ルーナ・ラブグッドと闇の帝王の日記帳   作:ポット@翻訳

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37「ハグリッド」、38「ボガートとオーク」

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37「ハグリッド」

 

ハグリッドはほんとうに最高の魔法生物飼育学教師だと思う!

 

—— は?

 

とてもいい人で親切で生き物のことをよくわかってるから。

 

—— 待てルーナ!

 

え?

 

—— あの低能な半巨人の木偶(でく)の棒が教師になったと本気で言ってるのか?

 

トム! いまのはあなたがわたしに言ったなかで最低かもしれない。ハグリッドはいい人だよ!

 

—— ルーナ、いまのが最低だと思うなら、きみはぼくの言うことをろくに聞いてくれていなかったということだ。

 

わたしは何でわざわざこんなことしてるんだろうと思ったりもする。いい方向に変わってくれてるかと思ったら本性をだすんだから!

 

—— ぼくは自分を偽ったりしたことはない。

 

じゃあ何でわたしはあなたをたすけたりするの?

 

—— きみがいい人でぼくのことを気にかけてくれるからだ。

 

そうすべきじゃないのに。あなたをどこかにやって忘れるべきなのに。

 

—— なぜそうしない?

 

わからない。

 

—— ぼくのことが好きなんだろう。

 

よくないことと知りながら。

 

—— ぼくもおなじだ。

 

わたしのことが好きなの?

 

—— きみのことを見すごしてやっている。

 

うそつき。

 

—— それであの間抜けのどこがそんなに特別なんだ?

 

ほら、痛いところをつかれるとすぐに話題をかえる。

 

—— いいよ話さなくても。どうせぼくにはどうでもいいことだ。

 

ハグリッドはこのあいだニフラーをつれてきた。ハグリッドが地面に隠した光るものをさがしてあちこちかぎまわるんだよ。かわいかった。

 

—— ちいさな厄介ものだな。きみが気にいるのも無理はない。

 

ヒッポグリフもいる。授業ではまだみせてくれてないけど、セストラルにえさやりにいく途中でみた。心臓がとまるかと思った。

 

—— へえヒッポグリフね。だれが挑発しにくるか分からないこんな学校で? すばらしい。来週はドラゴンが出てくるのか?

 

ばかなことをいわないでトム。あんなすてきな生き物をだれが挑発するの?

 

—— きみとぼくはかなり違った素敵の定義をもっているようだ。

 

だね。それでもちろんドラゴンはこないよ。ハグリッドのドラゴンはもう何年もまえに保護区におくられたから。

 

—— ハグリッドのだと? ほんとに飼ってたのか!? 冗談だろ?

 

冗談じゃない。ジニーに教えてもらった。ジニーはお兄さんからきいたって。

 

—— 勘違いだったりしないか?

 

もちろん。ハグリッドにもきいてたしかめたから。まだ赤ちゃんだったらしいよ。

 

—— 何てこった! おどろくべきじゃないがおどろくよ。

 

名前はノーバートだって。

 

—— ドラゴンにノーバートと名づけるのはハグリッドくらいのものだ。

 

トムだったら何て名前にする?

 

—— ぼくだったらドラゴンを飼わない。その程度の良識はある。

 

そうだね。安全なペットしか飼わないんだよね。ベルという名前の美人のネコとか。

 

—— ベルは関係ないだろ!

 

あなたも繊細になってるときはかわいい。

 

—— なってない! それにぼくが飼ってたのはベルだけじゃない。ヘビも何匹か飼ってたんだ。かなり危険なのも。

 

それは信じる。あなたはヘビっぽそうだし。

 

—— それは侮辱のつもりか?

 

侮辱? わたしが? どこからそんな発想を?

 

—— きみはぼくから悪いくせをまなんでいるぞルーナ・ラブグッド。

 

そのことにはめずらしくおたがい合意できるね。

 

—— この調子ならきみにあのいじめっ子たちを処理させられそうだ。

 

トムにそんな影響力はぜんぜんないよ。

 

—— 時間の問題だ。

 

時間はいつもたりないもの。

 

—— ぼくを見くびっているな。

 

わたしを見くびっているね。

 

—— めっそうもない。

 

ほらわたしのことが好きなんでしょ。

 

—— きみのことはいやいやながら尊重するし、きみには最初思っていたよりも深いところがあると認める。

 

そしてわたしのことが好き。

 

—— すこしは。

 

やっぱり。

 


38「ボガートとオーク」

 

トム、エキサイティングな本をみつけたよ!

