ルーナ・ラブグッドと闇の帝王の日記帳   作:ポット@翻訳

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49「訪問者」

 


49「訪問者」

トム、動きがあったよ。

 

—— どんな?

 

まえにネコのことを話したよね? 不恰好なネコ。

 

—— ああ。覚えてる。

 

そのネコが一時間まえにこの屋敷にきた。シリウスとしゃべってたみたいだった。

 

—— なにを話してた?

 

わからない。ネコ語はできないから。

 

—— ああもう。じゃあブラックは何と言った?

 

わたしに向けてはなにも。でもかなり動揺したみたい。卑劣なネズミとか何とか言ってる。

 

—— 多分そのネコは、あのネズミが学校からいなくなったと報告したんだろう。

 

あ。そういうことか。もうこれで解放してもらえると思う?

 

—— そう願うしかない。

 

……

 

トム、なにから話していいかわからないよ。

 

—— 何について?

 

この数時間のこと。ひかえめに言って、いろいろあった。

 

—— なぜだ? なにが起きた?

 

ピーターがいなくなったことをあのネコがシリウスに言った、っていうのは当たってた。シリウスは荷物をまとめだして、ネビルとわたしもそうするように言われた。わたしたちを学校のそばまで送ってからピーターを追うつもりだったんだと思う。

 

—— つもり? なにか問題があったのか?

 

ルーピン先生があらわれた。

 

—— おっと。

 

わたしの予想どおり、二人は友だちだった。

 

—— あのオオカミはブラックを見てどういう反応をした?

 

そんな風に呼ばないで!

 

—— わかった。ルーピンはどういう反応をした?

 

シリウスに会えてうれしそうだった。ハグもした。

 

—— 殺人鬼とされる人物にハグをした? 全魔法世界が彼を死喰い人だと思ってるんじゃなかったのか?

 

そのへんからおもしろくなる。

 

—— どういう風に?

 

その……地図があるの。

 

—— 地図?

 

この学校の地図。シリウスとルーピン先生とピーター・ペティグリューとジェームズ・ポッターが生徒だったころに作った地図だって。学校にいる人全員の位置が表示される地図。

 

—— 本当か? なかなか巧妙だ。

 

そうだね。わたしもそう思った。自分でつくってみようかと思う。

 

—— いい考えだ。そのうち役に立つかもな。その地図がいまの状況にどう関係する?

 

何でかはまだわたしにもわからないけど、ハリー・ポッターがその地図を持っていた。それで、まだ学校にいたピーター・ペティグリューの名前を見たみたい。ピーターは死んだはずだとハリーは知ってたから、ルーピン先生にそれを報告して、ルーピン先生はピーターが生きているならシリウスは無実かもしれないと思いはじめた。

 

—— そこまでの証拠じゃない気がするが。

 

そうかもしれないけど、ルーピン先生はわたしたちとちがってミスター・ブラックの知り合いだった。いままでもずっとそうやって疑ってて、わずかな証拠でも希望が見えたとか? それに実際、シリウスは無実なんだから。

 

—— まあいい。ルーピンはきみたちをどうやって見つけた?

 

あ。そこがおもしろくて。叫びの屋敷に幽霊はいないっていう話をしたよね?

 

—— ああ。

 

叫びの屋敷は実はルーピン先生が学校時代、満月になったとき変身するのに使ってた場所だったんだ。学校から秘密の抜け道を通ってそこまで行き来してたんだって。閉じこめられたルーピン先生が出してた声のことを周辺の人が幽霊だと思ってた。

 

—— 誇りある魔女や魔法使いが人狼と幽霊の区別もできないのか?

 

さあ。家であばれまわる怒った人狼の声を聞いたことがないからわたしはコメントできない。

 

—— それもそうか。

 

シリウスが動物もどきになったのも、ルーピン先生が変身するときに一緒にいられるようにするためだったんだって。ピーターとミスター・ポッターもそうした。だからピーターはネズミなんだ。ミスター・ポッターが何なのかは知らない。

 

—— 待て……つまりルーピンは屋敷のことを知っていたのか? 幽霊屋敷じゃないということも、ブラックがそこと行き来する方法を知っているということも、学校にしのびこむ経路があるということも?

