騎士見習いの立志伝 ~超常の名乗り~ 作:傍観者改め、介入者
苦戦の末、アウェーで勝ち点1を残したETU。逢沢駆は、結局一度もあの感覚となることが出来なかった。
そして、逢沢駆のアタッキングサードをケアすることが増えたため、苦しいプレーが次第に増えていくことを感じていた。あの苦し紛れのボレーシュートも、そこしか選択肢がなかったのだ。
—————このままだと、シーズン持たない。
逢沢駆の考慮しているポイントはその一点に尽きる。選手は自らの特徴を活かし、いいプレーを続けているが、同時にその現時点での頭打ちのレベルも晒している。
次の14節札幌戦はカップ戦で快勝している相手とはいえ、続く神戸は復調気味である。腐っても名門、金満チームの神戸だけは油断できない。
—————後半戦に向けて、研究され尽くしてしまえば、勝ち点を伸ばすこともできない。
青葉と飛鳥が戻るまでの辛抱というが、その二人だっていつまでこのチームにいるのか分からない。無論自分もそうだ。
相手の弱点を突き、自分たちの特徴を活かす。今まではそれが出来ていた。そんな時、電話が鳴った。
「もしもし———」
《あっ、駆? よかったぁ、最近連絡が出来ずにいたから————そっちは首位争いで好調みたいね》
相手は美島からだった。最近まともに話せていなかったのは、互いにやることが多すぎたためか、なかなかきっかけもなかった。
「順位こそ上位だけど、楽観視はとてもできないかな。チームの底、それが見えつつあるのはきついよ」
本来、達海と話すべきなのだろうが、達海は現在クラブハウスで相手チームの研究を行っている。邪魔は出来ない、
《そう、なんだ。やっぱり川崎戦と甲府戦の影響、なのかな》
小さな巨人中島に蹂躙された甲府戦。達海の采配ミスをカバーできず、後手を踏んだ川崎戦。このチームは采配一つで簡単に勝敗が決まる。その脆弱性を突きつけられた。
例外は、やはり飛鳥と青葉の同時先発時の安定感だ。あの二人がいることでチーム全体に安定感が増す。そして、高校時代に感じていなかったある感覚が彼を支配してしまう。
—————青葉がボランチにいたら、負ける気がしない
自分とポジションをチェンジしながら相手のマークをずらし、一気呵成に攻め入る。むしろ椿を前線に置けば面白いことになる。
ディフェンス力も飛鳥に次いだ安定感を見せる彼が中盤の底にいれば、相手の攻撃は無力化し、直後のカウンターで一撃必殺。
相手の切り札を叩き壊したうえでのカウンターを、完結することができる。
だからこそ、世良の離脱はあまりにも痛かった。そのチャンスを確実に決定機まで持たせることができる彼は、なんちゃってポストプレーを重視する日本サッカーにとって異端ではあるが、決定力という点ではこれ以上ないCFWである。
世界には背丈の低い選手でもトップレベルの結果を出せる選手はいくらでもいるが、日本サッカーはあまりにも未熟だ。
二列目の幻想にとらわれ過ぎているようにさえ見える。前線で体を張り、ゴールを決める最も難しいミッションをこなせる選手が不在なのだ。
《中島選手の動き、やっぱり青葉君のそれとは違うね。前半後半含めて、プレスを完全に無効化していたわ》
甲府戦での彼は彼の持ち味が存分に出た試合だった。受けて下がり、前を向く。そして、中島を中心とした攻撃により、複数生まれるスペース。
それらを素早く取捨選択し、的確なプレーを生み出せる中島の戦術眼。甲府の大黒柱に相応しい活躍を見せていた。地方クラブではあるが、底知れない爆発力があのチームにはある。
対するETUはどうだろう。宮水青葉という絶対エースがいる。椿という俊足の持ち主がいる。ジーノというパサーがいる。他にも可能性を感じる選手が大勢いる。
だが、機能しきれているとは言い難い。それは美島の目から見ても明らかだった。
「もっと椿選手の足をみんなが信じていいんだ。今の低い位置だと、椿選手の持ち味の半分も出せない。」
あの足を活かすには、ボランチでは到底満足できない。自分なりに工夫をし始め、色々上手くいっていることはあると駆は考えた。しかしそれではだめなのだ。
—————強豪と戦うためには、個人の力だけでは足りない。
悶々とするETU。現状は上位と好位置につけているが、後半戦への不安が露呈していた。何かきっかけがあればいい。きっかけさえあれば、選手は殻を破れる。
そして、ニュージーランド現地では初戦の相手コートジボワールとの試合が近づいていた。日本のフォーメーションは4-2-3-1。堂本と宮水青葉の起用について注目されていたが、西野監督は驚くべき采配を下したのだ。
GK 22番 相馬元気(鳥栖)
RSB 2番 幕張健吾(湘南)
CB 3番 飛鳥亨 (ETU)
CB 4番 城達哉 (讃岐)
LSB 6番 沖名太陽(山形)
CMF 7番 榎本文人(新潟)
CMF12番 清武周人(大阪C)
RMF 8番 堂本貴史(フローニンゲン)
LMF11番 小川知良(磐田)
