騎士見習いの立志伝 ~超常の名乗り~ 作:傍観者改め、介入者
最後まで気を抜かず、且つ一番近い場所で集中していた上田が、こぼれ球を押し込んだ。このリーグ序盤で見せた初めてのゴールは嬉しいものだろう。最後尾の飛鳥は同期が決めたゴールに笑みを浮かべる。
「決めたか、研人」
「ほんと今年のルーキーは凄いな。出遅れ感はあったが、運も味方したな。あそこであの場所にいるのが、あいつらにとっては重要なんだ」
杉江も、若手がどんどん弾ける攻撃的なサッカーは、見ていても、やっていても嬉しいものだという。そして、フォワードとしての勘が上田にもあることを認めた。
そんな上田は、青葉や駆が食らった以上の祝福を、彼らによって受けることになる。16歳二人に手荒な祝福を受ける18歳は、はにかんだような笑みを浮かべる。
やや遅れて宮野も祝福に駆け寄る。この光景を見ると、何かアマチュアの選手が騒いでいるようにも見える。フレッシュなメンツだからだろう。
「—————決めたかったな——————」
椿としても、ルーキーがゴールを決めて嬉しい。しかし、あの場面で決めきる力がないことを痛感したのだ。
落ち込んでいる椿の下に駆け寄るのは熊田。
「クロスバーまでは完璧だったぞ。ほんと凄いな、今年の若手は」
4人フォワードという超攻撃的なサッカーは中盤のサイドでの隙がでかすぎる。SBが駆り出される運動量も増え、ポゼッションが出来なくなれば一気に劣勢に陥る。
だからこそ、達海は大阪が一番ケアしているだろうサイドに絶対的な脚力を持つ宮野と青葉を置いたのだ。サイドで起点になれる、もしくはタメを作れる選手を。
止めに中盤の椿。駆には先制シーンの前から降りてゲームメークしてほしいとは伝えていた。最初の10分でゴールが欲しいと強請った時は笑ったが、有言実行し、後は指示に従った。
その結果が窪田潰し。運動量に優れる駆が窪田を走力で圧倒し、彼をピッチ外へと退かせた。あそこまで脆弱な弱点がある選手は稀だが、課題を克服しなければこうなるだけだ。
しかし、窪田を潰した時点で駆の降りるという役目は終わる。椿が変わって入った選手をマークし、再度駆が一列上がる。
熊田は以降も志村に簡単にパスを出させないような距離を維持し、深く入り込んでこない。椿の軽いフォアチェックでもプレッシャーで自滅し、ロストマシーンと化す交代選手は結果を出せない。
その志村も熊田をうまく使う逢沢を前に為す術無し。後半20分、ここで達海は左サイドバックの丹波に代えて清川投入。
その清川の持ち味が発揮される後半27分。逆サイドへのロングボールに反応したのは宮水青葉。
右サイドに張っていた青葉と小室の競争となったが、小室では絶対に届かない弾速のクロスに、青葉が追いつき、小室はそのまま振り切られるというシチュエーション。
独特の間合いから繰り出されたクロスボールは中央の上田ではなく、左サイドから飛び出してきた宮野がヘディングシュート。
完璧なリズム、完璧なタイミング、まるで宮野の動きを察知していたかのような高速クロスがドンピシャで決まり、キーパー反応できず。これも上田が世良の動きを見習い、ニアサイドへのタイミングのいい抜け出しを心掛けたことで、宮野のスペースが空いたのだ。
展開の大きなロングパスから最後はあっという間だった。
完璧に見えた宮野のシュート。しかし—————
『あっとクロスバー直撃!!! 決めきれません、宮野!! この試合2得点目かと思われましたが、またしてもクロスバーに嫌われました!! しかし、直前のクロスボールは凄かったですねぇ!』
『早く、鋭く、そして正確なクロスボールでしたね。宮野選手の頭に吸い込まれるようなコントロール。合わせるだけでしたね、本当に。惜しいシーンでした!!』
『首位攻防戦、まさかの展開にガンナーズサポーターは呆然!! 打ち合いを私も戦前予想していましたが、蓋を開けてみればガンナーズの攻撃が機能しておりません!!』
『ハウアー選手へのこぼれ球を窪田選手含めた3人の選手が拾う手筈でしたが、上手く防がれていましたね。中央志村選手のパスは通りますが、マッチアップした飛鳥選手が好きにやらせてくれません』
大阪ガンナーズのキーマンの一人、ハウアーのポストプレーを防げば、ガンナーズの攻撃は半減する。自分で切り込めるスピードを持つ片山、畑もいるが、ベテランらしいリスクを見つけた瞬間に潰していくクレバーなプレーを実践する丹波、石神の働きは見事。
その上、背後から全速力でプレスバッグする両サイドハーフの援護射撃もあり、サイドの連携の練度の差で劣っていたのだ。
自らの哲学が崩れ落ちる。ダルファーは戦前まで無敗を誇ったガンナーズが崩れ落ちる瞬間をまざまざと見せつけられた。
そんなものを力でねじ伏せる本当の怪物、日本にいてはならない力を持つエースの実力に戦慄を覚える。
—————こんな選手だというのか、彼は
攻守でよく動き、あの五輪代表小室がまるで相手にならない。これでは、どちらが代表なのか分からない。
そんな苦境のガンナーズに対し、いよいよこの試合で点を取りに行く気概を見せた駆ではあったが、
「—————まあ、これ以上出す理由はないわな」
後半30分で駆は堀田と交代。勝負はついているし、ゲームをクローズする必要がある。清川には終盤の大量リードでの展開で集中する意識を付けてもらうために出てもらっている。
不満げな顔ではあったが、達海としてはこの試合のMVPと言っても過言ではない。ガンナーズ中盤と真っ向勝負して勝ってしまう16歳は、どこを探してもいないだろう。
その後、清川が何度かピンチを作るも、クリーンシートを維持するETUではあったが、ハウアーが強引にロングボールを収め、ついに飛鳥が競り合いに負ける。しかしハウアーは飛鳥の圧力を嫌がり抜き去ることは出来ず、前に出ることも出来ない。
なぜなら、横へと抜き去ろうとすれば簡単にボールを弾かれてしまうからだ。俊敏で読みが鋭い若手CBは少しも怯まない。
—————くそっ、なんだこいつは!!
