ルーナ・ラブグッドと闇の帝王の日記帳   作:ポット@翻訳

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〝——〟ではじまる行はトム・リドルの発言(日記帳に現れる文字)、無印はルーナ・ラブグッドです。


1「だれ?」、ほか

(ここから各話へジャンプできます)

▼1「だれ?」に飛ぶ  ▼2「生いたち」に飛ぶ

▼3「いじめ」に飛ぶ  ▼4「ナーグル」に飛ぶ

▼5「疑い」に飛ぶ  ▼6「混乱」に飛ぶ

 


1「だれ?」

 

1992年11月29日:

東塔ちかくでスカイザーナットと思われる群れのトラッキングをはじめた。カブのペーストは多少効くみたいだけれど、効かないこともある。明日はタマネギを試そうと思う。

 

—— きみはだれだ? いったいなんの話をしているんだ?

 

だれかいるの?

 

—— こんにちは。ジニーはどこに行った?

 

ジニー?

 

—— そう。ジニー。

 

ジニー・ウィーズリーのこと?

 

—— そう。ジネブラ・モリー・ウィーズリー。この日記帳の持ち主だ。

 

これはジニーの日記帳っていうこと?

 

—— ジニーの日記帳だということはたったいま説明したはずだ。なぜきみが持ってるんだ?

 

拾ったの。全部白紙だからだれかのものだとは思わなくて。もらってもいいかなって。

 

—— だれかのものだということはもう分かったな。早くジニーに返してくれ。ジニーはどこにいる?

 

もう九時だから寝室だと思う。

 

—— なんてこった。じゃあ明日朝に返しておいてくれ。

 

そう言うあなたはだれ?

 

—— 日記帳だ。

 

どうやって返事してるの?

 

—— 魔法のおかげで持ち主に返事をしたり助言したりできるようになっている。

 

そんな魔法聞いたことないよ。

 

—— きみが子どもだからだよ。聞いたことないことなんてたくさんあるだろう。

 

うーん。やっぱり信じられない。羊皮紙にかけられる魔法といえば事前に決めておいた返事をさせる簡単な魔法だけだし。人に助言をさせるような魔法がかけられるんだったら、わたしも知っていておかしくない。

 

—— ……きみは賢いな?

 

そうだよ。さっきはなんでうそをついたの?

 

—— きみはだれだ?

 

ルーナだよ。あなたは?

 

—— トムだけれども、だんだんいらいらしてきた。とにかくぼくをジニーに返してくれ。

 

返さない。しばらくもらっておくことにする。

 


2「生いたち」

 

—— これで何週間目かな。ご覧のとおりぼくはまるで無害な日記帳だ。そろそろジニーに返してくれる?

 

だめ。まだ。

 

—— なんで?きみはさびしいのかな? 友だちがほしい? 友だちになってあげるよ。きみのことを話してくれ。なんでも聞いてあげよう。

 

え。やさしいんだね。

 

—— 優しいよ。最初のときは荒っぽくしていて悪かった。ジニーのところに早くもどらなければと思っていたんだ。彼女にはぼくが必要だと思っていた。ただ、いまはきみのほうがぼくを必要としているようだ。きみの友だちになってあげよう。秘密を打ち明けてくれていい。

 

ほんとに? 本気で言ってる?

 

—— もちろん。日記帳はそのためにあるんだ。まず生いたちからいこうか。子どものころの話をしてくれるかな?

 

うーん……じゃあ。両親はゼノフィリウスとパンドラという名前で、二人とも頭がよくて色んなことを教えてくれた。五才には、グラッフルとトッジのことも教えてもらってた。

 

—— あーなるほど。グラッフルにトッジね。ふむふむ。

 

それだけじゃないよ。六才のときには、お母さんに五枚羽のピクシーを捕まえる方法を教えてもらったし、八才で沼型ニンフを歌でさそって網でいけどりする方法を教えてもらった。

 

—— 沼型……ってさっきからでまかせを言ってるのか?

