騎士見習いの立志伝 ~超常の名乗り~   作:傍観者改め、介入者

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サッカーの話題は、作者にとってこの2ヶ月は辛いものでした。

復調してくれ、半端ないところを見せてくれ。けど、古橋選手の良いところも見たい。

左サイドはとにかく三苫が見たい。仕掛けないウィンガーなんて怖くもなんともないのが現実・・・・・復調した中島も帰ってきてくれ

最後に、決勝点スルーパスはちょっと、考えさせてくれ・・・・森岡を代わりに呼んでくださいお願いします可能性全部見せてください


第八十四話 真・黄金世代

衝撃のドイツ惨敗の凶報。これにより、勝ち点を6に伸ばした日本はグループリーグ突破を確定させることとなった。ウルグアイはメンバーを落としたものの、コートジボワールに2対1と競り勝ち、日本と共に突破を決めており、最終節は互いにダメージを避ける試合展開を望むだろう。

 

グループAはウクライナが2連勝で突破を決めており、ガーナ、ニュージーランド、パナマはほぼ横一線。勝ち点3が重要となるが、最終節がウクライナ戦のパナマは一番厳しい立場に追い込まれてしまった。

 

グループBはエルサルバドルが早々と敗退が決まり、クロアチアが突破を確定。UAE、セネガルが二位突破をかけて最終節に激突する。他グループの結果も気になる両チーム。ワイルドカード争いを回避するのはどちらか。

 

開幕直前まで、グループDと同じく死の組と言われたグループCは死闘の様相を呈していた。突破確実と思われていたブラジルが、初戦スウェーデンに惜敗したオーストラリアに4発粉砕されたのだ。

 

空の王者、ロビエル・オズボーンのヘディング2発に加えてカウンター、ショートカウンターで失った失点。オーストラリアの至宝はこれで今大会4得点と波に乗っている。

 

開幕戦こそブラジルに敗れたメキシコだが、二戦目のスウェーデンに競り勝ち、勝ち点3を獲得。この結果により、グループCは全チーム勝ち点で並ぶ異常事態が発生。死闘は第3戦まで続く。

 

グループEはコスタリカが突破を確定。その背後にポルトガル、チリが激しく2位争いを展開している。カタールは無念の敗退となっている。

 

 

そして3日後、ウルグアイと日本は互いに消耗することを避け、引き分けで勝ち点1を分け合うことになり、日本の1位突破、ウルグアイの2位突破が確定。

最終節、他グループの結果次第とはいえ、勝つしかないドイツとコートジボワールは死闘の末、コートジボワールが逆転勝利。これによりドイツは予選リーグ敗退。コートジボワールは結果待ちとなった。コートジボワールは勝ち点3得失-2となった。

 

グループAでは、先に他会場で行われていたガーナ対ニュージーランドの試合でガーナが勝利したため、2位突破には勝利が絶対条件のパナマ。フルメンバーではないウクライナ相手に苦戦を強いられてしまう。しかし、後半ロスタイムにセットプレーからキーパーのヘディングシュートで先制点をもぎ取り、逆転で2位通過を確定させた。

 

これにより、3位ガーナは勝ち点4、得失0で予選を終えた。

 

 

グループBではクロアチアの突破、エルサルバドルの敗退が決まり、最終節でセネガルとUAEの結果が注目されていた。試合は一進一退の攻防で、勝ち点3が必要なUAEと、引き分け以上で2位通過が決まるセネガルのカウンターという構図となっていた。

 

後半開始直後、ドリブルで駆け上がったUAEのFWがペナルティエリアで倒され、PKを獲得。ダイブではないかと猛抗議するセネガルではあったが判定は覆らない。これをUAEのエース、ファティが沈め、立場が一変。攻めるしかないセネガルではあったが、UAEの粘り強い守備を前に決定機までたどり着くも、ゴールを奪うことができない。逆にUAEがカウンター戦術に振り切ったことで退いて守る屈強なフィジカルを持つ中東のディフェンスが効力を増し、得意の俊敏性を発揮するセネガルと言えど、ドリブルで攻めきれず、ボールロストの危険性すら増していた。

 

 

結局同点ゴールを最後まで決めることが出来ず、無念のタイムアップ。逆転でUAEが2位通過を決め、セネガルは他会場の結果を待つことになった。

 

セネガルは勝ち点3、得失0に終わる。

 