—————自分よりも大きい選手との対決は、この先何千とある、臆してなるものか!
そのこぼれ球を拾ったのは志村。ハウアーのイレギュラーな動きを前に前に出ていた緑川は、志村のロングシュートに手を伸ばすことしかできなかった。
『後半40分!! ガンナーズ一点を返します!! 志村のミドルシュートで反撃開始ですが、あまりにも遅すぎる得点! すぐにボールを獲りに行きます』
飛鳥としてはクリーンシート出来た展開だった。だからこそ、隣にいる杉江以上に悔しさを覚えていた。
「くそっ! クリアボールで繋ぐ欲が出てしまったッ」
攻撃でさらに相手を突き放す。飛鳥の欲がこの失点を生み出してしまった。熊田をねらったインターセプト兼ロングパスは刈り取られた。
—————向上心が尽きることはないな。とっくにあの年代の俺たちをぶち抜いているぞ、飛鳥
杉江は、快勝ムードで気が緩んでいない後輩を見て頼もしさを覚える。
そんな勝利がほぼ確定している空気の中、青葉はマッチアップする畑に対し、執拗なプレスを講じ、バックパスを促していく。
「—————!?(なんやおまっ、なんで試合終盤でまだ涼しい顔をしとるんや!!)」
それなりに消耗しているガンナーズ、ETUの選手たちの中で、青葉は涼しい顔でプレーをしている。それはすなわち、青葉が未だにそのポテンシャルを最大限活かされていないということであり、彼がチームにフィットしきれていない伸び代でもあった。
畑はボールを持つ瞬間に青葉に寄せられ、ボールをロストする人形と化し、前に出ることすら難しくなる。
————なんでこの位置まで右サイドハーフが寄せてくるんや!!
ガンナーズのSB小室は、守備的な動きにシフトした青葉のポリバレントさに戦慄を覚えていた。
————まだ諦めていない目だ。終わるまで手を抜くはずがないだろ?
その青葉は畑潰しを全力でチームのために行っていた。サイドバックの上りが鈍いガンナーズは今更サポートに背後が動くが、石神の守備を前にETU右サイドを攻略できない。
ガンナーズの4人のフォワード、一番ケアされにくいサイド、まだ諦めてなさそうな畑を全力で叩き潰す。彼の戦意を叩き折り、反撃の可能性を摘む。明確な意図が畑を襲う。
さらに青葉はわざと時間を作るようなボール回し、ボールタッチを行う。明らかな遅延行為ではあるが、畑は彼からボールを奪えない。
何と5分間畑とサイドバックが取りに行こうとして取れない異常な光景をガンナーズサポーターは見せつけられることになる。
そしてその終わりに訪れるのは、青葉の正確なキックから繰り出される一撃必殺のキラーパス。
停滞ムードを意図的に作り出し、ガンナーズのゆるみを見逃さない視野の広さ。もはや、ガンナーズの闘志は砂上の楼閣に等しいものだった。
『あっと宮水キープして、ロングボール一本で宮野につながる!!』
アディショナルタイムになった瞬間、前線に張っていた宮野にロングボール一本を通ってしまう。
縦パス一本で宮野が全力疾走する姿に釘付けになる中、青葉はローギアから周囲を窺い、徐々にギアを上げ、
「————————あっ」
並走する小室を早々と引き離し、リーグジャパンではだれも到達できない高速の世界へと足を踏み入れていく。
————————誰が止められるんだよ、この怪物は—————ッ
自らのキャリアを決定的なものにしてしまいかねないほどの完全敗北。彼の足は、体力の消耗以上にずっと重かった。
地獄を齎せば、同時に天国も齎す。青葉からの闘志あふれる最善のロングフィードは、宮野の闘志に火をつけていた。
——————見てくれていた、まだ点を取りたい俺を、見てくれていたっ!