 

—— ぼくよりも?

 

なに? 嫉妬?

 

—— いや。ばかなことを言うな。

 

わたしが別の日記帳をもってることをまだ怒ってる?

 

—— もともと怒ってなんかいない! おもしろいことをぜんぜん聞かせてもらえないのが不公平だと思っただけだ。

 

トムにもおもしろいことをいろいろ話してるよ。

 

—— ぼくの定義でのおもしろいことだ。ルーナの定義じゃなく。

 

いいよ。何のことを話してほしい?

 

—— ええと……その、いまは思いつかない……いきなり言われても。

 

じゃあどんな分野のことに興味がある?

 

—— しいて言えば、闇の魔術にはずっと興味があった。

 

わたしも。

 

—— そうなのか?

 

うん。防衛術の授業はおもしろい。もちろん先生がよければだけど。ルーピン先生のことは話したよね?

 

—— 人狼だろ? それなりに危険な生物のまえに子どもをおいて、ほとんどなにも準備させないまま戦わせるのが好きな教師だそうだな。

 

わたしの話とちがう。ひどい授業みたいじゃない。

 

—— ぼくの知るかぎりであまりよい方法とはいえない。

 

体験でまなぶっていうことだよ。

 

—— 体験には時間が必要だ。準備ができている子どもばかりが生徒じゃない。たとえば、以前ボガートの話をしていたな。

 

うん。それで?

 

—— その授業の目的は、子どもたちに不合理な恐怖を克服させる、ということくらいしか考えられない。

 

うん。そのためにやっていたんだと思う。

 

—— ここでの問題は、恐怖はつねに不合理だとはかぎらないということだ。子どもは正当でない恐怖しかもたない、と想定するのはただの怠慢だ。たとえば、きみはどうだ。

 

わたしが一番こわいのは有毒タランチュラガエル。

 

—— それは知ってる。そいつが教室のまんなかに登場する瞬間を目撃できなかったのは残念につきる。

 

みんなの表情をみるのはたのしかったよ。引っぱり小僧に変えたあともおなじくらいこわがってたけど。不思議。

 

—— まったく謎だな。ぼくが言おうとしていたのは、きみは小さいころにお母さんをなくしたということだ。お父さんにも死なれることが、きみの最大の恐怖だというのはじゅうぶんありうる。クラスメイトといっしょに教室いるときに、突然目の前にお父さんの死体があらわれたらどんな気持ちになる?

 

あ……そうなったらすごくつらい。なにが言いたいかわかったよ。

 

—— もうすこし常識をはたらかせてくれないものかと思う。そのアプローチでうまくいく子どももたくさんいるだろうが、そうでない子どもには益より害がおおきい。

 

たしかに。そのことを先生に言ってみる。

 

—— ご自由に。とにかく、ぼくが言おうとしたのはそういうことじゃない。

 

何のこと?

 

—— 好きなのは闇の魔術だ。防衛術じゃない。

 

あ。それは……わたしはあまり興味ない。

 

—— だろうと思った。

 

何で好きなの?

 

—— 単純におもしろい。魔術のポテンシャルを最大限までつかう。ほとんどの人が恐れて試そうとしないところまで。

 

ためさないのは理由があってだよね。

 

—— ただしい。でもそこがおもしろいんだが。

 

理解はできるかな。レイブンクロー生としては、魔法の技術を発見したり開発したりすることはずっと気になってる。闇の魔術の研究を通じてしかためせないことがあったりして、誘惑されるのはわかる。

 

—— もしかすると、もう何年かしたら調べてみたくなるんじゃないか?

 

かもしれない。ちがうかもしれない。いま考えることじゃないと思う。

 

—— いいだろう。ともかく、なにかエキサイティングな本があったって?

 

トムがぜんぜん嫉妬してない本だったっけ。

 

—— さっさと聞かせてくれ。

 

すごいんだよ。ホビットっていう愉快な生き物の旅がくわしく書かれてる。

 

—— きっとディメンターと戦う方法を教えてくれはしないだろうな。

 

そうだね、でもあなたはオークの大群からにげる方法を教えてくれない。

 

—— オークっていうのはいったい何だよ?

 

よくきいてくれました……

 

 


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