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こんばんはトム。
—— どこにいた?
え?
—— いつもはもっと早い時間に話にくるだろう。なぜこんな遅くに?
トムは時間がわかったっけ?
—— いや。だがきみが会話しにくる間隔はだんだん読めるようになってきた。かなり規則的だから……
皮肉っぽいオチがくるまで三、二、……
—— きみについて規則的なことはそれくらいしかないけどな。
ほらやっぱり。
—— ずいぶんぼくのことがわかってきたな。
そうだよ。心配だよね?
—— たしかに。
—— は?
遅くなった理由。ミッドナイトにえさをやりにいってた。
—— ミッドナイトというのは何だ?
イヌ。野良イヌで、禁断の森のそばに住んでるのをみつけた。
—— こんどは野良イヌのえさやりか?
野良イヌになったのは本人のせいじゃないから。行儀のいいイヌだよ。ただちょっと運がわるかっただけ。
—— きみは禁断の森のそばでそもそもなにをしていた?
セストラルのえさやり。
—— セストラルにも? いったい何種類の生き物のえさやりをしてるんだ?
わたしは面倒をみるのが好きだから。
—— 自分の面倒をみたらどうだ。脱走した囚人がうろついているのはわかってるんだろ? きみとおなじ学校の生徒を狙っていると言われている囚人が。一人で森の近くに行くのはよせ。
シリウス・ブラックがこの学校にそんなにちかづくとはとても思えないよ。ダンブルドアが守ってるんだから。
—— あの老いぼれをそこまで信頼するな。あいつは奇跡をするように世間に見せかけようとしているが実際はちがう。
奇跡をするように世間に見せかけようとなんかしてないよ。
—— してるさ。そのイメージを何年も作ってきた。
いい人だし。
—— 人につけこむのがうまい、お節介でやっかいな老いぼれだ。
ダンブルドア先生はたくさんの人からたよられてる。おせっかいをしないという選択肢はない。みんなにおせっかいをしてくれないと困る。
—— なのに、殺人鬼がうろついている夜に生徒が屋外に出ていくことを許してしまっている。
先生のせいじゃない。わたしが外にでたことを先生は知らない。生徒ひとりひとりをいつも監視したりできないし。
—— そこだよ! なのにきみはこの学校にいればダンブルドアが守ってくれるから安全だと思いこんでいる。いつもそうはできないということは証明された。
ずるい!
—— きみのその信頼感は正当化しようがないということを自覚させてあげたんだ。
いじわるだね。
—— 必要なことだ。
でもミッドナイトのえさやりは必要。
—— ミッドナイトはほかの食べ物をみつけるさ。きみに会うまえだって生きのびてきたんだろう。
でもミッドナイトは一人だから。
—— ミッドナイトはイヌだろ。心配ない。
だれかといっしょにいくなら?
—— だれと?
さあ。ネビルは?
—— 殺人鬼を相手にネビルが何の役にたつ? 二人いっしょに危険におちいるだけだ。
ミッドナイトを城にしのびこませられないかな? そうすれば森にいく必要はなくなる。
—— イヌをかくまう場所がどこに?
さあ。広い城だから。どこかあるでしょ。
—— そのイヌがきみのネコを襲ったら?
そんなことしないよ!
—— わからないぞ。
わかる。もう一匹のネコがいっしょにいても、おそわれてないのをみたから。
—— どのネコだ?
わからない。いつもジニーのお兄さんのネズミをおそおうとしてる、みすぼらしいネコ。
—— 気にいった。飼い主をさがして、トムと交換してこい。
あのネコはほしくない!
—— どうして? 動物はみな好きなんじゃなかったか。
そうだけど、あれはほしくないな。
—— 勝手にしろ。
何の話だったっけ?
—— 野良イヌをどこにかくまうか。
あ、そうだった。
—— ハグリッドに頼めば、えさをやってくれるんじゃないか?
