甲府との試合で大量得点を奪い、勝利を収めた大阪ガンナーズのダルファー監督は、甲府との戦いの余韻に浸ること無く、次の相手ETUに関して情報を出すよう通訳に指令を送る。

 

 

しかし、元大阪ガンナーズで現在甲府の主力として活躍する中村慎吾の気迫あふれるプレーは、日本代表の平賀を脅かすには十分な強度を持ち、ガンナーズの中盤が彼からボールを中々奪えない局面が続いていた。

 

曰く、センスではライバル窪田に劣るものの、フィジカルの強さには定評があったらしい。ただ、窪田同様に動けない選手であり、将来性の差で窪田が選ばれ、中村は篩から落とされた。

 

だが、今日はどうだ。窪田が中村のプレスで何度もボールを奪われ、逆に窪田のタックルは彼自身が弾かれてしまうような惨状。個人での対決では強度に差を突きつけられた形だ。

 

そして、大阪ガンナーズは中島を止められない。彼にボールが集まれば、2,3人はぶち抜かれると想定しなければならない。彼が起点であることは明白だが、彼を潰すことは出来なかったのだ。

 

それこそ、中島が下がるまでガンナーズは右サイドで不全状態が続いていたのだから。中島の負傷退場という極めて不名誉な結果を添えて。

 

 

開幕直後こそ低空飛行が続いていた甲府だが、エースと中盤の司令塔の活躍で、来季に向けたチーム作りを確固たるものにしたいものの、大阪ガンナーズ戦で露呈したサイドバックの走力の課題が残った。

 

ゆえに甲府は、出場機会が怪しくなった、もしくは一部リーグでの経験を求める選手を模索。その範囲は二部リーグの主力にまで及ぶことになり、今夏も積極的な補強を行うことになる。

 

 

それこそ、前半戦で見せているETUに迫るインパクトを。それが後に、山梨県トップクラスの企業が関心を寄せるほどの躍進ぶりを見せることになる。

 

歯を食いしばり、サポーターの挨拶に向かう甲府の選手たちを見て、ダルファーは思う。

 

————今期で最も手ごわい相手だったよ、彼らは

 

そして、次節はあのETUとの対決になる。恐らく、休養明けの宮水は間違いなく出てくるだろう。規格外のディフェンダー、佐藤封じを成功した飛鳥も同様だろう。

 

 

『ETUは新潟に負けてしまったのだな』

 

『ええ。尤も、主力の宮水、ジーノ、世良らを欠く控え中心のメンバーでしたからね。黒田退場までは盛り返す勢いでした』

 

達海監督は明らかに序盤の貯金を使い、後半戦を見据えたチーム作りをしている。ゆえに、選手を信じる時と自ら介入する展開を使い分けている。リーグ戦すべてでビジョンをある程度思い浮かべているのだろう。

 

『なるほど。だとしても、全力で叩き潰すだけだ』

 

ならば、彼の予想を超える攻撃力を教えてやらねばならない。昨年王者東京Vが手負いの浦和に惨敗する今シーズン。自分たちこそが王者に相応しいのだと証明するために。

 

 

 

一方、休み明けにチームに合流したジーノ、飛鳥、宮水はチーム内の雰囲気がギクシャクしていることに気づく。

 

————なんだかみんな素直になった感じだねぇ。ただ、自信を無くしているようにも見える。

 

ジーノは、何か達海の意図を理解しつつもそれ以上は動きを見せず、自らのプレー精度に集中する。チーム方針には従う時はあるが、納得できない場合は抗議すればいいだけのことだ。

 

———俺も人のことは言えないが、駆が若干不機嫌だな。あれだけ決定機を外された経験はないだろうし

 

夏木に対する当たりはきついものになっている駆。以前は丁寧なパスばかりを供給していたが、甘いボールだと彼は力むことを学習したのか、強めのパスばかりが飛ぶようになる。

