騎士見習いの立志伝 ~超常の名乗り~   作:傍観者改め、介入者

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ここまで投稿間隔があくとは思いませんでした。



第七十五話 今ある力で

ショックの残る敗戦を経験したETU。このままでは、またずるずる嫌な空気に戻ってしまうと達海は考えていた。奮闘していた椿には申し訳なかったし、もっと早く中央の守備を固めることが出来れば。

 

しかし悔やんでも仕方ない。今のETUは再建途中なのだ。

 

そんな中、達海はある催しを行うことを決断する。チームがバラバラになりそうな気がする。過去の経験を思い出してしまう彼は、その記憶を思い出す。

 

 

代表召集で達海たちが不在の時、チームは瞬く間に状況が悪化した。いつしか自分たちと彼らとの間に溝のようなものが出来ていた。それは実力差なのか、それとも環境がそうだったのか。

 

 

それとも、達海だけが気づけなかっただけで、最初から溝はあったのだろうか。

 

 

 

自分が体を痛め、オーナーの強権で強行出場した際、はっきりと聞こえてしまった。達海猛の為に作られたチームだと、それに対する不満が噴出していた。

 

自分一人が消えて攻撃が機能しなくなるチーム。そもそもそういうチーム作りでしか強くなれなかった環境が、その後の運命を決定づけたのだろう。間違いではなかったかもしれない。しかし、タイトルには届かず、長い低迷の時代が待っていた。

 

長期の低迷を経験したこのチームの歴史を鑑みれば、知らず知らずのうちに崖へのレールは敷いてあったのだろう。

 

—————あいつらを俺の二の舞にはさせない。無論、今のチームの奴らも

 

 

「カレーパーティ、ですか!? なんだってまた!」

 

有理は、そんないきなりの催しを起こそうと考えている達海に面食らう。自前のクラブハウスでの突然のイベントは正直何を考えているんだと。

 

「—————でも、クラブにとっては正念場ではあるのよね。そうね、クラブハウスには丁度そういう準備が揃いやすいし、明後日ぐらいなら同時に出来るわよ?」

 

ここで栗澤夫人の出番。達海の言いたいことを理解し、より大きくできることを提案したのだ。だからこそ、達海の肩も心なしか、軽くなったように感じた。

 

 

「————フットワーク軽すぎない?」

さすがの達海もクラブカフェ一斉にその催しをしようという発想にはたどり着かず、驚いていた。

 

「こういう時こそ、準備と知恵の見せ所よ。達海君の言いたいこと、優斗なら分かってくれるはずだもの」

 

素晴らしい提案だと思うわ、と笑顔で達海の背中を全力でプッシュする夫人。

 

「そうね。選手の当日の配置も考えるわよ~。それはそうと、達海君はやっぱり本拠地にいるとして、優斗は八王子かなぁ」

 

そしてもう一人の若奥様の前田夫人も参戦。

 

「町田には芳樹さんが行けばいいだろうし、午前中のサッカースクールを12時前に切り上げて、保護者の方にも手伝ってもらおうかしら? 今から連絡しないと」

 

てきぱきと勝手に壮大な計画になりつつある達海のカレーパーティ。しかし、やる気になってくれたのはありがたいことなので、それ以上は口出ししないことにした。

 

「——————主婦、というか母親って、あそこまでアクティブなんだな。女性ってすごいな」

 

「達海さんは知らないでしょうけど、あの二人のおかげでどんどん東京の新規ファンは増えているのよ。弱い時からずっと、一つ一つ階段を上がって、もう一度あの時の場所に、そしてその先の景色を見たいと思っている人は、たくさんいるんだよ?」

 

有里は、その歴史をずっと見てきていた。あれだけ自慢だった前田と栗澤の現役引退の時も立ち会っていた。

 

数々の人がこのクラブに携わってきた歴史を彼女は知っている。

 

幼い有里に、少し成長した有里に、社会人になろうとする彼女の先には、いつも選手たちがいた。

 

有里はいい時も悪い時も、このクラブを見守ってきた。達海が入る前から、達海が抜けた後も。

 

「——————だから、中々時間の取れない私にも、同年代の友達が出来たんだ」

 

ファンになってくれた人と、サッカー談義に花を咲かせることもあった。なんでもない話で盛り上がったり、奥様二人の奮闘で自分の時間だってできた。

 

 

「—————当面の目標は、達海さんがいた頃よりもスタジアムが盛り上がるぐらいが目標かな?」

 

目を輝かせて、大いなる野望を語る有里。絶対に東京の覇権を獲るんだと、意気込みを語っていた。

 

「—————————」

 

そんな彼女の力強い宣言を見て、達海はじっと彼女を見つめていた。彼女は気づかない、すぐに準備に取り掛かり、選手たちや他のスタッフに手配をし始める必要がある。

 