宮野はまずパスを貰った瞬間に前にボールを転がしながらトラップし、縦の勝負に持ち込む。この試合終盤でスピードを維持できる彼のスピードに面食らいつつもスライディングで止めようとするが、スライディングが遅れてしまい、それは空振りに終わる。
『抜けたァァァぁ!! 左サイドこの時間帯で何という加速、何というドリブル!! さぁ中央に切り込んでいく宮野!! 今度こそ決められるか!!』
—————ポストにクロスバー。今日の俺は悪くない。けど、ここで決めなきゃ青葉や駆君には追い付けない。
宮野も、彼らが目指す光景に、その場所に辿り着きたい。今この瞬間こそ、宮野は充実していると言っていい。自分のスピードを買ってくれて、そのスピードを活用してくれるからこそ、自分のプレーの幅が広がった。
決めきるっ、そんな宮野の前に日本代表のCB寺内が立ちはだかる。ディレイ・ディフェンスで寺内が時間を稼ぎ、その間に背後から必死に戻る平賀とリマの姿を確認した宮野。
ここでカットイン。少し距離は遠いが、今日はこの距離から枠を捉えるシュートが増えている。ならば今度こそ、今度こそ決めると————
『カットインからシュートぉぉぉぉぉ!! キーパー弾いた!!』
しかし決められない。力み過ぎたのか、コースが甘かったのか、キーパーが反応してしまったのだ。ボールはまだラインから出ておらず、それでも外へ転がっていく。
——————ミヤさん、今日は本当、乗っているな。
そのこぼれ球をダイレクトに上げたのは、宮水青葉。あの縦パスを出した瞬間からスプリントし、小室を早々に引き離してゴール前に駆け上がる姿は、宮野に釘付けとなっていた全員の視界の影に潜んでいた。
————あとはあなた次第です、ミヤさん
ガンナーズにとっては絶望的配置、絶望的な存在がゴール前に居座っていたことになる。そしてすでに、ラストパスは放たれていた。
—————俺へのラスト————じゃないっ!?
マイナス気味の浮き球のパス。ニアサイドに走りこんでいた上田とリマの頭上を越えるボールは、中央にゴールを狙いに動き出していた宮野の元へ。
——————予測していたのか、俺がここに来ることも—————
しかもこのパスは、アレで合わせろと言っているようなものだ。無茶苦茶で優しいパス。しかも、今日の試合強い気持ちで臨んだ宮野には最上の、最高のアシストだった。
『中央折り返してまた宮野だぁァァァ!!! 突き刺さったァァァ!! 後半45分!! 宮野2点目!! 先制ゴール以降、ゴールに嫌われ続けた宮野に鮮烈な追加点が生まれました! 最後は宮水からのダイレクトクロスにダイレクトで応えて見せました!!』
キーパー動けない。ダイレクトクロスからのダイレクトボレーシュート。目で追うことがやっとの強烈なゴールは、ガンナーズの戦意をさらに叩き折った。
『あの縦パスからのスプリントが凄いですね。宮水選手は、宮野選手がフィニッシュまで持ち込むと信じて走りこんでいましたね。そしてそのボールを回収し、上田選手と宮野選手のどちらも使える状態でした。詰めていましたねぇ、ETUは』
『宮野本日2点目で今シーズン早くも6点目!! ETUこの試合5点目!! また4点差に引き離します、ETU!!!』
もはや勝敗は決した。宮野のゴール前ですでに決着はついていたが、それでも、これでもかとダメ押しを行うETUに対し、ガンナーズの攻撃は逆に飲み込まれてしまった。
そしてこのままタイムアップ。日本中が確信した瞬間だった。
彼こそが、日本のヤング世代の中心なのだと。
『ここで長い笛! 首位攻防戦はまさかまさかの展開に!! 大阪ガンナーズ、今シーズン初の黒星は、信じられない完敗でした!! スコアは5対1! 対するETUは宮野の先制弾含む2ゴールに宮水も2得点、さらには上田の初ゴールで圧勝! いやぁ、これが今季の、ETUのベストメンバーで挑んだ試合でしたが、とんでもないですね』
『この布陣を維持できないのが辛いですね。高校生のルーキーはまだ学業もあるだろうし、飛鳥はシーズンを一年出た経験がない。さらに代表も黙っていませんよ。』
『今後代表召集で、主力選手の離脱も十分あり得る為、達海監督は選手起用で慎重にならざるを得ないでしょう』
全てのサポーターが思うだろう。お前速く海外に出ろよと。
この惨劇を見せつけられたガンナーズサポーターは混乱の渦中にあった。中には怒号や悲鳴のような泣き声すら出てきていた。
「ふざけるな、ふざけるなっ!! なんだこれは、なんなんだよこれ!!」
「あの怪物がいるから勝てているようなものだろ!! ずりぃぞETU!!」
「しっかりしろよ、小室!! いいとこなしじゃねぇか!!」
「最後ぐらい防げよ!! なんで足止まってるんだよ!!」
