騎士見習いの立志伝 ~超常の名乗り~   作:傍観者改め、介入者

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第八十一話 這い上がる者たち

世代別ワールドカップで見事な逆転勝利を成し遂げたことは、江ノ島高校でも話題となっていた。

 

昨年まで鎬を削ってきた飛鳥亨が終始見せた守備での奮闘。彼がいなければ序盤で試合を決められたまであった試合展開。そしてとうとう耐え切れずに失点し、後半いきなり突き放される苦しい展開。

 

そこに颯爽と現れたのは江ノ島の絶対エースだった宮水青葉。同時投入された九鬼と共に試合の流れを一変させ、過去の戦績では決して優位ではなかったコートジボワールに勝利を収め、その中でも全体の流れを見て効果的なプレーを続ける青葉と、同じく途中出場で二列目を有効に使った秋本のテクニックは注目されていた。

 

「秋本選手のポストプレーが凄い。相手とのコンタクトするのがポストプレーじゃない。ああいうボールさばきは凄い参考になる」

 

秋本の動きに注目するのは夏目。やはり高瀬ほどの体格がないので、ああいう前の向き方は参考になる。

 

「そして九鬼選手の動きは青葉先輩が言っていたサイドハーフの守備理論じゃん! 青葉先輩以外にあれが出来る選手がいるなんて!」

 

二列目の連動した守備が生まれたことで、一気に流れを掴んだ日本は、コートジボワールを圧倒。最前線で偽9番の動きを習得していた秋本のポストプレーも合わさり、大量得点で逆に突き放したのだ。

 

そんな中、一条はまだ誰も真似できていない宮水青葉のドリブル理論に挑戦していた。実戦でその理論をもとに一条龍のドリブルは実演できた。しかし、彼のように鮮やかに抜き切るというシーンは限られている。

 

軸足ステップも彼には及ばないが、十分実戦で有効と思える間隔で行い、全集中でそのステップに意識を奪われることもない。途中までは彼と同じイメージで動くことが出来ている。

 

なのに、彼のように抜けない。ジョギングするように真鍋を抜けきった彼を思い出せば出すほど、イメージがズレている。

 

 

だからこそ、一条は何度も真鍋とマッチアップする。彼と対戦した真鍋なら、自分と彼の違いに気づくはずだと。

 

岩城も、そしてミルコも最初はわからなかった。ステップの細かさに違いはあれど、一条のドリブルは青葉を意識し、彼と同様の効果を得られるはずだと。

 

 

さらに、ワールドカップへの出発する前にもう一度、今度は武智昭がマッチアップしたのだ。武智としても、リーグトップレベルのサイドアタッカーとの対戦を熱望していたこともあり、彼を止めることは出来なかったが、追い縋ったりすることは可能だった。

 

その時の映像と、次に一条と武智のマッチアップ時の映像を照らし合わせ、さらに武智本人の感覚の違いについて一条は解明を急ぐのだった。

 

「———————そうだなぁ、青葉先輩の間合いは、なんていうか、本当に歪んでるというか」

 

武智の感覚としては、青葉との距離を詰めてもなぜかズレているらしい。ここでなら捕れると判断した武智ではあったが、間合いの外で仕掛けていることに寸前まで気づけないのだ。

 

対して一条とのマッチアップの場合は、止められない場合もあるが、止めることが出来た瞬間と同様にはっきりと認識できるのだという。

 

「龍の場合は、そうだなぁ。間合いでこれは無理っていうのが分かる。抜かれたっていう感覚が分かるんだよなぁ。けど、青葉先輩の場合はマジでその瞬間にならないとわからない時がある。届くと思った感覚が悉く覆される。それがないな」

 

部内でもトップクラスの実力を持つ武智をしてオカルト的な表現でしか説明できない青葉の凄み。

 

しかし、青葉と一条のドリブルを見てその小さな変化こそが歪みの正体だと気づいたものがいた。

 