「じゃあまた後で。達海さんも、自分で始めた企画なんだから、しっかりあの二人に意見を言ってよね? じゃないと達海さんが考えるよりも凄い催しになるかもしれないんだからね!!」

 

そう言って、有里はその場を後にする。残された達海はそんな彼女たちの姿を見て呆然としていたが、ようやく立ち直り、笑う。

 

「————————————」

 

 

—————後は強くなるだけ、か。ほんとに、そうだったんだな

 

クラブ初の快挙が視野に入り始めている状況で、少し弱気になっていたのは、自分だったのだろう。この流れを失いたくない。大阪相手の快勝劇を演じ、その直後の大分へのショックの大きい敗戦。

 

達海は自覚する。自分は、この状況に強い危機感を抱いていた。

 

千葉、川崎と難敵が続く二連戦で、右翼の青葉を捥ぎ取られ、守備の要である飛鳥を失ったことを引き摺っていたのは、自分だったのだ。

 

自分以外のスタッフが、ここまで頼もしくなっているとは。ここまで自分の言いたいことをすでに実践していたことに、今更気づいた達海。

 

—————裏切れねぇよな、これは

 

後藤がスカルズメンバーとスタジアムで話し合う光景を知らなかったわけではない。自分を裏切り者と言い張る彼らには、弁解のしようもない。

 

確かにあの時、自分は彼らの手を振り払った。良かれと思った行動が悉く裏目になり、誰も得をしない結果となってしまった。自分がケガでダメになったのは仕方ない。それまで全力でプレーしてきた自分の体だ。それでだめならそこで壊れる運命だったのだろう。

 

だが、彼の心残りは彼が去った後のクラブの過去だ。そして、栗澤にはとんでもなく重い十字架を背負わせてしまった。

 

崩壊寸前のクラブを背負い、村越がリーダーになるまでこのチームを守り続けてくれた。自分以上に体の頑丈な彼は、日本代表の常連だった。オファーが来ていないはずがない。ビッグクラブのオファーなら当然来ただろう。しかし、彼は最後までこのクラブ一筋でユニフォームを脱いだ。

 

達海の選択で、栗澤の世界に花開くはずだった未来は閉ざされてしまった。そんな栗澤のことを気にかけていた前田は、海外で培ったキャリアを残し、その経験の全てをこのクラブにささげている。

 

—————ヨシも俺も、クリのことを見捨てられなかったんだよ

 

このクラブで、日本代表で、共に戦ってきたからこそ、理解できる。

 

 

ずっと笑顔を絶やさない彼は、サッカーキャリアの選択で苦悶する表情を、絶対に晒してくれなかった。プロならば頂点を目指すとは対極の考えで、前田と達海の背中を押してくれた栗澤に借りを返す必要がある。

 

 

—————俺はこのクラブを軌道に乗せるぜ。俺が真剣になれる唯一の分野で、このクラブを必ず支えて見せる

 

 

 

そんな監督や大人たちの決意など知らない椿大介は、カレーパーティの件で浅草のクラブカフェにて持ち場を任されることになった。知り合いがいるなら、手伝ってほしいという有里の伝言ももらいながら。

 

「けど俺、そんなに交友関係ないし………」

 

社交的とは言えない性格で、クラブの皆としか交友がない。強いて言うなら、

 

「あっ」

 

丁度その記事だった。彼女の事が書かれている記事を偶然携帯で見つけたのだ。

 

 

—————開幕7連勝! 小野寺4戦連発!! 代表戦を挟んで6戦連発!! ニューヒロインの歩みは止まらない!

 

————日本代表美島にオファーか!? 独一部バイエルンが接触か!?

 

一躍時の人となっている彼女は、女子サッカー界のヒロインとしてすでに不動の地位を築いている。本当にすごいし、男顔負けのプレーを見せる時がある。

 

「——————」

 

だから迷った。一クラブの催しで、それもまだ無名に等しい自分が、彼女を誘っていいのかと。自分なんか彼女と会うべきではないかもしれないと。

 

「———————」

 

 

 

—————前に進むって、決めたんだろ?

 

 

それは開幕戦の時の言葉だ。失点に絡んで、自分も中途半端にしかプレーできなかったときに言われた、彼の言葉だ。

 

————だったら、バッキーの思うようにすればいい。自分の心に従ってな

 

 

もう逃げない。椿は決断した。迷わず彼女の電話を掛けるのだが、

 

「—————うん、そんな感じがしたよ……」

 

 

電話がつながらない。通話中なのか、椿の決意は無駄になったようだ。せっかく頑張って決意したのに、と椿はあきらめて他の電話や当日に自分がすることに関しての資料を読み始めた。

 

プルルルルルっ!!

