騎士見習いの立志伝 ~超常の名乗り~   作:傍観者改め、介入者

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続きのインスピレーションが早く浮かびました。


第八十八話 両雄激突

ついに突破口が開いた。日本の勝機に光差す一撃。反撃の一矢。

 

鷹匠暎の意地とプライドをかけたダイビングヘッド。その執念がウクライナゴールをこじ開けた。

 

 

「鷹匠!!」

 

「タカさん!!」

 

ゴール前倒れている鷹匠。起き上がることができない。どこか痛めたのか。

 

「くっそ、足つりやがった‥‥」

 

苦い顔をする鷹匠。軽傷ではあるが、リーグ戦やカップ戦も控える過密日程で無理をするわけにはいかない。そもそもガス欠寸前で、最後に大勝負に出た代償はやはりあった。

 

恐らく、帰国してからの最初の1試合は欠場するだろう。

 

 

「意地見せたな、タカ」

 

「やはり空中戦は十八番だな、鷹匠」

 

「はっ! そういうテメェは、世界の壁を突き破って見せろ。このクロスだけじゃ、全然足りねぇぞ」

 

「減らず口を言えるぐらい元気なんだな。これで安心してリーグ戦で削れるぜ」

 

「抜かせっ」

 

軽口を言いながら、先ほどの得点劇を生み出した沖名と鷹匠がワイワイと騒ぐ。九鬼はいい形で逆襲できたことで気を引き締める。

 

——————連中、2点差では不安だったから浅い時間まで攻めようという魂胆だったな

 

引き籠っていれば、この局面で失点は起きなかった。だが、波状攻撃に遭っていただろう。

 

それでも、ウクライナは攻撃を選択した。つまり日本の得点力を警戒し、先手を打とうとし事に他ならない。

 

「いい、自分で歩ける。大丈夫だ」

 

担架を手で制した鷹匠は、ピッチの外に出ようとする。程なくして交代選手も明らかとなる。

 

 

ざわざわ、ざわざわ

 

 

「おい、嘘だろ?! まさか、そうなのかよ!?」

 

 

「おいおいおい、マジか。このタイミングかよ!!」

 

 

 

後半開始あたりから、彼のアップのペースが速くなっていたことは明らかだった。何かが起きる、何かを起こす。そんな雰囲気、空気は既に予感されていたのかもしれない。

 

 

ざわ、ざわ…

 

 

 

ざわざわ‥‥‥

 

 

 

「お、おい!! ビブスを脱いだぞ!!  ということは‥‥‥」

 

 

「ついにきた!! ついにきたぞ!!」

 

 

審判が掲げる掲示板には、鷹匠の背番号と、これから出てくる選手の背番号が表示されていた。

 

 

その瞬間、日本の応援団だけではない。現地の観戦ファン、その他フットボールファンからも歓声が沸き起こったのだ。

 

 

青葉コールが鳴り響く。そしてそれが続けられ、彼の名前が連呼される。彼の出場によって、空気が一変する。

 

 

 

青葉ッ!

 

 

 

 

青葉ッ!!

 

 

 

 

青葉ッ!!!

 

 

 

 

そしてそれは、日本人だけから発せられたものではない。

 

 

AOBA!

 

 

 

AOBA!!

 

 

 

 

AOBA!!!

 

 

 

アオバ。とある日本人が凄い。その日本人は本当にすごかった。

 

 

 

これから伝説を作るかもしれない若きフットボーラーを待ちわびていたことを証明する大歓声。

 

 

 

 

それはピッチ上にいる選手たちにもダイレクトに影響される。

 

 

「まさに、真打登場ってか? 試合の空気を、このスタジアムの空気をかえやがった」

堂本は苦笑いをしつつも、とんでもない後輩の降臨で、試合の流れはわからなくなった、と自信満々に言える気分だった。

 

「そうなるだけの活躍が、彼にはあった。あいつの、”象徴”になると言い放った覚悟。その結果だな」

 

 

