ルーナ・ラブグッドと闇の帝王の日記帳   作:ポット@翻訳

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50「時間」、51「救出」

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50「時間」

 

こんにちはトム。未来のルーナだよ。

 

—— 未来の……いや……え?

 

話すと長くなる。

 

—— 話してくれないと困る。

 

いまはできない。あまり時間がない。知っておいてもらう必要があるのは、わたしが逆転時計(タイム・ターナー)を持っていて、十二時間さかのぼってきたっていうこと。それから……

 

—— どこでタイム・ターナーを手にいれた?

 

トムがくれた。

 

—— あのネコか?

 

うん。とにかく……

 

—— そのネコはどこで手にいれた?

 

ハーマイオニーのネコから。それでつづきだけど……

 

—— ハーマイオニーのネコはそれをどこで手にいれた?

 

ハーマイオニーから。わたしの話を……

 

—— ハーマイオニーは……

 

ハーマイオニーがどこで手にいれたかは知らない! 静かにしてわたしの話をきいて。時間がないんだから!

 

—— わかった。聞く。

 

そうして。これから何時間かは忙しくなるよ。過去のルーナに知っておいてもらわなきゃいけないことがいくつかある。必要なときにその情報をわたすことをお願いしたいんだ。

 

—— わかった。それでぼくのルーナはどこだ?

 

未来のトムと話してる。

 

—— きみがそこにいることを知っているのか? それは禁じられているんじゃなかったか?

 

それは未来の自分を見てパニックになるのを防ぐため。わたしはパニックになりにくいし、過去のルーナのがわの経験をしてるから、声をかけても大丈夫だって知っている。わたしも未来のルーナにおなじことをしてもらったから。

 

—— なるほど、わかった……と思う。

 

じゃあ、よくきいてね。覚えておいてほしいのはこれ。

 

1. グリフィンドール塔のすぐまえの階段にきたら、過去のわたしに注意するように言って。階段がおわってから四番目の床板が悲鳴をあげる。肖像画を起こしちゃうと大変だから。

 

—— そもそもなぜその肖像画は起きていないんだ? 見張りの役割じゃなかったか?

 

2. 分かれ道では左にいく。

 

—— どの分かれ道だ?

 

3. チベットの夏のことを思いだす。

 

—— は?

 

4. バックビーク。

 

—— それがいったい……

 

5. ココアは固形のチョコレートよりよくきく。

 

—— ココア……待て! ディメンターの近くにいくんじゃないだろうな? ちがうと言ってく……

 

そのときになればわかる。過去のルーナにもおなじ指示をしてはあるけど、あの子はときどきほかのことに気をとられるから、声をかけてほしいんだ。じゃあいってらっしゃい。

 

—— 待て……待てよ!

 

……

 

こんにちは未来のトム。現在のルーナだよ。元気?

 

—— ルーナ。今日はひどい一日だった。

 

そうなんだ。なにかわたしにできることはある?

 

—— これから数時間は過去のぼくの言うことに常にしたがうと約束してくれ。きみはこれを切りぬけられる。

 

もちろん切りぬけられるよ。わたしはもう未来の自分に会ったんだから。

 

—— その意気だ。それがここから必要になる。

 


51「救出」

 

変な感じだったね。

 

—— 着いたのか?

 

うん。すごいよねトム? 時間をさかのぼったんだから。

 

—— まだ病室棟か?

 

ううん。物置に隠れてる。過去のわたしはシリウスとネビルといっしょにまだ叫びの屋敷にいるから、ここで人に見られるわけにはいかない。

 

—— 見られずにどうやって建物のそとに出るつもりだ?

 

いまは午後八時をすぎたところ。門限は、ネビルとわたしが誘拐されてから変わってなければ、八時四十五分。

 

—— ダンブルドアのことだからそのままだろう。

 

それで、広間にだれもいなくなったらグリフィンドール塔にしのびこめる。

 

—— 未来のルーナがそんなようなことを言っていた。なぜそこにいくのかは分かるか? 彼女は細かい部分について曖昧だった。

 

もちろんフレッドとジョージを連れだすためだよ。

 

—— は? なぜその二人を?

 

わたしが学校の外に出れるようにだよ! トム、話についてきてよ。

 

—— あの二人がどういう助けになる?