「酷い、酷過ぎる。宮水選手に慈悲はないのか‥‥っ」
「まじで、無慈悲。もうあいつらのこと、無慈悲世代と呼んでいいんじゃないか?」
「平賀ぁ!! お前が止めなきゃ、誰が止めるんだよ!!」
一方のETUサポーターは歓喜。ルーキーの上田に初ゴールが生まれ、宮野も決めた。生え抜き戦士にして20歳と18歳の躍動は嬉しいものだ。
宮野は今季大ブレイク。10節で6ゴールと開幕前では予想もつかない活躍を見せている。
逢沢に得点こそなかったが、1アシストと中盤での守備力を存分に見せることになった。ゆえに海外のスカウトは、彼にはインサイドハーフの適性もあると考えたのだ。
「カケル・アイザワはまだ16歳なのか? 後2年我々は指を咥えてみていなければならないのか」
折角不安視されていた守備力の課題も及第点と言えるのに、これでは生殺しだ。
「ミヤノのスピードはストロングポイントだが、あれはミヤミズのクロスボールの質が高い。チェックリストに入れるべきだと思うがな」
宮水とプレーすることでどんどん伸びてきているような雰囲気を持つ宮野。先ほどの終了間際のロングボールを待っていたかのような動き。あの貪欲さは宮水青葉にはないものだ。
しかし、中央で一番輝いていたのは逢沢駆ではない。
「サポートありとはいえ、あのスピードで中央を走り抜けるのは凄い。彼は何者なんだ? 背番号7番の情報は?」
サイドで最速、別格の動きを見せ、誰もが納得し、サプライズではない青葉に対し、最大のサプライズはナンバーセブンの存在だろう。
「ダイスケ・ツバキ、彼も20歳だ。あのミヤノと同じ若手であのプレーか。ゴール前の突破にはわくわくさせてもらったよ」
若手の躍動が光るETU。しかし、彼らが自信を持ってプレーしているのは、あの男がいることではないだろうか。
宮水青葉は、このリーグでは狭すぎるのだろう。10節で10ゴール6アシスト。超人的な活躍を見せつける彼は、全試合に出場したわけではない。にもかかわらず、この活躍。
これは、最年少ハットトリックを決めた駆の数字を大きく上回り、短期間でリーグジャパン最高のスタッツをたたき出していた。
「しかし、彼の性格はある意味海外向きではないな。ジャパニーズの、人の好さが悪い意味で出ている」
「大量得点でリードしているときの露骨な守備意識。ミヤノが上がっていた分、バランスを考えていたのだろうが」
「むしろ得点に関しては、カケル・アイザワの方がどん欲に見える。無得点でいい動きをしていただけに、明らかに不満を抱くような下がり方。スコアラーなら納得だ」
その課題の一つに、大量得点でリードしているときの意欲の欠如。どこか守備的になっている点だろうと専門家は指摘する。
そして、2点目に見せた中央突破など個人技やスピードに優れる彼は、もっとエゴを出さなければならないということ。
彼は、自分をサイドアタッカーと考えているようだが、センターハーフ、トップ下、インサイドハーフ寄りの選手であることを自覚していないということだ。
無論、この悪癖を克服し、万能型サイドアタッカーになれる可能性もある。彼はどのように変化するのか、スカウトやエージェントはETUに張り付きまわることになる。
ブラン監督の御前試合でもあった一戦。
ガンナーズ注目の窪田は不発に終わり、スタミナ不足を露呈し、16歳の逢沢駆に走り負ける屈辱を味わう。反対に、中盤でのプレー強度に一切の問題を抱かせなかった逢沢駆の注目度は天井知らず。ゲームメークに徹した印象の強い内容ではあったが、やはり中盤の足元の技術に長ける選手は貴重である。
畑、片山は見せ場を作ることが出来ず選考外。途中からブランは名前を忘れていた。そして現日本代表の寺内の能力に疑問符は抱かなかったが、中央をこじ開けられるシーンで粘りを見せなかったことを残念に思っていた。
ファウルで、エリア外で止めることも出来たはずだと。これが、海外と国内でのとっさの判断の差なのだろう。
恐らく彼も追い込まれればそういうプレーが出来るようになるし、足も伸びてくるだろう。
志村も、まさか急造のボランチコンビに抑え込まれるのは予想外。パス精度自体は良く、何本か通していたが、ハウアーが悉く飛鳥に抑え込まれるのは予想外だ。
ポストプレーを許さないETU。杉江と代わる代わるハウアーには対応していたが、飛鳥の対応力は目を見張るものがある。そんな彼も高校時代は宮水青葉にボロボロにされたというのだからやはり彼は別次元に立つ存在なのだろう。
ブランは、この試合を見て五輪代表に彼をねじ込むことを強硬に要請した。そして、後はETUの出方次第ではあるが、逢沢駆をトップ下として、飛鳥亨をCBとして召集できないのかと。
ETUからしてみれば、召集中のリーグ戦に不安を残すことになりそうだ。