「———————なるほど。そうだったんだね」

 

的場が、そのロジックを見抜いたのだ。

 

 

「ど、どういうことですか、的場先輩!?」

 

一条も、そして岩城とミルコ、部内の選手たちも注目する的場の見解。青葉と戦った人間が口にする間合いが歪んでいる現象。その謎が解明されると聞き、皆興味津々だった。

 

「どうもこうも、軸足ステップの細かさはこの際置いとくよ。一条君のステップの間合いの取り方は綺麗だよ。正確なタッチ、隙を見せない間合いの測り方。相手をよく観察していると僕は思う」

 

映像で見る限り、正確なボールタッチを見せている一条とそれに対する武智。映像の中の武智も抜かれた瞬間にそれを認識するリアクションとなっている。

 

「けど、青葉の取り方は、悪く言えば汚い、よく言えば不規則なんだ」

 

 

「え? 青葉先輩の間合いの取り方が!?」

 

 

ざわざわと騒ぎ始める下級生たち。的場のいう汚いとはどういうことなのか、不規則であるなら正確な間合いを測ることもできないのではないかと皆思うだろう。

 

「けど、そう僕らが見えている中で、青葉にとってはそれが正確なんだ。龍、君は青葉にステップについて何か教わったかい? この軸足を素早く動かす以外に何もなかったかい?」

 

的場は、一条に考えさせるように問いかける。

 

「えっと。半円をイメージするのは聞いていますけど、やり方については」

 

 

「僕もステップについて聞いたことがあるんだ。間合いを測る方法について。半円以外の回答はなかった。フェイントを入れるという手段もあるけど、この映像の青葉はフェイントを使っていない」

 

映像の青葉は一切間合いの測る段階でフェイントを使用していない。あえてフェイントを使わなかったと彼は話していたが、フェイントなしで簡単に抜く方法を彼は体に染みついているのか。

 

「———————これは青葉も意識していないことだから、言うのは憚られると思ったけど、龍君がさらに上を目指すなら、絶対に無視はできない技術であり、習得するのは困難を極めるよ」

 

 

「僕らはボールをロールする際に、蹴りだすことが多い。または足裏を使って舐めていることもある。けど、青葉の場合は大きく4つあるんだ。それも明確に」

 

ボールをロールする手法は感覚で行うことが多い。恐らく青葉も無意識の世界で染みついた癖なのだろう。

 

「まずはつま先でボールを蹴る時。普通にボールを蹴りだすんだけど、この場合、ターンや跨ぎフェイントとの親和性が高い。急停止後の急加速やステップオーバー、シザースやシングルダブルタッチ、シングルルーレット、インアウト等を繰り出す時はこの形だね」

 

 

「そして次にインサイドでボールを転がす時。これは相手に背を向けているときが多く、青葉が一番得意としている形だね。マルセイユルーレット、ダブルルーレット。ダブルタッチ。トリプルタッチ、ステップオーバーからの派生技。最近だとエラシコも。相手を背負いながら抜き去るのは青葉の十八番だし」

 

どれもただのボールのロールがフェイントにつながっている。なるほど、派生技の多くがフェイントに直結し、スキのない構成となっている。

 

「けど、これは他のプロ選手でも十分できること。青葉君のすごいのは、そのさらに2つがあることなんだ」

 

 

「3つ目はボールを足裏で転がすこと。足の向きによって先ほど説明した派生技につなげることは出来るけど、厄介なのはロールする距離が先ほどの2つに比べてかなり狭いし、細かく角度を付けられるんだ」

 

 

 

「距離が短いと何が、それに角度!? まさか—————」

 

青梅優人が質疑を繰り出すが、そこで蒼井恭介がその瞬間閃いたのだ。

 

「距離が短いから、素早く次にコントロールできる、ですか? そして、角度というドリブル技術について重要な指針を微調整できるロール技術。絶対的な加速力を持つ青葉先輩に与えたら無双されるわけだ」