「それに、世界のフットボールファンの方が馴染み深いんじゃねぇか? この交代は」

 

 

鷹匠と青葉が交代する。システム、ポジションの変更は伝えられていない。つまり、青葉は鷹匠のポジションに入るということだ。

 

 

公式戦では史上初。宮水青葉がセンターフォワードの位置でプレーするということだ。

 

 

伝説の原点、彼が主戦場としたエリアで、現代のそれを担う、それを超えることを望まれている選手が入る。

 

GK  1番 真弓慎一郎(福岡)

RSB 2番 幕張健吾(湘南)

CB  3番 飛鳥亨 (ETU)

CB 14番 井口譲二(浦和)

LSB 6番 沖名太陽(山形)

CMF 7番 榎本文人(新潟)

CMF10番 石渡翔悟(仙台)

CMF12番 工藤春雄(岐阜) IN

RWG 8番 堂本貴史(フローニンゲン)

LWG22番 九鬼鉄心(大宮)

CFW18番 宮水青葉(ETU) IN

 

OUT

21番 清武周人(大阪C)

 9番 鷹匠暎(浦和)

リザーブ

GK  23番 水野邦夫(名古屋)  22番 相馬元気(鳥栖)

CB  19番 本田マイケル(明治) 4番 城達哉 (讃岐)

RSB 16番 中条渉(岡山)

LSB 20番 赤間弓彦(讃岐)

CMF 15番 安川走斗(千葉)

SH  12番 伊達直哉(仙台)

CFW 11番 小川知良(磐田) 13番 秋本直樹(横浜)

 

 

 

『お聞きください!! 大歓声だ!! 大歓声だ!! 大歓声です!! ついに日本の18番!! 宮水青葉がピッチに入ります!! そして交代するのは先ほど反撃の一矢を放った鷹匠!! 彼の覚悟に報いられるプレーを発揮できるか!!』

 

 

 

『うわ、本当にセンターフォワードですよ! 彼の公式戦でのこの起用はプロ入り後無かったと思いますが、この大一番でそれを行う、それを託される程、彼には強い信頼があるということですね!!』

 

 

『さぁ、宮水青葉、ピッチ外で鷹匠からのタッチに対して強くタッチを返し——————今、ピッチに入りました!! 後半15分!! あの元祖怪物と同じ主戦場で、日本の勝利を背負って!! 宮水青葉がいきます!!!』

 

 

 

当然ウクライナベンチ、ピッチ上の選手たちも、たちまち空気を一変させた16歳の、夢幻の可能性を秘める世界トップクラスの16歳に警戒を強める。

 

「あれが、日本の超常現象…‥‥国内リーグのみの活躍という前評判を覆し、今や今大会の主役に躍り出たhero、か」

 

 

「あれを任せられるか、ムイーロ?」

 

 

「何とも、ドウモトが執拗にマッチアップしてくるからね。今のシステムだと難しいね」

 

 

「ならば、我らの誇るCBコンビに任せるしかないな」

 

 

 

ウクライナもここでまさかの宮水青葉起用に衝撃を隠せない。彼はどこから攻めてくる。中央からトップ下よりも強烈な存在感を出すのか。それとも堂本とポジションチェンジするのか。

 

何もかもが予測不可能。

 

 

しかし、榎本から繰り出された縦パスを下がって受けたことで、その真意が垣間見える。

 

 

 

『前目のスペースでボールを受けた宮水、トラップしながらのターンでシンチェンコを躱した!!』

 

 

鮮やかなマルセイユルーレットで幅を引き出し、斜めに移動しながら、それでいてタックルの届かないルートを瞬時に選択。シンチェンコは直前のステップオーバーに釣られていた。

 

素早く前を向く青葉の前に、シンチェンコが追い縋る。ここまでは青葉の予測範囲内。

 

アウトサイドトラップからのマシューズフェイント。悉くを最高の、最凶のタイミングで繰り出す怪物の歩み。シンチェンコ堪らずダウン。バランスを崩し、上位者に道を開ける。