 

激戦必至のグループCでは、最終節まで1位突破2位突破が縺れる大混戦となっていた。

 

スウェーデンと激突したブラジルは17歳のマルコ・アントニオの先制点で追加点を狙っていたが、逆に攻め込まれ、同点ゴールを許すどころか、先制ゴールで勢いに乗っていたマルコが逆起点となり、スウェーデンのカウンターが成立。決勝点を奪われ、勝ち点が零れ落ちてしまった。

 

オーストラリア対メキシコの試合は、セットプレーからオズボーンのヘディングシュートで先制点を奪うと、畳みかけるようにフィジカルサッカーで体格に劣るメキシコに襲い掛かる。徹底したフィジカルサッカーと縦ポンでメキシコにカウンターの機会をほとんど与えず、オーストラリアのMFの豪快なミドルシュートを後半立ち上がりに決められ、万事休す。

 

死のグループで勝ち点3を奪いながら、無念の敗退となったメキシコ。逆にオーストラリアは逆転でグループ1位突破を決め、スウェーデンが逆転でブラジルを抜き去り、2位通過を決めた。ブラジルは他会場の結果に身をゆだねることとなった。

 

ブラジルは勝ち点3、得失-1に終わった。

 

 

グループEはポルトガルがカタールに大勝し、勝ち点を6に積み上げ、2位に浮上。3位転落のチリはコスタリカ相手に勝つしかなくなったが、1対1の引き分けに終わってしまった。

これにより、1位コスタリカ、2位ポルトガル、3位は勝ち点4得失2のチリとなった。

 

 

グループFはノルウェーのFWアレクサンダー・ハーリングの今大会5ゴール目を含む2得点、猛攻をタヒチに仕掛け、勝ち点9で文句なしの突破。

 

ナイジェリアはペルーのカウンター1発に沈み、勝ち点3に沈むこととなった。しかし、タヒチ戦で稼いだ勝ち点がどのように影響するのか。

 

 

これにより、3位通過の得失点差も確定。

 

3位1位 チリ      勝ち点4 得失 2

3位2位 ガーナ     勝ち点4 得失 0

3位3位 ナイジェリア  勝ち点3 得失 1

3位4位 セネガル    勝ち点3 得失 0

 

ブラジル    勝ち点3 得失-1

コートジボワール勝ち点3 得失-2

 

ブラジル、得失点差で僅かに届かず無念の予選敗退。ドイツも予選敗退するなど、波乱に満ちた予選リーグとなった。

 

ベスト16が出そろったことにより、それぞれのトーナメントも確定。日本とは反対側のブロックでは、

 

ウクライナ対UAE、オーストラリア対ウルグアイ、コスタリカ対ペルー、セネガル対ガーナとなっており、それぞれの勝者がベスト8に駒を進めることとなる。

 

 

日本のブロックでは、パナマ対クロアチア、日本対スウェーデン、ポルトガル対ノルウェー、ナイジェリア対チリというカードとなっている。

 

日本はこれから先、まずスウェーデンに勝利すると、パナマとクロアチアの勝者、ベスト4では、恐らく勝ち上がってくるだろう怪物アレキサンダー擁するノルウェーが大きく立ちはだかるだろう。

 

そんな中、大型ボランチ工藤春雄が利用しているホテルの一室に、青葉たちは集結していた。

 

 

「そういや、青葉は現地に家族が来ているんだろ? 会わなくていいのか?」

 

すっかり知人友人の間柄となっている大宮の九鬼とそんな話をしている青葉。確かに初戦から応援に来ているよという連絡は受けている。

 

「今は、勝つことが重要だよ。姉さんがここにきてくれているのは嬉しい。けど、それで力んでしまうのはちょっとね。もし会うのなら、大会が終わってからが妥当だよ」

 

しかし青葉は首を横に振り、今はその時期ではないと断ずる。年下の、一躍ヒーローとなっている最年少選手の堅物ぶりに、九鬼は苦笑いする。

 

「ははっ、この堅物め。次も期待したくなるじゃんか!」

 

苦笑いをしている工藤だが、それでも青葉の冷静ぶりは群を抜いている。グループリーグで主役級の活躍をして少しは浮かれていると思ったが、そんなそぶりは見せない。そもそも、そんな感情すら持っていないことに戦慄を覚えるほどだ。

 