 

 

「そうなんだよ、恭君。それが青葉のズレる間合いの正体。例えば、一条君が正確な物差しで測った10cmの距離を刻む機械だとしよう。対して青葉のは5cm刻みで距離を刻める。こうなってくると、ロールの角度も少しずつ影響してくるんだ」

 

 

「つまり、ボールタッチが細かいから、俺のドリブルよりも—————いや、違う。まさか!!」

 

一条はなぜ的場が態々4つのロールの仕方を教えたのか、その意図に気づいた。

 

 

「4つ目を言う前に気づかれちゃったか。青葉は相手との間合いの取り方に恐らく綺麗な計算はしていない。けど、ボールの動かし方を複数織り交ぜることでボールの動く距離が不規則になっているんだ」

 

「ちなみに、4つ目はバックスピンをかけるボールの舐め方。ボールが吸い付く様に戻るし、これが一番距離を出せない、距離の出にくいロールの仕方なんだ」

 

最後の最後に4つ目を出し、青葉のドリブルのギミックを説明した的場。

 

「けど、この4つ目も厄介だよ。相手がこちらの動きに合わせて対応した瞬間、足元にボールが戻るから、次の動きで必ず先手を打てる。だから、青葉相手にボールを刈り取るのは至難の業なんだ」

 

 

「青葉はこれを無意識のうちに判断し、使い分けているんだ。相手との距離、スピード、反応速度。だから青葉の間合いを正確に測ろうとすればするほど、その認識をずらされるんだ。しかも、ロールの回数なんて誰も見ないし、意識もしない。ただ間合いの詰め方にディフェンダーは意識するだろうからね。勿論青葉も理性で理解しきれていない。」

 

それは本能で染みついたもの。だが、彼がその本能を明確に認識した瞬間。それこそが、彼の集大成を完全に理解することであり、彼がゾーンに入る明確な鍵の1つとなるだろう。

 

宮水青葉のゾーンへの覚醒には、青葉の全能力を自身が理解しなければならない。しかし、青葉の膨大なポテンシャルは、それを簡単には許さない。何しろ全盛期の中頃、晩年に入る前にそれを会得した可能性世界の宮水青葉は、むしろ現役の最中で会得したことは快挙であった。

 

だからこそ、可能性世界の青葉は、サッカー史上最強にして最高のポジショナルプレーヤーとして。また、最高クラスの個を持つ存在となった。

 

チームで最も決定的な仕事をしつつ、他の選手を最大限活かす、究極的なプレーヤー。

 

 

無論、その事実を知る者はこの場にはいない。

 

 

 

「ただ、トップ下やボランチで組み立てを任されるときに顕著だね。サイドにいるとストライドの大きいスピードで圧倒する形になっている。だから、これは複数のポジションを担った影響だと思う」

 

 

事実、宮水青葉はコートジボワールのプレスをまるで意に介さず、ボールロストもほとんどなく、ドリブル成功率100%を達成していた。パスに関してはカットされる場面が稀にあったとはいえ、ほとんどタイミングを外されているシーンだった。

 

しかし、それは時として見方すら予期していないタイミングのパスの場合もあり、堂本と同じ症状を発症していたりもする。

 

 

日本の若きサムライの中で、花森と肩を並べる存在になれる左の九鬼と右の堂本。これから欧州に挑む技巧派MFと、すでに得点王として結果を出している者。

 

 

しかし、彼ら3人を貶めるわけではないが、宮水青葉は唯一無二の選手へとなりつつある。かつてのフェノーメノという呼び名があまりされなくなったのも、あの怪物とプレースタイルが変化していることもある。ただ、その脅威度で彼の呼び名は使われている。

 

「—————————やっばいな。これ」

 

一条は全てのメカニズムを理解し、それでも遠すぎる青葉の背中を見た。一条はこのギミックを知ることで、習得しようともがくだろう。しかしそれは、今までの一条龍の間合いを破壊することに他ならない。

