騎士見習いの立志伝 ~超常の名乗り~   作:傍観者改め、介入者

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疑惑の判定ですが、勝ててよかったですね・・・・オマーン戦・・・

キーパーさん凄すぎ・・・


第四話 代表決定戦 後編

尚も、青葉が真ん中にいる効果が増す。

 

前半開始から得点機以外はまともに前に出すこともできていない江ノ島SC。真ん中の青葉の動きに合わせ、パスコースを限定させるやり方でロングボール以外の攻め手を欠く。

 

「うわっ!」

 

ロングボールを出そうにも、堀川が高瀬に倒されファウル。重心を低く、じりじりと彼のポジションをどかそうとする彼を、手で押してしまったのだ。

 

イエローカードこそ出なかったが、これで高瀬は体格に劣る選手であろうと油断できない状況に陥った。

 

「にししし………」

倒されながらも、してやったりな笑みを見せる堀川。無理に勝とうとする必要はない。そもそも勝算のない空中戦。

 

ならば地上戦で仕掛けるしかない。重心の高い選手をぐらつかせることは、簡単にできる。背が低ければ、必然的に重心は低くなる。

 

ゆえに――――――

 

続けてのロングボール。高瀬がポストプレーで落とすも――――――

 

 

「セカンドボール!! 追いつけます、浜さん!!」

 

鋭い声とともに青葉がDMFに指示を出す。声で指示を受けた浜が難なくセカンドボールをキープ。プレスに着た沢村をワンタッチパスでさばき、

 

中盤の青葉にボールが渡る。

 

 

「次は行かせん!!」

 

後ろから今度は織田と坂本のダブルチーム。まずはボールへと果敢にタックルを仕掛ける坂本だが―――――

 

 

「か、はっ――――!?」

 

タックルでボールを奪おうとしたにもかかわらず、加速しているのではないかと錯覚するほどの衝撃が坂本を襲う。

 

笛はない。足元からぐらつく坂本はファウルをアピールしたが、青葉はそれに該当することをしていない。

 

 

対して、青葉の方は手を使って坂本を進行方向に活かせないようにしていたものの、その衝撃を生み出したのは手ではない。

 

 

―――――体格に劣るはずの宮水が、坂本を吹き飛ばした!? 

 

いったいどんな手品を使ったのか。先に近づいていた坂本のタックルを跳ね返し、加速する青葉は一気にトップスピードに乗った。

 

セカンドボールをひたすらに拾う戦術がここに来て仇となる。その際にカウンターを武器としていながらセカンドボールを狙う選手を増やし過ぎていた。

 

当然ディフェンスラインは高くなっている。さらに言えば、本来ボールを奪う予定だったDMFの列で青葉がボールキープすることで、江ノ島SCは反撃の機会を奪われている。

 

 

対処するのはもはやCBとGKのみ――――――

 

 

「ドリブルで切り込ませるな!! ブロック作れ!!」

 

 

「ゴール前固めろ!! 9番と11番マーク!!」

 

火野と逢沢の動きも警戒しなければならない江ノ島SC。キーパーを除き、3対3の状況。

 

 

前に出てこない相手を前に、青葉が選択するのはただ一つだった。

 

 

 

2つのコースが空き、それは火野と逢沢がおぜん立てしたコース。低い弾道にして球足の速いミドルシュートが左隅に襲い掛かる。

 

「くっ!!!」

 

キーパーの藤堂が手を伸ばすもボールには届かず――――――

 

 

ガンっ!!!

 

そのシュートはゴールポストに強く跳ね返り、ラインを割るのだった。

 

「――――――っ」

あと数センチの誤差を修正できなかった青葉は悔しそうな顔をする。強烈な左足は江ノ島SCのゴールに襲い掛かり、あと少しで勝ち越しを決める逆転ゴールとなっていた。

 

 

「惜しい惜しい!! ナイスシュート、青葉!」

切り替えていけと兵藤が青葉に声をかける。ここまで敵陣で自由自在なプレーができること自体凄いことだ。

 

 

ドリブルで駆け上がり、そのままシュート。まるでアニメの世界のような獅子奮迅の活躍。さらには同点アシストを演出する華麗なヒールパス。

 

 

彼一人が加入することで、まったく違うチームに変貌した。

 

「あと少しだったんですけどね。やはりサッカーは甘くないです」

 