「しかし、それが青葉の信念だからな。今更変えられるものではないし、むしろ頼もしいまである」

 

九鬼は、いったん青葉との他愛のない話を切ると、これから先の戦術面に関する課題を挙げていく。

 

 

「まず思ったのが、相手のフォワードが意外とポジショナルなプレーが足りていないことに助かったよね。フィジカルに圧倒されたけど、初戦はそれほどでもなかったし」

 

 

「ああ。戦術的な共有が未熟だったのが幸いだったね。ムニエルのクロスには大分苦しめられたけど」

 

ムニエルは確かに良い選手だった。あれは自分のパスに自信を持っている。だからこそ、日本が最大限警戒したのはこの選手であり、九鬼はそれに対応できた。工藤も、ベンチから見てコートジボワールはパワフルだが、ポジショナルプレーは未熟と判断していた。例外は存在していたが。

 

 

「——————堂本が言っている前からの守備。ラインを上げて相手をゴールから遠ざけることが出来れば、攻撃力も上がるし、プレスも間延びしなくなる。運動量勝負なら、日本だって世界に劣らない」

 

飛鳥が先発するしないではそれが顕著に表れる。チーム方針でラインを高く設定するETUと同じ、普段のプレーを求められている飛鳥は違和感なく適応できているだろう。しかし、他はレギュラーに抜擢されるほどの力を見せられない、3部のBチームで戦術共有が未熟な有望な選手たち。

 

「それに、やはりまだ西野さんのサッカーにみんながついていっていない。サイドから攻撃を組み立てろという指示に対し、サイド一辺倒になったり、中央から組み立てろと言われると、中央で狭い場所を強引に通したり———————」

 

飛鳥でさえも、まだその戦術を完全に実践しているわけではない。工藤曰く、後ろが重たいという感覚を感じたという。それゆえに、それぞれの局面で体力を必要以上に消耗していると。

 

「幕張も他のSBもボランチにもっと要求していいはずなんだがな。未だと二列目とSBの連携に限定されてしまうし、榎本も窮屈そうにプレーしている」

 

SBに流れたボールを自力で守り、且つ前に運ぶことを強いられている。これではサイドの疲労は必要以上に重くなる。

 

しかし、すでにJ3で別格の存在感を見せている工藤は違う。積極的に下りてきて相手を背負うプレーを得意とする。

 

徹底してSBの援護を行っている。どことなく、コンビネーションの所で伸び代があるように思える。

 

そんな工藤も、九鬼に接触をし始め、この場にいる。

 

「カットインの時もスペースがないと成功率は下がるだろうし、SBのサイドチェンジも、もっとスペースがあればと思うぜ。ポジションを開けて、味方にスペースを与える。ライモン監督は、暇さえあれば動画投稿サイトで戦術を見てきてはとりあえず試してくるから。こういうのは容赦なく下に落としてくるんだよな」

 

上手くいかないことは多いらしいが、それでもLJ3部岐阜ストライダーズのライモン監督は、多くの情報と作戦、戦術を選手たちに与える。

 

「何それ面白そうじゃないか! いろいろ情報通でとりあえず練習や試合で試すのは。ピッチで判断するのは俺らだし、そういう幅を与えてくれる監督はいいな」

 

九鬼としては、トレンドを積極的に落とし込み、成功か不発かは置いといて、チャレンジする姿勢は大いに評価できる。

 

だからこそ、根本の戦術が不定でも、選手たちが自分で考え即興で連携を組み立て、戦略的には苦戦を強いられても、球際の限定的な局面では大いに役立っている。

 

よく言えば臨機応変で自由主義、悪く言えば選手任せ。その評価は結果で覆る。

 

「—————次の試合に活かせるアイディアもあるかな」

 

膨大な情報を常に集めるライモン監督の教えを受け、フットボールを学問する工藤春雄と、サイドでのプレーを攻守において高いレベルで完成させた九鬼鉄心。

 

トップリーグだけではない。自分の野望の為に、自主的に戦術とプレーの幅を追い求めている探究者たちとの邂逅は、青葉にさらなる刺激を与える。

 

そして、それまで聞き手になっていた秋本と鷹匠。鷹匠の方は、戦術的な問題でいろいろ話を聞いていたが、明確な意見がない中沈黙を続ける。

 

秋本は、その途中で口を開く。

 

