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なんでナーグルが実在しないと思うの?
—— 実在するなら目撃者がいるはずだから。
目撃者はいるよ。
—— きみときみのお父さんは数にはいらない。
わたしたちだけじゃないよ。
—— きみときみのお父さんに関わっている狂人は数にはいらない。
失礼だなあ。
—— 失礼じゃない。論理的に言っているだけだ。実在するなら目撃者がいる。目撃者がいれば、目撃者は他のひとにそれを話して証拠をみせて、皆にそのことが知られているはずだ。まともな人にまったく知られていないものは、実在しないに決まっている。
ドラゴンについても同じことが言えるよ。
—— は? バカなことを言うな。ドラゴンは実在する。目撃者がいる。
世界中の六十億人のマグルはそう思っていない。
—— マグルが? マグルがなんで関係あるんだ?
簡単だよ。ドラゴンは実在するかってマグルにきけば、しないと言われる。なぜそうだと分かるかときけば、目撃者がいないし、目撃者がいるなら、目撃者が他の人に話して証拠をみせていて皆がドラゴンのことを知っているはずだからだと言われる。目撃したという人もいないし証拠をみせた人もいないから、ドラゴンは実在しないに決まっている。マグルの言い分はこうだと思うよ。「世界には何十億人も人がいるんだから、ドラゴンみたいに目だつものをいままで見逃しているはずはないだろう」
—— うん、でも……
でもあなたとわたしはドラゴンが実在すると知っているよね。世界中に何種類もドラゴンがいる。マグルが出会う可能性がある場所に住んでいる野生のドラゴンさえも。それでも、マグルのまえでドラゴンについてのあれこれを話したとしたら、信じてもらえないと思う。それがほんとのことでも。
—— うん、魔法使いがドラゴンを魔法で隠しているからだね。はい論破。
そのとおり。ドラゴンの実在と、その他のさまざまな魔法生物と魔法使いの存在を六十億人のマグルから何千年も隠せるなら、魔法使いから隠された動物が何種類か残っていたとしてもおかしくないんじゃない?
—— うん、まあ……
おかしくないと思う?
—— まあ……そうも言える。
ナーグルが実在するかもしれないと認める?
—— いいだろう。いるのが明白とは言えないが、いるかもしれない。
ありがとう。
—— でもぼくは、実在しないと思う。
六十億人のマグルもドラゴンを信じてない。
—— ルーナ、ちょっと頼みごとをしたい。もともとジニーに頼むつもりだったんだけど、返してくれないからしかたなくきみに言うんだ。
トム、そういうところが日記帳だと思えないんだよ。日記帳がなんで頼みごとをするの?
—— 分かった、分かったよ。ただの日記帳じゃないと認めるから、手つだってほしい。
手つだったら本当のことを教えてくれる?
—— ああ、すぐにすべて教えると誓おう。
それなら。頼みってなに?
—— 一階の女子トイレにいってほしい。
女子トイレに? なんで? かなり変な頼みごとだね。
—— 分かってるよ。でも信じてくれないと困る。
信じる理由があまり見つからない。
—— 試しにやってみて。トイレにいってくれたら、次になにをやるかはそこで教える。
いいよ、でもそのあとでぜったい本当のことを話してくれるでしょうね。
—— そうする。ありがとう。
...
—— ルーナ? ルーナ?
どうしたのトム?
—— トイレに入った?
うん。
—— よし。じゃあ次は……
もうトイレにはいないよ。いまは夜。寝室にいる。
—— は? なんで? トイレについたら話しかけてくれる約束だったじゃないか!
そうだね、そのつもりだったんだけど……かわいいゴーストの子と話がはずんで……
—— ルーナ、これはだいぶ無理のある注文だと思うけれども……どうにかして、あの小屋に住んでるまぬけな半巨人のニワトリを殺す気になってくれたりしないかな?
だめだよ。それはできない。
—— どうしても?
だめ。
—— やってくれたら恩に着る。
だめ。
—— ぼくの秘密を教えてあげよう。
だめ。
—— ナーグルの
だめ。
—— きみのたわごとをじっと聞いて、失礼なことも皮肉も言わないでいてあげよう。
だめ。
—— 恨むぞ。
どうでもいい。殺すのはいや。
—— ジニーならやってくれたのに。
じゃあ、あなたをジニーの手元から離しておいてよかった。
—— 本当に恨むぞ。
—— なんだこのにおいは? なんでこんな……にちゃにちゃしてるんだ? ルーナ? なにをしている?
においが分かるの?