その後も前半は江ノ島FCペースで続き、SCはカウンターやロングボールといった戦術を強いられることになる。

 

 

1対1の同点とは言え、勢いは江ノ島FCにある。

 

 

前半35分。

 

ロングボールを迂闊に出せなくなった織田は、沢村、坂本の中盤に加え、サイドの八雲へとボールを回すことで手いっぱいとなっていた。

 

中盤ではゾーンディフェンスをしつつ、虎視眈々とボールカットのスキを窺う青葉の姿。

 

かといって前線に一気にロングボールを出してもキーパーの紅林は高瀬をマークしている。

 

「―――――っ」

 

その時、ものすごい勢いで青葉がプレスをかけに来たことを見てしまう。周囲を広く見ようとしていた織田のスキを突いた、青葉の左斜めからの猛チャージ。中央のパスコースを塞ぎながら、こちらに迫ってくる。

 

 

たまらずサイドへとボールを流すが、

 

「貰いッ!!」

 

ここまでフィジカルに押し負けていた的場がボールをカット。一転してカウンターのチャンスとなる。

 

 

――――しまったっ

 

的場は華麗な足技を使うまでもなく、動揺した八雲をワントラップで躱す。

 

 

左サイドで有利な状況を作り出した江ノ島FCが一気に攻勢に出る。

 

「ボールを奪いましたよ、的場君!」

美島も上手く回り込んでいた的場をほめる。

 

「さすがにセンスのある動きをしているわ。あの子。」

颯も、これまでいいところがなかったテクニシャンの活躍に、笑顔である。

 

「―――――え、ええ。本当に。流れが一気に変わりましたね」

 

――――違う。今のは“全員”が誘導されていた。

 

岩城だけは違う視点だった。このボールカットは青葉が誘発させたものだ。

 

トップ下宮水がここまでハマるとは考えていなかった岩城。彼の希望するポジションはサイド。しかし、運動量とテクニック、さらにはスピードすら兼ね備えている。

 

往年の司令塔タイプとは違う、現代フットボールに適応した新しい司令塔の姿。

 

真ん中というポジションで、ゾーンディフェンスを徹底して相手のパスコースを塞ぎ、味方のボールカットを誘発する。

 

文字通り、ピッチの上の要。

 

 

サイドを完全に攻略した的場のドリブルに反応したのはFW2枚。

 

火野と逢沢は真ん中にてクロスボールに対応するため動き出しを図っている。

 

――――この距離、このプレッシャーのない状況なら

 

 

駆と目が合った的場。相手はフィジカルで勝る江ノ島SCのディフェンス陣。

 

駆の選択肢は、初めから一つだった。

 

 

低い弾道のクロスボールを選択した的場。鋭いクロスはファーに広がった火野ではなく、

 

 

「そこだぁぁぁ!!!!」

 

 

ニアに飛び込んだ駆が不動のマークを振り切って飛び込んできた。駆は的場とアイコンタクトをした時から意図的にニアのスペースを見ており、そのスペースを開ける為にひたすら真ん中付近で小刻みな動き出しを図っていた。

 

 

不意を衝かれたディフェンス陣は急激な彼の加速に追いつけず、振り切られた。

 

 

1対1の局面を決めてこそ、エースストライカー。

 

 

駆のボールのコースを変えたヘディングシュートがゴールに飛び込み、これで一気に逆転。

 

「――――――!!!!!」

これにはさすがの近藤も絶句。立て続けに失点し、立ち直る機会すら許さない、怒涛の攻撃。しかも波状攻撃のような断続的なものではなく、

 

確実に息の根を止める攻撃が、確実に突き刺さっていた。

 

 

――――真ん中に彼がいるだけでここまで変わるのか。

 

 

その機動力を生かした攻撃と守備力。

 

 

汗をかくことをいとわない司令塔の存在は、ここまでチームを変貌させるのかと。

 

そして禁止していた5秒以上の長いドリブルが、ここまで効果的だと、認めざるを得ない。

 

 

前半はこのまま得点に変動はなく、2対1で江ノ島FCが1点リードで折り返すことになる。

 

「すげぇぇな、青葉! あんなにドリブルで前に進めるなんてさ!」

2年生の桜井からは、賞賛の声を浴びる青葉。

 

「相手がリトリートしてきてくれるので、前にスペースが空いているので。これがフォアチェックなら少し考えないといけませんが」

 

