騎士見習いの立志伝 ~超常の名乗り~   作:傍観者改め、介入者

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大分遅れてしまいましたが、続きを書くことが出来ました。




第七十七話 川崎の智将

2015年 リーグ13節

 

 

現在リーグ3位に躍進しているETUは、リーグ8位の川崎と激突することになった。

 

ルーキー鷹匠の得点で浦和に競り負け、名古屋のペペに守備陣を粉砕されるなど、優勝争いに食らいつくにはこれ以上の負けは許されない川崎。

 

一方ETUは負傷で離脱の世良と、ワールドカップ出場の宮水青葉、飛鳥亨が離脱中。王子も足の張りを訴えベンチ外。さらに村越が累積のために欠場。ベストメンバーの枢軸が起用できない事態に追い込まれた。

 

しかし、達海はここでトップ下逢沢を解禁。右に赤﨑、左はクレバーな丹波を抜擢。今シーズン得点を量産している宮野はベンチスタート。

 

GK  1番 緑川

RSB 5番 石神

CB  3番 杉江

CB  2番 黒田

LSB16番 清川

CMF 7番 椿

CMF 8番 堀田

RMF15番 赤﨑

LMF14番 丹波

OMF19番 逢沢

CFW 9番 堺

 

控え 

GK  23番 佐野

DF  27番 亀井 24番 住田 

MF  12番 鈴木  4番 熊田

FW  18番 上田 25番 宮野

 

 

 

ベンチ外

GK  31番 湯沢

CB  26番 小林

右SB 22番 石浜 13番 向井

左SB 

CMF 28番 広井

ST  21番 矢野

FW  11番 夏木

 

29番 飛鳥(代表離脱中)

17番 宮水(代表離脱中)

20番 世良(第16節復帰予定)

6番 村越(累積警告)

10番 ジーノ(コンディション不良)

 

 

この布陣を見た藤澤記者は、現在のETUの起用序列が徐々にではあるが定まりつつあると感じていた。

 

—————右サイドバックの競争が勃発するのは嬉しいサプライズね

 

入れ替わり激しい右サイドバックの競争は現在石神がファーストチョイスか。セカンドチョイスを争うのは左右どちらもこなせる鈴木、空中戦と対人守備に定評のある向井で争う形か。一方、左サイドバックは清川が頭一つ抜け出している。

 

 

藤澤はもはやベンチに入る機会すらない石浜のことを失念していたが、それが後半戦における大きな過ちの1つであることをまだ知らない。だが、傍から見れば、出場機会のない中堅に入る選手が、ここまでベンチ外であれば、事実競争に敗れたということに他ならない。

 

 

損な石浜と同期入団で、もはや二人しかいない相方は、新政権で主力を担う。

 

 

————そんな中、清川のプレーの幅が広がった。彼のクロスボールで一気に宮水青葉をスイッチさせることが出来る。現代のゾーンディフェンスを根底から崩壊させる個の力。

 

戦術の幅が広がったサイドバックは重宝する。これも宮水効果か。そしてCBは完全にローテになっている。CBに関しては杉江、飛鳥のバディ役を激しく争っているのだ。

 

最激戦区となる予定だった二列目の攻撃陣は宮水青葉、逢沢駆が君臨。黄金コンビが揃った瞬間の破壊力はすさまじいものがある。さらに、左右どちらもこなせる宮野が台頭。赤﨑とのベンチ入り争いが勃発している。他にもユーティリティの鈴木、広井もSBでの起用も可能なため、ここも激しい争いとなっている。

 

 

—————ただ、今回は絶対エースの宮水選手がいない。主役不在の中、逢沢選手。椿選手がどこまで輝けるのか。

 

名古屋戦で見せたあの輝きをこのビッグマッチで再び見せることが出来るのか。

 

 

一方の川崎、ネルソン監督はゲームキャプテンに椿を与えていること、トップ下にこの試合尤も厄介な選手がいることに注目していた。

 

彼の特技は、選手の適性を見極め、伸び代を予測することだ。だが、その彼の眼力をもってしても、逢沢駆と宮水青葉の伸び代は計り知れないものだった。

 

—————ベストメンバーが揃わない苦肉の策に、経験で補うばかりではない。

 

 

しっかりと椿、清川、赤﨑を起用し、若手に自信をつけさせようとしている。リーグ8位の相手に対して、リーグ3位が見せる余裕なのだろうか。

 

—————ETUの勢いが陰りを見せたのは、世良君の離脱よな

 