 

「ちょっ、おいつけないって! 駆ちゃん、ちょっと伸びすぎだ!」

 

「そうですか。でも、本能で決められるでしょ、ストライカーなら」

 

駆としても、夏木の限界値を知る必要があった。今のはグラウンダーのブレーキの利いたスルーパスではあったが、弾速そのものが早く、夏木が体を投げ出さないと届かないボールだった。

 

その後も夏木に対してはキラーパスと言われかねないパスを連発する駆。それでゴールを叩き込んでいるため、後は実戦で結果を出すだけなのだが、

 

「パスに愛がないよ、駆君」

 

「下手な猛獣に、愛が必要ですか? ああいう計算できない選手は、ゴールへの逆算だけをすればいいんです。変に良い体勢にさせると、勝手に力むので」

 

「分かっているじゃないか、駆君」

 

そんな毒を吐くようなセリフが目立つ駆。ジーノはようやく彼の操縦方法が分かってきたのかなと安心していた。だが、周囲は駆のキレっぷりに少し青ざめていた。

 

「ナツさんには同情するっすよ……けど、あれだけラストパスを不発にさせられるとストレスも凄いっすよね」

 

「状態のかぶせが安定しないからな。夏木はプレゼントパスだと変にゴール前で力むところがある。本能で叩き込む形は得意なのだが」

 

ジーノですら持て余す、潜在能力の高さ?を秘める夏木だが、達海監督のフォワードにおける序列は徐々に決まりつつあった。

 

世良がファーストチョイスで、堺、上田の調子のいい方を控えに回す。トップ下の二人に嫌われている夏木を使うメリットが今のところないのだ。

 

————シュートセンスというか、何をしでかすか分からないところはいいんだけどねぇ

 

逢沢は多少投げやりだが、キラーパスで夏木を操縦しようと試みている。乱暴な扱いの方が夏木は結果を練習中に出している。だが、駆自身まだ夏木の限界値を測りかねている段階。

 

————試合に出すには、カウンターが怖すぎて出せないな、今は

 

サイドでは、赤崎が徐々に調子を上げている兆しがある。右サイドは宮水で不動だが、休養日には起用の幅も広がるだろう。しかし、宮野の最近の活躍は目覚ましい。甲府戦で見せた同点ゴールの局面は、青葉に影響を受けつつも、自分の形の一つを見せた得点シーンだった。

 

 

右サイドバックは石浜の経験のなさが徐々に出てきている。石神はいい調子なだけに、何とか石神を休ませながら使いたい。すでに後藤には右サイドバックの補強に動いてもらっている。湘南のサイドバックはいいかもしれないが、すでに有力な移籍先でもあった甲府が獲得争いで頭一つ出たという筋もある。

 

それでも、栗澤のスペシャルトレーニングで彼が変わるかもしれない。そんな可能性もあった。だからこそ、後藤にはそれほどSBの補強に動くことを強いていない。石浜にも、新規加入選手にも猶予は必要だ。

 

左には清川、丹波、鈴木など、本職とユーティリティの選手が揃っているだけに、右の脆弱性が目につく。達海としては、中に絞る動きが今後多くなるサイドハーフを援護するためにも、外側で縦に仕掛けられる選手が欲しい。右利きの選手の誰かをコンバートさせるのもありかもしれないと。

 

だが、フィジカルで最も秀でている向井の守備力が向上。好調宮野を難なく止めるプレーを見せており、対する宮野はスピードを出す、ドリブルコースを見つける暇もなく潰されているシーンが目立った。

 

そんな向井の守備を見て、一番真剣な目で見ているのは石浜だった。

 

——————戦士の超積極守備、ねぇ。あれファウルとられなくても、相手選手が本当に潰れる可能性があるからなぁ

 

 

 

メンタル的に今後のドリブルに悪い影響を与え、その前にフィジカルの上から潰される可能性すらある危険もある。一度嵌れば抜け出すことは極めて困難で、ボールを守ることすら厳しい。