「やはり、現代のトレンドはFWの守備が重要だ。後ろでの球際の強さも無論必要だが、プレーエリアの奪い合いが重要だな。ここまで戦術化されると、陣地の奪い合い、まるで囲碁をしている気分だ」

 

如何にスペースを開けたり、パスコースを増やしたり、相手を誘導したり。攻撃の選手が現代化される程、守備の重要性は増してくると感じた。

 

「尤も、その碁石は動く。極限まで相手を誘い込んだり、ショートカウンターで圧倒したり。原点回帰の4-2-2-2とか」

 

 

まさにノルウェーがそれだ。日本が苦手としている南米に対して、伝統的に優勢ではあったが、近年では南米キラーとしての地位をより盤石なものとしている。

 

フル代表の2トップにはアレキサンダー・ハーリングと、ディミトリ・ヴィ・サンドロッソ。共に高い身長とフィジカルを持ち合わせ、ST、CFWとしての適性も高い。前線にキープ力のあるアタッカーが中央でポジションチェンジするのが特徴の一つでもある北欧の雄は、それに加えて屈強なサイドアタッカーを配置している。

 

圧倒的なまでの中央攻撃。事実、フル代表での親善試合で、ブラジルはその圧倒的なフィジカルの前に敗北し、メキシコは十八番であるカウンターを発動できずに夢スコアで惨敗している。

 

ドリブラーのアジリティを嘲笑う、守備範囲。それは、小柄なドリブラーの3歩を一歩で無に帰す巨壁。当然、フィジカルに劣る日本にとっても潜在的な天敵である。

 

スウェーデン、オーストラリア、ノルウェーを筆頭とする現代フットボールに適応したパワーサッカー。技術の最先端を往く強豪に牙をむく新勢力は、先ほどの秋本が主張した陣地合戦において強力な切り札、球際での圧倒的な勝率の高さが背景にある。

 

 

スペインが独自の戦術を持ち、フランスがアンチフットボールを志向し、ブラジルは個人技に特化し——————

 

世界の動きに対し、日本は今岐路に立っている。それは過去、現在、未来において永遠に突きつけられる立場を思い至らせる契機である。

 

 

だが、個の力で劣るのならと、工夫を凝らしている国も存在する。

 

それが中東の勢力だった。豊富な資金をバックに優秀なスタッフを引き抜き、若年層からの徹底的な教育が施されている。従来の4バックに固執し、3バックがもつサイド攻撃への脆弱性、5バックの攻め手に欠ける守備的な戦術から脱却し、新たなポゼッションサッカーとプレス回避に主眼を置いた戦術が構築されつつある。

 

その筆頭はカタールであり、UAE。その背後を追いかけるサウジアラビア。

 

カタールは最も速く、変則5バックに戦術をシフトしているのだ。カタールは最終ラインにて変則5バックでポゼッションを維持し、数的優位を作り出してビルドアップを確実に遂行する。

 

これにより、カタールは国家としての戦術を獲得した。しかし、この年代別の大会では実力を発揮しきれず敗退している。一方、UAEは4バックを採用し現代の流行しているサッカーを志向している。サウジアラビアは、奇しくも達海サッカーと酷似した戦術を取り入れている。

 

だが、国家が最先端の技術に触れる中、個人レベルでは様々な戦術が生み出されているのだ。

 

 

そこにはここで戦術について対策を練る九鬼たちが知る由もない異形にして革新的な戦術の数々が。

 

—————世界は、日本が考えている以上に進んでいる。片手間で相手にできる存在じゃない。

 

むしろ、リーグ戦の相手よりも厄介だ。

 

 

数日と迫る日本とスウェーデンの試合。青葉は、国内のリーグ戦の状況について悩むことをいったん忘れ、目の前の試合に集中する意識をさらに固める。正直なところ、青葉にはそれを気にする余力を持つ気にはなれなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

だが、青葉にその出番は訪れなかった。

 

 

 

スウェーデンとの試合では、右サイドで堂本が先発。長らくスランプに陥っていた石渡が調子を取り戻し、日本は怪物の合流前の姿を取り戻していた。

 

 

相手は長身、フィジカルにストロングポイントを持つスウェーデンではあったが、グループリーグでの激戦の影響か、その動きが鈍い。

 

一方、ローテーションに加え、グループリーグ最終戦が消化試合となった日本は、スウェーデンに比べて理不尽と言えるほど万全のコンディションを維持しており、戦前から試合は決しているかのような雰囲気だった。