いいアイデアだね。してくれると思う。
—— そしてひとりで森のまわりをうろつくのは軽率にすぎると言われるだろう。
トムは心配しすぎだよ。
—— きみは心配がたりない。その囚人と鉢合わせしたらどうするつもりだ?
さあ。そうなってからでないとわからない。ほんとに会ったら、教えてあげるよ。
シリウス・ブラックが学校をおそってきた!
—— は?
侵入された。どうやったかはわからない。グリフィンドールの寮に侵入しようとした。
—— ポッターが狙いなら、理屈にはあう。ブラックはつかまったのか?
ううん。逃げられた。学校の捜索がはじまった。
—— まだ学校内にいるのか? きみはどこにいる?
大広間。生徒が全員ここにいる。ここでみんな寝るんだと思う。
—— 捜索はいつからやってる?
まだそんなにたってない。みんなパニックになってる。全員ベッドからだされた。
—— きみはぼくに話しかけても安全なのか? だれかに見られたらどうする?
大丈夫だと思う。教科書に書きこんでるふりをしてる。
—— 気をつけろ。
そうする。そろそろいくよ。ジニーとネビルがきて……
—— ルーナ? ルーナ?
……
さっきはごめん。ジニーに気づかれるまえにあなたをかくさないといけなかったから。
—— ならしかたない。
やっぱりここで寝ることになった。みんな寝袋をもらった。
—— 奴はまだ見つかってないのか?
まだ。魔法省の職員が城のあちこちで捜索してる。
—— 見つからなかったら生徒を家に帰す予定か?
よくわからない。まだなにも言われてない。
—— じゃあきっとその予定はないんだな。殺人鬼が学校をうろついているというのに、ダンブルドアはまだ生徒のためになる判断ができないようだ。
その議論をする気はないよトム。
—— まえに負けたもんな。
負けてない。
—— 負けた。
子どもなんだから。
—— きみこそ。
消灯された。もういかないと。ほとんどなにも見えない。
—— ルーモスはかけられないのか?
だれかに見られるかもしれない。注目されたくない。
—— たしかに。おやすみ。
またあした話そう。
……
トム?
—— 彼はつかまったか?
ううん。でも寮にもどってもいいって言われた。
—— 言ったとおりだろ。
見張りがあちこちについたよ。先生が屋外を巡回して、敷地のそとはディメンターがかこんでる。ダンブルドア先生はうぬぼれてない。
—— 相手が内部にいるなら、ディメンターがいても意味がない。
全部捜索したんだから。もうでていったはず。
—— 思いつくところを全部捜索した、というのは全部じゃない。この学校にはダンブルドアですら知らない部分がある。
たとえば?
—— まず、ほとんどだれにも知られていない
どこに?
—— それはどうでもいい。
シリウス・ブラックがそこにかくれているなら、よくない。
—— 隠れていない。
どうしてわかるの?
—— わかるから。
どうやって?
—— はいれないんだ。その入り口をひらくには……特別な才能がいるから。
どんな特別な才能?
—— どうでもいい。重要なのは、ブラック家にはない技能だということだ。
まちがいなく?
—— ああ。
それでわたしには教えてくれないの?
—— 教えない。
いい。もう特別な才能がなくてもはいれる秘密の地下室をシリウス・ブラックが知らないことをいのるしかないね。
—— 祈るしかない。この状況はまだ危険だぞ。これからひとりで外にでてはいけない。
わかった。
—— ほんとうか? ぼくの言うことを聞いてくれるなんて珍しいな?
いつもきいてるよ。
—— 聞いてない。
きいてるもん。
—— ぼくの助言を実際にとりいれたことがあるなら、いつだったか言ってみろ!
うーん……いまは思いだせないけどたくさんあったよ。
—— あっただろうさ。
授業にいかなきゃ。
—— そのあいだに考えてくれ。あとで、そのたくさんとやらが何だったか聞かせてもらう。
そうする。