 

 

その時だった。一本の着信が入り、慌てて椿は電話ボタンを押す。

 

「も、もしもし!? 椿ですけど!!」

 

『————相変わらず、落ち着きがないのね、大介は。この前は残念だったね。でも、リーグ戦はまだ序盤よ。失敗は次に活かしてこそ意味があるの。』

 

「あ」

 

その声を聴いただけで、焦りが消えてしまった。彼女の優しげな声を聴くだけで、抱えていた不安が消えたのだ。

 

『えっと、私もさっき舞衣ちゃんと電話していたのよ。なんだか忙しそうだったし。それで、大介のことだから何かあったんだよね? 前節のこと? それともなにかあったの?』

 

「う、うん。実は」

 

 

椿は全てのことを話した。それを聞いて小野寺は

 

 

『じゃあ手伝うね。いつ頃から向かえばいいかな?』

 

 

あまりにも速い返答。椿も慌てる。

 

「え!? い、いいの!? でも練習とか、あるんじゃ」

 

『フルで使い過ぎて監督から強制オフ命令が下ったの。それで気分転換がてら時間を貰ったのよ。だから大丈夫よ。大介も運がいいわね。日頃の行いのせいかしら?』

 

「あ、ありがとう! じゃあ、当日までに決まったら連絡するね!」

 

 

『ええ。楽しみにしているわ。またね、大介』

 

 

彼女との電話が終わり、椿は心臓の落ち着きが無くなる。というより、先ほどから動悸が半端なく速くなっていた。

 

「な、なんとか、電話できた——————」

 

 

 

 

 

 

そしてクラブのメンバーの間では、

 

「クラブカフェも巻き込んだ、同時カレーパーティですか! 凄いですね!」

 

「ほんとほんと。こういう集客や知名度アップの企画は抜け目ないよなぁ」

 

宮野と世良は、アクティブすぎる上層部に驚愕していた。

 

「そうだなっ!!! こういうクラブの苦境でチームを一つにまとめるための催しには賛同だな、俺は!!」

 

黒田は意外に乗り気らしい。達海監督の戦術に不満はないし、それが理にかなっているとさえ思っている。チームを分裂させかねないことを行ってきた過去に比べれば、この提案は彼自身も気分がいい。

 

「浅草、八王子、町田市。そしてこの本拠地であるクラブハウス。凄いことになりそうだ」

 

「同時にこのクラブカフェとクラブハウスがネット中継されるし、至れり尽くせりだな」

 

丹波や堀田も物凄いことになりそうな企画に驚く。そしてノリノリである。

 

「こういうの、なんか課外活動を思い出すなぁ。修学旅行とか。夏の合宿とか」

 

「そ、そうかも」

 

清川と椿はそんな話をしているが、椿はなぜかそわそわしていた。

 

「椿?」

 

「な、なんでもないよ!? なにもないよ!?」

 

当日まで椿がそわそわしている理由が皆目見当がつかない一同。

 

「———————どうした、スギ」

 

「いえ、コシさんは、もし自分の奥さんがこの催しに飛び入り参加するとなると、どうですか? 現役の頃で」

 

「!? ……当日はフォローしてやる。止められなかったんだな?」

 

尋ねた村越は、杉江が首を縦に振るのを見て苦笑いをする。

 

「助かります、コシさん」

何とか当日のフォローを得られそうな杉江。

 

 

 

そして、

 

 

「ああ。なんかカレーパーティがあるらしい。俺はいまニュージーランドだけど、みつ姉や瀧君、司君は来れるでしょ? 後は、大学の友人とか」

 

『そうやねぇ! うん、当日はスタッフのお手伝いも頑張るね!』

 

まだ大会が始まっていない為、ニュージーランドへの渡航を果たしていない姉妹と将来の義兄は、幸運なことに予定がフリーだった。

 

「ところで、瀧君から聞いたんだが、ちょっと顔の広い友人と知り合いらしいな」

 

まさかの芸能人と交友を広めていたとは想像もできないと青葉は思った。他にも、ちょっと頭のねじが緩んでいるお酒大好きな人たち(当然彼らは出禁)だったり、突拍子もない行動で周囲を乱す天才肌のお姉さん(アンタ千葉から来たの!?)だったり——————

 

とにかく、青葉にとって想像を絶する、というか、一部は会いたくない人とつるんでいるというのが三葉の現状である。決して反社会的とか、ちょっと身の危険を感じるような人はいないので物理的には大丈夫なのだが。

 

 

「——————本当に大丈夫、なんだよね?」

 

『みんな親切だよ♪ ちょっと私の友達に制裁を食らっている男子学生もいるけど。瀧君も最近騒がしい学園生活らしいし』

 