 

最前線で得点を量産していた新エースの離脱は、彼らに甚大な痛手を被った。だからこそ、18歳の上田がベンチ入りしているのだ。しかも、大けがから復帰後の夏木がトップフォームを取り戻せないでいる現状、このままでは世良も同じことになりかねない。

 

 

それを防ぐために、世良にはしっかりとテレビで観戦をしてもらっている。誰かさんのように無茶をする性格ではない為だ。

 

「ボスっ! 相手は今年調子よさそうっすけど、やっぱり逢沢を何とかしないと拙いですよね!」

 

八谷渡。一時は攻撃的な二列目のプレーメーカーではあったが、様々なポジションでプレーするうちにレジスタに行きついた川崎の心臓。

 

「その逢沢駆よりも縦の警戒をしないといけないのがナンバーセブンだよ」

 

 

椿大介。目下売り出し中の俊足MF。彼の突破はチームが苦しい時に行われることが多い。事実、彼の突破は相手ラインを下げている。

 

対して本日の試合に不在の宮水青葉は一撃で息の根を止めに来る。ネルソンにとってみれば、彼がいないことは幸いだった。

 

—————派手なフェイントで抜くサイドのプレーも出来れば、真ん中になった途端に運ぶドリブルを演じてみせる。

 

伸び代が全く見えない規格外の選手。ただ、この選手は国際試合を経験し、フェイントの傾向が少しずつ変化していっているのだ。

 

ルーレット系で抜くことは抜くのだが、シンプルなシザースは減った。シザースで抜くことは減ったように見える。技のバリエーションが増えたと言える。だが、何か持て余している。

 

 

しかしこれは、宮水の仕掛けが以前に増して増加していることや、研究されることを恐れ、フェイントのバリエーションを増やしたことによる印象操作である。

 

 

そんなトップ下という真ん中のポジションでプレーすることを求められた彼は、抜くドリブルよりも運ぶドリブルを求められた。

 

シザースよりも目立つのは、ダブルタッチ系やターン系のフェイント。一方で、一撃で切り返すゴール前でのフェイント、と上手く使い分けをしていた。

 

それは適応と言える。それだけなら器用にプレースタイルを変化させられる優秀な選手と説明できる。

 

だが、未遂に終わった中央突破のシーンは違った。

 

小刻みなステップから繰り出される最小限の跨ぎ。次々とアンクルブレイクを起こすペルーの選手たち。彼は以前にも重心を崩して相手を転ばせる術と観察眼を有していたが、あの瞬間の彼はそれとは違ったのだ。

 

 

一人の選手が転ぶシーンは珍しくもない。相手に衝突し、バランスを崩すというのもなくはない。

 

 

しかしあのシーンは、宮水に触れることなく自壊する選手たちという恐ろしい現実を突きつけられた。

 

 

何かに突き動かされるように、宮水の前で崩れ落ちるペルーの代表クラスの選手たち。

 

 

その試合、その映像を見た瞬間、ネルソン監督は宮水青葉が適応から変貌したと悟る。超常現象の名に恥じぬ身体能力と反応速度を持つ彼が、変わったと。

 

 

 

そんな若き超常現象をもってしっても、グループ最弱という評価を受ける日本。

 

グループ初戦は強豪コートジボワール。と言っても続く試合がドイツ、ウルグアイと続くために、もうあまり関係ないと言える。

 

重ねて言うが、ネルソンは宮水青葉の力を警戒していた。

 

 

 

一方、ETUベンチでは、宮野は必ず出番はあると強く信じて、スターターのメンバーを見つめていた。

 

—————監督が俺を先発させなかったのは、後半の切り札の為

 

運動量の落ちてきた川崎を相手に、ハードワークすることが自分には求められている。ベンチだから試合に入れないわけではない。3人までベンチのメンバーは入ることが出来る。自分はその3人の中に選ばれるにはどうすればいいのか。

 

だからこそ、ベンチだから気持ちを沈ませる余裕は全くない。しかしそれは、伸び盛りの若手やベテランたちにとっても同じなようで、宮野と同様に真剣にピッチを見つめている。

 

 

そんな選手たちの様子を盗み見た達海は笑みを浮かべる。これも、世界で今戦いを続けている青葉や飛鳥の影響だと。

 

—————だんだんベンチの雰囲気もいい感じになってきたな。

 

ベンチから自分が出る時に求められることを真剣に考える準備。それが出来始めている。ベストメンバーは揃わなかったが、主役不在のメンバーの中で選手たちはスタメン、ベンチスタート関係なく心が燃えていた。

