「よく来たね。ささ、座って座って」
オールマイトに勧められるまま応接室の革張りのソファに座る。この場所には今、俺とオールマイトしかいない(+幽霊)
「それで……なんで俺は呼び出されたんですか?」
「それなんだけどね」
なぜか神妙な面持ちで話し始めるオールマイト。俺は初日から何かやらかしてしまったのだろうか。てかせんせい。オールマイトのウサ耳みたいな触覚抜こうとしないでください。
「君の個性のことで聞きたいことがあってね。
『2話にしてようやく名前が出たな、ツクモ』
せんせいは黙っててくれ。
「個性“憑代”……幽霊が見えて、話せて、憑依されれば幽霊の個性が使えると聞いたが?」
「そうですね」
「今も近くにその幽霊はいるのかい?」
「い、いますよ」
その幽霊は今アナタとにらめっこをしています。
「今日の個性把握テスト……その幽霊の個性を使ったんだろう?」
「使いましたが……問題ありましたか?」
「いや問題ナッシン!しかし気になることがあってだな……」
オールマイトはそこで一呼吸置いた。
「その幽霊の名前を教えてくれないかい?」
オールマイトがそう言った瞬間、せんせいの動きが止まった。どうしたんだろうか。
「それなんですが……」
「頼む!君の使っていた個性に見覚えがあったんだ!!どうか教えてはくれないだろうか!!」
両手を合わせた上に頭を下げて頼んでくるオールマイト。大のオトナにそこまでされて断る理由はないが、こちらにも言えない理由があった。
「いや──知らないんです」
「……なんだって?」
「だから、幽霊の名前を知らないんです」
「話せるんだろう?」
「はい、物心ついたころから一緒にいますが、"せんせい"としか呼んでないので」
「その幽霊は今居るのかな?」
「いますよ」
『絶対に教えないぞ!』
「……教えないそうです」
「そうか……それならしょうがないね」
「なんか、すいません」
「いやいや大丈夫だよ纏少年!むしろ時間を取らせちゃってゴメンね」
「いえ、こちらこそ力になれなくてすいません。それじゃ」
スクっと立ち上がり、俺は応接室から出るため扉に手をかけた。
『なあツクモ……──って言ってくれないか』
「え?いいけど…」
俺はせんせいの言葉を伝えるため軽くオールマイトの方を振り返った。
「あの、オールマイト」
「なんだい?」
「その……"ちゃんと笑えて"ますか?」
「──ッ!?」
「では、失礼します」
俺は少し足早にその場を後にした。
「ただいま」
「あら、お帰りなさい。初めての雄英はどうだった?」
学校から電車を使って1時間かかる距離に俺の自宅がある。
玄関を開けると5歳のころから俺を育ててくれている義母さんが出迎えてくれた。
「いろいろ規格外だったよ、建物も教師も。それに初日からオールマイトに会えたしね」
「それはよかったじゃない!どうだった?」
どうだったとはオールマイトを間近でみた感想だろう。
とりあえず受けた印象は……
「画風が違ったかな」
「画風?」
「そのことはいいや。着替えたら出るから。晩飯までには戻ってこれるよう頑張るよ」
「毎日"せんせい"と特訓なんてホントに頑張るわね」
「そりゃヒーローにならなきゃいけないからね。雄英に入ったからってサボってたら周りの奴らにおいてかれるよ」
義母さんは"せんせい"の存在を知っている。もちろん見たこともないし話したこともないけど5歳から今まで育ててくれたんだ。知らないなんてことのほうが無理がある。
俺は自室に入ると急いで制服から三本線で有名なブランドのジャージに着替え、また玄関に戻った。
「それじゃ行ってきます!」
大きめの声で叫ぶと、おそらく台所であろう方向から「いってらっしゃい!」と返事が返ってくる。
さて、まずはアップでランニング10kmだな