「その、瀧君は○○○○の高校なんだよね?」

 

青葉は、可能性世界の青葉が覚えている瀧の学校を言ったのだが、実はそうではなかったらしい。

 

————史実と違う、高校、なのか。どうしたんだろうか

 

『瀧君頑張ったんだよ。確か私立だったんだけど、特待生になって学費免除で、私の大学にも近いんだよ』

 

「—————これも愛の成せる業か」

 

瀧君どんだけ頑張ったんだよ、と青葉は思う。

 

「それで、その学校はどこなんだ?」

 

『私立豊ヶ崎学園高校だったよ~。色々手先が器用な人や、凄い綺麗な絵を描く人がいて、凄い楽しそうだよ』

 

確か、東京の少し離れた場所にある学校だったはず。青葉は新聞でちらっと読んだ記憶を思い出す。

 

「そうなのか」

 

『で、今度瀧君が日頃の恩返しも込めてその人たちと一緒に、そのカレーパーティに行くんだよ』

 

「そうか。当日はみんなとはぐれないようにな」

 

 

 

 

そして当日、青葉らは練習の合間に、ETUはどうなっているのか、国際電話で尋ねることに。

 

その話の中で、青葉が美島奈々のことを狙っていると公言していた堂本に、悲報を告げる。飛鳥と何気ない会話の中、

 

「そういや、ETUは今頃カレーパーティーか。駆の奴は」

 

「今頃、美島さんを連れて出ているだろうな。小野寺さんもフル出場のし過ぎで強制オフの命令を受けたと椿から聞いた」

 

「あ!?」

 

「「あ」」

 

 

ぽろっと口に出してしまったのだ。明らかな男女の仲を思わせる行動。逢沢駆と美島奈々は幼馴染だということも、嫌というほどニュースで報道されている。

 

残酷な事実だった。

 

 

「——————おい俺、ナナちゃんの事、狙ってたんだぜ? おい、笑えよ、カズッ、俺を笑ってくれよ、嗤えよぉぉぉぉ!!」

 

「—————き、傷は浅いぞ、堂本………」

 

 

「さっきまでの俺を、俺をッ! 俺をぉぉぉ!! 俺は大バカ野郎だぁ、ふざけるなっ、ふざけるなっ、ばかやろぉぉぉぉ! 何が活躍して、ナナちゃんにアタックするだっ!! 俺は、俺はとんだピエロじゃねぇェェかぁぁぁぁ!!!」

 

ORZ状態になり、やや自暴自棄になる堂本。サッカーとプライベートでオンオフはしっかりできるし、練習にも影響はないのだが、やはり見ている方はこの人哀れだなぁ、と思ってしまう。

 

「———————やはり俺の壁となるか、逢沢駆っ!!」

 

そして、堂本のメンタルをピンポイントに破壊する遠因である逢沢に対抗心を見せる小川。

 

 

「——————早くもチーム崩壊の危機だと!? どういうことだ、どうすればいいのだ!?」

 

「秋本が壊れた!?」

 

「おいおい。最近の高校生は進んでんなぁ。ちっ、彼女と付き合う暇なんか、俺の時はなかったのに————これがリアル勝ち組というやつか」

 

「俺、出身が雪国だったんだけど、3年間脱走するか、正気を失うかの二択を迫られてたなぁ。彼女とか作る時間というか場所もなかったし。なんつうか、麻痺しちまったよ、そういうの。あと、寮の付近に雪が積もっているんだけど、人型が無数にあったよ」

 

「雪国特有のブラックエピソードやめろっ! つうか、思い出させんな! 卒業後しばらく夢で出てきたんだからな、マジで!!」

 

——————なんで新雪の上に人型があるんだ…‥意味わからない

 

江ノ島の練習や、その前から自分ルールで決めた、野山での終日ドリブルもそこそこしんどかったが、上には上がいるのだと痛感する青葉。

 

 

なお、青葉の野山での終日ドリブルは、一歩間違えれば遭難や、危険生物との遭遇が待っている模様。後にオオスズメバチの巣にボールを蹴りこんで、大軍で襲われるエピソードを晒し、逸般人であると指摘されることになる。

 

他にも、クマやイノシシとの逃走劇を演じる等、人間死ぬ気でやれば何でもできることを証明した青葉ではあったが、「お前、ホントに日本人か?」と鷹匠に指摘された。

 

 

 

話を恋愛に戻そう。

 

 

 

なお、美島奈々と逢沢駆が熱愛という報道は週刊誌レベルであったが、あきらめの悪い男子諸君が現実を受け入れられないという事態に陥っている。しかし、みんな察している。

 

逢沢駆と美島奈々はもうそういう関係なのだろうと。

 