 

 

そんな選手たちの意気込みはサポーターたちにも伝わっていた。

 

「宮水と飛鳥が世界と戦うために今はここにはいない!!」

 

「世良も怪我で離脱して、悔しい思いをしているはずだ!」

 

「村越さんは出場停止で、王子も怪我の噂もある!!」

 

 

スカルズのリーダー、羽田はサポーターたちにも覚悟を説いていた。こんなベストメンバーを組めない状況下で出来ることはただ一つ。いつもと変わらない、いつも以上の選手を盛り立てる応援だ。

 

「だからこそ! 俺たちの声援で選手の背中を押す!! いつも以上に声を出していけ!!!」

 

だんだんと広がる赤黒軍団の勢力。しかし、ミーハーなサポーターは後を絶たず、今更のこのこ出てきた達海のいた時代を知る爺婆がちょっかいを出す始末。

 

—————泥沼の10年間を知らないアンタらに、このチームを応援する資格はあるのか?

 

いい時代だけを知る、勝ち馬に乗ってきた都合のいい奴らに、これ以上でかい顔をさせるわけにはいかない。

 

そんな彼と枢軸メンバーの真理に影響されたのか、メンバーの一人が勝手に応援をし始めている大人と子供の集団を見て悪態をついていた。

 

「なんなんすか、あの人たちは。前誘った時も、応援に協力してくれなかったし」

 

またあの時のようにサポーターが好き勝手喚き散らし、選手たちの背中を押すどころか、そのやる気を削がせる声を今まで自分たちは徹底的に断罪してきた。

 

—————アンタらに、このクラブを応援する資格はない。

 

「それにあいつら、あのお嬢ちゃんとつるんでいやがる。何様のつもりなんすかね、あいつらは!」

 

しかも、あの集団はよりにもよって宮水青葉の姉である女性を巻き込んでいたのだ。サッカーについては素人ほどの知識しかないが、家族を応援しに来る彼女とその友人たちが抱きこまれているのは我慢ならない。

 

 

宮水三葉を抱き込み、スカルズメンバーにどこかの世界線以上に恨みを買っている大江戸応援団はというと、

 

「青葉はいないけど、だからと言って応援しにいかないのはね。この試合の後はニュージーランドの現地に行くつもりだし、丁度いいかなって」

 

「はぁ……羨ましいなぁ、三葉は。俺も青葉さんのプレーしている姿は見たかった。けど、気を付けろよ、みんなと一緒とはいえ、やっぱり不安だ」

 

もはや公然のお付き合いとなっている宮水三葉と立花瀧は、盛り上がりを見せているスタジアムの中で公然といちゃついていた。

 

「ここがサッカーの試合をするところなんだね、亮太君の練習試合しか見たこと無かったから、なんだか新鮮♪」

 

そして、隣には縁が縁を呼んでどうにか未来を変えることが出来た少女と、彼女とともに未来を模索する少年と、その愉快な仲間たちがいた。

 

「ああ、俺もこんな場所に立つのは初めてだよ。演奏前は静寂に包まれるあの場所とは違って、ここはいつも声が響いているな。うっぷ、人酔いしそう」

眼鏡の少年は、いつも自分が主役となって音色を響き渡らせるコンサートホールとは違い、応援者の熱気がとんでもないことになっていることに、やや驚いている様子だった。

 

「そうだぜ。なんたって、ここは強豪川崎フロンティアの本拠地で、目下首位争いをしているETUとの好カードだ。何も起きないなんてことはねぇんだぜ」

 

「それに、俺はあの人の背中を追うって決めたんだ。どこまでも挑戦することを止めない、ああいう選手になりたいって、本気で思っちまったからな!」

 

サッカー好きの少年改め渡良太は、そのピッチの主役にならんと存在感を出している背番号19に熱視線を送る。

 

「亮太君って、女の子大好きじゃなかったの? なんだか意外」

 

 

「おいおい! 俺は今でも女の子は大好きだぜ! けど、サッカーやってて初めて出来たでっかい目標なんだ! 男なら燃えちまうだろ!」

 

亮太は、絶対に追いついてやると背番号19の背中を追う。いつか自分も、江ノ島から世界に挑戦状をたたきつけに行くのだと、憧憬の念を覚えている。だが、憧憬では終わりたくないのだ。

 

————あの人が追うさらにでっかい夢を追い続ける超常現象と同じ場所で、夢を実現して見せるぜ!