リトリート型のディフェンスのままでは、青葉に嬲り殺しにされる。まさに弱者のサッカーをする相手にとっては天敵といってもいい。

 

そして、彼は個の力においても高いレベルを誇り、守備力に優れているはずの織田ら実力者を翻弄し、中盤を支配し続けている。

 

「火野君は常にゴール前で前を向けるポジションを取り続けてください。逢沢君は折を見てラインの裏への飛び出し。二列目は常にフォワードを先に見てください。いいですね」

 

岩城も、さらに攻勢にでられるチャンスと踏んでいた。大きく歴史が動く。

 

――――ここに荒木君がいないのは残念ですが――――

 

スリムな体系になって観客席の中に彼がいるのは途中で分かった。しかし彼は動かない。

 

何かを意図しているのだとわかる。しかし、彼が真ん中で、サイドに青葉がいることで、このチームはさらに―――――

 

しかし途中でその考えを否定する。今は、荒木を頼る局面ではない。試合後に、その後に、彼を温かく迎え入れる。それが自分の務めだ。

 

「守備陣もパスコースを限定する中盤の守備に連動して、ロングボール警戒を怠らないでください」

 

 

後半もリトリートで来ると思われていたが、前に出なければ前半の二の舞だと考えたのだろう。

 

フォアチェックでポゼッションを高めようとしてきたSC。しかし―――――

 

 

「くっ!」

 

沢村がマッチアップに入るが、ロールしながら左右の揺さぶりをかけて余裕を感じさせる青葉に飛び込めない。抜かれた瞬間にピンチになるという状況を察知し、積極的なプレスに行けない。

 

 

しかし、左右への揺さぶりに耐え抜いた沢村は青葉を下がらせ、ゴールに背を向けた姿勢に追い込むことに成功。

 

跨ぎを入れる青葉。右足の動作から先ほどは右のアウトサイドでロールしながら織田から距離を取ったが、今度はどうなるのか。

 

―――――とにかく奴をつぶせばカウンターだ。

 

沢村を背にして青葉は彼の動きを見ている。先ほどから一瞬たりとも視線を外さない。

 

そして―――――

 

トンっ

 

フォアチェックでつり出されていたSCのディフェンスをしり目に中に絞ってきた兵藤が青葉のスルーパスに反応。スピードに乗った彼が一気にバイタルエリアへと殺到する。

 

「これ以上好きにさせるな!!」

 

織田が兵藤のスピードを止める。たまらず兵藤は揺さぶりをかけるがそれに動じない織田。

 

「くっ」

 

折角のリズムが乱れてしまったと渋い表情をする兵藤。

 

「ボール寄こせ!! 」

 

ここで、あまり目立っていなかった火野が前線から下がってボールを要求。敵を背負いながらもパスコースは開いている。

 

「頼む!!」

兵藤から火野への縦パスでスイッチが入る江ノ島FCの攻撃。その火野には前線から沢村と坂本を振り切った青葉が走りこんでいる。

 

 

「!!! ミドル来るぞ!!」

先ほどの失敗を取り返すミドルシュートを警戒する海王寺と不動。そして逢沢の裏抜けを警戒する若村。

 

―――――これ以上1年生にゴール前を好きにさせるわけには―――――

 

 

ダイレクトシュート。あれほどうまい選手ならばそれをやってくる可能性もあると考えた海王寺だが、ここで前に飛び出さない。

 

「―――――っ」

一瞬だけ歪んだ表情を見せた青葉。トラップして今度は跨ぎフェイントによるドリブル突破を図る彼に対し、海王寺が詰める。

 

連続シザース。跨ぎ系のフェイントの中でもそこそこ有名な技の一つ。しかしその技で青葉は海王寺を抜くことが出来ず、ゴール前への突破を阻まれる。が、減速しつつも右へと流れていく青葉の速度は未だ侮れない。

 

――――フェイントを使うことしかできないのか!!

 

しかし、その横への鋭い動きは海王寺を大きく移動させ、逢沢のランニングゾーンをわずかだが生じさせていた。

 

しかし、若村が逢沢をケア。競り合いでボールの奪い合いは若干若村が有利か。

 

――――しかし、パスを出させて万が一というのも――――

 

だが、端から青葉は逢沢にパスを出す気はなかった。じっくりと海王寺を見つめる青葉。海王寺ではない何かを見つめるその瞳は何を映すか。

 

————奴が見ているのは何だ? 俺なのか、それとももっと何か—————

 

海王寺の思考は中断される。青葉が仕掛けたのだ。

 

 

右足のアウトサイドでボールをけり、細かくタッチ。そしてトラップミスに見える最後のタッチ。

 

—————ここだ!