 

 

前半、石渡のキラーパスがさく裂し、トップ起用の秋本がダイレクトに落とし、左サイド九鬼がダイレクトでフライスルーパス。

 

 

右サイドハーフのレギュラー争いで、最大のライバルとなっている堂本が、そのラストパスに反応していた。

 

このプレーで圧巻だったのは、速い球足の縦パスをダイレクトで落し、かつ正確なポストプレーを実行した秋本の空間認識能力と足元の上手さ。

 

左サイドの九鬼はフライスルーパスをあげるだけでよく、ゴール前でのダイレクトプレーでマークを剥がされたスウェーデンに為す術はなかったのだ。

 

 

『ワンタッチ、ふわりと浮かして、堂本だぁァァァ!!! 日本先制!! やはりエースが決めました!! 前半30分!! 攻めあぐねていましたが日本!! まずは先手を取りました!!』

 

『バイタルエリアであれだけダイレクトプレーが続けば、崩れますね! 秋本選手は縦パスが入る前にイメージしていましたね』

 

宮水の目から見てもそうだ。しきりに首を振り、味方と相手選手の位置を確認し、ゆっくりとゴール前へと忍び寄っていた。これが、二列目を生かすポストプレー。

 

何か、この大会でつかんだものを感じさせる秋本のプレーが止まらない。そして、二列目を生かす彼の調子が上向けば、二列目の攻撃力も当然上がる。

 

——————リーグ戦に戻った後の、横浜の試合は一層手強くなるな。

 

二列目を活かしつつ、自身の決定力も衰えない、むしろ鋭さを増す存在感。国際試合という大舞台で、秋本は尋常ではない成長スピードを見せつけている。

 

 

「———————————」

 

青葉の隣では、真剣な表情で戦況を見つめる小川選手。彼もまた、九鬼選手とレギュラー争いをしていた選手だ。しかし、今大会ではまだ1ゴール。ブレイクしたとは言い難い。むしろ、世界の壁に跳ね返されている現状だ。

 

青葉もまた、今まで経験したことがない感覚を感じていた。

 

——————今まで、こんな経験はなかったな

 

自分が不調になっていた時は、当然レギュラーから外れるのはわかっていた。だが、自分の調子もまずまずで、高いレベルでスタメン争いを繰り広げた経験はあまりなかった。

 

そうだ。青葉は全てのレギュラー争いを戦う前から終わらせていた。その化け物染みた能力とプレーで、それを許さなかったのだ。

 

「———————よく見える。みんないい距離感だ。ここの場所だとそれがよくわかる」

 

日本は優勢に試合を進めていた。ターンオーバーも決まり、攻撃の核となる右サイドでは、堂本と宮水、二人を交互に使える余裕があった。

 

青葉召集前では決してあり得なかった未来だろう。だから、青葉の招集は若き日本代表の未来を変えた。

 

グループリーグ突破後に力尽きる、そんないつもの躍進の最期ではなく、その先に進む。

 

「——————青葉は、お前はどこまで行くんだ?」

隣にいた小川が尋ねる。泰然としてベンチに座り、仲間を信じて座している青葉に。

 

「——————そういう問いは、よく聞くね。俺はいつも、どこまでも、と言うよ」

 

変わらない。世界の大舞台であろうと、日本のリーグ戦であっても。青葉のやることは変わらない。サッカーをするだけなのだ。

 

「———————俺は、この大会で世界の壁を知った。俺の間合いは、世界では通用しなかった。だが、必ず自分自身をレベルアップさせなければならないんだ」

 

初ゴールを決めたのはグループリーグ第2戦目のドイツ戦。しかも、試合の流れが決まった後の時間帯だった。小川はもっとやれると己惚れてはないが、もっとやらなければと感じていた。

 

「——————お前や堂本、一部の選手は、世界の選手とも対等に戦えるようになった。だが、お前はまだ足りないというんだな」

 

ドイツを圧倒した青葉は、日本の課題と、次に進むべき未来を考えていた。世界をとるためには、まだ足りない。

 

—————駆が至った、ゾーンという領域。通常の状態ではなく、ゾーンを掛け合わせることで、高度な連携による攻防一体の戦術が必要なんだ

 

 