OMF10番 石渡翔悟(仙台)
CFW 9番 鷹匠暎(浦和)
リザーブ
GK 1番 真弓慎一郎(福岡) 23番 水野邦夫(名古屋)
CB 14番 井口譲二(浦和) 19番 本田マイケル(明治)
RSB 16番 中条渉(岡山)
LSB 20番 赤間弓彦(讃岐)
CMF 15番 安川走斗(千葉)21番 工藤春雄(岐阜)
FW 12番 伊達直哉(仙台)18番 宮水青葉(ETU)
22番 九鬼鉄心(大宮)
CFW 13番 秋本直樹(横浜)
注目の宮水青葉はベンチスタート。やはり、堂本と宮水の共存は難しいようだ。一方で、高卒ルーキーの鷹匠、飛鳥が先発しており、CBとCFWについてはやはり人材が不足しがちな日本。
————あちらの左サイドには、いいクロスを放る人がいる。気を付けないと
試合前、飛鳥は青葉から忠告を受けていた。コートジボワールの左サイドハーフは質の高いクロスを放り込んでくることらしいとのこと。
さらに、相手の出方は明らかに堂本を意識している戦術。
やはり日本のキーマンである堂本つぶし。コートジボワールは日本の右サイドに攻撃の比重をかけることで、堂本を疲弊させる心算なのだろう。
『さぁ、いよいよ始まりますアンダー20ワールドカップ、日本の初戦。コートジボワールとの試合を迎えることになります。解説の名田さん。注目の宮水青葉はベンチスタートですね』
『堂本選手がいますからね。最近調子が良いと言っても、オランダ一部で得点王に輝いた彼を外すのはリスキーでしょう』
序盤から攻勢に出るのはコートジボワール。日本得意の右サイドへの攻撃に比重をかける。
やはり、コートジボワールと日本の戦績の評価通り、日本が押し込まれるシーンが続く。
コートジボワールの選手はSBであろうが、ボランチであろうが前を向いた瞬間に突き進んでくる。清武がサイドから中に切り込んできた右SBの突破を遅らせるようディレイ守備を行うが、清武の思惑など関係無しに縦に縦へと突き進んでくる。
—————距離感が狂えば簡単に千切られる、くっ、踏み込めない
そして、ディレイ守備最大のウィークポイント。重要な局面で体を投げ出すことができない。最後の粘りがそこにはなかったのだ。
『縦仕掛けたムニエル! 清武対応する!』
単純な右SBの踏み込み。からの加速。あっさりと横をとられた清武が追い縋るが、ドリブルルート上に彼が出た瞬間、切り返すのだ。
背中を晒しながら反転して再びムニエルの道を阻もうとするが、ここで二度目の切り返し。清武の薄い壁が突破され、アンクルブレイク。
「カバー入れ、文人っ!!」
沖名が指示を出す。ここで中央を破られたら、対処するのはCBになる。しかし————
ディレイ守備で突破されたのならと前に出過ぎた榎本のスライディングがあっさりと躱される。そしてCB城の背後をとるFWのゴラン。
—————やべぇ、背後とられたッ
しかしシュートコースのないゴランは折り返しで中央へのクロスを上げる。ダイレクトでありながら、ST、トップ下の位置から飛び出してきたOMFアントンへの正確なラストパスを供給する。
『危ない日本!!クロス上げられたが、クリア!! ここで大きく飛鳥がクリア!!』
『SBがあそこまで仕掛けてくることは、中々日本ではないですからね』
しかし、ここで飛鳥がアントンと競ることでボールを大きくクリア。ひとまずピンチは去ることとなった。
それでも、セカンドボールを回収したコートジボワール。フィジカルを武器に中盤を無理やりに支配する彼らは、まだまだ日本を押し込む。
「ブロック作れ! 縦入れさせるな!!」
城が指示を飛ばすが、それではいずれ食い破られると判断していた飛鳥。しかし、かといって自分が違う指示を出せば中盤はいよいよ混乱する。
プレーで引っ張るには、まず成果が必要だ。
右SHのジェンセンに縦パスが入ってしまう。すでに欧州名門アヤックスでレギュラーを手にしている選手だ。マッチアップする沖名がディレイ守備を行うが—————
—————ディレイしかしないな、日本のプレーヤーは
それは、ジェンセンにとってやり易さしかない状況だった前にスペースが存在する。それはドリブラーにとって、この一対一の状況は抜いてくださいと言っているようなものだ。
『縦突破された! ファーサイド空いている!! 日本ピンチです!』
ニアサイドを防がなければならない城。必然的に中央とファーサイドが空くため、飛鳥はその両方をケアしないといけなかった。
数的不利の中での攻撃を防ぐには、一瞬の判断が要求される。
クロスは間髪入れずあげられる。飛鳥はその中で“半端な立ち位置”に立っていた。
『ジャンプしながら背面へとボールを掻き出したァァァ!! 再三日本のピンチを救います、ETU所属の飛鳥亨!!』
そのクリアボールに誰よりも反応していたのは、右SBの幕張。トラップした瞬間に前を向いた彼の長距離高速ドリブルが始まる。
—————飛鳥君が繋いだチャンス、絶対にッ!!