 

少ない確率だった青葉のミス。トラップが大きく見えたそれに反応する海王寺。

 

 

大きく踏み出した青葉の右足が見える。そしてボールをトラップして静止したのだ。

 

 

 

――――クライフターン!! ここで左か!

 

海王寺は決断した。この技は先ほど織田を抜いたフェイント。逢沢とのワンツー狙いだと。

 

 

「―――――あっ」

 

 

青葉ならば、ここで左へと加速していくのではないかと考えた。逢沢は若村に潰されかけているとはいえ、左にいるのだ。

 

あの逢沢をうまく利用して、ワンツー抜け出し、その他のコンビネーションも考えられた。

 

 

大きく転がしたボールに目が入っていた海王寺は、青葉が背中を見せながら体の向きを変えているのを見ていることしかできない。

 

右足にあったボールは、まるで最初から左足でトラップしたかのような鮮やかなターンで転がっていく。

 

 

—————クライフターンの派生技

 

 

切り返しを警戒した相手の重心をあざ笑う、シングルルーレットにも似た弐の式。ブレーキしたかのように見えて、していなかった青葉の加速力は、今の海王寺には致命傷だった。

 

 

しかし、見ている者は”そこ”にしか目がいかない。青葉が何を見ていたのかを知り得る者は、この空間にはいなかった。

 

 

左への突破を許してしまったディフェンス陣。キーパーと青葉の1対1の勝負――――

 

 

「ちく、しょう―————」

揺れるゴールネットと、大きく弾んだボール。藤堂の前に、現実がつきつけられる。

 

 

「―――――」

全てが理想通りで、最後は冷静に叩き込んだ青葉。ニアサイドを撃ち抜いた強烈なシュートは、キーパーにまともな反応を許さなかった。

 

スッ、

 

人差し指を立て、天に向けて伸ばす青葉の姿に、観客は声援を送る。

 

 

 

この得点で、試合は一気に傾いた。後半からはポゼッションを優位に進め、シュート本数は15本を超える。

 

 

青葉のドリブルを警戒したSCは迂闊にプレスをかけに行くことも出来ず、そしてほかの選手が自由にピッチを走り回り、良いように攻撃を許してしまう。

 

結局後半の終わりごろはボール回しで時間稼ぎをしつつ、そのまま終了。

 

スコアも6対1と圧倒的結果に終わった。

 

ハットトリックの逢沢駆に、1アシストの的場。零れ球を押し込んだ火野の1得点。

 

しかしその中心は2ゴール1アシストの宮水青葉だろう。

 

試合後、まさかといった表情の織田、沢村らSCのベンチへと向かう青葉。そして、岩城監督をも呼ぶ。

 

「青葉君!? さすがにそれは不作法ではありませんか?」

 

負けたチームのところへ行くという行為に、思うところがある岩城。傷に塩を塗る行為だと青葉をとがめるが、

 

「別に、笑いに行くわけではありません。作法については重々承知です。しかし、それ以上になさねばならない事が、この学校にはあります」

 

 

 

「―――――敗者になんのようだ、宮水」

さすがにムッとする沢村。勝者が気軽に敗者のところへ行くのはマナー違反だ。

 

「――――沢村先輩に聞きたいことがあるんです」

 

敗者を笑いに来たような雰囲気ではない青葉の姿に、近藤は黙ったまま彼の様子をうかがう。

 

「―――――葉陰学院との練習試合と、今日の試合。どちらがどうしようもありませんでしたか?」

 

先日完敗した葉陰学院との試合と、今回の試合の対比を求める青葉。

 

 

「――――――お前が真ん中に来てから、中盤で何もできなかった。お前たちのほうが厄介だった。これで満足か?」

 

 

「なら葉陰学院は敵ではないですね。“江ノ島高校サッカー部”にとって、取るに足らない相手です」

 

 

「「「!!!!」」」

SCの面々は、SCでもなく、FCでもない江ノ島高校サッカー部という名前を口にする青葉にクエスチョンマークを浮かべる。

 

あるいは、そのありえないことを志す彼の心意気に衝撃を受けたのか。

 