 

秘密のトンネルに連れていってくれる。

 

—— あの二人がなぜ……待て……もういい……そこに着いたら教えてくれ。

 

わかった。

 

……

 

学校のなかでこっそり動きまわるのは今日はけっこうむずかしい。先生たちがあちこち巡回してる。

 

—— それでも十二歳の子どもが動きまわるのを止められていない。

 

あと一階あがればグリフィンドール塔。

 

—— よし。いや、そうだ……階段から四番目の床板が悲鳴をあげるのを思いだせ。気をつけろ。

 

そうだった。ありがとうトム。

 

—— いいから急げ。何とかこの惨事を終わらせてくれ。

 

……

 

—— いまどうなってる? 今回の状況にはいろいろ不安があるんだが。

 

ハニーデュークスにいる。

 

—— え? いったいなぜそこに?

 

それがホグズミードにいく近道だから。

 

—— でもなぜホグズミードにいかなきゃならないんだ?

 

叫びの屋敷にいくため。

 

—— でもなぜ……

 

トム、時間がもったいないから、わたしから作戦を説明するね?

 

—— 頼む!

 

じゃあ。もうそろそろルーピン先生が叫びの屋敷に着いてるはず。スネイプ先生がだいたい二十分後に来て、そのあと十分後に全員が学校にもどる。

 

—— それでホグズミードでぼくたちはなにを?

 

ここから、みんなが出るころに屋敷にしのびこんで、あとをつける。そうすればシリウスとルーピン先生が森に入るのを追跡して、助けられる。

 

—— なぜそんな方法を? ただ森で待てばいいんじゃないか?

 

実はこの方法のほうが安全なんだよ。地上からまっすぐ向かったら、見られる危険が大きすぎる。

 

—— なるほど。双子はまだいっしょか?

 

うん。いつみんなが屋敷を出ていくか監視してる。

 

—— あの二人はこのことについてどう思ってる?

 

おもしろがってる。

 

—— なぜきみが関与しているのか不思議に思われてないか?

 

ぜんぜん。

 

—— タイム・ターナーについては?

 

それも。二人はハーマイオニーが持ってたのは知ってたから。何カ月かまえに使ってるのを見てたんだって。違う授業に同時に出席できるようにするためにもらったらしいよ。

 

—— ダンブルドアはただ授業の負荷を増やすためだけに、極めて危険で繊細な時間操作装置を子どもに渡したのか? この学校は通常の授業の量だけで十分大変じゃないとでも?

 

そうだね。レイブンクローのわたしでも、あんなにたくさん同時にやるのは想像できない。

 

—— きみたち生徒のことが本当に心配だよ。あの男は真剣に教育方法を見直すべきだ。

 

フレッドとジョージが呼んでるのが聞こえる。あっちのグループが動きだした。

 

—— ああもう。危険に飛びこむ時間がきたか。

 

……

 

人狼! 分かれ道。どっち?

 

—— 左!

 

……

 

—— ルーナ? ルーナ? どうなった? なにが起きてる?

 

ごめんなさい。ルーピン先生がついさっき変身して、そこから逃げようとして走って、分かれ道にきたらどちらに進むことになってたのか忘れちゃって。

 

—— 大丈夫か?

 

うん、わたしは大丈夫。ありがとう。ルーピン先生は右にいった。

 

—— あの双子は?

 

道にだれもいないかチェックするために先にいってもらった。

 

—— そいつらはきみを人狼のそばに置き去りにしていったのか?

 

人狼が出てくるっていう話をしてあげてなかったかもしれない。

 

—— 何だって? どうやったら人狼のことを忘れられるんだ?

 

いろいろあったから。うっかり忘れちゃった。

 

—— うっかり忘れた? 冗談だろ?

 

声がきこえる。もういかないと。

 

……

 

トム助けて。

 

—— ぼくも感じるよルーナ。はやくパトローナスを唱えてくれ。

 

できない。お母さんのことを思いうかべようとしたけどできない。悲しい。なにもわからない。すごくたくさんいるよ。囲まれた。フレッドとジョージが泣いてるのがきこえる。シリウスはもう見えない。おねがい、たすけて。

 

—— チベットの夏のことを思いうかべろ。

 

え?

 

—— 未来のルーナがそう言った。チベットの夏のことを思いうかべろ。

 

あれはお母さんが死ぬまえに最後にいっしょにいった旅行だった。山のなかでカルダースプラットのトラッキングをした。毎朝雲のあいまから日の出をいっしょに見た。とてもきれいだったよ。

 

—— そのことを考えろ。その気持ちが必要だ。その幸せな気持ちをつかまえて離すな。それであいつらを蹴ちらせ。きみならできる!

 

やってみる。

 

……

 

すごく疲れた。

 

—— きみはいまどこにいる?

 

叫びの屋敷にもどった。フレッドとシリウスもいる。ミスター・ブラックはあまり無事じゃないけど。

 

—— ジョージは?

 

治癒のポーションをとりに学校にもどった。

 

—— けがをしたのはブラックだけか?