 

それは、一歩間違えれば自分のドリブルを破壊する行いだ。それでも、彼は挑戦することを辞めないのだろう。的場は、焚きつけてしまった責任として、ミルコと共に彼を鍛えると誓う。

 

的場は技術こそ部内でも荒木をドリブル技術でしのぐほどだが、プロで戦える体ではなかった。自分のフィジカルではすぐに潰れる。それがわかっているのだ。

 

だからこそ、プロを目指す覚悟を持つ彼に、青葉と同じ世界に立ってほしいと願う。

 

 

的場による青葉のプレー解説が終わる。的場は彼を探し、彼に問いかける。

 

 

「片道切符で、失敗の代償は自分のドリブルが壊れること。それでも、挑戦するのかい?」

 

 

「それでも、手を伸ばせばそこにあるんです。遠すぎる背中が見えた。それは、俺にとっての大きな一歩なんです」

 

かつての彼は天才だった。しかし、大きな挫折と大きな不幸が彼を襲い、その輝きは失われたかに見えた。だが、彼は天才でありながら強い精神力を持つ男だ。彼は進化する怪物を前に臆さない。むしろ、彼の良い点をどんどんと取り入れていく。

 

そんな彼らがまず目指しているリーグジャパンでは、青葉たちの所属クラブが新たな一歩を歩もうとしている。

 

 

ここ最近は勝ったり負けたりのETUは、札幌戦では試験的に運用が開始されたとあるシステムがついに実戦投入されようとしていた。

 

GK  1番 緑川

RSB22番 石浜

CB 27番 亀井

CB  3番 杉江

LSB13番 向井

CMF10番 ジーノ

CMF 4番 熊田

RMF 7番 椿

LMF15番 赤﨑

OMF19番 逢沢

CFW 9番 堺

 

控え 

GK 23番 佐野

DF 14番 丹波(SH)  5番 石神(RSB)

MF  8番 堀田(OMF) 6番 村越(CMF)

FW 25番 宮野   18番 上田

 

サプライズと言えるのは、ジーノのボランチ起用だろう。二列目には個人で仕掛けるメンツを揃え、両SBには今季初の組み合わせとなった左SB向井と、右SB石浜。

 

 

向井と石浜はともに栗澤の特別メニューに取り組んだ者同士、連帯感というものがあるらしい。今日の試合にかける意気込みはかなり違う。

 

 

札幌は遅れてきた助っ人のペルー人のルワンを左に先発。石浜が想定しているスピードのあるドリブラーとのいきなりのマッチアップ。

 

ベンチ外

GK 31番 湯沢

DF 12番 鈴木(CB,SB) 2番 黒田

26番 小林(CB) 16番 清川(LSB)

 

MF  28番 広井(SH) 

24番 住田(CMF) 21番 矢野(SH)

FW  11番 夏木

 

17番 宮水(代表召集)

29番 飛鳥(代表召集)

20番 世良(負傷離脱)

 

 

引き続き、世界で戦う飛鳥と青葉はベンチ外。世良の怪我も癒えており、もうすぐ復帰が間近であると言われている。ここにきて左SBでは技巧派の清川がフィジカルタイプの向井にレギュラーを奪い返されている。

 

特に対人守備において、向井は海外勢を想わせる苛烈さが見え隠れしている。そしてそれは石浜にも言えることだった。

 

 

前半から札幌に対して攻勢を強めるETU。すでに逢沢が椿へのアシストを決め、赤﨑がカットインからミドルショットを叩き込むなど、格下札幌を蹂躙。

 

その際、違いを見せるのがボランチのジーノ。三列目というプレッシャーをかけにくい場所で高精度のマルチレンジパスを見せ、札幌の急所を突くゲームメイク。

 

 

相方の熊田は村越以上に両SBのカバーに専念。ゲームキャプテンの杉江とともにコーチングし、札幌のロングボールカウンターに対応する。

 