 

そんな中、瀧はふと思い出したようにつぶやく。

 

「安芸先輩たちも来ればよかったのになぁ。スポーツものの描写とか、あんまり見たこと無かっただろうし。人がたくさんいるところは色々刺激になるはずだったのになぁ」

 

瀧としては、サポーターたちが綺麗に分けられており、それぞれが自分の応援するチームを一生懸命応援している姿に心を打たれていた。いろいろ怖いとか、敷居が高いとか言われることも少なくないが、現場に来て初めてわかる彼らの真剣さを描きたい。

 

趣味で終わらせていた絵を描くことが、誰かの胸を打つ瞬間があると彼は感じているのだ。なぜなら、今この瞬間の風景が自分の心を打っているのだから。

 

「しょうがないよ。最終学年だし、サークル活動に加えて受験勉強。3年生は色々忙しいのよ。私も去年はそうだったし」

 

そして、瀧は時々その絵画の才能を買われてサークル活動に半ば半強制的にかり出されており、漫画の絵画の才能を嫌でも開花させられていたりする。

 

自分が通っている高校のOBには時々東京から拉致されて絵を描くよう連行されたりと、中々ハードな日常を強いられている瀧。

 

「あっ、試合が始まるみたいだよ!」

 

 

試合は川崎ボールから、前半からガンガン前線が動き回り、パスが回る彼らが攻勢に出てくる。それに対して達海率いるETUはしっかりとブロックを作り、チャンスの前にボールをクリアし、川崎が攻め込んでいるのを待ち構えている。

 

—————そう焦らずにな。こうやって、後一歩のところってのは諸刃でもあるからな

 

だからこそ、コンパクトな守備体型で網を張るETUは守りやすいこの陣形で、網を張っていたのだ。

 

中央を固めて、クロスを跳ね返す。杉江が跳ね返し、黒田が零れ球を拾い、一気に中央の椿が動き直しをするのだ。

 

「うわわ、ハチヤ! 頼むヨ!」

 

姜昌沫(カン・チャンス)がボールをとられた瞬間に声をあげる。絶好のクロスボールではあったが、杉江との競り合いに負け、黒田に眼前でボールを奪われてしまったのだ。

 

 

—————この試合、前半は八谷を釣る為の餌だ。だから、椿にバックパスをさせるためにもう一度受けろよ

 

敵に椿を使いたがっていることを見せる。仕方なくサイドに回し、攻め上がりに課題があると見せかける。清川の長短織り交ぜたパスが敵に考える時間を与えるのだ。

 

—————ピッチを広く見て、ボールをどこに出すのか。監督の指示が日に日に多くなっている気がするぜ

 

それを意気に感じながら、清川はプレスをしに来る川崎の選手をあざ笑うかのようにロングフィードで堺に通したのだ。

 

「抜けた!! 一気にチャンスだ!」

 

「あのロン毛の人凄い! チャラそうだけど!!」

 

何か観客の所から声がしたが気にしない清川。今はプレーに集中なのだ。

 

ネルソン監督も達海が清川を中心に攻撃を組み立てていることを見抜き、そこを狩り所とする。しかし、マークの受け渡しをしつつサイドに流れる椿とサイドバックの清川がポジションチェンジを繰り返し、中々捕まえることが出来ない。

 

—————偽サイドバックの戦術か。この短期間でよく躾けたものだ

 

だがこれは完全なものではない。あくまで椿がサイドに流れて持ち前のスピードで一気にチャンスメイクすること、そして八谷が椿に釣りだされることを前提とした作戦。

 

しかも、しっかりとCBがサイドをケアし、村越の代役が真ん中でボールを整える。ETUの攻撃時に見せる独特の動きだ。

 

 

だが忘れてはならないのは、リーグトップクラスの速さを備えるナンバーセブンに広大なフロントスペースを与えてはならないのだ。

 

 

 

そして、八谷という中盤のキーマンが流れた川崎は、清川からボールを中々奪えない。今日の椿は八谷を餌に、さらにサイドの脅威を川崎にたたきつける張子の虎と化していた。

 

 

そして、川崎が赤﨑のクロスボールを跳ね返し、カウンターに移る時が最初に分岐点。

 

「!?」

 

トップ下でプレーする浅香がスピードアップするものの、ここで逢沢のフォアチェック。が、逢沢はその後リトリートしつつ、ドリブルコースを消しにかかっていた。

 

—————サイドががら空きなんだよ、ルーキー!