「———————個人の力が高まったからこそ、連携はより重要になってくる。1+1を、2にも3にも変える。デュエルで勝つというのはもう、世界の常識で、これからは、それにこれらのことを織り交ぜてくるんだと思う。」

 

 

「———————そうだな。かつて日本が掲げて、デュエルに勝てない俺たちが志したもの。それが今、必要になるっていうのは、成長を感じるとともにどこか複雑な感情を捨てることができないな」

 

小川は、そこまで先のことを考えている青葉に感心するが、次の発言で彼の闇を垣間見ることになった。

 

 

「————————だが、その戦術に今の俺ではついていけない。今のままでは、たぶん、ダメなんだろうと思う」

 

青葉自身が否定する、新たな戦術への適応の失敗を示唆する未来。今大会でも究極の個を持つ彼が、その可能性を否定したのだ。

 

「———————おいおい。お前が至れないなら、誰が至れるんだよ。その旗振り役だって必要だろうよ」

 

「———————俺を最大限活かせる司令塔のイメージが、フル代表のメンバーを含めて存在しない。いや、例外は“一人”だけかな」

 

青葉の欲しいタイミングでボールは来ない。いつも青葉が待っているような状態だ。メンタルに左右され、バランスをとりたがる駆では物足りない。

 

石渡も足元の上手さは認めるが、それだけだ。怖さがない。同じチームのジーノは守備力の強度不足から、信用はしても信頼までは至らない。

 

荒木も、まだプロの舞台でやるにはフィジカル不足がはなはだしい。

 

もう“現役ではない二人”をイメージしたが、それは仕方のないことだ。

 

「———————お前はビッグマウスな発言はしないイメージだったと思っていたんだが。やけに辛辣だな」

 

小川も、同世代含めてほとんどいないと言い切る青葉の物言いに苦笑いするしかない。だが、それぐらいの高いレベルを要求するほど、日本と世界の差は大きいのだと痛感する。

 

「それぐらい。古い司令塔のイメージから、日本は脱却できていないんだよ。そこにいるだけで試合を支配するような存在感と、何気ないプレーで致命的な一撃を演出する胆力。古臭い司令塔を気取るなら、それぐらいの演出をしてもらわないと」

 

 

「———————ジーノは遠慮なしのパスを放るけど、ボールキープにおいては物足りない。だから、持田さんぐらいだよ。今の日本の司令塔を名乗れるのは」

 

どことなく達海猛を連想させる存在感。度重なるケガから復活するも、その儚さがどうしようもなく監督と重なる。

 

一瞬に、その試合にすべてをかける。ボールへの執着心。

 

「——————不死鳥、持田蓮か。なんでかな、本当に。あの人も、タイミングがなぁ」

 

小川は、最後まで青葉の言葉が離れなかった。

 

 

 

試合の方は、後半に榎本が2本のフリーキックを直接叩き込み、スウェーデンに快勝。やはり反則的な飛び道具の威力はすさまじいのか、為す術無しといったところだった。

 

もし、バイタル、中央の危険なエリアでファウルを犯してしまえば、距離、角度によっては1点を献上するほどに、榎本の左足は脅威だったのだ。

 

榎本はこれで3点目。その全てがフリーキックというのだからその精度はすさまじい。

 

 

 

 

そんな若き日本代表の躍進は、新聞やネット記事となって世界に拡散していく。世界大会が開催されていても、日本のリーグジャパンの針は進んでいく。

 

神戸戦を控えたETUの前に、吉報と言えばいいのか、それとも悲報と言えばいいのか。ある特大のニュースが飛び込んできたのだ。

 

 

少し時間が進み、ベスト4をかけた日本対クロアチアの試合で、青葉の2試合連続となるハットトリックを含む大量得点で圧勝したとのことだ。

 

———————英雄か、それとも怪物か。超常現象、本領発揮…‥

 

——————前半だけで2ゴール。強烈な日本の太陽が、クロアチアの勝機を焼き尽くす

 

—————驚異のドリブル…‥ドリブル回数25回、驚異の成功率100%

 

スタッツという選手の実力を推し量るデータが明るみになるにつれ、想像を絶する数値をたたき出す青葉の活躍は、かつての元祖超常現象が現れた時のインパクトを、正真正銘世界に刻み付けているかのようだった。

 

なお、スコアは6対1であった。

 

 

「うわっ、ついにハットトリック決めたよ、と思っていたら、次の試合でまた爆発とか」

 

