騎士見習いの立志伝 ~超常の名乗り~ 作:傍観者改め、介入者
無限列車から作者は初めて鬼滅を知りました。
第12節は前節元気のない千葉と戦うETU。やはり、中盤での強度不足もあるのか、千葉は終始劣勢を強いられ、ETUは攻勢に出る。
「チャンスを決めきれ! 持ってから前を速めに向け!!」
声を出す達海監督。今節では控えメンバーを試している中、やはり夏木の動きが鈍い。怪我明けとはいえ、試合勘の欠如が酷く、ジーノがまた縦のパスを出せれていない。
「—————今日のナッツはダメだねぇ。いてほしい場所に来てくれない」
トップ下で出場のジーノは、夏木がボールを引き出すためにやみくもに前に出ていることで嘆息する。
GK 1番 緑川
RSB12番 鈴木
CB 27番 亀井
CB 26番 小林
LSB13番 向井
CMF 7番 椿
CMF 8番 堀田
RMF28番 広井
LMF19番 逢沢
OMF10番 ジーノ
CFW11番 夏木
控え
GK 23番 佐野
DF 3番 杉江、24番 住田
MF 15番 赤崎 6番 村越
FW 25番 宮野 18番 上田
ベンチ外
GK 31番 湯沢
CB 2番 黒田
右SB 5番 石神 22番 石浜
左SB 14番 丹波 16番 清川
CMF 4番 熊田
ST
FW 9番 堺 21番 矢野
29番 飛鳥(代表離脱中)
17番 宮水(代表離脱中)
20番 世良(第16節復帰予定)
向井を今期初スタメンに。足もそこそこ速く、調子が良いということで起用。この大型SB向井は空中戦に強く、ダイレクトの局面以外でのクロスの精度もある。
ベンチ入りが続いていた鈴木はスタメンに。対照的に信用度が落ちてきたのか、石浜のベンチ入りの機会が限られてきた。
CBに関しては完全にローテと化しており、CBからの攻撃を求めるフォーメーション上、運動量が要求される。
かじ取りは小林に任せており、亀井は遅らせる守備が要求される。共に空中戦に強く、セットプレーでのターゲットマンを増やす狙いがある。
右サイドハーフには広井が先発。守備もよくこなすということで、監督より「横幅を意識したポジション」を要求される。逆サイドの逢沢に攻撃の幅を持たせるため、赤崎の先発がなくなった。
エゴを出すのはいいが、チームが勝利するためと、自分が活躍する為をはき違えるプレーは、綻びを生じさせる。
この布陣でコーナーキック奪ったETUが決定機を作る。
前半10分。ジーノのクロスに反応したのは、大外の向井。
—————折り返せばだれかが————ッ!!
向井を狙っていたジーノのクロスボールは、向井のヘッドで折り返される。そこへ、空中戦に強い亀井が詰めてきたのだ。
『向井折り返して、亀井だぁァァァ!!! あっと枠外!! ピンポイントに合わせたヘディングシュートでしたが、枠を捉えきれません!!』
『千葉は完全に空中戦で後手を踏みましたね。大外の向井選手に競り合いで好きな形を作られ、最後は薄くなった中央。中盤の高さに課題が残りますね。しかし、ドがつくほどのフリーでこれはないですねぇ』
その後は一進一退の攻防。駆相手に2人がかりでマークに付く千葉。やはり駆はあれ以降ゾーン状態に入ることができない。そして逢沢の仕掛けを警戒し、中央をよりコンパクトな守備体形でプレスを行う。千葉は夏木を恐れていないのだ。
——————ダメだ、あの感覚がやってこない
あの状態になればチームを勝たせられる。その焦りが自分の首を絞めているとも知らずに。ヴァニシング・ターンで抜けきったのに、体を止められる駆。ファウル覚悟のストップが数えきれず、駆は何度もピッチにたたきつけられる。
「がっ!?(うそっ、なんでこんなっ)」
まるで、逢沢駆という選手を潰す覚悟すら感じられる。駆は思わず千葉の選手を睨みつけるが、
「悪いな、ルーキー。お前は凄いけど、だからこそ容赦しなくていいってなぁ」
そこまでの脅威と認識しているため、彼らはそれに対し後ろめたい気持ちなど感じていない。彼を自由にさせた瞬間、この試合は壊れると予感しているのだ。
駆が封じられ、逆サイドの広井では攻撃力が心もとない。ジーノはパス以外に怖さがない。故に頼れるのは左SBの上りだ。
その向井だが、守備面でも渋い活躍を見せる。逢沢が中を切っている中、縦突破を見せた相手選手に対し、強さを見せるディフェンス。大型SBのアドバンテージがいかんなく発揮される、力押しのボール奪取。
————くっ、なんてフィジカルだ!!