 

うん。パトローナスをかけたあとは、それなりに安全に屋敷までもどってこれた。

 

—— オオカミは?

 

まだ森のなか。ディメンターたちが現れたら逃げていった。シリウスのところに着けてよかったよ。そうでもなかったら生きのびるのは無理だったと思う。

 

—— 彼をどうやって学校から連れだすつもりだ?

 

まだわからない。ここにもあまり長くはいられないと思う。スネイプ先生がこの場所のことを魔法省につたえたから、ディメンターが手ぶらでもどったら、魔法省はかならずここを調べにくる。

 

—— バックビーク。

 

え?

 

—— あれがもうすぐ処刑される。

 

ああトム。心配ごとはもうたくさん。何でいまそのことを思いださせるの?

 

—— きみに言われたから。あのときは理解できなかったが、いまはわかる。ブラックはあのヒッポグリフに乗って逃げればいいんだよ。そうすればどちらも助けられる。

 

トム、すごい! これはいいよ! 完璧なアイデア。

 

—— ぼくは言われたことを伝えただけだ。

 

それでもトムはすごい。

 

—— うるさいな。ぼくは今夜のすべてをさっさと終わらせたいだけだ。

 

ジョージがもどってきたみたい。まずミスター・ブラックをいっしょに治癒しないと。それからバックビークをつれてくる。ぜんぶ終わったら教える。

 

—— ありがたい!

 

……

 

うまくいった。二人で飛んでいったよ。安全な場所につけるといいんだけど。

 

—— よし。じゃあきみはもうディメンターも人狼もいない病室棟にいけるな。

 

うん。いまなかに戻りかけたところ。フレッドとジョージがグリフィンドール塔に戻るまえにわたしを送ってくれるって。

 

……

 

過去のルーナがいま逆転時計(タイム・ターナー)を使って消えた。自分が消えるのを見るのは変な気分。

 

—— やっと終わってくれたか。

 

そうだね。疲れたよ。

 

—— そう言われてもおどろかない。ぼくの計算だときみは三十時間ちかく起きているはずだ。

 

そうかもしれないね。かわいそうなネビルはぐっすり寝てる。わたしたちが入ったのも気づかなかった。

 

—— かわいそう? 彼は運がよかったほうじゃないか。

 

ディメンターには会えなかったから、少なくともそこはネビルがうらやましい。

 

—— いまの気分は?

 

まだすこしぐらぐらしてる。

 

—— きみの文字がわずかにぐらついているのはぼくも気づいた。

 

すこしチョコレートがいるかも。

 

—— 固形のチョコレートよりココアがきくぞ。

 

わかってる。それだけはおぼえてた。というかちょっとまえに過去のトムが教えてくれた。

 

—— じゃあなぜきみはぼくに伝えさせたんだ?

 

伝えてくれる気があるかどうかたしかめるため。わたしはあなたが人のことを気にかけるのを見るのがすきだから。

 

—— ココアでも飲んでもう寝なさい。

 

……

 

ミスター・ブラックは自分の話をハリーに伝えてほしいって言っていた。真実を知ってほしいって。

 

—— その会話はかなり気まずくなると思うぞ。

 

うん。どこからはじめていいかもわからない。ネビルとあの双子が証言してくれるけど。回復したら、ルーピン先生も。

 

—— あのオオカミはどうなった?

 

無事。いまは病室棟にいる。秘密はばれちゃったけど。来年は防衛術教授をつづけられない。

 

—— きっとそのほうがいいぞ。

 

わたしはそうは思わない。

 

—— この学校にはもっといい防衛術教授が必要だ。

 

それはそう。

 

……

 

—— ルーナ? あの床板が悲鳴をあげるってどうやってわかった?

 

どういう意味? 未来のルーナに言われたからだよ。

 

—— そこだよ! 未来のルーナはあの床板が悲鳴をあげるから踏まないようにときみに言った。ただし彼女がそれを知っていたのは彼女にとっての未来のルーナから言われたからで、きみは時間をさかのぼっておなじことを過去のルーナに言って……つまりどの時点でもどのルーナもあの床板を踏んでいない。何で悲鳴をあげるってわかったんだ?

 

さ……さあ。

 

—— 悲鳴はださなかったりして? ただの冗談だったりしないか?

 

もどって見てくる。

 

—— そうしてくれ。ぼくも知っておきたい。

 

……

 

—— それで?

 

悲鳴がでた。すごく大きな!

 

—— きみはなぜ知っていたんだ? だれも触らなかったのに! その情報はどこからきた?!

 

きれいなパラドックスだね。

 

 


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