スネイプ先生と話してきたよ。
—— よし、どうなった?
それとなく聞いてみることにした。うたがわれないように。ただ好奇心でっていう感じで、最初は単純な質問をいくつかした。
—— なにを訊いたんだ?
昔死喰い人だったっていう話は本当ですか、って。
—— それはもう分かっているだろう。
先生はわたしが知っているということを知らない。こういうことを知らない生徒もたくさんいるから。
—— それであいつは何て?
わたしにきかれたのが残念そうだったけど、認めた。
—— 少なくとも正直ではある。
うん。それから、なぜダンブルドアのために働くことになったのか聞いた。
—— それはぼくも興味がある。
戦争が激化していくうちに死喰い人の掲げる目的に疑問を感じて、そのあとで皆が裁判にかけられたときにダンブルドアが身元を引きうけてくれたんだって。それで改心した。
—— おもしろい。ぼくたちにとっては悪くない方向だ。
そもそもなぜヴォルデモートに加勢したのかも聞いた。
—— それで?
答えたくないって。考えるのに時間が必要だって。
—— いつか答える気はあるということか?
そうだと思う。
—— いつもながらきみには驚かされる。
なにが?
—— そうやって人から信頼されるところが。
あなたみたいに?
—— ああ、ぼくのように。きみには相手を安心させて話をさせるなにかがあるようだ。
言われてみれば。
—— またスネイプと話すことになったら教えてくれ。
……
スネイプ先生が今日の午後に来てくれって言った。
—— きみの質問のことで?
多分そう。
—— 来てくれと言ったとき、どういう様子だった?
悲しそうだった。できれば話したくないみたいだった。
—— 無理もない。あとでどういう話になったか教えてくれ。
そうする。
……
トム?
—— ルーナ。どうだった?
悲しかった。聞かないですむなら聞きたくなかった。
—— なにが起きた?
死喰い人に参加した理由を教えてもらった。学校でいじめを受けていて、家庭でも問題をかかえていて、純血と非純血のあいだでいろいろ差別があったんだって。
—— それはいつもあった。
でも当時は特に強かったみたい。
—— たしかに。おそらくぼくのせいだ。当時はいろいろ種をまいていた。
あの人が半純血なのは知ってた?
—— どうだったかな……聞いていたような気もする。
トムとおなじだよ。マグルの父親と魔女の母親。
—— ほう。おもしろい。
父親はいい人じゃなかったみたい。だからマグルに向けて怒っていた。
—— そこは共感できる。
虐待から抜けだそうとしていたんだと思う。親切にしてくれるのは死喰い人だけだった。参加してからはじめて、おびきよせるためにそうされていたのに気づいたんだって。
—— 残念ながらそれは定番の戦術だ。彼は死喰い人の掲げる目的を信じていたのか?
部分的には。嫌いなのはマグル全体じゃなくて……自分と母親を傷つけるマグルだけが嫌いだった。
—— その感覚はわかる。
他の生徒にも怒りを感じていた。光を自称しながら、残虐なことをしてくる生徒たちのこと。
—— 無理もない。光陣営は自分たちが完璧だと思っているが、一部はかなり低劣だ。
ミスター・ブラックもその一人だった。あまりいい人じゃなかったみたい。
—— ブラックだからな。あの家系にいい人という評判はない。
子ども時代に、ミスター・ブラックはスネイプ先生を叫びの屋敷におびきだしたみたい。満月で、ルーピン先生がそこにいるときに。
—— 人狼がいる建て物に行かせたのか? 人狼がいることを知りながら?
うん。
—— ダンブルドアはどうした?
ルーピン先生のことをだれにも言うなとスネイプ先生に約束させた。
—— いや、ブラックについては? 処罰したのか?
しばらく罰則をもらったみたい。
—— 罰則? それだけ!?
うん。
—— 待て、ブラックとルーピンは友だちのはずじゃなかったか?
そうだよ。
—— その友だちの変身の最中に、おなじ建て物に別の生徒を送りこんだのか? スネイプが死んでいたらどうなった? ルーピンは死刑だぞ!
ひどい! 本人のせいじゃないのに。
—— そうだが、当時の法律ではそうなっていた。人狼は怪物で、人権はほぼなかった。
かわいそうに。
—— つまりまとめると、シリウス・ブラックは若いころ、自分の友だちを道具として使って別の生徒を殺そうとした、それをダンブルドアは見逃した、ということか?
そうみたい。
—— スネイプから見れば、相手に正当な処罰もないまま、ただその話を口外するな、と言われた。その横でブラック本人は光の代表気どりをしていたと?
うん。
—— なぜスネイプがぼくのほうについたのかが分かった。
正直言って、わたしも。
—— こんな無茶苦茶をしていてダンブルドアはなぜとがめられないんだ?
さあ。あまりいい判断をしてないように見えるね?
—— そうだよ。してない。
スネイプ先生はかわいそう。ひどい境遇の人生だった。
—— そういう風に見えてくるだろう? なのに、こういう種類の被害者がなぜ社会を恨むのかと不思議がる人がいる。人生が最初からバラ色なら、他人を論評するのは簡単だ。
わたしがそういう風にしてないといいんだけど。わたしはいい人生を送れて運がよかった。
—— きみは違う。きみほどに思いやりのある人をぼくは知らない。だからスネイプは安心してこの物語を話してくれたんだろう。
質問されたのがいやじゃなかったらいいんだけど。
—— 気分はよくなっていると思う。つらくても口に出すのはいいことだ。
そう思う?
—— ああ。最初の一歩として上出来だ。
そうかな?
—— 聞いたかぎりでは、スネイプはまだぼくらを助けてくれる望みがある気がする。
よかった。一週間くらいしてからまた話しにいってみる。
—— いい考えだ。