「———————ふふっ」
もしかすれば、ミスター達海はそのことを見越してターンオーバーで選手を定期的に入れ替えているのだろうか。無名の若手を試しながら、自身の戦術を浸透させていく。しかし、村越や杉江といった替えの効かない選手も存在する。
だからこそ、ベテランゴールキーパーの緑川がゴールを守りつつ若手に指示を与える。達海は若手を起用しながらベテランにもしっかりと役目を与えている。今回のガンナーズ戦では若手の清川と石浜は先発ではない。石浜はベンチ外スタンド観戦。清川はベンチスタート。敢えて何が足りないのかを突きつける経験にもなっただろう。
逆に結果を出している若手は継続的に起用される。世良と宮野は宮水・逢沢との親和性が高く、その環境下で伸びており、村越とコンビを組んだ椿も伸びている。控えにも今回のようなスクランブル先発でも熊田が結果を出した。
「—————案外手堅いんだね、ムッシュ・タツミ」
衝撃のガンナーズ大敗の凶報—————————
ベストメンバーがそろったETUは、ここまで強力無比なのか。いや、これこそが、宮水青葉と逢沢駆の存在感なのか。
世良への評価は当初低いものだった。上背もなく、運動量が多少ある程度。しかし、ゴール前でのポジショニングが劇的に改善されている。だからこそ、今回の肉離れはまずいタイミングだった。幸い軽度の肉離れということで、前半戦のうちに完全復帰は見込めるというのがドクターの判断。
だからこそ、ゴール前での決定的なスピードをこれでもかと叩きつける宮野の存在は、今後チームの中で重要なものとなっていくだろう。彼を活かせるのは、優秀なパサーであり、監督の達海はこれを維持しなければならない。
そして最後尾には、飛鳥亨が逞しさを増している。ハウアーと互角以上にわたり合う活躍は、彼が五輪代表に相応しい、日本史上最高のCBになり得る逸材だと確信させたものだ。
逞しく、速く、上手い。基本技術の高さを備える若きラインの守護者は、遠く離れたイタリアの地にも微かに届いていた。
年不相応なクレバーな読み。最悪を寸前で防ぐ当たりの強さ。この試合も結局ドリブル突破を一度も許さなかった。
本人曰く、練習で青葉に何度も突破されているらしい。逢沢駆との勝率は6:4で今のところ優勢らしい。
そして一方、ガンナーズのサポーターが試合終了時のトラウマになるであろうスコアに対し、未だ呆然とする中、
歴史的な勝利を成し遂げたETUのサポーターは、まだまだお祭り騒ぎだった。
スカルズメンバーは新規サポーターも含めて相手を煽ることは許さない態度をとっていた。しかし、この歴代最強クラスの戦力は、目を奪われるものだ。
「——————ガンナーズ相手に、ベストメンバーのETUはここまでできるのか」
羽田の呟きは、主要メンバーの戸惑いの言葉を体現していた。赤﨑がブレイクすると思っていたが、実は宮野が大本命だったのか。というより、宮水や逢沢にとって宮野は相性の良い選手なのだろう。宮野のスペースに走りこむ姿勢は、彼らにパスの選択肢を与える。だからこそ、宮野の活躍にもつながっている。
無論、赤﨑の存在は今後増していく可能性もある。だが、現状チームで仕事をルーキーたちに奪われているのが現状だ。
そんな変革期を迎えるチームで手腕を振るうタツミは、意図的に戦力の底上げを狙っている。例えば、黒田の出場機会は減ったが、亀川、小林、飛鳥の成長も見込んでの采配。新潟戦で惨敗したが、この成績は予想外だ。
「けど、まさか夏木がベンチに入れないなんてなぁ」
唯一の不満があるとすれば、夏木が復帰後はベンチ外が続いているということか。連携不足と試合勘の欠如は明らかであり、まだ時間がかかるようだ。
「—————夏木もいい選手なんだが、達海のお眼鏡に適わないのか」
世良の離脱でチャンスは見込めるだろうが、ベテラン堺には安定感が、上田も今日の試合で結果を残した。
夏木の立場はさらに厳しいものとなっていくだろう。ジーノ、逢沢、赤﨑という司令塔たちとの呼吸が合わないようでは、出場機会も苦しくなるのは明白だった。
昔、夏木の劇的ゴールに救われたことはあるが、その分簡単なシュートを外す悪癖への不満もある。それでも、一部のファンでは彼のポテンシャルを達海監督なら引き出してくれると信じ始める者たちもいる。
ただ、問題なのは
「最近ミーハーなファンが出入りしているが、まだ不穏な空気はでていない。しかし、こうなってくると分からなくなるな」
勝ち馬に乗るかのように増えてきた新規ファン。有名選手にして海外大注目の若手の俊英を一目見ようと大人数が押し寄せてくる。ホームの試合ではアウェー側に迷惑をかけている輩もいるほどだ。