「岩城君、これはどういうことかね?」

近藤も絵空事を言う生徒に対し、どういうことだと説明を岩城に求める。

 

「えっと、私も今日初めて知ったことです。青葉君、君はまさか――――」

 

信じられない事を為そうとしている。

 

 

 

「俺は、10年以来分かれたこのチームを一つに戻したい。サッカー部として、第一歩を踏み出したい。」

 

 

 

「―――――本当に、お前は馬鹿正直な奴だな。勝者の権限でFCが出場権を独占すればいいだけの話だ。なのに、なぜそれをしない?」

織田は、先日から言っていた理想をこの場でも言い放つ青葉に対し、FCが公式戦に出ればいいではないかと考えていた。

 

なのに、そのチャンスを無駄にするような行いに疑問を覚えていた。

 

「―――――勝てないからです。江ノ島FCでは、全国で勝ち進むことはできない。よくて2回戦まで。層の薄いFCでは連戦に耐えることもできないでしょうし」

 

 

残酷なまでに容赦なく、FCの監督の前で、全国で勝てないと断言する青葉。岩城監督も層の薄さを指摘され、連戦に耐えうることが出来ないと予期はしていた。

 

それこそ、SCのように選手層があればその弱点もフォローできるかもしれないと、考えてはいた。

 

「――――俺は勝ちたい。やるからには一番を目指したい。だからこそ、俺は提案します」

 

 

辺りを見回し、青葉は高らかに宣言する。

 

 

「SCとFCが力を合わせる———————10年前まで存在していた、江ノ島サッカー部の復活こそ !! 総体・選手権制覇への王道であると!」

 

 

覚悟を決めた、青葉の言葉。自分という試合を支配した存在をバックに、図々しい願いを言い放つ。

 

 

 

「俺は勝ちたい。だから江ノ島サッカー部に、みんなの力を貸してほしいんです! いい加減手枷を解き放って、ここにいるみんなで、神奈川の似非強豪校どもに、ドデカい風穴を開けてやりましょう!」

 

 

 

「10年前の忘れ物を、みんなで取りに行きましょうよ!」

 

 

 

 

そして、偽ることのできない言葉。生の感情をむき出しにした言葉は、着飾った言葉よりも効力を放つ。

 

 

「青葉君!?」

願いを聞き入れてもいいのではと傾きかけていた岩城は、過剰な彼の覚悟に焦る。これほどの逸材を腐らせたら、サッカーの歴史を刻んできた先人たちに申し訳が立たない。

 

 

彼がこれ以降孤立するようなことになれば、もう二度と彼は江ノ島サッカーに振り向くことはないだろうと。江ノ島の負の歴史は、もはや取り返せないところまで来てしまうと。

 

しかし、岩城の不安は杞憂だった。

 

 

周囲の様子は青葉の一挙一動に注目していた。彼から目を離すことが出来ない。彼はあまりにも輝いていた。

 

 

そうだ、彼の言葉には力があった。決して夢物語ではない。高校離れした彼の才覚は、すでに周囲を魅了していたのだ。

 

 

「――――――この歪んだ状況を何とかしなければならない。それを考えていたが、ここまで長い年月をかけてしまった」

 

近藤監督は、まっすぐ自分を見る青年の姿を見つめる。

 

「10年前、私は岩城君とチーム方針をめぐって対立し、15人しかいないチームが私のチームに勝利し、県大会を制し、全国大会にも出場した」

 

 

「近藤先生、その話をここでは―――――」

苦い顔をする岩城。結局自分の我儘がこの歪んだ状況を生み出している。そして10年間、お互いに意地になり過ぎていた。

 

 

「もし、私があの時折れていれば。選手層の厚い江ノ島サッカー部が全国に駒を進めていたのなら―――――」

 

背番号7をつける宮水青葉を見つめる近藤。

 

「―――――10年以来の夢をもう一度見たいと、私はそう思う」

 

 

「近藤先生!!」

 

近藤監督が傾いた。江ノ島高校サッカー部が一つになる瞬間が近づいている。また昔のように江ノ島唯一のサッカー部が誕生する。

 

「―――――君には感謝している、宮水君」

 

「は、はい!!」

教鞭をとり、日ごろお世話になっている厳格な教師からの言葉に、背筋が伸びる青葉。

 