 

「————特に攻撃陣が悲惨だな。初恋が終わった堂本、なぜか混乱している秋本。別方向に感情のベクトルが飛翔している小川。青葉と鷹匠、九鬼だけか。あっ、九鬼はどこに行ったんだ?」

 

「まあな。俺はあいつらがデキていることは事前に知っていたが。九鬼は動画で試合を見ると言って部屋にこもっているぞ」

苦笑いの鷹匠。なんとなく堂本には芽はないかもしれないぞ、と忠告はしていたが、プレー同様粘り強いアプローチを考えていたようだ。

 

そして九鬼は、興味ないねと言わんばかりに退出し、自室にてサッカー動画で熱を上げていた。

 

 

「その点、青葉からしっかりと颯ちゃんと青葉が恋愛関係じゃないってことが知れてよかった。俺狙っちゃうよ!? この大会で活躍してメディアで彼女に会うんだ!」

 

讃岐のCBの城達哉が小野寺颯へのロックオンを宣言する。青葉とは幼馴染だが、そういう関係ではないことに安心したのだ。

 

「——————(言えない。なんかいつの間にか椿といい感じとか言えない。すいません、城さん‥‥)」

 

汗がだらだらの青葉。焦りで口角が歪む、引き攣る。

 

「よし! まずは俺だ!! 青葉ぁっ!! まずは俺に変われよ!!」

 

すっかり乗り気の左SB沖名太陽。城と同様に小野寺颯に好意を抱く選手である。

 

『もしもし? 青葉? こんな時間に電話するなんてどういうこと? 練習はどうしたの?』

 

「いや、それがな。ちょっとチームメートが」

 

『ふ~ん。まあいいわ。一つ貸しね、アー君』

 

 

「アー君はやめろ! まるで舞衣ちゃんのような……あっ」

 

瞬間、青葉の周囲の空気が凍り付く。なお、クリティカルヒットを食らっていた堂本のコンディションが絶不調に陥る。

 

「おい、青葉ぁ? 舞衣ちゃんって、アー君ってなんだい?」

城が不穏な顔で青葉を見て微笑む。

 

「———————お前、そうか、お前もアイツと同類かぁ? お前も勝ち組、なんだな?」

沖名が青筋を浮かべて笑う。

 

 

他の数名は「おいおい、年少のコイバナくらい許してやれよ」と若干呆れていたりする。

 

「誤、誤解だ。彼女とは何も、フォワードとしての生き方について、俺なりにアドバイスをしただけであって」

 

 

他の公立校や私立校、ユースの惨状を聞いたばかりの青葉。これはまずいと感じる。

 

 

『今アー君そこにいるの!? やっほ~!! 久しぶり!! 元気してた!? ニュージーランドはどうなの? やっぱり涼しい?』

 

「なんでこのタイミングでかわったんだ颯ェェェェ!!!」

 

連行される青葉。とっとと吐けと連行されていき、後に無罪であることを立証した青葉は、くたびれた表情をしていた。

 

「むっ、椿からか。どうした?」

飛鳥は椿からの電話を受ける。すると、

 

『颯ちゃんの好みって、というより、女の子って、何が好きなのかな? やっぱり甘いものかなぁ』

えへへ、と普段は見せない恥じらいを感じさせる椿の声色。飛鳥は心中で「男の照れ笑いとかいらんわ!」とツッコミを入れるが、自分の置かれた状況はそれどころではなかった。

 

 

「———————————」

絶句した飛鳥。そして、沖名と城を除く、仙台の伊達直哉、岐阜の工藤春雄が首の向きを変える。

 

 

「—————飛鳥」

 

 

「待っ、待って、待ってください!? これは俺悪くないでしょう? なぜ俺がそんな目で見られるんですか!!」

焦る飛鳥。自分も女難に会いたくないのだ。むしろ自分は無関係。むしろお前たちと同じ年齢=彼女いない歴であるのだから。

 

「まあでも、イケメンで女性の告白を何度も断っていると聞いたぞ」

根も葉もある証拠を宣言され、追い込まれる飛鳥。そんな話、世代別で一部の人間にしか喋っていない。慌てて鷹匠に目を合わせるが、鷹匠も慌てて首をぶんぶんと横に振り、「俺じゃないっ!!」と訴える。

 

 

「なっ!? 馬鹿なッ、そんな情報何処から—————はっ!?」

 

墓穴を掘った飛鳥。そして墓穴を掘った瞬間、諸悪の根源と目が合う。

 

「——————俺さ、お前はイロドリミドリで、いつでも作れると思っていたんだぜ?」

本田マイケルだった。

 

「ほっ、本田ッ!? 謀ったな‥‥? 計ったなァァァァァァ!!!!!」

 

青葉と飛鳥は、電話を掛けたことで災難に遭った。

 

 

「なぁなぁ!! 俺、さっき意識飛んでたんだけど、なにかあったっけ?」

 

「ど、堂本………」

土壇場で虚どっている秋本。未だに錯乱状態なのだろう。

 

「なんかさぁ、駆ちゃんと奈々ちゃんが付き合ってたって悪夢を見たんだけど、そんなの違うよね?」

 

—————面倒くさい人だぁァァァ!!!!