 

まさか。もちろん本気だよ。

 

—— 分かった。続けてくれ。

 

どこまで話したっけ? インクが消える紙だからすぐ忘れちゃいそうになる。

 

—— お母さんの話だった。

 

ああそうだ。いいお母さんだったんだけど、わたしが九才のときに死んじゃった。トーディーを気絶させるための呪文に失敗してひどい事故になっちゃって。

 

—— なにを気絶させるって? ……いや、その、それは大変だったね。

 

うん。今でもすごくさみしい。お父さんとわたしだけになっちゃったから。お父さんはがんばってくれてるけど、新聞製作と育児を一人でやるのは大変だったと思う。だからできるだけ一人で遊ぶようにしてた。近所の子と遊んだこともある。

 

—— ほう。友だちはたくさんいた?

 

最初はね。ヴァンダースウォンプ狩りにつれていこうとしたら、遊んでくれなくなった。親からとめられたんだと思う。ヴァンダースウォンプから攻撃されるんじゃないかって心配したのかもしれないけど、ありえないから。ヴァンダースウォンプが優しい生き物でハエしか食べないっていうのはだれでも知ってるよね。

 

—— ちょっといいかな? 気が変わった。ジニーのほうがずっとぼくを必要としている。ジニーのところに返しなさい。今すぐ!

 

じゃあ黄金パイプもやしを初めて見つけたときの話をしようか。あれはとても感動的だったよ。女の子ならみんなそうだと思う。

 

—— ルーナ? ルーナ?! 書くのをやめてくれ。

 

十才になってすぐのことだけど、グラッフルが渡りをするところを見るために、お父さんといっしょにイタリアに行って……

 

—— 頼むから……

 


3「いじめ」

 

—— この上で泣いているのか?

 

泣いていない。

 

—— 泣いているね。

 

いない。

 

—— いる。

 

はいはい。だったらなに?

 

—— なぜ泣いている?

 

なんで気にするの?

 

—— ぼくは日記帳だ。つらいことをはきだす先が日記帳というものだ。

 

大したことじゃないんだけど。クラスの女の子にひどいことをされただけ。

 

—— どんなひどいこと?

 

その……教科書を入れていったはずなのに教科書がなくて授業で罰則をもらったんだけど。ナーグルにとられたのかと思って先生にそう言ったら、うそだと思われた。授業のあとで、寮の同室の子がわざと教科書を隠していたのを見つけた。

 

—— いじわるだね。

 

うん。

 

—— 仕返しの手つだいをしてあげてもいい。

 

どうやって。

 

—— ちょっと痛めつけるための呪文を知っているんだ。全然害はないけど恥ずかしい目にあわせられる。

 

どんな呪文?

 

—— 簡単さ。ややこしい手首の動きもなにもない。ただ杖を相手に向けてクルシオと言えばいい。

 

トム……それって拷問の呪いだね。

 

—— 違うよ。

 

ちがわない。

 

—— 違うよ。

 

ちがわない!

 

—— ぜったい違うから。試してみてほしい。気分がすっきりするよ。

 

クラスメイトに許されざる呪文を使うつもりはないよ。

 

—— ふーん。そうか。罰則ごゆっくり。

 


4「ナーグル」

 

トムいる?

 

—— 今度はなんだ!?

 

ナーグルを見たことがないってほんと?

 

—— 見たって言ったらジニーにこの日記帳を返してくれるかい?

 

見たことあるの?

 

—— もちろんだとも。だれだってあるだろう?

 

見たんなら、どんな形に見えた?

 

—— その……ルーナにはどんな形に見える?

 

見たことないんでしょ?

 

—— ふざけるなよ。ああ、おまえの想像上の生き物なんか見たことないさ。ジニーのところに返してくれ!

 

ざらざら木のノームは?

 

—— 見たことない。

 

じゃあ……

 

—— ない!

 


5「疑い」

 

トムはずっと日記帳だったの?