『日本カウンター!! 幕張が駆け上がる!!』
ボールを大きく蹴りだし、前に前にと突き進む。J2からの招集となった彼の突進は、コートジボワールに初めて焦りの感情をたたきつける。
幕張を潰そうと人数をかけるコートジボワール。身体能力で不利なアジア人をあざ笑うカバーリング。すでに幕張の周囲には2人の選手が囲みに入っていた。
—————それでも、状況を変えてくれるはずだ、貴史!!
縦へのスルーパスを引き出す絶妙な間へとはいる堂本。CBとボランチの間に入り込んだ彼は、ゴールに背を向ける形でボールを貰う体勢だった。だが、ここで終わらないのが堂本。
トラップした瞬間に跨ぎフェイント。ボールを軽く転がし、背後の相手選手の動きを冷静に見極め、反転。ターンしながらのドリブルで相手選手を抜いたのだ。
『上手く入れ替わった堂本———クロスっ!?』
落ち着きを与えない堂本の苛烈なクロス。敵味方にクイックすぎるその挙動は鷹匠の頭に掠りはしたが、決定機をゴールに結びつけることは出来なかった。
—————堂本のパスは速い。けど、これが世界に求められるのか
秒の世界で相手は修正してくる。世界レベルの守備となると堅牢さは日本以上だ。タイミングはそれよりもシビアだ。
『ちょっと堂本選手のクロスが早過ぎましたね』
『焦っちゃったのかなぁ、やっぱり』
相手に対応させる、考える時間を与えない。堂本はもっと速さを代表に要求していたが、やはり国内と海外の感覚の差が邪魔をする。
終始劣勢な前半の立ち上がり。その攻防でゴールは生まれない。引き続き堂本はSBとボランチの間に入り、ボールを受ける位置、タイミングを探る。
しかしそれは、堂本が介入しなければ攻撃が始まらないというジレンマを生んでいた。
ロングボールをカットした場からの正確なフィードを受けた小川が縦に勝負を仕掛けるが、相手選手右SBのムニエルがいきなりスライディング。間合いの中でのタックルで小川はボールを失ってしまう。
—————っ!? いきなりスライディング!?