向井からしてみれば、得意のプレー。競り合いの中での球際の強さを見せ、向井が取ると確信してからの動き直しが早い逢沢に、すぐさまパス。
『向井ボールを奪ってスルーパス!! 逢沢ワンタッチで逆サイドへ!!』
ショートカウンターからの逆サイドへのサイドチェンジ。千葉は逢沢に好きな形を作らせないため、右に比重を置いていた。左サイドハーフの彼を止めるために、人数をかけようと。
しかし、視野の広さを持つ逢沢は、ボールを持つ時間を短くし、縦への突破を指示されている広井へ。完全に裏を獲った広井が疾走。
一発で決めろ。自分のシュート精度は信用していない。しかし、彼の左足は自分のシュートよりも信頼できる。
詰めてきた相手をあざ笑う折り返しのクロス。夏木がニアサイドに走りこんでいたのも幸いし、中央からニアサイドへの加速した椿ではなく、その間から中央にポジショニングしていた司令塔へ。
だが————————
千葉のコンパクトな守備がそのボールをカットするのだ。プレスバッグの際にあっさりと体を入れられたジーノが簡単にボールをロスト。
「美しくない」
千葉の運動量を背景にした走るサッカー。攻撃も守備も流れるように次々と人数が投入されていく。組織的なサッカーの下で統率されている千葉の牙城を崩せない。
それでも、ETUは椿の突破からチャンスを作る。ロングボールを収めることが出来ない千葉は自陣での守りの時間が長くなる厳しい展開だった。
—————この慣れの中で、違いを見せれば!!
椿の切り返しからのスピードアップ。夏木がやはり足元でボールを要求するが、右サイドで縦に走りこむ。
相手は椿の突破を警戒している。中はしっかりと蓋をしているため、崩すならサイド。
ここで右サイドの広井へ。すかさず縦に突破。相手は縦を切る守備を行い、クロスを上げさせない。ここで、右サイドバックの鈴木がリターンを要求。
クロスするようなポジショニングから無いマイナス気味の飛び出し。広井の背後から突然現れた鈴木の中央への切込みを許してしまう。
「人数をかけろ!! クロス上げさせるな!!」
クロスを何度もあげられるようでは話にならない。せっかく4位という順位についているのだ。このまま優勝争いをするにはここを防ぐ必要がある。
しかし、
『鈴木ここで縦にリターン!! あっと広井だ!!』
カットインからのクロスを狙っていたかに見えた鈴木がここで中央に迫る広井へリターンパス。完全に守備の裏を突かれた千葉がラインを下げるが、間に合わない。
『夏木のヘディング! キーパーファインセーブ!!しかし、押し込んだぁぁっぁ!! 前半32分、ETU先制!! 決めたのは背番号19逢沢!! 今シーズン7点目!』
『こういうところでの嗅覚はさすがですね。調子を落としているとはいえ、宮水、飛鳥を欠くETUといい勝負をするのかもしれない、とは思いましたが、やはり役者は違いますね』
零れ球に詰めていた逢沢がダイレクトで叩き込む。これで勝負あり。しかし、後半からは千葉がサイド攻撃に対してトリプルボランチで完全にふさぎにかかる。
ジーノに対して、激しいプレスを行うなどETUの司令塔封じにかかり、その余波はサイドへ。
広井の縦突破を完全に封じられたため、一転してカウンターの脅威にさらされるETU。それでも前に出る必要のないETUはスローペースを維持したものの、向井がトラップミス。
「あっ!?」
向井のパスミスからボールを保持される状況に突入してしまう。しかし、千葉の方も攻め切ることが出来ず横パスが続く。
『千葉の方はなかなか攻め切ることが出来ませんね』
『中しっかりと閉じていますからね。サイドバックもそれほど高い位置を取っていません』
しかし、功を焦るものがいるのもサッカー。取れそうで取れない展開が続き、その残り数センチから先へと動くモノがいた。
—————ここでこんな横パスを獲れなきゃ、スタメンに返り咲けねぇ!!