 

彼らは、常に背後をぶち抜かれる恐怖を認識し、だからこそドリブラーに仕事をさせる前にプレーそのものを潰しにかかる。いわば、ドリブラーの天敵のような存在だ。

 

 

そしてボランチ。椿は攻撃のポジションで仕掛けることでリズムが生まれるかもしれない。ジーノは最近プレッシャーを多く受け、ファウルで止められる回数が多い。単独での打開の出来る強い選手が二列目の中央には必要だった。

 

ゆえに、守備の出来る存在が欲しい。村越、熊田はそれに該当し、堀田はどちらかというとバランス型。三列目にプレッシャーがかかりにくいジーノを置くことで、より攻撃の組み立てをしやすくしたい狙いがある達海。

 

要求されるのは、カバーリング能力。衰えが出てきた村越と、その代役。長丁場のリーグ戦で熊田一人に背負わせるのは厳しいものがある。だが、宮水青葉をボランチで起用することはこれ以上避けたいのも本音だった。

 

亀井がボランチとして起用できる一方、最終ラインの要である飛鳥はコンバートしたくない。攻撃参加が得意で対人能力に強い新人の負担を軽減させたい。飛鳥はCBとして育てたいのだ。

 

 

 

そして二列目の中央は、椿、逢沢と若いメンツが揃うが、ここに堀田を入れるべきではないかというのが達海の結論だった。ポリバレントでクレバーな彼には試合を落ち着かせる、ロングフィードで展開を変えるなどの優れた能力がある。起点をジーノと堀田の二人にして、熊田、亀井をボランチ起用すると、ポゼッションにさらに磨きがかかる。

 

現在熊田には、ボランチとして主に起用すると伝えた。衰えが隠せなくなるとは言いつつも、村越は精神的支柱。彼の影響力は無視できない。彼の練習に真摯に取り組む姿勢は若手の模範となる。

 

 

そして、新潟戦でフル出場の逢沢は今回もスタメンだろう。メンバーを落とした結果、新潟戦の惨敗につながったし、駆の不完全燃焼ぶりを考えれば、そのままこの悔しさをガンナーズ戦にぶつけてもらいたい。

 

 

「浜さん、半端は良くないです。縦に行くと決めたら最悪コーナーを奪うだけでもいいと割り切ってください。後、オーバーラップの時は俺もフォローするんで、思い切りよくお願いします」

 

「あ、ああ」

 

対人守備で意識改革中の石浜は、タイプの違う青葉、赤崎のサイドハーフ連携に実は難儀していた。青葉はサイドを連携して崩そうという魂胆があり、清川にはロングフィードの意識を植え付けた。展開を大きくできるサッカー。数的有利を作りやすい攻撃。

 

だが、赤崎はどちらかというと自分で切り込むタイプだ。何回もオーバーラップするほど石浜も体力自慢ではない。多少フィジカルとスタミナに強みを持っていたとしても、ボールロストの危険もある局面で、迂闊に前に出られないのだ。

 

青葉で慣れ切るのはまずい。しかし、赤崎では連携を取りづらい。右サイドのセカンドチョイスの一角だった宮野も最近は主戦場を左サイドに置いている。カットインや飛び出しなど、右利きの利点を存分に発揮しており、スピードだけなら逢沢を圧倒している。

 

 

その逢沢も、シーズンの体力がないと思われている。全試合出場は厳しく、控えの充実は望むところ。

 

しかし、代表離脱などを考慮しても、宮水の調子は変わらず好調。学業などで離脱するケースこそあるが、こちらに関してはフィジカル面での不安は完全にないとされている。

 

何より、杉江クラスでなければ簡単に相手選手が吹き飛ばされるのだ。椿も例外ではなく、まるで相手になっていない。その杉江も、青葉の突進を防ぐには力不足。複数いないときつすぎる相手でもある。