「や、やばっ!?」

 

だが、椿が最悪な形でボールをロストし、加速するのはペルー人のルワン。ここで石浜と彼の対決が勃発する。

 

前を向いて仕掛けるルワンに対し———————

 

 

いきなり体を投げ出し、ボールを刈り取ったのは石浜。つい最近までは体を寄せていくのが彼の特徴だった。そしてスピードで千切られる。正確に言うと、スピードではなく押し込まれていたといったほうが正しいか。

 

それでも石浜の反応が遅れており、ファウルの注意を受ける。しかし、顔は強張っておらず、むしろ堂々としていた。

 

そんな石浜の闘争心を隠そうともしない姿に達海は苦笑いする。

 

「いきなりのスライディング。マジでお前の後継者にするつもりか、クリ」

 

甘いマスクに隠れがちだが、栗澤は現役時代、根っからのファイター気質のSBだった。気迫あふれるディフェンスで相手アタッカーを止め続けてきた。

 

彼は間違いなく日本サッカー界でも歴代ナンバーワンと評される右SBである。その彼の教えを学びつつある石浜にプレーの変化が起きるのは必然だった。

 

 

石浜がボールを刈り取り、フリーキックこそ与えたが、空中戦に強い亀井が難なくフライボールをクリア。零れ球を拾う形でカウンターのチャンスを迎えるETU。ボールを回収するのは熊田。

 

素早くジーノにボールを預け、ジーノが間髪入れずピンポイントクロス。裏に抜け出した堺が最後は流し込み、3点目を挙げる。

 

 

カウンターの起点は亀井だが、その前のプレーの段階で潮目は変わっていたのだ。

 

 

札幌は尚もルワンを走らせる。石浜の荒いプレーはいつかファウルで注意され、カードによる退場すら想定できる。彼は無理をしているとみられていた。

 

 

それでも、石浜は下がらない。ボディコンタクトを恐れない彼のプレースタイルは奇異な目で見られ始める。だが、彼は貫く。

 

 

続く第二ラウンド。正対している不利な状況下、ファウルでルワンを止める石浜。ここもスライディングであり、ボールに行っているのだが、ルワンの足に行ってしまう。しかし、石浜は少し謝罪をするだけですっと立ち上がり、プレーに戻るだけ。

 

札幌にとってはルワンの突破こそが希望であり、監督は自分の首をかけてルワンに希望を託し、どんどん使ってくる。

 

 

そしてロングボールの零れ球を拾ったルワンと石浜の対決。今度はぶち抜かれた。横にスライドしたダブルタッチと縦なら最悪構わないという彼の油断か。

 

一気に加速するルワンだが、体を寄せる石浜がすぐに戻り、ルワンと競り合いながら彼の先に立ち、ボールを外へと掻き出したのだ。

 

「!?」

 

腕等での接触こそあったが、ルワンの感覚では接触した瞬間に自分より石浜のスピードが上がったと錯覚するような感覚をたたきつけられた。

 

怪物どもに比べて、程々の俊足ではあるが、それでもここで追いつかれるという感覚はなかったはずだ。なのに、一部に上がるだけでレベルが違うことを気づかされたルワン。

 

 

しかも、ノーファウル。ルワンの最大加速に反応した石浜の勝ちだ。

 

 

ボールを置く場所はどこなのか、抜かれた後どうすればいいのか。相手を誘い込む間合いの取り方。覚えることはたくさんあった。

 

それでも、こんな苦しい経験は今までなかった。こんなに未来が待ち遠しい感覚はなかった。

 

自分がいつか、栗澤コーチを彷彿とさせる選手になる。そう思えると、気持ちが大きくなる。

 

「よく止めたぞ、石浜! カウンターのピンチだったのを止めてくれた」

 

「うっす」

 

しかし浮かれない。目の前の選手を超える怪物が世界には存在する。だからこそ、石浜はもっと成長する必要がある。

 