 

ウクライナは、あのシンチェンコが膝をつかせられたことでさらに混乱が引き起こされる。

 

 

一合で、格の違いを見せつけられた。

 

中央前よりの位置でもらった青葉の侵攻をこれ以上させるわけにはいかない。ボランチが彼を止めようとするが、青葉には全く違う絵図が頭の中にあったのだ。

 

 

 

青葉にはそのプレーに一切の迷いがなかった。

 

 

 

『宮水ロングシュートぉぉぉぉぉ!!!! あっとキーパー何とか逸らした!! 遠目からのロングシュートで、コーナーキックを奪い取って見せました、宮水青葉!!』

 

 

 

 

30mの距離から短い助走で、強烈に変化するドライブシュートを打ってきたのだ。まるで、ここまでが自分の距離であると誇示するかのように。

 

それは中央で彼にぶち抜かれたシンチェンコも同意見だった。

 

 

 

——————おいおい、バグキャラってレベルじゃねぇぞ、こりゃ…‥っ

 

 

 

ヴェルモンドは無表情で青葉を見るだけ。自分には関係がないと言わんばかりに、ノープレッシャーだった。己のやるべきことは変わらない。

 

 

「そうか」

 

 

 

危機感を覚えていたのはムイーロだった。中央に無視できない存在が現れた。かといって堂本をフリーにさせるのも危険だ。

 

 

——————相手の監督は奇術師か何かか? こうもフォーメーションの穴を突いてくると、厳しいものがある

 

 

どうして、あれほどの男が年代別の監督程度に収まっているのだ。彼の手腕はクラブでもより実力を発揮できるはずだ。

 

 

日本の世代別代表監督、西野斉彬。大阪ガンナーズ2代前の監督にして、東京ヴィクトリーの絶対王政を破壊し、ガンナーズを強豪の一角に、黄金期を構築した男。

 

ベンチ、コーチ、サポーター、スタメンの一致団結した体制の基礎を作り上げ、ガンナーズを強豪の一角として押し上げた。

 

 

そんな彼の盤上に、極上の素材たちが立ち並び、躍動していく。

 

 

そしてコーナーキック。またしても途中出場の選手が結果を残す。

 

大外ファーサイドの工藤を狙ったボールはヘディングで折り返し、その混戦状態の中央で閃光の如く抜け出したのはやはりこの男。

 

 

 

やはり、この男なのだ

 

 

 

 

『折り返して叩き込んだぁァァァ!!! 宮水青葉同点弾!! 頭で決めました!!』

 

 

 

CBの背後から斜めに動き出し、尋常ではない抜け出しによって工藤に視線が集中した刹那に抜け出し、彼の落としを逃さなかった。

 

 

『後半18分! ついに同点に追いつきました日本!!』

 

 

だが、ウクライナもここでシステム変更。日本が4-3-3の攻撃気味に攻めてくるのに対し、通常スタイルの4-2-3-1で対抗。オーソドックスな陣形へと戻し、シンチェンコを負担の少ないボランチへと移動。

 

その効力が同点弾を被弾した直後にさく裂。シンチェンコのロングレンジパスに抜け出したのは、新生のウクライナの矢、北欧の怪物ヴェルモンド。

 

飛鳥、井口の最終ラインをぶち抜き、前掛りとなっていた日本に楔を穿つ一撃必殺。

 

 

『抜け出された日本! 危ない日本!! ここで決められるのは防ぎたい!! 真弓防いでくれ!! あぁぁぁぁぁぁ!!!! 日本失点!! やはりこの男だ!! この男を好きにさせてはいけない!! 北欧の怪物、ヴェルモンド・シュヴェーツィ!! 2点目を決められてしまった!! これで2対3!! 追いついた直後の痛すぎる失点!!』

 

 

 

井口が簡単に裏を取られ、飛鳥が最後の砦として立ちはだかったが、フェイントで抜き去られてしまう。その際追い縋る飛鳥は何とかヴェルモンドを掴もうとしたが、すり抜けるように脇を抜けていく。