 

「いやぁ、宮水の加入でバランスが崩れると噂もされましたが、こうやってみるとみんな刺激を受けていますね。特に椿と宮野は」

 

新潟戦での敗戦のショックはまだあるものの、大阪戦への意気込みは十分と言える。松原は、宮水をどこに配置するのかを考える。

 

「—————うーん、けど、次の試合はそれなりにタフな試合になると思うし、松ちゃんはいつも抜けているからね。せめて俺だけでも気をしっかり引き締めないと」

 

 

司令塔の志村、汗かき役の平賀。この二人をいかに封じ込めるか。そして、4人のフォワード相手に最終ラインがいかに受け流すか。

 

平賀に関しては、その傾向がよくわかる。彼はカバーリング。元々それが仕事であり、汗かき役である。平賀を走らせつつ、チャンスになれば面白い。

 

ゆえに、右と左の陣容は決まっている。二列目は宮野と宮水。この二人のスピードは突出している。そうなってくると、後ろは石神と丹波になるだろう。石神と丹波のポリバレントは有効になってくる。

 

CBはあの4人のプレッシングを受けてフィジカルで勝る杉江と飛鳥。このコンビでは公式戦無失点を誇る。今できるETU最高のCBコンビが、あのハウアー相手にどう立ち向かうのか。

 

 

中盤は椿と村越。守備要員としてカバーリングに村越。椿には村越のサポートと三列目からのビルドアップ。椿が前を向いた瞬間に前線は一気にスピードアップするよう厳命している。が、椿がフリーになっている状況でなければ、椿にパスを出すなとも言っている。

 

より確実に椿のスピードを活かすには、まだ不安定ともいえる彼のビルドアップを制限する必要があった。何かの拍子ですぐに不調になる安定性の欠如を、何とか治したい。その為に、椿は今後試されていくだろう。

 

最前線ワントップには世良。後半は状況次第で上田か堺。フォワードの人選は本当に迷う。

 

達海の頭の中では戦術のことでいっぱいになっているが、しっかりと選手の動きを見極める。自分の思い描いた陣容になるとは限らないからだ。

 

 

—————よーし、見とけよ、大阪。必ずぶっ倒してやるぜ

 

 

 

 

そんな中、新潟戦で悔しさしかないデビューを飾った上田は、次節でのベンチ入りが濃厚だった。コーチにも自信を持ってプレーしていると言われ、青葉からは「後はフィニッシュから逆算したポジショニング」とアドバイスを貰っていた。

 

————世良さんが今期は調子いいけど、俺だって負けない!

 

 

今やチームのエースストライカーとなった世良。夏木からレギュラーを奪い、ファーストチョイスとなっている。そんな世良に対して、自分はゴール前での冷静さがあるものの、ニアサイドへの飛び込みは見習うべきポイントだ。

 

————どんな相手でも、ニアに飛び出して逸らせば、得点につながるかもしれない。

 

ワントップに求められているのはゴールだけではない。二列目のスペース確保、ポストプレー。抜け出し。役割は多岐にわたる。

 

だが、全てをこなせるワントップは世界的に稀有だ。だからこそ、限られた武器で限られる役割をこなすのだ。今の自分にできるのは何か、と。

 

だからこそ、世代別でプレーする逢沢や青葉の言葉はヒントにつながるのだ。

 

————負けないぞ、俺は

 

 

一方、上位対決となる10節を迎えるガンナーズサポーターは、先発が濃厚とされる宮水封じに自信を持っていた。これでもう10節、そろそろ生きのいい若手のデータも集まった。ここからはリーグの意地を、ガンナーズが格の違いを示す時だと。

 

「黄金ルーキー言うても、まだ5試合しか出てないんちゃう?」

 

「代表戦とはいえ、世代別とフルは違うでぇ。小室が五輪代表の意地を見せてくれへんとな!」

 