アウェー席として確保しているにもかかわらず、その新規ファンが占拠するという事態。クラブは公式に「アウェー席での応援はご遠慮ください」と発信し、注意喚起をするものの、スタジアムでの応援の作法を良く知らないにわかファンにどこまで通じるか。
状況が悪化するなら、クラブとしての強硬な手段に出る事も厭わないそうだ。ゆえに、クラブカフェを作り、画面の向こうで試合を見られるようにするなどの努力を見せている。
元日本代表の前田GM補佐も語気を若干強めており、クラブ側も本気で対応する姿勢を見せているのが救いなのか、低迷期を経験していない若手幹部の働きに満足している者もいる。
「なんだかんだ、補強の話は今年までダメダメだったけど、経営に関しては前田さんのアイディアが上手くはまっていますね。外国人の補強は外れが多いですけど、軸となる選手は揃っていたというか」
前田芳樹GM補佐。もしかすれば後藤GMよりも手腕があるのではないかと思えるほどだ。さすがアラベスのフロントで鍛えられただけはある。
ETUのホームを重い足取りであとにしていくガンナーズイレブン。サポーターからの詰問は免れないだろう。そんな重苦しい雰囲気の中、一人の若手は今までにない闘争心を心の中で誕生させていた。
窪田が珍しくETUベンチを睨んでいたのだ。温厚な彼には珍しい、屈辱を受けたと言わんばかりの悔しそうな顔。
その原因は16歳の年下に良いように翻弄され、走り負けるという失態が主な原因だった。今まで改善できなかった課題を改めて突き付けられたのだ。
交代される直前、窪田の息が上がっている姿に対し、逢沢駆は残念そうな顔で一瞥し、プレーに戻る姿は彼の自尊心を深く傷つけるものだった。
——————なんでこの時間帯で、この程度の強度で、スタミナ切れなの?
口に出さなくても、それを言っているも同然の表情だったのだ。
「今のままじゃ、次も同じ———————」
守備も攻撃も、太刀打ちできない。窪田はこの試合以降スタミナをつけるトレーニングが増えていく。逢沢駆に勝つために。代表では中盤のポジションで被る為だ。
——————次は、同じ時間帯まで、それ以上の強度を可能にしないと
きっと今のままでは、自分たちの世代が彼らに追い抜かれる。否、すでに追い抜かれてしまっているのだ。このまま引き離されれば、代表入りしたところで、先発して活躍なんてことは望めない。
自分たちの世代は、彼らの引き立て役に甘んじることになるだろう。
黄金を超え、プラチナを超えて、さらなる可能性を内包する2020年の世代の影となりかねない。
かつて、逢沢世代と言われた2020年五輪に挑戦する権利を持つ者たち。
王様亡き後、この世代は人々からどのような名称を付けられるのか。
その答えはきっと、エリアの騎士王と、超常現象が示すだろう。
「——————くそっ、なんや……なんなんや、あの高卒は!」
片山は一度もドリブルで抜くことが出来なかった飛鳥のことを考え、猛烈に悔しがる。
「————杉江が全幅の信頼を置くだけはあるやろ、あのルーキー。せやけど、あの反応はあり得んやろ? 切り返しを待っていましたとばかりに刈り取るなんて、普通出来ひんやろ」
予測も鋭い。ガンナーズの攻撃陣は、杉江と飛鳥にいいように翻弄されてしまっていた。高卒ルーキーの飛鳥には体を作る期間が設けられているために、先発から外れることがあるのが幸いか。
ETUの守備陣は、思っていたよりも固い。
『小野田。私は今、とても悔しい。ここまで戦略を覆す戦術レベルの存在に、私自身の哲学を破壊されたことを』
「監督……」
ハウアーを使ったポストプレーだけでは通用しない。二列目や中盤での組み立て、平賀頼みのパスワークでは、いずれ手詰まりになる。
しかし、その戦術が通用していないわけではなかった。ただ、飛鳥と青葉という、二人のルーキーが規格外だったのだ。
逢沢駆を使った陽動を用いた、達海に翻弄されたのだ。
ここで崩壊するようなら王者に相応しくない。次戦に向けて立て直しを誓い、次のアウェー戦でETUに必ず勝利することを誓うガンナーズサイドだった。
試合後、青葉は電話で姉の三葉がここにきていることを知り、すぐに彼女の元へ向かっていた。そこには、かつて自分が傷つけてしまった少女の姿と、義兄になるであろう立花瀧もいた。
「青葉さん、お疲れ様です! 今日も凄かったですね。最後、ものすごい勢いでスプリントしていましたけど、まさかあれも予測済みでした?」
青葉が一気にスプリントしていたことを見逃していた大多数とは違い、瀧はその姿をはっきりと知覚していた。
「俺は預言者ではないよ。だけど、ミヤちゃんが最後意地を見せてくれると信じていたし、信じた方が気持ち良いと思ったからね。逆にミヤちゃんを信じず、走りこんでいなかったら、きっと孤立していただろうし、今後にとっても、あの得点は重要だった」