夏木だ。得点に絡む活躍を見せたものの、まだまだ満足できる内容ではない。逢沢との相性も悪く、彼からのパスはこの試合一つもない。
何とか、あの19番に認められるような選手にならなければ、今後の選手人生も危うい。しかし、前からのディフェンスを簡単に躱される。
「—————無理につかれなくていいのに」
ジーノは呆れた目で夏木を見る。そして、自分の横を通り過ぎるパスに無反応。これがピンチを招くことになる。
「や、やばいっ!!」
椿が何とか中央突破してくる相手に対し、フォアチェックからのディレイで時間を稼ぐが、ジーノは戻る気がない。夏木は完全にテンパった表情で戻るが、
『クロスボールあがる!! ここはキーパー出られない! あっとこぼれ球、戸倉が詰めていた!!』
千葉の司令塔の戸倉は、ジーノとは対照的な選手だ。ハードワークをいとわず、ボールを散らす技術に優れている。ジーノほどの高精度パスはないが、逢沢駆が明らかに好む選手であることは間違いない。
————くそっ、ジーノさんがノープレッシャーなせいで、中央がら空きに!!
「バッキー!! 誘い込まれてる!! だめだっ!! 焦らないで!!」
椿は何とか体でぶつかりにいくが、中々ボールを手放してくれないのは千葉のボランチ牧。そのまま、椿のプレッシャーを強引に躱してしまう。
しかし、前を向けない。距離を取って入ボールを蹴りこんでくるのだ。
「くそっ!!」
椿が後追いしたことで、精度自体はイマイチだが、千葉には同点に追いつきたいという気迫がにじみ出ていた。
原因は、宮水青葉であり、逢沢駆だ。
噂では、千葉との交渉には最初から応じる意思がなかったという。いわば出来レースのようなもの。残留ギリギリの弱小チームに価値を見出し、昨年中位の千葉には見向きもしなかったのだ。
そんな彼らを獲得したETUは快進撃。今頃自分たちのクラブが獲得していればと思うサポーターは少なくない。
さらに大きな決め手となったのは、選手権で千葉代表を蹂躙したことだ。最初の10分ほどはDF島選手のディフェンスに手を焼いていた宮水青葉だが、その後は完全に見切ったかの如く蹂躙。
後に惨劇の選手権と言われる大会の覇者となった江ノ島に対する印象は、千葉のサッカーファンにとってはどう映ったのか。
何しろ悪辣だったのは、島選手の体の使い方を完全に盗んでしまったことだ。試合後のコメントで、島本人が認めていることだった。
島が長年鍛えてきた体の使い方を模倣し、さらに改良して攻撃に転用して見せた青葉の技能の高さは驚愕すべきものだ。しかし、あの蹂躙劇は千葉県民のトラウマだった。
その蹂躙劇の手引きをしたメンバーの一人である逢沢がいるチームには負けたくない。サポーターの熱量は相当なものだった。
だが、この最初の戦いで無残な姿、光景を見せるわけにはいかない。だからこそこのまま終わるわけにはいかない。
そして、縦パス一本が鈴木の背後に通ってしまう。高さのある向井の方を選択するのではなく、ギャップを作った外国人FWロベルトが裏を突くクロスボール。
そこに飛び込んできたのはワントップの斉藤。彼はもう、触るだけでよかった。
『同点~~~!!!! ついに追いつきました、千葉!! 後半アディショナルタイムで戸倉のゴール! しかし、ここで長い笛! 勝ち点1を分け合う形となりました!!』
『宮水、飛鳥の両選手の不在が大きいですねぇ。やはり攻守の核となる選手がいないと、脆いです』
『2位鹿島は敗れたため、勝ち点差2に縮まるも好機をものに出来ず!! しかし、大阪も名古屋相手に敗戦!! 首位争いはさらに混沌としています!』
「————————」
相当にお冠な達海監督。ジーノのプレスバッグの貧弱さはかなりきつい。そして、カバーリングする逢沢の疲労も無視できない。広井も協力したことで、今日の試合はそこまでではないが、ジーノをトップ下という場所で使うのにも限度がある。