 

内心で青葉は、堂本って実は真面目な人ではなくて、ちょっとかわいそうで変人なのでは、と思うようになった。いや、ここまでサッカーで上り詰める人だ、どこか普通の人とは感性が違うだろうし、ぶっ飛んだところがないはずがないと思い、無理矢理納得した。

 

 

その後、現実を受け入れられない堂本が、何度も何度も意識消失と絶望を味わう3度のループを目の当たりにした青葉は、この人の前で色恋沙汰につながる話はしないと誓う。

 

 

一方、日本国内東京では、

 

 

浅草クラブハウス———————

 

「けど、助かりましたよ。小野寺さんって料理上手なんですね」

 

「昔は趣味にお母さんの横で料理を手伝ったりしていたのよ。サッカーにのめりこんで、その時間は減ったけど、ちゃんとレシピは覚えているし」

 

本当は浅草のクラブカフェを使おうとしたが、面積の問題で、クラブハウスを流用することに。ここは若手と前田夫人と有里が切り盛りすることに。

 

「あの椿がなでしこの小野寺颯といい空気、だと!?」

 

「そんなぁぁぁ!! 椿だけは俺たちの味方だったと思ったのにィィィ!!!」

 

落ち込む向井と清川。

 

「ふふふふ、やはり顔か? 顔なのか畜生……」

 

「そんなことないよ。真面目にプレーしている選手はいいと私は思いますよ。」

 

そこへ、先ほど惚気ていた美島奈々が登場。

 

「くっそぉぉぉ、駆の奴、サッカー上手くて、可愛い女の子と付き合ってて、色々人生不公平だぁぁっぁあ!!!」

 

美島の励ましの声が逆効果となり、明後日の方向へと駆け出していく亀井。これには若手のCB小林も苦笑い。

 

「——————なんか、今シーズンは弾けてんなぁ、あいつ」

 

それでも、選手やスタッフと共にこの催しに参加したサポーターたちと交流を深めていく。やはり、下馬評を覆す勢いを見せているとはいえ、達海の気まぐれに等しいタイトなスケジュールでは、それほどの人数も来ず、適度な人数のファンが集まっていた。さらに言えば、目玉である青葉や飛鳥がいないことが作用したのだろう。

 

 

年齢層も高く、スカルズのメンバーも主だったメンバーが来ておらず、それほどのトラブルも起きず、先ほど悔し泣きしていた亀井が励まされるシーンもあった。

 

「レギュラー奪って、どんどん凄い選手になってください!」

 

「ここに俺の味方がいたァァァ!!」

 

哀愁の漂う背中から元気を取り戻し、カレーパーティを楽しむ姿が見られ、他のメンバーもサポーターたちから激励を受け取っていた。

 

「今年期待してます! 今年こそ、タイトルを!」

 

 

「次の千葉戦。ないものねだりではなく、ETUの底力を! 宮水選手と飛鳥選手がいなくても、勝ち点を取れるって信じてます!」

 

 

そんな声援を受け取り、決意を新たにする清川ら。しかし、未だ新チームの中で貢献が出来ていない一人である石浜は、表面上は笑顔でも、心中は穏やかではない。

 

 

——————向井は、次のスタメンが確実だ。

 

 

フィジカルの向井、スピードと攻撃の清川。二列目と三列目が出来る丹波。左サイドの争いはし烈な一方、右サイドは石神がスタメンに返り咲き、ユーティリティな選手にも序列で下を往く現状。

 

石浜は、今自分に課せられている選択に縋るしかない。歴代日本代表最高の右SBの教えに振り落とされれば、このチームに自分の居場所はない。それをわかっていた。

 

SBで最も球際の激しい男である向井は、海外仕込みの達海サッカーにフィットしている。だから、石浜が選択した答えは間違いではない。それが遠くて、数試合ベンチにも選ばれない。

 

 

——————頑張れよ。また試合で、迫力ある上りを見せてくれ!