宮野の今後の為にも、必ず走りこむ必要があった。上田も1得点では満足していなかった為、ゴール前に群がっていたのも幸いした。
「まあ、姉さんの前でいいとこ見せられてよかったよ。四葉は予定がつかなくてここにいないのは残念だけど」
「もううちが言えることはあんまりないわぁ。凄すぎて、後サッカーに詳しくなったつもりが、また一段と引き離されてるみたいでなぁ」
プレーを見ていたが、ちょっと理解が及ばないと弱気な言葉を漏らす三葉。あれからサッカーについてユーチューバーさんの動画を見ていたりするが、やはり青葉の思考する速度は段違いだった。後は遠めからものすごい速さで動く彼を追いきるのは難しいというのもある。
「はははっ。まあ、機会があれば意図とか教えるよ。案外ピッチ上で考えていることは刹那的で単純なものが多いし」
「それに、江藤さんも浦和ファンからどうやらうちのサポーター?になりつつあるみたいだし、ちょっとそれは嬉しいかな」
「えっと—————」
青葉はあの事を引きづっていないかのように振る舞うが、内心は彼女を傷つけたことを気まずく感じている。だから無理に明るく振る舞おうとしているのだ。
「サポーターの皆が一つの方向に目を向いてここにきているわけじゃない。きっかけは人それぞれだし、その理由の是非を問うことは出来ないさ。だから、自分で納得できる答えが、ここで見つかるなら、俺は嬉しい。俺が江藤さんに思うのはそういうことかな」
青葉自身、達海監督を頑なに認めない者、認め始めている者、実は昔からファンでした、とか、いろいろな人種を肌で感じている。みんな綺麗な感情を持ち合わせているわけではない。心のどこかで納得のいかないものを持ち合わせている。
「すいません。勝手に気分を害したのは私なのに、気を使わせてしまって」
大人な対応を崩さない青葉に対し、申し訳なさを感じた江藤。なんだか部外者のような空気を感じた瀧と三葉は軽くアイコンタクトを青葉に送り、そっとその場を後にする。
「俺も人の機敏には鈍いと注意を受けることがあるし、気にしなくていいよ。それに、俺自身未だにその理由を明らかにできていない心苦しさはある。サッカーだけが取り柄の、学生の義務を果たし続けた青春時代だったけど、こんな俺にも江藤さんの力になれることがあるかもしれない。だから、何かあれば相談に乗らせてくれないだろうか?」
「そ、そんな。貴重な練習時間を削るなんて。私はもっと、もっと宮水選手の頑張っている姿が見たくて——————あっ、えっと—————」
「ハハハッ、お互い気を使い過ぎて会話がおかしくなっているな。うん、ちょっと格好がつかないな—————そうだ「青葉ァァァ!!! もうバスがいっちまうぞ!!」 げっ、クロさん!? すいません、すぐ行きますっ!! ごめん、これ以上時間を作れそうにないし、本当に不本意だけど、これで失礼するよ! それじゃあまたっ!!」
「は、はいっ! お気をつけて! ………ふぅ」
あのまま会話が続いていたら、どんどん帰るタイミングが無くなっていたし、帰りたくなくなってしまっていたかもしれない。
それに、学校での普通の男子学生と何ら変わらない素朴な所がある一方で、がっつく様な肉食系の雰囲気すらない。言葉こそ堅かったが、話していて嫌な気持ちはなかった。
—————何かあれば、かぁ
「おや、お嬢ちゃんじゃないか? それにさっき、青葉君に会ったね? どうだい、ちゃんと仲直りできたかい?」
そこへ、何も知らない外国語が話せない元日本代表で何か最近は便利枠に収まりつつある栗澤コーチがやってきた。出会い頭にいろいろと気恥ずかしいことを聞いてくる年上の男性に狼狽える藍子ではあったが、自分の中で芽生えた、説明できない感情を知るために、あることをお願いしようと決意する。
「一つ、お願いしたいことがあるんですけど、いいですか?」
「うんうん。いいよ。ちなみに私も江藤さんにいろいろ依頼したいこともあったしね」
「えっ? なんですか? 元日本代表の栗澤さんにお願いされることなんて私————」
まさかのお願い事をされるとは想定外の江藤。栗澤の願いとは一体何なのか。
「英語教えてくれないか。これ以上、有里ちゃんに小言を言われるのは耐えられないんだ」
「ゑ? 英語!?」
なお、その様子を壁に隠れて観察していた有里は、その眼光を鋭くさせる。
日本代表にも格というものがあるのに、一般人に対し、あんな情けない頼み方をするようでは威厳がいくらあっても足りない。むしろ、現在進行形で崩れていると言っていい。
「まあ、冗談なんだけどね。実際、有里ちゃんに先ほど雷を食らった、私個人のお願いではあるが。海外の代理人やスカウトたちの相手なんだが、最近は芳樹のとこの奥さんに、有里ちゃんに対応を任せてはいるんだ」