有酸素運動、筋力トレーニング、柔軟を行った後にせんせい指導の戦闘訓練を行う。なぜ一番最後に戦闘訓練なのかと過去に聞いたところ
『余力のない状態で動けないとヒーロー失格だ』
とのことだ。
『ホラ!左腕から右脚のつながりが甘い!私なら3発入れられるぞ!それに目が素直すぎて狙いがバレバレだ!!』
「お、おう!」
人気の少ない空地で"個性不使用"での組手。せんせいは幽霊だが、俺にだけなら触れることを利用した訓練だ。
さすが俺が目指しているヒーローなだけあり、個性を使わなくても俺の攻撃が一切当たらない。むしろ俺の欠点を指摘しながら動いており、もし致命的な隙があったならば即座に一発入れてくる。
例えば今、せんせいの頭めがけ回し蹴りを放ったが
『軸がブレ過ぎて次につながらないだろうが!!』
「グォッっは!」
せんせいは俺の股下に滑り込むように入り、その最中に腹に拳をめり込ませた。
『さて、それじゃ次は"アリ"でやってみようか』
アリとは個性ありでの訓練だ。この毎日の特訓のシメはこの訓練なのだ。
やることは簡単。個性を使用し5分間本気で戦うだけ。
「40%で」
『いいのか?学校で60%使ったばかりだぞ?明日どうなってもしらないぞ?』
「それくらいでへばってたらトップになれないよ」
俺がそう言うとせんせいは嬉しそうに『そっか』とだけ言い俺に個性を貸してくれる。
40%とは、せんせいの個性の全力を100%としたときの40%までを引き出せるように力を借りた状態だ。仮に50%以上を使おうとすればせんせいと一体化し、体の主導権を渡さなければならない。これが今日の個性把握テストの状態だ。
疲れた体に熱い何かが満ち始める。体の周りには薄っすらと黄色いオーラのようなものが現れている。
「よし、準備完了」
『それじゃ、行くぞ!』
純粋な力と力が衝突し、足元にクレーターができる。ここからの5分間。毎度のことだか死を覚悟するような瞬間が何度も訪れた。
そして今回の訓練の結果だが……
『さっき何も食べなくてよかったな』
地面に胃液を垂らしながらぶっ倒れた俺をせんせいがドヤ顔で見下していた。
絶対いつか泣かす。10年後くらいに。
次の日
本格的な雄英の授業が始まった。
初日がアレだったせいで身構えていたが存外普通の高校であったと思わせるような授業内容だった。プレゼントマイクの英語が時々五月蠅いだけで普通の授業だったのは少しがっかりした。
昼にクックヒーロ"ランチラッシュ"の料理を食べ、いよいよ午後の授業が始まる。
"ヒーロー基礎学"
「わーたーしーがー!!」
「来っ」
「普通にドアから来た!!!」
「オールマイトだ!本当に先生やってるんだな…!!」
「銀時代のコスチュームだ!」
「画風が違いすぎて鳥肌が!」
明らかに線の太さが違う日本ナンバーワンヒーロー"オールマイト"の登場にクラスメイトは一気に沸き立つ。
俺はというと昨日会ってしまったがために感動は半減してしまっている。しかしあのオールマイトの授業が受けれるとあって少しばかり浮足立っている。
教壇の真ん中に立ちみんなの前に来ると、一瞬だけだが目が合った気がした。
「ヒーロー基礎学!ヒーロの素地を作るため様々な訓練を行う課目だ!!」
ぐっと力をためるような態勢になったかと思うと、全員の前にバン!と何かが描かれたカードを差し出した。
そこには"BATTLE"の文字が
「早速だが今日はコレ!戦闘訓練!!!」
あ、これはやってしまったかもしれない。
『……ツクモ』
せんせいの憐みの声は俺にしか聞こえなかった。
この小説のボツ案1
設定上無理があったため終わった前作にはあった設定
・主人公にとりついている幽霊は7人
7人の理由もちゃんとあったが私の実力でそんなに扱いきれるはずがなかった