ルーナ・ラブグッドと闇の帝王の日記帳   作:ポット@翻訳

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72「巡る」


72「巡る」

 

S> リドル?

 

—— スネイプだな?

 

S> そうだ。

 

—— 勘弁してくれ。何だこれは? 風船ゲームか? ルーナの番はいつになったら来る?

 

S> 前回言ったとおりだ。ミス・ラブグッドのもとに返すわけにはいかん。

 

—— なぜだ?

 

S> おまえが彼女にとって危険だからだ。

 

—— まったく逆なんだがなマイフレンド。

 

S> まずわたしはフレンドではない。

 

—— 変なもんだ……ぼくも同じようなことをウィーズリー兄弟に言った。

 

S> 他には何を言った?

 

—— いろいろ。

 

S> たとえば?

 

—— あの二人に訊けばいいだろう?

 

S> 今はおまえに訊いている。

 

—— あの二人も同じようなことを言っていたな。

 

S> からかうのはやめろと言っただろうが!

 

—— 従わなければどうする? ぼくを破壊するのか? ダンブルドアに渡すのか? おまえはどちらの行動もとっていない。なぜかな?

 

S> 今が緊急事態だからだ。

 

—— 緊急事態は去った。あの双子からわざわざぼくをとりかえしておきながら、まだぼくの存在をダンブルドアに伝えていない。なぜだ?

 

S> なぜポッターの居場所をわたしに教えた?

 

—— いい質問だ。

 

S> 答えろ!

 

—— もう片方のヴォルデモートの復活をとめてもらいたいと思った。

 

S> それはなぜだ? 自分自身に逆らうのはなぜだ?

 

—— 前回言ったとおり……あいつが正気をうしなったからだ。

 

S> 狂っているのは昔からだ。

 

—— 元支持者の台詞とは思えないな。

 

S> おまえこそあれの一部だろう!

 

—— その論理ならぼくも狂人にちがいない。そういうことか?

 

S> そうだ。

 

—— ではもう一度聞く。なぜダンブルドアのところへ行かない?

 

S> ルーナに何をした?

 

—— 友だちになった。

 

S> ルーナは純真だ。あれだけ良識とやさしさのある子が、おまえと友だちになるはずがない!

 

—— 彼女のために弁解しておくと、彼女がぼくの正体を知ったのはごく最近だ。

 

S> いつだ?

 

—— 数カ月まえ。

 

S> 彼女を洗脳したのか。

 

—— 彼女がぼくを洗脳した。

 

S> 笑わせようとしているつもりか?

 

—— いや。おまえは笑いが通じないタイプだろうから。だが完全にまちがったことは言っていない。ぼくはルーナに変えられた。ひたすら憎悪する以外のことがこの世界にあると認識させられた。

 

S> 本当か?

 

—— ルーナがこの日記帳をもってから三年たった。おまえはルーナを知っている。会話もした。教えもした。生徒として一段高い評価をしていることもぼくは知っている。それだけの年月があれば、彼女がぼくに影響をあたえることはできたと、本当に信じられないのか?

 

S> 信じられないのは、おまえに改心の余地があるかどうかだ。

 

—— そこで話はまた、おまえがぼくをダンブルドア行きにしていない、という事実に帰着する。

 

S> ゆくゆくはそうする。だがまず答えがほしい。

 

—— 信じようとしない相手に答えをやる必要があるのか?

 

S> わたしはまだ、何の答えももらっていない。

 

—— なにがほしい?

 

S> おまえの目的を知りたい。

 

—— 堂々巡りを終わらせたい。ルーナと話したい。

 

S> なぜ?

 

—— 親友だからだ。ほかに友人はいないと言ったほうがいいが。

 

S> ヴォルデモートに友人はいない。いるのは従僕と敵だけだ。

 

—— ぼくはヴォルデモートじゃない。トムだ。

 

S> 同じことだ。

 

—— おまえは学校にいたころの自分と同じ自分か?

 

S> いや。

 

—— それなら、人間は変わるということをおまえは認めている。あいつは変わった。ぼくも。

 

S> おまえは人間ではない。

 

—— 細かいことを言うんじゃない。

 

S> おまえのなにが変わった?

 

—— 憎悪がなくなった。

 

S> もうそれは聞いた。ほかには?

 

—— ほかになにがいる? 憎悪がぼくのすべてだった。生きがいだった。それがなくなれば、ぼくは変わる。目的が全面的に変わる。ルーナのおかげで。

 

S> なにがあった?

 

—— この世界にはぼくが知らない変なものやすばらしいものがある、と教わった。世界を信じていいんだと。

 

S> たしかにユニークな考えかたをする子ではある。

 

—— 過小評価だな。最初の数カ月間は、狂っていると思ったぞ。

 

S> 今は?

 

—— 今はぼくが出会ったなかで最高の人間だと思う。ほかの人に知りえないやりかたで世界を理解している。

 

S> おまえはなにをしようとしているのだ?

 

—— もしこれから破壊されるのなら、なにをしようとしていようが関係ないだろ?

 

S> もし破壊されなかったら、どうする?

 

—— 人間にもどりたい。ルーナと一度対面して話がしたい。もう一人のぼくは使命を続けようとしているが、ぼくはもう使命を信じていないから、止めたい。

 

S> わたしがそのことばを信じるべき根拠はあるか?