 

 

——————栗澤コーチの教えは、必ず活きてくる。腐るなよ、ハマ

 

 

戦士の覚醒は、まだ訪れない。

 

 

 

 

————クラブ町田カフェ

 

ここでは、杉江と村越が中心となり、カレーパーティを開催。

 

「—————お前に彼女がいるとはなぁ。まあいいさ。あんな別嬪さんだ。幸せにしろよ、スギ」

 

「クロ………ありがとう」

 

黒田の神対応過ぎる振る舞いに感動する杉江。

 

「まあ、スギさんモテるもんなぁ。元女子アナで高学歴で、美人さん。凄いな、スギさん。どうやったんだ?」

 

丹波は純粋な興味で尋ねる。

 

「いや、まあいろいろあってな。クラブカフェで偶然」

 

 

「—————普通にカメラマン来てるんだけど、本当に大丈夫なんだろうか」

 

 

中堅、ベテラン組中心のこの場所は、ミーハーたちに襲撃されることもなく、平和だった。

 

 

 

 

 

—————町田市クラブカフェ

 

しかし、逢沢選手が訪れているこの町田市のクラブカフェでは、ミーハーたちや報道陣の襲撃に会うなどして、規制が一部敷かれるちょっとした厳戒態勢となっていた。

 

 

それでもクラブ職員らの奮闘により、沈静化されていき、選手と一緒にカレーを食べる平和な時間が訪れていた。そこには、青葉の姉である三葉の姿があったりする。

 

 

「それにしても、久しぶりだね、三葉ちゃん。大学生活はどうだい?」

栗澤コーチは、なし崩し的ではあるが、エプロン姿になっている三葉の姿に申し訳なさそうにする一方、近況を尋ねる。青葉ほどの男が、姉の近況を知らないわけではないだろうが、それでもそれとなく彼に伝え、安心させるべきなのではないかと考えていたりする。

 

「はいっ! とても充実しています! 瀧君が今日ここに来れないのは残念ですけど、友達もいっぱいできましたから」

 

「ん? 瀧君今日はどうしたのかね?」

 

「瀧君が骨髄バンクに登録していて、その、適合する患者さんが見つかったんです。それで、瀧君は今日が手術日なんです」

 

瀧は骨髄バンクというものにドナー登録していたらしく、5月ぐらいに患者が見つかり、その申し出を快諾したという。

 

————献血と同じだよ。俺が行動することで、誰かが救われるなら。俺はしたいんだ

 

自分に、そして“彼”に顔向けできないことはしない。そう決めたのだから。と彼は言うのだ。なんでも、相手は女子中学生らしく、その話を聞いて心底よかったと二人で笑ったそうである。

 

 

「お久しぶりです、クリさん!!」

 

そこへ、市立墨谷中学校のサッカー部に所属し、最近練習に参加し始めた少年が現れる。名前は渡亮太。なんでも、江ノ島への入学を目標としているらしい。

 

「久しぶりだね、渡君。あれ? いつもの皆は一緒ではないのかい?」

 

眼鏡の子と、鮮やかな金髪の少女とか、と栗澤は尋ねる。

 

「いや、それがなんでも、宮園さんは今日が手術日らしくて。公正はその付き添いらしいです。ほんと、全然そんなそぶりなかったんだけどなぁ」

 

リョウタの話曰く、宮園という少女は白血病だったらしく、今まではその病名を生徒に隠していたという。しかし運よくドナーが見つかり、こういうことになったらしい。

 

————ん? 瀧君の話と同じ日? これはまた、世界は狭いなぁ

 

そんなことを考えつつ、話題を変える栗澤。敢えて彼と彼女の運命的な憶測については考えず、後日彼らが無事ならそれでいいとその案件については結論を心中で出す。

 

「そうかぁ。おじさんは嬉しいよ。あの子が病魔に打ち勝つことが出来そうで何よりだ。ところで、江ノ島の総体予選は凄いことになっているね」

 

現在江ノ島は決勝まで完封勝利。

 

更に、決勝戦では宿敵鎌学を激闘の末に下し、もはや遮るものがいないと言われている。

 

 

高校サッカーファンの間では、鎌学と江ノ島の戦いこそが今の高校サッカーの事実上の決勝戦であるとさえみなしているほどだ。それほどまでにこの両校の戦いは苛烈を極めるものだった。

 

 

余談ではあるが、試合終了後に一条龍と荒木が足をつって動けなくなっていたとも。その他の選手も笛が鳴り響いた瞬間にしばらく動けなかったという。

 

 

幸いなことにインターハイでは両校とも参加することになり、再び激突するだろうと予想されている。

 

 

 

「やっぱ凄いですよ。蹴球を考えていたんですけど、江ノ島に俺は行きたい。そうすれば、ETUも、日本代表も近づくんです」

 

渡は、選手権決勝で見せた江ノ島の走るサッカーに魅力を感じていた。確かに強く、レベルは高いが、スタミナが要求される戦術を強いることになる高校を敬遠する選手は多い。特に、テクニック系の選手は特にだ。