 

 

 

——————この男が日本の若手最高のディフェンダー、だが、温いな

 

 

 

——————まだ遠いっ、分かっているのに、コースは今回分かっていたのに‥‥ッ

 

 

 

完全に一対一の状況を作り出されてしまい、守護神真弓は詰めることも出来ずに早いタイミングでシュートを叩き込まれ、為す術無し。

 

やはり、この男を止めなければ、日本に勝機はない。

 

 

そこからはもうウクライナと日本の攻撃の応酬だった。ウクライナはセーフティリードを広げるために、日本は逆転を狙うために。

 

そして宮水青葉がすぐさま取り返す。

 

 

中央で受けた宮水青葉がロングシュート態勢からのシュートフェイク。ボランチが先ほどの攻撃を気にし過ぎてしまい、あっさりと躱される。

 

そのまま加速した青葉の前に、センターバックが立ち塞がる。左右両方にはいかせない。加速もこれ以上許さない。

 

 

だが、宮水青葉の加速はそこからさらにアンコールが追加されるのだ。

 

 

加速した状態からの更なる再加速で、後方から追い縋るボランチを置き去りにし、CB二人の間をぶち抜いた青葉。とんでもない加速と突破力で、掴まれながらも引き倒していくような勢いでコースを突き抜けていく。

 

 

——ほんとにフェノーメノかよ、こいつ!!

 

 

————中央をぶち抜くだと!? 化け物ッ!!!

 

 

 

 

そして、グランダーのシュートをキーパーの逆を突いて叩き込む。決めて当然、なんでもなさそうに見えて、なんでもありすぎる突破ですぐさま同点に追いつく。

 

 

 

『日本追いついた!! この後半、25分に日本は再び追いつきました!! 宮水青葉2点目!! 宮水青葉2点目!! この大舞台、途中出場で日本を引っ張っています!!』

 

 

 

しかし、堂本の方ではやはりムイーロに走り負けるケースが多くなっている。西野は青葉を見た。

 

 

——————ムイーロに勝て

 

日本、ここで最後の交代カードを切る。同時にウクライナベンチもここで2枚を変える。

 

 

時計の針は後半28分。ラスト、17分

 

 

 

『ウクライナベンチ動きます!! 交代するのはボランチの選手ですね! そしてトップ下にフランス一部、リーズで昨シーズンデビュー後4ゴールを挙げた18歳の俊英!! ユンカー・トカヴィッチが入ります!! この選手の左足は要警戒です!!』

 

 

 

シンチェンコ以外の運動量の落ちた選手を下げて、元気な選手を送り込むウクライナ。これにより、さらに榎本、石渡へのマークを強め、足元に不安のある工藤への対抗策。

 

対する日本も堂本を下げて、秋本が3枚目の交代選手としてピッチに出る。

 

GK  1番 真弓慎一郎(福岡)

RSB 2番 幕張健吾(湘南)

CB  3番 飛鳥亨 (ETU)

CB  14番 井口譲二(浦和)

LSB 6番 沖名太陽(山形)

CMF 7番 榎本文人(新潟)

CMF10番 石渡翔悟(仙台)

CMF12番 工藤春雄(岐阜) IN

RWG18番 宮水青葉(ETU) IN

LWG22番 九鬼鉄心(大宮)

CFW13番 秋本直樹(横浜) IN

 

OUT

21番 清武周人(大阪C)

 9番 鷹匠暎(浦和)

 8番 堂本貴史(フローニンゲン)

リザーブ

GK  23番 水野邦夫(名古屋)  22番 相馬元気(鳥栖)

CB  19番 本田マイケル(明治) 4番 城達哉 (讃岐)

RSB 16番 中条渉(岡山)

LSB 20番 赤間弓彦(讃岐)

CMF 15番 安川走斗(千葉)

SH  12番 伊達直哉(仙台)

CFW 11番 小川知良(磐田)

 

 