壁の向こう側では、有里は彼の言動に微妙な顔をする。江藤はその様子を知らないふりをする。気づいていないのは栗澤だけだ。
「そこではもちろん英語が必須なんだけど、芳樹は色々後藤ちゃんと経営のことで手が回らないし、選手をスカウトしたり、指導したりする私は、案外手が空いたりするんだ。ほら、腐っても日本代表だったし、選手を売り込んでくる人はいくらでもいるというか」
それに俺って、テレビに出てのトークとか苦手だしな、と苦笑いする栗澤。
「そ、そうなんですか」
ずいぶんと低姿勢な元日本代表がいるものだと、藍子は戸惑う。テレビでブイブイ言わせている元日本代表のコメンテーターやタレントたちがいる一方で、裏方に回って中々カメラが向けられない場所に、彼はい続けている。
「だからさ、不定期になるかもしれないけど、エージェントが来日したり、代理人が来るタイミングで俺と同席してほしいんだ。勿論、そっちの日程に合わせるよ、俺が調整する。後は、少しずつでもいいから英語を教えてほしいぐらいかなぁ」
不意にではあるが、彼とのつながりのようなものが出来た。その道筋が見えた気がする。もっと彼が登っていく姿を見ていたい。自分もその姿に刺激を受けて、いつか納得できる道を見つけて、ひたすら前に進むことができるなら。
江藤は、自分の中にある自分本位な理由に内心複雑だ。栗澤の頼みごとに付け込んで、彼とのつながりを求めている自分がいることを恥じた。それでも、
「分かりました。私なんかでよければ」
「ありがとう。よっしゃ、これで有里ちゃんからの小言が減「減ると思いましたか?」」 ヘアッ!?」
ギギギと後ろを振り返ると、にこやかな笑顔をしていた有里が立っていた。江藤は目を逸らす。
「ごめんね、江藤さん。勿論、語学力を生かしてうちに協力してくれるのはありがたいし、むしろ私もお願いするぐらいなんだけどね。ほら、やっぱり元日本代表にも格というものがあるし、腐っても歴代ナンバーワンの右SBだったわけだし。言動が軽すぎるというか」
「えっ、えっと。その、すいません」
自分が怒られているわけではないのに、悪寒がしてしまった江藤。年下の女性に平謝りする栗澤の姿を見て、色々遠い目をしてしまう。
「英語くらい、自分で勉強しなさい。前田さんたちも、青葉君も、もちろん私も、独学で会得したわよ?」
「は、はいっ——————すいませんでした」
未成年の時間を、仕事の依頼以外で奪うなとくぎを刺す有里。ただでさえバイトに関してはグレーゾーンへの目の向け方が世間様は厳しいのだ。余計なリスクは排除する。
「身内の恥を見せてしまって申し訳なかったわね。それはそれとして、私は江藤さんがその語学力でうちの力になってくれること、個人的にもクラブ的にも嬉しく思っているわ。ただ、こういう話はちゃんと両親と相談すること。これが私と栗澤さんの連絡先だから、栗澤さんに関してはいつでも電話していいわよ」
俺だけはいつでもとか、日程調整が、と唸っているが江藤は有里から目を逸らせず、有里はその独り言を黙殺した。
「分かりました。帰って両親と相談します! その、一度冷静になることが出来ました。お手間をおかけしてすいません。」
「いいのいいの。栗澤さんがいきなり話を飛躍させたのが悪いんだから。こういう話はやっぱり親に一度連絡をしておかないと、トラブルの原因になるし。ま、普通のバイトよりは羽振りはいいかもね」
何せ特殊性の強いバイトだし、異例だし、人材の少なさからくるイレギュラーだし、と説明する有里。
「色々とお話を頂いて、ありがとうございました。……失礼します」
有里の存在感に圧倒されつつも挨拶をすまし、その場を去っていく江藤。何事もなかったかのように栗澤も立ち去ろうとするが、
「栗澤さんは一度、経営や人材についてのお勉強をするべきですねぇ。前田さんと後藤さんに任せっきりで、そちらは全くの赤点。落第レベルですし。私が一からルールやマナー、タブーをお話しするので、逃げないでくださいね!」
「OH……」
その後日、少しやつれた笑顔を見せる栗澤の姿が目撃されるが、選手たちは知らぬ存ぜぬを貫くのだった。
「クリさんは、偉大な現役生活、代表での活動をしたというのに、なぜこんなに扱いがぞんざいなんだろう? これがわからない……」
元日本代表で、不動の右SBで、イケメンスピードスターで、ファイターで、歴代ベストイレブン常連の名選手が、このETUでは弄られキャラになっている。
青葉の疑問に答える者はいなかった。
この第10節を機に、U20ワールドカップに出発する青葉と飛鳥。
今までのベンチ外とは違い、最大で16節の鹿島戦まで彼らは帰ってきません。
今までの歴史では、達海不在時の成績は芳しくなかったが・・・・・