攻撃では仕掛ける怖さがなく、フリーキックが上手い。パスセンスはさすがだが、フィジカル自慢を相手に前を向く力もない。
広井も連携面で可能性を見せたが、それだけだ。単独の攻撃力ではやはり落ちてしまう。
そして出場機会を与えているが、夏木の出来はまだ課題がある。キャンプから新チームのプレースピードは速くなった。しかし、怪我明けの夏木はそれを体感していない。だからこそリズムを崩してしまい、自分の形でプレーできていないのだ。
この悪循環は相当根深いものだ。二列目が、余計に調子がいいだけに、他のFWが結果を出していることで、夏木も追い込まれているかもしれない。
鈴木も最後の最後で気を抜いてしまったのか。気を抜いたわけではないのだが、ボールウォッチャーになってしまった。まあ、あれだけ前が躱されるとみてしまうだろう。特にジーノは守備をしないことで失点に絡んでしまった。
————トップ下だと本当に後半は守備をしないな。
寄せに行くこともせず放置。これでは前線の守備が成り立たない。前からのプレッシングは全員が連動し、取り所を抑えなければ成功する確率は低くなる。
むしろ、ボランチで相棒を守備に専念させる方がいいのではと思うようになる達海。
「控え中心だが、控え組のメンツもなかなかいい動きをしていたな。最後失点は残念だったけど」
「そうっすね。新監督は調子を見極めることに長けているのかも。まあ、宮水選手と飛鳥選手不在、さらに世良の離脱は大きい」
「まだだ。こっから失速する可能性だってある! フロントが緩めばクラブも監督も緩む!! 俺たちスカルズは、これからも気合の入った応援を選手たちに届けるんだ!! 今がその時かもしれないんだからな!!」
スカルズの面々は、好調千葉相手の引き分けに安堵したものの、すぐに気を引き締めて次の応援に向けての準備を進めようと誓いあう。達海新監督は気に入らないが、若手の躍動に村越を全試合ベンチ入りさせ、出場機会がない場合でも帯同させている。
出来る限りの若手を起用し、選手層を厚くしたいという狙いが見える。
「————————」
羽田は現状彼の手腕に文句はない。しかし、一度クラブを見捨てた男に、こうも簡単に思い描いていた未来を見せつけられ、釈然としない思いも抱えていた。
—————こんなにすぐに強くなれるなら、どうしてすぐに戻ってきてくれなかったんだ
達海がプレミアで大けがをした後は、音信不通となった。メディアも積極的に追うこともなくなり、彼が今まで何をしてきたのかは分からない。しかし、若くしての引退を余儀なくされ、その境遇に何も思わなかったはずがない。
しかし——————
「——————宮水がいなくても、まあよかったよね。最後ジーノが守備しないせいで引き分けたけど」
「宮水のドリブル突破見たかったなぁ。なんでいないの?」
「そういや、フル代表でもないのに。怪我?」
「なんで青葉を出さないんだよぉ!」
青葉不在の試合で引き分けに持ち込んだものの、無神経な言葉が聞こえてきた。どうやら彼らは世代別の概念すらないらしい。
今まではこの時期でもう降格に怯えていただけに、千葉との引き分けも最低限と切り替えるしかない。だというのに、空気を読まない発言をするサポーターが増えていた。
「————っ」
「兄ちゃんたち知らないの? 宮水選手は世代別ワールドカップに出ているよ」
そこへ、ユニフォーム姿の少年が割って入る。利発そうな子供だ。
「世代別? なんだそりゃ?」
「ワールドカップに世代別があるのかよ? ワールドカップぐらい知っているぞ、4年に一度のあれだろ?」
どちらが阿呆なのか。にわかのファンなら世代別の概念やそういった大会があることすら知ろうとしない。中には調べる人間もいるだろうが。