秋本がワントップの位置に入り、右サイドに宮水青葉。ついにアトレティコの将来を担う若手との一騎打ち。事実上の日本とウクライナが誇る最強選手同士の激突。

 

 

そして、ここまでいいとこなしの飛鳥は工藤のサポートを受けながら、新生ウクライナの矢とのマッチアップを継続。

 

 

世界トップレベルとのマッチアップ。この大会で、どこまでのこの二人は往くのか。どこまで駆け上がっていくのか。

 

ETUに入団した二人の若手が、世界を相手に、日の丸を背負って戦っている。

 

 

「なっ、うわっ!!」

 

交代したユンカーの得意技がいきなり炸裂。工藤がプレスに駆も回転トラップ、ターンしながらプレスを掻い潜るユンカー。俊敏で駆動よりも背丈の低い彼がいきなり俊敏性で工藤を圧倒した。

 

 

 

『ターンしながら工藤を躱すユンカー!! 石渡のプレスも何のその!! あがってきたシンチェンコに縦パス!!』

 

 

 

一人でいきなり日本の中盤を切り刻んだユンカー。またしても中盤の勢力争いが日本からウクライナに傾く。パワー、広範囲プレスに特化した工藤に対して、先手、初速の加速力に特化したユンカーがいきなり仕事をして見せたのだ。

 

 

「最高だぜ、ユー坊や!! 受け取れ腹ペコ王!!」

 

 

 

「心外だ」

 

 

 

シンチェンコからの縦パスからヴェルモンド。そして飛鳥がすかさず詰める。今日は2点も決められ、先制点のシーンでは抜け出しを許している。

 

これ以上の黒星は認められない。

 

 

——————タイミングをようやく測れた。青葉ほどではないが、お前も広かった

 

 

飛鳥の間合いを侵食する足が、ヴェルモンドの領域を犯す。ついに捉えた。間合いを、自分のエリアに対し、嫌な間合いの詰め方をされたヴェルモンドは切り返しで加速し、アウトサイドに抜けようとした。

 

 

 

—————お前は、間違いなく“強かった”

 

 

 

今までよりも過酷で、抜ければ終わりのタイミングにして、最もヴェルモンドが隙を見せた、僅かだがボールが離れたタイミングを見逃さなかった飛鳥。

 

加速と同時に、やや強引さが仇になったかヴェルモンド。飛鳥のスライディングをまともに食らい、ボールをロストしたのだ。

 

 

 

 

『飛鳥とめたぁぁァァァ!!! ヴェルモンドのドリブルを止めました!! ボールを回収した井口から幕張に通る!!』

 

 

 

 

ヴェルモンドは飛鳥を睨みつける。無言で、ようやく自分にとっての強敵と認識したのだ。

 

 

—————青葉に比べれば、まだ付け入るスキがあってよかったのか、どうなのか

 

 

飛鳥が対応不可能な速度で、あの怪物は加速した瞬間でさえボールが足から離れない。付け入ろうとすれば逆に切り返しを食らってアンクルブレイク。

 

宮水青葉のそれは、もはや漬け込んではいけないタブーの瞬間であり、ヴェルモンドのそれよりも脅威なのだ。

 

その速度に対応できるとすれば、同じスピードを持つ存在ぐらいだろう。

 

 

 

—————さぁ、いって来い。青葉!!

 

 

 

 

若手ナンバーワンを決める頂上決戦開幕。日本の超常現象と、ウクライナの至宝がついに激突。

 

 

右サイドにボールが渡る。しかしその領域は日本にも、ウクライナにも、予測できない過酷な環境と化していた。

 

 

 

————距離を突き放せないっ!? 

 

 

 

青葉が先行する。当然反応が先に速かった彼が前を行く。だが、置き去りにすることができない。

 

 

—————思い通りに詰めることができない!? やはり彼は速いかッ

 

 

ムイーロ。その競争で出遅れたものの、青葉との中々距離を詰めることができない。また、離されることもない。この二人の脚力はつまり‥‥‥

 

 

「ご、互角だと!? ムイーロの足のスピードに!?」

 

 

先に追いついた青葉が前を向く。ムイーロ正対して青葉を迎え撃つ。先に仕掛けたのは青葉、高速シザースで横の揺さぶりをかけるが、

 

 

 

—————カットイン。君の最大の十八番は知っている。そして、その奇妙な間合いのトリックも!!

