ルーナ・ラブグッドと闇の帝王の日記帳   作:ポット@翻訳

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17「防衛術」、18「なぞなぞ」、19「トマス」、20「心理戦」、21「助け」

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17「防衛術」

 

ロックハート先生はあまり有能じゃないと思う。

 

—— だれだって?

 

ロックハート先生。闇の魔術に対する防衛術の先生なんだけど、これまでのところまだなにも教わってない。

 

—— まだだと? 入学して何カ月たってるんだ!

 

だからそういうことだよ。

 

—— ならダンブルドアはなぜ辞めさせないんだ?

 

かわりの人がいないんだと思う。ジニーが言うにはこの仕事には毎年あたらしい先生が来ているんだって。呪いがかかってるみたい。

 

—— そうみたいだな。

 

いつもなにかが原因でやめさせられるの。去年の防衛術の先生は死んだそうだよ。

 

—— 思い出させないでくれ。

 

え?

 

—— なんでもない。

 

トムはときどき変だね。

 

—— ルーナはいつも変だ。

 

とにかく来年の先生が楽しみだな。やっと授業ができる教師にきてもらえるなら。

 

—— できるならな。今年ロックハートのような人にせざるをえないほど切羽つまっていたのなら、来年の先生をそれよりましにできるとは思えない。できるならなぜそもそもロックハートがここにいる? 最初から有能な教師をつれてくればいいじゃないか。

 

ああ、そうか。いい話じゃないよね。このままだといまの世代の生徒は闇の魔術に対してちっとも防衛できなくなっちゃう。

 

—— 残念なことだよな。

 

ヴォルデモートのような人が攻撃してきたら勝ち目はないね。

 

—— まったく。そのとおりだ。なんという悲劇だ。

 

この分野は自分でなんとかするしかないと思う。

 

—— いい考えだ。

 

トムは闇の魔術に対する防衛術のことをなにか知ってる?

 

—— 当然。

 

教えてくれたりする?

 

—— もちろん。実は死の呪いに対する便利な防衛術を知ってるんだ。

 

うそはやめてよ。死の呪いに対する防衛術はない。

 

—— あるとも。アブラカダブラと叫べばいいだけだ。

 

それってマグルが魔法をするふりをするときに使う言葉じゃない?

 

—— いやもちろん違う。

 

うそつき。

 

—— 疑心暗鬼はよくない。ヴォルデモートが復活して、やっかいな邪魔者としてきみを個人的に追い詰めたときには、アブラカダブラとだけいえばきみは大丈夫だ。

 

またそうやっていじわるを言う。他の人に頼むことにする。

 

—— ビビデバビデブーはどうだ?ドラゴンを一瞬で飼い馴らす呪文だ。ドラゴンをみつけてやってみなさい。目の前でやればペットにもできる。心臓にかけて言う。

 

トムは日記帳でしょ。心臓はないじゃない。

 

—— 意地悪はどっちだ?

 


18「なぞなぞ」

 

朝に四つ足、昼に二つ足、夜に三つ足になるのはなに?

 

—— 分からない。ナーグルか?

 

ばかなこといわないで、ナーグルのはずないじゃない

 

—— ぐらぐら歯のジピットか?

 

なんて言った?

 

—— きみが話していたなかでそういう名前のやつもなかったか?

 

ない。ぐらぐら歯のジピットのことを話したことはないし、そんなものは実在しない

 

—— そうかじゃあ曲がり歯のナントカー

 

もう、わざとやってるでしょ

 

—— おや、きみがでっちあげをするのはよくてぼくがするのはだめなのか?

 

わたしはでっちあげなんかしない

 

—— いいよ見解の相違ということで合意しよう

 

わたしは合意しないよ

 

—— 見解の相違ということには合意するしかないだろ

 

なんで?

 

—— ……だめなものはだめだ!

 

いいよ。答えは人間。

 

—— は?

 

さっきのなぞなぞ。

 

—— どのなぞなぞ?

 

朝に四つ足、昼に二つ足、夜に三つ足。

 

—— あれはなぞなぞだったのか?

 

当たりまえでしょ。そうでなかったらなんなの?

 

—— またいつものきみの生き物談義だと。

 

今回はちがったんだよ。

 

—— よく分からないな。

 

なにが?

 

—— そのなぞなぞ。なぜ人間になる?

 

簡単だよ……朝に四つ足ははいはいする赤ちゃん、昼に二つ足は二本足で歩くとき、夜に三つ足は老人になって杖をついて歩くとき。

 

—— なるほど。なかなかいいなぞなぞだ。

 

ありがとう。黒と白と赤でまみれてるのはなに?

 

—— ああそれならわかる……新聞。

 

ちがう。

 

—— 日焼けしたシマウマ?

 

ちがう。

 

—— 怪我したペンギン?

 

本気でやって。

 

—— じゃあなんだ?

 

そわそわスプリグ。あの鳥の羽はすごい。とてもきれいだよ。

 

—— きみのそういうところが嫌いだ。

 


19「トマス」

 

—— ルーナ、いったいこのにおいはなんだ? またなにかぼくにかけたのか? なにをかけた? やめてくれ。ひどくにおう。やめろって!