 

プレーに思い切りが出ている石浜は、攻撃面でもシンプルさを見せる。

 

零れ球からのミドルレンジでのシュート。結果は大宇宙となったが、威力のある迫力ある攻撃で完結させた。攻撃を完結させたことで、カウンターによるリスクを消し去ったのだ。

 

 

しかし、徐々にではあるがルワンのスピードと間合いに慣れてきた石浜が後半は札幌の希望でもあった彼のドリブルを封殺。

 

 

攻撃の起点を作ることも出来ず、一方的な波状攻撃を食らい続けた札幌は零封負けの上に大量失点の惨敗。

 

前半13分 逢沢→椿

前半19分 赤﨑前半 ジーノ→堺

後半30分 椿→赤﨑

後半40分 赤﨑→堺

 

赤﨑が左サイドで2ゴールを挙げる活躍を見せる。最後はカウンター時にカバーリングに入った相手選手の裏を狙った堺の動きとリンクし、スルーパス。赤﨑の動きにバリエーションが増える形となった。

 

この試合で得点を荒稼ぎした赤崎は今季の成績を3ゴール2アシストとした。明らかに今までの動きとは違う、チャンスメイカーの色も出始めた赤﨑のプレースタイル。現代のトレンドである、右利きの左サイドアタッカーは、見事にフィットした。

 

そして、波状攻撃の戦術に同じ色を与えないジーノの長短織り交ぜたパスセンスが札幌の対応力を奪い、完全に強者としてのサッカーを確立できたのも大きい。

 

 

しかし、首位大阪Gは崩れない。山形と対戦し、先制ゴールを許したものの、世代別ワールドカップの被害を受けていないためフルコンディションの彼らは戦前から有利だった。

 

畑、窪田らの得点で突き放し、首位をキープ。ベスト故メンバーを揃えることができないETUとの差が如実に表れていた。

 

 

そして、首位大阪、2位ETUを追撃する鹿島ではあったが、下位に沈んでいる広島に完封負けを喫し、首位争いから一歩後退。戦術佐藤によるカウンター戦法がハマった広島は貴重な勝ち点3を獲得する。この試合は日本代表岩淵の退場劇もあり、イエローカード4枚が飛び交う荒い試合となった。なお、累積警告により鹿島は岩淵ら主力の一部選手が次戦出場停止となる。

 

こうなってくると鹿島の背中を追う川崎が浮上を狙うが、若きエース小川不在の磐田が大きく立ちはだかる。完全に戦術をカウンターに切り替えた磐田のセーフティな試合運びに誘導され、前半に失点を許した得点のまま終了。まさかの敗北を喫する。

 

気づけば川崎と磐田の勝ち点差は1となっており、大阪との勝ち点差は13と優勝争いがかなり厳しい立場に追い込まれている。

 

首位争いで1位、2位を追撃する清水は大分と対戦。浦田の活躍もあり、4得点でクリーンシートを達成し、昇格組の大分を圧倒。鹿島が敗れたために暫定3位に浮上する。

 

暫定で4位転落の東京Vは、5位名古屋と対戦。ブラジル人トリオの猛攻に耐えてきたが、後半30分についに失点。名古屋に勝ち点3を許してしまった。

 

 

これにより、3位に名古屋が浮上し、清水は4位転落。ブラジル人トリオの攻撃力は、やはり侮れない。

 

昨年王者の歯車は持田離脱から狂ったのか、中々調子が上向かない。

 

ETUに黒星を与えた甲府は新潟と対戦。しかし前半40分に山田が負傷交代。その結果中島が守備に奔走する時間が増えたことにより、攻撃力が半減してしまう。

 

その間に元イタリア代表FWロアーツのカットインからシュートを許し、こぼれ球を皆川の後頭部で押し込まれ、まさかの形で先制点を許す。

 