 

 

「そうなんだ。クリさんが言っていた江ノ島行きを目指す有望な子って、君のことだったんだね」

 

そこへ、町田市を担当する逢沢駆と美島奈々が現れる。その横では楽しそうに料理を作る群咲舞衣の姿も。

 

「え? あ、あ、逢沢選手!?」

突然の出現に渡少年は驚く。何しろ、アジアカップでの出場すら視野に入り始めた超有望株との対面だ。

 

そして何より、江ノ島高校の先輩になるかもしれない人だ。

 

「青葉が作った流れは凄いなぁ。江ノ島が今や人気の高校になるなんて、想像もしていなかったよ」

 

「高校サッカーで衝撃的な記録を作ったんですよ!! 11ゴールとか、もう誰にも破れませんよ!」

 

高校サッカー選手権で1大会に11ゴールを奪った記録は、今後破る存在が出てこないと言い放つ渡。

 

「それは、9ゴールを奪った人の時にも言われた言葉だよ。記録は破る為にある。もしかすれば、亮太君が記録更新するかもしれないんだし」

 

朗らかに笑う駆。しかし返ってくる言葉は、現実から乖離するようなわずかな可能性だ。

 

「え、えぇ!?」

驚く渡。さすがに無理だろうと、彼本人も感じていたのか、あきらめの感情が見て取れる。

 

「え、じゃないよ。DFだったらそういうこともあるだろうけど、攻撃の選手なら得点にこだわるのは当たり前だよ。僕だって体格こそあんまりないけど、このチームで点を取れた。最初から決めつけるのは良くない」

 

確かに渡は攻撃の選手だ。しかし、そこまで得点力があるというわけではない。カットインが武器ではあるが、右足の精度はイマイチだ。

 

「勿論守備もしないといけない。江ノ島はそういうサッカーだから。そんな状況で自分がみんなと違いを作るにはどうすればいいのか。やるべきことはたくさんあるよ。入る前も、入った後もね」

 

 

「そ、そうっすね。やってみなくちゃ分からない……けど、点取れないみたいに言われるのは、きますね」

渡も駆の発破をもらい、高校サッカーに入る前の準備期間として中学サッカー最後の1年間を模索する。

 

今できることは何なのか、何をしたいから新しいプレーが必要になるのか。

 

「僕なんて、青葉に出会う前は真似だけが上手い選手だったし」

 

自分に自信がなく、なぜ兄だけが死んでしまったのか。そんな罪悪感に苛まれていた。駆は自身を付けた。兄を超えるだけじゃない。自分にもワールドカップを獲りたいという願いがあったのだ。

 

そんな過去もあったなと思いつつ、駆は世界で戦う青葉と飛鳥について考えた。

 

————僕はまだそのチームの流れを知っているわけじゃない。

 

感じたのは後ろと中盤のスピード。特に、攻撃の速さに守備側が微妙に連動していないように見えた。飛鳥が欠場した試合では特に顕著に感じられた。

 

—————堂本選手のドリブルは確かに速い。けど、後ろはまだ堂本選手の速さに追いついていない。

 

足も速く、フィジカルもある。テクニックもある。欧州で鍛えた彼の能力は凄い。しかし、彼のリズムに周りが追いついていない。

 

得点力に関しては、九鬼と堂本頼み。強化試合の頃からメンバーも変わり、ブレイクした小川、秋本、鷹匠が入ってマシになったが、守備陣と攻撃陣の波長が合っていないように見えた。

 

 

特に駆が気になるのは、右サイド。堂本選手のディレイ気味の守備は機能しているが、右サイドの幕張がまだその動きに付いてコースを消しきれていない。左サイドは小川の守備力がぜい弱で、常に数的不利を強いられている。

 

小川がシュートまで終えられるからこそ見えない急所だが、世界で戦う場合、小川へのフォローをボランチが出来ていない。

 

本来なら、ボランチ、もしくはトップ下の選手がフォローやリスク管理をするべきだが、運動量の少ない中盤では期待できない。中盤のパスセンスは見事だが、サイドの選手に比べてプレー強度はそれほど高くない。

 

—————世界はそんな弱みだってついてくる。史上最強とか言われているけど、こんなにも脆い。

 

 

駆の危惧は果たして当たるのか。

 

 

その前に、第12節。千葉との大一番が始まる。ダークホース同士の対決。青葉、飛鳥不在のETUはこの戦いに勝利できるのか。

 

 




原作よりも早いタイミングでのイベント。現時点では赤﨑が五輪代表に選ばれる実力を見せておらず、大分への敗戦がこのイベントを速めました。

次節はダークホース千葉との一戦。

そして世代別日本代表は最後の強化試合へ。
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