 

恐らく彼は右サイド固定。そして彼とマッチアップするのは、五輪代表にして日本代表候補の小室武巳。左サイドバックとして主力を担う。ゆえに、ここで青葉の快進撃も止まるはずだと。

 

「小室で止められへんかったら。誰も止められへんって!」

 

「てか、うちの攻撃陣を新潟に大量失点したETUが防ぐことなんてでけへんやろ!」

 

宮水封じだけではない。今のETUでは大阪の攻撃を止めることさえ困難だと。自分たちが撃ち負けることなど想像もしていないのだ。

 

「そうや、そうや!!」

 

無敗を誇るガンナーズはまだ連勝を更新する。それはもはや、超攻撃サッカーのサポーターからすれば当たり前の感覚になりつつあった。

 

 

 

 

そんな中、浦和のユースで汗を流す久世立彦は、一つ上、もしくはちょっと上のカテゴリーの選手たちの圧倒的な存在感を肌で感じていた。

 

————高卒で、あんなに活躍できる人がいるのか。

 

空中戦とフィジカルの強さを示した鷹匠。世代別でもお目にかかれない大型フォワード。そんな彼が唯一空中戦で勝てる気がしなかった相手が江ノ島にいる。

 

 

江ノ島の空中要塞改め、空の巨人、高瀬。

 

彼の絶対的なフィジカルは健在で、初戦でハットトリックを記録するなど、足元も抜群に向上している。何よりそのフィジカルと空中戦の強さはパワーアップしていると言っていい。

 

史上最強のフィジカルと高度を誇る怪物フォワード。それが一つ上の世代にいるのだ。あの江ノ島には久世の知り合いであり、ライバルもいる。

 

 

————龍の奴、埼玉を飛び出して、あそこに行ったんだよな

 

彼は今、江ノ島の二列目で出場機会を狙っているらしい。世代屈指のテクニシャン荒木竜一。彼はプロ注目の逸材である。あの宮水青葉が認めるパスセンスを誇る彼は、フィジカルを鍛えれば一流になれると言われており、その弱点も今期は覆い隠しているように見える。

 

先日行われた江ノ島との招待試合では、8対0と圧倒された。世代屈指のDFである荻本は、まるで赤子の手をひねるかのように高瀬相手に何もできず、高瀬は4得点を決めた後、前半終了と同時にベンチへ下がった。

 

 

衝撃的だった。あの荻本をフィジカルで圧倒する選手がいることに。中盤では真鍋、織田のバランスの取れたポジショニングに、パスコースを限定させる荒木のフォアチェック。後半頭から入った夏目との連携プレスは浦和に選択肢を著しく制限させた。

 

三石に関しては真鍋の執拗なマークに遭い、前を向けることが出来なかった。ベンチで戦況を眺める彼の師匠である堀川は、当然だと眼で語っていた。

 

 

真鍋。かつて浦和ユースに在籍していた選手がここにいる。彼は今、江ノ島で爆発的な成長速度を遂げている。その結果が三石封じ。

 

 

話は戻り荻本だが、執拗な前線からのプレスに難儀していた。ショートパスを完全に封じるかのようなプレッシング。荒木のパスコース限定プレス。荻本はロングボールを蹴るしかない。

 

サイドでは多少同等の勝負が出来ていただけに、荻本がやられるというのは大誤算だった。

 

後ろを完膚なきまでに突破され、守備が崩壊した浦和は防戦一方になり、攻め続けた江ノ島が完封勝利。浦和は何の収穫も得られない完敗のゲームとなった。

 

何しろスカウトやコーチたちの責任問題にまで発展した大敗だったのだ。的場相手に人数をかけても簡単に躱される選手。中央を完全に制圧された三石の能力への疑問視。

 

何より、パスコースを寸断され、孤立した久世に対応したのは武智。フィジカルで劣る久世は、雑なボールをキープできなかった。

 