その後、コーナーキックの際にロアーツのヘディングシュートを阻んだ甲府ではあったが、クリアボールの先に皆川が立っていたことで、ボールが彼の顔面を強打。至近距離でロングボールの威力を味わい悶絶する皆川ではあったが、そのボールはゴールへと吸い込まれるという珍妙な光景が発生。

 

追加点に喜ぶ新潟の選手と、蹲って悶絶する皆川の絵は微妙なものだった。

 

 

持ってる男の2発で新潟が快勝。甲府は山田の離脱という痛すぎる交代に加え、勝ち点を奪えない散々な結果となった。

 

 

このニュースにより、ETUの副会長が新聞を広げ、気分を良くする。長年苦汁を呑んできた相手なだけに、そういう気持ちが出るのも仕方ないだろう。

 

「名古屋にいる不破が喜んでいると考えたら胸糞悪いが、奴らがこけてくれるのは朗報だよな、兄貴!」

 

会長の永田も。持田の存在が大きかったことを表す結果に対しては肯定するが、

 

「しかし、昨年も彼の離脱は何度かあった。まだまだ油断ならない相手だ」

 

その上で彼らは優勝しているのだ。この離脱も想定していないはずがない。

 

 

しかし、気分を良くしている副会長は止まらない。挙句の果てにはこんな暴言も。

 

「けどよぉ! 金持ちの無様な姿ってのは、気分がいいなぁ、兄貴!」

 

「や、やめんか!! みっともない! そういう貧乏根性は見苦しいぞ!」

 

ほんのちょっと見透かされていた気分になった会長が慌てて諫める。因果応報という言葉もある。今は自分のチームの経営に集中するべきだと何度も心中に言葉を刻む。

 

そして案の定、娘の有里が雷を落とす。

 

「選手はみんな浮ついてプレーしていないわよッ!! フロントの私たちがそんな姿勢でいいの!? こういう時こそ凡事を徹底しなきゃ、後から崩れていくんだから!!」

 

窓の向こう側では、選手がガツガツとプレーをしており、接触プレーで椿と堀田が交錯している場面が垣間見られた。

 

互いに負の感情はなく、プレーに集中し、いずれ来る目の前の試合のための準備に意識は集中している。

 

「それに、青葉君と飛鳥君が世界で頑張っているんだよ!! 私たちも恥ずかしくない姿勢で毎日責任を全うしなくちゃいけないんじゃないの!? そもそも—————!!」

 

軽く2時間ぐらい説教を食らう勢いの副会長。前田副GMのおかげで誤解が解けた会長は30分で許された。

 

 

 

そんな有里の姿を見て、達海は頼もしさを感じていたりする。

 

「あのさ、トシ」

 

「なんだ、達海?」

 

「有里が会長に就任したほうがいいんじゃない?」

 

「!?」

 

いきなりの爆弾発言に、前田の眼鏡がずり落ちる。確かにクラブに対する姿勢、取り組み方は認めるところではあるが、若い彼女にそれは荷が重すぎるのではと。

 

「おいおい。適任者ではあるが、まだまだ猶予は与えるべきだろうに、達海」

 

栗澤がその爆弾発言を諫める。複数の語学能力を有し、交渉も行える。多少金にがめついところはあるが、それも経験だ。

 

しかし、若い有里にそんな重責を背負わせたくない栗澤は、まだ早いよと達海に苦笑いする。

 

「冗談だよ。ま、クリも資質に関しては否定しないんだな」

 

達海も、なんだかんだ前田と栗澤は彼女を認めているんだなと笑みを見せる。その証拠に前田は栗澤の発言に否定の色は見せない。

 

「ハハハ。俺らが入団する前からクラブを見続けてきたんだ。そりゃあこのクラブの文化も歴史も、何もかも知っているんだ。まだまだかなわないよ」

 

あまり意識することではないが、元日本代表の一時代を作った3人が揃っている貴重な光景。記者ならスクープものである。

 

「ハマの奴。変わったな」

 