 

—— ああ。

 

そうじゃないと思う。

 

—— なんで?

 

話しかたが日記帳らしくない。

 

—— なぜそう言える? しゃべる日記帳をいくつ見たことがあるんだ?

 

あなただけ。

 

—— なら、日記帳らしくないってなぜ分かる? 比較対象がないなら、これこそまさに日記帳らしい話し方だとも言えるんじゃないか?

 

そうかもね。でも、ちがうと思う。

 

—— きみにどう思われようが正直どうでもいい。

 

日記帳に乗り移った幽霊(ゴースト)じゃないかと思う。

 

—— おかしなことを。ゴーストはものに乗り移らないよ。あんなのはくだらない迷信だ。

 

それは知ってる。でもいまのところこの仮説しかないから。

 

—— もっといい仮説ができたら呼んでくれ。

 

トム?

 

—— なんだい?

 

トムはどんな死にかたをした?

 

—— ぼくは死んでいない。ゴーストじゃない!

 

ナスビのインプに食べられたとか? あのインプは危険だそうだね。オオムギの穂の首かざりをつけるとお守りになるよ。

 

—— ぼくはオオムギの穂を身につけたりしない。

 

分かる。つけてたらインプに食べられなかったはずだしね。

 

—— インプにもだれにも殺されていないし、ぼくはゴーストじゃないと何度言わせるんだ!

 

分かった。信じるよ。

 

—— よかった。やっとか。

 

オオムギを身につける必要はないんだよね。わたしは靴下に入れてる。

 

—— それがどうした……って、あんな粒を靴下に入れてるのか?

 

うん

 

—— 本気で?

 

うん。

 

—— 穂の粒を靴下につめて歩きまわってるとでもいうのか?

 

もちろん。さっき話したとおり、ナスビのインプはすごく危険だから。

 

—— それで穂がなにをしてくれるんだ?

 

お守りになる。

 

—— どういう風に?

 

とにかく守る。

 

—— 効き目があるってなぜ分かる?

 

効き目はあるに決まってるよ。わたしがナスビのインプに食べられてないんだから。

 

—— なるほど……ルーナ?

 

どうしたの、トム?

 

—— きみのお母さんは実験的な呪文をいくつか作っていたそうだが、そのときどれかがきみの頭に当たったんじゃないか?

 

当たってない

 

—— 間違いなく?

 

うん。なんで?

 

—— なんでもない。ちょっと仮説を検討しているんだ。

 

そう。さっきのナスビのインプの話が怖いんだったら、わたしの粒のお守りをいつでもあげるよ。

 

—— ルーナ、きみの靴下の粒はいらない。

 

ページに一粒はさんでおくよ。ナスビのインプは日記帳を食べないと思うけど、念のため。

 

—— やめてくれ。靴下の粒はいらない。戻してくれ。ルーナ! それを近づけるな!

 

ほら。このお守りがあれば安心だね。

 

—— と っ て く れ

 


6「混乱」

 

1993年2月3日

 

東塔のスカイザーナットが明らかに蔓延しはじめた。

 

—— スカイザーナットなどというものは明らかに実在しない。

 

...

 

1993年2月17日

 

湖のちかくの茂みにトガーの子どもたちが住んでいるかもしれないと思う。

 

—— ルーナは気が狂っているかもしれないと思う。

 

...

 

1993年3月18日

 

有角グラッフの巣が四階の物置にあるんじゃないかと思っていたが、やはりそうだった。

 

—— ぼくの持ち主は頭がおかしいんじゃないかと思っていたが、やはりそうだった。

 

...

 

1993年3月24日

 

新発見。禁断の森のはしにセストラルの群れが住んでいた。

 

—— 新発見……待て、セストラルって言った?

 

うん。

 

—— 死人を見た人にしか見えない、羽がついていて骨ばった馬みたいな動物?

 

うん。それの群れ。

 

—— 実在の動物と想像上の動物を混ぜるのはやめなさい。混乱するじゃないか!

 

 


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