 

 

 

ロールに対応してくる。青葉の間合いを崩すひと工夫を察知してくる。それは、彼が似たような選手と対戦し、勝利したからこそ。

 

あの白い巨人のライバルだった大エースを一人で任されただけはあるムイーロ。そして当然の如く彼のゴールを封殺し、彼の攻撃を無力化したムイーロ。

 

彼よりも大幅なフィジカルの増強が見込まれる青葉相手でも、抜かせないだけのことは可能なのだ。

 

 

——————踏み込んできたッ!?

 

 

左足のカットイン体勢から右足に持ち替えた青葉。間合いの浸食に対してカウンターを発動。まったく違う間合いに瞬時に切り替わったことで、ムイーロがズレる。

 

 

 

—————この瞬時に間合いを変えてくるのか!? させない!!

 

 

 

右足ならば経験がある。縦突破。そこからの抉るような中央突破。ウィング本来の加速力が顔をのぞかせる。

 

青葉が縦突破からの急加速で抉ってくるが、体をぶつけて競り合いに持ち込むムイーロ。抜けきることができない。

 

「——————」

 

 

ダブルルーレットからの急加速急停止に翻弄されながらも、足を出してきたムイーロ。この辺りで普通の選手は横転している。

 

 

最適なタイミング、最高のタイミングで繰り出すルーレットを止められた。だが、青葉は大きく空いた股の下を狙う。

 

 

 

———————!?

 

 

 

 

その瞬間、青葉の頭に危険信号の様な電流が走る。

 

 

 

 

 

 

その意図を実行し、また抜きをしようとした瞬間、青葉には悪寒がした。その選択こそ致命傷になり得ると。

 

青葉が軽くボールを転がしまた抜きのモーションに入った瞬間、ムイーロは体勢を低くし、膝でそのコースをシャットアウトしたのだ。あのまままた抜きを狙えば、青葉はボールロストしていた。

 

 

 

—————直前で止めるか、あの偉大なバロンドールは、これで止めることが出来たんだけどね

 

 

 

青葉は最大限の警戒を。ムイーロはバロンドール選手を完封した時よりも、かなり厄介だという印象を受けた。

 

 

 

—————今仕掛けたらやられていた

 

 

 

 

尚も詰め寄ってくるムイーロ。

 

 

 

 

————————‥‥‥これが、世界レベルか…‥っ

 

 

 

 

そして、青葉は時間をかけるわけにはいかないとたまらずボールを横に出す。ホルダーは工藤に切り替わり中央へと展開されていく。

 

 

ムイーロはボールを奪うことが出来ず、青葉の間合いを掴み損ねた。

 

 

青葉は、何度もムイーロの逆を突いたが、最後まで突破できなかった。

 

 

その後、秋本がミドルシュートを狙うも、僅かに外に外れてしまいゴールキックとなるが、観客は絶技の応酬を見せつけたムイーロと青葉のデュエルに釘付けだ。

 

「「…‥‥‥‥‥‥」」

 

両者は直後に目が合った。初めて、最後まで目的を完遂できなかった個人の存在。初めて、勝つことも負けることもなかった相手。

 

ついに、彼らは宿敵と呼べる存在と相まみえた。そして、自分と彼に身体能力的な差はあまりないということも分かった。

 

もしかすれば、自分が歩んでいた結果。

 

しかしその事実に言葉はいらない。彼らはそれすらも理解した。

 

 

 

両雄譲らず。

 

 

 

両者にとっての前哨戦は過ぎ去り、運命の戦いへと変貌していく。

 

 

 

 




まだ前哨戦。筆者の体力(頭の)が持たない。
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