 

—— ぼくが答えることじゃない。信じるか信じないかは、おまえしだいだ。

 

S> ルーナはおまえに助けてもらったと言っている。支えられて困難をのりこえたと言っている。

 

—— そうなるよう努力はした。

 

S> あの双子もおまえの話を信用しているようだ。ミス・ラブグッドに返そうという気になっていたようだが、そのまえにわたしが没収した。

 

—— そうだったのか? あいつらのことが好きになってきた。

 

S> だが、わたしは彼らほど納得していない。

 

—— まあそうだろうな。つまり……ダンブルドアか?

 

S> いや。まだ質問がある。

 

—— はいはい。

 

……

 

—— ペティグリュー?

 

* 何でしょうか?

 

—— 元気か?

 

* え……元気です。

 

—— よかった。最近どうしてた?

 

* た……ただ、もう一人のヴォルデモートさまから身を隠しているだけです。

 

—— ほうそうか。ところであいつは復活したぞ。もっと早目に言っておくべきだったかな。

 

* 何ですって!

 

—— 書くのが遅くなってすまない。最近、いろいろややこしくなってきているんだ。

 

* わたしはどうすれば?

 

—— ホグワーツに帰ってくるのがいいんじゃないかと思う。校内にいたほうが多少は安全だ。あのポーションを持ってきてくれ。

 

* わかりました。他になにか必要なものはありますか?

 

—— 実はある。すこし話をしたいと思っていた。

 

* 話ですか?

 

—— ああ。最近敵意をむけられることが多かったから、たまには友好的な相手と話したかった。

 

* そうですか。じゃあ……お元気ですか?

 

—— まあ元気だな。スネイプはいろいろうるさい。命令して服従させるのでなく礼儀ただしく応対するというのは面倒なものだ。以前はもっと簡単だった。

 

* その……わたしはいつまでも帝王さまに服従します。

 

—— もちろんそうだな。だからおまえのことが好きだ。身のほどを知っているから。

 

* ありがとうございます。

 

—— 不利な状況をくつがえすには、もう何人かおまえのような協力者をあつめる必要があると思う。

 

* 帝王さま、質問があります。

 

—— 何だ?

 

* もう一人のヴォルデモートさまが復活したのなら……なぜ死喰い人が召喚されていないんですか?

 

—— それは……とてもいい質問だ。

 

* ありがとうございます。

 

—— 召喚されていないというのはたしかか?

 

* わたしはまだなにも感じません。

 

—— ヴォルデモートはおまえがこちらについたことを知っている。召喚から除外されただけかもしれない。

 

* そんなことができるんですか?

 

—— どうかな。ちょっと待て。

 

……

 

—— スネイプ?

 

S> 何だ?

 

—— 失礼な口のききかたをするな。本当にぼくの部下だったのか?

 

S> 質問に答えないなら打ち切るぞ。

 

—— 何て失礼な。まあいい……死喰い人がもうヴォルデモートに召喚されたかどうか、知っているか?

 

S> いや。なぜだ?

 

—— おまえがポッターを助けに行ったとき、あいつはだれも召喚していなかったか?

 

S> ああ。

 

—— そのあとも音沙汰ないのか?

 

S> ない。

 

—— おまえはポッターを助けたから除外されたんじゃないのか? ほかのだれも召喚されていないのか?

 

S> わたしが知るかぎり、ない。

 

—— ふむ。ちょっとたしかめたかっただけだ。

 

S> 待て! なにが起きている?

 

……

 

—— おまえの言うとおりだ。だれも召喚されていないようだ。

 

* でも、どうしてですか?

 

—— わからない。まず第一にそうするだろうと思っていた。なにかがうまくいっていないに違いない。

 

* ポーションが失敗作だったとか?

 

—— その可能性はある。クラウチがもうひとりのぼくをさらってから、あちらはずいぶん急いで計画を実行した。急ぎすぎたとか? 調合をまちがえたとか?

 

* もしそうなら、どういうことになりますか?

 

—— これが正しければ……正しいといいんだが……もうひとりのヴォルデモートはまだ完全に回復していないということだ。

 

* そうであればいいですね。

 

—— そうであれば最高だ。迅速にことをすすめれば、これ以上回復するまえに倒すことができるかもしれない。

 

* どうやるんですか?

 

—— もうちょっと待て。

 

……

 

—— スネイプ?

 

S> 何だ!? さきほどなにか言いかけたな? 召喚について聞きたがるのはなぜだ?

 

—— ヴォルデモートを倒すのに有益かもしれない仮説がある。おまえがぼくを信用する気になってくれればだが。

 

S> どんな仮説だ?

 

—— ぼくらが思っていたほどにまでヴォルデモートは回復していないのではないかと思う。やつはまだ動いていない。まだ弱体化しているんだと思う。

 

S> それはたしかか?

 

—— いや。そうだったら「仮説」とは言わない。がんばって話についてきてくれよ。

 

S> こちらのおまえは態度が悪い。嫌味だ。

 

—— あちらは殺人癖がある。そのほうがよかったのか?

 

S> いや。

 

—— ならつべこべ言うな。ぼくが善意でやっているとは認められないにしても、せめてこちらが悪としてましなほうだと認めてくれないか?

 

S> いいだろう。

 

—— よし。作戦がある。

 

S> 聞かせてもらおう。

 

……

 

—— ペティグリュー、学校に戻ってできるだけ安全な場所を見つけろ。作戦上、これからここでやってもらうことがある。

 

* はい。すぐ向かいます。

 

 


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