「——————」
「あっ、なんか召集されている? あんだー20日本代表? あんだー20ワールドカップ? これって第13節から16節まであるじゃん」
世代別の概念を知った若者たち。老若男女とまではいかないが、若い男女のグループが騒ぎ始める。こんなリーグ戦の最中に大会が行われることに不満を覚えたのだ。
「パスサッカーに酔っている自己満の川崎を潰せねぇじゃん。青葉がいれば蹂躙できるのになぁ」
「蝙蝠の千葉に最後追いつかれたし、このままじゃやばくね?」
そして果てには他クラブに対する愚痴まで言い始める始末。品性を疑うようなコメントに羽田もキレる。
「よそでやってくんねぇか? そういう相手へのリスペクトの欠片もない話は」
強面で、明らかに怒りを覚えている彼の凄みはすさまじく、そのグループは気分を害したのか捨て台詞を吐きながら球場を後にする。
「お前らみたいなチンピラがいるから、新規のファンが来ないんだろうが」
「もっと新規ファンに配慮しろよ、パツ金野郎!!」
「あの人こわ~い。もうここに来る意味なんてないよね」
その捨て台詞と最近の若者の影響力を知るスカルズメンバーは怒りを覚える。こんな面々に応援という行いを、サポーターを名乗ってほしくない。
「——————あいつらッ」
「————あの時と同じか。負けが込み始める前の」
その最悪の転落劇を見せられた古参のメンバーは、苦々しい表情を浮かべる。
「—————あんなの、サッカーファンでもなんでもないよ」
少年はにらみつけるように彼らのグループを見ていた。明らかに見下した、嫌悪を示していた。
「—————最近勝ち始めたからって、いきなり応援に行き始める父ちゃんも、新規のサポーターも嫌いだ」
達海フィーバーは良くも悪くも古参メンバー、熱心なサポーターたちを困惑させた。圧倒的に勝つサッカーを見せられた。
開幕戦の大逆転劇を見せられた。それは多くの人々を狂わせる一つのサーガになり始めていたのだ。
そんな日本代表は、最後の強化試合として、ペルーとの試合を行った。青葉は石渡に代わり、トップ下での先発となり、左サイドには小川知良、右サイドは堂本貴史、ワントップには秋本が先発した。
GK 1番 真弓
RSB 2番 幕張
CB 4番 飛鳥
CB 5番 城
LSB 3番 赤間
CMF 7番 榎本
CMF14番 井口
OMF17番 宮水
RMF10番 堂本
LMF 8番 小川
CFW 9番 秋本
控え GK 20番相馬 23番水野
DF 12番 本田 15番 中条 13番 沖名
MF 6番 伊達 16番 清武 22番 安川 19番 工藤
FW 15番 九鬼 18番 鷹匠 11番 石渡
『後半30分が過ぎ、すでに点差は5点! トップ下で初先発の宮水がタメを作る動きで攻撃陣を牽引! 何かリズムが良いですねぇ、前線は!』
『青葉君のステップが他の選手のドリブルコースを作り出していますからね。無論堂本選手や小川選手も単独で切り込めますけど、あそこまでコースを開けたら為す術無しですよ』
躍進を狙うペルーを蹂躙する極東の姿がそこにあった。
多くの視線を釘付けにし、必殺の縦パスを悉く通す青葉の在り様は、最後尾で見る飛鳥にとって、彼に重なる—————彼をもの凌ぐ力強さがあった。
—————傑は、あんな風にデュエルを好む選手ではなかったが、
相手のタックルを跳ね返し、自分が絶対的に有利な姿勢で相手を弾き飛ばす。島の動きを参考にした合気道オフェンスは、海外の選手たちに未知の理論を叩きつけ、まったく理解させずに鎧袖一触に勝ち進んでいく。
それは既定路線、息をするように当たり前のことだと、残酷にも相手選手の本能に刻み付けながら。
—————何が、どうして俺が—————
————体格で劣るジャパニーズが、こんなっ!? こんなぁッッぁ?!