足が伸びてくるという感覚が対外試合、特に海外勢との試合で感じることの多いアジアの選手たち。小川が仕掛ける前に、ドリブルでアクションを起こさせる前にムニエルはスライディングでチャンスそのものを奪ったのだ。
しかも、ムニエルの足元にはボール。小川は転倒し、ファウルをアピールするが、ボールに先に足が触っているため、笛はならない。
『小川ボールを失う、コートジボワールのカウンター!! 日本一気にピンチだ!』
『3対4ですよ、これ!! 時間をかけて、時間をかけるんだ!!』
飛鳥と城が対応せざるを得ない状況で、相手は右SBのムニエル、FWのロイス、右SHのジェンセン、左からは幕張が全力で戻っているとはいえ、左SHのヤングが駆け上がってくる。
ムニエルは尚も中に切り込んでくる。そのバネのようにしなやかなスプリントは飛鳥であってもディレイ守備を強いられる状況。
ムニエルは、ここで右に開いたジェンセンを使う。縦一気に仕掛け、ムニエルは中へと切り込んでくる。状況的に厳しすぎる展開。
ジェンセンにノープレッシャーでクロスを上げるわけにはいかない。ムニエルとジェンセンのクロスは戦前からかなりコントロールが良いことはわかっている。彼の右足から決定機が訪れ、失点するケースはかなり見受けられているのだ。
しかし、寄せてきた城をあざ笑うダイレクトコントロールクロスをジェンセンが上げる。そのボールは一気にFWのゴランへ。ゴランと競る飛鳥。先にゴランをジャンプさせ、自分の跳躍するエネルギー全てをゴランにぶつけ、彼のバランスを崩したのだ。
「!?」
ゴランはその瞬間、その速いクロスに頭で合わせることが出来ず、ボールはタッチの外へと出て行ってしまう。またしても飛鳥が最後の最後でコートジボワールの攻撃を止める。
『再三日本を救います、飛鳥亨!! 見事な反応、対応です!!』
『プロに入ってかなり伸びていますね! 先に相手を飛ばせて、自分の体ごと相手にぶつけ、バランスを崩す。凄い冷静さです』
コートジボワールの中でも、あの日本代表の3番は厄介であると認識し始める。
あの日本人は何者だ。まだ18歳の若者が、このU20でここまでのプレーを見せることが驚きだった。
スローイングからボールを受けた幕張のロングフィード。中に入っていた小川の開けた逆サイドを疾走するのは沖名太陽。ここで左からの攻めを展開する日本。コートジボワールは幕張がボールを持った瞬間、彼の独走を阻止しようとスライドしたが、幕張はその防衛策を見事に利用した。
『見事なサイドチェンジ!! 幕張のロングフィードが一気にコートジボワールの死角を突きます!!』
それを為したのは、先ほどの長距離高速ドリブル。幕張の推進力を警戒したからこそ、コートジボワールはスライドが遅れたのだ。
そして、沖名がアタッキングサードへと突入する際、日本は3枚が入っている状況。鷹匠、堂本、石渡がそれぞれポジショニングよくペナルティエリアで位置取りをする。
渾身の鷹匠のヘディングシュート。魂を震わせながら、それでもと相手との接触を恐れない彼のダイビングヘッドが火を噴く。
—————ここは、俺の縄張りだッ!
揺れるゴールネット、転がり込みながら地面に不時着する鷹匠。そして、素早く立ち上がり自らが得点を決めたことで雄たけびを上げる。
「しゃぁぁぁぁぁ!!! 見たか、見たか!! 決めてやったぞぉッ!!」
先制は日本。スローイングから幕張のサイドチェンジで一気にコートジボワールの急所を穿つ連動する攻撃。西野監督の読み通りだった。
押し込まれる展開で、幕張の突破力は必ず重宝される。そして彼の右足の精度はかなりのものなのだ。彼なら機を見てサイドチェンジを行えるだろうと、指示を出していた。
『先制日本!! 決めたのは18歳の鷹匠!! エースストライカーの鷹匠が魂のダイビングヘッド!! 執念でねじ込みました!! 前半24分!』
沖名のクロスに反応した鷹匠は、ただひたすらクロスへと向かっていた。そして、全身をねじ込んだのだ。
日本でも屈指のフィジカルを備える鷹匠だからこそ、アフリカ勢のフィジカルに対応したのか。それでも、あの鷹匠が最後の辺りでは当たり負けしているような光景すらあった。
しかし、ここから攻勢に出るコートジボワール。日本は前に行く時間が少なくなり、堂本と小川が守備をせざるを得ない状況。特に榎本と清武を圧倒するボランチの選手がボールを保持しており、やはりゴールまで守る精神的にも体力的にもきつい状況が増える。
しかも、幕張の走力が落ちないことが前提の作戦なので、幕張が潰されると押し戻すことすら難しくなる。
こうなってくると鷹匠のポストプレーに期待がかかるが、フィジカル的に優位に立てない彼は、ボールをキープするだけで前に行くことができない。バックパスしか選択肢が出てこない厳しい状況。
—————推進力が足りない。俺一人で前を向くのは厳しすぎる!