武智昭。ユース入りも噂されていたが、江ノ島入りを選択した。ポテンシャルも十分な彼は、久世相手のデュエルで完勝。「本当に浦和の将来を担うエースなのかな?」と煽られる始末。

 

そんな中、後半30分過ぎに、龍が出た。この怪物に張り合い続けた彼らの真ん中でプレーする彼は、逢沢駆に似た、しかしキックフェイントを多用する小刻みなステップを披露した。

 

夏目が流し気味のサポートに移ったことを機に、荻本が一条を止めに行くが、彼のドリブルはあの怪我前のものとは違う、シンプルなものになっていた。

 

そして、荻本がボールに触ることすらできずに簡単に抜かれた。その光景に浦和のユースたちはショックを受けた。あの荻本が無名に等しい一年生に負けたのだと。

 

見えない何かに防がれたような、どこか強気な彼の抜け出し。そのままシュートを叩き込み、追加点。

 

「は、半端なく強いな、江ノ島は」

ボロボロに何もできなかった。こんな大敗は、海外でも味わうことはなかった。

 

 

「そうだよな。俺も、この中じゃ、下から数えたほうが速いレベルかも。みんな体が強いし、足元が上手い。的場先輩は、桜庭を思い出させたよ」

 

パスもドリブルも出来るので、迂闊に飛び込むこともできない。そしてあの俊敏性。個の力が違うし、この中にはサッカーを大学までと区切りをつける選手もいるほどだ。

 

「けど、青葉さんとの一対一は凄い。俺に足りないものを体感させてくれるんだ」

 

そして、龍もまた江ノ島の一員と化していた。正確に言うと、あの怪物に張り合うメンバーの一人になっていたのだ。

 

宮水青葉。日本最強のサイドアタッカーの一人。彼相手に一対一を何度も仕掛けているという。

 

「いつかあの人がサイドにいて、二列目を逢沢先輩と組めたらと思うんだ。俺と宮水先輩と逢沢先輩。そしてワントップは本当に迷うなぁ」

 

朗らかに笑う龍。ETUの主力でもある逢沢、宮水の両翼は高校時代も凄かった。それは納得できる。

 

だが、

 

「高瀬先輩は空中戦敵無しだし、地上戦も並の相手は弾かれるしなぁ。鷹匠さんは万能型。秋本さんもしっかり得点を決めているし。それに、夏目さんのプレースタイルは俺と合っている気がするんだ」

 

 

上のカテゴリーで暴れる名だたる怪物たちの名前を呼び続ける龍。いずれもワントップ経験者。特に鷹匠はあの江ノ島を追い詰めた鎌学のメンバーだ。

 

 

そこに、自分の名前は挙げられなかった。

 

 

しかし、そんな怪物級の上にいるのが超常現象宮水青葉と、至宝逢沢駆。

 

「この世代は強くなる。今よりももっともっと強くなる。俺はあの人たちに振り落とされないよう、荒木先輩に勝つ」

 

だが、この言葉を聞いていたのか、荒木がニヤニヤしながら近づいてくる。

 

「いいねぇ。けど俺は、動けるファンタジスタを目指しているんだ。フィニッシャーのお前に席は譲らねぇよ」

 

「望むところです! 俺は、もっともっと上手くなるためにここを選んだんですから!」

 

自分が憧れていた一条龍が誰かに羨望の眼差しを向けている。あの一条龍がだ。

 

 

————とんでもない場所だ、ここは

 

日本サッカーを変えかねないほどの存在。面白いほどに個性豊かな選手たち。18歳で日本代表入りをする野望は、とてつもなく遠い。

 

 

自分の野望を果たすためには、この宮水世代、逢沢傑世代に勝たなくてはならない。

 

 

 

「あ! 青葉さん!!」

 