赤﨑は、その記事を読んで神妙な顔になっていた。赤﨑は今シーズンから左サイドが主戦場になる方針転換もあり、練習でのコンディションも良好。神戸戦では間違いなくスタメンだろう。

 

「———————しかも、右サイドでカットイン連発だもんな。シュートシーンは全部相手振り切られていたし」

 

赤﨑の隣で記事を見ていたのは世良だった。驚異的な回復力で、当初の予想よりも早くに練習に復帰した彼は、次の試合ベンチスタートが濃厚。帰ってきた、頼れる若きエースの復帰は、神戸戦の次に行われる鹿島戦で重要になってくるだろう。

 

本職の右サイドで躍動する黄金ルーキーは、世界で結果を出している。復帰した自分も次の試合こそはといいモチベーションを持っている。

 

「有里ちゃんたちも、今頃は電話応対で手一杯なんだろうな。コシさんもたまらず電話応対する始末だし‥‥‥」

 

村越だけではない。あまりそういうのが好きではないコーチ陣もかり出され、練習に支障が起きかねないほどETUのクラブはパンク寸前だったのだ。

 

 

「‥‥‥はぁ、疲れた。もう二度と電話係なんてしねぇぇ‥‥‥」

 

そこへ、達海監督と栗澤コーチ兼スカウト、前田副GM、後藤GMが疲れ切った表情で出てきたのだ。元日本代表3トリオと、GMのそんな姿を見ると、激闘だったことがうかがえる。

 

「まあ、いつか3点取るだろうなとあいつの調子を見ていたら、予想はしていたけど‥‥まさか2試合連発っていうのは予測できんだろうよ」

 

栗澤は、乾いて笑い声を漏らしていた。そんなん予想できるかと。

 

「ドイツ戦がフロックではない証拠にもなったわけだが、素人でもその貴重な決定力は理解できるってことだ。ははは、俺、午後を迎える前に初めて100件以上電話したんだけど…‥」

 

前田は、職務上電話応対には慣れているところもあったが、まさかここまで移籍や選手についての情報を求められるとは思っていなかった。

 

「有里ちゃんや奥さん連中はメール対応で業務がやばい状態だろ? 未読メールの行数を見て俺、目が点になったぜ。なぁ、100件超えるって、結構あるの?」

 

 

「…‥‥ねぇよ、日常的にそんなんになったら今の人員で回せる力はねぇよ」

天を仰ぐ前田。

 

 

「次の試合は中2日ではあるが、追い風が吹いているのも事実だよなぁ。これ、ファイナル行くんじゃない?」

 

 

ノルウェーはチリ相手に延長戦を戦い抜き、最後はPK戦までもつれ込んだのだ。ディミトリの方は延長後半に肉離れを起こして負傷退場。アーリングが一人気を吐いているような始末だった。それに対して、チリはノルウェーのセンターアタックを警戒していた。ポストプレーを徹底的に阻止する布陣によってブロックを敷き、アーリングが何度も潰され、得点力は減少。逆にカウンターの狙い所にされていたのだ。

 

パワープレーによる攻撃に移ったが、こぼれ球に対する反応速度で小回りの利くチリの選手がノルウェーを圧倒。試合内容はチリが勝っていたと言っても過言ではない。

 

 

グループリーグでは猛威を振るった攻撃力がトーナメントでは鳴りを潜めてしまったのだ。反対ブロックではオーストラリアを下したウクライナが勝ち上がり、コスタリカが2試合連続の延長戦を制して勝ち進んでいる。

 

サッカーの最前線を走っていた欧州内での覇権交代、転換期。南米もそのチャンスを活かし切れない中、ノーマークだった極東の雄が、名乗りをあげようとしている。

 

 

かつて南米で生まれた怪物を手に入れた、サッカー大国と同じように。

 

 

 





この小説の西野監督は、現実の人物とは関係ないです。

そんな監督の下、調子好調でもフルベンという経験を得た青葉。右サイドのライバル争いに勝利し、ファイナルに進む必要があります。

しかし、歴代でもこれだけ世代に集中するのは異例だと思いました。

飛び道具最強の名手

右サイドの切り札2枚。右SBも質が〇

CBに有望株。

左サイドは守備強度コンクリ並みのドリブラー。

度胸満点のストライカーに、一列目の攻撃力を倍増させるポストプレーヤー

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