 

うん。

 

—— じゃあなぜきみたちを見つけるのに三日もかかったんだよ?! なぜブラックが学校の近くに潜伏しているとわかったとき、すぐに屋敷を調べなかったんだ? なぜだれにも話さなかった?

 

さあ。そのうちきいてみる。

 

—— ダンブルドアも知っていたに決まってる! ここの教師たちはどうかしてるんじゃないか? 生きのびる生徒が一人でもいるのがおどろきだよ!

 

そういう教育方法だったりしない? できるだけ保護しないでおけば、わたしたちが自分で乗り切るしかなくなるっていう。

 

—— ルーナ、いまのはきみがぼくに言ったなかで一番笑えたかもしれない。

 

そう思うんなら、これまでわたしの話をろくに聞いてくれてなかったってこと。

 

—— 奇妙なことはいろいろ言われたが、いまのは秀逸だ。愉快な皮肉だ。スリザリンらしい考えかたが身についてきている。

 

どうしよう。

 

—— どうしようもない。それでそのあとは?

 

うん、二人がネビルとわたしに状況を説明して、先生といっしょにわたしたちは学校にもどって、シリウスは出ていく、っていうことになりそうだった。

 

—— こんどはどんな問題が?

 

スネイプ先生があらわれた。

 

—— 何だって。どうしてそこに?

 

ルーピン先生を尾行したんだと思う。わたしを見てすごくほっとしてた。心配してたんだと思う。

 

—— そう願いたいものだ。だれか一人くらいは。

 

スネイプ先生がミスター・ブラックを攻撃したときはすこしこわかったけど。

 

—— どうしてそうなった?

 

全員でシリウスは無実だって説明しようとしたけど、スネイプ先生はとても怒ってて聞きいれてくれなかった。それから両方がどなりだして、かなりしつこい罵倒合戦になった。

 

—— 子どもかよ。

 

そうだね。最終的にはルーピン先生がシリウスをかばいながら何とか屋敷から出て、スネイプ先生がそれを追った。みんなで学校の敷地まで来たところで、大変なことになった。

 

—— なにが起きた?

 

その……月が満月だった。

 

—— 何だと! ルーピンが変身したのか?

 

そうなっちゃった。

 

—— きみは無事か?

 

わたしはだいじょうぶ。スネイプ先生がわたしとネビルをかばってくれて、ミスター・ブラックはそのあいだにイヌに変身してルーピン先生を森に誘導していってくれた。

 

—— だから人狼に教師は無理なんだよ!

 

いじわるはやめてよ。差別はよくない。

 

—— きみは殺されたかもしれないんだぞ!

 

先生が悪いんじゃない。

 

—— いや悪いだろうが! 学校時代か、もしかするとそのまえから人狼だったなら、そろそろ慎重さを身につけてもいいころだ。今夜が満月で、無防備な子どもたちと自分がおなじ建物のなかにいることをうっかり忘れたとでも?

 

そういうわけじゃないだろうけど。

 

—— きみはいまどこだ? 安全な場所か?

 

うん。ネビルといっしょに病室にいる。ミスター・ブラックとミスター・ルーピンはまだ森のどこかにいる。

 

—— ならいいが。

 

いいって言っちゃったらおかしいと思う。スネイプ先生はこのできごとを魔法省に報告させられて、それで魔法省からディメンターが森に送られることになった。いま窓から見てるけど、ディメンターが森のなかで動いてるのが見える。

 

—— きみは休んだほうがいいんじゃないか。

 

休めない。心配だよ。なにかわたしにできることがあればいいのに。

 

—— きみにそんなことをする謂れはない。関わるべきじゃない。

 

本気で言ってるの? トムはわたしのことをそんなに知らなかったっけ。

 

—— 知らなければよかったとときどき思う。

 

うそつき。

 

—— しばらく休め。人狼とディメンターの集団が森をうろついてる以上、きみにできることはあまりない。

 

わかってる。あればいいのにと思っただけ。

 

……

 

でも今夜いいこともあった。

 

—— それは何だ?

 

ネビルはもうスネイプ先生のことをあまりこわがらなくなると思う。

 

—— なぜ?

 

人狼と自分のあいだに飛びこんで来て、自分を守ろうとしてくれた人のことをこわがるのはなかなかできないから。

 

—— ああ。たしかにそんな気はする。

 

とても勇敢だった。

 

—— 不思議なこともあるものだ。

 

 


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