その時だった。ETUのウィンドブレーカーを着こなす、宮水青葉が隅の方で出現したのだ。どうやら、ずっと位置を変えながら試合を見ていたらしい。

 

「どうでしたか、青葉さん!!」

 

対する龍は、自分のプレーに関して質問する。まるで先輩と後輩。文字通りそうなのだが、あの彼のあんな姿は新鮮だった。

 

「うーん。気持ちが切れかかっていた相手だし、参考記録だ。だが、あのステップワークは今後も続けるべきかな。だが、ちょっと大きなアクションや、1,23以外のテンポとか、バリエーションをどんなタイミングでも切り替えられる姿勢であれば完璧かな」

 

「オコチャは練習中なんですけど、なかなか難しくて」

 

それから一条は親しげに青葉に質問をしていく。その光景が久世には遠く感じた。

 

「龍はオコチャの左右の動きを意識し過ぎなんだ。後、ちょっと一定のリズムになる癖がある。それではだめだよ。オコチャダンスのオコチャで抜くぐらいの圧を見せないと」

 

「まあ、こんな風にボールをロールして、角度を変えるとか。オコチャしているときにその場所から動くなという道理はないしね」

 

相手は技としてオコチャダンスを認識している。だから、簡単に予測される。ドリブルニッ求められるのは計算された、且つ相手の思考を超えること。

 

「相手の重心を崩せ。そして固めて動けなくしてしまえ。フェイントはその為にあるんだから」

 

「はい、先輩!」

 

だから、無我夢中だった。あの頃の一条龍が霞むほどの存在。オーストラリア、ドイツの黄金世代にトラウマを植え付けた、恐るべき男。

 

そんな彼に、一条龍を取られたような気分になる。無意識なのか、龍の口から自分の名前は出てこなかった。勿論、今の自分が名だたる若きストライカーたちに勝てる武器があるのかと言われると、難しい。それぞれ目に見える武器があるのだ。

 

圧倒的強者の高瀬。なんでもできる鷹匠。唸るようなポストプレーと決定力の秋本。俊足の夏目。別のポジションでも荻本の代表入りが遠のくような始末。試合後の落ち込んだ彼の表情は衝撃的だった。

 

—————俺たち浦和のユースが、こうも蹴散らされるなんてな。

 

日本仕様、海外仕様と無意識に国内の選手への油断があったのかもしれない。

 

————サッカーの質で負けていたな、こりゃ。寄せ集めの俺らでは、江ノ島に勝てる算段はなかったってわけか

 

そして、久世が避けていた言葉が彼の口から出てくる。

 

—————俺もマッチアップしたいものだ、宮水青葉に。よし、昇格するための理由が増えたな

 

そして三石。自信を完膚なきまでに打ち砕かれ、塞ぎ込んでいた。特に一条龍が良いプレーをした時に見せる暗い表情は少し怖かった。

 

————三石の奴、龍とは初対面のはずなんだが。ま、それよりもだ。

 

この高い壁に上らなければ、龍とともに日本代表に入れる日はないだろう。年代的にも、彼らの世代が活躍すれば、自分たちの世代から選ばれるのは難しくなる。

 

————負けない。俺たちの世代が、日本を勝たせるんだ

 

静かに燃える久世。日本代表への狭き門は、確実にリミットが迫っている。

 

 

 




二人がいないことで自分がやらないとという気持ちで残存メンバーがさらに覚醒。

昨年よりも恐ろしい完成度に至った江ノ島。


しかも、現時点で半数が大学で一区切りになるかもしれないメンバーです。


総監督  岩城   (元江ノ島OB、部の中で一番うまい)

技術顧問 ミルコ  (ユーゴの元名選手、ボールタッチは健在)

二軍監督 近藤   (モラル、規律の統制は一任されている)


数年後、守備コーチに辻堂の瓜生先生が招集される模様・・・・

数十年後に成長したOBたちが帰ってくるも追加。(プロ含む)


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