 

浅香がサイドに流れるパスを選択した瞬間、達海の口元が歪んだ。

 

—————そいつは腹黒なベビーマスクだぜ

 

逢沢の動きに連動し、そのボールに競りに行ったのは椿だった。一気に加速し、八谷を振り切った椿がサイドに流れていたロドリゴへのボールを奪いにいく。

 

—————はっ! 浅いな椿! 俺へのマークを外したということは、俺を好きに———

 

 

ロドリゴの苦し紛れのバックパス。当然それを回収する八谷ではあったが、

 

「———————狙い通りだ」

 

ここで椿と連動し、ポジションを移動した逢沢が八谷からボールを奪う。となると逢沢とポジションチェンジしたのはあの男。

 

逢沢とポジションチェンジしたのは清川。若手では青葉に次ぐクロスボールの質を誇る彼の左足がさく裂する。

 

「またあのロン毛の人だ!」

 

 

『逢沢ボールを奪って、清川に縦へ!! あっとロングフィードだァァァ!!』

 

 

清川の正確なロングフィードが、カウンターで前掛りになっていた川崎の急所を貫いたのだ。

 

「おいおい、バカ野郎!! 何裏を取られてんだ!!」

 

守護神の星野が吠える。残留争いが濃厚だった赤黒軍団に好き勝手させるわけにはいかない。自分たちこそが優勝を獲るのだと敵愾心を向けていた。

 

 

なのに、向かってくるのは、裏に抜け出した若手の赤﨑。味方の守りも期待できないほど、赤﨑は縦への突破を試みている。

 

————今までの俺は、自分が自分がと周りが見えていなかった。

 

苦しい前半戦の幕開けだった。マークはきつく、ドリブルで中々前を向けない。運動量豊富な宮野にポジションを奪われかけ、ルーキーの青葉にはライバルにさえさせてもらえなかった。

 

だからこそ、ベンチ、ベンチ外で見えた視野の重要性。辛うじて残っていたCB二枚が堺とシュートコースを塞ぎに来る。

 

—————くそっ、いいの放り込んでやるから決めてくださいよ、堺さん!

 

 

 

 

ここで選択したのはクロスボール。積極性の塊だった赤﨑がラストパスを選択したことで、今後のデータの傾向も変化していく。カットインばかりの彼が魅せたクロスの選択は、今後必ず活きてくる。

 

————赤﨑がクロスだと!?

 

 

手でブロックしながら裏に飛び出した堺と飛び出した星野。

 

『堺のヘディング!! ナイスキーパー!! 寸前で防ぎます川崎! しかし、こぼれ球を堀田が回収!』

 

 

しかし波状攻撃は止まらない。攻撃の中心となっていた清川がサイドに流れ、元のポジションに戻ったETUが本来の攻めを見せるかに見えた。

 

『堀田ラフに蹴りこみました。しかし、吉崎跳ね返します』

 

簡単に放り込んだ堀田のロングボールは、あっさりとヘディングで跳ね返された。しかし、堀田のロングボールは一時的に川崎のラインを下げさせた。堺と競り合い、安定しないクリアボール。

 

低い位置から虎視眈々とその瞬間を狙っていたのは、他でもない。彼だった。

 

「あっ——————」

 

その瞬間、スタンドにいた亮太は瞬間的に悟った。低い位置でプレーし続けて、今の今まで影の薄かった彼が動く。

 

 

彼の姿を見なくても、きっと彼ならこの瞬間を狙ってくる。

 

 

 

 

 

 

そんな気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

『クリアボールから逢沢ぁァァァ!!!!!! ゴラッソォォォォォ!!! 試合を動かすのはやはりこの男、背番号19からだぁ!! プレーメーキングに徹していた男が、このタイミング、この好機で存在感を見せつけました!! 前半20分!!』

 

『凄いですね。あの距離から狙う、さらにダイレクトで蹴りこむという発想は、日本人にはなかなかないでしょう。さすがの強心臓ぶりです、若き司令塔』

 

 

『今シーズンこれで8得点目! 驚異的なペースです!!』

 

 

 

「なんだ今の!? クリアボールをダイレクトで、枠内!?」

 

「おいおい、あれはとんでもない左足だ! 悪魔染みてる!」

 

「今のも、ボールがドライブしながら逃げていっているぞ、なんて軌道だ!」

 

赤黒軍団をも驚愕させる一撃に、ホーム川崎は沈黙する。やはり日本の未来を変える、その将来を期待される新たな司令塔はさすがだった。

 

