トム、この作戦は最悪だよ。
—— わかってるよ。
ほんとに最悪。ひどい。失敗確実。
—— そのとおり。ありがとう。
やってみるまでもなさそう。
—— 助けが必要なんだ。危険人物がうろついていて、そいつがぼくの一部を持っている。ぼくが人間にもどれる可能性はその一部にかかっている。
それはわかった。
—— その一部を取りもどす助けをしてくれる唯一の人間がおそらくセブルス・スネイプだ。
それもわかった。問題はどうやればスネイプ先生に助けてもらえるか、っていうこと。
—— 彼はぼくの部下だ。助けてくれるはずだ。
部下だった、でしょ。ずっと昔に。いまもそうとはかぎらない。
—— ぼくの部下はとても忠実だ。
はいはい。可能性は二つある。
—— ほう?
可能性その一。まだスネイプ先生がヴォルデモートの部下だったら、スネイプ先生はマグルぎらいの邪悪な人殺しで、なにも悪いことをしていない人たちを簡単に傷つけようとする人だっていうこと。
—— それで?
正直に言わせてもらうと、わたしが一番好きな教師に質問をして、その人がマグルぎらいの邪悪な人殺しで、なにも悪いことをしていない人たちを簡単に傷つけようとする人だと知ることになるのはいや。
—— ああ、まあ気分はよくないかもな。
それに、そういう人だったとしたら、新しいあなたのことを気にいらないと思う。いまのあなたがどうするつもりでいるか知ったら、もうひとりのあなたのほうに味方しそう。
—— たしかに。
可能性その二。スネイプ先生はもうヴォルデモートの部下ではなく、あなたのどの部分であってもこの世界に復活させるのに加担する気は全然ない。むしろ、ダンブルドアに渡して破壊させるかもしれない。
—— 可能性としては承知のうえだ。
トムが破壊されてほしくない。
—— ぼくも断固反対だ。
まとめると、スネイプ先生があなたの部下なら助けてもらえそうになくて、部下じゃなかったらやっぱり助けてもらえそうにない。
—— その問題は分かった。だからゆっくり進める必要があるんだ。スネイプの考えとスネイプがだれに忠実なのかをまず調べる。それから方策を決める。
あなたに忠実なのかどうかを調べるっていうこと?
—— そうだ。
もし邪悪な人だったら?
—— きみはそう思うのか?
思わない。少なくとも、そうあってほしくない。
—— じゃあ多分ちがう。きみの判断を信用する。
ヴォルデモートと何年もつきあってたんだからね。わたしの判断は信用できるかどうか分からない。
—— ぼくのことをまだ邪悪だと思うか?
思わない。
—— ルーナ……もし本当はやりたくないのなら……
もしあの人が部下じゃなくなってたら?
—— 残念に思う。
ダンブルドアと近い関係だったり、ダンブルドアを尊敬していたり、親密になっていたりしたら。
—— とても残念に思う。
そうだったら、怒る? もう死喰い人じゃなかったら? もうあなたに忠実じゃなかったら。
—— つまり裏切りをしていたらか?
もうひとりのあなたのことを狂っていると判断して、支持しないくらいには善に近いとしたら。
—— こちらがわのぼくを助けてくれるのなら、許してやってもいい。
ヴォルデモートを裏切るのは悪いことじゃない。まちがいじゃない。
—— まあそれでいい。ぼく自身、そんなようなことをしている。
たしかに。それで、わたしたちの望みは、スネイプ先生がまだあなたに多少忠実で、でも邪悪なほうのあなたじゃなくて改心したほうのあなたを支持する程度に善に近い、っていうこと?
—— そのとおり。
そして、そのことを本人に気づかれずに探るの? 不可能って言ってもいい?
—— きみは楽観的な人だと思っていたが。
わたしは楽観的だけど現実的にもなれる。
—— なれない。
なれる。
—— なれない。
なれる。
—— なれない。
なれる。なれる。なれる。
—— なれない。なれない。なれない!
子どもっぽい。
—— ぽくない。
そんなんでどうやって支持者が集まったの?
—— 人望と知性で
ほんとに?
—— ……それとすでに存在していた偏見をいくつも利用することによって。人は憎悪のためには目覚ましい働きをする。
そっちのほうが正しそう。
—— 人望と知性もあった。ただ顔がいいだけじゃなかったんだよ。
もうそれはわかったから。
—— ブラック家やマルフォイ家の支援のおかげで、資金も潤沢だった。
何のために資金が必要だったの?
—— いろいろ。すべては政治だった。政治には常に資金が必要だ。
それはそうか。
—— スネイプの件はどういう方針でいく?
薬学クラブのあとで話してみる。うたがわれずに情報を聞きだせるか、やってみる。
—— 十分気をつけて。
気をつける。