ぽつりと、達海は栗澤に零す。札幌戦で一番厳しいポジションにいたのは彼だ。そして、彼は逃げなかった。熊田のサポートもあったとはいえ、再出発に向けていいスタートが切れたと考えている達海。

 

「まだまだ、フォアチェックで行き過ぎている。切り方も甘い。斜めを消しながら、ステップを細かくして、それでいて素早く距離を詰める。理想はもっと高い場所にあるんだ。現状で満足しては困る」

 

しかし、栗澤は石浜の出来に満足していない。彼曰く、まだ落第ギリギリの出来だ。あの試合の中島をもし自分が相手にするなら、確実に封殺できる自信がある。フットサルなら完封も余裕な相手だ。

 

もっと凄い怪物たちを相手に、石浜は戦士であり続ける必要がある。彼のプレースタイルは戦士でなくてはならないのだ。

 

「後はクロスだな。クリアボールの処理とか。まあ、あれは視野を広くしたり、前段階の準備とか、味方の位置の確認とか。石浜にはまだ多くは求めない。一度にいっぺんにやらせたら、混乱するだろうし」

 

多くは求めない。一つずつ会得してもらう。石浜がさらに扉をこじ開けるには焦りは禁物だ。

 

 

今も、赤﨑の飛び出しに対し、ファウル無しでボールをスライディングで刈り取る石浜。しかもペナルティエリア内という絶体絶命のピンチでチャレンジしたのだ。

 

体をぶつけてバランスを崩し、加速して抜き去ろうとする赤﨑の動きを予測した石浜の読みの鋭さ。赤﨑と小競り合いになるが、プレーでは物怖じしない石浜。

 

 

村越の仲裁でその場は収まるが、やはり、赤﨑は石浜のプレスに対してやりにくそうだった。

 

——————詰め寄ってきたと思えばパスコースもない。ドリブルで抜くにもその時間も足りない

 

 

熊田のフォローが徹底されていることで、強くタックルに来る石浜の動きは、敵なら厄介だ。だが、自分のクラブの守備力が上がっていることを体感する。

 

—————そうだ。ガツガツプレーしなきゃいけないんすよ。悔しいと思う気持ちが日常でないとダメなんだよ!

 

なぁなぁのプレーで終わらせるつもりはない。ゴールを守る、ゴールを奪う。その二つに直結するプレーで、厳しく自分を追い込む必要がある。

 

 

それは逆サイドの向井も同じだった。椿に対し、強力なフィジカルでバランスを崩し、ボールと体を離れさせる動きで選択肢を狭め、追い込む。

 

—————ドリブルのコースが、ないっ!?

 

そして考えた瞬間にボールを奪われる。パスコースも考えた時間すら許さない。両ボランチで共通して行われるコースのカット。だからこそ、SBの守備がプレッシャーを増す。

 

ボランチ出場が今後増えるジーノも、当初は難色を示していたが、ボールカットからのロングレンジパスという戦術が加わったことで納得。パスコースを切ることならやってもいいと承諾することで、ある意味熊田の圧力よりも相手に恐怖を与えることとなった。

 

パスコースを熟知する彼だからこそ、判断能力に優れ、コースを塞ぐ。相手からしたらコースを斬られるだけでも厄介だろう。

 

スピードを封じる、スピードのある選手を封じる戦術は理想論ではある。しかし、かつて海外で試合を何度か見たことのある達海は、この守備の重要性こそがSBを活かし、現代フットボールの基本になると考えていた。

 

 

—————いつの時代も最先端の戦術が生まれて、廃れる。

 

乗り遅れるわけにはいかないのだ。

 




石浜のプレースタイルが確立。

一条君、無敵のドリブル会得へ人生の大一番を迎える。

赤﨑、青葉不在時に覚醒。

ジーノシステム、試験運用開始。

まとめると、こんな出来事でした。


次回はドイツ戦。青葉は・・・・・
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