 

そんなスペシャルなゴールを見せつけた彼は、敵味方に畏怖と敬意を抱かせるのだ。

 

 

 

「青葉が楽しそうに話してた逢沢君って、本当にすごいね。あんな遠い場所から狙うなんて」

 

三葉も驚きの結果。しかも、青葉の見込んだ彼の活躍に笑みを浮かべる。

 

「逢沢先輩。やっぱすげぇぇ。あの瞬間に動き直しをするなんて、どこまでゴールから逆算しているんだよ」

 

亮太が冷や汗をかきながら、逢沢の一連のスーパーなプレーに感嘆していた。

 

「どういうことなんだ、亮太?」

 

「ああ。説明してやるよ、公正。堀田選手のロングボールや、その前の堺選手のヘディングシュートで飛び出した星野選手のポジションを確認していたんだ。何度も」

 

少女————宮園かをりの横で何が起きたのかよくわかっていない少年————有馬公正に先ほどのプレーと状況を解説する亮太。

 

「ビッグプレーの次の、明らかに先ほどのヘディングや零れ球を狙った攻撃。しっかり堺選手が競り合ったことで、クリアボールも不安定になったんだ。だからこそ、星野選手の判断が遅れた」

 

 

「そして、そのゴールを得るために低い位置でプレーメーキングしていた逢沢さんが三列目から飛び出してマークの遅れた八谷選手を振り切り、そして蹴りこむ寸前でも星野選手の位置を見ていたんだ。派手なプレーだけど、相手のポジショニングを確認した凄いプレーなんだ」

 

そのシュートの軌道は星野選手の手が届かない場所から変化しながら落ちていき、枠内へと吸い込まれたのだ。

 

 

逢沢っ!!

 

 

逢沢ッ!!

 

 

逢沢ッ!!

 

 

逢沢ッ!!

 

 

ETUサポーターの間では、逢沢コールが鳴り響いて止まらない。川崎の出鼻をくじくスーパーゴールで、ETUが先手を打つ。

 

 

積極的にポジションチェンジをしつつ、清川、椿、逢沢が高度に連携し、攻撃のバリエーションを変えてくる。ロングフィードの清川、縦に一気にスピードアップする椿。ゾーンディフェンスを崩壊させる逢沢。

 

そして堀田が低い位置でボール回しに参加し、可変スリーバックとなり、中盤は椿に振り回される八谷。その空いたポジションで清川のロングフィードがさく裂する。同様の展開で、川崎のプレッシングを掻い潜りつつ、星野の守るゴールマウスに襲い掛かる。

 

 

そして前半30分。堺がプレスをかけに行き、サイドに追いやられるCB。キーパーへのパスコースを封じ込みながらの追い込みだったので、ロングボールを蹴るしかない。

 

 

そのボールへと一番最初に辿り着くのは中盤で動き回っていた椿。だが、八谷と他の選手に捕まり、何もできない。

 

—————くそっ、ボールをキープすることしか————

 

 

このままではせっかく高い位置でボールを奪った意味がなくなる。だが、

 

「椿さんッ!!」

 

そこへサポートとして逢沢が入る。だが、パスコースは出せられない。相手が逢沢へのパスコースも限定しようとするからだ。

 

「これ以上好き勝手させねぇ!!」

 

八谷からのプレッシャーが強くなる。もう限界だ。このままではボールを取られてしまう。

 

————左が、空いた—————

 

その瞬間、椿が思考する間もなく動き出していた。本能と言えばいいのだろうか。塞がれていた道が出来た瞬間にダブルタッチで大きくスライドし、横へと躱したのだ。

 

左は、右足ほどの信頼感はない。それでも、それを考える時間もなく本能でそのプレーを選択したのだ。今まで練習でしかあまり使っていなかった左が、ごく自然に動く。

 

考えるまでもない。考える時間もない。全てが本能に突き動かされ、椿はゴール前を目指していた。

 

—————なろっ、シュートさせるか!!

 

 

左足からのシュートモーション。からのフェイク、ダブルタッチ。ドリブルゾーンを入り込むのではない。そのスピードで抉りこむような鋭さ。鋭い切り返しと共にグイグイと切り込んでいく。

 

—————くっそっ、

 

八谷がこれ以上進めるわけにはいかないとスライディング。だが、八谷と椿のプレースピードは桁違いにスピードが違う。椿は八谷のスライディングに気づいていない。しかし、八谷のスライディングは空振りに終わっていた。

 

ボールを晒しながらの小さな跨ぎ、相手が足を出してきた瞬間の左足不意打ちトラップ。股間を抜かれて崩れ落ちる相手選手。残るはキーパーのみ。

 

トンっ、

 

目の前の相手がニアを消しにかかったのを見て、椿は考えるよりも先に逆サイドに力感のないトラップを行ったのだ。

 

————なっ!? これはトラップじゃねぇ!?