中央で阻める存在がいなくなった青葉は、視線の集中する自分を囮に使い、フライスルーパスを供給。ほぼ確実にボールがサイドに渡り、再三チャンスを作り出していた。
前半7分。榎本が奪ったボールを受け取った青葉は直後に相手のタックルを食らう。しかし、
————まただ! また奴は倒れない!?
さらに、圧が青葉自身の判断で小さくなり、体で止めに来た相手選手のバランスが崩れる。まるで、相手選手が再びタックルをお見舞いする瞬間に青葉が動いたのだ。
有り得ない予測、在り得ない反応。不可思議な現象に巻き込まれた相手選手はそのまま頭から地面にたたきつけられる。
中央を封殺する超常現象が小刻みに方向を変えながら接近していく。そして、
『ロングフィード待っているのは堂本! あっとシュートだァァァ! 決まったぁァァァ 先制は日本! 前半早くも8分にゴールが生まれました! 最後はボレー!』
『動き出しを見ていましたね。堂本選手がアクションを起こした瞬間、ボールは出ていましたね。』
続く前半13分にも3人に囲まれながら相手を惹きつけ、二列目の小川にスルーパスを送る青葉。直後に潰されるのが並みの選手だが、青葉はそのプレスを物ともせず、ゴール前に爆走。相手選手を振り切り、一気にゴール前、ニアサイドへと走りこむ。
それを見た秋本がステップを踏みながら青葉に同調する姿勢を魅せつつ、一気に中央へ。マークの受け渡しが曖昧になり、小川のクロスボールを警戒する一瞬の隙。
「—————」
自分へのマークをブロックし、すぐさま秋本のサポートへと回る青葉。猛然と秋本についているマーカーの視線を奪い、秋本が空いた。
『小川からのクロスボール!! 秋本だァァァ!! 秋本のヘディングシュートが決まった!! 日本早くも2点目! 』
中央で縦横無尽に走り、決してボールを奪われない存在が、日本の攻撃を何十倍も恐ろしい威力に引き上げる。
さらに、
『榎本パスカットから縦パス流れる! あっと宮水キープ前を向いてスルーパス!?』
榎本がボールをカットするものの、上がり切れていなかった井口へのパスが流れてしまう。カウンターを狙う日本がカウンター返しを食らいかねない局面で、二人掛かりのプレスにあいながら青葉がキープ。そのまま抜き去り、3人目、4人目と次々とプレスをかけに来るペルーのボランチ。
彼らは青葉がこの試合のキーマンだと知っている。その選択は間違いとは言えない。だが、
ドライブのかかった高速スルーパスが、すでに動き直していた堂本へとつながる。小川も、秋本も反応できない刹那のタイミングで、彼一人だけが青葉のスピードの中で動いていた。
サッカーの本場欧州で戦い続ける男だからこそ感じ取った青葉の檄。
—————なに、1得点で笑みを浮かべているんですか、タカさん
ゴール前閉じ切れていなかったドリブルコースをダブルタッチで抜き去り、一気に中央をぶち抜いた堂本が豪快に決める。
—————この後輩君は凄いな。ほしいタイミングでもう前を向いているぞ。
『躱してシュートぉぉぉぉ!! 日本3点目!! エース堂本2得点!! 止まりません、日本の猛攻が止まりません!! 前半17分!』
堂本と青葉のオブザボールの動きが異次元だった。まるでリンクしあうかのように組織的に前線でパスコースを消すプレーは、石渡とのコンビでは実現できないものだった。
—————絶好機にパスコースが!?