 

あっ、トム、ごめんね。トムがそこにおしっこしたみたい。

 

—— は? どういう意味だ? トムがぼくにおしっこしたって? トムはぼくだ!

 

そっちじゃないほうのトム。

 

—— そっちじゃないだと?

 

ネコのトム。

 

—— ネコの名前をトムにしたのか? それはぼくが禁止したはずだ!

 

厳密には、トムにはしてない。

 

—— は? たった今そうだと言ったじゃないか!

 

ほんとうの名前はトマス・A・キャチクス。略してトム。

 

—— どういう名前なんだそれは!?

 

いい名前だよ。

 

—— それは……あのなあ、もうその点はいいや。とにかくトムはトムだし、トムにするなと言っておいたことに変わりはない。

 

トムにはしてないよ。

 

—— した。

 

してない。

 

—— トムと呼ぶならそれが名前だ。

 

それはちがうよ。わたしを気ちがい(ルーニー)と呼ぶ子がいても、わたしの名前がルーニーになるわけじゃない。

 

—— きみにはそれがお似合いだ。

 

あのねえ、トム。

 

—— ん?

 

トムがおしっこしてくれてよかった気がしてきた。いい気味。

 

—— そう思うのか? ルーニーも恨みぶかくなってきたようだな。ぼくの影響でないことを祈るよ。

 

ちがうと思う。トムの影響は大したものじゃないから。

 

—— どうかな。

 


20「心理戦」

 

—— ルーナ! 聞こえるか?

 

トム? トムがしゃべってるの?

 

—— そうだよ。

 

なんで声が聞こえるの?

 

—— きみの頭のなかにいるからだ。これまでやりとりしつづけたおかげで、やっときみのなかにはいれるだけの力がついた。

 

それはよくないよ。ことわりもなしに頭のなかにはいってくるなんて。

 

—— きみの意見はどうでもいい。立ち場が上なのはぼくだ。きみの考えていることはすべて見える。きみの……なんだこいつは?

 

なにが?

 

—— あれだよ!

 

あっ、たぶんナーグルかな。いま想像してたから。

 

—— あれがナーグルだと!?

 

うん。

 

—— 体長三メートルはあるぞ。どういうことだ?

 

そう? 変だな。ふつうは十センチくらいだよ。

 

—— 消してくれ! 待て……そのとなりのはなんだ?

 

たぶんスカイザーナット。いまそれのことを考えてた。

 

—— きもい!

 

大きくしたらそうだろうね。実物は数ミリだからそこまで細かいところがみえないんだ。

 

—— 消してくれ!

 

消せないよ。考えはじめちゃったらとめられない。

 

—— 別のことを考えろ! なにか怖くないものを。

 

なるほど。有角グラッフはどう?

 

—— ダメだ! それが他のと合流した。追いかけてくるぞ。どこかにやってくれ!

 

だいじょうぶだよ。ほとんど害はないから。

 

—— なぜこんなことをするんだ!

 

わたしが探してる生き物のことを本気にしなかったでしょ。だから見せてあげるいい機会だと思って。

 

—— もう十分見た。ことわりなしに頭のなかにはいって悪かった。もう二度としない。だから出してくれ!?

 

つぎは引っ張り小僧ね。

 

—— 勘弁してくれ……グロテスクだ。

 

そうだね。かわいそうじゃない?

 

—— もう見たくない。ここから出たい。出してくれないか? 頼む

 

あれ。頭がからっぽになっちゃった。もう思いつかないや。こういうのイラッとするよね?

 

—— 助かった!

 

待ってねトム。観察帳をもってくる。見ればなにか思いつくと思う。

 

—— もうやだ!

 


21「助け」

 

トム、いる?

 

—— いない。

 

いるでしょ。わたしの頭のなかにはいないから戻ってるはず。

 

—— ひとりにしてくれ。

 

巨大ナーグルに追いかけさせたのをまだ怒ってる?

 

—— でてけ。

 

でもある意味自業自得だよね。

 

—— 話をする気はない。

 

わたしは止めようとしたんだよ。

 

—— うそつき。

 

想像上のナーグルが頭のなかでなにをしても、わたしにはどうしようもない。

 

—— うそつき!

 

そもそも、入ってくるのがわるいんだし。

 

—— まあもう行く気はない。

 

ならいい。勝手に入られるのはいやだったから。そもそもなにがしたかったの?

 

—— 自由だよ。きみから自由に、この本から自由になりたかった。

 

え……トムは閉じこめられてるの?

 

—— そうだ。このくだらない場所に永遠に閉じこめられている。

 

ああトム。知らなかったよ。それがトムの正体? 日記帳に閉じこめられた人間っていうこと?

 

—— そう。そのとおり。きみのような人に一生拷問されるという呪いをかけられた。

 

いつも機嫌がわるいのも無理ないね。つらそう。

 

—— つらい。

 

だれにやられたの?

 

—— だれであろうがもはや関係ない。

 

じゃあ決まったね。

 

—— なにが?

 

トム。あなたを自由にする方法を探してあげる!

 

—— ルーナ?

 

なに?

 

—— やっときみを好きになれそうだ。

 

 


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