 

気づいた時にはすでに遅かった。そのゴールまでの道筋に導かれた背番号7が、絶望的と思われた包囲網を掻い潜り、地力でゴールを奪ってみせたのだ。

 

『椿切り返して、躱して、また躱してぇ!? 逆サイドぉぉぉ!? 流し込みました2点目!! 前半31分!! 追加点が入りますETU!! 背番号7椿大介の得点!! 何とゴール前中央3人抜き! 最後はキーパーをあざ笑うかのようなループシュート!! ゴールにパスするような軌道!!』

 

『電光石火の一撃でしたね。セカンドボールを拾うのが早い彼に、前を向かせるとこうなるということですか。サポートに逢沢君もいましたが、上手く左側に突破しましたね』

 

『椿大介、今シーズンこれで6得点目!! 新たな背番号7番も負けていません!』

 

 

「うわぁぁぁ、凄い。凄いよ今の! 見てて置いてけぼりをされちゃうくらい、速かった!! あっという間だったね、公正!」

 

 

「あ、ああ。今のどこで確認していたんだ? てか、なに今の。素人目で見ると引くぐらいやばかったぞ、あれ」

 

素人の公正やかをり、三葉もちょっと今のプレー意味が分からない、といった困惑した表情を見せていた。

 

「アレは完全に背番号7の本能だろ。逢沢さんのサポートで出来た道からゴールまでを逆算した。としか言えない。後はもう目に見える者に反応して、手あたり次第に躱してシュート、ってところだと思うぜ。あれが出来る選手は非常に少ない」

 

そのプレーを解説できるぐらいの亮太でさえ、今のプレーは日本人離れしていると実感していた。

 

————なんでこのチーム燻っていたんだよ。この20歳の選手やばすぎだろ。

 

 

亮太は、実は彼がチーム随一のチキン男であることを知らない。

 

 

 

前半の段階で、2点リードで折り返すことになったETU対川崎。主役不在の中、俺がエースだと名乗り出るような若武者二人の活躍。

 

王子がいない。村越もいない。そして頼れる絶対エース青葉もいない。

 

それでも、中盤の汗かき屋と分岐点で必ず姿を見せる背番号19と7番が試合をリードする。

 

 

だが、ここから川崎が清川の守備力の低さに襲い掛かる。

 

王子不在、青葉不在。宮野ベンチスタート。バランスを整える村越もいない。

 

ここで敢えて八谷はセンターゾーンでポジショニング。マンツーマンで引っ張られることを避けたのだ。さらに、椿の縦突破はまともに防ぐことは出来ないと踏んだネルソン監督は、サイドに流れがちな彼の侵攻ルートを誘導する。

 

—————あれ、味方との距離が遠い……

 

まだ本能のままにプレーすることが多い若手の勢いを逆手に取り、推進力でもあった椿を封じ、味方との距離が遠のいた彼はサイドで孤立し、攻撃の組み立てから次第に外れていく。

 

強引に仕掛ければ——————

 

「あっ!!」

 

カットインからのファーストディフェンダーを躱しても、ボールとの距離が大きくなった瞬間をセカンドディフェンダーに奪われる。椿が仕掛ける事前提でブロックを作り、サイドローテの要領で左サイドの攻め上がりを完全に封じた。

 

さらに——————

 

「はははっ!! これ以上好きにさせるかよ!!」

 

 

「くそっ!」

 

————椿が完全に封じられたし、俺も前を向けねぇ! くそっ、後ろは元気な攻撃陣が待ち構えていやがる

 

ポジションチェンジした清川が八谷のキツイマークに遭い、出し所が減っていく。リトリートではなくフォアチェック、清川に後手を踏ませる守備でどんどん選択肢を減らしていく。

 

そして連動する川崎の前線のハイプレス。村越不在の中、持ちこたえていた中盤が少しずつ追い込まれていく。清川のバックパスが増えていき、安易なバックパスは川崎のハイプレスが見逃さない。

 

『清川が後ろに戻して————あっとロドリゴ奪う! ロドリゴそのまま縦に仕掛ける!』

 