こうなってくると、幕張と鷹匠への負担がさらにでかくなる。堂本は最悪ファウル覚悟で止められる程度に警戒されており、ボールを持った瞬間、すぐに寄せてくる左SBのブナ・サール。素早く距離を詰め、下がってくれないので拮抗する場面が増え、その間位にカバーリグンする相手選手が増えることで、堂本は強烈なタックルを食らう場面が多くなる。
——————まじで当たりきつすぎ。俺じゃなかったら壊れてるぞ、これ
衝撃を和らげるブラジルの王様張りの転びの技術を身に付けざるを得なかった堂本は、ダメージ少なくすぐに立ち上がるが、転がりの術を習得しなければ負傷退場コースだと悟る。
4大リーグではないとはいえ、アヤックスのジェンセンが一番警戒している相手でもある堂本。
そして、コートジボワールは尚も右サイド潰しをしかけるかに見えたが、やはり堂本のコースを切る技術は中盤の選手にバックパスの選択肢を提示し続ける。
常に首を振りながら2人以上のパスコースの中間に立ち、距離が広がれば後ろの幕張も対応可能となるなど、縦を入れさせない連動する守備を見せる。しかし—————
『中央縦一本を入れられます、日本! あっとシュート撃ってきたぁァァァ!! やられました!! 日本同点に追いつかれます!! 前を向いてミドルショット! コートジボワールの10番ナビスライの一撃!』
『距離が空いた瞬間に迷いがありませんでしたし、キーパーの位置も確認していましたね』
前に出ていたキーパーの位置取りを事前に確認していたのだろう。前半38分に追いつかれてしまう日本。
いい形で得点したが、中々波に乗れず、前半は同点で長い笛が鳴ることになる。コートジボワールの動きは重いのか、前半は緩慢な動きが見られたかに思えたが、攻撃のスイッチが入った瞬間にプレースピードが上がった。それに戸惑いを見せる日本が最後の最後で防ぐというシーンが繰り返された。
そして後半。コートジボワールは切り札である堂本を潰す右サイドへの波状攻撃を取り下げ、小川が狙われた。
前半から寄せが早く中々ドリブルで前に進めない中、小川は沖名の上りを待ってしまったのだ。その消極的なプレーがまず致命的だった。
『ボールカットぉぉぉ!! 日本ピンチ!!』
一人目のジェンセンの寄せを躱した刹那、そのドリブルコースからムニエルの足が伸び、ボールを刈り取られたのだ。小川は転倒し、沖名は逆を突かれる形となる。
既にジェンセンは前に走り出しており、沖名の背後を完全についていたのだ。
そして、状況的に左サイドを開けてしまった状況を作られる日本。沖名が必死に戻るも、小川はようやく立ち上がる場面。ムニエルが日本の左サイドを制圧し、日本ゴールマウスにプレッシャーをかける。
ここで城が遅らせるべく前に出てしまう。それを見た榎本が城の開けたスペースにカバーリングする。
————こいつのクロスはやばい、絶対にいい形で上げさせない。
だが、城が寄せに来る前にムニエルはクロスを上げてしまい、カバーリングの為に入った榎本とマッチアップするOMFのナビスライが難なく競り勝つ。
—————ここで逸らしただと!?
飛鳥がその逸らしたボールの方向へと走るがもう遅い。何もかも致命的だった。
『ファーサイド叩き込まれたァァァ!! 日本失点!! ムニエルのクロスから最後左SHジェルビーン!! 強烈なボレーが日本のゴールネットを揺らしました!! 後半7分! ここで勝ち越されました!! 1対2!!』
左サイドでの裏へ抜ける攻撃を試みる小川だが、ラインコントロールがしっかりしているコートジボワールは彼にいい形を作らせない。そして、勇気をもってラインを上げたコートジボワールが、小川が前に出過ぎた影響で開けてしまった左サイドを何度も狙う。
またしても、ムニエルにボールが渡る。今度は小川がきっちり戻り、沖名が距離を開けてしまった。小川が勝負を急ぎ、下がらないディフェンスでプレスをかけるも躱される。沖名との連動した守備が出来ていない。ムニエルはその一瞬のスキを見逃さない。
『再びクロスゥゥゥ!! 決められてしまったぁァァァ!! 日本後半立て続けに失点!! FWゴランのヘディングシュート!! 相馬の手から零れ落ちました! 後半14分!』
『左サイドの開けたスペースを狙われていました。ちょっと間延びしてきましたね』
スコアは1対3。苦しくなってきた日本。
こうなってくると小川は前に出ることが出来なくなる。しかし、ムニエルのクロスはゴール前のクロスだけではなく、幕張に匹敵するロングフィードを持つ。
左サイドでの優位性を失い、日本は右SHが生命線となるが、堂本はやはりマークがきつい状況下で前に出ることができない。
後半での立て続けの失点。嫌でも過去のトラウマを思い起こさせる展開が予想される。
勢いに乗るコートジボワール。運命は決まったかに見えた。
しかし日本は、怪物の出番が近づいていた。
日本対コートジボワールの試合は、正直嫌な記憶しかないですね。