「君の覚悟と力が、再び江ノ島高校サッカー部を蘇らせた。規律ばかりでは可能性を見いだせない。時には自由な発想を取り入れることも、選手の才能を伸ばすことにつながる。違いを作り出せるということを」

自分よりも年が下の青年に、謙虚さを教えられた。何より、この試合で負けたとはいえ、青葉がどこまで行くのかを見てみたくなってしまった。

 

————彼の両足には、無限の可能性が詰まっている。

 

 

「―――――まさか本当に成し遂げるとはな、青葉」

 

「――――正直、ポーカーフェイスでした。もし誰もついてこなければどうしようと、不安にもなりました。自分の賭けは失敗に終わるのではないかと」

 

沢村から称賛の声を浴びる青葉だが、彼自身はひやひやの連続だった。まさに自分のサッカー人生をかけた大勝負の一つ。

 

 

「――――――というわけだ。コソコソせず、先ほどからスタンバイしている覗き者。出てきてもいいぞ」

 

織田がジト目で壁の裏側にいる人物に声をかける。

 

「―――――パスコースを見出せなければドリブルで、ミドルを放てばいい。とんでもない暴論だな」

 

呆れた口調の荒木。彼は個の試合を最後まで見続けていた。去年折れた心は青葉のプレーでどれだけ勇気づけられたか。

 

「けど、自ら仕掛ける。そんな基本的で、大切なことを俺も忘れていた。自分はパスの名手だと酔いしれ、怖さを失っていた。あんがとな、青葉」

 

頭を下げ、お礼を言う荒木。

 

「そんな。荒木先輩―――――(ていうか、短期間でスリムに。俺が見ているのは幻なのか)」

怪訝そうな表情を見せまいと必死にポーカーフェイスを気取る青葉。目の前に信じてはならない光景があると感じていたのだ。

 

「おいおい、1年坊主。面白そうな話を俺ら抜きでしやがって」

 

ニヤニヤ顔で近づいてくるのは、江ノ島FC、SCのメンバー。特に兵藤が青葉の方へと近寄り、笑顔のまま肩に腕を伸ばす。

 

「美味しいところを持っていきやがって。本当にお前は、なぁ……」

紅林も、先ほどから黄色い声が集中している青葉に対し、嫉妬心を丸出しにする。

 

「え?」

 

きょろきょろとあたりを見回すと、

 

「男らしくてかっこいい!!」

 

「凄い~~~今のやり取りドラマみたい!!」

 

「青葉君~~~!!!」

 

 

黄色い声に気づいた青葉は、ひきつった顔でもう一度サッカー部の面々に向かい合う。

 

「そういうわけでは、ないんですよ……」

 

「くっそぉぉ!!! やはりイケメンか!! イケメンじゃないともてないのかよ!!!」

 

中塚が青葉にヘッドロックをかける。油断していた青葉は見事にそれにはまり抜け出せなくなった。

 

「ぐっ、中……何とかさん?」

 

 

「お前わざとだろぉぉぉ!!!」

悔し涙を見せながら、中塚は青葉を締め上げる。

 

 

そんな男衆がバカ騒ぎをしながら青葉の夢が一つ適った瞬間。

 

 

女性陣――――マネージャーたちはそれをほほえましく見ていた。

 

「青葉君は、本当にサッカーが好きなのね。」

 

「うんうん。10年以上続いたこの分裂状態を、解決しちゃったのは凄い」

 

 

「当然よ。なんたって、青葉なのだから」

幼馴染として、青葉なら絶対に出来ると信じていた。

 

彼のサッカーへの熱い想いは、一人分ではないのだから。

 

「それよりも、逢沢君はストライカーとして目覚ましい活躍をしたわね、奈々」

 

「ううん。まだまだ。その状況を作り出したのは間違いなく青葉君よ。中盤で違いを生み出せる選手がいると、攻撃は活性化するわ。それに上手く乗れた。だからきっと駆はまだまだ強くなれる」

キラキラした笑顔で、奈々は駆のさらなる成長の余地を感じた試合と考えていた。

 

「ゾッコンね」

 

「な、ななな!! 何を言っているのかしら!!」

 

 

こうして、今年最強のダークホースが、誕生することになる。

 

 




本作のセブンさんは色々と年相応に描きたいですね。

青葉さんの実力は、話を進めることによってだんだん明らかになっていきます。

とはいえ、前作で到達点の一つが出来上がっていますが・・・
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