—— そうらしい。
どうやって?
—— 分からない。これまでにおいを感じたことはなかった。きみがなにをやっているのか知らないが……とにかくそれのせいだ。
おもしろい。どんなにおいがする?
—— そうだな、どこか甘い……でも変なにおいだ。これはなんだ?なにをしている?
なんでもないよ。温室でみつけた花をいくつか押してるだけ。
—— は?! はがしなさい!
二、三日でできあがるから。
—— だめだ! すぐはがしなさい。ぼくのページにまでしみてきている。変な気分だ。
でもいまはがしちゃうともったいない。
—— 関係ないね。
大丈夫だよ。ゆっくりにおいを楽しんでれば。甘いって言ったよね。
—— それはどうでもいい。
他にどんなにおいを感じられるのかな。
—— きみのようなやつがどんなばかげた神を恐れるのか知らないが、ぼくになにかかけたりしたら、恐ろしい罰がくだるぞ。
ほら……これはどう。
—— うお……かぼちゃジュースか?
あたり!
よくできました。別のを試すからちょっと待ってね。予想するゲームにしよう。
—— やめろ! ルーナやめてくれ!
これは泡があるから、くすぐったかったら言って。
角羽クンクン鮭か引っ張り小僧のどちらかに自分がなるとしたらどちらがいい?
—— 魔法使いのほうがいいし、きみは虫かなにかになってぼくに踏み潰されるのがお似合いだ。
いじわるなことを言うのはやめて。そういうゲームじゃないから。
—— ゲームをしていたとは知らなかった。
してたんだよ。
—— じゃあやめる。
やってくれたらページのあいだに物をはさむをのやめてあげる。
—— 約束するか?
うん。
—— よし、じゃあ……二番目のほうがいい。なんだったか知らないが。
引っ張り小僧でいいの? あんなにぎとぎとなのに!
—— このゲームってぼくは勝てない仕組みだろ?
寮どうしのあいだのつながりがあまりないのは残念だね。
—— そうか?
そう。入学して何カ月もたったのに、ジニーとちゃんとしゃべったのは今日がはじめてだった。
—— ジニーと? ぼくのことをなにか言ってた? さみしがってたか?
どうかな、きかなかった。
—— さみしがってるに決まってる。ルーナはあの子がどれくらいぼくを必要としているか分かってない。クラスメイトとのあいだのトラブルについて、とても重要な話をしている最中に、ぼくらは引き離されてしまったんだ。
そうだったんんだ? でもとてもいい子だよ。明日友だちになってくれないかって言ってみようと思う。
—— いや、それはまずいと思うよ。ぼくを返してくれたほうがずっといい。
だれかに直接友だちになってって言ったことはないんだよね。あの子が好きなものをなにか教えてくれない? 話のきっかけにしたいから。
—— なにも教えるつもりはない!
あのねえ、トム、あの子をたすけたいと言ったかと思ったら、わたしがそうするのは邪魔するの?
—— あの子にきみは必要ない。ぼくが必要なんだ。きみはぼくらを引き離すことでジニーを傷つけている。
そんなことはないと思う。
—— あるんだよ。きみはひどい人だね。かわいそうにジニーが刻一刻と精神を病んでいくというのに、きみは気にもしていない!
ひどいことを言わないで。そんなことはないでしょ。明日話してくる。
—— だからそれはちょ……いや、そうだな。話してみてくれ。実はあの子はスカイザーナットの大ファンだったんだ。こないだのあれを次にトラッキングするときに誘ってみるといい。
本当に? あれのファンになるなんて変だね。
—— ぼくをからかってるのか? きみはいつもあれの話をしてるじゃないか!
そうだけどわたしはファンじゃない。スカイザーナットはやっかいな害虫だよ。
—— きみがやっかいな害虫だよ!
ま、ジニーが好きなんなら、試してみる。
—— いい子だ。そうしなさい。
....
トム。ジニーと話してきた。
—— で、頭がおかしい人だと思われて、ぜったい友だちにしてもらえないって? なんということだ。
バカなことを言わないで。スカイザーナットについては当たってたよ。
—— は?
スカイザーナットについてあまり詳しくはないけど、もっと知りたいんだって。今夜、次のトラッキングに一緒にいくことになった。
—— あの子があのたわごとを真にうけたのか!?
とにかく話してるひまがなくなっちゃった。カブのペーストを用意しなくちゃ。あ、タマネギを追加するのを忘れてないかって、あとで声かけて。
—— よしきた。きみが橋から落ちるのも忘れないようにしてやる。