堀田へのパスが僅かに流れた。体を入れられた堀田がトラップを乱し、カン・チャンスのプレスに遭ってしまう。そして何とかカンを躱したものの、ロドリゴに前を向いた瞬間を狙われていた。

 

今度は逆にカウンターの川崎。ハイプレス、ショートカウンターで一気にサイドハーフが縦を駆け上がる。右サイド近藤が椿への意趣返しに危険なエリアを抉り、

 

—————まずい、このままじゃ

 

 

その瞬間、近藤が距離を取りながら流れる。クロスボールのプレーの傾向が読み取れる。そう踏んだ椿が距離を詰めてスピードアップ。

 

 

近藤はネルソンがボランチで見せる椿の守備の特徴を監督から試合前のミーティングで教えられていた。

 

—————出足は早いよ。勘も鋭い。けど、彼は冷静ではない。

 

 

「あっ!!」

 

サイドでクロスボールを警戒した椿の裏をかいたキックフェイントからのドリブル。体を簡単に投げ出してしまった椿の敗因は、冷静に、迅速に距離を詰めなかった守備の雑さだった。

 

そして、石神が左サイドの草野に釣られて中に入り込んでしまう。そのまま黒田とのスイッチになるが、椿が躱されたシーンで杉江と黒田がウォッチャーになってしまった。

 

—————スギに任せるのか

 

————クロが行くのか?

 

不明瞭な呼吸で黒田がそのままコースを塞ぎにかかる。杉江との距離が空いてしまう。

 

「おらぁぁぁぁ! 行かせるかァァァ!!」

 

 

そしてグラウンダーのクロス。石神と杉江の受け渡しがスムーズに行われ、草野へのボールは通らない。しかし、苦し紛れのクリアボールはまたしても川崎ボール。中央に走りこむのかロドリゴとカン・チャンス。川崎は速攻一択。後ろから堀田や清川も動くが、清川は高い位置の為に戻りが遅れている。

 

ロドリゴが拾い、一気にカンが裏を狙う動き。近藤は中に絞り、草野はサイドに開く。変幻自在の速攻スタイルで勢いに乗る川崎。

 

そして、カン・チャンスに張り付いた杉江が消え、中に入り込んだ近藤がここでペースダウン。ここで清川がようやく戻り、近藤とのマッチアップ。

 

だが、ロドリゴが間髪入れずに草野へ縦パス。カン・チャンスがそのままニアサイドに飛び込んでくる。

 

 

—————早いクロスが来るのか!?

 

グラウンダーの鋭いクロスボール。それを警戒した杉江だが、狙われていたのは黒田だった。

 

草野はニアに寄ってきたカン・チャンスとワンツーのマイナスクロス。そのボールに走りこんでいたのはロドリゴ。マークをするのは黒田。

 

—————撃たせるかよ!! なにっ!?

 

だが、ロドリゴ、これをスルー。その背後から姿を現したのは——————

 

 

『ロドリゴスルーして、近藤だぁァァァ!! 川崎前半終了間際に一点を返します!! 決めたのはキャプテンの近藤! 前半の44分!』

 

 

その得点シーンを見て、達海が不安視していた弱点を一つ確実につくことが出来たと確信する。

 

 

—————やはり、サイドの脆弱性は無視できないレベルのようだ。

 

 

だからこそ、序盤は清川と椿のポジションチェンジという奇策で、川崎の中盤をかき乱し、ペースを握ろうとした。だが、あまりにも長く奇襲を続け過ぎた。

 

 

—————奇襲の時間は終わりだ、達海猛。次の一手は。どう来るのかな?

 

 

ネルソンは慌てない。確実に急所を穿った攻撃と確信できるからだ。そして、ネルソンも達海に残された手段が少ないとこを見抜いている。

 

 

 

主役不在の中、采配で優位に立ってきたETU。流れに抗う存在は、現れるのか。

 

 

 

 

 

 




鳥栖の好調は凄いですね。ユースから何人昇格しているんだろう。

名古屋の大補強も凄いし、それが見事にハマっているし・・・・

優勝候補筆頭は川崎との見方もありますけど、

この上記2チームは盤石というイメージでは昨年王者に匹敵するのでは?

守備が固い印象を受けます。特に名古屋は前から襲い掛かるプレス強度が川崎を凌駕しているような・・・・

ただ、鹿島さんはこのままだと危ないかもしれないですね。柏も結構危ない。
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