なぜそこにいる。なぜそこに気づいてしまうのだ。宮水青葉はペルーの最後尾に立ちはだかる巨大な巨神兵の如く、あらゆる動きを奪い去っていく。
あらゆる可能性を、正気を、ペルーから奪い去っていくのだ。
苦し紛れの縦パス、ロングボールが多くなった瞬間、ペルーは勝利の女神から完全に見放される。
日本の最後尾は強力なフィジカルを持つ大型CBがことごとくを跳ね返し、セカンドボールを中盤で奪い取る。そして、中央のルーキー宮水がそれを運び出す。
加速を許したセオリー無視の低い位置からのドリブルは、トップスピードに乗ったドリブルの威力を世界に見せつける。
『低い位置から宮水ボールをもって前に仕掛ける!! 一人躱して、2人目は接触した瞬間に倒れた!! 一気にトップスピードだ!! 戻るペルー! 迫る日本!!』
加速し始めた宮水が捕まらない。背中と手で押さえながら、相手の力点を利用した合気道オフェンス。簡単にプレスを剥がされる相手フォワード。続くSTがプレスをかけるも変則空踏みステップで重心を完全に崩され、直前でスリップ。
—————こいつ、一度も自分のボールを見て—————
青葉がその瞬間見ていたのは、相手の足だけだった。重心をずらし、目の前の選手を刹那のうちに無力化できる自信なのか。
2人を切り伏せるのに、3秒かかった。
そこからの青葉は止まらない。堂本も止まらない。小川も止まらない。
前線の俊足選手が襲い掛かる高速カウンターに、ペルーは為す術無く崩壊した。
『小川シュートぉぉぉぉ!! 零れ球ぁあぁぁぁ!!! 日本4点目!! こぼれ球押し込んだのは秋本!! 秋本も2点目!!』
小川の強烈なシュートをセーブしたキーパーではあったが、ゴール前に転がった場所に走りこんでいたのは秋本。防がれた瞬間零れると確信してのプレーだった。その時秋本は本能のみでボールを追っていた。
為す術のないペルーの選手たち、監督、サポーターは沈黙する。少し前の日本は堅守速攻、個の単独能力は油断できないという論調だった。
だが、その個人の能力の高さが合わさった瞬間、その爆発力はペルーを瞬く間に飲み込んだ。
試合後、ショックを受けた顔をした選手が何人も出てくるのは仕方のないことだ。
本番前の強化試合で、宮水青葉の恐ろしさを味わったペルー。後半途中で宮水は交代するが、日本は消耗しきったペルーに反撃を許さず、6対0で完勝。
その衝撃的なプレーの数々と、プレッシャーの多い真ん中であれほどのプレーが出来る宮水青葉の本職が、サイドであることから、本選出場国に宮水青葉のスピードを止めるのは困難であることを悟らせた。
よりプレッシャーの薄い場所で彼が持つことになれば、加速を許した彼を止めなければならない。しかも、彼の間合いは未だに攻略できていない。
地元メディアもまた、アジアの光輝く才能に大きな注目を寄せる。
—————16歳の新星が、プラチナに勝る働きを見せる。
—————ザ・ポリバレント。この男に死角はあるのか。
この瞬間、南米と一部の強豪クラブにしか知らなかった至宝の輝きに視線が集中することになる。
その今年17歳になる彼には移籍のルールが適用される。18歳になった瞬間、彼は海外入りを決めるだろう。今でさえ国内リーグで圧倒的な実力を見せつける若き才能は、果たしてどんな未来を選択するのか。
その渦中の彼は日本国内の記事を読み、愁いを帯びた表情でその内容を読み耽っていた。
——————痛恨の同点を許すETU・・・千葉に痛恨ドロー
—————逢沢の先制弾も・・・後半まさかの失点で、勝ち点3が零れる
しかし、そんな中ある記事が目に入った。
—————主力不在で見せた奮闘。ETUは後半戦で真価を発揮する
それは、この試合で守備で奮闘した向井、徐々にではあるが、フィットし始めた夏木。そして復帰間近の世良についての事柄があった。
上り目はまだある。青葉、飛鳥不在から地力をつけ始めている。そんな希望を持たせ、確かに彼らがもがきながらも前に進んでいることを、明確に表現していた。
「—————信じるんだ、みんなを」
青葉は、国内の戦いを彼らに任せ、世界との戦いに向けてより一層決意を固める。
青葉らは現時点で知りませんが、思わぬ因縁、恨みを与えていた千葉サイド。
伝説的な圧勝劇に終わった選手権の負の影響、最初から出来レースとなっていたETUへの入団(青葉が東京ヴィクトリーに興味を少しだけ持っていたぐらい)。
当然、他県のサッカーファンは黙っていません。
そして千葉は後半戦、念願の青葉との直接対決に臨むことになるでしょう。